ようやくようやく、二人が結ばれる話。

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上野さんが田中に告白する話

 

「あ、部長卒業式お疲れさまでした」

「おう田中、さあ労え」

 

 部室の扉を開けるともう既に田中がいた。この3年間私が開発してきた発明品の数々が入った段ボールを整理していたらしい。まるで引っ越しの作業をしている大学生の如く額に流れる汗をハンカチで拭いた田中は一度作業を中断すると、椅子を引いて腰を下ろした。

 

「というかもう私は部長じゃないぞ」

「あそっか、僕が部長ですね」

「まったく、自覚を持て自覚を」

「それじゃあ…元部長、ですかね」

「…まあいい」

 

 私はぴょんとその場に跳ねると机の上に腰を下ろす。本来教師に見つかると怒られるのでやらないが、私はもう在校生でもなんでもないのだから別にいいだろう。

 

「山下はどうした?」

「なんだか新二年生だけ集められたみたいで遅れるそうです」

「そうか、なら仕方ないな」

「ええ、『元部長を送る会』はもう少し待ってください」

「その名前なんとかならないのか」

 

 ああ、そうか。山下は遅れるのか。それなら仕方ないな。

 卒業式後、ノスタルジックな気分に浸る段ボールの積まれた部室、うら若き男女が二人…いやまったく、とんだ偶然も起こったもんだな。

 

 

 なーんてね!!山下には事前に言ってありますー!!あと10分後にくるようにいってありますー!!

 

 

 私はこの10分間の間に2年間できなかった告白をぶちかます。

 あれ?10分なんて短い時間で大丈夫なのか?そう思った方もいるだろう。しかしこれは私にとっての死中の活であり背水の陣なのだ。つまり敢えて制限時間を設けることにより、今まで喉元まで出かけて口には届かなかったある言葉を無理矢理吐き出すという戦法である!

 

「…元部長、どうかしました…?」

「あいえなんでもないよー」

 

 よし、このバカ面に一発ぶちかましてやるぜ。いくぞ、いくぞー…!

 

「た、田中…」

「ん?やっぱりどうかしたんですか?」

「…こ、この…2年間、…いろんなことがあった、よな…」

「まあそうですね」

「田中は…たのしかった、か…?」

 

 あ、あれ、私なに言ってんだ?頭の中で言おうとしていたことと全然違うことが口に出るぞ?

 きっと緊張しているんだ。当たり前だ、いち乙女な殿方に対して告白決め込もうとしてるのに緊張しない訳がない。でももう大丈夫だ、一度呼吸を整えてから思い切って言ってやるぞ。

 

「楽しかったですよ、元部長といるの」

「ヒュッ」

 

 あだめだこれ、心臓裏返る。

 田中はたまにこういうことを平気で言う奴だ。私の気持ちも全く知らないままこういう無神経なことをベラベラと言いやがる。ホントに好きだ。

 

「ソ、ソッカー…」

 

 仕方ない、かくなるうえはアレを使う。

 震える手を頭へと回す、実はこの髪留めはただの髪留めではないのだ。使用者が触れた状態で口を開くと事前にプログラミングした音声を超高音質で再生することが可能になる所謂全自動告白機なのだ。全国の悩める女子中高生を助ける画期的な発明である。

 

「どうしたんですか元部長、最後なんですから言いたいことがあったらハッキリ言ってくださいよ」

 

 そうだ、これが最後のチャンスなんだ、必ず成功させてやるぞ。

 

「…」

「元部長…?」

 

 最後、か…最後なら、最後くらいは…機械に頼っちゃ、ダメかもな…

 全自動告白機から手を放し、机から降りた私は田中の手の甲にそっと手を添えた。

 

「田中、今からいうことをしっかり聞け」

「はい」

 

 田中はいつになく真面目な様子で私の瞳を見つめる。田中の瞳に映った私の顔はトマトみたいに真っ赤になっていた。

 口を開く、ここまではできた。でも次の言葉が出てこない、こんな状況になって初めて気づいたのだが、もし断られたらどうすればよいのだろうか。私と田中の高校が同じとは限らない、少なくとも一年間、田中とは短いスパンで会えなくなる。それなのに振られて気まずい関係になったらどうだろう、きっともう二度と会ってくれない、話せなくなる、顔も見なくなる、そんなのは嫌だ、それならこのまま告白せず黙っている方がずっとマシだ。

 

「…ぅ、う…っ…」

 

 瞳に涙が溜まっていく。こんな顔を見せたい訳じゃないのに。

 私はバカだ、今までの作戦は全部、田中が私を好きなことを前提にした作戦だった。あれだけ科学の粋を極めた機械を製造してもうまくいかなかった原因がやっとわかった。

 

「ひぐ、ぅ、ぅ~…ッ!!」

「実は僕、元部長のことが好きです」

 

 私は最も目を当てるべき点から常に目を反らし続けていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

 

 

 

 

 

 

 涙がスカートの上にぼたぼた零れていく。顔を挙げるとそこには田中の顔があった。

 

「僕部長…じゃなくて元部長のことが好きです」

「ぇ、あ、…それって…あの、先輩として…?あのぉ…ひととして…?」

「いえ、異性としてです」

 

 頭の中をスッカラカンにされた。私の知能は今2歳児とさして変わらないだろう。

 

「しょ…ぃ、して…」

「はい?」

「証明しろ、田中ぁ…」

「ああ、こうですか?」

 

 田中に抱きしめられる。半田ごてで脳みそを直接焼かれているようだ。快楽物質が髪の毛から足先まで余すことなく私の身体を満たし、まるで死海でぷかぷか浮いているような気分だ。

 

「僕、部長が何か作ってたり機械を弄っているのを見るのが好きでこの部活に入ったんです」

「おぇ!?じゃ、じゃあ私目当てだったってこと、かぁ!?」

「……まあ…そういうことになりますね」

「そこは素直に認めろよぉ!!」

 

 全然気づかなかった。最初の頃は本当にどうしようもなく生意気というか、よくわからない下級生としか見ていなかったから。それなのに何時からか好きで好きで仕方なくなって…こんなのずるいじゃないか、私がどれだけ頑張っても言えなかった一言をこんなにもあっさり言うなんて。

 

「…?」

 

 田中の手が添えられた私の肩が軽くしっとりと湿っているのを感じる。

 

「…田中…?」

「…ちょっとこの部室、暑いですね…」

「~~ッ!!!!???」

 

 ヤバイ、私の心臓を何かが鷲掴みして引きちぎろうとしている。いや比喩表現でなく本当にそう感じる。透明の手が容赦なく私の身体を突き破って内臓をしっちゃかめっちゃかにしている。

 愛おしさで全身が痺れる。瞼の裏で花火がバチバチ弾けているようだ。

 

「あ、それで…返事を貰えますか?」

「あ…っ…」

 

 田中は一度腕から私を解放した。その頬はほんのり赤く染まっているのが分かる。

 コイツは勇気を振り絞って気持ちを言葉にした。私も同じようにしてやらなければ不公平だ。

 

「た、田中…」

 

 今ならできる。今なら言える。ずっと言えなかった私の気持ちを。

 

「私も、お前がすきだ…ずっとずっと…好きだったんだ…っ…」

 

 なんとか言い切ることができた。体の中に残った空気を絞りきるみたいな掠れた声だが、それでもちゃんと伝えることができた。

 羞恥の限界で私は田中の胸の中に逃げ込んだ。お互いの汗でお互いがほんのり湿っているがそれでも気にしなかった。

 

 

 

 

「おうっ」

「うぐ」

 

 

 

 その時、どすんと私の背中になにかが当たった。想定外の衝撃に田中の胸板へと頭突きをかましてしまう。

 

「あ、タモン」

「ぬぅ…こんな時にまでぇ…」

 

 科学部のペットタモン、元々私のストッキングだったものだが度々私の作戦を邪魔する目の上のたん瘤的存在でもあった。その愛らしさから処分せずにいたが…まさかこの期に及んでも自らの食欲を抑えられないというのか…

 私の太腿にしがみつきゴシゴシと身体を擦りつけるコイツを見ると蹴っ飛ばしてやりたくなるな。

 

「あれ、元部長髪の毛が…」

「…あっ」

 

 どうやら先程の衝撃で全自動告白機が外れたらしい。ど、何処にやったんだ。あの中には昨日の夜ちょっと変なテンションになった私がプログラミングした音声が入っているんだ。こうしてすべて丸く収まった後に考えてみれば私は何故あんな言葉を入れたのだろうか。冷静になってみればあのような欲望の塊のような音声、聞かれればまず間違いなく誰からもドン引きされてしまう。

 

「髪留め落としましたよ、部長」

「あっ」

 

 田中が拾い上げた私の全自動告白機、今田中は口を開いている。

 

『たなかすきだぁあああっ!!すきすきっ!!だいすきだいすきだぁ!!ずっといっしょにいたいし結婚したい!!あったかい家庭を築いて子供もたくさんほしいっ!!あいしてるあいしてるすきすきすきぃ!!ぎゅーっとしてくれ!はぐもきすもたっぷりしてくれぇ!!』

 

「…部長…」

「はぁッ!!」

 

 声のした方へと顔を向けるとそこには山下がいた。どうやら聞こえていたらしい。

 

「もう少し…声を抑えてください…」

「ち、違うんだ山下これは…」

「元ぶちょ『すきすきすきすきぃ!!!』

「口を閉じろこのボケナスゥ!!!」

 

 

 


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