門倉さんの別の夢の話。
寅さんみたいによく夢を見てそこから始まる物語の流れが割と好きです。
関谷と土方さん、そして妻との甘々な時間。

冷たく辛い記憶から、
暖かい場所へ行くハッピーエンドにしました。

少し妻とのイチャイチャありなのでR15です。

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門×妻という公式だけどニッチなカプです。

ガイドブックの質問コーナーにて判明した
元妻子持ちという情報から妄想しています。

妻の設定は完全二次創作なのでご注意ください。

こちらも門倉の手記のような文章にしてあります。


cocoon & raccoon dog

 

繭と狸

 

 

以前はよく見ていた繭玉の棺の夢。

その夢は決まっていつも俺が棺桶のような繭の中に閉じ込められている。

 

そして、毒の繭を掌に幾つも乗せた

青白くやせこけた頬の男に睨まれる。

 

頭上には、その顔と同じ青白い稲光。

 

ぎろりと濡れた男の眼玉は

瞳孔が開ききっていて

黒い闇がどこまでも続く。

 

青白い雨粒がビタビタと

男の頬、眼玉に打ち付けている。

「神様っているのかね?」

男は凍るような吐息を、無機質な歯列の間から

湯気を立てて吐き出す。

 

やがては、牛の眼球を想起させるような、

大きく血走った眼に変わる。

おぞましく焦点の合わない眼球。

更に長い舌をダラリと垂らしていてそれもまた非常に不気味だ。

次の瞬間、

俺をギョロリと見て接近してきた!!

 

 

思わず俺は跳ね起きた

 

「あぁっ!!」

引き攣れた叫び声を上げて飛び起きる。

 

冷や汗に体がじめっとして

世にも居心地が悪い。

 

体じゅう、布が纏わりつき

まだあの窮屈な繭の棺桶の中にいるようだ。

 

あの悪夢で飛び起きるたびに、同じ部屋で雑魚寝していた他の面々を驚かせてしまっていた。

キラウシがいつも真っ先に大丈夫か!?と声をかけてくれたっけ。

 

 

それこそ、あの夢が何かの暗示ならば・・・

一体どんな不吉な知らせなんだろう。

たまったもんじゃない。

 

夢っていうのは目覚めてすぐには、

頭の中をぐるぐると思考が回って震えが止まらないんだけどね。

 

神様はいるのか?と関谷にそっくりな

死神が聞いてくるその意味とは・・・色々寝ぼけた頭で考えてしまう。

 

答えは出なかった。

 

 

関谷の一件で土方さんに尋ねたこともあったけどね。

 

神頼みや運ばかりに頼っていては生きてはいけないと言った。

現実を生きて、

自分のこの手で運命を変えることの大切さを

あの背中を見て学んだ。

 

「現世にしか興味はない」

 

俺は自分の生まれを嘆いていたけれど、

諦めずに運命を捻じ曲げて上向きにしようとする生きざまは、不死身の男や青い目の少女たちからも学び、いつしか触発されていった。

 

 

怖い夢も時間が経てば忘れていくもので

夢から醒めて日常に身を置くと、不思議と

さほど恐怖感というものは湧かなくなってくる。

怖い夢を見ても、昼間には慣れてくるものなのだ。

俺はいつものように、能天気になるわけだが。

 

夢に対して良い解釈をすれば、

繭から羽化して

この背中の"羽根模様"が

 

如何にして

あのお方のお役に立ちますものやら・・・

 

そのことばかりを考えるようにした。

 

土方さん・・・

 

彼の手によって静けさの中へ堕ちていった

あの男。

 

今となってはもう俺の夢には出てこない。

 

関谷輪一郎という男

あいつも

そして俺も、

家族と不本意に離されたもの同士だった。

 

天災によって愛娘を失った

関谷は、理不尽の不協和をどうにか無くそうと、後から悪い辻褄を合わせようとして足掻き続けたのだろう。

 

雑居房の他の囚人に毒を盛り、運を試したなどと言って問題行動を起こし、騒ぎになった事もある。

 

俺は看守として上から指示されたままに、毒を隠し持ってはいまいかとあいつの尻を探った事もあったが、結局は痛くもない腹を探るようだったな。

あれは俺みたいなツヤもない男に尻を乱雑に探らせ、あの男に屈辱を与えた上に辱める為にしていた事か?

上が何かを隠蔽するための工作か?

だいいちトリカブトなんぞ、尻に入れられるわけがない。

 

巷の悪い薬をする奴らは、尻から入れて愉しむだなんていう話も耳にした覚えがある。

薬が慢性化したような輩は、その方が薬の回りがいいのだそうだ。

後遺症によって幻覚に悩まされた囚人が、尻をモゾモゾと掻くように触りながらブツブツと言っているのを、

俺は気味が悪くて足早に通り抜けていた。

 

トリカブトなんて無理な話だ。

俺は心付いた。

 

誰が、何のためにトリカブトをあいつに渡したのか?引っかかっていた。

 

あれは、実はわかってちゃいたんだが「あんた、バカだな」なんてキラウシに指摘されたんだったな。

 

あれこそ、本物の迷宮入りだ。

 

 

今となってはもう・・・

 

あれは過ぎたことであって

もはや、全てが終わった今

この背の印だって意味を成さなくなった。

 

いろいろなことがあったな・・・

 

このスミも、俺も、

次は何の役に立つんだろうか。

 

しばらくは空っぽになっていた・・・

 

土方さんも、いなくなっちまったし。

 

 

今の役目といえば、

恥ずかしながら、復縁した妻との閨事で

背なのあちこちを指先でなぞられる事くらいだ。

 

触れられはじめの最初は、くすぐったさに幼子のような安らぎを覚えるが、

段々とそうしてもいられなくなり・・・

年甲斐もなく妻を抱き寄せる。

 

潤んだ瞳、濡れた唇・・・

悩ましい睫毛の影。

思わず接吻がしたくなり、紅みのさした妻の頬に手を添えた。

 

歳は重ねたものの、俺の背中の羽模様を弄ぶ可愛い女を、心から

 

「愛してる・・・」

息継ぎに接吻をやめると今度は、妻の艶っぽい顔を間近に見ながらそう囁いた。

 

 

更に俺に抱きつく腕に力が込められて、俺も妻を強く抱きしめた。

 

これほど愛していたのに

あの頃は何でかねぇ、伝えもしないで。

・・・馬鹿だね、俺は。

 

あの最果ての、凍るような監獄の中で

心にまで霜の華が降るほどに

愛なんてものは忘れて凍らせていたんだ。

 

俺の役目が何なのか、何が正しかったのか。

わからなくなりそうな時もあった。

 

血生臭い汚れ仕事、豚の糞便の臭気に

食欲も色欲も忘れ、安酒を煽っては寝て起きてまた働く。

骨の髄まで痩せこけるとはよく言ったもので、色々なものが枯れ果てていた。

 

しかしあのお方のためならばと

諦めずに、身を隠し刃を研いで待っていた。

 

 

敬愛する人の大志は叶わなくとも、

俺は伝えていきたい。

流された血を、無駄にはしたくない。

 

 

 

 

秋晴れの午後に空を見上げると

鱗雲に金色の太陽が反射して、錦鯉のようだった。

 

白くほほけた芒が、あの人の髪のように

優しげに穂を振っていた。

 

少しだけ涙が出たのを、

俺は煙が目に染みたフリをして隠した。

 

焚き火の煙の、懐かしい匂い。

 

 

親愛なる戦友と笑い合い

 

愛する人と共に生き、

 

あなたの事を語り継ぐことにした。

 

そして、誰もしたことのない事をする。

 

いつしかあなたが詠んだというあの句のように、

 

新雪の上に足跡をつけて。

 

 

もうすぐ冬が来ます。

 

春がきたら、まだ知らぬ国へ旅立ちます。

あなたの愛用した銃を作ったあの国へ。


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