「戦隊モノっていうのは、どうだろう!」
『……戦隊モノ?』
深夏以外の四人が揃って首を傾げる。確かに定番ではあるが、ある意味では彼女以外のメンバーが思いつくことはなかっただろうプランだ。高校生の出し物で戦隊モノというのは、少々気恥ずかしいものがあるし。
いまいちしっくりこなかった俺達の微妙な反応を受けて、深夏は意気揚々と立ち上がると提案を続ける。
「そう! 〇〇レンジャー的なさ! 日曜の朝からやってるアレをあたし達がやれば、絶対ウケると思うんだよ! ほら、自分で言うのもなんだけど、美少女戦隊っていう肩書自体にレア感あるし!」
「え、と……深夏? さすがに高校生にもなって戦隊モノというのはちょっと……」
「今更恥ずかしがってんじゃねぇよ知弦さん! 去年の馬鹿真面目な内容に比べりゃ、随分やりやすいお題じゃんか! 生徒達も絶対食いついてくるって!」
「まぁ、そう言われると確かに……」
いつも以上にテンションが上がっている様子の深夏に珍しく言いくるめられる姉さん。基本的に今回の出し物に対してやる気がなく、かつ自分から提案するほどのモチベーションでもない姉さんはこれ以上反論しても泥沼だと判断したらしく、大人しく深夏の提案に従うことにしたようだ。周囲を見ると、桜野を初めとした他メンバーも同様の表情を見せている。俺は元々そういう馬鹿みたいなノリは大好きな人間なので、反対する理由はない。
その後アイコンタクト会議の結果、深夏の提案に従って内容を決めることに落ち着いた。
「よっしゃ! それじゃあ戦隊モノで決まりな!」
「あ、深夏よ。ちょっと提案というか配役希望があるんだけど、いいか?」
「ん? 珍しいな蓮さん。いいぜ、言うだけ言ってみろよ!」
希望が通りすっかり上機嫌の深夏。このまま配役を決める流れになるだろうことは容易に想像できたため、話が進む前に意見を聞いてもらうことにする。会議が進んでしまうと、流れを変えることが難しくなるためだ。
話が始まる前に意見を出されたのにやや驚いた様子の深夏に促され、提案する。
「戦隊モノは基本的に五人だろう? だから、俺には敵の怪人役をやらせてくれないか?」
「…………マゾなのか?」
「いや、マゾだけども。それとこれとは話が違ってだな。俺は至極単純に、怪人役がやりたいんだよ」
「なんでだよ! 戦隊モノと言えばヒーローだろ! それをわざわざ怪人やるだなんて……」
「分かっていない……分かってないぞ深夏ぅ!」
「へ?」
大声を上げて立ち上がった俺に、深夏が目を丸くする。見れば、他のメンバーも「何言ってんだこいつ」と言わんばかりの表情でこちらを見ていた。なかなかに心地よい視線だが、この件に関しては俺は退くわけにはいかない! 溢れんばかりの愛を持って、反論させてもらう!
「いいか! 確かに戦隊モノの華はヒーローだろう、そこは否定しない。だけどな、戦隊モノってーのは怪人がいて初めて成り立つコンテンツだ! ヒーローと同じ……いや、それ以上に大切なのが怪人なんだよ! 後言わせてもらうと俺はあらゆるコンテンツにおいて敵役やら脇役が大好きだ!」
「た、確かに……怪人がヒーローを引き立たせるのは自明の理……それに、一般生徒に怪人をやってもらうよりも、生徒会メンバー、しかもその中で最も悪役臭が凄い蓮さんにやってもらう方が盛り上がる……!」
「悪役臭とかいう不名誉な言われようはさておき、そういうことだ! 俺は……俺は、お前達ガクエンジャーに対抗する悪の秘密結社【アカバーン】の幹部、【マゾマゾ怪人レーン】として君臨させてもらう!」
『名前が絶望的にダサい!』
「失敬な!」
俺の超絶イケイケネーミングセンスにケチをつけてくる不届き者達に睨みを返しておく。ダサい……ダサいのか、結構いい感じの名前だと思ったのに……。
「いや、どう考えても……というか、今まで真冬が出会った人の中でぶっちぎりでネーミングセンス欠けてるですよ……」
「そこまでか! それはさすがに言い過ぎだろう!? なぁ皆!」
『…………』
全員が一斉に俺から目を逸らす。
「もういい、もういいよ……どうせ俺は【ダサダサ怪人ネムラー】だよ……」
「いや、だからそれがダサいのよ貴方」
「肉親から言われると最高に傷つくね! 気持ちいいからいいけどさ!」
同情めいた視線を送られながらの指摘に精神面でノックアウトされかける。マゾはそういう方向性の攻撃に弱いってことをそろそろ分かってほしい今日この頃。打撃面では最強だけど、打たれ弱いんだぞぅ!
勝手に落ち込む俺を他所に会議は進む。次はタイトルを決めようという話になったが、紆余曲折の末に【生徒会戦隊ガクエンジャー】に決定した。【美少女戦隊ラブレンジャー】とか【BL戦隊ヤオレンジャー】とかいう破壊力抜群センス皆無な命名を行いこっち側に脱落してきた某ハーレム王と腐女子については触れない方向でいく。これ以上俺達のセンスをひけらかすのは人類的によろしくない。
後日三人で呑みに行くことを計画していると、次の議題へ。
「シナリオは後で作るとして、次は配役だな。蓮さんは怪人をやるとして……やっぱり、リーダーたるレッドはあたしだな!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ深夏! リーダーと言えば生徒会長、つまりレッドは私でしょ! そこは譲らないわよ!」
「桜野は赤ちゃん的なレッドだからそれは違うんじゃなかろうか」
「黙りなさいダサダサ怪人ダサゴン」
「ダサさしかねぇ!」
「じゃあダサリエルでいいわよ、天使っぽいじゃない」
「名前の割にカッコ良さが伝わってこねぇな! チクショウ馬鹿にしやがって!」
親友の俺に対する毒舌が最近酷い件について。
しかし、戦隊モノに乗り気じゃなかったくせにこういうところは譲れないってんだから、桜野はつくづく子供だよなぁ。
「うるさいわね。蓮は罰として全校集会後に一人で体育館のモップかけを命じるわ」
「ありがたき幸せ」
「わっかんねぇな……」
俺と桜野の会話に頭を抱える深夏。ふん、貴様のような普通の人間に、俺の高尚なるマゾヒズムが理解できるわけなかろう! この小童がぁ!
「蓮さん控えめに言ってキモイっす」
「杉崎だけは見捨てないと思っていたのに」
ゴミを見るような目で言い放つ杉崎に対して小動物的視線を送ってみるものの、効果はいまひとつのようだ。それを見て俺の隣で自作小説【生徒会男子達の劣情】なるゲテモノを書き進めていた真冬ちゃんからノートを取り上げてから、会議に戻るとする。涙目の後輩がポカポカ叩いてくるが知らん。俺は貞操が惜しい。
「しゃあねぇなぁ。じゃあレッドは会長さんに譲るよ」
「当然ね!」
「じゃあ次は真冬ちゃんの配役ね。キー君や私と違ってすぐ決まるだろうし……」
「ふ、ふぇ? 真冬ですか?」
皆からの視線を受けて人見知りが再燃したのか、BL小説で顔を隠しながら赤面する真冬ちゃんが超かわいい。でもいつの間にその小説取り出してたんだいキミは。そしてその内容が生徒会に所属する先輩後輩の甘く切ない恋物語に見えるのは気のせいであることを心の底から祈りたい。
絵に描いたような天然な反応を見せる真冬ちゃんwithボーイズラブ小説に対して、俺達はまったくズレることなく告げる。
『ピンク』
「ほぇ? はぇ? ぴ、ピンクですか?」
「真冬、お前はガクエンジャーピンクだ!」
「いや、ピンクは別にいいんだけど……なんでそんな即答……」
「そんなの当たり前だろ」
思わずといった様子で首を傾げる真冬ちゃん。そんな彼女に向けて、実の姉は一拍おいてさらりと断言。
「脳内が常に煩悩ピンク色だからだ!」
「ま、待って! そんな不名誉なピンク指名はイヤ! もっとこう、納得できる理由が欲しいよ!」
「理由なんて必要ないだろ」
「カッコイイ台詞回しで誤魔化そうとしても駄目だよお姉ちゃん! それに、その理屈なら紅葉弟先輩とか杉崎先輩とかもピンクじゃん!」
「いや、あの二人はもはやピンクで済ませていいレベルじゃないというか……」
「それは、まぁ……」
『そこで納得されるのは凄く不本意だ!』
確かに俺も杉崎も普通の変態度からかけ離れたところにいるかもしれないけれど、そこでマジ反応されると地味に傷つく。それも基本的に他人を傷つけたり蔑むことがない真冬ちゃんからの反応だとすれば尚更だ。たとえ最近クズ人間度が増してきた彼女とはいえ、可愛い後輩女子からそういう反応されるのは精神的にクるものがある。
だが、とりあえず真冬ちゃんの配役は決定した。姉さんも黒で決定だから、残りは深夏と杉崎の配役を決めるか。
「ちょっと待ちなさい」
「どうしたんだいガクエンジャーブラック」
「さも決まったかのようにブラック呼びするのはやめなさいな! いや、おかしいでしょう!」
「どうしたんですか知弦さん。いや、ブラック」
「わざわざ言い直さなくていいわよ! 悪意! 悪意が見える!」
「もー、そんなところで時間とらなくていいじゃない知弦ぅー」
「何もおかしなところはないと思いますが……」
「貴女達……」
何がショックだったのか、姉さんはその場で膝を床にガックリつくと、何やらぶつぶつぼやき始めた。
「ふふ……やっぱり私ってそういうイメージなのね……良いわよ別に、私だってピンクとかイエローが似合うキャピキャピした女の子だなんて思ってはいないし……でも、でもね? 私だっていっぱしの、夢に夢見る女の子……」
「その歳で女の子とか、ないわー」
「蓮貴方覚えておきなさいよ」
「誠に申し訳ございませんでした」
日頃の冗談とは違う割とガチめなドスを利かせた低音に条件反射で額を床に擦り付けていた。身体に染みついた調教の記憶が彼女に逆らうことを拒絶させる……はぁはぁ、興奮が止まらねぇ。
日頃の行いが祟り無条件でブラックに決定した哀れな姉はさておいて、問題の副会長ズである。ある意味この二人だけはイメージカラーが存在しない為、配役を決めるのに時間がかかると思われたのだが……、
「魅惑の青でいいよ俺は」
「神を滅ぼした怪物を一撃で葬り去った、黄の黎明ガクエンジャーイエロー!」
「この副会長たちはもっとまともな感性で色を選べないの!?」
どうやら意外にもあっさり決まったらしい。完全に一人でツッコミ回っている桜野が大変そうだ。
ヒーロー側の配役が決まってしまった為、次は流れ的に怪人役の詳細を決めることに。とはいえ、所詮は学生の寸劇である。そんな凝った役はできないので、それなりの落としどころを見つけていこう。
「蓮さんはどんな怪人がやりたいんだ?」
「そうさなぁ。亀甲縛りのコスチュームで、女子生徒達に鞭を持たせようとする怪人とかかな」
「ただの変質者じゃねーか! そういうのはヒーローじゃなくて警察のお世話になるやつだよ!!」
「じゃあ蝋燭でも可」
「エモノの問題じゃねーよ! アンタの方向性の問題だよ!」
「無理矢理鞭を持たされて、嫌々ながらも振るっている内に秘められたサドヒズムに目覚めていく女子高生……興奮するだろ!」
「しねぇよ!」
真っ向から否定されてしまった。俺という特色を生かしたこれ以上ないくらいぴったりな怪人だと思ったんだが……何がいけなかったんだろう。
なんか却下されてしまった為、新たな案を出してみる。
「じゃあ世界中の人間をマゾヒストにしようと企む怪人でいいよ」
「よくねぇよ! 学園レベルで相手にしていい規模じゃねぇし! ていうかさっきからマゾに収束するのやめろ! もっと健全な方向性でいってくれ!」
「えー……あ! 何人もの女性から好意を向けられているのに有耶無耶にして誤魔化す怪人、ウワーキとかどうだろう!」
「アンタがそれでいいならまったくもって止めないが、その後無事に学園生活が送れなくなることだけは保証してやる」
「自分で言ってて辛くなってきたからやめとく……」
もう同情すらない純粋な侮蔑の目で説き伏せてくる深夏。俺は俺で自分の最低さを再認識しただけなので精神的に辛い。後、桜野がさっきから虫をも射殺せそうな殺意の籠った視線を投げてくるのが怖い。あまりの迫力にあの姉さんが完全にブルっているのも拍車をかけている。俺は俺で桜野に対して申し訳なさしかないので、こっそりメールでこの後ケーキ屋で何か奢ることを条件に許しを請うた。これ完全に二股かけてる最低男の行動だ……。
「もうテキトーにクモ怪人か何かやるよ……」
「落ち込んでいるところ悪いけど、完ッ全に自業自得なんだけどね!」
「あ、アカちゃんそこまでに……ほら、あの子だって悪気があるワケじゃ……」
「知弦は黙ってて!」
「はい……」
『知弦さん(紅葉先輩)が会長相手に沈黙しただと!?』
世にも珍しい光景に度肝を抜かれる三人。とりあえず後で姉さんにも謝っておこうと心に決める、紅葉蓮十七歳の春。
これ以上この話を掘り起こしても進まない為、先程のケーキ屋とは別に今度の休日を差し出すことでどうにか許してもらう、情けない俺なのであった。
感想待ってます(土下座)