前半ギャグ、後半シリアスの二段構成となっております。シリアスは評判悪いですが、『生徒会の一存』という原作上シリアスは外せない要素ですので、ご了承ください。
それでは次に、生徒会からのお知らせです。
「おっす、俺、レンレン――――ってっぶねぇ! オイ誰だ今いきなり包丁投げつけた馬鹿野郎は! いくら俺が碧陽を代表するマゾヒストだからって、顔を出した瞬間に刃物投げつけるとか常軌逸してんぞコラァッ! 杉崎でもそんな扱いされねぇだろ! 仲間殺そうとすんなよ仲間をよ。
……おい、そこの一年坊主共。何揃いも揃って大富豪始めてやがんだ? 特にC組とD組、お前ら俺を差し置いて盛り上がり過ぎだろう! なんだ誰が煽ってやが――――聞くまでもねぇか。少し落ち着けそこの腐女子と文芸部副部長、そして平均的容姿の地味女。お前らなに三人揃って俺の話妨害してんだ? 今から展開される俺の有難いお話を聞こうとしないなんて、愚の骨頂だぞ? 分かったらさっさとトランプ仕舞え。あ? ウノ? そいつも直せ。つか聞くまでもないだろうが自分で判断しろ馬鹿。
なんだよお前達。俺様の
……うん、ごめん。ちょっと予想はしていたけど、三年E組は黙っててくれ。お前らは変態しかいないんだから、こういう系の質問には解答しないでくれ。俺もお前達は頭数に入れてないんだからさ。な? お願いだから放っておいてくれよ。ただでさえ授業中&休み時間に俺を弄り倒してるんだからさ。
とりあえず、真面目に話をさせてくれ。そろそろステージの端で成り行きを見守っているちびっ子親友と姉さんの視線が凄まじいものになってきてるからさ。俺の命の灯がマッハで消えかかっているから。――――ってE組ぃいいいいいいいいいいいいい!! そのタイミングでの大歓声は俺に対する宣戦布告と受け取っていいんだな!? 俺と全面戦争をやる気があるって思っていいんだな!?
……いや、やっぱりやめよう。普通に考えて勝てる気がしない。特にそこの風紀委員長。嫌な笑顔でトンファー振り回すな。いくら幼馴染と言っても許容できる範囲というものがある。
さて、それじゃあ話すからな。桜野に怒られたくなかったら真面目に聞けよお前達。
最近、我らが私立碧陽学園内の性的風紀が乱れている。狂乱していると言ってもいい。乱辱レベルの可能性だってある!
……オイ待て、引くな。全校生徒して一歩ずつ下がるな。最後尾の三年生が滅茶苦茶窮屈そうにしているだろ? 一見何も問題はないように見えているかもしれないが、よく見ろ。特にE組の方を見ろ。化学部の部長が窮屈さのあまりに縮み薬を取り出し始めてんじゃねぇか。やめさせろ。そして元の位置に戻れ。
……下ネタで言ったんじゃねぇからな。そこんところ勘違いすんなよ。
とにかく、さっきも言ったようにここ最近お前達乱れすぎだ。思春期だからそういうことに好奇心旺盛だってのは重々承知しているが、それにしても乱れが過ぎる。この前目撃したカップル――――そう、お前達だお前達。二年生の隅の方で肩を寄せ合って一瞬ビクッて反応したそこのバカップルだ。お前ら仲が良いのは分かるが、いくらなんでも放課後の理科準備室でいちゃつくのはやめろ。人体模型を取りに行った俺が思わず模型の股間をむしり取っちまうくらいにムカついたんだよ。独り身のダークパワーを見せてやろうか? 独り身&マゾヒスト&オタクのトリプルミックスパワーで成敗するぞコラ。
……な、なんだよお前達。なんで一部ハンカチで目押さえてんだよ。やめろ! そんな憐みの視線を向けるな! 俺は別に悲しい意味であんなことを言ったんじゃない! ジョークだ! パキスタンジョークで言ったんだ! ――――って藤堂! お前なんで人一倍泣いてんだよ! あん? 『婿の貰い手がいなかったら私の所に来なさい』? 魅力的な申し出だが断らせてもらおう! 奴隷になる気は毛頭ないんでな! というか姉さんの下僕人生で手一杯だからな!
話が逸れたな。いや、むしろこっちが大筋かってくらいにぶっ飛んだな。お前ら才能あるよ。会議とかに絶対向いてないよ。
とりあえず、お前達事の重要性を理解しろ。このままだと俺達生徒会が直接鉄槌を下すことになるぞ? 俺や杉崎みたいなむさ苦しい男から罰を受けることになるんだぞ? いいのか?
……おい、今俺に向かって草食系万歳って言ったバカ女どこのどいつだ。性別しか判別できなかったけど、お前これ終わったら3年E組の教室まで来い。上下関係ってものを分からせてや――――っぶない! E組ぃいいいいいいいいいいいい!! 異端審問的な組織立ち上げているのは知っていたが、まさか斧が飛んでくるとは夢にも思わなかったぞ! つーかよく投げられたなこんな重いモン! マゾっ子レンレンも驚きだぜ!
……いい加減にしろよ。さすがに怒るぞ俺も。次はないからなマジで。
俺達が動くってことが何を意味するか分かるか? 男女の距離を規制されて、お互いに窮屈な学園生活を強いられる可能性が出てくるってことなんだぞ? そんな堅苦しい、面白みのない高校生活送りたいか?
俺は女の子が大好きだ。杉崎程じゃあないが、女子に対しては優しく接しようと心に決めているし、そうすることで女の子達の魅力的な姿が見られるって思っているよ。そのためなら、俺はどんなことでも我慢する。
男子相手だってそうだ。一緒に汗流して、馬鹿やって、笑い合うのって気持ちがいいよな? 三年生は去年の修学旅行の時のことを思い出してみてくれ。男子総員で女子風呂に突撃しようとして、女子勢と戦争したのはいい思い出だったよな? 怒りながらも、怒られながらもお互いに笑っていたよな? あんな状況だったけど、馬鹿やって健全な付き合いをするのが楽しかったよな?
何も交際禁止とは言わねぇよ。恋愛も好きにやればいい。ただ、何事にも限度があるってことだ。俺だってそれなりに節度を持って過ごしている。俺の本気のマゾを見たことある奴は知っているだろうが、あんなもんじゃないぜ? 並大抵のサディストじゃ相手にならないくらいのカリスマなんだよ俺は。姉さん直伝だからな。
お前達は高校生だ。中学生と違って責任が付きまとうし、大学生と違って制約が多い。そんな複雑で窮屈な職業だ。人生で最も大変な時期だろうよ。
でもさ、そんな窮屈で大変な時間だからこそ、ルールを守って楽しく生きないか?
遊びとかも同じだよ。野球で例えてみようか。
野球ってのは、九人対九人で成り立つスポーツだ。お互いに打って守って走って、表裏で得点を奪い合うのが大筋だよな。それは根本的なルールだし、それを守らねぇとそもそも試合が成り立たない。
でも、その野球を十人対九人でやられたらどう思う? 表裏なんて無視されて、ひたすら打席に立たれたらどう感じる?
俺なら普通に嫌な気分になる。なに自分勝手なことをしてこの楽しい野球ってスポーツを邪魔してくれてんだって怒るだろうよ。当り前だ。みんなで楽しんでいた時間を妨害されたんだからさ。
今のお前達の生活は、当たり前のルールで成り立ってんだ。中には納得できない規則もあるだろうさ。人間だからそういうのは仕方がない。不満もぶつけたくはなるだろう。
だけど、もう少し落ち着いて生きてみないか? ルールの中で、許される範囲内で最大限に羽を伸ばして飛んでみないか? お前達にはそれができるはずだ。
何事も《適度》ってのは大事なもんだぜ? やりすぎ、やらなさすぎはよくない。みんなが納得できるラインで精一杯生きていかねぇか?
まぁ恋愛事だから、うまく自制が働かなくなるってのは分かるよ。好きな相手のことを考えるとどうしようもない気持ちになっちまうってのも理解できる。俺だってそうだった。中学生の時、好きな相手と倫理的な観点で揺れ動いたこともあったよ。その時の気持ちも、まだ忘れちゃいない。
でもさ、その時も今も俺はこう思っているんだ。『できる範囲で、やれることを最大限やろう』ってさ。
人間ってのは小さな生き物だから、出来る事なんてものは限られている。だからたまには自分の身の丈以上のことをしたりするもんだ。無駄に張り切って、社会に敷かれたルールの上から脱線してみたりするもんだ。
でも、それじゃあ駄目なんだ。抗って、反抗するだけじゃ駄目なんだ。それだけじゃ何も生まれないんだ。
譲歩することが大切。我慢することが大切。昔から馬鹿みたいに言われ続けてきたことだ。いい加減にしてくれってくらいにさ。
だけど、なんでずっとそれを言われてきたのかもう一度考えてみようぜ。大切なことだから、大好きな仲間達を傷つけないために最重要なことだから言われ続けてきたんじゃないのか? 人類が紡いできた長い長い歴史の中で築かれた倫理だからじゃないのか?
お前達なりに、俺が今ここで言ったことを考えてみてくれよ。十人十色、どんな意見が出るかは知らないが、お前達は俺が愛する碧陽学園の生徒だ。きっと良い考えに行き着くのを祈ってるぜ?」
以上、生徒会書記、紅葉蓮の「生徒会からのお知らせでした」
☆
「……お疲れ様、ですわ」
「ん、藤堂か」
全校集会を終え、ホームルームも終了した放課後。E組の生徒が駄弁りながら帰り支度をしている中、クラスメイト兼新聞部部長である藤堂リリシアが俺の机の前に歩み寄ってきた。相も変わらず綺麗なブロンドをなびかせて、外国人系統特有の整った顔を少し卑屈そうに歪ませている。普通にしていたら超美人なのに、なんでいつもそんなに不機嫌かねぇ。
藤堂は机の上にちょこんと優雅に座ると、右の方にすらりと伸びた美脚を放り出して脚を組み直す。
「……相変わらず気持ちが悪いくらい綺麗な脚してんな」
「あら、欲情でもしまして?」
「少しはな。でも心配すんな。襲うなんていう馬鹿な真似はしねぇよ」
「それは残念。少しくらいなら触ってくださっても結構ですのに」
「遠慮しとくよ」
くすりと口元に人差し指を当てて妖艶に笑う藤堂。どこか楽しそうな雰囲気を纏ったその笑顔に、俺は思わず顔を逸らしてしまう。窓から差し込む夕日の光を浴びているせいか、彼女の美しさが数倍にも増しているように思えた。
俺が黙り込んでしまったせいか、藤堂も話を切り出す切欠を掴めずにそのまま口を噤んでしまう。わずか数センチの距離で座っている仲良しな俺達なのに、静寂が気まずい雰囲気を作り出してお互いの心を掻き乱す。すでにクラスメイト達は一人残らず教室から立ち去っていて、物音一つしない空間がさらに静けさに拍車をかけた。
「……あの、紅葉蓮」
そんな口を開くことすらままならない重苦しい空間の中で、彼女は意を決したように俺の名を呼んだ。緊張しているのか、ぷっくりとした柔らかそうな唇を震わせて、少しづつ言葉を紡いでいる。
「……な、なんだ?」
「い、いえ、その……」
「……ど、どうしたんだよ。らしくねぇぞ?」
「…………」
なぜかそこで再び黙り込んでしまう藤堂。顔を赤らめ、膝の上で握り込んだ両拳をもじもじさせている。
いったいどうしたのだろうか。普段からどんなに失礼な事でも遠慮せずにずばずば言う彼女らしくない反応だ。歯に衣着せないことで有名な藤堂リリシアが、今目の前でなぜか恋する乙女のように奥ゆかしげな挙動を見せている。
あまりにも見慣れない光景に俺は呆気にとられるしかない。どうしたんだ、藤堂のヤツ。
――――そして数分経った頃だろうか、藤堂は溜まった唾を飲みこむように喉を鳴らすと、ようやくといった様子で口を開き――――
「……いい加減に、告白の返事を聞かせてくれませんこと?」
そんなことを、言い放った。
「――――――――」
黙り込む。先ほどとは違った意味で、緊張とか、気まずさとか言う意味ではなく、純粋に言葉を出せずに黙り込む。
……藤堂に告白されたのは、去年の暮れの事だ。
生徒会に入るため、一心不乱に勉強をしまくっていた俺。それでも休み時間などは、クラスメイト達と遊んだり駄弁ったりしていた。藤堂は去年も同じクラスで、もちろんそれなりに仲もよかった。異性間では、桜野と肩を並べるほどに交流があったと言っていいだろう。
そんな親友ともいえる彼女に、俺は告白された。
『一生懸命に頑張る貴方が、大好きです』
誰もいなくなった教室。そう、まるで今のこの空間のような場所で、藤堂は顔を真っ赤にしてそう俺に言ったのだ。全身を恥ずかしそうにもじもじとくねらせながらも、しっかりとその碧眼で俺を見据えて。
嬉しかった。俺の頑張りを認めてもらえて。しかも仲のいい女子に、好きだと言ってもらえて。その一年間の中で、一番嬉しかった瞬間だと言ってもいい。
でも、俺はその告白に返事をすることはできなかった。
『考えさせてほしい』
その台詞がどれだけ彼女を傷つけるのか、壊すのかを知ったうえで、俺はその返事を保留した。答えることを恐れるように、自分の気持ちをぶつけることを避けるように、俺は彼女の好意から逃げた。
そうして、俺は今も返事をできずに藤堂の前にいる。
「……返事を、していただいてもよろしいかしら?」
あくまでも気丈に、高貴な態度で詰め寄る藤堂。彼女の瞳を見つめ、充血していることに気付く。
――――嗚呼、最低だ。
親友が泣きそうになっているのに、俺は手を差し伸べる事すらできない。完璧に決着をつけて、諦めさせてしまえばそれで解決するのに、彼女を傷つける事を恐れるあまりにそうすることさえできない。それが一番彼女を壊すことだと分かっているのに、俺は仮初の友情を言い訳にして彼女を傷つけてしまっている。
藤堂のことは、好きだ。客観的に見れば去年の告白に即決するレベルで、俺は彼女に好意を持っている。
……だが、俺には彼女の愛を受け入れる権利がない。というよりも、誰かの愛を受け取る立場に立っていない。
胸の奥で引っかかる、アイツの存在。誰かを傷つけているのに、大好きな親友を傷つけてしまっているのに、俺の心からアイツのことが離れない。
藤堂が頑なに俺を見据えている。もう先延ばしにさせる気はないと言うように、彼女は自身の悲しみを押し留めて俺の返事を待っている。
彼女のいつになく真剣な気迫に押され、俺は絞り出すようにしてか細い声を出し始めていた。
「俺、は……」
「やめなよ、リリシア」
『!?』
突如響いた幼い声に、俺と藤堂は同時に教室の前方に視線を投げた。
そこにいたのは、桜色の少女。とても高校生とは思えない小さな体躯に碧陽の制服を纏った彼女は、悲しみと怒りの入り混じった瞳で俺と藤堂をそれぞれ見つめていた。
俺のもう一人の親友――――桜野くりむが。
桜野は俺達の前まで歩いてくると、即座に藤堂の手を取って机から立たせた。
「な……何をしますの桜野くりむ!」
「帰るよ。蓮、困ってるじゃない」
「そんなこと! ……まだ、話は終わってませんのよ!?」
「二度は言わないよ、リリシア」
桜野はそこで言葉を切ると、普段の天真爛漫さからは想像できないほどの暗い感情を視線に乗せて、藤堂を射抜く。
「帰るよ」
「ッ……わかり、ましたわ……」
「うん、ごめんねリリシア。邪魔しちゃって」
「いえ……私の方こそ、無神経に……」
「あは、ソレは言わない約束でしょ?」
お互い笑顔で、それでいてどこか噛み合わない会話をしながら帰り支度をする。藤堂が荷物を纏めている様子を、桜野は寂しそうな顔で眺めていた。
俺は……俺は、そんな桜野に、声をかける。
「桜野――――」
「ねぇ、蓮。……『彼女』に責任感じるのは自由だけど、私やリリシアの気持ちも考えてよね」
「っ。……あぁ、分かった」
「話はそれだけ。じゃあね」
鞄を持ち直した藤堂を伴って、桜野は教室を出て行った。姿が見えなくなる直前にちらりと向けた顔には、形容しがたい複雑な感情が込められていたように思える。
俺以外、誰もいなくなった教室。生徒会もあっていないために騒がしい物音が聞こえない校舎の中で、俺は一人ぼんやりと天井を見上げる。
「どうすりゃいいんだよ……。『奏』……」
ポツリと漏れた俺の呟きは、誰にも聞かれることもないままに夕焼けへと吸い込まれていった。
次回もお楽しみに♪