アストルティア戦記2550   作:しろたく

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17.チューザー地下空洞

 地下空洞前のドルワーム警護部隊はあっという間に蹴散らされた。何しろ一騎当千のメンツだ。アンルシア・プパン・ヒューザ・リベリオ4名で、1分隊の戦力に相当する。おまけに後ろにルシェンダまで控えていた。

 7名はウェディ部隊を洞窟入り口の守りに残し、一気に中に駆け下りた。

 

 洞窟最深部は空洞となっていた。この先に間違いなく【メガボックス】がある。最深部の奥に佇んでいるのは、たった2名だった。

 そのうちの1名が、深く被った帽子の奥からこちらに目を向けた。

 ルシェンダはその人物に気づき、顔面蒼白となった。オーガ族は“顔面蒼白”になると、実際には顔色が薄いピンクとなる。

 「…エイドス!!なぜここにいる!!!」

 ルシェンダは聴いたこともないような大音声で呼ばわった。が、その声は明らかに震えていた。

 エイドスはこちらに向けて、わずかに会釈をし、口を開いた。

 「…ルシェンダ様。このような形でお会いすることは慚愧に堪えません。此度の事態は私の行動の帰結、もとより覚悟は出来ております」

 「どういうことだ!!!」

 

 取り乱すルシェンダを、ヒューザが制した。エイドスの後方から、微笑を浮かべたラミザが進み出て来る。

 「やっと来ましたね、大賢者ルシェンダ様とご一行様。ずいぶんとお越しが遅いので、心配していたところですよ」ラミザは語り出した。

 「【メガボックス】は、この奥にありますよ。間違いなく。プーポッパン王朝だかが作ったようですね。ドワーフの古代技術も大したものですが(例えば、盗聴器とかね)、古代文明の発明品としては、これがおそらく最高傑作でしょう。賢者エイドスの尽力で、この場所を突き止めることが出来ました。

 もちろん、プクランドからのエネルギー融通云々は、ありゃハッタリですよ。【メガボックス】が手中にあれば、全アストルティア・レンダーシアの支配は思うがままですからね。こんなアキレス腱を今まで放置していたとは、あなた方の無能さには呆れるばかりです」

 

 ルシェンダは冷静さを取り戻していた。ラミザを見据え、彼女は吐き出した。

 「…貴様、やはり天魔クァバルナではないな?」

 

 ラミザは一瞬きょとんとした後、火がついたように笑い出した。そして、ラミザに憑依している何者かの姿が、ラミザの背後に徐々に現れ始めた。

 「クァバルナ?クァバルナだと??あんな筋肉バカに私は間違えられていたのか?

 ハ、ハハハハ、この私も見くびられたものだ!何だ、ドルワームに恨みを持つものとして、奴の名前が挙がっていたのか?

 これだけの策を、あの太古の筋肉バカが立てられると思うのか?エイドスを籠絡出来ると思うのか?

 何より、このプクランド大陸に【メガボックス】があると解ったときの、私の悦びが解るか??そこにおるラグアスと勇者の盟友とやらに煮え湯を呑まされ、プクランドの連中に永遠の復讐を誓った私が誰か、まだ解らんのか?

 そういえば、フォステイルはおらんのか??あやつがここにいないのでは、私の復讐は不完全になってしまうなあ。まあ、後からゆっくり料理するとするか」

 じっと話を聴いていたプパンが、突如叫んだ。

 「魔軍師イッドか!」

 

 イッドは完全にラミザの支配から離れ、中空に姿を取っていた。爬虫類を思わせるその容姿は、以前より老獪な表情を見せていた。長い舌がチロチロと不快にうごめいている。

 「ほう、流石に勇者の盟友。貴様が最初に気づいたか」

 「風車塔の最上階に封じられてから、長かったよ。例のマデサゴーラとやらが暴れ、エネルギー結界が弱まったから、脱出出来た。マデサゴーラ様々だ」

 「ラミザに憑依し、このエイドスを引き込むのはチョイと手がかかったな。何、弱みなど探せば誰にでもある。それが解れば簡単なことだったよ」

 「一番面倒だったのはむしろ、ウラードを廃位・幽閉することだったなあ。あの娘、チリと言ったか、あいつも一緒に反抗してなあ。殺すのはたやすかったが、民衆がドルワーム王国から離反すると当面まずいのでな、その辺は、私としてもちゃんと考えているぞ?」

 「そこからは簡単だったよ。アストルティア諸国は一枚岩じゃないし、こうやってグダグダと参戦をためらっている。内戦なんぞに巻き込まれたくない本心がミエミエだ。バカなもんだよ。内戦そのものも、それによる諸国同士の離反も、当然私の狙いでなあ。揉めれば揉めるほどアストルティアは弱くなるからなあ。後で掌握するのが容易になる」

 

 一息ついて、イッドは全員を見渡した。

 「さて、何でこんなに長々と話していると思う?勝算もなしに私がこんなところで、貴様らに囲まれてただくたばると思うか?何のために、貴様らをここまでおびき寄せたと思うんだ?

 風車塔に封印されている間に、私はいろいろと新しい技を覚えてな。どれ、一つお目にかけるとしよう」

 言うなり、イッドは強烈な波動を発し始めた。

 ルシェンダを始め、全員がひるんだ。恐るべき負の思念が、脳内に流れ込んでくる。プパンは思い出していた。ああそうだ、こいつは確か“指パッチン”という技を持っていた。あのときは単なる魅了技で、『ツッコミ』さえ入れれば即座に回復していたが、今回の思念は全く強さが違う。

 何だこれは。アストルティアに対する憎しみが…イッドへの畏敬の念が…このまま眠ってしまえと言う誘惑が…いろんなものが一斉に…入り込んできて…

 そうか、この技、この魔力で、ドゥラやチャムールを始めとしたドルワームの主要な指導者達は、あるいは一兵卒に至るまで、イッドの支配下に置かれているのか、そして、このままでは俺たちも…

 イッドが不気味な笑顔を浮かべ、その手前でルシェンダ、そしてヒューザが倒れていくのが見える。リベリオは金縛りに遭ったように動かない。自分も、なんだか気持ちよくなっていく…

 

 崩れゆくプパンの後ろで、誰かが素早く動いた。

 銃声が響いた。通常の銃の鋭い音ではなく、くぐもったような音だった。

 

 瞬間、7人を覆っていた負の思念が一瞬で消え失せた。全員がイッドを見上げた。イッドは苦悶の表情を浮かべ、こちらを凝視している。全く動くことが出来ないようだ。

 見る間にイッドを黒の噴霧が多い、その全身をむしばみ始めた。アストルティアの魔族達が断末魔の際に発せられる、魔瘴だ。

 イッドは一点を見つめ、言葉を絞り出した。

 「お・・・おの・・・れ・・・・な・何だ・・・・・その・・・銃・・は・・・・こ・・この・・・・・わた・・・・わ・・・・」

 イッドは魔瘴に完全に取り込まれ、消え失せた。

 

 動きを取り戻したルシェンダ達は、イッドの目線の先を見つめた。やや不格好な形の銃を構え、青眼の姿勢で、セラフィが立ち尽くしていた。

 「その銃は…」ヒューザが尋ねる。まだ口元が麻痺しており、喋りがおぼつかない。

 「ゴーストガン。アラハギーロに現れた怨霊を撃退するための銃です。いつも持ち歩いているんです。習慣で」

 「それが効くとは…」アンルシア。

 「イッドでしたっけ、あいつの発するオーラがアラハギーロの怨霊とほぼ同じだったので、効くかなと思ったんです」

 「しかし、そなたはなぜ奴の術に取り込まれなかったのだ?」ルシェンダ。

 「多分、私が偽アラハギーロ出身だったからでしょう。こちらの世界の術や技は、我々には効かないことが結構あるので。カレヴァンがここにいたとしても、同じ行動を取ったと思います。まあ、偶然ですけど」セラフィは微笑した。

 「…全くだニャ」リベリオが立ち上がった。

 「セラフィがいなかったら、俺たち全員今頃イッドの手下ニャ。よく考えたら、実に無謀な突入だったニャ」

 「お前が言うなよ」ヒューザがつぶやいた。

 

 プパンとアンルシアは倒れている2名を助け起こした。イッドの憑依から解放されたラミザ。意識が全くない。そして、賢者エイドス。

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