今夜は「PARTYS BAR」はおやすみ。それもそうだろう。いま、この店には海軍の英雄的存在が2人もいる。
「いやぁ!派手にやったようじゃなぁ!シーカー!」
「笑い事じゃねぇっての爺さん。」
「ガープ…あんた、ろくな親じゃないね。まぁ、今更か。」
「そう言うなおつるちゃん!こやつがその辺の四皇幹部に負けるわけなかろう!」
「アホか、その辺に四皇幹部がゴロゴロ居てたまるか。」
豪快に笑うガープとは対照的に、白髪を纏めた、凛とした初老の女性────海軍中将つるは、咎めるような目でガープを見ていた。
そして、シーカーは未だに隣に陣取ったマキノに手を焼いていた。
「お、おーいマキノさーん?……もう平気だって…」
「なにか?」
「あ、いや…その……」
「なに?3日も定期連絡しないと思ったら?ボロボロで帰ってきてっ…?挙句の果てにろくな手当もしないで放置しようとしたわよね?そんな自己管理が出来ないお子ちゃまを放ってはおけないでしょう?私、間違ってる?」
「……いぇ、なんでもありません……」
「見事に尻に敷かれとるね。きかん坊だったアンタが、ここまで大人しくなるかい?」
「うぐっ…そりゃ、昔はその…よく命令無視してたのはそうですけど…やめてくれよ、おつるさん…」
「ぶわっはっはっは!!尻に敷かれとる!!ワシの義息子の癖に!」
「このジジイ……っ!!」
マキノやおつるの手前、下手に暴れられないシーカーは、青筋を浮かべながら、拳を握るしか無かった。
「ジジイ!?儂と血の繋がりもない義息子の癖に、ジジイじゃと!?お父さんと呼ばんか!?」
「その血の繋がりもねぇガキを拾って義息子にしたのはてめぇだろこの自分勝手の擬人化!!海賊中将!!」
「なんじゃとシーカー!!貴様、よりにもよって儂に海賊中将じゃと!?」
「あぁ何度でも言ってやる海賊中将!おつるさんやセンゴクさんにいつも迷惑かけやがって!謝り回ってたこっちの身にもなれってんだよ!!てか親父の天職確実に海賊だろ!なんで海軍にいるんだ!?」
「何を言うか馬鹿もん!!ワシほど品行方正で完璧な海兵がどこにおると言うんじゃ!?」
「品行方正!?マジで言ってんなら病気だぞ!?傍若無人!これこそ親父の為にある言葉だね!」
「傍若無人!?義息子の癖に生意気なぁ…!よしっ、表に出い!そのねじ曲がった認識を叩き直してやる!」
「は〜ん!!やってみろ海賊中将がよぉ!!いつまでも昔のまんまだと思ってんじゃねぇぞ!?」
この2人、会えばいつもこのように喧嘩を始めるのだが、これは恒例のやつでこのふたりのコミュニケーションとも言える。いつもは穏やかで冷静なシーカーだが、ガープとはいつも子供のように言い争っている。
シーカー自身、自分よりも格下しかいない東の海でここまで実力を上げ続けているのは、この喧嘩のおかげだと思っている。
いつもはあらあら、とか言いながらマキノも流しているところだが、今日はタイミングが悪かった。
「喧嘩はいいがね坊や…後ろ、見てみな。」
「後ろ?……あっ」
「
満面の笑みのマキノ。いや、目が全く笑っていない。それに、呼び方も戻っている。
そのただならぬ様子に、顔色を青くしたシーカーは、必死に言い訳を募った。
「い、いや聞いてた!聞いてたって!い、今のは売り言葉に、買い言葉…ってやつ?!ほ、本気じゃねぇって!」
ふーん、と間延びした返事をしてから、マキノはすすすっとシーカーに近寄る。
「……つんっ」
「────っ!!?!!?!?!!」
シーカーの折れた助骨をつつけば、忽ちシーカーは崩れ落ち、冷や汗をダラダラ流しながら息を荒くした。
新世界、その中でも上澄み中の上澄み同士の激突。一撃とはいえ、互いにタダではすまなかったのだ。
「…こんな、酷い怪我なのに……私の言う事、聞けないの……?」
「…っ、そ、それは……」
「貴方に傷ついて欲しくないって、思う私はっ…間違ってるの?」
ギュッとスカートを握ったマキノの声は、少し震えていた。
今まで、切り傷程度を負う事はあったが、3日も連絡ができない状況などありえなかった。
だから、彼女の中に、シーカーが帰ってこないのではないか、という不安が過ぎったのだろう。
罪悪感が募るシーカーは、マキノの腰を抱き寄せて悪かったと笑った。
「熱くなったよ。ありがとう、治るまでは大人しくしてる。」
「本当?」
「本当さ、酒も断つよ。」
「────うん、わかったわ。」
そう言って笑ったマキノは、満足気にシーカーの腕の中に収まった。
「かなわないなぁ…」
「女は男が思っているよりもずっと強かなもんさ。ねぇ?マキノ。」
「ふふっ、はい。おつるさん仕込みの女ですもの、強かになりたくなくても、なっちゃいました。」
「それでこそ、私の教え子さ。」
にやりと笑ったおつる。シーカーがおつるの直属の部下だった時、帰省する際にはつるもここに来ていたことで、女として強く生きるにはどうすればいいかを叩き込まれ、海賊が来ても動じない肝の座った女になった。
「そうじゃ、忘れとったシーカー。」
「あん?なんだよ。」
「旅行に行くとか言っとったが、今はやめといた方がええじゃろう。」
「なんで?」
「【金獅子】じゃ。目撃情報があってのう…表立って動くつもりはなさそうじゃが……それでも念の為じゃ。ワシとおつるちゃんも、その確認で今海中回っとる。」
「シキ…だっけか。ロックス海賊団の一員だったとかいう。」
「そう。坊やとギオンが撃退した【銀斧】と仲間だった奴さ。」
「【銀斧】……懐かしいな。あの時は逃しちまったが、今なら……確実に捕えられる。」
懐かしい名前にシーカーは珍しく好戦的な笑みを浮かべ、あの戦いを思い出した。
今奴がどれほど成長していようと、確実に捕らえるという自信に満ちた笑みは、ガープとそっくりだった。
「……悪い顔しとるのぉ…!流石、我が義息子!」
「アイツと対峙して、そうやって笑えるのはアンタの強さなんだろうね。ガープに育てられただけはあるね……シキは制圧力に関しちゃ、頭1つ抜けた海賊だ。フワフワの実の能力を使って、軍艦を何隻も吹き飛ばすめちゃくちゃな奴さ。その上狡猾、海賊らしい海賊だね。」
「…で、その金獅子がなんだって俺たちの旅行と関係が?」
「奴が、東の海を壊滅させようとしとる噂がある。」
「………なんで?」
「話せば長くなるんじゃが…私怨じゃろう。」
「また傍迷惑な……まぁ、海賊なんぞそんなもんか。」
うんざりとした顔のままため息をしていると、ガープが部下に命じて荷物を持ってきた。
「ここは最弱の海なんぞと言われるが…それは平和の象徴でもある。お前さんは、東の海の治安維持に尽力してくれとるが、もしもがあった場合…全力を出せん状況は後悔を残すだけじゃ。」
「………」
「その黒槍は確かにお前さんの力となっている。だが、本領は矛ではなく"盾"じゃ。もし今回のカタクリとの戦い、コイツがあればそこまでの傷を負うことはなかったじゃろう。」
「────それは…!」
ゴトッ、とカウンターに置かれたソレは、 シーカーが目を見開く物だった。
それは、木製の円盾。かつてシーカーと共に死線を潜り、多くの人を護った。己の正義の根底ともなる、半身とも言える盾。
大佐の就任時にガープに贈られた、紛うことなき最強の盾。
宝樹アダムから直接削りあげた特注の盾。あらゆる弱者を、この盾と守ってきた。
「……お前としても、コイツを持つことは未だ悩むじゃろう……だが、守れなかった後悔を、お前はよく知っている筈じゃ。信念と、大切なものの命を天秤にかける真似だけはするな。お前にはもう、マキノがいる。」
「…………あぁ。」
懐かしい装備。昔は、どこに行くにもこの槍と共にあった盾。あらゆる海賊の攻撃を弾き、シーカーを、仲間を、市民を守ってきた。
────守れなかった俺にはもうッ…お前を持つ資格がねぇ…
「シーカー……」
マキノは、盾を捨てたその瞬間を知っている。あの日、どれだけの思いで彼がこの盾を捨てたのか、マキノには計り知れないものがあった。
だから、少しでも彼が悩まないように、そっと彼に寄り添った。
そうやってシーカーの腕を優しく抱き寄せたマキノを見て、シーカーは目を瞑った。
捨てた正義は取り戻せないし、取り戻すつもりもない。
けれど、守りたい物があることだけは変わらなかった。
「………もう一度、俺と共に…守ってくれるか?」
何も語らぬ盾に問い掛けても、答えはかえってこない。
久しく感じていない重みを左手に感じれば、今までずっとあったように馴染んだ。まるで、待ち侘びた主の問いかけに答えるように。
ずっと、待ってた。
そう言う様に、盾がかつてのように体の一部となった。
どこか吹っ切れたように清々しい表情を浮かべるシーカーに、ガープはいつものように笑った。
「決まったようじゃな!んじゃ、儂は帰るぞ!」
「そうか。じゃあな。」
「アッサリしすぎじゃ!!もっと惜しまんかい!!」
打って変わって、急にシーカーの頭を殴り付けたガープは、圧倒的理不尽を発揮した。
「ってぇなこのクソジジイ!?俺今重傷者なんだが!?」
「じゃあな、じゃないわ!もっと惜しまんか!」
「勝手に来て勝手にキレやがって!つーかルフィどうした!今日あってねぇぞ!?」
「あぁ、ダダンの所に預けた。」
「はぁ!?俺が鍛えてる話したよな!?」
「エースに会わせる為じゃ。奴には同年代の人間との接触も必要じゃろう。」
「お、このっ⋯⋯珍しく、まともなこと言うじゃん。」
「珍しくは余計じゃわい。ほんじゃあな。」
「私もこの辺で帰るとするよ。」
「はい、おつるさんも、また。」
はいよ、と手を振りながら去っていく2人を眺め、シーカーは盾を撫でた。
「⋯⋯守るんだ⋯俺が、この手で。今度こそ⋯」
「シーカー、2週間後にダダンさんのところに行こうと思うの、お酒の仕入れ手伝って!」
「はいよ〜。旅行、行けなくなっちまったな。」
随分と楽しみにしていたようだったマキノに尋ねても、マキノはいつもの笑顔を浮かべたまま口を開いた。
「いいの、貴方がそこにいれば⋯⋯それが私の居場所だから。旅行ならいつでも行けるし。」
「⋯⋯ありがとうな。今度、必ずお前の行きたいところに行こう。」
「本当?それじゃあ、ココヤシ村に行きたいわ。直接あの美味しいみかんを仕入れたくて。」
「わかった、あそこなら割とすぐ行ける。小旅行程度で行こうか。」
「うん、頼りにしてるわ。」
海上、海軍本部に向かうガープとつる。
ガープは久々に会った義息子の顔を思い浮かべながら、ガープは懐にしまっていた彼宛ての手紙をぐしゃりと握り潰した。
「渡さないのかい?それ、センゴク⋯いや、もっと上からのものだろう。」
「ええんじゃ⋯⋯もう、奴を縛る鎖なんぞ、あっちゃならん。」
「⋯⋯私達の正義は⋯⋯あの子を守れなんだ。もう、私達にその資格がないのは、間違いないだろうね⋯」
直属の上司だった物として、シーカーの脱退につるも責任と、罪悪感を感じている。彼の正義は清らかに過ぎ、綺麗に過ぎた。
この汚れきった海軍や、果てしない悪意が溢れる世界に、彼は突き放されてしまったのだ。
「あぁ⋯⋯この件は、ワシの首を掛けてでも握り潰す。なにせ、奴は海賊なんぞじゃないわい」
「野放しにしておくには強すぎる⋯⋯上の決定にしても、あの子の信念をへし折るやり方だ⋯私は、その事が辛くて仕方ないよ⋯」
「だからこそじゃ、儂の首と天秤に掛ければどっこいくらいにはなるじゃろう。」
「⋯⋯私も、罪滅ぼしとしてやろうかね。」
「んじゃあ、一緒にセンゴクの所に殴り込むか!」
「バカ言うんじゃないよ、殴り込むのはあの五人の老害の所さね。」
「ぶわははははっ!老害と来たか!そうじゃなぁ!始末書は後で書くとするか!」
夜の空を見上げながら、その手紙を海風に乗せる。誰も知る必要は無いと、誰にも知られることはないように。
「この名も⋯⋯奴が知る必要は無い物じゃ。あやつは、自由に生きるべきじゃ。老いぼれどもに、子供の人生を使い潰す権利なんぞ、ありゃせんわい。」
「⋯⋯あんたも、人の親だよ⋯ガープ。」
フワリと舞った紙は、形を元に戻しその内容を顕にし、海面にすぐ溶けて崩れていった。
【ハートラン・D・ギネスの七武海加入要請。】
2人目のヒロインいる?
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いる
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いらない