「大佐!」
パンカネロは後ろから呼ばれ、振り向いた。ハパリーパ中尉が息せき切って駆けつけてきていた。前線から徒歩で戻ってきたらしい。
「ドルボードは?」
「エネルギー充填が間に合わないため、一旦前線に投棄してきました。回収班を急ぎ向かわせます。隊員の蘇生を最優先にしないと」
「分かった。報告事項は?」
「ドルワーム軍は機甲旅団2団をザグバン丘陵に展開しているようです。そのうち斥候部隊が運搬船約2隻にてミュルエル北部上陸を図り、現在我が軍の前衛と交戦中です。今のところ、上陸は阻止出来ていますが…」
「2機甲旅団?確かなのか?」
「はい。一旅団の規模はおおよそ3,000名。詳細は不明ですが、後方からの兵員補充も迅速に行われているようです」
パンカネロは辺りを見回した。中継基地である銀の丘は、かのフォステイルが数百年ぶりにこの地に姿を現したことでも知られ、その名の通り銀色に薄く光る丘だ。木々の色も心なしか白っぽい。この地は防御に優れているため、メギストリス歩兵団の基地として早くから確保されていた。
起伏の多いオルフェア西部~リンクル地方は豊かな緑に恵まれており、プクランド地方でも有数の風光明媚な場所だ。しかし、ドルワーム軍は我々の大陸を蹂躙することに何の痛みも感じないらしい。ミュルエルの森は彼らの侵攻により、大きな被害を受けている。
「ミュルエルにルーラストーンを配置されるのは時間の問題か。オルフェア住民は既に避難を終えているのだな?」
「はい」
「ならば一旦、目処がついたら後退せねばなるまい。戦線の立て直しを優先する」
「本部からの指令はどうなっているのですか?」
「待っておれん。風車塔へのルーラストーン配置は?」
「遅くとも明日午前には、配置が完了するかと思います」
ハパリーパの回答を聞きながら、パンカネロはプロジェクションマップを起動した。プクランド大陸北部の3Dマップが中空に投影される。マップに兵力状況を記入させつつ、パンカネロはきびきびと指示を行った。
「ミュルエル前線兵を一旦オルフェア北西キャンプまで待避させ、ルーラエネルギー充填に努めよ。
報告に依れば敵兵力は最大3,000。賢者部隊の精鋭が含まれている可能性を考えると、万が一にもリスクは侵せん。ルーラストーン配置後、風車塔経由で銀の丘に兵を集結させ、敵前衛を迎え撃つ」
ハパリーパは無言できびすを返し、前線に向かって全力で戻っていった。
彼が見えなくなったところで、パンカネロはため息をついた。このところの劣勢は、目に余るものがある。
先月末にプクランド船団がドワチャッカ南部に強行上陸し、アクロニア鉱山の南部採石場を一部制圧した時点で、一時休戦に持ち込めるはずだったのだ。
ところが、ドルワームの戦力はこちらの想定を遙かに上回っていた。ドルワーム軍に賢魔編成の2個中隊が追加され、迎撃が開始された時点で、戦況は完全に逆転した。レンダーシア経由で行軍中のはずの、ガートランド・パラディン支援部隊の到着はいっこうに聞こえてこず、戦線は完全にプクランド大陸側に押し戻された。ミュルエル前線は、この劣勢を少なくとも五分に持ち込むための最低防衛ラインだ。
考えながら、パンカネロは無意識のうちにメインエネルギーボックスモニターを起動し、数値をチェックした。ボックス残量38%。1日0.3~0.6パーセントの割合で、着実に減少が進んでいる。メインエネルギーボックスのモニター閲覧権限は、先週から大佐以上の階級に限定された。が、殆どの兵士たちは状況を知っている。兵士だけではない。一般市民もだ。
ラグアス王に状況を伝えなければならない。パンカネロは二等兵に命じ、アカイライ飛脚を急遽3頭準備させた。
アカイライ飛脚は丘陵に向かって走って行った。それを見届けたパンカネロは、数秒、目をつぶって瞑想した。