ピースシーカー   作:イベリ

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第17話:最悪の後

ガシャン!と物が倒れる音を聞いて、扉が勢いよく開けられる。

 

「───────マキノ!起きたか!」

 

「……お義父、さん………」

 

虚ろな瞳で自分を見つめる、先月晴れて義娘となったマキノの姿に、義父───────ガープは目を見張った。

 

いつもシーカーの隣で心のそこから幸せそうに微笑んでいた彼女は消え失せた。

絶望を瞳に宿したその姿が、恐ろしい程に儚かった。

 

「嫌な予感がして魚人島に向かって良かったわい!もう大丈夫じゃ、しかし血を流しすぎじゃ、安静にしとれ、何か欲しいものは───────」

 

「───────なんで……生きてるんですか……?」

 

ピタッと、ガープの動きが止まった。

 

「…シーカー……シーカーは……?」

 

「……隣じゃ。」

 

恐る恐る隣を見ると、大量の管に繋がれたシーカーが変わり果てた姿で未だ死の淵をさまよっていた。

 

「血を流しすぎた……じゃが、安心しろ!すぐに目覚める!」

 

小さな、嘘をついた。

 

何があったかは聞いた、酷な事はわかっている。けれど、ここで慰め程度の嘘を吐かなければ心が先に倒れる。ただの村娘に追い討ちをかけるのはしたくはない、ガープなりの配慮だった。

 

「奴が目覚めた時に……お主がそんな顔をしていては、喜ぶに喜べん。今は、お前も安静にしておるんじゃ。」

 

ぼうっと、焦点の合わない瞳をシーカーに釘付けにして、マキノはズキッと痛む頭を抑えた。

 

「……っ……ぁ、ぁ…っ……」

 

─────俺は、犯罪者になりたくねぇ…!!

 

ズキッ、と傷んだ頭が、最悪を1つ思い出させた。

 

─────人間に輸血なんて…!

 

「ぁ…ぅあ……!!」

 

「マキノ……?」

 

ぐしゃっ、と髪の毛を掴んで痛みと記憶を消すように握っても、声は消えてくれなかった。

 

さっきまで仲が良かったのに、さっきまで、村に来るだなんて言っていたくせに。

 

そして、フラッシュバックする、血溜まりに沈むシーカーの姿。

 

ゆっくり、ゆっくりと死へと歩みを進める最愛の人。

 

「どう、して……シーカー…っ!!」

 

「…マキノ……!」

 

「私達…っ…まだ…いっぱい……ずっと…っ!!」

 

ドサッと受け身も取れずにベッドから落ちたマキノは、未だ眠るシーカーに手を伸ばし、這いながら傍に寄った。

 

肩の傷口が開いたことも気にせずに。

 

「っ…!医者を呼べ!!マキノ!ベッドに戻るんじゃ!っ!?」

 

そうして戻そうと支えたガープの手を、マキノは振り払った。

 

そうは言ったが、ガープ自身、医者に言われた目覚めるか分からないという言葉に、希望を持てないでいた。

 

睨んだマキノが、その開花した見聞色で一帯の心を無意識に聞いてしまう。

 

「可哀想……?目覚めないっ、かもしれない……?」

 

全身を貫くような覇気に、ガープは動きを止めた。

 

「───────ッ!?マキノ、お前まさか!?」

 

見聞色の覇気を使える物ならば、誰が覇気を使ったのかを特定出来る。そして、それを極めた領域にいるガープは、目の前のなんの力もなかった村娘から発せられる見聞色の覇気に驚愕した。

 

(今の一瞬で、ここら一帯の声を聞いたのか!?)

 

「うぅ…っ…また…!!うるさいっ…うるさい!!もう嫌…!もう何も聞きたくないっ!消えろっ…消えろっ!消えろぉっ!!」

 

「ガープ中将!?」

 

「遅いわ!早うせんか!!」

 

そうして、地面に頭を打ち付けるマキノを取り押さえ、ようやく鎮静剤を打ち込んで落ち着かせることが出来た。

 

けれど、その譫言は変わること無く、幼子の様に最愛の人の名を呟くだけだった。

 

 

 

「───────っ……?」

 

目が覚める。

 

ここは、どこだろうか。

 

薬品の独特な匂いと、エタノールの染みた匂いが、シーカーの鼻を刺激する。どうやら、医務室や病院の類にいるらしい。

 

全身がだるく、力が入らない。よく見れば、全身が包帯で巻かれている。

 

清潔さを見るに最近巻かれたようたが、それを確認する手立てもなかった。

 

乾いた喉からは、空気が通るような音しか出ず、喋る気も失せた。

 

(この倦怠感⋯⋯血を失いすぎたか⋯⋯なんで、こんな⋯⋯大怪我を⋯っ⋯)

 

どこからかの記憶からかすみがかかったようにぼんやりとしている。

 

すると、ガチャリと扉が開き、誰かが入ってきた。

 

「なんじゃ、目を覚ましたか。随分寝とったのぅ。もう1ヶ月じゃぞ。」

 

「⋯⋯⋯と、ぅさ⋯⋯」

 

少し、安心したようにため息を吐き出したのは、ガープだった。声を出そうとしても、声が満足には出てくれなかったが。

 

「無理に声を出さんでええわい⋯⋯まったく、嫌な予感がして、無理をおして魚人島にくれば、あんなことが起こっとるとはな。」

 

そこから聞いたのは、魚人島での出来事だった。マキノとオトヒメを庇って銃に撃たれて瀕死の重症だったと。

 

そうして、事の顛末を聞いたシーカーは、驚くように目を見開いた。

 

その様子から、ガープは目を細める。

 

「なんじゃ⋯⋯覚えとらんのか?」

 

コクリと頷くと、ガープは頭をボリボリと掻きむしって、またため息を吐き出す。

 

「首、心臓、肺。無意識に重要器官を庇ってはいたようじゃが、ギリギリだったそうじゃ。よう生きとったもんじゃ!お前も、マキノもな。今は本部の医務室じゃが、なかなかやばかったぞ。」

 

「───────っ!!」

 

そうだ、マキノだ。ようやく思い出せたのは、マキノが撃たれ蹲る光景だけ。

 

ガタガタと動こうともがいても、力が入ってくれない体を恨み、ガープをみれば、隣を顎でしゃくってみせた。

 

「安心せい。オトヒメ王妃が輸血を申し出てくれてな。マキノも助かったわい。お前も、癪じゃがアラディンには感謝しとけい。」

 

安らかに寝息を立てるマキノが、隣のベットに寝ていた。窶れているように見えるが、どうやら無事なようだ。

 

ホッとため息を吐き出したが、ガープは浮かない顔のままに続けた。

 

「ただ⋯マキノの方は、心がやられちまっとる。なんの影響か、見聞色まで開花しちまったようでな。なにも聞きたくないと人を避ける。魚人島で⋯⋯余程聞きたくない物を聞いたようじゃ。」

 

『声が聞こえない?』

 

「⋯⋯⋯!!」

 

見聞色の覚醒と聞いて、シーカーは思い出した。彼女の言葉の端々にその兆候はあったのだ。

 

「まぁ、とりあえずお前もマキノも無事だったんじゃ⋯はよう治して、さっさと元気にならんかい。」

 

ゴツゴツした手が、シーカーの頭をワシワシと撫でて、そのまま部屋を出ていく。

 

扉を出たガープは、外に護衛として待機するため、その場にドッカリと座り、内ポケットからあるものを取り出した。

 

『俺のせいだ…っ…俺には⋯⋯これだけしかできなかった⋯2人にはもう、合わせる顔がねぇ⋯⋯!!』

 

そう言ったアラディンに、ガープは何も言えなかった。あまりにも悲痛な面持ちを浮かべる魚人達をみれば、何も言わずに受け取るしか無かった。

 

渡された合計6発の血塗れた弾丸。マキノに撃ち込まれた1発を除き、シーカーの体から見つかった弾丸の型は、魚人島では見たことの無い型だと言う。

 

「全て急所に綺麗に命中…混乱に乗じて上手くやったつもりじゃろうが…ワシの息子と可愛い義娘を殺しかけて…逃げ切れると思うとるんか……!!」

 

暫く掌で弄び、硬く握りしめる。

 

また内ポケットにしまい込んで、その場から動くこと無く、静かに怒りに震えた。

 

 

 

 

3日後、治療を終え絶対安静を言い渡された2人は、既にフーシャ村に送り届けられていた。

 

ガープはこれからやることがあると笑いながら去っていき、部下にシーカーたちを送らせた。どこか含んだ言い方だったが、もう海軍とは関係の無いシーカーには、関わりようのない話だった。

 

「そういえば…なんで父さんは魚人島にいたんだろう。聞いてるか?」

 

「娘と息子が危ない気がするって言って、魚人島に来てくれたそうよ。」

 

「いや……ホントにどういうこと…?」

 

シーカーは順調に回復し、マキノもシーカーが目覚めてからは精神も安定し、随分と普段通りになっていた。

 

反対に、シーカーはまだ杖を突きながらでなければ歩けない位には傷ついているのだが。

 

店は暫く休業。2人で何もしない日々を過ごすことにした。

 

「⋯⋯なんだか、やっといつも通りだな。こうして、2人で時間が流れていく。」

 

「こんな時間は、好きじゃない?」

 

「まさか、お前がいればそうでも無い。」

 

そういえば、いつも通り「シーカーったら」と照れる反応が来ると思っていたのだが、それが来ることなく、マキノはシーカーの腕に抱きついて、黙り込んでしまった。

 

「⋯⋯どうした?らしくないぞ、ここはいつもみたいに──────」

 

「ねぇ、シーカー。」

 

「⋯⋯なんだよ、改まって。」

 

体勢はそのまま、離れることなく。マキノは俯きながら、ボソッと口にした。

 

「───────アナタは、ずっとアナタなのね。」

 

「⋯⋯どういう意味だ?」

 

「⋯あの日から⋯人の声が聞こえるの。」

 

聞きたくない、聞こえてはいけない心の声。それが、無差別に聞こえる。マキノの心は、ようやっとの状態で支えられていた。

 

「何も偽りなく接してくれるのは、貴方だけ……」

 

「………」

 

「……こんなものが聞こえなければ…私、あの人達を嫌いにならないで済んだのかな…っ…?」

 

「マキノ……」

 

「もう…っ…あなたの声以外聞きたくない…っ……!」

 

シーカーが目覚めるまで、自傷行為を繰り返していたマキノ。あの日、あの時。マキノは本当にシーカーと死ぬつもりだった。

 

目を覚ませばシーカーは意識不明。いつ目覚めるかも分からず、目覚めない可能性の方が高かった。それからのマキノは荒れに荒れた。

 

どうして死なせてくれなかった、どうして私だけ目覚めたと叫んで、暴れることもあったらしい。

目覚めてからも、魚人島での出来事はただ、「裏切られた」ということしか聞いていない。

 

病んでしまった、というのだろうか。ただの平和な村娘であるマキノは、確かに強かではあるが、最愛の人を失う覚悟など、ましてや友達だと思っていた人達に裏切られる事など、想像もしないだろう。

 

シーカーの温もりに依存しているようなマキノは、見ていて苦しかったけれど、突き放すなんて事できる筈がない。

 

優しく肩を抱いたシーカーは、けれどはっきりと口にした。

 

「教えてくれ、魚人島で何があった?」

 

「………」

 

それでも、マキノは首を横に振る。

 

「どうしてだ?」

 

「アナタは…私の事を、大切にしてくれるから…何があったか言ったら、あの人達のことを嫌いになってしまうかもしれない……」

 

「場合によってはな。」

 

「……なら、だめ……知ってるのは……私だけでいい…あの人の努力を……私の感情が否定しきれないから…」

 

嫌いだけれど、努力や心情はきっと本物だった。だから、嫌うのは私だけでいい。

 

酷くマキノらしい選択に、シーカーはまた苦笑する。

 

『ワシらはもう、お前さん達に合わせる顔がない。いつか必ず、タイヨウの元─────お前達に謝らせてくれ。』

 

名前は口にしなかったが、恐らくオトヒメだろう。ジンベエとも、ガープ経由の伝言のみを最後に、連絡が取れないでいた。どうやらその出来事、随分とマキノと魚人達の中で大きなものだったらしい。

 

抱え、押さえつけているのはわかるが、マキノがそう決めたのなら、とシーカーはマキノの頭を撫でて、それ以上何も聞かなかった。

 

「お前がそう決めたなら……俺はもう聞かねぇ。ただ、辛くなったら話せ……それくらい、許されるはずだ。」

 

「……うん…っ……」

 

少し微笑んだマキノにまたシーカーも笑い、よしっ!と膝を叩く。

 

「そしたら…マキノ。その見聞色、抑える練習だな……と言っても、抑えるだけなら俺が干渉すれば、いつもの状態にはできるぞ。」

 

「ほんとに?」

 

「あぁ、だがマキノの覇気は凄いな。お前、全部聞こえてんだろ。人含め、動物のまで。」

 

「…分かるんだ、そういうの。」

 

「そりゃな。伊達にこの力を扱ってるわけじゃないさ。」

 

シーカーが出会ってきた覇気使いの中でも、特に異質なのがマキノの見聞色だった。

 

マキノの性質なのか、聞くこともそうだが、未来視に特化している。しかしいつでも見れるというわけではなく、夢による未来予知。

 

シーカーが転びそうになる度にベストのタイミングで支えてくることが何度かあり、気になって探ってみれば、夢の中で追体験のようなものをしているらしい。夢の中ではシーカーが転び、怪我の完治が遅くなるようだった。

 

もし、マキノに鍛える意思があれば吝かでは無かったが、今のマキノの精神状態で鍛えろなどとは口が裂けても言えなかった。

 

それを加味した上で、シーカーはマキノの覇気を封じる(・・・)事にした。

 

「いいか、マキノ。俺に身を委ねてくれ。」

 

「……うん。」

 

その一言だけで、全てを委ねたマキノに呆れ笑って、マキノの額に自身の額を重ねる。

 

「いいか、少し変な感覚があると思うが、脱力を解くなよ?」

 

「わかったわ。」

 

覇気は意志の力であり、体を流れる人の力の源。

 

そのため本来、意志と意志は反発し激突する。

 

しかし、干渉することも出来る。マキノのMAXまで出力された見聞色の出力を、シーカーであれば相手方が身を委ねている状況に限り、感情領域に直接干渉する事でノーリスクで調整・封印することが出来る。

 

点穴を突く応用技術。鍛え上げた見聞色の覇気と精密なコントロール、そして限定的な状況のみでしか使えない技術ではあるが、こんなところに使い道があるとは思ってもみなかった。

 

「……ぁっ……んっ…?」

 

この技は、感情に直接入り込んでいるに近い故に、本来痛みを伴うのだが、マキノは完全に心を委ねているために痛みがなく、変な感覚だけがあるようだ。

 

「もう少し───────よし…目を開けろ。」

 

「……終わった…の?」

 

「あぁ、どうだ…聞こえるか?」

 

恐る恐る、というように周囲に耳を立てていると、驚いたように笑った。

 

「……ない……聞こえない!シーカー!聞こえないわ!」

 

本当に辛かったのだろう。久々の心からの笑顔に、シーカーも思わず綻ばせた。

 

憑き物が取れたような彼女は、表通りまで飛び出して、聞こえないことを実感する。通りかかったニュースクーに手を振って新聞を手にこちらに走ってきた。

 

「本当に聞こえないの!凄いっ!」

 

「おおっ、落ち着け落ち着け!お前怪我人なんだぞ?」

 

「うんっ!でも、もう悩まなくていいんだもの!」

 

胸に顔を埋めるマキノを1つ撫でて、シーカーは

新聞を片手に読み始めた。

 

つらつらと文字をなぞっていると、一つ気になる記事が目に止まる。

 

「『ドレスローザ陥落、堕ちたリク王』…?馬鹿な……あの王が…?」

 

「どうかしたの?」

 

「あ、あぁ…なんでもないよ。」

 

それは一国の王が一夜にして人々を鏖殺し、颯爽と現れた海賊が国民を救ったという話。

 

海賊にも、白ひげやシャンクスのような奴らがいることは分かってはいるが、その端に書かれた次期王位の名を聞いて、シーカーは目を細めた。

 

(ドンキホーテ……確か…おつるさんや中佐が追っていた……)

 

『大佐…俺は、兄を止める。』

 

そう語っていた彼を思い出し、少し懐かしい気持ちになったけれど、事の顛末に全てを察した。

 

きっと、彼は止められなかったのだろう。死んでしまったか、あるいは手を引いたのか。

 

どちらかはわからないが、場所はグランドライン後半の海。1度だけ行っただけの国に、そこまでの情はない。どちらにしろ、海軍が手を引いているのなら、シーカーではどうしようもないだろう。

 

それにしても、と溜息を吐き出してその名を振り払った。

 

「ドンキホーテ、ね……嫌な、名だ……」

 

偶然の一致か、それともそういう事なのか。けれど、シーカーとしては、もう二度と聞きたくない、関わりたくない一族の名に違いはなかった。

 

 

 

そして、4年の時が過ぎる。

 

 

 




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2人目のヒロインいる?

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