目の前に『それ』が居て、無視し、考えないでいる事が出来るだろうか?







※注意※
:オリキャラが出ます!
:ただしオリ主かと言われると微妙なのでオリ主タグは今の所付けてません!
:オリキャラの元ネタを特定の書籍から引っ張ったつもりも無いのでクロスオーバータグも付けてません!
:「宝石の国」のネタバレを含む可能性があります!
:解釈違いもあり得ます!
:諸々不満がありましたらブラウザバックをお願いします!


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骨を纏い、肉を着け、魂を写す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水底に渦が巻く。

 軽いもの、重いもの、柔らかいもの、硬いもの。様々なものが渦に流され寄り集まり、散らされ、やがて同じようなもの同士で纏まって降り積もってゆく。

 

 

 初めが『何』だったのかは誰にも分からない。

 じりじりと形を変える、硬く無機質な鉱物だったかもしれない。

 流されるままに色を失ってゆく、柔く艶やかな肉片だったかもしれない。

 あるいは水底に囚われ、微かな怨嗟と嘆きを漂わせる透明な靄だったかもしれない。

 

 

 いずれにせよ()()は水底で生まれ、形を成し、育まれていく。

 何も知る事は無く、水底の渦を押し潰す程に大きくなってゆく。

 

 

 やがて月の瞳が()()に気付いた時、全ては始まりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が吹き荒れ、黒雲が天蓋を覆う。

 海は黒く、白波のみがその身を彩り水塊に千切れ揺蕩う。

 

 

 白黒(モノクロ)を湛え果てしなく広がる海は嵐の時間を迎えていた。

 痩せた星に貼り付く縮んだ海ではそう見る事は無い躍動する大気と海流が支配する時間である。

 

 

『ォォォォォオオオ……』

 

 

 天と海の狭間、暴風と大波に満たされたその領域に雷より長く風より太い『音』が轟き渡る。

 

 それは荒ぶる海面の下から『何か』が現れる先触れであり、予兆であり、原初の軍歌でもあった。

 暗き嵐の中、うねる大波でも隠せない『何か』が近づく度により強く、より強く鼓動を伝える。

 

 

『オオオオオァァァァァ!』

 

 

 ()()は波を切り裂き現れる。

 大波にすら比肩するその体躯は膨れ上がった肉で覆われ、天を仰ぐのっぺりとした頭にはそれに似合わない巌の如き牙が突き出し並ぶ。

 体躯に似合う太い腕の先にはやはり太い指と鋭い爪が備わり、海面との境には白雲のような靄が顔を覗かせる。

 

 

 嵐の海にも負けずに猛り狂う()()の身体を囲う黒雲が三つ在った。

 天上を塞ぐ一面の黒雲からすれば随分と小振りなその上には、波打つ布の様なものが敷かれ無機質な面がひしめき合う。

 一つの胴体に一つの頭、そして二本の腕を有するという要素だけは()()と似たその影達は手に手に弓矢に矛といった武器を携え、彫り付けた様な笑顔で()()を見下ろしていた。

 

 

 いや、『勤めて』彫り付けた様な笑顔で()()を見下ろしていた。

 海面から飛び上がり、腕を振り下ろす()()を写す瞳は動揺と恐怖の色を隠せない。

 

 

『ウォォォオオオオオ‼︎』

 

 

 猛烈な勢いで叩き付けられた剛腕が轟音を生む。

 突き破られ、叩き潰された影達は欠片をばら撒く事も無くたちまち霧散してゆく。

 すかさず残り二つの黒雲から矢が雨のように放たれる。

 

 

『オオオォォォォォ‼︎』

 

 

 しかし()()に堪えた様子は無い。

 強靭な表面は降り注ぐ矢をものともせず海中に没すると、黒雲の一つに吠え声と共に飛び上がり再び腕を振り下ろし霧散させる。

 

 

『⁉︎オオオオオォォォ……!』

 

 

 だが、最後の黒雲が何かを展開した。

 金属の網を平らに広げたようなそれは嵐の暗がりの中でも妖しげな輝きを放ち、()()の動きを鈍らせる。

 黒雲の上で影達が綱を端に繋げた銛を構える。

 

 

 その時、一際巨大な波が来た。

 その大波は()()はおろか空中に浮かぶ黒雲すら薙ぎ払い、呑み込んで、再び海と一つになった。

 跡には()()も黒雲も残らない。

 

 

 一筋の稲光と轟いた雷鳴が嵐にかき消されるように、そのやり取りも消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、なんだこれ」

 

 

 ()()は音を感じて意識が目覚めた。

 波は穏やか、風は軽やかであり、身体の下にはきめ細かい砂が在った。

 そして、自分に近づいて来るものが居た。

 

 

「あっ、動いた。……生き物、かな?」

 

 

 ()()が認識した砂を踏み締め、音を発するものの形は自分に何かしてきたものの形とよく似ていた。

 

 ……()()にとって自分に何かしてきたものも、そいつらが今まで自分にしてきた()()も、全て煩わしく腹立たしいものであった。

 ちくちくと鬱陶しいのに中々振り払えない。

 故に()()は、経験則に基づき動く事を決めた。

 即ち今までそうしてきたのと同じように黙らせる為に巨腕を動かそうとし、

 

 

「うわー、なんだろこの感触?柔らかいのに固い?こんなの初めてだよー」

 

 

 

 

 ──ただ触れられる、それだけの事に衝撃を受けた。

 

 

 ()()は今まで様々な事をされてきたが、そのどれもが自分を囲うふよふよとしたものの上から降り注ぐだけのものであった。

 そしてそれらは自分が腕を振るえばたちまち消え去り、受け取る情報は百回重ねようが弱く儚いものに過ぎなかった。

 

 

 しかし今はどうだろう。

 活動?意志?硬さ?脆さ?滑らかさ?重さ?軽さ?電位?光?…………………………………

 

 

 ()()は『触れ合う』という事を知った。

 

 ただ柔く、じっくりと触れるだけの事がこんなにも多くのものを伝えてくれる。

 

 いや、()()()()()()()

 

 

 ()

 

 ()()()()()()

 

 『これ』は違う。

 

 『それ』も違う。

 

 ……()()()

 

 何故私は『触れる』を『触れる』と解した?

 

 何故?

 

 何故?

 

 何故…………………………

 

 

 

 

 

 

「あっ、逃げてく。……気をつけて帰れよー?」

 

 

 …………初めて識った事の情報量を処理する為、()()は音無き海底に往く事を決めた。

 

 

 ()()の行く末を大きく変えた者の名はフォスフォフィライトという。

 痩せた陸地に住む『宝石』の一人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わー、また来たよ……」

 

 

 日が沈み、また日が昇った時、()()は再び浜辺に姿を現し、昨日浜に流れ着いていた巨体の事を忘れられなかったフォスフォフィライトの前に姿を現した。

 

 

「あれ?なんか小さくなってない?」

 

 

 ()()は昨日よりひとまわり小さくなり、膨れ上がっていた肉は大きく萎み、腰回りを覆う白い靄の体積も心なしか減って見える。

 

 

「……ん?触れって?」

 

 

 ()()は細くなった指先をフォスフォフィライトの元に伸ばし、再び触れ合った。

 

 

「じゃーねー……、……気を付けろよー!」

 

 

 幾許か後、()()は指を離し再び海底へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー。元気してたかい?」

 

 

 日が沈み、また日が昇った時、()()は三度浜辺に姿を現した。

 

 

「また小さくなったねキミ?」

 

 

 ()()は昨日より一回り小さくなり、剥き出しであった牙は仕舞われ、全身の形もまた整えられていた。

 

 

「ん、みんなが気になる?」

 

 

 今日はフォスフォフィライト──フォスと呼ばれているらしい──の他にも多くの者が浜辺の近くに来ていた。

 フォスの同族らしい彼らは様々な色で頭部を飾り付け、整えられた身体は揃って細身だった。

 が、()()は触れ合いを優先し外見の情報を記憶するに留めた。

 

 

「そっかー、また来いよー」

 

 

 昨日より長く触れ合いをした()()は昨日より更に細くなった指を離し、海底へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!大丈夫⁉︎」

 

 

 日が沈み、また日が昇った時、()()はギチ、ギチ、と音を立てながら現れ、浜辺に立った瞬間その身体の背面を爆ぜさせた。

 

 

「だ、大丈夫なのキミ⁉︎し、『死んじゃう』んじゃない⁉︎」

 

 

 昨日より更に小さくなった()()は、己を構成するどろどろとした血肉やキラキラとした骨やもやもやとした何かが海面を汚すのも構わず、フォスとの触れ合いを優先した。

 

 

「あっ……、戻って来てる……。……大丈夫なんだよね?」

 

 

 昨日より長い触れ合いの間に海面にぶち撒けられた己を如何なる方法によってかかき集めた()()は、混ぜ合わされたものを纏って海底へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「また変わったねキミ……。大丈夫なんだろーね?」

 

 

 日が沈み、また日が昇った時、()()は五度浜辺に姿を現した。

 

 

「うおっ、全身を触られてる……!」

 

 

 フォスの二倍程の大きさまで小さくなった()()は、白雲のようなものを胴体の全てに纏い、キラキラと輝くものを背面に浮かべながらフォスと触れ合った。

 身体中に光を脈動させながらフォスの全身を弄る()()は時に頭部から肉質のものや硬質なものを伸ばし、時に純白から漆黒まで表面の色を変えながら長い時間を浜辺で過ごした。

 

 

「もう帰るんだね?今度はお手柔らかにねー……」

 

 

 しかし日が沈むより前に海底へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおー、いい感じになったじゃん」

 

 

 日が沈み、再び日が昇った時、()()は六度浜辺に姿を現した。

 

 

「あっ、本当にお手柔らかになってる……。……にしてもソレ、もうちょっとどうにかならなかったの……?」

 

 

 フォスより頭一つ分だけ上の大きさまで小さくなった()()は表面、──いや肌の色をフォスやその同族の表面に近い色に合わせ、頭部からは硬質なものを透明な肉質で包んだ細いものを数多く生やし、『髪』のようにした姿でフォスと触れ合った。

 今度は背中に浮かぶものを輝く数多の結晶、蠢く肉の塊、揺蕩う雲のような靄と変えながらその頭部に様々な器官を入れ替わり立ち代わりに現した。

 その様子は間近でそれを見続けるフォスや先一昨日からたまにこちらに近づいて来るフォスの同族の顔を歪めさせるおぞましさを有していた。

 

 

「ん、帰るんだ。……気を付けなよ〜?」

 

 

 そして()()は日が沈む頃、頭部の器官や背部に浮かぶものをくるくる入れ替えながら海に入り、立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、もう来てたの⁉︎」

 

 

 日が昇った時、フォスが浜辺に向かうと()()は既に浜辺に佇んでいた。

 

 

「待たせちゃってごめんねー?……って、随分きれいになったじゃん?……ま、僕には劣るけどね!」

 

 

 ()()はフォスより少し小さい大きさになっていた。

 頭上には光る輪を浮かべ、頭部表面は不透明に白い二つの目とつんと盛り上がる一つの鼻に花弁のように小さな一つの口を備えたフォスやフォスの同族、そして自分に何かしてきたものと同じ整った貌となった。 

 更に細くなった髪はその容貌を彩るかの如く垂れ下がり、身体の多くは白雲を平たくした『服』のようなもので包まれ、背部には円弧を描くように輝く小さな結晶が並び浮かんでいた。

 

 

 初めに浜辺に流れ着いた時の面影を欠片も残していない()()は小さくなった手をフォスの手に重ねると、何をするでもなく浜辺に座り込み、流れる雲や揺蕩う海をフォスと共に眺めていた。

 

 

『…………』

 

 

 日が昇り、高みに至り、空を沈み始めても変わらぬ姿でそうしていた。

 

 

『…………』

 

「…………ねぇ、いつ終わるの?」

 

 

 飽きっぽく、移り気な性格のフォスにしては随分と長く()()に付き合っていたが、ここ二、三日と違い何の変化も無いまま不動の夕暮れを迎えるのは我慢ならない様であった。

 

 

「いや、身体の変化は恐らくそれで終わりなのだろう」

 

 

 すると背後から今まで()()が耳にした事の無い声。

 振り返ればフォスともフォスの同族とも違う姿。

 髪は無く、複雑な服を纏い、大きなもの。

 

 

「先生⁉︎なんでここに⁉︎」

 

「私も近くで『彼』を見たかったのでな。()()夕暮れになっても戻って来ないお前の無事を確認するついでにこうして足を運んだのだ」

 

「あっはいすいませーん……」

 

 

 『先生』と呼ばれる個体がそこに居た。

 

 

 

 

「…………ふむ……、………………」

 

「……………先生?どうしたんですか?」

 

 

 そして『先生』は()()を目に入れると、まじまじと眺めたまま微動だにしなくなった。

 ()()を視界に入れるや黙り込んで固まった『先生』を心配したフォスの声も届いていない。

 『先生』に眺められる当事者である()()は横目気味に何を思うのか読み取れない表情で『先生』を見るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………もし、()()が『……』であるなら、…………『命令』を、『命令』を頂けませんか」

 

「せ、先生⁉︎どうしたんですか……⁉︎……おい、キミなんか答えろよー!」

 

『………………』

 

 

 凝視するようであり、全く興味を持っていないようにも見える()()の視線を前にして『先生』が口にしたのはフォスの知る『先生』からは想像もつかない弱々しい声だった。

 跪くように崩れ落ちるその姿は普段の泰然とした立ち振る舞いとはかけ離れている。

 そんな姿を見せられたフォスは思わず『先生』に『何かの名前』──残念ながらフォスには聞き取れなかった──で呼ばれていた()()に文句を言うも、()()は答えない。

 

 

『………………、』

 

「………………そう、ですか」

 

「……………………あの〜、先生?そいつについて何か知っておられるのでしょうか……?」

 

 

 やがてぷい、と元の海の方を見つめる姿勢に戻ってしまった()()の様子に『先生』は目に見えて気を落とす。

 只ならぬ『先生』の様子にフォスはたっぷりと間を空けて、使い慣れない敬語で話し掛ける。

 

 

「…………()()()()()()。だが良く似たものを知っている。それを示して『天使』。ちょうどこのように頭上に光る輪を浮かべ、翼を生やしたものだ」

 

「ほーん、こいつ『天使』って言うんですねー……。……あれ、でもそれって名前じゃないですよね?」

 

 

 どこか諦めたような、絶望したような気配の『先生』は己の知識の中から()()に最も近い姿のもの──、『天使』についてフォスに話す。

 普通ではない『先生』の様子にフォスは明らかに動揺が滲む相槌を返す他ない。

 

 

「そうだ。あくまで種族の名前という事になるだろう。当人が望むならば……、……フォス、下がりなさい。」

 

「えっ、」

 

 

 ()()……、……『天使』と呼ばれる事になるであろう()()がそっぽを向いてから何も行動を起こさず、ただじっと()()を見つめていた事に気付いた『先生』は()()の視線の先を見て固い声を上げた。

 

 空に現れるのは彼らの天敵が現れる予兆。

 

 

「……黒点、月人……!」

 

 

 空に滲むように広がるその穴から姿を現すのは、雲の上に布を重ねたような乗物に所狭しと並んだ無機質な面。

 長きに渡ってフォスの同族達を連れ去って行った『月人』の集団である。

 

 

「えっ、しかも三基⁉︎」

 

「フォス、()()()も連れて下がっていなさい」

 

「はっ、はい先せ……い?」

 

 

 初めの一基が現れた後に続けて二基、合計三基も現れるという異常事態に『先生』は迷わず戦闘態勢を取り、フォスに退くよう促す。

 それに従おうとしたフォスは()()に目を遣り、……間抜けな声を漏らした。

 

 

『…………』

 

「あのー……、なんか『やる気』みたいなんですけど……」

 

「何……、……!」

 

 

 そこには背部の結晶全てを身体と繋げて大きく広げた上で、光輪と結晶を輝かせながら唸るような異音を立てる()()の姿があった。

 どんどんと音の調子と高さを上げ、輝きを強めていく()()は目を白から水晶のような透明に変えつつ、月人──今まで散々煩わしい事をしてきた『敵』──に顔を向ける。

 

 

「フォス!」

 

「え、」

 

『…………!』

 

 

 『先生』の警告が届くより先に()()の輝きが爆発する。

 

 

 次の瞬間、一閃の光条が月人を乗物ごと真っ二つに断ち割った。

 

 

「………………………」

 

「…………」

 

『……』

 

 

 彼方で断ち割られた月人が靄のように霧散し、()()の背部の結晶が砕けたようにはらはらと散りゆく中、フォスはあっけに取られ、『先生』は黙り込み、()()は──次の準備を始めた。

 

 バラバラに散っていた結晶が再び寄り集まり、輝きながら大きく広げられる。

 

 

「あっ、」

 

『…………!』

 

 

 フォスが何事か口にする前に異音が調子を早め、再び輝きが爆発する。

 それだけで回り込もうとしていた月人達が真っ二つになる。

 

 その隙に最後の一基が接近に成功した。

 

 

『…………。』

 

 

 が、今度は掌にいつの間にか現れていた水晶体から放たれた光条が瞬く間に駆け上り、やはり真っ二つになって終わった。

 夕暮れの空に浮かぶのは損傷を受け、霧散した月人の跡のみである。

 

 

「…………」

 

「…………あっ、みんなー」

 

 

 やがてフォスの同族達──『宝石』と呼ばれる鉱石生命体が現れる。

 元より『先生』に付き従って遠巻きに待機していた者だけでなく、異変を嗅ぎつけてほぼ全員が集まっていた。

 

 そしてその全員が、今はただ水平線の向こうに沈んだ夕日の方を向いている()()から目を離せずにいた。

 驚き、怯え、敵意……。向ける感情は様々ではあるが、()()が示した力に誰も言葉を発せられない。

 

 

『…………、』

 

 

 そんな視線の中で()()が突然崩れ落ちる。

 

 

「わっ、わ、わぁー!」

 

 

 咄嗟に受け止めようとして止め切れず、すっ転んだフォスから何かが砕ける音がする。

 

 ──フォスは腰の辺りで真っ二つになっていた。

 

 

「てて……」

 

「恐らく力を使い過ぎたのだろう。フォス、そのままで良いから聞きなさい」

 

「は、はい」

 

 

 ──そしてそれをフォス自身でさえ一向だにせず話を始めていた。

 『割れた』フォスの断面は残照を受けて燐葉に輝いている。

 

 これこそが『宝石』が『宝石』たる由縁。

 彼らは砕けて煌めく破片になろうと、その破片を繋いでしまえば元通りに活動が出来、鉱石の如く悠久の時を生きられる。

 その中でもフォスは殊更に脆く、砕け易い身体をしていた。

 

 

「ルチルに治して貰った後は、その子の側に居てあげなさい」

 

「はいっ!」

 

 

 『先生』の外套に包まれ、運ばれる準備をされながら『先生』の指示にフォスは声を上げて返事を返す。

 

 

「そして、出来うる限りその子の様子を見ているように」

 

「はい!…………ん?もしかしてそれって……」

 

「そうだ。我々の判断が定まるまでの限定的なものになるが、その子……、『天使』の様子を観察するのがお前の仕事だ」

 

 

 その体質と飽きっぽさと不器用さ故に他の『宝石』達が一つか二つ担当している仕事を一つも(こな)せず、三百年余りの時を過ごしていたフォスであったが──、──この日仮にではあるが一つの仕事を得た。

 

 

「お、おー……。仕事かぁー……」

 

「誰かこの子も運んであげなさい」

 

「は、はい!……じゃあ私が」

 

 

 『先生』──正式には『金剛先生』と呼ばれる宝石達の保護者に身を任せ、フォスは初めて『任された』仕事──隣で翡翠の髪の宝石に背負われる『天使』という何やらすごい生き物の観察──に対し湧き上がるようなよく分からない感情に身を任せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところで先生、さっきの事は……」

 

「あぁ……。……内密に頼むよ」

 

「……分かりました……」

 

 

 そしてその湧き上がるような感情でも蓋の出来ない、『先生』の今まで見た事の無い姿に対する困惑があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──『天使』は先触れである。

 祝福、聖誕、そして災害、死。

 

 ──『天使』は尖兵である。

 怪物、そして悪魔。

 

 ──『天使』は遣いである。

 神の国、永遠の王国。

 或いは、死者の世界。

 

 

 ()()が『天使』と呼称された事は、『宝石』達の世界が変わる予兆として余りにも運命的であった。

 そう呼ぶ事も出来るかもしれない。

 

 

 

 

 






『天使』(仮名)
…『骨』、『肉』、『魂』が偶然一つの形に纏まった生き物。
月人に発見され、捕獲要員が送られるが交戦中に嵐に流され、宝石達が暮らす陸地に流れ着く。
フォスフォフィライトの恐れ知らずの接触に衝撃を受け、接触を繰り返してその構造を写し取り、怪物じみた巨体から『人間』が思い描いた『天使』を思わせる姿に変貌した。
巨体の時から凄まじい力を持っていたが、変貌した事で力が変わり光条(レーザー)を放てるようになった。
発射の為に広がる結晶は翼のような形に見える。
構成に肉を含むせいか宝石達よりやや軽い。


「魂・骨・肉が再び一つになったらどうなんだろう?」という発想が、仏教テイストな「宝石の国」にキリスト教的な『天使』をぶちこむ話になった。


冒頭はいかにも怪物なのが嵐の海から現れる……!ってのをやりたかっただけです。
原作に嵐の海があるかは不明です。
そもそも『痩せた』言われてるからなぁ……


フォスとの触れ合いの元ネタは思いっ切り「ギルガメッシュ叙事詩」のエンキドゥとシャムハトのエピソードです……。
R-18な事を描写する訳にもいかないので無知シチュ?な触れ合いくらいで。
いやフォスからだと手指しか触ってねぇな……


レーザー発射のメカニズムはざっくり
『背中に繋げた結晶体で蓄えたエネルギーを光として増幅させる』→『体表に出現させた発射レンズから線条として発射する』
みたいな感じで考えてます。
レーザー発射の効果音はチャージ音がキングオブモンスターズのゴジラから始まって宇宙戦艦ヤマトの波動砲、発射音がナウシカの巨神兵で想像してました。
皆様はいかがでしょう?


最後『天使』を背負ったのはジェード議長。
なんだかんだ率先してやってくれそうだな、って。


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