ガープ達の来訪から2週間後、だいぶ怪我が癒えたシーカーは、何度かマキノと共にダダンという山賊の元に訪れたが、タイミングが悪くルフィに顔を見せられなかった。
そして、次にルフィの顔を見たのは半年がすぎた頃。
「あんな慌てて泣いてるマキノ初めて見たぞ!シャンクスの腕が食われちまった時もあんなに泣いてねぇし、慌ててなかったのによ。」
「悪ぃことしたって反省してるよ………待て、シャンクスの腕が食われた?」
あの日のことを話すルフィに、シーカーは何個か聞き逃せない単語を聞いたような気がしたが、とにかくそれを流した。
「ゴムゴムか⋯まぁ、悪くないだろ。路線は今まで通り素手の戦いを想定していいな。んで、進捗は?」
「あぁ!シーカーが言ってたそる?のにゅうもん?はできるようになったぞ!」
「いよし!んじゃ、修行は次の段階だな!」
「おっし!わかった!俺、もっと強くなるぞ!」
意気込むルフィを微笑ましく思いながら、背後から感じるこちらを非難するような視線と、それに呆れるような視線に目を向けた。
そこには、そばかすが目立つ黒髪の少年と、歯抜けのハットを被った少年が立っていた。
「そんで⋯⋯久しぶりだな、エース。悪人面に磨きがかかったか?」
「久しぶりってレベルじゃねぇわ!最後に会ったの俺が5歳の時だろ。聞きゃ2年半前からフーシャ村にいたらしいじゃねぇか!なんで会いに来なかった!」
子どもの頃、ガープに連れられてシーカーがこの村に来て数年が経った頃に、これまたガープが赤ん坊を連れてやって来た。それが、エースだった。しばらくはこの村で一緒に過ごし、海兵になってからも村に帰ってくるとよくマキノと共に遊び相手をしていたものだ。
「そりゃ悪かったよ、中々暇が出来なかったんだ。」
「どうせマキノとイチャイチャしてたくせに暇だらけだろうが!昔から俺がいるところでも、ジジイがいるところでも、イチャイチャイチャイチャ!子供のころから見せられてたこっちの身にもなれ!?」
「ばっかお前!マキノとのスキンシップが暇つぶしだとでも言いてぇのか!?いつでも本気だ!!」
「ほんと質悪いなお前っっ!!」
若干頬を赤くしながらツッコむあたり、初さが見て取れるが、シーカーは気にせずエースの隣に目を向けた。
「はぁ~…お前がふたりの言ってたシーカーか!めっちゃ強いんだってな!ルフィの強さの秘訣教えた奴なんだろ!」
「おう、お前がサボか。シーカーだ、よろしくな。」
「あぁ!よろしく!」
ニッ!と笑った歯抜けの少年は、ある程度の教養を感じさせ、ゴミ山の孤児ではないだろうと予想するが、やぶ蛇かもしれないと口を閉じた。
「なぁ!シーカー!俺、2人が兄ちゃんになったんだ!」
「そうか!良かったな、ルフィ。2人とも、このバカを頼むぞ。」
「シーカーに言われなくても、そのつもりだ。」
「おう!俺も弟は初めてだからな、大切にしてるよ。」
ぶっきらぼうに言うエースと、素直に笑ったサボを見ていい兄貴が出来たな、とルフィの頭を乱暴に撫でる。
「さて、クソガキども。親父から話は聞いてるよ。全員海賊になりたいんだって?」
『おう!止めんなよ!』
「声揃えんな、止めねぇよ。なら、お前たちがどんだけ強いか見てやる。来い。」
『望むところだ!』
またもや声を揃えた3人組に苦笑してから、シーカーは3人を見据えた。
「まずは俺からだ!修行の成果見せてやる!」
「ほぉ⋯!速くなったな!ルフィ!」
一番最初に向かってきたルフィは、既に剃を完成させていると言ってもいいレベルの速度で接近。
「ゴムゴムの…【
「うおっ!?伸びるの意外と強いな!?」
ルフィの攻撃は想像以上の威力を持っていて、背後にあった木をなぎ倒した。
伸びる腕、伸びる足、打撃無効。悪魔の実を食ったと聞いた時は随分と驚いたが、どうやら当たりを引いたようだ。
「へへん!どーだシーカー!強くなったろ!」
「まぁな、だが⋯本物の剃を見せてやる。お前はこれ以上に速くならないといけないんだ。」
軽く音が鳴ったと思ったら、既にシーカーはルフィの後ろに陣取っていた。
「あれっ?シーカーどこ行った?」
「こっちだ。まだまだ甘いな。」
「えぇ!?どうやって移動したんだ!?」
「剃を鍛え上げていけば、こんなもんじゃないぞ?感知しても追えない速度になる。そして……」
指先にググッと力を溜めて、ルフィの額を弾けば、軽く吹っ飛びゴロゴロと地面をころがった。
「イでェぇぇ!!!?じいちゃんと同じだァァっ!?」
「お前、打撃は効かないはずだろ!?」
「ルフィになんで攻撃が通るんだ!?」
三者三様に驚く様をうんうんと満足気に頷いて、シーカーは笑った。
「これはもっと後で教えてやるよ。お前たちはまず基礎的な戦い方と体を作っていかないとな。」
え〜!!と避難の声を浴びせてくる子供たちを笑いながら、シーカーは残りのふたりに目を向けた。
「エース、サボ。かかってこい。見てやる」
「────へっ、2人同時でも余裕ってか?後悔するなよシーカー!あの時の俺じゃねぇぞ!」
「よっし!やるぞエース!」
好戦的に笑った2人が、シーカーの前後にまわり、挟んで同時に攻めたてる。
「おおっ、意外と考えてるな。人数のアドバンテージは活かせるなら活かした方がいいからな。」
正面のエースの拳を躱し、サボの蹴りを足裏で止めて弾き飛ばす。
「なんで当たんねぇんだ!?」
「おわぁっ!?なんで後ろ見てねぇのにわかるんだよ!」
「動きは悪くないな。寧ろそれで完成されてる、今から余計に手を加えると変な癖が着くか⋯おし、2人はそのままのスタイルでいいな。」
荒削りだが2人の戦い方は悪くない。単独で戦ってもそこらのゴロツキ海賊相手なら余裕だろう。
ずぶの素人であったルフィよりも手はかからないが、アドバイスの仕方を間違えれば沼にハマる可能性がある。このふたりは慎重に鍛えなければならないだろう。
エースの攻撃を掴み、背後にいるサボに投げて激突させる。
『どわぁ〜!?』
「よし、さぁどんどん来い!こんなんじゃいつまでたっても海に出るのはおろか、海兵にだってなれねぇぞ!!」
「シッシッシ!これからだシーカー!」
「クッソ!ルフィに負けてられるか!!」
「末っ子に負けられねぇ!」
「その意気だクソガキども!!」
その日、コルボ山に三人の悲鳴が響き渡った。
気が付けば辺りはもう真っ暗、三人は地面にぶっ倒れながら息を整えている中、シーカーは平然としながら火を起こしていた。
「あー疲れた!!よし、飯にしようぜ!メシ!」
「あぁ、待ってろルフィ。今この後ろにいるイノシシ丸焼きにしてやっからな。」
「なんで……そんなっ…平気なんだ…っ!?」
「シーカーはともかく……ルフィまでなんでこんな体力余ってんだよ……っ!?」
背後に迫っていたイノシシを瞬殺し、さっそく丸焼きに取り掛かった。
ヘトヘトでぶっ倒れているふたりとは対照的に、元気なルフィは流石シーカーの扱きを耐えて来た基礎的な体が出来上がっているだけはあった。
「シーカーの修行久々だけど、本当にキツイなぁ!」
「いやいや、ルフィは随分持つようになったろ。反対に、兄貴たちはだらしねぇなぁ!しゃんとしろよ!」
『お前らがおかしいんだよ!?』
「おいサボ…ルフィに負けてらんねぇぞ…!」
「明日から走り込みだなぁ…!」
二人の激しい突っ込みに笑いながら、四人で飯を食う。そこからは、ルフィの攻撃の提案、サボ、エースの体つくりのメニューを考えながら過ごした。
笑いながら飯を食う三人を眺めていると、自然とシーカーは孤児院に居た時の記憶のかけらを拾っていた。
『みんなでご飯食べましょう?おいで、怖くないわ。』
あの時、母のように自分を受け入れた名もなきシスターは元気だろうか。今も、どこかの地で孤児院を営んでいるのだろうか。
随分と懐かしい人の顔が浮かんだシーカーは、その顔を思い出と共にしまい込んだ。
「なんだと!?シーカーのほうが強いね!!」
「流石のシーカーでも主トラには勝てないだろ。」
「でも勝てそうなのがなぁ…」
「なぁ!シーカーも何とか言ってやれ!主トラにも勝てるだろ!?」
「──────さぁな?そいつがとんでもない化け物なら話は別だが。」
また、子供三人の声が響く。
シーカーはこれから、気まぐれにこの場に来て修行をつけながら、三人の成長を見守っていく。
そして、また季節が巡ったころ。その日、シーカーは珍しくピリついていた。
シーカー、マキノ21歳
いつも柔和な目をキッと細め、冷たく遠方を睨んでいた。
いい加減よして欲しいマキノは、痺れを切らしていつもより強めにいった。
「シーカー!そんなにイラつかないの。」
二週間前の新聞を見てから、ずっとこの調子。マキノが一緒にいるときはそうでもないが、そうでないときはひどいものだ。特に、サボが攫われてからは。
「でもよマキノ!なんだってあんな奴らがこんな辺境に来るってんだ!!」
「んもう……ここにはどうせ来ないんだから、そこまで気にする必要もないじゃない。」
「ああ俺たちはな!だがサボだ!あいつは元々この国に絶望してたんだ!それなのに⋯⋯!」
数週間前、サボが肉親に連れ去られた。シーカーとしても、居たくもない場所にいる苦痛はよく理解できるし、なんなら救い出してやりたいくらいだ。
場面にいあわせたエースとルフィなら、逃げきれただろうが、抵抗するなら指名手配をする、と脅されサボは2人を思って家に帰った。
確かに、今指名手配されてはこの国だけとは言え、陸軍が動く。流石にそうなればある程度の力しかない2人はいつか物量に押しつぶされる。サボの判断は正しかった。
シーカーが助けに行こうかと考えたけれど、それはサボの覚悟を踏みにじってしまう事になる。
歯がゆい想いのまま、シーカーは拳を握った。
「サボ君……高町に連れてかれちゃったから、直接見ちゃうかもしれないのね……」
「そうだ!あの神を騙った屑共が…!」
「………」
そう、このゴア王国に天竜人が視察に来るのだ。
シーカーの心が折れた原因を考えれば納得の反応なのだが、どうにもそんなシーカーを見るのは、あまり好きではなかった。
ずいっと顔を覗き込んだマキノは、シーカーの固くなった頬に手を当て、ムニムニと揉む。
「そんな顔してないで、私は優しく笑ってるあなたが好きよ?」
「………悪かった…イライラしてるんだ……また、誰かが殺されるんじゃないかって…俺は…」
「…………ねぇ、シーカー。ココヤシ村に行かない?」
「え、今?」
突然の提案に、シーカーはきょとんとしたまま放置して、マキノは早々に準備し始めた。
「お、おいおい!随分急だな⋯」
「思い立ったが吉日、その日以降は全て凶日。でしょ?丁度仕入れもしたかったし、旅行もコノミ諸島辺りなら行っても平気だと思うの。」
「⋯まぁ、そうだな。」
「それに、貴方がゴア王国にあまり居たくないのなら、ちょうどいいと思わない?」
「そうだなぁ、よし行く────」
「どっか行くのか!?俺も連れてってくれ!」
シーカーの言葉を遮るように、BARの入口には満面の笑みでルフィが立っていた。
「ルフィ!なんで一人でいるんだ?」
「今日マキノとシーカーに会いたくなってよ!そしたら、どっかいくんだろ!俺も連れてってくれ!」
2人で顔を見合せたシーカーとマキノは、弟の可愛いわがままに付き合ってやるか、と微笑んだ。
「わかった、連れてってやる!」
「それじゃあ一緒に行きましょうか。」
「ホントか!?やったぁ!!」
小躍りしながら喜ぶルフィに、2人はまた優しい微笑みを浮かべながら、子供がいたらきっとこんな感じだろうと、未来を思った。
「準備はまだここにお前の着替えとかあるから、必要ないな。」
「準備できたわ!」
「よし!じゃあ今行こう!」
「おっし、行くか!ココヤシ村へ!」
『おー!!』
揃ったその声に、シーカーは俺がお守りしなきゃなぁと苦笑した。
「すっげぇー!速ぇーー!」
「おう、そりゃそうさ。海軍に雇われたとんでも科学者が退職の時に贈ってくれた高速船【オリオン】だ。あれ、俺昨日もこれ説明した気がするんだが。」
「あっ!魚!」
「だよな。知ってた、お前人の話ホント聞かねぇもんな。」
今、3人は海上を高速で進み、コノミ諸島まであと数時間のところまで来ていた。
この自動高速船【オリオン】は、シーカーが海軍を退職する時に縁が出来た雇われの科学者が世話になったから、と贈ってくれたもの。今でも年1回は連絡を取るが、相変わらずの多忙ぶりで可哀想になるくらいだ。
せっかくこの船の形は風の抵抗を無くすためだとか教えたのに、としょんぼりしていると、水平線から島が見えた。
「島だああああ!!!」
「お、見えてきたな?」
「…んぅ……?……あれ…本当に速かったのね。」
風を切る音を押しのけるようにルフィの声が響く。船室でシーカーの肩を枕にして寛いでいたマキノはもう着いたのか、と欠伸を大きくこぼした。
「──────だれだ?」
「……ルフィ?」
「なぁ!だれだっておまえ!!」
船を港につけるために準備を始めようとすると、ルフィが急に独り言をし始めた。寝言ではない、確実に何かと意思疎通を図ろうとしているが、どうにも思うようにいかなかったようだ。
何事か見ていれば、シーカーの頭の片隅にあった可能性が、色を帯び、今の状況と結びついた。
まさか、と思ったシーカーは、この先にあるココヤシ村の気配を探る。
「ルフィ……何が聞こえる?」
「さっきから、なんで俺たちが、とか…まだバレてねぇとか…オレンジソースが最高とか言ってよ!ずっと誰かの声が聞こえんだ!」
「どういうこと?私には何も聞こえないけど…?」
耳に手を当てて眼を瞑り、真剣に聞き取ろうとするマキノには何も聞こえないようだが、それもそうだろう。
(覚醒した⋯⋯間違いない…今この瞬間に!?)
この色の覚醒には、いくつか方法がある。そのひとつが、人間の強い感情を、才能のあるものが一身に受けた時。
今、それが起こったのだ。
見聞色の覇気の覚醒時、周囲の強い感情を受け心の声が聞こえることがある。今、ルフィにはそれが起こっている。
元々、ルフィは野性の勘に近い感覚を持っていたことはそうなのだが、それはあくまで勘。今のように、内なる力に依るものではなかった。ただ、才能の片鱗は今思えばあった。
『ゴムゴムの⋯【ボー】⋯⋯』
『うわっ!?こんなアホ面なのに全然当たんねぇ!!』
そして今この瞬間、ルフィの内に宿っていた覇気が、覚醒したのだ。
「……ルフィ、今は何が聞こえる?」
「なんかやべぇ…!?叫び声が聞こえるぞ!?」
「確定か…⋯!」
「のじこ…なみ?……なんだ、だれなんだ!?」
気配を見るに、海賊に襲われているようだが重症者は一人。下手人は人ではない、この感じは魚人だろう。しかし、今ここから向かうとなっても、この船に二人を置いていくのは悪手だ。せめてマキノに停泊させる方法だけでも教えてから向かわなければ。
考えたシーカーは、槍を掴んだ。
「ルフィ。今からお前を、その叫びが聞こえる場所にぶっ飛ばす。コントロールは任せろ、時間稼ぎでいい、そいつをぶっ飛ばせ、必ずすぐに向かう。」
「わかった!行って、ぶっとばしゃいいんだな!簡単だ!!」
「ちょ、ちょっとシーカー何言ってるの?ルフィを飛ばすって…」
「マキノ、時間が思った以上にない。説明は後だ。」
ルフィに槍を握らせて、弱った気配のもとに狙いを定める。
「いいなルフィ!無茶だけは………────いや!無茶はしろ、だが死ぬな!!」
「おうっ!!」
守るべき対象だったルフィが、今目の前で強者へと至る片鱗を見せた。これからルフィを強くするなら、強敵との戦いは必須。だからこそ、シーカーはルフィを千尋の谷に突き落とす覚悟を決める。
それに対して、ルフィは当然とも言うようにニッと笑って即答した。
「行くぞ!」
「おし!」
槍をルフィごと持ち上げ、腰溜めに構えてバットのように振りぬいた。
「────おぉぉぉぉっ!!!────」
「頼むぞ、ルフィ…!マキノ、やり方を教える!操縦室に来てくれ!」
「う、うん!わかった!」
遠のくルフィの雄叫び、飛んで行ったルフィを見ながらすぐさまマキノに操作を教えにかかった。
「────くだらねぇ愛に、死ね。」
銃口を向ける男に、向けられる女。そして、ボロボロと涙を流しそれを見つめるオレンジ髪の少女と銀髪の少女────ナミとノジコ。
「ノジコ!ナミ!────────大好きっ!」
『ベルメールさんッ!!』
女は────ベルメールは覚悟した。これで、自分の人生は終わる。この子達の人生を見守ることが出来ないのが、悔やまれる。
それだけだ。
けれど、きっとこの子達は立派に成長する。
ノジコもナミも、綺麗に成長するだろう。だって、血は繋がっていなくても、2人とも私の子なんだから。
ベルメールは穏やかに笑いながら、その凶弾を受け入れようとした時
────諦めんじゃねぇ!!見てぇなら、自分の目で見ろ!
心に直接打ち付けるような声が、ベルメールの体を動かした。
「⋯⋯⋯なんの真似だ、女海兵。」
『────────おぉぉ────────』
「⋯⋯⋯⋯声⋯?」
爆発した銃口から放たれた弾を、避けた。
聞こえない声に突き動かされた。
「────────ははっ、死にたく⋯⋯ないな⋯」
抑えていた涙が、感情の発露と共に溢れ出た。
再度向けられた銃口は、もう避けられないだろう。後悔の涙を流しながら、ベルメールは吠えた。
「くたばれ!魚ヤロウ!2人に手ぇだしたら死んでも殺してやる!!」
「⋯⋯⋯遺言は、それでいいな?」
『────おおぉぉぉっ⋯────!!!』
「誰かぁっ!!助けてぇッ⋯⋯!!!」
その瞬間、確かにベルメールの耳に声が届いた。
男が引き金に、指をかけた瞬間。ナミの悲鳴とともに、男の真横に影が飛びこんできた。
「────ゴムゴムの〜⋯っ【
「ゴブァッ!!?」
『ア、アーロンさん!?』
その影が、男────アーロンを家屋を崩壊させる程に大きく吹き飛ばし、バチンっ!と言うゴムが縮んだような音と共に着地した。
「────なっはっはっはっ!すげぇなシーカー!ドンピシャってやつじゃん!」
「⋯⋯⋯だ、誰?」
麦わら帽子を舞い上げ、着地した小さな影は、男を吹っ飛ばしたとは思えないほどおどけて笑っていた。
「ん!その声!お前だったのか!さっきから、成長をみてぇとか言ってたの!見てぇなら見りゃいいだろ!」
「えっ、まっ⋯⋯え?」
さっきから訳の分からないことを言う突如降ってきた少年は、困惑するベルメールをよそに、吹っ飛んだアーロンの方を向いてニッと笑った。
「おれ、シーカーが来るまで頼まれてんだ。なんか鼻が長ぇやつもここにいる全員も、おれが相手してやる!」
「⋯⋯バカっ!逃げな!子供一人がどうにかできる相手じゃないんだよ!!」
「怪我、してんだろ。大人しくしてろ!もうすぐにシーカーが来る。多分何とかしてくれる!」
その間に、駆け寄ってきたナミは、ベルメールにしがみつくように抱き着きながら、涙ながらに口を開く。
「ベルメールざん⋯っ!!あ、ありがと!ありがとうっ!!たすけてぐれでありがどうっ⋯!!」
「おう!いいんだ!」
あまりにも頼りないその小さな体から放たれる言葉は、あまりにも安心感に溢れていた。ベルメールの強ばった体がゆるみ、ぐちゃぐちゃに踏み潰された左腕が痛みを思い出すほどには。
「っ⋯!?クソガキィ⋯!とんでもねぇことしてくれたなぁ⋯!?」
瓦礫から飛び出したアーロンは、口端から血を流し、青筋をたてながらルフィを睨みつけた。
「頑丈だなぁお前!主トラでも1発で倒せた技なのに⋯⋯だけど、技の試し打ちにピッタリだ!」
「試し打ちだァ⋯?随分と大きく出たじゃねぇか。マグレで1発当たっただけで調子に乗るな⋯!」
「にっしっしっ!んじゃ、マグレかどうか試してみるか?俺の海賊になるための初めての戦いだ!」
ポキパキッ、と独特な音を指から鳴らして、ルフィは不敵に笑った。
アーロンは、目の前の小さな子供にさえ、容赦はしない。ましてや、海賊を名乗ったからには。
「海賊を語ったからには⋯名乗れ小僧⋯⋯殺す相手の名前位は知っておこう。」
舞い上がった麦わら帽子を掴み取り、少年はそれを見つめ、ナミの頭に乗せた。
「預かっといてくれ!俺の宝なんだ!」
「⋯⋯⋯うんっ⋯わかったっ⋯!!」
ぐしぐしっ、と涙を拭って、ナミは帽子を大切そうに被り直した。
1人アーロンの海賊団に立ち向かうルフィの気持ちは、不思議と冷静だった。
『感情を昂らせるのはいい。だが、クールに熱くなれ。なに、本当の戦闘になればよくわかるさ。』
今は、前にシーカーが言っていた言葉を理解できる気がした。
ルフィは心の中で高鳴るドラムの音に身を躍らせ、ニカッ!と笑った。
何者でもなかった夢を抱く少年は今日この日、この場に居合わせた全ての人間に、片鱗を見せつける
「おれは、モンキー・D・ルフィ
────海賊王になる男だッ!!
2人目のヒロインいる?
-
いる
-
いらない