「超多次元宇宙ウマドル・ファル子とファン1号の関係を巡る銀河の戦い・case1」 作:宮ちゃん♪
刻は地球の暦にして21世紀。天の川銀河の小さな恒星系の第3惑星に誕生した、スマートファルコンなるウマ娘が、全宇宙、いや多次元宇宙間にその名を轟かせ、そこに住む多くの人々を魅了し、膨大な数のファンを獲得したこの時代。そのコミュニティ規模は3兆人を超え、空間という概念が誕生した有史以来、史上最大の勢力へと拡大したのは、もはや疑問に思う者すらいない当然の現象であると認識されていた。
もはや全宇宙の平和の象徴であるはずのファル子という偶像。しかし人とは対立を宿命付けられた存在であるのだろうか。ファル子ファンと言う一つのイデオロギーで包括された者たちの間にも、やがて思想の相違による争いが生まれ、その溝は時を経るにつれ拡大していくこととなるのであった。
そしてファル子による新シングル曲の発表およびミュージックビデオが全宇宙に公開されてより幾日、ついに過激派による蜂起が宣言されたのである。
地球と同じ銀河系にある、およそ1万光年を経た距離にあるホ―フェン星系に、首都星バンカラを構える連邦国家アーンシュラ。自由民主主義を国体として掲げながら、熱しやすく流されやすい国民性から、しばしば暴走的な振る舞いが目立つこの国が、地球に向けての武力侵攻を宣言したのである。
アーンシュラ連邦の国家元首であるボルドン・サンプス大統領名義で公布された宣戦布告文書には、大きく次のような侵攻理由が明示されていた。
『歴史的なウマドルであるスマートファルコンと、そのファン1号であるトレーナーの関係が遅々として進まないことに対して遺憾の意を表すると共に、その進展に対して、武力の行使も選択肢とした介入を行うため、艦隊を派遣することを決定した』
全宇宙人類が驚嘆し、また戦慄を禁じ得ないでいた。ファル子・トレーナー強硬派の意見が、よもやここまで大きくなっているとは、考えていなかったのである。
以前からファル子とトレーナーが、どこからどう見ても想い合っているだろうに、何故かその関係に艶の欠片も見られないことに多くの人々が不満を抱いていたのは事実である。それに対して、強制的に介入してでも仲を進めよう、という過激な意見を述べる者も少なくはなかった。しかし結局は、当人たちの問題であるのだからと、外から無用な圧力を加えることに反対する者の方が多いのだ。
だが、ファル・トレ強硬派の不満が活火山の下で煮えたぎるマグマのように急速に密度を増していたのも、多くの者が感じ取っていたのである。そこに一石を投じたのが、半年ほど前に就任したばかりの、サンプス大統領であった。巧みな話術と流麗な自画自賛、過激な対抗馬への罵詈雑言を駆使して連邦国家の最高指導者へと成り上がった扇動の申し子は、沸点の低い国民たちのナショナリズムを掻き立て、自分たちの意見こそ正義であると吹聴し、熱狂する市民たちの勢いそのままに、武断的な行動を自らの支持基盤とすることに成功したのである。
サンプス大統領は選挙の公約通りにファル・トレ間の介入に関する特例法を国会に提出し、与党の絶対多数を持って数日の審議で通過させると、即座に軍部に部隊編成を命令した。国権の最高指導者にして国軍の最高司令官たる大統領の命令を受け、統合幕僚本部が遠征軍総司令官に任命したのは、軍属40年を誇る同国最高の名将ロベルト・ボラーテ上級大将であった。
その他の星系に住む多くの国々が狼狽した。アーンシュラ連邦と言えば、自らの行動に狂信的な信念を持ち、それに逆らう者を悉く悪と断じて鉄槌を下す、凶暴な国家であると知られていたからだ。今から半世紀ほど前に、専制国家ながら安定した治世を運営していたリングドン帝国に対し、民主主義政体への移行を要求して開戦機運を高めた事があった。連邦は専制主義の打倒を掲げて出兵準備を急ぐと共に、同じ民主共和制を掲げるゲルリン共和国に参戦を求めたのである。
しかしゲルリン国は内政不干渉を理由に連邦の要求を拒否し、中立の立場を宣言した。政体が違うという理由だけで、特に圧政を敷いているという訳でもないリングドン帝国と戦争をする理由は、彼らにはなかったのである。
アーンシュラ連邦は激怒した。正義の民主主義である自分たちの意見に逆らい、悪の専制体制に対して与するというのならば、それはどんな相手であろうと悪なのである。連邦は直ちにゲルリン国に侵攻し、圧倒的な兵力を持って全土を掌握、首都星カイネギンは破壊と殺戮の嵐が吹き荒れ、略奪の暴風の中で灰燼と帰した。何百万もの人々が血と炎の泥濘の中で息絶えたことを知った連邦の市民たちは、これぞ民主主義の勝利だと盛大に祝い、美酒を煽って正義に酔ってみせたのである。
その後、勢い込んで帝国に侵攻した連邦軍だが、帝国軍の焦土作戦により奥深くへ侵入しながら兵站が崩壊し、結局は何の成果もみせることなく撤兵し、当時の大統領が辞任して帝国軍との和約を結んで終了となったのである。この事で明らかに損をしたのはゲルリンの民であり、彼らは国土を併呑されて連邦の辺境に組み入れられ、銀河国際社会の批判やゲルリン民の反発が続く中でも、連邦の人間は誰一人、ゲルリン自治国の存在に疑問を呈することはない。
そのような、他の国々には理解が及ばない思考過程を経るアーンシュラ連邦に対し、他の国々は尻込みした。何を言っても聞かないであろうことは明白だし、何かしらの対処を行えば敵国認定され、その鋭鋒は自分たちに向けられるのだと分かっていたからである。
連邦の宣戦布告に対して、銀河国際社会は連名で非難決議を採択したが、そこに強制力どころか効力すらないことは、誰もが理解していた。
人々が指をくわえて見ていることしかできない中で、ついにアーンシュラ連邦地球遠征軍は部隊編成を完了させ、その威容を銀河系に表すことになる。首都星バンカラの宇宙港から出立した旗艦マクナンにはボラーテ上級大将が鎮座し、惑星前に巨大な列を作る光点群の中へと進み出て行った。その数、戦闘用艦艇だけで優に40万隻を数え、堂々たる布陣を敷いて、星々の海の中へと艦列を連ねて漕ぎ出していったのであった。
アーンシュラ連邦軍40万隻の大艦隊、出撃す――
この報が出てなお、銀河系諸国家は逡巡を重ねていた。しかしファル・トレ穏健派の世論は過激派よりも大きな母数を持ち、今回の不当な暴挙に対して、批判を訴える意見の方が数多い。しかし犠牲を覚悟してまで介入することに、為政者たちが消極的になるのは仕方がないことだった。
故にこの時、ファル・トレ間、ひいては地球の平穏を鑑みて、国民投票を実施してまでアーンシュラ連邦に対抗する道を選んだのは、非常に少ない勢力になってしまったのである。
その対連邦の中核として艦隊を組織したのが、レーンドキ共和国であったのだ。