アストルティア戦記2550   作:しろたく

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5.ヴェリナード

 ヴェリナード魔法戦士部隊は、王宮棟2階の詰め所に集合していた。新任戦士たちに対する講義が始まっている。講師を務めるユナティ副団長は、前列にいた戦士に尋ねた。

 「今回のアストルティア内戦、通称【CW(シヴィル・ウォー)】の発端を語りなさい」

 戦士は起立して答え始めた。

 「はい。CWの発端は、マデサゴーラ危機によって明らかになった偽レンダーシアの存在です。マデサゴーラは『偽レンダーシアは自分が作り出した並行世界だ』と豪語していました。そのエネルギー源が、アストルティアのエネルギーボックスなのではないかと言う推測が出るのは、当然のことでした。実際、本大陸と偽レンダーシアとの行き来が活発となった時期において、エネルギーボックスの消費スピードは従来の30%増となっています」

 「エネルギーボックスとは何か、説明しなさい」ユナティが促す。

 「はい。エネルギーボックスは、アストルティア・レンダーシア大陸全体のエネルギーを統括する機構です。太古よりマナと呼ばれてきた自然エネルギーを、回収・濃縮します。各大陸におのおの一つが設置され、主要王国最深部において厳重な警護の元に管理されています。魔法職が用いる魔力・ルーラストーン・魔導系武器への供給エネルギーは全てエネルギーボックスが源泉となっている、とされてきました」

 

 ユナティはわずかに眉をしかめた。

 「されてきた、とは?何か違うの?」

 戦士はたじろいだが、話を続けた。

 「…すみません。これは私が元いた隊で噂になっていたのですが、エネルギーボックス全体にエネルギーを供給する上位機構【メガボックス】というものがあるらしいと聞きまして」

 「その噂は確かにかなり広まっているわね。しかし…ええとあなた名前は?」

 「クインディです」

 「戦士クインディ。この場では確実な情報のみを話しなさい。【メガボックス】とは真偽不明の単なる噂。いいわね?」ユナティはクインディの真正面に立ち、多くの将軍たちを震え上がらせてきた眼光で、その目をまっすぐ見つめた。

 

 「失礼しました!」クインディは明らかな失言を悟り、額にうっすらと汗を浮かべている。彼を必要以上に責める必要はない。ユナティは、自ら説明を続けた。

 「マデサゴーラ危機終了から半年後、急遽即位したドルワーム王国のラミザ王子、じゃなくてラミザ新王が行動を起こした。それがCWの直接的発端ね。ラミザ新王は即位後、メギストリス王ラグアスに対し、プクランド大陸からドワチャッカ大陸へのエネルギー融通を求めた。

 エネルギーボックスの大陸間エネルギー融通は、全大陸級の危機など本当の緊急時にしか認められていない。だけどラミザは、マデサゴーラ危機によって最も被害を被ったのはドワチャッカ大陸で、復興を進めるためには被害の少なかったプクランドがエネルギーを供給すべきだと主張し始めた」

 一息ついて、ユナティはゆっくりと話を続ける。

 「ラグアス王は温厚な方だから、宰相フォステイルとも協議をしてある程度の妥協点を探ろうとした。だけどドルワーム側は一切譲歩せず、プクランド大陸との断交及び交通遮断を宣言した。この間たったの3週間」

 「そんなに急な話だったのですか」クインディは先ほど叱責されたことも忘れ、ユナティに尋ねた。

 「そう。最終交渉の2日後には、両大陸間の鉄道が封鎖された。その後の状況は、貴方たちも知っているとおり」

 一同はユナティを見つめた。

 

 「さあ、基本情報はこの辺りにしておきましょう。現戦局は従前のブリーフィングの通り。ドルワーム機甲旅団はザグバン丘陵南に展開していて、この後おそらく鉄道陸橋及び船舶の複数ルートで、プクランド大陸北部への上陸を図るでしょう。

 上記を踏まえ、ヴェリナード王立魔法戦士団として、これより我らが取るべき作戦行動をこれから…」

 

 詰め所の扉がいきなり開いた。

 「ユナティ!」

 「オーディス王子、どうしたのですか?」ユナティはオーディスの青白い顔を見つめた。いや、ウェディはそもそも肌の色が青白い種族だが、今日のオーディスの顔には青みがなく、ほとんど蒼白に見える。

 「第2海兵師団より連絡があった。船舶3隻が無許可でジュレー島より出航した。ディオーレ級巡洋艦まで引き連れてだ。つい30分前の話だ。何か情報はあるか?」

 ユナティは無言で部屋を飛び出し、半円形廊下向かいにある小部屋へ一目散に駆け込んだ。オーディス王子に対する非礼など完全に消し飛んでいた。部屋には案の定、誰もいない。

 

 「…ヒューザ!」

 ユナティは唇をかんだ。

 こんな行動が取れるのは、ヒューザしかいない。

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