「超多次元宇宙ウマドル・ファル子とファン1号の関係を巡る銀河の戦い・case1」 作:宮ちゃん♪
漆黒の宇宙のなかに散らばる、星々の絢爛たる瞬きの光。それらを塗りつぶすように現れる漆黒の艦艇軍。空間を歪めて表出するリングドン帝国艦隊が、次々にワープアウトしてその数を増していくのを目視しながら、レーンドキ艦隊将兵たちは緊張に口中を乾かしていた。
決戦場と定めたアイルトン宙域は、左手側に小惑星帯を連ねた広い空間である。右手側には古い恒星が燦然と輝いているが、生命体が生存できるような惑星は存在せず、危険を冒してまで開発するようなめぼしい資源も確認されていないことから、半ば放置された宇宙の砂漠地帯であった。そんな場所だからこそ、危険を伴う戦場にはうってつけという訳である。
勇敢で直情的、一度進めば留まることを知らずと謳われるリングドン艦隊である。最短ルートを最速で駆け抜け、また艦隊規模の面からも連邦軍に比べて身軽であることから、後から進発したにも関わらず本軍を追い越し、こうして共和国艦隊と相対しているというのは、何とも奇妙なことであった。
だが本人たちとしては、これこそむしろ本望であろう。連邦と帝国は元来、犬猿の仲で知られる関係で、今回の呉越同舟のような事態が異例なのである。一時的な共闘とは言え、本来は反目する立場であるのだから、どちらかの戦力に組み入れられるようなことはお互いのプライドが許さないのだろう。さらに言えば、先に目的地に辿り着いて連邦を出し抜くことで、帝国の手柄としたい思惑も見て取れる。一方の連邦は先に帝国が露払いしてくれることで、相手の戦力を減らして自分たちの優位をさらに拡大させたい思いなのだろう。最初から別行動を取ることで、船頭多くして船山に上る事態を避け、互いの利害を睨みながら牽制し合うような構図は、傍から見ると滑稽なものであった。
しかし連合軍としては、そのような不仲を突いて各個撃破を狙えるチャンスであるから、むしろ好都合と言うべきであろう。そこでロマン大将はレーンドキ艦隊単独でリングドン艦隊を迎撃し、他連合艦隊3万隻をアーンシュラ連邦軍の進路上で留めて牽制する事としたのである。これは戦果の独占を狙ったものというより、所詮は烏合の衆である連合軍で臨むよりも、数の上では優位なレーンドキ艦隊のみの方が練度が高い状態で連係にも不安がないことから、妥当な判断だと思われた。
こうしてアイルトン宙域に顔を揃えた、リングドン帝国艦隊5万隻とレーンドキ共和国艦隊7万隻による、「銀河内ウマドル会戦」の前哨戦、アイルトン宙域の戦いが幕を開けたのであった。
戦いは最初、リングドン艦隊優位に進むこととなる。2万隻の差を物ともせずに、全軍突撃隊形を取った帝国艦隊が正面から押し寄せ、その剽悍さに共和国軍が気圧される格好となったのだ。視界を埋め尽くすかのような光の矢がモニター内を埋め尽くし、エネルギー中和磁場に弾かれたビームが燦然と網膜を焼いて、光量調節をされているはずの艦内に、目を細めるほどの光の暴力を投げかけてくるのである。
中性子ビーム砲の一斉射に双方の前線がエネルギーを飽和させ、中和磁場の耐久力を超えた時、艦艇への直接ダメージが物理的に弾けることになる。被害が核融合炉にまで到達した戦艦や巡洋艦が、眩い光球と化して一瞬後に消滅すると、今度はその背後の艦艇へと膨大なエネルギーが集中するのだ。そんな光景が随所で散見され、人の命もまた、苛烈な暴力の中で散華していくのである。
数の上では有利であるはずのレーンドキ艦隊であるが、リングドン艦隊の猛烈な突進に押され、じりじりと後退を余儀なくされていた。すでに陣形の先頭部では接近戦が展開され、互いの航空母艦から発進した単座式戦闘艇による近接航空戦闘が行われている。自軍の被害を顧みずに猛進してくる帝国軍に気圧されたように、すでに前線は切り裂かれ、戦線は崩壊しつつあるように見えた。
艦隊司令官たるロマン大将は歯噛みしながら、何とか持ちこたえてくれるよう、前線指揮官たちへと指示を飛ばす。激烈な電波妨害により互いにまともな通信が行えない昨今の戦場において、連絡手段は古典的な光点滅信号か、もしくは通信艇に指令カプセルを持たせての伝令通信となる。司令部から激戦地への連絡手段は、距離的な問題や発光が交錯する乱戦場の観点から、古代の戦さながらの早馬のように伝令を飛ばすことになるのだが、最先端技術の粋を極めた末にこのような原始的な方法に回帰する迂遠さに、溜息を吐かざるを得ないというものだろう。
だが、どれだけ現代戦闘の問題点を嘆いたところで、現状の趨勢が変化するという訳でもない。前線が崩壊しリングドン艦隊の鋭鋒が自分たちを引き裂いたとしたら、それは戦線壊滅からの全軍潰走へと至る敗北の急坂に繋がるのだから。
ロマン大将の願いに応えるように、前線指揮を担当する提督たちは粘り強く対応し、戦力を損耗しながらもよく耐え忍んでくれていた。ことに第4艦隊司令官マッジョ中将指揮下の部隊は装甲の厚い戦艦を前面に配置して漆黒のリングドン戦艦群の攻撃に対して壁を作り、その勢いを反らして分断を図るなど、老練の宿将に相応しい巧緻を披露してくれたのであった。
こうしてリングドン艦隊の勢いが徐々に減退してきたところを見計らい、ロマン大将は一際大きな発光信号を指向的に発信した。それを受けて左手側の小惑星帯から、別働部隊7000隻が戦場へと躍り出す。光の矢のように急行した艦隊が帝国軍の横腹に猛烈なビームとミサイルの集中砲火を浴びせると、横撃に耐えかねて獣のようにうねり狂う敵艦隊に、今度は動きを止めた帝国艦艇へと逆撃の砲火を集中させた正面艦隊によって、完全に形勢は逆転したのである。
殊に大きな戦果を挙げたのが、別働艦隊が小惑星帯から引っ張ってきた無数の岩塊の突撃であった。急行する勢いそのままに、牽引ワイヤーから外された巨大な岩が、等速で艦艇にぶつかってくるのだから、受ける側からしたら溜まったものではない。巨大な衝撃に爆発が連鎖し、帝国軍は勢いを失って防戦へと追いやられてしまったのだ。
こうなると、前進には強いが守勢に回ると一気に崩れる悪癖を露呈し、リングドン艦隊は敗走へと移っていった。ロマン大将はあえて追撃を避け、戦力の温存に努めるよう指示を出す。これだけ一方的な敗戦を喫したのだから、帝国軍が軍備を再編するには時間がかかるだろうし、アーシュラ連邦軍と合流するような事態もないだろうと想定したのだ。
ロマン大将は緒戦の勝利に大きな安堵感を覚えながらも、負傷者の後送や損害艦艇の報告など、事後処理に関する指示を副官ドルーベン少佐に伝えていく。そして当人は、今回の作戦に協力してくれた警備艇隊の指揮官へと謝礼の通信を送ることとしたのである。
今般の戦闘における趨勢を決した別働隊の存在であるが、この作戦の肝となるのは、如何にその存在を隠匿するかにあった。だが艦隊の規模はすでに大々的に発表され、出発式までやったのだから、その数は敵方には周知の情報である。なのでその数字を利用して、事前に7000の艦隊を秘密裏に出発させて小惑星帯に隠しておき、あとは周囲の星系の警備艇部隊などを集めて、足りない分は風船などで作ったダミー艦艇を配置し、見た目の数を誤魔化すことにしたのである。
現代戦においては、すでに各種レーダー透過装置や吸収素材、妨害電波の発達により、レーダーなどの光学索敵装置は意味をなさなくなっている。故に軍人は、有人偵察艇や監視衛星など、有視界情報を頼りにするしかない。なので敵は、数さえ揃っていれば、それが相手の全軍だと錯覚してくれる。そう考えたロマン大将による伏兵横撃作戦が、今回は見事にハマった格好であった。
しかし第一戦を制しただけで安心してばかりもいられない。特に次の敵は、ただでさえ圧倒的な数を擁している上に、重厚にして果断と噂される名将ボラーテ上級大将が率いるアーンシュラ連邦艦隊である。今回のような奇策は通じないであろう。そのことを考えるたびに、眉間に皺を寄せるロマン・バイバルス大将なのであった。
こうしてアイルトン宙域の戦いはファル・トレ穏健派の勝利で終わった。レーンドキ艦隊が完全破壊もしくは
戦闘不能に陥った艦艇3000弱に対し、リングドン艦隊は1万隻を超す大損害を出しての大敗であった。この報を受けて勢いづいた連合艦隊が再合流し、ついに決戦を臨む舞台となるドルトゲン宙域へと至った時。
そこで目にしたのは、視界を覆いつくすアーンシュラ連邦艦隊40万隻が連なる圧倒的な重量感であった。