ドラゴンとの邂逅から3日。
彼の残した言葉、息子だの義弟だの。つつけば鬼しか出てこないことは分かりきっているため、最強の手段として、忘却の彼方に葬り去った。
と言うよりも、サボをすぐに探さなければならなかったため、忘れざるを得なかった。この3日間、シーカーは諦めること無くサボを探していた。
天竜人は翌日には帰ったため、活動範囲をすぐに広げられた。せめて何か手がかりがないかと、朝から晩まで海に潜る。既にナミが教えてくれた箇所は探し尽し、より広範囲を探した。
見聞色を最大に使い、微弱な気配すらも見逃さぬようにしながら、王国の海域全てを覆う範囲を探したが、結局体すらも見つからなかった。
天竜人が帰る数時間前、エースは怒りをぶつける対象を失い、暴れまくっていたところをダダンに捕まり、まだ木に縛り付けられているらしい。
ルフィは、本当にサボが死んでしまった事を突きつけられ、ほとんど泣きっぱなし。心配したナミが傍にいるが、立ち直るのがいつになるかは、わからない。
そして、今日も探しに行こうとしたシーカーを止めたのは、マキノから連絡を受けて休暇をとって来たガープだった。
店のカウンター席に2人で並び、そのままガープは諭すように語りかける。
「お前自身、もうわかっとるんじゃろう……サボは、もう死んだ。72時間……人間が飲まず食わずで生き残れる限界じゃ、ましてや海なら半分以下になるじゃろう。」
ガープの言葉は、至極真っ当だ。シーカーも理解はしている、それでも少しでも希望があるなら、縋りたかった。
「わかってるよ……もう、サボは死んじまった……そうだろ。」
「そうじゃ。」
暫くの沈黙の後、頭を抱えながらシーカーは怒りを滲ませながら拳を握った。
「……天竜人ってのはなんなんだ…!今の世を作った?バカバカしい…先祖の功績に永遠に股がってるゴミ共だ…!!俺が守りたいものを尽く奪って行きやがる…!」
「………」
継がれた言葉は、いつだったか。強く聡い息子が見せた、数少ない弱音だった。
「教えてくれ父さん……俺は、何も守りたいと思っちゃいけねぇのか…このままだと俺は…ルフィも、エースも……マキノも失くしちまうんじゃねぇか…!!」
「………」
「…俺は…弟1人も、守ってやれなかった…!」
それは、後悔の吐露。ルフィにも、エースにも、マキノにさえ吐き出すことができなかった言葉を、ガープに吐き出した。
誰にも弱音を吐けなかったシーカーの初めての弱音を受けて、次にでる言葉を読んでいたガープは立ち上がった。
「……マキノを連れて来い。先に行っとるから、探してそこに来い。」
「…マキノも…?」
「まぁ、楽しみにしとれ。」
その気配は、いつもの傍若無人な姿とは全く違っていて。あの時、シーカーを止めた、なにか決意をした目をしていた。
何かを察したシーカーは、黙ってマキノを連れて数キロ離れた場所の無人島まで向かった。
そこは岩山と森しかない、広い無人島。
「おぉ、来たようじゃな。」
大柄のジャケットを脱ぎ捨て、ガープが拳をパキパキッと鳴らした。
その瞬間、シーカーは拳を向けられるマキノの
背筋が凍るような思いを振り払い、ガープを睨んだ。
「…見えたようじゃな。」
「なんのつもりだ、親父。」
「シーカー…なにがあったの?」
「マキノ……そこを動くな。あの爺、とうとうイカれちまった…!」
剣呑な顔つきのまま、マキノを背に隠したシーカーは、槍と盾を油断なく構えた。
シーカーの見た未来は、確実な戦闘。見ていなければ、マキノを庇い重症を負っていただろう。
それもそのはず。シーカーとてこの世界では強者の列に連なる男ではあるが、目の前の70間近の爺さんは、その列の最前列付近に鎮座している。
白髪混じりの黒髪を、ガープはボリボリと掻きむしって、また笑う。
「おう、マキノ!悪いのぅ、ウチのバカ息子の問題に巻き込んでしもうて!」
そう反省の色なく謝ったガープに、黙っていたマキノが数秒考えてから、口を開いた。
「……これがシーカーに必要なことなら、私は付き合いますよ。」
「おい、マキノ!?」
「ブワッハッハッ!!本当に、いい女になったもんじゃ!!お前には勿体ない!」
「っせぇ!黙ってろジジイ!!」
「マキノはワシも小さい頃から知っとる!最早孫娘のような存在!守り切れねぇだのとほざき折れるようなら、ここでワシの愛の拳の錆にしてくれる!それにお前も、こっちのが本気を出せるじゃろう!」
「な、なんつー無茶苦茶な…!?倫理観どうなってんだあの爺!!?」
「まぁ、ガープさんらしいわね。」
「おいマキノ、今あの爺に殺されかけてるんだぞ?もう少し反論とかしろ?」
呑気なマキノに口を出すシーカーだが、そのすぐ後に黙らされた。
「そんなこと言って聞くようなガープさんなら、苦労しないわよ?それに、アナタは結局立ち上がってくれるもの。」
ニッコリと笑ったマキノは、いつも通りの笑顔と雰囲気で、この場に居た。
つくづく肝の据わった女だと思ったシーカーは、ガープと同じように頭を搔いて、大きくため息を吐き出した。
「ここまで本気な父さんを見るのはいつぶりだ……!?」
「何を言うとる。ワシらはどんな時でも、こうして
これは、ガープなりの慰めか、不器用な爺のお節介とも言える。と言うよりも、ガープはこれしか知らないのだ。なにかに悩み、弱音を吐く息子のマトモな慰め方など、この野蛮人が知っているはずがなかった。
『守れねぇと弱音を吐くのなら、より強くなれ。その手伝いは、ワシがしてやる。そら、訓練だ!!』
そうだ、教わったはずだ。迷ったのなら動け、より強く、願う全てを守れるように。
過去、偉大な
薄く過去を思い出し笑ったシーカーは、パシン!と頬を張って、自身の目の前の地面を薙ぎ払い1本の線を引いた。
「この線は文字通り俺の生命線。もし!親父がここを通ったなら……すまん、一緒に死んでくれ!!」
「うん、わかったわ……ふふっ、最低のプロポーズね、やり直しよ?」
「どっちみちやり直しだったろう?終わったら、だな!」
どの道、ガープは結構本気だ。ここでシーカーが折れるようなことがあれば、殺すかは分からないが、間違いなく死ぬ程殴っては来る。そうなれば、マキノはどっちみち後を追って来る。
そうなって溜まるかと、シーカーは腰を落とし、ガープに集中した。
「お前のためにも、可愛い弟達のためにも……死ぬつもりはねぇ!」
「えぇ…行ってらっしゃい、シーカー」
その言葉を背に受けて、シーカーは1歩引いた線から前に進み、槍の切っ先をガープに向けた。
「父さん、俺の迷いと怒りを、どうか受け止めてくれ。」
ガープはニッと笑って、拳に覇気を纏う。
「我が息子よ……愛ある拳、久々に食らって行けいっ!!」
周囲の木々を吹っ飛ばす程の踏み込みから、一気に接近。
黒々と覇気によって輝く拳を、シーカーは盾で受け止める。
瞬間、ガープの背後の地形が吹き飛び、更地となった。
「────やりおる…!覇気の精度はむしろ上がっとるな!」
「そっちこそ…衰えるどころか、どんどん強くなってねぇか?いつまで現役でいるつもりだ。」
「ブワッハハハハ!!目指せ生涯現役じゃ!!」
それからも、豪快な笑い声と共に降り注ぐ最強のゲンコツの雨を、シーカーは盾で受け続ける。
「っぐ…!おッ、らあああぁぁぁ!!!!」
拳の雨を受けながら前に突進。吹き飛ばすようにシールドバッシュをガープに叩きつければ、真正面から激突したガープと拮抗。そのタイミングで、全力の覇気で弾き飛ばした。
「ぬぅ…!?やはり、厄介じゃな…お主の覇気…!」
「守ることに関しちゃ一家言あるんでね!親父みたいなフィジカル一辺倒なヤツには相性がいい!!」
「小癪なぁ…!ぬぅりぁあああッ!!」
「そらぁッ!!」
槍と拳が激突すればバリバリッと音を響かせ稲妻が迸る。それは、互いの覇気の強さを物語っている。
しかし、2人の実力はイーブンではない。確かに、シーカーの覇気も常軌を逸したものではあるのだが、覇気の強さで言うのなら、ガープに圧倒的な軍配が上がる。老いたとは言え、未だ英雄と名高いガープは、シーカーとの日々の喧嘩により、衰える力はより緩やかになっている。
では、何故拮抗できるのか。
「ワシも老いたとは言えど、拮抗されるか!相変わらず覇気の使い方が上手い!!コントロールならばワシの上か!その異常な見聞色……初めの頃は制御に苦労しとったのを思い出す…!!今や完全に掌握し、面白い使い方まで編み出しおった!」
そう、シーカーの強さは見聞色の強さにある。シーカーは見聞色を装備に
「ぶん殴るだけの父さんと一緒にするなよ、俺は技巧派なんだ、よっ!【
「むッ!?」
拮抗した拳を、一瞬の緩みを利用し、流れるように軌道をそらし、ガープの土手っ腹に弾けるような音と共に蹴りを叩き込む。
シーカーの戦闘は主に超接近戦。そのなかで、体術は必須とも言える課題だった。両手がふさがった状態で、更なる攻撃手段として編み出した、シーカーの第2の槍とも言える突き蹴り。
大佐だった当時ですら、中将含め10本の指に入る程の速度を誇った剃の応用。
単純に剃の速度で蹴り飛ばしているだけなのだが、単純故に隙がなく、そこに覇気が乗れば内部までを破壊し、必殺となる。
覇気で防いだガープを数メートル後退させ、また距離が空いた。
「くぅ〜…なかなか効く!!」
「なんだよ、手ぇ抜いてくれてんのか?」
「生意気なぁッ!まだまだこれからじゃっ!!」
ギアが1段階上がったことを理解したシーカーは出し惜しみはしないと、槍に武装色と見聞色を纏い、本領を発揮する。
「ぬんりゃあぁぁぁぁッ!!」
雄叫びと共に地面に右腕を突っ込んだガープは、そのまま隆々な筋肉を更に肥大させ、地面を引っこ抜いた。
その大きさは、巨人族の数十倍はあろうかというほぼ大地を引っこ抜いたガープは、それを右腕だけで持ち上げた。
「ハハッ、相変わらずデタラメ!」
「行くぞッ、シーカーッ!!これを防げるかぁ!?」
「攻撃には、必ず欠点となる『点穴』がある!俺の前で、完璧な攻撃なんざ存在しねぇ!!」
手を突っ込んだ岩山を武装色で纏い、そのまま猛スピードで突っ込んできた。
力、覇気には欠点となる穴が存在する。シーカーはそれを点穴と呼んでいる。
本来、武装色には同等の武装色でしか対抗ができない。これほどの岩山を覆い尽くす武装色、シーカーは持ち合わせていない。
だが、シーカーの白く輝く槍は、混ざり合う二色の覇気によって相手の覇気を乱し、攻撃した箇所の点穴を強制的に暴き弱点にする。
「【
覇気を外側に一気に放出し、槍の攻撃力のみを追求したこの技は、2年前にシャンクスに放った時よりも、明らかに強い。
激突した白槍と黒い岩山は、拮抗することも無く砕け、吹き飛ばされた。
「────やりおるわ!!」
「まだまだッ!【
「ぬぅりゃぁああぁぁぁ!!!」
シーカーは跳び上がり、空を蹴り抜いて真上からの強襲と共に、白槍を上段から振り下ろした。
「そらッ!!隙ありじゃ!!」
「んな隙与えるかよ!!」
覇気による波動が激突し、再び稲妻を生み出した。
「やはり堅いな!!海軍支給の安モンのパルチザンを、大業物レベルに引き上げただけはある!」
「【白槍】は伊達じゃねぇって事だ!」
「そのようじゃ……じゃが、まだまだ甘いわァ!!」
「───ぐがぁッ!!?」
一気に膨れ上がった覇気が爆発し、シーカーを吹き飛ばす。何とか姿勢を整え槍を地面に突き刺すことで持ち直すが、シーカーの鼻からツーっと血が滴った。
「クソッ…外に纏う覇気か、たしか流桜だったか?」
「あぁ、ワノ国じゃそんな呼び方をするらしい。」
「随分珍しいじゃないか…それだけ、本気ってことか?」
纏う覇気の応用、外に纏う事で覇気を体に直接流し込み、内部を破壊することに特化した覇気。遠いワノ国ではこれを流桜と呼ぶ。
ガープはあまり好んで使わないこの技術は、覇気を纏うよりもずっと高度なものだ。
これを習得すれば、触れずに敵を破壊する事もできるようになる。
この応用は内部への破壊。故にシーカーの覇気を貫通することが出来る唯一の手段。
「お前に攻撃を通すなら、これしかあるめぇよ。」
「ハッ!明確な弱点を、俺が対策してねぇわけねぇだろ!」
「さぁどんどん行くぞ!!」
再び地を蹴ったガープは、空中に飛び上がり、先のシーカーのように真上からゲンコツの雨をばら撒きながら空を蹴った。
「ほりゃほりゃほりゃ!!【拳骨流星群 全部拳バージョン】じゃ!!」
「ただのラッシュだろそれ!!?」
戦闘中も無茶苦茶な父に呆れながら、シーカーは白槍を一瞬で解除し、盾に覇気を集中させた。
「甘いわぁ!!!」
「ガァッ!?こんのクソ……!!」
「逃すかぁ!!!」
「っしゃらくせぇ!!!」
全力の覇気で弾くつもりだったシーカーの鉄壁の防御を強行突破した拳が脳天に突き刺さり、地面に叩きつけられる。
しかし、すぐに体勢を立て直し、マキノの前に戻りどっしりと構え、続けざまの拳を気合で弾き返す。
どろっ、と切れた額から血が流れた。
その血を拭って、改めてガープの異常な強さを認識する。
怪我をしたのは、2年前のカタクリ戦以来だ。
後ろにいる守る存在を感じながら、シーカーはまた盾を構える。
しかし、シーカーの心境を知らぬマキノに、迷いが生まれた。
「シーカー……私─────」
「頼む、そこにいてくれ……そうじゃなきゃ俺は、二度と戦えねぇ。」
シーカーは、攻撃の余波からマキノを守る為に意識と力を過分に割いている。
超高速の戦闘は何が起きているのか分からないが、自分が邪魔なことくらいは理解している。自分が立っている後ろはなんの被害がないのが証拠だ。本当に、この場には自分が必要なのか───────本当に、彼の人生に自分は必要なのか。
しかし、その考えを見透かすように、ガープは耳に小指を突っ込んでほじりながら口を開く。
「馬鹿じゃなぁマキノ。お前さんがいるから、シーカーはまだ立ってられるんじゃ。」
「え…?」
「……余計なお世話だぜ、父さん。」
この場にマキノがいなければシーカーは既に地に伏していただろう。
この戦い自体がシーカーの失意と、挫折しかけた心を、マキノを守らせることでその自信を取り戻させ、なおかつ修行もつけているという感覚だ。
ガープがそこまで考えているかは分からないが、シーカーはそう認識している。
しばらく考えたガープは、重々しく口を開いた。
「……ワシから言うのは初めてじゃが…お前、やはり海軍に戻らんか。もちろん、天竜人の仕事なんぞ受けさせやせんし、ワシから上に掛け合う。お前の力を腐らせるには、ここはぬる過ぎる。」
初めて、ガープに戻ってこいと言われたシーカーは驚いたように目を見開いてから、切れ長の目を柔く細め、首を横に振った。
「……父さん、俺の正義…覚えてるか。」
「【盾となる正義】息子の信念じゃ、忘れるはずがありゃせん。」
「…嬉しいよ、誰かがそれを覚えててくれるだけで……けど、あの日あの場所で。俺の正義は砕けた。もう俺は、
「それで…賞金稼ぎの真似事をするか?海軍にお前がいれば、大海賊時代を終わらせる鍵となるじゃろう。」
「そこからだ。そこから、海軍は間違っていた。」
そう、シーカーは常々思っていた。
「大海賊時代の始まり……それは海軍の失態。そもそも何故……求めるだけで罪になる…そりゃそうだよな?ワンピースを手に入れるには……この世界の過去を紐解かなきゃならねぇ!」
10年以上前、歴史を追い求めた学者たちが、島ごと燃やされた。海軍に入ってからも、他に学者を捕らえたことはあったが、当時何故それが悪なのかは分からなかった。
だが、今になってわかった。
『ワンピースを目指すにゃ、歴史を紐解かなきゃいけねぇらしい。まったく、困ったもんだぜ。』
いつだったか、赤髪の船長が酔ってボヤいたのを思い出した。
「海軍が、じゃないんだろ?もっと上が……何かを隠したがってるようにしか思えねぇ…!」
「………ギネス、お前……!」
「つまりだ…本当なんだろう…?
海賊王の元クルーが言ったように。アレを手に入れれば、必ず世界は変わる。
「海軍じゃ…変えられねぇ!裏側に血塗れた誰かがいる偽りの平和を……俺は平和とは呼ばねぇ!だから、砕けた俺は
「そうか、お主のその名……なんという皮肉か…」
「アイツがきっとこの世界をひっくり返して、本当の平和が訪れる!そう約束してくれたから!!」
彼の名は、皮肉と、嫌悪。そして希望が複雑に混じった彼の願望に他ならなかった。
「犠牲の伴わぬ正義などありはせん!!」
「俺のこれは理想論でしかない…わかってる!所詮折れた男の戯言でしかねぇ!けどな!誰かの幸福の下に広がる血みどろの世界は何よりも醜い!!」
「流れる血が少ないのならば、それを正義と呼ぶしかあるめぇ!」
「俺の
「─────ッ!!」
だって俺の義弟は、血の繋がった家族といても、幸せじゃなかったんだから。
「だから俺は見限った!!俺の正義を砕いた
「誰もが笑って暮らせる世界を作るのが海軍の仕事だろうが!!それを叶えようともしないで─────正義を語んじゃねぇッ!!!」
その言葉はガープにとって、どれ程苦しいものだっただろうか。
思えば、こうなることも宿命だったのかもしれない。
握った拳は、今日で1番弱々しいものだった。
『俺は、助けを求める人の盾になりたい。決まったよ、俺の正義が!』
己の正義を見つけた息子を、眩しそうに眺めた。
『ごめん…っ……ごめん、なさいっ!……俺がっ…守れなぐてッ…!!』
訓練所をぶっ壊すまで暴れた息子を止めたガープの腕は、弱々しく垂れ下がった。
なぜ、なぜいつもこうなるのだろうか。
思えば、奴もそうだった。
だが、若さ故に────いいや、誰よりも平和を願うからこそ、正義を捨てられた男達が、羨ましくて、眩しかった。
けれど、海軍中将ガープとして、それは許せるものではなかった。
「……ワシらは平行線じゃ。」
「俺は……このまんまじゃ終われねぇ。」
「ならば次の一撃……正真正銘の本気で行くぞ。」
大気が震える。ただの1人の人間が放つ覇気が、地を揺らす。
だが、目の前にいるのはただの老人ではない。
今を生きる伝説。正真正銘の英雄なのだから。
「耐えれば貴様の勝ち…耐えられねば……海軍に戻ってもらうぞ!!耐えて見せいッ……
今日1番の覇気は、先の攻撃がお遊びだったとわかる程に異常な強さを誇る。
間違いなく、次が最後の一撃。体力的に見ても、自分の全力を出せるのは一撃だけだろう。
「傍に、来てくれ。」
「……うん。」
そっと背中に寄り添ったマキノの熱を感じて、シーカーは薄らと笑う。
「……俺は、お前の隣にいたい。」
「私も……けど……」
「だから信じてくれ…俺に、お前を守らせてくれ!!」
「……っ…うん!」
シーカーの覚悟と、想いを垣間見たマキノは、いつものように笑って背中を押した。
何よりも守りたいものに背中を押され、シーカーは迷いを捨てた。ならば自分は、何よりも強くなれる。
「─────勝って、シーカーっ!!」
「当たり前だッ!!!」
願いを叫んだマキノの言葉をしっかりと噛み締めて、シーカーはニッ!と笑って見せた。
相手は間違いなく身近にいる最強。ならば、こちらはその最強を穿つしかない。
だが、王では足りない。目の前に立つのは、正真正銘の英雄。
シーカーにとって、神にも等しい存在。ならばこの一撃を、神を撃ち落とす一槍に。
思えばシーカーの敵は、初めから神なのだから。
今までのどの場面よりも、覇気が研ぎ澄まされた。沈んでいくような意識の中、自らの奥底に眠る、膨大な
覚醒の雄叫びのように、シーカーの覇気が空気を揺する。
(……まだ、覚醒前じゃったか…!!?)
マキノを守っていた覇気を、次の一撃に全て篭める。意識の底に沈む覇気を叩き起し、正真正銘の全力を。
より白く、輝く槍を手に、シーカーは最強と相対した。
「行くぞ!!シーカーッ!!」
「来い!!ガープッ!!」
飛び上がったガープは、シーカーの真上から直線上に猛スピードで降下する。
その拳は、
「【
間合いに入った瞬間、シーカーがグッと沈み、弾けるように真上に解き放たれた。
この一撃は、いつか神を堕とす。
「【
白槍が銀河と衝突し爆発する。
一瞬で巨大なクレーターを作った爆発に、ただマキノはシーカーの体にしがみついて吹き飛ばされないようにするので必死だった。
爆風が島を駆け巡って数十秒。ようやく爆風が収まり、爆煙も晴れた。島はほぼ全壊。既にシーカーがたっていた半径数十メートル以外にはマトモな足場など無くなっていた。
しかしそこには、ボロボロのシーカーが、槍を突き上げ立っていた。
肩で息をするシーカーとは反対に、ガープは少し息を荒くするくらいだったが
シーカーとぶつかったその拳は、血に濡れていた。
「……老いたもんじゃ。ワシの拳が砕けおった…こりゃあ、しばらく使い物にならんなぁ!」
「はぁ…はぁ…コッチは、満身創痍だ…!」
「ブワッハッハッ!!まだまだじゃなぁ……だが!この勝負……お前さんの勝ちじゃ、シーカー。」
「ハハッ……初めてだ…父さんから、1本…とったの……─────」
「シーカー!!」
ガープの言葉を聞いて、全身の力が抜けたシーカーは、マキノに支えられながら崩れ落ちた。
「だはぁーっ!…っキツすぎる……あぁもう…泣くなよ……勝ったぞ……勝負には負けたがな。」
本当は、わかっている。この戦いに、本当は別の意味があっただなんてのは。けれど、今は全てがどうでもよかった。
「うん…っ!!流石、私のシーカー…っ!」
抱き合う2人を眺めながら、ガープはニンマリと笑った。これは、孫を見るのが早そうだと思いながら空を見ていると、カモメ─────ニュースクーが手紙をガープに渡した。
誰宛かと宛名を見れば驚きながら、ガープは手紙を投げる。
「お二人さん!!邪魔して悪いが、手紙が届いた!」
「手紙?誰か、ら───────嘘、だろ……!?」
「……っこれ!」
それは、サボからの手紙だった。
『兄貴、姉貴へ』
と書かれた便箋を慌てながら開くと、丁寧な字でサボの言葉が綴られていた。
『シーカー、マキノへ。
この手紙が届いてる頃には、俺はもう海に出ていると思う。色々あって、船出の時に挨拶も出来なくて、本当にごめん。行先は、この国じゃないどこか。シーカーに教わった強さで、マキノに教わった優しさで、最高の海賊になって、また会いに来るよ。』
それは、果たして海賊なのだろうかと苦笑した2人は、それでもサボらしいと笑う。
『2人には、本当に世話になった。マキノにはメシとか服とか常識とか…シーカーからは、誰にも負けない強さを。けど、俺は心配だ。シーカー!迷ってたプロポーズの言葉、考えたか?マキノ!掃除の時に見つけちまった指輪、ちゃんと隠せたのか?それだけが心配だったんだ。』
「知ってたのかよマキノ…!?」
「うんっ…知ってたわ…けど、野暮でしょう?」
「そりゃそうだな…」
『書きたいことは沢山あるけど、とにかくエースとルフィを頼む。2人にしか頼めねぇ。ダダンにもありがとうって言っておいてくれ。』
サボがいた日々が、ポツポツと2人の脳裏を過ぎていく。
何も知らない子供たちに、言葉使いや常識を教えた。
無鉄砲な馬鹿どもに、戦い方を教えた。
無関心な彼らに、女の子の扱い方を教えた。
海賊を目指す少年たちに、過酷な場所での生き方を教えた。
本当に、どれもが楽しい日々だった。
そんな2人の文字を読む視界が、酷くぼやけた。
『最後に───────2人が、俺たちの兄貴と姉貴で本当に良かった。どうか、誰よりも幸せになってくれ!俺は、2人の幸せを願ってる。また、どこかで会おう!』
二人が彼に願った事を、彼もまた二人のために願っていたのだ。
「…ッ……サボッ…っ!!」
「サボ君っ…うぐっ…ひぐっ……!!」
ぽと、ポトッと手紙に雫が落ちてじんわりと染み込む。
サボの訃報から、エースとルフィの前で、シーカーは絶対に泣くまいとしていた。けれど、その緊張が解けた今、シーカーは初めて泣いた。
「サボ、くんッ……っ…さぼぉっ…ぐっ……!!」
ボロボロと泣くマキノを胸に抱いて、シーカーも涙を流しながら、弟の最後の願いを叶える為に、いえなかった言葉を紡いだ。
「マキノっ……幸せに、なろうっ…!俺たち…っあいつのっ…最後の、願いだがらっ…!!」
「うんっ……うんっ……!!」
少し離れたシーカーは、マキノの目を見てストレートに告げた。考えた言葉なんて、今はただ無粋にしかならないから。
「結婚、しよう…」
「……っ…はい……」
思い描いた理想じゃなかったけれど、弟の願いと、2人の願いは同じだったのだから、過程が違うに過ぎない。
これで、良かったのだ。
二人共が泣きじゃくり、互いに抱き合う。絶対に幸せになろうと、そう心に決めた2人は、もうきっと前に進める。
迷うこともあるだろう、壁にぶつかることもあるだろう。だが、この2人ならば、きっと歩幅を揃えて、仲良く進んでいく。
そう思ったガープは、見た事がないほどに、柔らかく笑った。
「なんじゃまったく……まだまだ、子供じゃな、お前たちは。」
グズグズと泣く2人の傍に寄り添ったガープは、暑苦しいほどに逞しい腕で、めいっぱい2人を抱きしめた。
その安心出来る温もりが、余計に2人の涙を誘った。
ガープは、濡れる胸元を気にもせず、強く、強く抱き締めた。
2人の悲しみの涙が、これから先ずっと、枯れることを願って。
2人目のヒロインいる?
-
いる
-
いらない