オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです 作:F.C.F.
【投票結果】
習得成功:鋼の意志(Pt640→390)
習得成功:シンパシー(Pt390→240)
習得失敗:熱いまなざし(Pt不足)
習得成功:ペースキープ(Pt240→140)
習得失敗:押し切り準備(Pt不足)
習得終了:習得しない
【スキル】
領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv3(立ちはだかる壁が高い程、夢を背負った心は奮い立つ)
冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)
冷静 (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)
集中力 (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)
弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)
ペースキープ (レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)
シンパシー (絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)
鋼の意志 (敗北が迫った時、スタミナを回復する)
「おはようございます、サナリさん。今朝は良く眠れましたか?」
「おはよう、トレーナー。大丈夫。しっかり寝た」
決戦の日の朝。
郷谷と合流したサナリモリブデンは胸を張って答えた。
サナリモリブデンは真面目な性質である。
普段から夜更かしや寝不足とは縁遠い。
大事なレース前日ともなればなおさらで、寮の消灯時間を迎えるやすぐさま眠りについていた。
ベッドに入る2時間前に大浴場でしっかり温まるなど安眠に良いとされる習慣も普段から欠かしていない。
例外があるとすれば。
「それは良かったです。先月末のアレは驚きましたからね」
「……もうアルとは一緒に寝ないから心配しなくていい」
そういう時だけだろう。
寝相の悪い同室との同衾は散々な結果に終わっていた。
朝目が覚めた時、サナリモリブデンの首はペンギンアルバムの足に押されて90度近く、それこそ肩に頬がつくほど傾いていたのだ。
当然ながら酷い寝違えを起こしたものである。
その上尻尾を抱き枕代わりにされ、首も腰もとんでもない凝りようだった。
完全に調子が戻るまで数日を要するほど。
流石に罪悪感を覚えたペンギンアルバムに献身的に介護してもらえたものの、災難の一言に尽きる。
返す返すもレース終了直後で何も予定が無かったのが幸いだった。
それはともかく。
郷谷はトレーナー室にサナリモリブデンを招き入れ、いつも通りタブレットを起動させた。
【レース生成】
【有マ記念(G1)】
【冬/中山/芝/2500m(長距離)/右内】
構成:スタート/序盤/中盤前半/中盤後半/終盤/スパート
天候:晴
状態:良
難度:290(クラシック級12月の固定値145/G1倍率x2.0)
「天気予報では今週いっぱい快晴となっています。崩れる気配は全くありませんね」
「うん。空気が澄んでて気持ちいい」
「えぇ、冬の晴れは良いものです。もうちょっと気温が高ければなお良かったのですが」
「そう? 私はこのくらいが好き。一番走りやすいかも知れない」
「流石、雪国の出身は強いですねぇ……」
まずは基本的な情報のおさらいからだ。
天候とバ場状態はどうやら最高と言える。
郷谷は今週いっぱいと言ったが、正確には今年いっぱいだ。
東京の初雪は年明けまで待たねばならないだろう。
ホワイトクリスマスを期待する者には残念な話かも知れないが、今のサナリモリブデンにとってはありがたい話である。
「続いてですが、中山レース場についてのおさらいですよ。ここはかなり特徴的なコースとなっています」
郷谷は続ける。
有マ記念の舞台となるコースの詳細についてだ。
「中山内回りは狭く小さいコースです。コーナーはきつく、直線は短いと覚えて下さい」
タブレットには国内の主要レース場が同縮尺で表示された。
比較すると実に分かりやすく中山は小さい。
東京レース場あたりと並べるとひと回りどころではなくサイズが違った。
「今回の2500メートルではここを1周半走ります。3、4コーナーを2回ずつ。1、2コーナーを1回ずつ。何度も曲がらされる事になりますね」
「正直そこはありがたい」
「同感です。
「……何か他意を感じる」
「そりゃあ今でも本気で頭がおかしいと思っていますから。実行を許した私も私ですけど」
「……んぅ」
ぐうの音も出ないサナリモリブデンを置いて、さらに次だ。
映像が切り替わる。
コースを上から見ていたそれまでから、横から見た断面図に。
「続く特徴はコース全体での高低差です。なんと5.4メートル。ゴール前から1コーナーにかけて登り、向こう正面へ駆け下りていく形になります。特に、このゴール前の部分は最大勾配2.24%と全レース場で一番の急坂です」
郷谷の指がトントンと画面を叩くのに合わせて数枚の写真が表示された。
実際の坂を様々な角度から写したものである。
それは確かに、サナリモリブデンをしても「むむむ」と眉間に皺が寄るような坂だった。
「ここでスタミナが切れているともうどうにもなりません。逆噴射一直線です」
「うん、これは分かる。十分に残しておかないと……物理的に無理がある」
「見るだけのファンからすると逆転劇が起こりやすいのでスリリングで良いのでしょうが、私達の立場だと恐ろしいんですよねぇ……」
「逆に言えば、万全を保てれば最後までチャンスはあるという事」
「ふふ。そうですね、ポジティブに考えますか。粘り腰はサナリさんの持ち味なわけですし」
コースの情報はこんなところだ。
最後に全体図に戻り、予想されるレース展開についてを語る。
「以上を踏まえてまとめると、中山内回りは非常にタイトでタフなコースと言えます。コーナーの多さや高低差、直線部分の短さから道中はゆったりと進むでしょう。ペースを壊すようなウマ娘が居れば話は別だったでしょうが、ペンギンアルバムさんは潜伏型、クラースナヤさんは周囲の流れに合わせるタイプ。他の方々もそういった奇策を選ぶ可能性は低いと思います」
これは彼女にとって助けとなる情報だ。
サナリモリブデンはこれが長距離への初挑戦である。
しかも、これまでのマイルレースから中距離を飛び越えて、だ。
幼少期の無謀な鍛錬で走り方は覚えたとは言っても実戦は話が別だろう。
それならば多少なりとも消耗の少ないスローな展開は願ったり叶ったりと言える。
そこまで言って、ただし、と郷谷は最初のコーナーを指す。
「ただし、ここ3、4コーナーは話が別です。スタート直後の序盤は位置取りのために、2度目に通る終盤では直線の短さから仕掛けのために。どちらのタイミングでも激しさが予想されます」
その言葉に真剣に頷くサナリモリブデン。
有マ記念の肝はコーナーだ。
特にスタンドから見て右側の3、4コーナーの趨勢が勝敗に大きく関わってくるだろう。
「では、最後ですが……ふふっ」
と。
コース全景の横に出走表を呼び出した郷谷が噴き出した。
いかにも思い出し笑いといった風。
「トレーナー?」
「いえ、すみません。これを見るとつい抽選会を思い出してしまって」
「あぁ……うん」
理由を聞き、サナリモリブデンもまたわずかに頬を緩めた。
「あれはちょっと、私も面白かった」
「毎年師走恒例、年の瀬を彩る夢のグランプリ! 有マ記念枠順抽選会をこれより開始いたします!」
マイクを手にしたスーツ姿の男性、司会として日本に広く顔を知られた芸能人が弾んだ声を張り上げる。
それに合わせて会場からは拍手が巻き起こった。
場に紛れたお調子者がいたのだろうか、口笛まで聞こえている。
有マ記念といえば、ファン投票で選ばれたウマ娘に優先出走権が与えられる事で有名だ。
あのウマ娘とこのウマ娘の対決が見たい。
そんな声に応える面の強いレースである。
いわば夢のオールスター戦であり、他のレースと比べてもより大きく興行としての性質が押し出されている。
この枠順抽選会についてもそうだった。
暮れに欠かせないエンタメとしてバラエティ番組さながらに構成され、生放送までされている。
有マ本番、それに大晦日の歌番組と合わせてこの3つはテレビ業界にとって視聴率の最高値を競う大イベントだ。
当然現地観賞の激しい倍率を潜り抜けた観客の盛り上がりも特大である。
"88888888"
"待ってた"
"本番と同じくらい好き"
さらに追加で、会場に設置されたスクリーンに文字が流れる。
抽選会の生放送をネットで視聴している者のコメントだ。
近年ではネット方面にも門戸が広げられ、こうしてリアルタイムのコメントが反映されるようにもなっていた。
もちろん、最低限の検閲はされているが。
「本年も数多くの票が集まりました。視聴者の皆様も投票はされましたか?」
"当たり前だよなぁ?"
"しないわけがない"
"ギリギリまで悩んだわ……"
"クラースナヤ一択"
「ちなみに僕の夢はスレーインです。……でした」
"草w"
"草に草生やすな"
"ジ ン ク ス 継 続"
"お前が票入れた子毎年回避やんけ!"
"こ い つ の せ い か"
ネット中継はもう数年目、司会も慣れたものだ。
自分が何を言えばコメントが盛り上がるかを良く分かっている。
僕だってわざとやってるわけじゃないんですよぉ、などと叫びながら内心では美味しいなと思っていたり。
もちろん口にも顔にも出さないが。
さて、そんな抽選会はまず中山のコース紹介から始まり。
過去数年のレース展開のおさらいを挟み。
会場に集まった出走ウマ娘とそのトレーナーの簡単な紹介を経て。
「さぁそれではお待ちかね、抽選スタートです! 記念すべき今年の一人目はぁ……むむむ!」
いよいよ本番に入った。
司会の男が目の前に置かれた大きな箱に手を入れ、中をガシャガシャとかき回す。
そして……中々取り出さない。
"はよ! はよ!"
"焦らさんでええからw"
「おっと失礼しました。はい、一人目はこの方──」
引っ張って焦らしはするが、盛り下がるほどは長引かせない。
そんな絶妙なタイミングで取り出された中身、ボールが1個高く掲げられる。
そこにはウマ娘の名前が書かれていた。
「──サナリモリブデンさんです! どうぞこちらへ!」
その声にサナリモリブデンはピクンと耳を揺らした。
そして……少し固まる。
今のこれは枠順を決める抽選を行う順番を決める、前段階の抽選だった。
つまりは本日のトップバッターに指名されたわけである。
未経験の形式での枠順決定、それも全国中継されている生放送ともなればサナリモリブデンとて緊張はする。
シニア級、できれば有マ出走経験のある先輩の様子を見て参考にさせてもらおうと思っていた所にこれは中々の不意打ちであった。
"サナ森きちゃ!"
"俺投票したぞサナリン!"
が、それも一瞬の事。
流れるコメントの中に自身を応援する声を見つけると、すっくと立ちあがった。
例えどのような場面であろうともファンに情けない姿は見せられない。
頼れるトレーナーに先導され、近くの席のペンギンアルバムに手を振るだけながら心のこもったエールを送られ前へと進み出る。
「ようこそサナリモリブデンさん。どうでしょう、今のお気持ちは。一人目ですが緊張していらっしゃいますか?」
「はい、とても」
公開抽選会未経験。
それもクラシック級という事もあり、司会の男はまずほぐそうとしたようだ。
にこやかな笑顔に柔らかい言葉を添えて進行する。
対し、サナリモリブデンは素直に感じているままを答えた。
「先に当たった方の様子を見て参考にしようと考えていた所でしたので、正直に言って驚きました」
"お焼香かな?"
"なんかサナリンが一気に身近に感じたんだがw"
「その割には声もハッキリしていますし、堂々とされてるように見えますねぇ……」
礼儀正しく、そして毅然と。
メディアの前でのサナリモリブデンのいつものスタイルだ。
緊張は確かにあるが、それで態度が崩れるほどでもない。
「抽選の前にまずは、今回の意気込みのほどは?」
「大きな挑戦になると、そう覚悟してきました」
"(いつものことでは?)"
"この子挑戦じゃなかったレースの方が少ない気がする"
なので続く質問にも遅滞なく答えられる。
胸を張り、カメラを見据えて、良く通るよう低めに調整した声を発した。
「それはやはり、距離でしょうか?」
「それもあります。
サナリモリブデンは視線を回す。
会場の客席に、コメントの流れるスクリーンに。
そして、すぐ近くに居並ぶウマ娘達に。
「精強極まる、同期のライバルと先輩方に対する挑戦です」
着火の時だ。
サナリモリブデンの第一人者達、郷谷とペンギンアルバムがニヤリと笑った。
あんまりにもあんまりなクソ度胸に感情を押し殺しきれなかったためだ。
「ここに選ばれた以上、全員が恐るべき強敵です。一人打ち破るのでさえ命がけとも言って良い難事でしょう」
表情に乏しい涼やかな面持ちは変わらない。
「ですが、私を応援して下さる方々は票として、目に見える形で期待を寄せて下さいました」
だが明らかに温度が違った。
内側から熱された鋼が、徐々にその色を変えていく。
「戦えるはずだ。勝て、と」
コメントさえ一時止まる。
沈黙は分厚く、重石のように圧し掛かった。
「ならば私は臆しません。託された夢に応えて、挑み──」
灼ける瞳に炎が宿る。
見守る誰もが知っただろう。
王冠を奪い、玉座を手にして。
しかしそこで満足などしていない。
「──全ての敵を打ち破ります」
挑戦者は未だ挑戦者のままであると。
"マジかこいつ"
"宣戦布告しやがったwww"
"緊張してるとか絶対嘘だろ"
"これだよこれがサナリモリブデンなんだよ"
"サナ森に投票した自分が本気で誇らしい"
"鋼 の 挑 戦 者"
"一番聞きたいものを聞かせてくれた"
"なお距離"
"有マ記念はマイルだから……"
"長距離なんだよなぁ"
壇上のサナリモリブデンとライバル達が静かに睨み合う中、真っ先に復帰したのはやはりコメントだった。
ネットを通した気楽さ故だろう。
受け取った熱をわいわいと盛り上がりに変換して速度を増していく。
「……との事ですが、郷谷トレーナーも同じ心境で?」
「もちろんです。愛バの熱意に添えないようではトレーナーは務まりませんので」
"ようゆーた"
"そのピアスどこで買ったの?"
"こっちも新人のはずなのに余裕綽々な顔しとる"
それに司会が続いた。
郷谷に質問が投げられ、さらりと返される。
サナリモリブデンならそうするだろうと当然分かっていた郷谷は事前に用意したままを言うだけで済んだ。
なお内心は今ここでやらなくてもと思っていたりはする。
愛バのモチベーションを考えれば止める選択肢は彼女の中に無いため、考えても意味のない事ではあるのだが。
「これは、今年の有マも熱くなりそうですねぇ……。僕はもう早くも楽しみで仕方なくなってきてしまいました」
一人目から盛り上がりすぎた空気を司会が締め、サナリモリブデンが促されてくじを引く。
掲げられたボールに書かれているのは、今度は数字。
5枠9番。
それがサナリモリブデンが引き当てた枠順だった。
その後は滞りなく進行した。
次にくじを引くウマ娘を決める抽選をサナリモリブデンが引き、壇を降りる。
そうして二人目、三人目、四人目。
「もうひとつ隣ならサナリンの横だったのに……っ!!!」
「す、すごい声出されますね。サナリモリブデンさんとは学園の寮では同室で、親友だとか」
「残念、大親友なのだ! ねーサナリーン!」
「ん」
"ンァーッ! 友情がデカすぎます!"
"貴重なサナ森のサムズアップ"
"マジで緊張知らずだなこのペンギン無敵か?"
6枠11番を引き当てた五人目のペンギンアルバムを挟んで、六人目。
"きた"
"クラースナヤ!"
"二大巨頭の麗しの方!"
"どっちもだっつってんだるるるぉ!?"
そこで選ばれたのはペンギンアルバムと並び勝利を最有力視されているウマ娘だった。
クラースナヤ。
シニア級一年目にして既にG1タイトル4つを手にした、現役の伝説だ。
その横顔は端的に言って美しかった。
他人の美醜にさほど関心の無い者であっても息を呑まざるを得ない、一種異様な迫力がそこにはある。
そんな彼女はショートカットの栗毛をさして揺らす事もないゆったりとした速度で壇に上がり。
「クラースナヤさんも今回が初めての有マ記念となりますが、いかがでしょう?」
「…………えぇ」
薄く開いているだけだった瞳をゆるりと開けて。
「………………なんだっけ。トレーナー、代わって?」
「だからカンペ持っとけって言ったのに……!」
あっさりと雰囲気を台無しにした。
「あはは、いつも通りですねぇー」
"知ってた"
"この子はほんまにもー"
"誰かスレーイン呼んできてー!"
"二大巨頭の残念な方"
"それなら異論はない"
予想していたらしいコメントは荒れもしない。
どうやらいつもの事。
彼女のキャラクターは当然のように広く知れ渡っていた。
「あ、そうだ。……私が勝ちまーす。いぇい」
「朝相談した時はもっと無難なやつだったよな!?」
「そうだっけ? そうだったかも。まぁいいじゃない、お返しお返し」
クールな美貌は笑みもせず。
ふわふわとした様子のまま6枠12番を引いて壇上を去った。
もちろんその後も抽選会は続く。
有マ記念はコースの関係上、内枠有利の外枠不利だ。
様々な悲喜交々が繰り広げられる。
「あぁっと、8枠15番! グランプリウマ娘ローズフルヴァーズ、これは痛いか……!」
「やっ、ちゃっ、たぁ……へへへ」
「有マ記念連覇に向けて気炎万丈、からの一転といった様子ですが……?」
「い、いやいや平気平気勝つよ勝つよあたしは勝つ。うんよゆーよゆー! このくらいのハンデ屁でもありません! ……だよねトレーナーさん!」
「だといいねぇ……」
「トレーナーさぁん!?」
"無慈悲で草"
"正直で草"
"まぁ脚質的に不利は軽い方だろ多分"
"前目狙いなら死だけど追込だしな"
前年の有マ覇者、ローズフルヴァーズが不利を背負い込んだり。
「崩れ落ちたコルスカンティ! 無言でぐったり! ……大丈夫ですか?」
「…………ふふ。うふふ。そうよ。知ってたわ。私っていっつもこうだもの。一番大事なところで一番ダメなところを引くんだわ。そういう星の生まれなのよ。笑いなさいよ。笑えばいいんだわ。ふっ、くくく……どうせ私は道化がお似合いなのよ。指差してゲラゲラ笑ってもらえればせめて救いにもなるというものだわ。あなたもそう思うでしょう? ねぇ。ねぇ。ねぇ?」
「こ、これはダメそうだぁ!」
「笑いなさいよせめてぇぇぇぇぇぇ!!!」
"糸冬"
"流石に不憫になってきた"
"この子G1大外何回目だ?"
"お祓い行け"
逃げ脚質のウマ娘が一番辛い大外を引いてみたり。
「ふぅー、ふぅーっ」
「緊張されてますか?」
「は? してないが?」
"その鼻息で緊張してないは無理よ"
"クラシック級の後輩よりガチガチやんけ"
「してないが? 緊張なんて無縁だが?」
"【悲報】オントロジスト、今日も緊張に負ける"
"そんなんじゃ勝てるもんも勝てんぞ"
「負けてないが? 勝つが!?」
「よしよし大丈夫、落ち着こう。落ち着こうね。一回深呼吸しましょ」
「落ちちゅいてるが!?」
"草"
これで9回目のG1挑戦、オントロジストが恥ずかしい姿を全国に晒しながら無難な4枠7番を引き当てたり。
そして最後に。
「…………せろ」
「おっと? すみません、もう少し大きな──」
「アタシにも引かせろォ!!」
金色の毛を逆立てて激情家が爆発した。
うがーとばかりに大口を開けて、叫ぶ。
「お゛っ……!」
至近距離でもろに受けた司会がよろめくほどの大音声。
発した者は片づけられようとしていた抽選用の箱にズカズカと大股で近付いていく。
うろたえるスタッフをガルルと威嚇して追い払い、そして腕を突っ込んだ。
「なァ! 不公平だろうが! こっちはこれ引くの楽しみにしてたんだよ! なのに全員決まったから引かなくていいですぅなんざ──納得できるかぁ!!」
引き抜かれた腕には当然ボール。
最後の1個。
その番号は。
「オラァ! 5枠10番ッ!!」
高らかに宣言された次の瞬間、ウマ娘の全力で握り潰され、破裂して砕け散った。
"ヒェッ……"
"なんじゃこいつ"
"いやこわいて"
フルゲート16人の有マ記念。
その16人目に滑り込んだクラシック級のウマ娘。
「アンタの隣だ──ブッ潰してやるよ! サナリモリブデンッ!」
アングータがその気性難ぶりを遺憾なく全国に知らしめた。
【枠順】
1枠1番:ホリデーハイク
1枠2番:メカニカルベイパー
2枠3番:リボンカプリチオ
2枠4番:ディルハムコイン
3枠5番:ブラボーセカンド
3枠6番:コンプロマイズ
4枠7番:オントロジスト
4枠8番:バシレイオンタッチ
5枠9番:サナリモリブデン
5枠10番:アングータ
6枠11番:ペンギンアルバム
6枠12番:クラースナヤ
7枠13番:ヴィオラリズム
7枠14番:ホエロア
8枠15番:ローズフルヴァーズ
8枠16番:コルスカンティ
【他ウマ娘の作戦傾向】
追込:3 差し:6 先行:4 逃げ:2
【注目ウマ娘の情報】
1番人気/6枠11番:ペンギンアルバム(追込)
2番人気/6枠12番:クラースナヤ(先行)
3番人気/8枠15番:ローズフルヴァーズ(追込)
そうして。
宣戦布告返しの後、アングータは担当トレーナーにしこたま怒られながら引きずられて退場した。
サナリモリブデンの耳には今もしっかりと残っている。
もちろん残っているのはアングータの名前だけなので意味は無いのだが、サナリモリブデンにも少し分かる。
箱に手を入れ、見ずにボールを選んで抜き出す。
それだけで緊張しながらもワクワクしたものだった。
他の者よりも一回少なかったのは残念だったろう。
「最近調子を崩していたと聞いていたのですが……あれなら大丈夫そうですね」
「うん。安心して戦える」
「その意気です。さて、それでは最後に敵についてです」
ともあれ、話の続きだ。
郷谷はまずクラースナヤの名前を指し示す。
「初めにクラースナヤさん。彼女はあの日見た通り、捉えどころのない性格をしています」
「ん、ふわふわしてた」
「えぇ、まさしく。レース中でもそれは変わりません。攻められてものらりくらりとかわし、攻める時はいつの間にか上がっている。そんなウマ娘です」
いわく、意識の間隙を縫うのが異常に上手いのだという。
高速で動くレースの中、警戒というのは切れ目なく続けられるものではない。
どんなマーク屋であっても対象以外の周囲に目を向け、展開を探る必要がある。
それは熟練のシニア級ならばほんの一瞬でこなせるものだ。
だが、クラースナヤはその一瞬で既に致命的なまでに行動を終えている。
「前回、マイルチャンピオンシップでサナリさんはバ群を無理矢理に破って抜け出しましたが……同じ状況に陥ったのがクラースナヤさんであれば、そうする必要はありません。いつの間にか道を見つけ、ぬるりと抜け出します。位置取りの巧みさと立ち回りの速度は歴代を見渡しても圧倒的です。ブロックがまるで意味を為さない相手と考えるべきでしょう」
「うん。この一ヶ月、動画で見てきただけでも分かる。見えている範囲が私とはまるで違う」
「雰囲気は緩いですが、頭のキレは恐ろしいほどです。正直な話、今のサナリさんでは彼女を止める手段はほぼ無いかと思います。実力をもって上回る以外に手立てはありません」
次に、と郷谷はペンギンアルバムの名前へと指を動かす。
そちらはサナリモリブデンも良く知っていた。
「掴みにくいクラースナヤさんと対照的に、ペンギンアルバムさんは分かりやすいですね。序盤中盤を最後方で溜めに溜めて、終盤からの一気呵成の追い上げで全てを覆す。典型的な追込ウマ娘です」
思い出されるのはダービー、そして何より菊花賞だろう。
加速力、最高速度、ともに最高峰と言って良い。
追われる者の。
どころか見るだけの者の背筋さえ凍らせるような、いっそおぞましいほどの超速度。
郷谷は言った。
ペンギンアルバムの本領を発揮させてしまえば、恐らくまともな形の勝負にならない。
サナリモリブデンどころか、クラースナヤですら、だ。
「そしてフィジカル面で彼女が崩れるのは期待薄でしょう。何しろ追込という戦法が上手すぎます。体力の温存は得意中の得意。その上、坂での息の入れ方が熟練どころの騒ぎではありません。……ですが」
と、そこで郷谷は指を立てた。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
三冠を示す三本を順番に立てて、それを逆回しに折っていく。
菊花賞、ダービーと遡り、最後に皐月賞を示す人差し指が残る。
「隙がないわけではありません。彼女の本領が発揮されるにはどうやら条件があります。恐らくは精神的なトリガーが」
クラシック三冠のうち、ペンギンアルバムは二冠を達成した。
つまり、皐月賞は落としている。
そしてその時に見せた彼女の末脚は、明らかに後ろふたつと比べて精彩を欠いていたのだ。
当時の本人のコメントは、上手く潜れなかった、というもの。
ならば、潜るのを邪魔してしまえば。
「もし集中が崩れれば、誰かが崩してくれれば。あるいは……サナリさん自身が崩しにかかって、それが通れば」
封じる事は叶うかも知れない。
郷谷はそう締めた。
目の無い賭けではないだろう。
ペンギンアルバムは打ち立てた異常な記録から多くの警戒を集めている。
同じだけの研究はされ、同じ結論に至った者も多いはずだ。
その誰かが対策を成功させる可能性はある。
また、サナリモリブデンの脚質は自在と言って良い。
多少の得意不得意はあるものの、追込の技量とて並以上の腕前だ。
初めて挑む長距離の実戦、実感のないスタミナ消費量に抗するための単純な温存という面も含めて、選択肢に上げるには十分だろう。
話を一度止めて、十数秒。
サナリモリブデンが内容を飲み込み終えたと確かめた後で。
郷谷は最終的な結論、今回取るべき作戦を口にした。
【ステータス補正適用】
バ場適性:芝B/スピード&パワー+10%
距離適性:長距離B/スタミナ&賢さ+10%
バ場状態:良/補正なし
スキル:冬ウマ娘◎/ALL+10%
スキル:シンパシー/ALL+5%
調子:普通/補正なし
スピ:517+129=646
スタ:420+105=525
パワ:429+107=536
根性:486+ 72 =558
賢さ:431+107=538
【適性】
逃げ:A(19/50)
先行:B(0/30)
差し:A(29/50)
追込:C(0/20)
【スキル】
領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv3(立ちはだかる壁が高い程、夢を背負った心は奮い立つ)
冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)
冷静 (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)
集中力 (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)
弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)
ペースキープ (レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)
シンパシー (絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)
鋼の意志 (敗北が迫った時、スタミナを回復する)
作戦選択
-
逃げ
-
先行
-
差し
-
追込
-
マーク:クラースナヤ
-
マーク:ペンギンアルバム