「ガープの息子とは言え、本気で死ぬと思ったのは人生で3度目だ。」
「テメェに褒められても欠片も嬉しくねぇんだよ。」
「ジハハハ!そういうな、殺し合った仲だろう?」
「絶賛殺し合い中だ。」
先ほどとは違う、どちらも手負い、ゆえに加減などできやしない。これからこの島は文字通り吹き飛ぶことになるだろう。
「お前の親父とは随分とやりあったもんだ。息子と、義娘を同時に失ったら、アイツはどんな顔するか、楽しみでならねぇ!」
「その未来はあり得ねぇよ。テメェが一人寂しく死ぬだけだ。」
「ジハハハ!!最後まで生意気な男だったと伝えておいてやる!」
ジャキッと二刀を構えたシキに、シーカーは大きく息を吐き出す。
「父さんとやったときもこんな感じだったな…」
シキの圧に負けじと覇気を飛ばしたシーカーは、その場でどっしりと盾を構える。いつかのガープとの戦いに似ているこの状況に苦笑した。
すでに見聞色でのイメージの叩きつけはできない。せいぜいが感知程度。今保っている【鋭化】が頼みの綱だ。
幸い、その点で言えばシキの防御を貫けるシーカーに天秤は傾いているが、マキノを背負っている事で機動力は無いに等しい。
苦し気に呻くマキノをしっかりと背中に感じながら、シキを見据える。
「【獅子舞・神成】ィィッ!!」
シキの突撃と共に繰り出される二刀の突きは、今までのどの攻撃よりも重かった。受け流したはずの左腕が、吹き飛んだのかと錯覚するほどの一撃に、シーカーは顔をゆがめるが。確かな勝機を感じていた。
(重ぇッ!!使える覇気をフルで出力してやがる…ッ!だが、これは奴の焦りの証拠!奴も、後がねぇってことだ!)
そう、両者ともに後がない。シキはそれを理解しているが故に覇王色、武装色を全開で飛ばしている。
「余裕がねぇなぁ!!えぇッ!?大海賊さんよぉ!!」
続く攻撃を最小限で流し、最小限の動きで突きを放つ。マキノに負担を駆けられない今できる最高の攻撃。
「グゥッ!ジハハハ!数十年ぶりだ!必死に全力で!こいつを殺すって思ったのはよぉ!!テメェにあるのか!!俺を殺すって必死さがよぉ!?」
シーカーの突きをぎりぎりで回避し、大きく飛び退いたシキは再びそこら中に土塊の獅子を生み出す。その数なんと12体。
「チィッ!!」
「【獅子威し・軍冠巻き】!!さぁ、お荷物を持ったままこいつらを防げるか!?ギネスゥッ!!」
グッと前に盾を構えたシーカーは襲い来る獅子達を覇気を使い押し返す。
「ッ…!」
「辛そうだなぁギネス!嫁諸共押しつぶして立派な墓を建ててやる!!」
どうにか覇気で耐えているシーカーだが、膨大な攻撃を弾き続ければ、いずれ覇気が尽きて押しつぶされることは目に見えていた。しかし、背負うマキノに負担をかけるわけにもいかない。
(どうする…どうする、どうする…ッ!!)
選択を迫られ、ただ防ぐことしかできないシーカーは、奥歯を噛み締めながら土砂の濁流を防ぐしかなかった。
しかしその時、マキノが首に回していた腕の力をギュッと強めた。
「っ────」
言葉のないその行為に、マキノのすべての思いが乗っていた。
「────オオオオォォォォォッッ!!!!」
猛るシーカーは、思い切り地を踏みしめて渾身の力で穿つ。
瞬間、群がる獅子を蹴散らし、荒ぶ竜がごとき速さで衝撃が天へと駆ける。
夜空を分厚く覆っていた雲を吹き飛ばし、月光が舞台を照らした。
「ッ死ぬ気でしがみ付け!!」
シーカーの叫びに答えるように、今できる全力の力でしがみ付いた瞬間二人の男の咆哮が響く。
「【獅子舞・神成】ィィィッ!!!」
「【刺穂黎瀑牙】ァァァッ!!!」
激突した衝撃波はしがみ付くマキノの肌を風圧だけで傷つける。広大な島全土に爆風が吹き荒れ、木々を、岩を、建造物を薙ぎ倒す。
「【乱尾空】!!」
「【獅子舞・歌武羅】ッ!!」
続けざまに先の速度よりも鋭く迫ったシーカーの一撃は、シキの攻撃と衝突。シキの肌を斬り裂きながら、徐々に徐々に追い詰めていく。
しかし、シーカーが受けたダメージは着実に本人をむしばんでいた。覇王色纏いによる攻撃は武装色とは隔絶した破壊力を持つ。今まで盾で受けたことはあるが、ここまで疲弊した体で受けたことのなかったシーカーの体は、たったの一撃ですでにガタが来ていた。
【鋭化】を行いながら見聞色を同時に使うことが困難になるレベルのダメージは、シーカーの最大の武器を失うことと等しかった。
しかし、それはシキも同じこと。
(互角!いや、何なら劣勢!奴も庇ったときのダメージが癒えていないとは言え、俺のダメージも無視できるものじゃねぇ…!俺も後もって数分…であれば…!)
(奴のダメージを見積もっても、そう遅くないうちにお互いの体力が切れる!推測が正しければ奴も俺も、全力で戦えるのはあと数分…なら…!)
僅か0.0数秒の間に弾かれた彼等の脳内そろばんによる計算は同じ決着にたどり着く。
────残り数分で、コイツを叩き潰すッ!!!
「【獅子威し・軍冠巻き】ィィ!!」
「【刺穂黎瀑牙】二連ッ!!」
獅子の大群にシーカーの全力の二連撃を叩きつけ、覇気を纏った獅子を瓦礫ごと吹き飛ばす。舞い散る瓦礫の隙間を縫うように、剣がシーカーに飛来した。
「【獅子舞・千枚貫】!!」
「ッ!!」
剣を浮かせ高速で回転、ドリルのように貫通力と速度を高めた剣が迫る。
咄嗟に空に賭けて躱すも、搔い潜ってきたもう一本がマキノを固定する縄ごとシーカーの胴体を斬り割く。
(マズッ────)
「【獅子舞・猫騙し】……!」
僅かな隙。その小さな隙が、命運を分けた。
高速で上下に飛んだ剣は、縄に気を取られたシーカーの背後に回り込んだ剣が、二人の心臓を串刺した。
「【獅子威し・軍冠巻き】ィィ!!」
「────────ッ!?【刺穂黎瀑牙】二連ッ!!」
覇気を纏った土塊の獅子の群れが再びシーカーに襲い掛かる。なんとかそれを撃破し、今の一瞬の出来事に思考を割いた。
(今のは、未来視…!?あんな、10秒なんてもんじゃねぇ…1分以上の未来視なんざ、俺でもできねぇぞ…!?)
何が起きているのか理解ができなかったシーカーは、長時間の未来視に動揺する。いったい誰が、そう考えたシーカーは、まさかと背に縋るマキノに意識を向ける。
「ッ…ぐっ、ぅ……ッ!」
息を呑むようにマキノの顔が歪む。その顔に、言葉を発する余裕はない。
「────ッ!!」
その時、再び未来の情報がシーカに流れ込む。
「(この感覚…!)」
それは、あまりにも鮮明でまるで自分が体験しているかのように錯覚するほど。
マキノはただ何かに耐えるように歯を食いしばった。ガチガチと歯を鳴らし、頭痛に耐えていることが一目でわかる。鼻血まで出るほどに力を酷使しているのだ。
シーカーの背にしがみつき、ボロボロになりながら、彼女はシーカの背になって戦ってくれていたのだ。
見聞色の力が発現したばかり、その身に余る力に体が耐えきれるはずがない。
けれど、そうだと思い出す。
必死にしがみ付く手に柔く重ね、微笑んだ。
「──ありがとう、マキノ。」
「【獅子舞・千枚貫】ッ!!」
舞い散る瓦礫の隙間を縫って飛来する攻撃を的確に弾く。
「ッ【獅子舞・猫騙し】!!」
「見えてるぜ、シキ!」
そして、未来で二人を貫いた背後からの強襲すら弾き落とした。
「なぁッ!!?」
「俺は、一人で戦ってんじゃなかったんだ……俺も、たった今思い出したよ。」
庇いながらの戦闘と消耗により疲弊していたシーカーの動きに、精彩さが戻っている。
(体力も戻ったわけじゃねぇ、あの消耗で見聞色が同時に使えるはずもねぇ…!だのに、なぜ奴の動きが戻りつつある!?未来視だとして、いったいどうやって……!!)
ギリ、と奥歯を噛み締めたシキは数秒の熟考の末に答えにたどり着く。
「……馬鹿な、その小娘が見た未来をお前に見せてるってのか!?」
「愛ってのは良いなぁ、シキ。」
「そんなことが…ッ!そんなことがあってたまるかぁぁぁぁッ!!!」
ビリビリと大気を震わせるほどに猛るシキの覇王色を受け流したシーカーは、すでに勝利を確信している。
「もう、お前に負ける要素はなくなった。あとは、勝つだけだ。」
「ッガープの息子ォォォ!!!」
「最後の咆哮か?威勢がいいな大海賊サマ!!」
再び激突した両者の攻撃により大気が弾け、衝撃が舞う。一見互角に見えることの戦いだが、すでに空を駆ける二人の間には、すでに覆しようがない差ができてしまった。
「チィッ!!【獅子舞────ぶがぁ!!?」
「遅ぇなぁッ!!直線距離なら、一秒もいらねぇ!!」
シキが飛び下がり攻撃の予備動作に入った瞬間、その技の起こりをわかっていたように飛び込んだシーカーは、石突きでシキの顎を打ち上げ攻撃を中断させ、隙を生み出す。
「【
槍の弱点である超近接戦を補うために、槍を短く掴み胴に三連の突き、下段から真一文字に斬り上げる。
攻撃の終わりと同時に、遅れて噴出した血を浴びたシーカーは、とどめと言わんばかりに腹を蹴りぬいてシキを地面に叩きつける。
だが、これでは終わらない。もう、すでにこの先は見ている。
叩きつけられたクレータの中央で、大の字で倒れるシキは、それでも立ち上がる。
「────お、われるか……!!俺は、海賊王になる男!!ミーハーな紛い物共に恐怖を植え付け、この世に君臨するッ……!!」
「………死ぬぜ、お前。」
「ロジャーでは、成しえなかった……っ、支配をぉ…ッ!!俺がァ…ッ!!」
ゼェ、ゼェ、と肩で息をするシキはもう放っておいても死ぬだろう。すでに肺を貫き、呼吸もままならず、心臓も傷ついている。証拠に、すでに能力が解除されつつあるのか、島の高度が徐々に下がっている。それでもなお、シキは立ち上がる。
しかし、シーカーは目を離さなかった。
「……俺は、また……最弱、の海の男にィ……ッ……!!」
「東の海は平和の象徴だ、最弱ってのはお門違いだぜ。」
「じ、ハハハ…ッそうか…そうだなぁ………!」
嘲笑うように震える膝を叩き、シキは再び能力を使いフラフラと舞い上がる。
「ジハハハッ…!お前は、自分の嫁を、取り戻し…っ……俺も殺して見せた……!」
「だがぁッ!!俺が、このまま大人しく死ねるわけがねぇよなぁッ!!?」
猛るシキを見つめながら、シーカーはグッと槍を握る。
クンッ、と手首を上げたシキは、正真正銘人生で最後の攻撃を放つ。
シキの居城の近くにあった島を一か所に集め、混ぜて、砕き、また混ぜて。そうして粉々になった島々は覇王色を纏う、一つの獅子を象った。
「【獅子威し・獅子身中】!!正真正銘最後の攻撃ッ防いで見せろ、ハートランド・ギネスゥゥ────ッ!!」
文字通り決死の攻撃。シキの最後の大技となる攻撃を前に、シーカーは穏やかだった。
とてつもない覇気だ、後のないシキはすでにすべての覇気を込めている。彼は死の間際に、限界を超えてしまった。強大だ、今までの攻撃の中でも火力は比にならないだろう。中途半端な覇気では貫けない────今の【鋭化】では、貫くことができない。
「俺も、超えてやるさ、限界なんざいくらでも!!」
握る槍に覇気を流す。シキが限界を超えたのなら、自分も限界を超えねばならない。
槍に編み込まれた白き覇気が、糸がほつれるように解けて行く。編み込んだ白い覇気は、穂先の周囲をクラゲのように漂ったまま、突如意志を持ったように再び形を紡ぐ。
【鋭化】は結局武装色の応用、纏う覇気ではない。利点は大いにあるが、纏う覇気には触れることができない事から特性を生かすことはできない、威力そのものも纏う覇気の使い方と場合によるが劣るだろう。
であるならば、纏ってしまえばいい。
瞬間、覇気は輝く純白の螺旋となる。
「これが、俺の……最高地点。」
それは、槍に纏う純白の螺旋。覇気の色はおろか、覇気そのものを可視化させるほどに完成されたソレは、見るものによっては神聖さすら感じさせる。
確信があった。これなら、すべてを貫くことができると。
気分がよかった、誰もたどり着けることのない境地に到達したという充足感に満たされ、目の前の強敵に感謝すら述べたくなった。
「手向けだ、シキ。」
静かに呟いたシーカーは、腰を深く降ろし槍を引き絞る。
「【
ついに解き放たれたその一撃は竜となり、獅子を貫く。黄金の竜の幻視を目の当たりにしたシキは、そのまま螺旋に呑まれる。シキを呑んだ螺旋は、天まで登り、飛び去るように消えていった。
螺旋が通った光の轍に立つシキは、左腕から胴体の中央までを抉る傷跡を残し、その場に浮いていた。
シキの姿が見えたと同時に、シーカーの黒槍が覇気の密度に耐え切れずに粉々に砕け散った。
その場を支配した沈黙を、シキが呻き声と共に動く。
ぽっかりと螺旋に削り取られた空間に手を翳したあと、シキはシーカーを見つめた。
「……負け、た……か……」
「………」
ゆっくりと、噛み締める様にゆっくりと最後の言葉を残す。懐から取り出した葉巻を咥える。
「火……そう、か…一緒、に吹き飛んだか……」
「………野望、は……とど、かなかった……っ……なぁ、ロジャー……なぜ、死んだ…な、ぜ…っ海軍、なんぞに……」
「この、俺と組めば……支配は、夢じゃなかったってのによぉ……」
「……………………時間、か……ジ、ハハ、ハ……これ、も……悪く、ねぇ…なぁ…ギネ…ス……楽しかった、ぜ……─────」
ゆっくりと、シキの気配が失せて、真っ逆さまに落ちていく。死んだ、過去の伝説を背負ったまま、金獅子のシキは息絶えた。それと同時に島が落下し、崩壊していく。
三人は無事だろうか、島の人々はナミが解放し逃がしているはずだ、村のみんなは─────
そこまで考えたところで、シーカーの緊張の糸が切れ、地面に倒れる。
「マキノ…!いたい、よな……ごめん…なぁ…」
「シーカー…!」
投げ出される形で地面に落ちたマキノに謝るシーカーに這いよって、どうにか抱き合った二人は崩壊する島に巻き込まれ、落下していく。
もう指一本動かす気力がない二人は、抱き合いながら身を任せ落下する。
「……明日は、大変だな…」
「……そうね、お店も、貴方のコレクションもなくなっちゃったものね…」
「……あぁ…あいつ、めちゃくちゃやりやがって…」
なんでもないように笑いあった二人は、熱を確かめ合う様に強く抱き合う。
「ねぇ……信じてた……」
「あぁ、待たせてごめん…まぁ、実際に助けたのはナミだけどな。」
「もうっ、それは確かにあなたに王子様みたいに助けてほしかったけど……ままならないものね。」
「ハハハっ、王子さまって柄かよ。俺が…よくて騎士だろ。」
「じゃあ、私の騎士様ね。これからも、一緒にいてくれる?」
「いついつまでも、どこにいようと、貴方の危機に馳せ参じますよ、姫。」
「あっはははっ、似合わない!」
「ハハハハっ、本当にな!」
日常を確かめるように茶化した二人は、どちらからともなくキスをする。
「……愛してる。」
「……愛してるわ。」
ゆっくりと、眠るように目を瞑った二人はそのまま海に着水。水を吸った服がおもりとなり、どんどんと沈んでいく。
(疲れた…少しだけ、少しだけ…眠ろう……)
意識も霞かかったように朧げになり、ついに意識を落とすという寸前、柔く白魚のような美しい手が、シーカーたちの体を掴み、ぐんぐんと登っていく。
急激な浮遊感、それを最後に、二人は眠るように意識を失った。
感想、高評価よろしくお願いします。モチベーションが上がります。
2人目のヒロインいる?
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いる
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いらない