「もう少し先であれば一個艦隊で挑めたのだがな……」
ふぅ、と一息ついて第四艦隊司令官ラルフ・カールセン少将が前方に広がる自艦隊の掃海作業を見守る。同盟軍の再建も順当に進み、偶数艦隊の正規一個艦隊化が開始されている。次に後方駐留基地に来る艦隊は今最終調整中、それと交代で第四艦隊は帰還し準備中の分艦隊を取り込んで一個艦隊化予定となっている。
(無い物ねだりしても意味はない、今は今なのだが……増援本隊が来る前になとしても突破口の目途は付けねば)
帝国軍が何処をタイムリミットにしているかは判らない。要塞に要塞をぶつけるという奇手は考えてなかったがどのような状況におかれても首都星からの増援本隊到着までは持ちこたえる事がイゼルローン総司令部の至上命令とされていたし今回もそれを前提にしている。もし正規一個艦隊であれば機雷源を強行突破してさらに待ち受けているであろう阻止部隊も無理矢理食い破る。半分失ってもこのエリアの確保が確定すれば掃海担当を残して残余でイゼルローンまで突っ込めば大局は決するだろう。だが、半個艦隊でそれは出来ない。非効率な戦闘で戦力を喪失した後、増援本隊到着までの間に空けた穴を再び埋められて投了だ。なので戦力を維持した状態で通路を切り開き、それを増援本隊到来まで維持するという行程が必要になる。遅れは当然駄目だがどれだけの相手が待ち受けているかもわからないので早すぎも駄目といえる。といった状況なのだが……
「やはり、専門の掃海艦(※1)が無いと効率が悪すぎるが、やらねばならんか……」
単艦ならまだしも組織としての前進を拒む程度の散布濃度ではあるが、その分奥行きはある。それでも専門職さえいれば長くても一日あれば掘れる距離ではあるが手持ちにそれを可能とする掃海艦がいない。今一番それを擁しているのはこの先にあるイゼルローンだ。機雷源を感知してから慌てて後方に要請を出したがもう暫くは時間がかかる。それ無しで掃海作業を行うとなると数倍程度では済まない時間がかかってしまう。どうせ何かしら敵は妨害してくるだろうからさらに時間が延びるのは確実だ。
機雷は通常、避けて通る壁として認識されている。宇宙空間用機雷はサイズとしては大きな弾、ミサイルの類程度のもので接触式起爆の弾頭本体に姿勢制御装置が基本セット、やや高価になるが敵味方識別装置と推進器を組み込んだ実質的誘導ミサイルの様なものもあり、今回のような掘り進む事を前提とする散布の場合、それを適度に混ぜる事で作業の妨害を行う事も出来る。そしてそれに対する専門職無しでの掃海手段なのだが、結局は一個一個潰していくしかない。非常に恐ろしく時間がかかり面倒なのだがそうするしかない。それが掃海作業というものであり、だからこそ機雷源は戦闘が終了して安全になるまでは一種の壁として扱い避けて通る事を考える(※2)。
が、ここはイゼルローン回廊の更に狭地といえるポイントで避けて通る事は出来ない。さらに言うと直接の妨害も考慮しないといけない。それなのに元々数少ない掃海艦主力(※3)はイゼルローン駐留なので計算外。現在の同盟軍にとってイゼルローンより内側で使用する事は運用想定には入っておらず第四艦隊を含め各艦隊は移動効率の為に付随させていない。今現在方面軍所属となっているそれらが慌ててやってきている最中である。なので既存の艦艇で非効率な掃海作業を行うしかない。慌てず急がす微速移動しつつ一個一個ビーム砲で撃ち抜く(戦闘艦は砲が艦首集中なので上下左右に一定のスペースを作るには全方向に向きを変えつつ、という非効率作業)。ミサイルのセンサーを対機雷用モードにして撃つ、という手もあるがこっちは弾数に限りがある。スパルタニアンで撃ち落す場合、至近でなければ火力が足らず余程腕が立つパイロットでないと誘爆に巻き込まれる、というか運用想定に入っていない。それでもなんとか分艦隊が鋒矢陣で突き抜けられる程度の穴を艦隊の三個分艦隊で一箇所ずつ掘り進める。のだが掘り始めてしばらくしてやっぱり妨害はやってきた。
「奥行き、増してますね……」
「そう来たか……」
各種レーダー等で割り出した機雷散布範囲図を見ながらカールセンが唸るような言葉を放つ。効率悪いなりに一生懸命掘り進んでいるが何かしらの手段で相手もそれは認識している(なんならご苦労な事に薄めの散布量を逆手にとってワルキューレが目視確認しにやってきてたりもしていた。こちらもスパルタニアンを偵察に出しているのでお互い様であるが)、どういう妨害が来ても大丈夫なように準備を考えてきてはいたが直接ではない妨害がやってきた。どれだけ機雷用意しているのだ、畜生め。
「進行状況、どう?」
「思った以上に進行速度が遅いお陰で掘られた分の六~七割程度は散布出来ている。ひとまずはストップがかからん限り、機雷の在庫がなくなるかまでやり続けるがいいか?」
「それで頼む」
グリルパルツァーが鷹揚に答える。最初の散布計画を変更し、現在の"単艦なら何とかすり抜けられる程度"の薄さにしたのはグリルパルツァーだった。それを行うことで同盟領へのちょっかいから帰還する事ができた。散布濃度は薄めたが深さは大きく変えていないので余った機雷は予備となって今撒いている(これ以上奥行きを持たせてしまうと相手を確認できなくなるので確認できる深さを保ちつつ追加散布するやり方にした)。最初に到来する同盟軍増援は情報通りなら半個艦隊。指向性ゼッフル粒子の様な広域破壊装置を持たない以上、掃海能力には限界がある。なのでこうやって相手の動きに合わせてストックをピンポイントで撒く事で徒労を増やしてあげている。如何せん妨害しているこちらの部隊はその半個艦隊の更に半分である。可能な限り直接戦闘は避けつつ時間を稼がないといけない。
「しかし、盛り返すのは二箇所のみでいいんだな?」
「構わんよ。歩調を合わせてくるのなら勝手に足を止めてくれるだろうし一箇所だけで来るのなら各個撃破の的だ。まだしばらく双方考える時間がある」
「嫌味な奴だな」
「誉め言葉として受け取っておこう。盛る作業はお前に任せる。俺はある程度相手が掘り進んだ時の歓迎を準備しようと思う」
鼻息混じりにグリルパルツァーがその歓迎をクナップシュタインに語り、聞かされたクナップシュタインは大きなため息をついた。
丸三日が経過した。必要数の掃海艦があれば開通させたうえで別の道を作って戻ってこれるだけの時間をかけて非効率的な掃海作業を行い続け、"当初の"終了予定地点が見えて来た第四艦隊(のうちの二個分艦隊)であるが目の前には推定二日分程度のおかわり機雷源が展開されている。相手の"盛り返し"がなかった一箇所は途中から盛られるようになったのでやや薄いがそれでも丸一日弱は残っている。
「ようやく到着か」
後方から到着した掃海艦等の到着に胸をなでおろすが次にそれをどう使うか? という問題がある。新しい穴を掘らせるか、今掘っている穴に投入するのか、掘ってる穴にするとしても一箇所に集中させるのか均等になるように分散するのか。
(そもそも穴を開けた先にどれだけの数が待ち受けているか判らん)
そこが悩みどころである。こちらもスパルタニアンを飛ばして確認はしたが全容は掴めていない。少なくとも一個分艦隊よりかは多くいるみたいだがその奥に予備がいるかもしれない。むしろ今こちらが認識している部隊は機雷散布兼こちらが突破した時の時間稼ぎが目的で本命の阻止部隊が裏に控えていてもおかしくはない。
「よし、掃海艦は三つの分艦隊に均等に配備しろ。あと、掃海速度は今の状態を保て。ぎりぎりまで薄くしてから一気にスパートをかける。三ヵ所同時だ」
増援本隊到着までの間を開け過ぎないタイミング三ヵ所同時に突破して一突き、あとは叩けそうな数なら叩き、無理そうな数なら相対的に要塞周辺の数が少ないという事なので無視して要塞に突っ込む。追いかけてきたら増援本隊の突入がやり易くなるし追いかけてこなかったら増援本隊を待たずに要塞周辺の敵を掃討すればいい。あっちにもこっちにも手を付けられん程に用意しているのだとしたら……それはその時だ。
「それで、こっちの例のデカブツはどうなってる?」
指示を出し終わった後、カールセンが参謀長を振り向いて尋ねる。第四艦隊七八〇〇隻のうち、三個分艦隊(二四〇〇×三)は絶賛穴掘り中だが司令官直轄の六〇〇隻は後方に控え、その半分を割いて別作業を行っている。
「どうやら使えそう、との事です。整備後に移動を開始しますが慎重に移動させなくてはならず我々ではなく増援部隊で使えるように間に合わせるのば精一杯だろう、と」
「二番煎じもいい所だが有効な事に変わりはない。研究時は馬鹿馬鹿しい話だと聞いていたがこんな所で役に立つとはな……」
その馬鹿馬鹿しい研究とは一昔前、ウランフによるアルテミスの首飾りの破壊、その"大質量ぶちかまし"をイゼルローンがやられたらどうなるか? という国防委員会側からの質問(というかやられたら? という恐怖)に対して行われたものである(※4)。その過程で大型の隕石に多数の推進ユニットを取り付けて云々という研究が行われた。それもこのイゼルローン回廊同盟側出口付近で、だ。研究実験ついでに万が一、イゼルローンが奪回された事を考えてこちらから仕掛けられるように、という事でこの付近で実際に大型の隕石を動かしてみたらしい。そして実験後にその隕石は停止させ、万が一の本番に備えて場所だけは記録して、皆その存在を忘れた。それを今、引っ張り出している。実験後放置していたので取り付けた推進ユニットが使えるか不安であったがどうやら大丈夫らしい。イゼルローンに当てる事は出来ないが機雷源を突き進む穴あけ装置程度にはなる。機雷源の存在を知った時に上層部の誰かが思い出したらしく使えるなら使えと指示が来て、今頑張っている。
「これで四つ目の穴を開ける事が出来る。流石に何とかなるはず、だ」
と胸をなでおろすカールセンだったのだがそうとも言えない事態がまたやって来る。こっちも結構必至だが、当然相手もまた必死なのである。
「第二分艦隊より入電、機雷源が……」
「どうした? また追加されたか?」
「接近中との事です!」
「…………は?」
「第一陣、移動を開始しました」
「あまり気を詰める必要はない。到達予定に達したら適度に状況を把握するように。では、少し休憩を取らせてもらうよ」
そういうとグリルパルツァーは司令官席から立ちあがり久しぶりの休憩と洒落込む。やるべき事はやったしひと眠り程度の時間で事が大きく動く事はないだろう、と考えている。
彼の指揮で多数の機雷が"移動"を開始した。用意した機雷の中からこれの為に手元に残しておいた感知誘導弾型の一群である。これを慎重に、穴を掘っている同盟軍分艦隊の位置(ワルキューレ飛ばして確認)目掛けて、正面だけではなく多方面から。誘導装置は万が一の誤爆に備えて放流後一定時間経過した所で稼働する。本来、掃海作業であちらから近づいてくれないとまともに稼働しないような代物を相手の方に放出して反応する所まで持って行こうなどと考えてもまともに当たるはずもないのだが今は絶賛機雷源を穴掘り中。広く浅くではなく狭く深くで掘っているので動きたくても動けない状態、それなりの数に対応しなくてはいけなくなるだろう。放出する総数からしてみればこれで半日一日遅延させれば万々歳である。本来、ある程度場所を絞れれば艦艇で直接遠距離攻撃を仕掛けてみてもいいのだがビーム系はまだ減衰率が高すぎる距離だしミサイル系は有効打になりうる飽和量を準備出来ない。なによりも一歩間違えばその間にある機雷源を僅かながら掃除してしまう可能性がある。機雷同士なら軽い衝突でも誘爆はしない(そうでもないと濃く散布できない)ので掃除になってしまう事はない。外れてしまっても今の帝国軍にとって不利益となる所に飛んでいく事はない。ちょっと穴掘り作業にお邪魔するだけだ。
「機雷群の放流が開始されたそうです」
「判った。では追加散布の比重を予定通りずらすぞ。機雷の目標としている穴の先に多く、だ」
その報告を聞いてクナップシュタインも新たな指示を出す。三ヵ所からの穴掘り作業に対して彼らは最初から全部の阻止は不可能と判断し主に二箇所で追加散布を行っていた。そして今回、この放流機雷と追加散布でさらに一箇所に絞った遅延活動を行う。当初彼らの手持ち部隊では二箇所に穴を開けられると戦力的につらいものだったが先程一定数の増援が送られてくる目途が付いた。それなら二箇所までならなんとかなる。如何せん敵増援の到達を感知してからまだ四日弱しか経過していない。敵本拠地から来るであろう増援本隊が到着したら揉みつぶされるのは仕方ないとしてもそれまではこのエリアで組織的抵抗を続けないといけない。今確認できている敵だけでも(味方増援含めた)自軍の五割り増しといった所だ。三つ目の穴が開く時は少しでもあの伸ばしにする必要がある。
(要塞を当てれば要塞は静かになるはずだ、艦隊を当てれば艦隊は静かになるはずだ、浮遊砲台だけならば無人艦部隊でなんとかなるはずだ、ひたすら遅延に徹すれば敵増援は防げるはずだ、十分な地上軍を送り込めればそれまでに押し倒せるはずだ、はずだはずだはずだ……)
「まったく、何か上手くいきそうで実際に上手くいってしまっている机上の空論程厄介なものは無い。そういうのに限ってどこか一箇所破綻すると"こうなるはずがない"と現実から目を逸らすのだ」
思わずつぶやいてしまいクナップシュタインが周囲を見渡すがどうやら誰にも聞こえなかったらしい。
「まったく……」
はぁ、と溜息をつく。
(最初の"はずだ"が外れたらやり直せばいい。だが、最後の"はずだ"が外れたら。それまでの苦労は一体どうなるというのだ)
誰しもが考えたであろうが誰しもが口に出せずにここまで来てしまった。その答えはもうしばらく先に判るであろう。
「ひとまずは任された仕事をやるしかあるまい」
生真面目な彼としては今はそう割り切ってやるべき事をこなすしかない。所詮彼はこの戦いにおいて一五〇〇隻を率いる一人の小部隊司令官でしかないのだから。
その四日後、彼を含めた帝国軍約五二〇〇隻と同盟軍第四艦隊約七五〇〇隻は直接の交戦を開始した。宇宙歴八〇〇年三月一二日、上陸を開始して一週間を経過したイゼルローン要塞はいまだ健在であった。
原作の回廊の戦いでは4/30に対ビッテンフェルト&ファーレンハイト艦隊戦が終了。そこから5/3の本隊突入開始までの間にアッテンボローが500万個の機雷散布を完了させている。だから準備期間的には機雷の準備さえあるのならその時と同じくらいの総配布量にする事は可能、と設定している。それを薄く深い形で。 んで各種補助艦艇等が格段に充実しているであろうローエングラム王朝軍がこの500万個機雷源を正攻法で穴を開けたのが半個艦隊(ブラウヒッチ艦隊六四〇〇隻)で半日弱でした。という事を踏まえて色々と時間設定を考えておりまする。
※1:機雷掃海艇
非戦闘域での運用を想定している対機雷(もしくは同規模の破壊可能物)破壊専門艦。基本艦首にビーム砲類が集中している戦闘艦と異なり一定の射角を持つ独立照準システム搭載の単装砲塔型レーザー砲(対機雷に適した出力に調整されている)を前・上・下・左・右とハリネズミのように生やしている。不格好ではあるが微速前進しつつ手当たり次第に撃ち壊して穴をあけていく。独立照準システムや統合制御システム、それらを十二分に稼働させるだけの大出力エンジン、と用途が限定されている艦のわりにはコストは非常に高い。敵の妨害が想定されるエリアで使用する自衛火器等防衛システムまで搭載している物となると更にお値段が飛び出していく。
といった代物なので配備総数は極めて少ない。
尚、帝国においては指向性ゼッフル粒子を活用した広域破壊法の研究が進んでおり、同盟と比べて封鎖型への突破力は比べ物にならないほど優れている。バレなければ散布してドンで終わるからである。
※2:壁として使用された機雷源
基本使い捨てである機雷は事故防止等の為、一定日数が経過すると自爆するようにセットされているし散布側が勝利している場合、後処理として自爆コードを発信して綺麗にする。その後、専門の掃海艇を含めた後処理部隊が付近を飛び回って万が一の不発弾を処理する。
※3:主力掃海艦
イゼルローンという蓋を手に入れた以上、想定される機雷源はイゼルローン回廊帝国出口側のみと考えられていたのでいつでも対応できるように主力はイゼルローン駐留となっていた。帝国も同様の運用を想定していたらしくイゼルローン要塞には掃海艦部隊駐留用施設が用意されておりまとまった数の掃海艦用施設がバーラド星域にしか存在していない同盟軍は有難く使わせてもらっていた。
よもやイゼルローンを通り抜けた先でイゼルローンへの増援を阻止する為の機雷源作るなんて同盟軍は誰も考えていなかった。
※4:馬鹿馬鹿しい研究
No.47 参照