ミュルエル方面の防衛隊がほぼグレイアウト(撤収)したことを確認し、パンカネロは一旦銀の丘方面へ全軍を集結させた。
前衛ではドルワーム斥候部隊と小競り合いを演じてきたが、ひたすらモグラ叩きに近い行動を強いられ、兵員の損耗が強まっていた。一つルーラストーンを置かれてしまうと、敵の後続部隊が一気に上陸してくるのである。
十分に時間稼ぎを行った後に退却に成功したものの、結局ルーラストーンを置かれ、ドルワーム軍の移動は始まっていた。
銀の丘で待機すること30分、ようやく援軍が到着し始めた。莫大なエネルギーを使うルーラストーンの使用は、移動人数を含め厳しく規制されており、部隊を移動させるにはかなりの時間を要する。
ハパリーパは、風車塔と前線との間を忙しく駆け回っていた。少しの合間を見て、彼はパンカネロの元に報告に走った。
「…今のところ、配置可能な兵数は2,500です。長弓部隊500を含みますが、彼らの到着は少し遅れます。水際の攻防で多少の損耗が出ておりますし、それ以上に兵士の心理的圧迫感が大きいです」
「うむ」
「ラグアス王から緊急増援の旨、連絡を受けました。ガートランド・パラディン部隊の到着の目処が立ったようです。おそらく一両日中には合流可能かと。とは言え、敵の侵攻スピードを見るとかなりギリギリの線ですが…」
「そうか。他には?」
「魔法使い部隊は、今のところ確実に確保可能な兵数が900。バイシオンまで習得したデュピティ部隊を動員する予定ですが、そちらを入れても1,500と言うのが上限です」
パンカネロは眉をしかめ、暫く考え込んだ。ハパリーパはよく訓練された軍人らしく、上官の言葉をじっと待っている。
やはり、魔法使い部隊の数が少なすぎる。恐れていた事態となった。
ドワーフ前衛の斧部隊は、アストルティア屈指と言われる精鋭部隊だ。並みの装甲と攻撃力では刃が立たない。よって、プクリポの前衛兵に対しいかに途切れなくバイキルトをかけ続けられるかが、戦闘の合否を分ける。
しかしドルワーム軍は、中衛~後衛位置に分厚い賢者部隊を揃えてくるだろう。十分な魔法使い部隊を確保出来ない場合、バイキルトは賢者の『零の洗礼』によって即座に無効化されてしまう。今の戦力では、バイシオン部隊を含めても前衛強化が追いつかない。
本来、一時休戦中に魔法使い部隊を増援し、ガートランドの協力を取り付けた上で恒久和平に向けた抑止力とするはずだったのだ。しかしドルワーム軍の侵攻は、想定を遙かに超えるスピードだった。
パンカネロは、ようやく重い口を開いた。
「…プランBで行く。やむを得ない。この戦線を押し切られると、次の戦線はメギストリス周辺にまで下がる。ラグアス陛下をこれ以上の危険にさらすわけにはいかん」
ハパリーパは、指示の意味を暫くかみしめていた。その上で、小さくうなずいた。
「明朝までに到着した兵力を用いて、一次戦線を構築してくれ。現在の進行速度で行くと、敵の上陸は当面多くても一旅団の6割、2,000程度だろう。ここをまず最小の損害で切り抜ける必要がある。銀の丘戦線の死守が第一目的だ。増援まで持ちこたえれば、戦況は確実に好転する」
「解りました」
ハパリーパは再び忙しく駆けていった。
半ば無意識に、パンカネロはエネルギー残量をチェックした。31%。ルーラを急激にかけたおかげで、大きく減少している。
いつまでこの戦いを続けるのだろう?ドルワーム軍も同様のペースでボックスエネルギーを消費しているはずだ。双方のエネルギーが枯渇したら、戦争どころではなくなるではないか。
頭の中で100回は繰り返した疑問を、パンカネロは口にした。
「何がしたいんだ、ラミザは?」