ピースシーカー   作:イベリ

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Twilight ZERO ①:折れた正義

〜2年前〜

 

心折れた海兵がこの辺境の土地にやってきた。

 

「こんな辺鄙な場所でいいのか、お前なら融通も聞かせられたじゃろう──────ギネス。」

 

海軍の英雄である老兵、ガープは目の前の元部下に声をかける。

 

ボサっと手入れされていない銀白の長髪を雑に垂らし、濃い隈を刻んだ少年──────ギネスは苦笑した。

 

「いいんだガープさん……俺は、もうなにもんでもねぇ……それに、俺もたった4年だがここで育った……穏やかで、昔から好きだったんだ。」

 

「……そうか。お前さんが納得しとるなら、ワシはもう何も言わん。ギオンのやつもそうじゃろう。」

 

「ははっ……結局、ギオンさんには挨拶もできなかった……こんなみっともねぇ俺…見せられねぇもんなぁ…」

 

捨てられなかった正義のコートを握りしめて、静かに涙を流すボロボロの少年を、いつもは豪快に笑い飛ばす老兵も見ていられなかった。

 

ハートランド・ギネス、16歳。彼は、ゼファーをして天才と言わせ、ガープの激しいちょっかいの日々を耐え抜き、異例中の異例、最年少の14歳で大佐の地位を与えられた。

 

それからは、次期大将候補を育成すべく、元帥センゴクとガープは、彼を鍛えるためにあらゆる任務をこなさせ、海軍の上に立つものとしての素養を鍛える事になっていた。

 

海軍の上層部や、英雄、黒腕の期待を一身に背負った彼は、直ぐに頭角を現した。

 

大佐を就任した翌年、世界政府加盟国に現れた銀斧を10時間以上単独で足止め。その後、合流した中将ギオンと共に、惜しくも撃退に留めたが、銀斧の左足と右腕を奪い、事実上の再起不能に追い詰めた。

 

そして大佐となって2年がたった頃。とある情報を掴み、四皇ビックマム海賊団、次兄の大船団と軍艦1隻で戦闘を繰り広げ相討ちにまで持ち込み、傷だらけになりながら船団を八割壊滅させ逃げおおせた。その結果、ビックマムが侵略しようと画策していた世界政府非加盟国4カ国の守備に成功。

 

彼は、命令を無視し、ビックマム海賊団に喧嘩を売った。非加盟国にとっては英雄的な存在として称えられている。事実として、海軍として守る必要のない非加盟国を守った事実は、海軍のイメージアップに繋がることではあった。

 

この時を折に、『白槍』の2つ名で呼ばれるようになった。

 

そして、年の替わりには、准将をとばして少将の地位を与えられる予定であった。

 

そんな彼は、己の正義に誇りを持っていたし、海賊のみが悪だと信じていた。

 

自分が守っている貴族や市民は、善だと信じていた。

 

それは、まだ彼が幼く無知がゆえの認識の差ではあった。しかしその差は、彼を壊すには十分なものだった。

 

彼をこの辺境のフーシャ村に送る船は、いつもの喧騒は也を潜め、少年をただ哀れんでいた。

 

彼の少年の瞳に、以前の白く燃る正義の炎は、もう灯っていない。

 

上層部への疑問は、膨れ上がる一方だった。

 

「……あんな奴ら、守る価値もない…本当に、ままならんもんじゃな…」

 

「ガープ中将……それ以上は…」

 

「バカもん。正義を掲げていた純粋な子供が心をへし折られてしもうたんじゃ……ワシは、悔しくてならん…やつならば、20の頃には次期大将として中将を任せられた。ギオンも銀斧の時に共闘したらしいが、ギネスがいなければ殺されていたという程じゃ。儂らは…守るべき人間を、間違えちまったのかもしれん……」

 

「……………そう、なのでしょうね……」

 

ガープは、ギネスが6歳の頃から見守ってきた。戦場で拾った教会の孤児院の中で、ひとり身の丈よりも大きな鉄棒で海賊を相手にしながら、他の孤児とシスター達を守っていた。

 

ボロボロのくせに闘志だけは衰えていないギネスを見たガープは、こいつを海兵にする!と、フーシャ村に連れてきたことがあった。

 

そこで数年育ち、気がつけば互いにとって家族のような存在となっていた。

 

その後も、基本的にガープが暴れていただけだが、海軍内でも本当の家族という認識を取られていたくらいには2人の関係が良好であり、功績を上げていくギネスをガープも鼻高に思っていた。

 

その最中に、こんな事になるなんて。

 

愚痴も吐きたくなるだろう。

 

その間も、ギネスは静かに海を眺めながら、無感情に揺れる水面を眺めていた。

 

フーシャ村の漁港に着くと、1人の少女が手を振りながら駆け寄ってきた。

 

「ギネスー!おかえりー!」

 

「…マキノ…⋯」

 

その少女は幼馴染の村人、マキノだった。

 

昔からギネスは活発な少年と言うよりは、落ち着いた子供だったため、2人は出会って直ぐに意気投合し、よく2人で海を見ながら話をしていた。

 

そこに、淡い想いがある事は、誰の目から見ても明らかだった。

 

けれど、そんな気持ちがあるからか、ギネスはこんな情けない顔を彼女に見せたくなかった。

 

「……っ……すまない…暫く、1人にしてくれ……」

 

「えっ……ギネス?待って────」

 

「待ってくれい、マキノ。」

 

俯いたままマキノの横をとおりすぎて行くギネスを追いかけようとすると、それをガープに止められた。

 

「ガープさん…あの、ギネスは……」

 

「…情けない大人からの頼みじゃ……今は………いや、ギネスを支えてやってくれい…!儂らじゃあ…もう奴に声を届ける資格がないんじゃ……」

 

「……はい!任せてください!」

 

こんなにも、情けないという感情を表に出したガープを初めて見たマキノは、相当なことがあったのだろうと、意気込んでギネスを追った。

 

きっと彼は、あの場所にいるだろうから。

 

フーシャ村で最も高い位置にある風車の中は、マキノと秘密基地にして遊んだ場所だった。何かがあると、お互いにここに来て、村と海を一望できるこの場所で、悩みを言葉にして風に乗せていた。

 

けれど、今のギネスはそんな気にもなれなかった。

 

「………っ…くそッ…」

 

血飛沫なんて、何度も見たのに。

 

「────ッ……クソっ……」

 

涙なんて、何度も見たのに。

 

「………仇も、とってやれねぇ…ッ!!」

 

この世界に、神など存在しない。

思い切り叩きつけた拳が裂けて、血を滴らせても、心はずっと叫び続けていた。

 

「よいっしょっと……やっぱり、ここにいた。」

 

そんなギネスの背後から、柔らかな声がかけられた。

 

「…っ…マキノ……どうして…」

 

「楽しい事も悲しい事も、2人で…いつも風に乗せるのはこの場所だったから。」

 

まぁ、そんなに悲しい事は覚えが無いけどね。と笑う少女に、弱いところを見せたくなかったギネスは精一杯の笑顔を見せた。

 

「……聞いてたよ。俺が居なくなってから、よくこの場所で声を風に乗せてたって。」

 

「だ、誰が言ってたの!?村長ね!村長でしょ!!」

 

「さぁ?それは言えないよ。」

 

そうして苦笑してみれば、マキノは口を真一文字にギュッと結んだ。その顔は、今にも泣きそうだった。

 

ギネスの胸が、軋みあげるような痛みを覚えた。

 

「ど、どうしたマキノ!なんでそんなに泣きそうに────」

 

「どうして……無理に笑うの?」

 

マキノの言葉で、ピタリとギネスの表情が止まる。

 

「無理に、なんて」

 

「無理してる。4年も一緒にいたんだ…分からないと思う?」

 

「してないよ…」

 

「してる!帰ってくる時、あなたは私を無視してどっか行ったりしないから。」

 

「…してねぇよッ!!これ以上優しくしないでくれっ!お前に、弱いところなんて見せたくないんだよ!!」

 

「嫌だっ!私を1人にしなかった貴方を!1人になんてできない!」

 

叫んでも叫んでも、マキノはギネスの傍を離れなかった。

 

あれ程に強かった彼の瞳は、今やくすんだ灰色に燃え尽きてしまった。

 

その正義を背負った広い背中は、今や随分と小さくなってしまった。

 

けれど、マキノにとってギネスという少年は、海軍の大佐ではなく、ただの幼馴染なのだ。

 

だらりと両腕を垂らし、膝から崩れ落ちたギネスは、マキノに縋り付きながら、ボロボロと涙を流し、懺悔のように語り出す。

 

守れなかった。仇も取れないと、悲愴に語る彼はもう、己の主柱であった正義を、叩き折られてしまった後だった。

 

彼は、もう正義のために戦うことは出来ないだろう。

 

これは、正義によって正義を砕かれた少年の黄昏。

 

明けることのない、暗闇の始まりだった。

 

 




ちょこっと設定変えました。

こっちに修正するので、こっちが正しいです。

矛盾点があればよく見て今後修正します。

2人目のヒロインいる?

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