近場に現れていた海賊をクザンに引き渡したシーカーは、フーシャ村に向かい船を出していた。
今回も割のいい賞金首で、あの程度をのしただけで900万も送金してくれるんだから、海軍は相変わらず羽振りがいいし、それと同時に悪意をばら撒く海賊が後を絶たないということにほかならなかった。
フーシャ村にも年に数度、海賊共が略奪をしかけに来て、尽くをシーカーに潰されていた。
東の海に存在する海賊などたかが知れてるし、実に退屈な作業に過ぎなかった。
「…退屈ではあるが…それが正しい。俺が苦戦する海賊がこの海にいたら…東の海は終わりだなぁ……」
ま、そんな海賊が東の海にいるわけないか〜と間延びした独り言は、波音に消されて行った。
数時間後、もうそろそろフーシャ村が見えるだろう頃、フーシャ村の小さな漁港に、見合わぬ船が停泊しようとしていた。
「あー、ありゃ海賊船だぁ。あのマークは…赤髪海賊団!そうか〜、赤髪海賊団かぁ〜………
…………
…………?
………なっ、なにぃぃぃぃぃぃっっ!!??」
普段の彼からは考えられないほどに目を見開き、焦りで全身の汗腺が冷や汗を吹き出させた。
「────マキノ…ッ!ルフィ!」
ゾッと、背筋に悪寒が走ると同時に、最悪のシナリオが脳裏を過った。
飛び起きたシーカーは白いロングコートを翻し、槍を手に海上へと飛び出す。
「【
船を置き去りに、海上を滑るように突き進む。
海軍において広く習得される六式、その1つ月歩の応用。なんの接地面もない空中を移動するよりも早く、変幻自在で、月歩程の習得難易度のないこの技は、シーカーが海軍時代に独自に編み出した物。
この技術、海上において魚人の次に速く移動できると自負している。
港には船に気がついたのか、自分の約束を守るためか分からないが、ナイフを1本持ったルフィが仁王立ちしている姿が、小さく見えた。
「早まるなルフィ…っ!」
相手は海賊の中の海賊。海賊の頂点にある4つの席のその1席に最も近いとか言われてる奴らだ。
様々な噂はあるが、所詮海賊だ。ならば最悪を想定すべきだろう。
ぱしっぱしっと水を蹴り飛ばす速度を上げ、直前まで来ると、ルフィのなんとも怖いもの知らずな声が聞こえた。
「やい海賊!悪さするつもりだろ!俺が許さねぇぞ!」
「なに、アンタ?」
「ハッハッハ!この村には随分と勇敢な保安官が────」
言葉を言い切る直前、シャンクスはこの東の海ではありえない程の覇気を感じ取り、無意識に愛刀グリフォンを抜いていた。
瞬間、シーカーの黒槍が純白に光った。
「ルフィッ!!何かに捕まってろ!!」
「シーカー!!」
「ウタッ、伏せてろ!!」
「きゃあ!?」
突貫したシーカーの視界の端に、少女の影が写った。
(子供ッ!?)
激突の寸前、僅かに確認したその子供を見て、力を抜いた。
しかし、シーカーが練り上げた絶技とも言える突きは、激突する。
「っ【
「ぬぉっ…?!白い武装色…っ、お前は…!?」
いくら力を抜いたとはいえ、全力を出そうとしたシーカーとシャンクスの衝突は、想像を絶する余波を齎した。
船は軋み、木造の家々は突風に晒され、海鳥がいっせいに飛び立ち、凪いだ海面すらも揺らした。
拮抗したように見えた激突は、シャンクスに弾き返される事で、仕切り直しとなった。
「くっ…!やっぱ一筋縄じゃ行かねぇか…!」
「驚いた、東の海のこんな辺境に…まさか有名人がいるなんてな!」
「それはこっちのセリフだ!!なんだってこんな辺境に…!つーか、俺のこと知ってんのかよ…!?」
「最年少で大佐まで上り詰め、翌年は准将を飛ばして少将とまで言われていた男だ、知らない方がおかしいだろうよ、ハートランド・ギネス…いや、今はピース・シーカーだったか。」
「…その名も知ってるくせに、昔の名で呼ぶんじゃねぇよ赤髪…!」
集団の動きを睨みながら油断なく構えていると、衝撃の余波で転がっていたルフィが駆け寄ってきた。
「シーカー!!」
「ルフィ!?下がってろ!マキノの酒場に村のみんなを集めろ!絶対にそこから動くな!」
「何言ってんだ!俺も戦う!」
「ダメだルフィ!これは、遊びじゃねぇんだ!!」
「嫌だ!!」
いつにも増して強情なルフィに、シーカーはつい頭に血が上ったが、ダメだと己を律した。
「この…!……いや、頼む。お前にしか出来ねぇんだ!マキノも村のみんなを守るのも、俺だけじゃ出来ねぇ!だから、力を貸してくれ!」
「し、シーカー…でもよ!」
「行けぇ!」
「う、ぐっ…!」
見たことの無いシーカーの様子に、まだ幼いルフィは涙が込み上げてくるが、何とか堪えたようだ。日々の修行は、無駄になっていないと、シーカーは微笑ましく思えた。
「わ、わがった!!任せろ!!」
「頼むぞ、ル────」
「おいおい、待て待て!何も襲いに来たわけじゃねぇ!話を聞け!」
最後の別れのようなやり取りをする2人を前に、シャンクスは待ったをかけた。
「聞く気になったか?」
「そう言って騙し討ちをする海賊はいっぱいいるって爺ちゃん言ってたぞ!!」
「おっと、海賊に対しての問答としちゃ模範解答だな…こりゃ説得は難しいか…?」
困ったと唸るシャンクスだが、冷静になったシーカーはやっと頭で整理ができる状態になり、肩の力を抜いた。
「確かに…いつでも俺を殺せるあんたが、わざわざそんな騙し討ちをするわきゃねぇ…何より、赤髪海賊団は
「おお、ようやく冷静になってくれたか!しかし、買い被りすぎだぜピース。いくら俺でも、お前を倒すにゃ、骨が折れる。」
「シーカーでいいぜ…掴めねぇ男だ…来いよ、そこの子の事も…話してもらおうか。」
シーカーの視線の先には、髪の毛が赤髪と白髪が真ん中で別れた少女が、髪の毛で出来た輪っかをぴょこっと立てて、こちらの視線に気がついた。
「……え、私?」
「言っとくが赤髪…ここは俺の女がいる村だ…!この村に手ぇだそうってなら容赦なく沈める!わかったな!!」
「あぁ、誓おう。いいか!野郎ども、この村で何があろうと暴れんじゃねぇぞ!」
『おおっ!!』
気のいい野太い声が、静かな港に響いた。
「新しい出会いに!乾杯だ!!」
『かんぱーい!!』
「よ〜し!私も歌っちゃうよ!」
「よぉし!いいぞウタ!かましてやれぇ!」
「なっはっはっ!!海賊っておもしれぇ〜!」
「……俺の心労を返して欲しい。」
「まぁまぁ、気のいい人たちで良かったじゃない。」
酒場で馬鹿騒ぎするのは先程の赤髪海賊団と、楽しそうに見つめるルフィ。そして、音楽家を自称する少女、ウタ。
歌がとんでもなくうまいあの少女はおいておくとして、問題は赤髪だ。
「こいつらの懸賞金知ってるのかマキノ!10億だぞ、10億!」
「あら、この辺じゃ見たことない金額の海賊ね。あ、クザンさんから送金来てたわよ。あと元部下さんからもお手紙。」
「おぉ、モモンガさん…中将になったんだな…!っいや違う違う!んな化け物が東の海にゴロゴロいてたまるか。とにかく、ヤベェやつらなんだよ…!」
「うーん、でも船長さん達はいい人たちよ?」
「あのなぁマキノ…お前はこいつらがどんなやつかわからんだろうが、あの海賊は海の皇帝とか言われてるヤツらに近いとか言われて────」
「でも、貴方が私を守ってくれるでしょう?だから、心配してないの。」
そのマキノの断言ともとれる言葉に、シーカーはなんとも言い返しがたい顔をしながら、言葉を絞り出す。
「………それは…ずるくないか?」
「ふふふっ、女は狡い位が可愛いのよ?」
お茶目に笑って見せたマキノに、シーカーは負けたと両手を上げてため息を零す。
「はいはい…死んでも守るよ。」
「うん、信じてるわ。でも、死んじゃ、嫌よ?」
「随分無茶言うねぇ……あの赤髪海賊団相手に。」
とん、と心地よい温もりと体重を肩に感じながら身を寄せ合う。絶対の信頼を向けられるというのは、存外悪くないものだ。
話が終わったことを聞いていたのか、赤髪海賊団副船長、ベン・ベックマンがカウンターの向こうにいるシーカーに笑いかけた。
「随分と持ち上げてくれるじゃねぇか、シーカー。あのとんでもババアんところの将星率いる4大隊を相手にたった1人で半壊させたお前さんに持ち上げられちゃ、俺らも下手なことできねぇなぁ。」
「……昔の話だ。それにひとりじゃねぇ。俺の部下たちもよくやってくれたさ。」
ザザッとノイズがかかるように当時の記憶を鮮明に思い出せた。その話を出されるのは、割と苦手だ。あの後に、自分は海兵を辞めたのだから。
「だからこそだろう。16やそこらでそのレベル、最弱の海にいるくせにその腕は欠片も鈍っちゃいねぇ…むしろ磨きがかかってる。あの一撃、ウタを見て手を抜いただろ?そうじゃなきゃあれだけで済まなかった。」
「よく見てんな本当に…ボルサリーノさんが警戒してたわけだ…あのちゃらんぽらんが船長じゃ苦労するな。あんたが居て締まる場面も多いだろう。あの滅茶苦茶加減、ルフィと似てる気がするよ。」
「よくわかってるじゃねぇか、兄弟!あのあんぽんたんに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。」
おい!聞こえてるぞ!というシャンクスの声と、ゲラゲラと笑う船員の声は、海軍にはなかったものだった。こうして、自由に酒を鯨のように飲み、笑える仲間がいる海賊はきっと楽しいだろうと思えた。
ジョッキにお気に入りの麦酒を注ぎ、それをベックマンに差し出す。
「俺のお気に入りだ、兄弟。」
「……へぇ、有難く頂こうか。」
それは、シーカーなりに彼らを受けいれた証だった。
「今日という出会いに。」
「今日という出会いに。」
ウタの歌をBGMに、ガシャンっ、と鳴ったジョッキの音を、酒と共に流し込んだ。
「────────えっ?」
目を覚ますと、酒場にいた全員が眠っていた。よく見れば自分に覆い被さるようにマキノまで寝ている。随分と飲んでしまったものだと
1つ、欠伸をした。
シャンクスとの邂逅を境に、ルフィが修行に力を入れてくれとせがんで来たと同時に、海賊になりてぇと言い始めたのは、シーカーの胃痛を加速させるだけだった。
「爺さんに殺される…!!!!誰だこのアホタレに余計なこと吹き込みやがったのは!」
「にしししっ!海賊は自由なんだってさ!」
「おう、シーカー!お前、俺と一緒に海賊やらねぇか!楽しいぞ!もちろんマキノも一緒だ!」
「シャンクス……お前、ほんと黙っててくれ……」
「……あいつも苦労するなぁ、マキノ。」
「うーん、でもシーカーは何とかしますから、あんまり心配してません!」
「……熱い信頼だこと。羨ましいねぇ?」
「おいこらベック!マキノに近寄んな!お前の女癖の悪さについては腐るほど聞いてるからな!!」
「へいへい、わかったよ。」
「おし!野郎ども、ウタ!歌え!シーカーとマキノのこれからを願って!」
「任せて!シーカー、マキノさん!最高のステージにするから!」
「未来の歌姫に祝ってもらえるなんて、光栄だ!」
「お願いね〜ウタちゃん!…式の音楽隊はあの子にお願いしようかしら?」
「やめてくれ…式場が戦場になっちまう。」
「ふふっ、それもそうね……幸せね、シーカー。」
「……そうだな、マキノ。」
そしてまた、守りたい平穏を感じながら、シーカーはマキノの肩を抱く。そのしっかりとした腕に、暖かいものを感じて、マキノは体重を預けた。
シーカーの守りたい日常の、何気ない1幕だ。
実際のところマキノさんの子供って親誰なんだろうね。シャンクスっぽいけど、40億巻でベックマン説も出てきたし…エースとかサボも言われてますよね。
2人目のヒロインいる?
-
いる
-
いらない