ニコロイ王の命を受けたキュウスケ率いるカミハルムイ小部隊は、2日前にドワチャッカ大陸・カルデア街道東部の狭隘な海岸に船で上陸、一目散にザグバン丘陵を目指していた。兵数は200。目立たないレベルで動くにしては最大数、軍として機能させるには最小数だ。
4日前、ヘルガからの情報を得たニコロイの行動は早かった。メモにはたった1行『ザアグ洞門奥の海底に【メガボックス】あり』と書かれていた。ラミザの狙いはそこにある。間違いない。しかもどうもラミザ本人が、【メガボックス】の居所に赴く意思らしい。
大軍を派遣することはドルワーム=カミハルムイ不戦協定上無理なので、あくまで援軍という名目で駆けつけた体を装うため、人数は最少としつつ、選りすぐりの精鋭200名が選ばれた。彼らはほぼ即日エルトナ大陸を離れ、ドワチャッカ大陸に上陸した。ドルボードとキラーパンサーを併用し、彼らは滑るように移動していく。
広大なドワチャッカ大陸南部を縦断するには、さらに丸1日を要した。南部に行くに従い、キュウスケはスピードを落とし、モンスターの気配にも注意しつつ、慎重に歩を進める。
殺風景なザグバン丘陵の向こう、クレーターをいくつも超えた先に、薄くザアグ洞門の入り口が見えてきた。洞門の前に、モンスターの集団が防備を固めている。
「戦闘準備!」キュウスケは後方に命じた。
ふと気づくと、モンスターの一団の真ん中に人影が見えた。エキゾチックな容姿、鳶色の髪に同じ色のヒゲ、何より十字に切り裂かれた右目の傷が否応なしに目に入ってくる。その隻眼の男が、こちらに向かって手を上げている。攻撃の意思はない、と言うゼスチャーだ。
キュウスケは男に近づき、話しかけた。男は答えた。
「カレヴァンと言います。勇者姫の命を受け、セラフィと共にこの地へ進んできました。元はアラハギーロの軍属です」
「アラハギーロ?と言うことは、貴公は元々…」
「はい。本来の姿はキラーパンサーです。現在は戦闘態勢ではないので、この姿ですが」
アラハギーロ。マデサゴーラ危機の渦中に現れた偽レンダーシア諸国の中でも、異色の国、人とモンスターが丸ごと入れ替わった王国の名を、キュウスケは最近になって聞いていた。
「で、貴公らはここで何を?」
カレヴァンは事態を手短に説明した。キュウスケの顔色が変わる。
「何と、それではこの先には【メガボックス】はおろか、地下通路すらないと言われるのか?」
「そのようです。我々には任務の真の目的は伏せられていて、【メガボックス】なるものの存在は先ほど初めて聞いたのですが」
「…うーむ、諸国を見事にだまし仰せたわけか、ラミザは。そうならばなおさら、南進せねばなるまい。このまま黙っていられるか。貴公らもそのつもりなのであろう?」
「いえ、アンルシア姫は待機頂くようお願いせよ、と命ぜられました。エルトナの軍勢までがプクランドに上陸したら、事態はますます混乱することと、何よりドルワーム軍が早晩こちらに引き返してくる可能性を挙げられておりまして」
「ドルワーム軍が引き返してくる?なぜだ、プクランド大陸を占領するのではないのか?」
「そうではない可能性を、ルシェンダ様が指摘されているようです。私もそれ以上のことは訊けませんでした。なにぶん、アンルシア姫は非常に急がれていましたので」
「そうか」
キュウスケとカレヴァンは、黙って暫く南方を見やった。南方で何が起こっているか、ここからは殆どうかがい知ることは出来ない。