ラミザが意識を取り戻すまでには、10日間を要した。彼の意識回復を待って、ルシェンダ以下主要な関係者はドルワーム水晶宮に集合した。
最初にドゥラが口を開いた。
「ドルワーム・メギストリス間の正式な休戦協定は一昨日に発効しました。ラグアス王含め一切の異存はなく、当ドルワーム王国からメギストリス王国・ガートランド王国への賠償協定についても、概ね了承を得ております。
また、チャムールに命じ、全軍の撤退を速やかに進めております。貴軍のパンカネロ大佐及び、カミハルムイ王国のキュウスケ殿が率いる部隊が、念のため側面監視についております。大陸間鉄道の再開は、遅くとも2週間以内には実現する方向で動いております。
いずれにしましても、かけがえのないプクランドの民を多数殺めたことについて、我々としてはお詫びと共にできる限りのことを…」
「しょうがないことです。今回のCW、責任はいわば双方にある。ドルワーム軍にも多数の犠牲が出ています」ラグアス王が答え、傍らに控えたフォステイルを見やった。フォステイルも重々しくうなずいた。
ドゥラは厳しい表情のまま、ニコロイ王に向き直った。
「【からくり盗聴器】の撤去は終了したのでしょうか」
「滞りなく。ディオーレ女王からも、ヴェリナード王執務室に盗聴器があったことを知らされた。内通して設置を行った人物も概ね解っている。幸い、レンダーシアやメギストリスへの設置はなかったようだが」
ニコロイは静かに答える。
「今回のお手際、見事でした。イッドに悟られないようにキュウスケ殿の隊を派遣・配置して頂いたおかげで、ドルワーム軍の撤収もスムーズに行われましたし、一部兵士の暴発を抑えることが出来ました」
「…まあ、見当違いの場所へ向かっていただけなので、ケガの功名に過ぎませんがな。そういえばルシェンダ様、なぜキュウスケの隊をザアグ洞門前にとどめ置くよう指示されたのですかな?」
「特に根拠はない。純粋なカンだ」ルシェンダがやや無愛想に答える。
「それよりも諸侯殿、エネルギー状況はどうなった?」
ガートランドを除く各国からの出席者が一様にうなずいた。エネルギーボックス残量はCW開始前のレベルにまで回復し、安定している。大陸全体にとっての最悪の事態は、どうやら免れたようだ。
一息ついて、フォステイルがドゥラに尋ねた。
「ラミザ王、じゃないか、王子のご容体は?」
「まだ意識がスッキリしないようです。イッドの憑依を受けていた間の記憶は全くないわけではなく、イッドが何をしていたかはおぼろげに理解されています。チリ様が尽きっきりで看病されています」
「ラミザ王子はどうなるのでしょう?」
「ウラード王の意向としては、国民に今回の事態を出来るだけ率直に発表した上で、ラミザ王子の王位継承権は剥奪しない方向で行くそうです。王子も被害者、と言うのが王の考えで、チリ様も賛成されています」
「ウラード王もチリ王女も大変ね。数ヶ月にわたり幽閉されていたのに」とアンルシア。
そのままアンルシアは正面に座ったルシェンダの顔を見つめ、やや遠慮がちに尋ねた。
「…エイドス様は?」
ルシェンダは、無愛想な面を崩さずに答えた。
「グランゼドーラ地下に禁固した。致し方ない。いかに娘を人質に取られていたとは言え、此度イッドに荷担し、多くの犠牲を生んでしまった罪人だからな。とは言え、死罪とまでは行かないよう、グランゼドーラの王政典範にも照らし合わせ、最適な処分を考えていくつもりだ」
「エイドス様も、イッドの術中に捉えられていたのですか?」
「…よく解らん。元々彼は、ドワチャッカ大陸の古代文明に対しかなりの愛着を持っていた。そういうところをイッドにつけ込まれたのかもしれん。彼の変調に気づくチャンスは、いくらでもあったはずだが、情けない」
【叡智の冠】からイッドへの内通者を出してしまったことに、ルシェンダは深い悔恨を覚えているようだった。あの日以来、ずっと元気がない。アンルシアがブロッゲンに聞いてみたところ、賢者会議もその後全く開かれていないようだ。
しばしの沈黙を破るかのように、ヒューザが口を開いた。
「で、例の【メガボックス】とやらはどうなっているんだ?調査は進んでいるのか?」
「専門家を派遣しておる。今回【メガボックス】の位置を看破した、ヒストリカ博士だ。プパンにも同行してもらっている。最も、正確な第一発見者はリベリオ殿だと思うがな」
ルシェンダの発言に、リベリオは得意満面の面持ちで胸を張った。単純な奴だ、とばかりにヒューザが苦笑いしている。
ルシェンダもこの日初めて、微笑を見せた。