滅茶苦茶な紆余曲折やら俺のお財布事情が黙示録やらあったけれども、とりあえず配役は決定した。他五人の役員で構成されるガクエンジャーと俺扮する怪人とかいうまぁ無難なラインナップ。この配役を元に今からシナリオを作っていかないといけないわけだが……。
「この生徒会の特色を出しつつ、王道展開に持ち込むってのは少々難しいよなぁ」
「蓮さんは執筆担当だし、鍵も二年B組の小説担当だったりするんだから、多少はシナリオ思いつくんじゃないのか?」
「いや、俺も蓮さんも事実を元に多少脚色しているだけのノンフィクション作家だから、一から物語を作っていくってのは……」
深夏の質問に苦笑交じりに応える杉崎。彼の言う通り、俺も杉崎も文章は書けるものの発想力が秀でているわけではない為、このハチャメチャな生徒会の特色を出した王道シナリオとかいう無茶脚本を単独で作れるなんて思っていない。それに個人で作ってもどうせ文句を言われるのは目に見えているので、こういう時は最初から全員で話し合った方が無難に落とせる。三人寄れば何とやら、だ。
まずは大まかな骨組みだけ作っていく。
「とりあえず流れとしては、怪人登場、ガクエンジャー登場、交戦、勝利、ってところか」
「所詮は学生の寸劇だから、そんなに凝る必要もないしね。ほら、みんなどんどん意見出しちゃってー」
「お前も出せよ桜野」
「わ、私は司令塔だから、皆の意見に反応する役をやるの!」
痛いところを指摘してやるものの、当人は多少狼狽えながらも上手い具合に自身をいつものポジションに置いていた。まぁコイツの場合は物語を作る才能に極端に恵まれていないから、戦力外になるのが目に見えてはいるけれども。
ふむ、と一息入れて考える。幸いにも敵の詳細は決まっているから、そんなに難しいとは思えないが……。
「シンプルな蜘蛛男が敵って言われると、これまた王道なシナリオにならざるを得ないような気がするんですが……」
「そうとは限らないよ真冬ちゃん。ほら、蜘蛛男っていう事は、糸を吐いて自分に亀甲縛りすることも可能なわけだし」
「動き止まってるじゃないですか! すごく華麗に自滅してますですよその怪人!」
「そんなことはないよ。人間は縛られて四肢の動きを封じられた時こそ真の力を発揮できるのさ」
「そんな人外染みたポテンシャル秘めてるのは紅葉弟先輩だけですー!」
真冬ちゃんに全力で指摘されてしまう。うむむ、意外と良い案だと思ったんだけどな。周囲を絡め取りつつ自分も亀甲縛りできるなんて、最高の怪人じゃないか。
俺が次なるマゾヒストシナリオを考えていると、満を持したように杉崎が手を上げる。
「はい杉崎」
「王道かつ高校生らしい対象年齢ということで、ここはひとつクイ〇ンズブレイド的要素を入れ込んでみてはいかがでしょう!」
「良くないよ! 衆人環視で生肌を晒すとか許可できるわけないじゃない!」
「でもクイーン〇ブレイドはCEROマーク『C』ですし、高校生なら何の問題もないような……」
「ここは学校! そんでもって今話し合ってるのは学校行事! えっちいのは駄目なの!」
「え? だけどこの行事って乱〇パーティですよね?」
「下ネタぁ!」
「ふごぉ!?」
あまりにも行き過ぎた下ネタ発言に間髪入れず深夏の拳が飛ぶ。鳩尾に突き刺さるガクエンジャーイエローのパンチによって、ガクエンジャーブルーはいとも無残に膝をついた。あまりの衝撃に何やら顔が真っ青になっているが、あれはおそらくガクエンジャーブルーのマスクだろう。身を張って色まで合わせてくるとか流石としか言いようがない。
下ネタ怪人スギサーキが撃沈したところで、ようやく我らがガクエンジャーブラックが重い腰を上げる。
「もう、そういうお茶の間にお見せできないような設定は駄目に決まっているでしょう? 少し考えたら分かる事だわ」
「う……そう言われると言い返せない」
日頃問題発言ばかりしているこの女性に文句言われるのも凄く納得はいかないが、内容としては正論この上ない。学校行事にマゾ要素とかエロ要素とかぶち込むのはそもそもお門違いではあるし、許可が出るとは思えない。いやまぁ、俺も杉崎も多少ふざけていた節はあるが……。
しかしさすがは姉さん。こういうときにストッパーとして機能してくれる人員は貴重だ。今回もさぞ素晴らしい落としどころを見つけてくれるだろう。
俺の期待のこもった視線に妖艶な笑みを浮かべると、手櫛で髪を梳きながら、
「とりあえず、ここは裸の美少年が抱き合っているところをガクエンジャー全員で言葉責めにするという展開で手を打ちましょう」
「俺の期待とその他諸々の感情を返せ!」
「あ、紅葉先輩! その案には真冬も賛成です!」
「真冬ちゃぁん!? キミこういう時だけ乗り気なのは如何なものなの!?」
「でもこの場合、抱き合って言葉責めにされる美少年の片割れは蓮になるわけだけれど……」
「素晴らしいじゃないか。この案で行こうぜ皆」
『一瞬で懐柔されてやがるこのマゾヒスト!』
副会長ズからの手厳しいツッコミが生徒会室に響き渡る。いやはや、素晴らしい案じゃないか姉さん。美少年と抱き合うっていう点が少々いただけないが、言葉責めにされるという最大最高最強のメリットに心惹かれる次第だ。ふむふむ、さすがは軍師紅葉知弦。俺の予想を相も変わらず超えてくるぜ!
だがさすがにこの案も公序良俗に反するとかいう理由でボツに。良いと思ったんだけどなぁ、言葉責めエンド。
「仕方ないわねキー君は。じゃあもう世界滅亡エンドでいいわよ」
「規模が一気におかしいですよ! なんでそうも人類を終わらせようとするんですか!」
「じゃあ破壊神による人類滅亡エンドならどう?」
「敵の種類の問題じゃない! しかも今回の怪人は蓮さん扮する蜘蛛怪人って決まったでしょーが!」
「待った鍵。破壊神と戦う展開は確かに熱いかもしんねぇ!」
「バトルジャンキーは黙ってろ!」
杉崎のツッコミが炸裂する。この男、エロが関係しない話題に置いては相変わらず生徒会役員トップクラスのマトモさを誇っているな……根が真面目なのがこういう時に幸いしている。ツッコミ不在の恐怖は既に経験済みだから、こういう時に安定してツッコミを入れてくれる存在っていうのは貴重だ。ありがたい。
というわけで、俺も安心してボケさせていただこう。
「よし、それならこれはどうだ? 俺がガクエンジャーレッドを攫うから、そのままレッドが俺の顔を踏み潰す!」
「何の進展もしてねぇよ! 貴方がただ自分の性癖暴露してるだけだよ!」
「な、なんで私が蓮の顔面踏まないといけないのよ! 不潔だわ!」
「普通に傷つくぞその言い方は!」
「そうよアカちゃん。蓮は顔を踏まれるよりも股間を踏み抜いた方がイイ反応するんだから」
「部位とか反応の話はしてないっての! 知弦もこの期に及んでわけの分からない追撃しないでよ!」
「私はアカちゃんの為を思って言っているのに……性的に」
「性的に!?」
「あ、俺もそうですよ会長!」
「なんで今知弦の台詞に乗っかったのかなぁ!? 全然いらない同意なんだけど!」
桜野が泣きそうになっていた。元々は俺のマゾ性癖がどうこうとかいう話だったはずなのに、どうしてこうも弄られやすい性格をしているんだろう桜野は。俺達の言葉すべてに反応を返してくれるから、こちらも弄り甲斐がある上に自分自身墓穴を掘り続けていることにいい加減気が付くべきではないだろうか。相変わらずそんな性格しているなぁ。
……その後もギャースカ騒いでいっこうに話がまとまらない我が生徒会。このままだと埒が明かない為、生徒会の隅に杉崎を呼び寄せて勝手に二人で台本を製作することに。とりあえず今まで出た案を参考にしながらちまちま書いていく。
そうして出来上がった台本が、以下の通りだ。
☆
「わーっはっはー! 叩け! もっと俺を叩けそこの少年!」
「う、うぅ……気色悪いのに手が止まらないよぅ……」
蜘蛛のコスプレをした蓮が中目黒に鞭を持たせて叩かせているシーンから開始。この際中目黒は涙目であるとなおよし。
「こらぁ! もっと、もっと強く叩かないか!」
「う、うわーん! 誰か助けてー!」
「そこまでよ! そこの変態マゾ怪人!」
「ぬぅ!? 何奴!」
突如響き渡った声に振り向く怪人。すると、身長を誤魔化すために机の上に乗った、真っ赤なスーツに身を包んだ小さい人物。その周囲に立っている四人の色違い達。
「真っ赤な情熱であらゆる規則を燃やし尽くす! ガクエンジャーレッド!」
「すべては清き正しい腐女子の為に! ガクエンジャーピンク!」
「一瞬ですべて私の奴隷にしてあげる! ガクエンジャーブラック!」
「悪魔や神々でさえもひれ伏す究極生物! ガクエンジャーイエロー!」
「美少女の為ならたとえ火の中水の中スカートの中! ガクエンジャーブルー!」
『我ら! 生徒会戦隊ガクエンジャー!』
ここで化学部による火薬演出。適量。
「小癪な! このマゾマゾ怪人レーンには敵わないことを思い知らせてやる! ゆけっ、お前達!」
『イーッ!』
呼びかけに応じて現れる雑魚エネミー五人。
それぞれがエネミーと戦闘。
「レッドぱ~んち……えいっ!」
「ぐは!?」
低身長のレッドパンチが股間に炸裂。そのまま悶絶。
「はうぅ、できればそこの蜘蛛怪人と抱き合ってほしいですぅ」
「ヒィッ!?」
涎を垂らしながらスケッチブックに絡み絵を描き始めるピンクに対して戦意喪失。
「ほらぁ♪ まだまだ私は満足していないわよぉ?」
「うぎゃー!」
ブラックによっていつの間にか三角木馬に乗せられたエネミーはそのまま昇天(いろんな意味で)。
「必殺! アルティメットスペシャルギャラクティカロイヤルサンダァアアアアア!!」
「ぐぁあああああああ!!」
イエローの何が何だか分からない超常現象染みたパワーで一人蒸発。この際死亡が確定するのでできればマネキン採用。
「ぐへへ……ぐへへへっへへ!」
「はぅ!?」
血走った眼で息を荒げながら女性エネミーに襲い掛かるブルー!
そうして、なんだかんだで蜘蛛怪人だけが残る。
「甘い! 今のはただの雑魚集団! この俺にかかれば貴様らなど屁の河童よ!」
「目を覚まして、蓮!」
「っ!?」
両手をあげて襲い掛かろうとする怪人だが、レッドの言葉に制止する。
「貴方は私達の仲間……そう、ガクエンジャードス黒いブラックだったのよ! 悪の道に落ちてしまったけれど、もう一度私達の元に戻ってきて!」
「ぐ、ぐぅ……い、今更何を……」
「私達は今までも、そしてこれからも一緒でしょ!」
「ざ、戯言をぉおおおおお!!」
拳を振りかぶって走り寄る怪人。そんな怪人に向けてレッドは平手を振りかぶると、思いっきり頬を打つ!
「いひゃい!」
「……目は覚めた?」
「な、なにを……いや、なんだこの涙は……」
「それは……それは、貴方がまだ人間だって証拠よ、蓮」
「お、俺は……俺はぁあああああああ!!」
ここで怪人唐突に自爆。煙幕を焚き、その中でスーツを脱ぐ生徒会役員。
煙幕が晴れると、役員六人が整列。
「友情は、何事にも負けない!」
『負けない!』
デーン、という太鼓音と共に幕が下りる。ここで全員でオリジナル曲『戦えガクエンジャー!~マゾリミックス~』を熱唱。
大盛況のまま寸劇は終わり。
☆
「いや、正直あの劇はないですわ」
「ですよねー」
その後、念の為に動画を撮ってもらっていた藤堂からの一言がすべてを表していたので、俺から言う事は何もない。
次回の生徒会はインタビューか雑務か。