ピースシーカー   作:イベリ

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第3話:Before Dawn

フーシャ村の初夏。その時期は、シーカーとマキノにとって大事な時期ということは、周知のことだった。

 

ぱちゃぱちゃっ、と水面を白魚のような美しい足が蹴る。

 

マキノは機嫌良さげに足をぶらぶらとしていると、頭にぽすっ、とマキノには少し大きな麦わら帽子が乗せられる。

 

「気持ちよさそうだな、マキノ。被っとけ日焼け、痛いだろ?」

 

「シーカー…ありがとう。日差しは暑いけど、ここは海風もあって涼しいから忘れてたわ。さっ、ここよ。」

 

ぽんぽんと自分が座る隣の位置を叩き、早くこっちに来いと催促する。

 

なにもないフーシャ村。それがこの村の魅力とも言えるが、子供には随分と退屈に思えるかもしれない。

 

けれど、飽きもせずルフィとウタは変わらず遊んでいるし、100回近く勝負と言う名の競争を行っている。

 

そんなフーシャ村の港で、シーカーとマキノの2人は、海に足を浸けながら水平線を眺めていた。

 

よそ行きの格好をしたマキノは、シーカーにとって何より美しい人。白いワンピースと、大きめの麦わら帽子は、彼女の透き通った白い肌と、緑がかった美しい黒い髪を引き立たせていた。

 

「ん〜っ…今年もこうやって過ごせるのね。あ、このみかん美味しいわよ。えっと、ココヤシ村って所が産地みたいね。はい、あーん。」

 

「あ〜…ん、ほんとだ美味い!今年は日差しが強いから、海水浴なんかしたら気持ちいいだろうな。ココヤシ村…あぁ、あそこか。みかん畑なんてあったのか。ほい、リンゴもあるぞ。」

 

「ありがと、シャリシャリしてて瑞々しくて…美味しい。んっ…無理よ、近海の主もいるし…シーカーならおっぱらえるんでしょうけど。」

 

「ご希望とあれば仕留めてご覧に入れますよ、ボス?」

 

「ふふふっ、なぁにそれ?」

 

アハハっ、と笑いあった2人は酒場の休みを取り、村人からすれば見慣れたデートをしていた。

 

一般から見て、2人のデートはささやかなもの。港で手を絡ませ海で足を冷やしながら、村人に貰った果物を齧り、海を眺め、互いの存在と気持ちを確かめるものだ。

 

この逢瀬は、太陽が水平線に隠れるまで続く。もうすぐ19歳となる年頃の2人にしてはあまりにも枯れている様に見えるが、これが2人にとっては何よりも幸せだった。

 

街での買い物、豪華な食事、高価なプレゼント。2人にとってそれは不純物でしかなく、こうした時間の方が尊い物だと、お互いに理解していた。

 

サァっと海風が吹いて、互いの髪が揺れる。

 

シーカーの後ろで括った長い白髪と、白いロングコートが風に揺れる度、マキノは2年前の戻ってきた頃の彼を思い出す。

 

酒を浴びるように飲んで酔い潰れては、救えなかったと涙を流す日々を数ヶ月。

 

初めて見る、彼の弱い部分。その分、強い部分もずっと多く知っていた。

 

なによりマキノは、こうして隣で穏やかに笑ってくれるシーカーを愛しく思った。

 

こてんっ、とシーカーの肩に頭を預けたマキノに、シーカーは優しく手を置いて、髪を撫でた。

 

「……なんだ、甘えたくなったか?」

 

「んー……そうかも。」

 

そうして、また沈黙。波音と、海猫の囀り。そして、互いの心音だけが聞こえた

 

肩に手を回されて引き寄せられれば、シーカーの腕の力強さに、惚れたのは自分が明らかに先だったなぁと、内心でマキノは苦笑する。

 

今は口にしないが、大好きな彼の腕の中は、マキノにとって居心地がよかった。

 

 

 

 

「ロマンチック〜…!私もいつか、あんな恋人が欲しいな〜…」

 

「あの二人何してんだ?たまーに店休んで、2人でああやってしてるけど?いいなぁ、あの果物…俺腹減った…」

 

「はぁ…アンタほんとガキンチョ。」

 

その2人の随分後ろで、ルフィとウタは絶賛デート中の2人を見て、ウタはロマンチックなその雰囲気にハスハスしながら創作意欲を湧かせ、正反対のルフィは、まだあの二人が何をしているのかわからないという反応だ。

 

「なんだとぉ!?よし、マキノ達に分けてもらいに行こうぜ!」

 

「2人はデート中なのよ!邪魔しちゃダメに決まってるでしょ!?」

 

「ウタの言う通りだ、ルフィ。男なら、空気は読めるようにならなきゃなぁ?」

 

えー?と不満げに声を出すルフィを抑えるようにシャンクスが頭をわしわしと撫でた。

 

なおも不満げだったルフィだが、思い出したかのようにシャンクスに尋ねた。

 

「なぁ、シャンクスはシーカーの昔の事知ってんだろ!ちょっと教えてくれよ!」

 

「シーカーの?」

 

「あぁ!俺、2年前にシーカーが村に来た海賊追っ払った時から、兄ちゃんみたいに思ってんだけどさ、シーカーのことなんも知らねぇんだ!だから教えてくれ!」

 

「…私も、ちょっと気になる。ベックもホンゴウもシャンクスも、シーカーは強いぞーっていつも言ってるし…なんの人だったの?」

 

シャンクスは少し黙り込んでから、口を開く。

 

「ルフィ。お前の爺さんは、あいつの事をなんて言ってた?」

 

「え、爺ちゃん?…んー…確か『アイツのようになれ』って、よく言われてた。俺もシーカーみてぇに強くなりてぇけど、海兵は嫌だ!」

 

「ハハハッ、ガープをしてそう言わせるか!あいつが今も海軍にいたらと考えたら恐ろしいな。アイツは、ウタの歳には並み居る海賊を倒していたらしい。そんで16で…そうだな、俺よりおっかない婆さんの海賊がいるんだがな?そいつらの部下をたった1人で仲間を庇いながら沈めちまったんだとよ。」

 

「シャンクスより!?すっげ〜!悪ぃやつ捕まえてたのは知ってるけど、そんなすげぇやつだったのか!」

 

「えー?シャンクスより強いお婆ちゃん?そんなのほんとにいるの?」

 

「世界は広い、そんな婆さんもいるのさ。」

 

「へぇ〜……でも、そんな強かったのに…なんで海兵辞めちゃったのかな?」

 

「確かに、なんでやめたんだ?」

 

当然の疑問だろう。

 

短い付き合いではあるが、子供から見てもシーカーという男は善良だし、シャンクスたちよりも規律や秩序を重んじる。

 

今でも海賊を狩っていることを知るルフィにとって、何故祖父と同じ海軍に所属していないのかは、理解が出来なかった。

 

しかし、シャンクスはニヤリと笑った。

 

「そりゃお前!マキノだろ!」

 

『マキノ?』

 

「あの惚れ具合だ!俺にはわかるね!きっと任務地で訪れたこの村に、とんでもなく好みのマキノがいたから、周囲の反対を押し切ってここにいるんだ!」

 

嬉々として語るシャンクスは、からかいの意味もあったのだろうが、あながち間違ったものでは無いのでは?と思っていた。

 

シャンクスの言葉を鵜呑みにしたウタは、お構い無しに黄色い声をあげた。

 

「好きな人と一緒にいる為に海軍を抜けてまでここにいるなんて…!いい!凄くいい!」

 

「へぇ〜、シーカーってやっぱすげぇ奴だったんだなぁ!」

 

そんな子供達の声は、2人にダダ漏れ。

 

「ふふふっ、あの子たち貴方からアプローチしたって勘違いしてるわよ?」

 

「まぁ、時間の問題だったろ。もう少し遅ければ俺だったさ。けど、あいつら…つーかシャンクス…後で殴ろ。」

 

「お手柔らかにね?」

 

「本気で殴ってもなんて事ないだろアイツなら。聞こえてんだろシャンクス!」

 

「げっ!?逃げろおまえら!」

 

そうして、笑いあった日々も過ぎ去り、シャンクスたちは次の航海に出ていった。

 

「ルフィ〜!次帰ってきたら!アンタがどれだけ強くなったか見てあげる!」

 

「おう!ほずえらかかせてやる!」

 

「吠え面、な?」

 

去り行く船に手を振りながら、ウタと約束を交わしたルフィの頭を撫でる。

 

「行っちまったなぁ、次はエレジアって言ってたか。」

 

「どんな場所なんだ?シーカー。」

 

「んー、音楽の島。あらゆる国の音楽、その知識が全て集約する、音楽を生んだ島と言ってもいい。」

 

「すんげ〜島ってことだな!ウタにピッタシだ!」

 

「ま、違いねぇな。ほら、次来たらどれだけ強くなったか見せてやるんだろ?」

 

「そうだった!修行行こう!!!」

 

「はいよ。」

 

ルフィはシーカーの言いつけを守り、体づくりに力を入れている。既に大人顔負けの体力は、ガープ譲りだろうが、体はまだ子供だ。

 

そろそろ時期だろうと考えたシーカーは、腕立て伏せをするルフィに言い聞かせるように語る。

 

「いいかルフィ。お前のパンチはピストルよりも強くなるだろう。だが、その使い方を間違えるな。」

 

「間違った使い方って、なんだ?」

 

「理不尽な暴力だ。例えば、2年前に村に来た海賊共の様にマキノを攫おうとしたり、村を襲いに来たりとかな。」

 

「そんな事しねぇ!俺は、海賊にはなりてぇけど!悪ぃやつにはなりたくねぇ!シャンクス達みたいに、自由に!みんなで宴して、ウタみたいに歌って!楽しく過ごしてぇ!そんで、シーカーみたいに強くなって、この先できる仲間を守るんだ!」

 

2年ルフィを見てきたシーカーにとって、ルフィは弟に近い存在。そんな存在に自分のようになりたいと言われて嬉しくないわけが無い。

 

どうしても海賊になるというところは変わらないようだが、この際それはどうでもいいだろう。

 

自分の思想を押し付けるつもりは無いが、シーカーはこれだけは言えた。

 

「ガープさんは海兵にすると言ってるが…やめた俺からの意見を言わせてもらうなら…あそこはお前がいる場所じゃねぇ。自由とは正反対だぜ。」

 

「シーカーが言うなら、俺絶対向いてねぇな!やっぱ海賊だ!」

 

「この際、お前が何になろうといいんだ。ただ大事なのは、何をするか。それは間違えちゃいけねぇ。」

 

「何を成すか…そうだ!ウタと誓ったんだ!『新時代』を作るって!」

 

「『新時代』?何をするんだよ。」

 

あの二人から随分と大人びた夢が出てきたと思ったシーカーは、半笑いで問いただす。

 

 

 

 

「俺は────────!」

 

 

 

それでも、ルフィは叫んだ。

 

この先の見えぬ海原のその向こう側、全てが置いていかれたその場所に見る、最高の自分を。

 

その自分が作る、夢の果てを。

 

「────お前、本気か?」

 

「あぁ!ウタと誓ったんだ!俺は、海賊王になって、俺の新時代を作る!」

 

あのルフィから、こんな言葉が出てくるなんて。思わず吹き出したシーカーは、同時にどこか感慨深い物が心を埋めつくした。

 

「ハハハハハッ!!!……そうか…………あぁ…そうか……っ……」

 

「シーカー?」

 

グッと唇をかみ締めて、目元に手を当てて俯く。

 

今だけは、こんな顔を見られないように。

 

ルフィが語ったそれは正しく『新時代』。自分が掲げ、折れてしまった夢の世界。その先だった。

 

この時、この瞬間。シーカーは未来の海賊王に、自身の夢の果てを見た。

 

夢見た世界の続きを見た。

 

この言葉が、シーカー(ギネス)を本気にさせた。

 

「ルフィ。」

 

「ん、なんだ?」

 

「その夢、叶えるんだな。絶対に。」

 

「当たり前だ!」

 

「よしっ!その言葉、忘れるなよ?俺は、これから本気でお前を海賊王にするために鍛える…ついてこれるな?」

 

「…っおう!!」

 

シーカーの修行は、お世辞にも優しいとは言えない。体を作るだけでもルフィが悲鳴をあげるくらいには厳しい。だがルフィは、その優しい希望が宿る瞳に応えたくなった。

 

「シーカー!!なるぞ、俺は!!海賊王に!!」

 

「………あぁ、頼むぞ。ルフィ!」

 

優しい微笑みと共に、シーカーは期待する。

 

目の前の少年の描く未来に。この歴史に何も刻み付けていな無垢な子供が、夢の果てにたどり着くことを願って。

 

 

 

 

 

1ヶ月後。

 

ルフィの地獄のような体作りは予想以上の速さで終わりを迎え、子供にしてはできすぎているレベルまで仕上がった。

 

この1ヶ月は、ルフィに付きっきりだったシーカーも、長めの休暇を満喫していた。

 

すると、沖合の方から感じ慣れた気配を捉え、隣でジュースを飲むルフィに、彼らが帰ってきたことを告げる。

 

「シャンクスたち、帰ってきたぞ。」

 

「あら、今回は随分と時間がかかったわね。」

 

「ほんとか!?なんで分かるんだ?」

 

「必ず教えてやる。修行の初めに言ったろ?」

 

「わかった!シーカーを『疑わねぇ!』だよな!!行ってくる!!」

 

元気に走っていったルフィに、ふふっと2人して笑いあった。

 

「ほんと、嬉しいのね。ウタちゃんも帰ってくるし。」

 

「そうだろうな。ウタが行っちまってから、少し元気なかったからな。」

 

いつも元気を分けてくれる、ルフィの元気な姿は2人が望むもの。2人の弟のような彼は、やはり元気な方が似合っていた。

 

自分達も行こうかと席を立ち上がり、マキノと共に港に向かう。すると、そこには想像していた赤髪海賊団の姿は、なかった。

 

「なぁ!また冒険の話聞かせてくれよ!みんな!────なぁ、聞いてるのか!」

 

「…みんな……?」

 

「…………」

 

そのいつもは快活な男たちの様子に、シーカーは察してしまった。

 

続々と降りてくる赤髪海賊団のメンツ。

 

ルゥ、ヤソップ、ホンゴウ、ベックマン、そして、シャンクス。

 

あぁ、そうか。とシーカーは納得いってしまった。

 

「ウタに聞くからいいよ!ケチ!ウター!今日も冒険の話聞いてやるよ!あと、俺も強くなったんだぞ!ウター!………あれ、ウタは?」

 

ゆっくりと降りてきたシャンクスは、ルフィの前で止まると、ルフィの目を見ることも無く、小さな頭に手を置いた。

 

「………ウタは、歌手になるために船を下りたんだ、ルフィ。」

 

「────────ウソだ…嘘つくなよシャンクス…!!」

 

ルフィの頭を優しく撫でたシャンクスの目を見て、あの日がフラッシュバックする。

 

あの眼は、あの瞳は、あの奥にあるあの感情は

 

 

 

────何が正義ッ!?何が海軍ッ?!!

 

(またか……)

 

────もう、俺はっ…俺はッッ…!!

 

「シーカー…?」

 

シーカーが拳をギュゥッと握りしめる音が、隣にいるマキノだけに聞こえた。

 

こんなにも無情なのか。

 

こんなにも残酷なのか。

 

 

何も言葉にしなかったシーカーに寄り添うように手を握ったマキノは、ルフィの悲痛な鳴き声に、胸を痛ませるように目を細めた。

 

 

小さな幼馴染の約束は、果たされなかった。

 

2人目のヒロインいる?

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