アストルティア戦記2550   作:しろたく

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やや残酷な戦闘描写があります。ご注意下さい。


12.オルフェア西平原

 父プデチョは希代の盗賊だった。自分は、父を憎みながらもずっと追い越すためにこれまでやってきた。今のポジションは、その成果だ。もちろん盗賊ではないが、もっと大きい。誰にも恥じることはない。

 チャムールは何度も自分に言い聞かせていた。

 プクランド大陸侵攻作戦が開始されてから2ヶ月。ミュルエル北方の敵前線は突破した。これから全軍の進撃を開始する。

 自分はまず最前線にルーラで赴こう。後方の移動指揮はシェリルに任せておけば良いだろう。ひ弱な賢者どもの間でも、彼女は多少役に立つ。

 チャムールは微笑を浮かべた。不安を押し隠すための微笑であることは、自分でも解ってはいる。だが、こんなチャンスは滅多にあるものではない。

 ラミザ王の行動を不安がる連中は、軍の中にもたくさんいる。だが、自分は王の気持ちがよく解る。ずっと虐げられてきたドワーフ、砂漠の真ん中で生きることを強いられ、人口も少なく、あの尊大なオーガや冷笑的なウェディ、さらには背後を虎視眈々と狙うエルフどもに、ドワーフたちは蔑まれてきた。

 そしてプクリポだ。ふざけた外見に犬みたいに媚びた行動パターン、おまけにお笑い好きと来やがる。あんな連中が、このアストルティアで最大の勢力を誇っているとは、世も末だ。虫酸が走る。

 我がドルワーム、そしてドワーフという民族は、アストルティアに君臨し、奴らに目にもの見せてやる必要があるのだ。それこそが、ウルベア・ガテリアを超える、真ドルワーム王家復興のための最低条件だ。

 

 チャムールはふと気づいた。そういえば、このところこんなことばかり考えているな。機甲旅団長というデカイ役目を担うことになって、気が張っているのだろうか。

 ミュルエルにルーラストーンが設置されたらしい。前衛部隊が続々とルーラ移動を始めている。ペースは遅い。エネルギーが逼迫しているからだ。早く、プクランド大陸のエネルギーボックスを我がドルワーム傘下に収めなければ。

 チャムールはピンクのモヒカン頭髪を軽くつかんで、上に引っ張った。自分に気合いを入れるときのしぐさだ。前方から続くルーラ移動の最後尾に位置取り、自分もルーラ移動した。

 ミュルエルから先、オルフェア平原には、既にメギストリス軍が隊列を構成していた。チャムールは自軍の隊列編成をもう一度確認し、再び微笑した。

 いよいよだ。

 

 

 かくして、ミュルエルの森防衛戦を突破したドルワーム機甲旅団第1分隊Aと、キラキラ風車塔から集結したメギストリス歩兵大隊は、オルフェア西平原北西部にて激突することとなった。

 

 ドルワーム軍は装甲兵を最前列に配置し、正攻法通り横列戦法で押してきた。その数推定1,500。予想されるより若干少なかった。ルーラによる移動にかなり手間取っているようだ。

 対するメギストリス軍は総勢4,000。やはり装甲兵を前衛に押し出しているが、余り前進はしない。戦線中盤に待機していると推測される賢者部隊を警戒してのことだ。横列体制を取ったまま。微動だにしない。

 突如、ドルワーム装甲兵が疾走前進を始めた。斧及び長槍隊がメインであり、いわゆる「槍ぶすま」を構えた状態だ。メギストリス歩兵大隊の前衛が緊張する。一旦進行を止め、槍ぶすまを避けるように盾を前面に出し、待ち構える。

 両者の距離が20mくらいに縮まった瞬間、第一歩兵団長ハパリーパの声が鳴り響いた。

 

「迎撃!」

 

 第一歩兵団を両翼に挟み、第二歩兵団(団長ペルイモン)、第三歩兵団(団長ヒッピャペ)からなるメギストリス歩兵大隊前衛隊が、一気に全力疾走を開始した。と同時に、後方で呪文詠唱を行っていた魔法使い中衛のバイキルトが、各歩兵に着唱する。瞬間的に前衛隊はバイキルト特有の紫色の薄いオーラに包まれた。

 メギストリス前衛隊は低い姿勢を保ち、ドルワーム装甲兵の槍ぶすまの下をかいくぐった。プクリポ族ならではの戦法だ。盾に気を取られていた装甲兵の数人は油断し、その瞬間に分厚い装甲を前衛隊の剣・槍・ムチに切り裂かれていた。数人の装甲兵が即座に倒れる。

 だが、ドルワーム装甲兵の反撃も敏捷だった。たちまち槍と斧が素早く空を切り、幾人かのメギストリス前衛兵が刺し貫かれた。ドワーフは緑、プクリポは赤黒、それぞれの血しぶきが周囲に飛び散る。

 バイキルトのかかったメギストリス前衛兵は、主にドワーフ装甲兵の足下を狙い、斧や槍を繰り出した。足をやられた、もしくは切断された装甲兵たちが次々と倒れていく。プクリポ前衛兵は倒れた装甲兵に素早くとどめを刺し、さらに前進を試みる。

 対してドワーフ装甲兵は力に任せてプクリポたちをなぎ払う。小動物的な外見を持つプクリポは、攻撃するものをひるませる効果を持っていたが、装甲兵はまさに情け容赦なかった。

 一瞬の躊躇もなく切り下げられ、プクリポの小さな体やその破片が、宙を舞った。屈強なドワーフ槍斧前衛兵の一閃で、多いときには3~4名のプクリポが倒される。

 戦いは数分間完全に膠着したが、後方のドルワーム賢者部隊は即座に応答していた。賢者部隊は素早く中衛に陣取り、次々と“零の洗礼”をかけていく。プクリポの戦士前衛部隊は見る間に攻撃力を失い、ドワーフ斧戦士に蹂躙された。

 とは言え数の上では勝るプクリポ部隊は、必死になって持ちこたえた。一人の装甲兵に3人~4人がかりで襲いかかる。プクリポ兵一人が足を取り、身動き出来ぬうちに一人が腕の武器を押さえ、もう一人が喉笛に武器を打ち込む。一度で仕留めることは難しい。これを何度も何度も繰り返し、ドワーフ戦士達を少しずつ沈めていった。

 その間にもドワーフ戦士の斧は猛威を振るい、プクリポ戦士は多くがなすすべもなく切り伏せられた、見る間に、ドワーフとプクリポの骸が積み上がっていく。

 

 メギストリス軍後方に、レンジャー長弓部隊が新たに到着した。その数およそ500。彼らは一斉に矢を射かけ、賢者部隊に狙いを定めた。

 ポランパン隊長率いるメギストリスレンジャー部隊は、カミハルムイの部隊と並んで長弓技術には定評がある。加えて賢者部隊の装甲は、上方からの攻撃に対してはかなり手薄だ。

 賢者部隊、及びその後方の魔法使い部隊は、ある程度の弓数をイオ系呪文で跳ね返したが、かなりの兵士が長弓に貫かれ絶命、あるいは負傷した。この二次攻撃で賢者の一角が大きく崩れ、ドワーフ軍全体に明らかな動揺が拡がる。

 

 パンカネロは最後尾、銀の丘の上で戦況を見極めていた。いよいよだ。メッサーラの角で作られた特大の拡声器を構え、指令を発した。

 

 「プランB、発動!!」

 

 プクリポ第二・第三歩兵大隊の両翼部分後方から、これまで姿勢を低くしていた軽装部隊が一気に前進をかけた。ドワーフ軍の両脇をちょうど挟むような形である。

 呪文詠唱のわずかな間があった後、軽装部隊から一気にメラ系呪文が放射された。後方の賢者部隊にメラゾーマ・メラガイアーが殺到する。呪文耐性の低い賢者達が真っ先に倒れる。慌てた賢者が次々とザオラル・ザオリクをかけるが、その上にも容赦なくメラゾーマが注がれる。

 賢者部隊が前衛にかけ続けていた“零の洗礼”が手薄になった。その機に乗じ、プクリポ魔法使い中隊は、デュピティのバイシオンまで総動員し、前衛装甲部隊にバイキルトをかけ続けた。部隊は攻撃力を盛り返し、賢者部隊の乱れにも乗じて、さらに攻撃をたたみかけた。

 

 一方で、軽装部隊に扮した魔法使い達は「特攻」に近かった。元々数が確保し切れていないことに加えて、防御力が絶望的に不足していた。彼らはたちまち賢者部隊と前衛両翼の兵士から反撃を受け、最初のメラを打っただけで絶命する魔法使いも多数だった。一時崩れたドルワーム軍の両翼は、すかさず体制を立て直していった。

 メギストリス軍は回復部隊も不足していた。比較的後方で絶命した兵士は、後衛に運ばれてザオラル・ザオリクで蘇生されていたが、全体の絶命率に対し間に合うわけもない。

 ドワーフ・プクリポ双方の最前衛兵士達、賢者、魔法使いが入り乱れる。最前衛はまさしく死屍累々となった。お互いが味方の屍を超えて剣や斧を交えた。乱戦はとどまるところを知らず拡大していった。

 

 ヒッピャペ率いる第三歩兵団は、メギストリス全軍の中でも気性の荒い連中が集まっていた。目の前で蹂躙・殺戮された魔法使い部隊(動員された少年兵も混じっていた)を見て、彼らの憤怒は頂点に達した。

 自らの傷を顧みず、部隊はドワーフ前衛兵に矢継ぎ早に飛びかかる。怒号と悲鳴がこだまし、多くのドワーフが倒れ、それに数倍する数のプクリポが力尽きていく。地面は負傷兵・瀕死の兵たちのうめき声が折り重なっていった。

 第三歩兵団の率いる右翼部隊が、再度わずかながらドワーフ軍を突き崩した。後方で戦況を見つめるチャムールは、すぐさま右翼への賢者部隊及び魔法使い部隊展開を命じる。戦線は再び均衡する。

 数で言えばドルワーム軍の3倍近いメギストリス軍だったが、個々の兵力は大きく劣っていた。なにぶん名高いドルワーム斧槍前衛部隊、耐久力は並みではない。わずかずつ、メギストリス軍は後方に押し込まれつつあった。

 

 チャムールはじっと戦局を見守っていた。ここは無理をすまい。1日待てば、船による本隊が到着する。暫くは敵の兵力をそぐことに専念だ。敵味方入り乱れる戦線を臨みつつ、チャムールはまた微笑を浮かべていた。

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