【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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クイーンズオーダー

SIDE:兵卒 フィレン

 

「やー、ここに来るのも随分久しぶりに感じるねえ」

 

 ピンク髪をポニーテールにまとめた地球系人類(アーシアン)ジョゼは、氏族船(クランシップ)内の外殻に近い区域に広がるトロフィーストリートに足を踏み入れていた。

 彼女にとって古巣といえば古巣だが、あまり愛着がある訳でもない場所である。

 相も変わらずオーク嫌い(ヘイト)をテーマにした怨念まみれの落書き(グラフィティ)に埋め尽くされた通路を見回し、同行者のフィレンは眉を寄せた。

 

「オレが付いてくる必要はあったのか? 氏族船(クランシップ)内なら護衛も要るまいに」

 

「ポーズよ、ポーズ。 戦士階級をボディガードに付けるくらい大事にされてるってアピールな訳よ」

 

 ジョゼはにんまりと笑いながら続ける。

 

「女王様の政策がちゃんと実行されてますよって一目で判るように、ね」

 

 マルヤー女王肝煎りの政策であるトロフィーの登用計画、ジョゼはその第一弾である。

 第一弾としての成果は、なかなか悪くない。

 新米オペレーターゆえ、報告の不十分さや対応速度の遅さなどマイナス部分は勿論ある。

 その一方で突発的に巻き込まれたトラブルにも何とか順応し、過酷な状況にも耐え抜くタフさに関しては、大きく加点されていた。

 一党の頭であるカーツによるジョゼの最終評価は、今後の期待も含めて何とか合格点といった所。

 短期間の詰め込み教育による促成オペレーターとしては、上等であろう。

 だが、これは図々しい一面もある本人の気質と、ピーカ姫の直接の許しがあるためオーク的な礼儀に緩いカーツ一党の雰囲気が上手くマッチングしたからという理由もあり、他の一党ではどうなるか判らない。

 それを試す為にも、トロフィー登用計画第二弾の勧誘は必須であった。

 

 だが、道程は厳しい。

 トロフィーストリートの居住区画でジョゼが自身の体験談を交えつつ勧誘を行うも、反応は芳しくない。

 

Q1:船の仕事とか判んないし……。

Q2:死ぬかもしれない戦場に出るのはちょっと……。

Q3:オーク戦士に連れ回されるって、携帯性欲処理要員にされちゃわない?

Q4:そもそも、あいつらの役に立ちたくない。

 

 大別すると、このような意見が寄せられた。

 

「うぬぬ……」

 

 トロフィーストリートの女性達に直接意見をぶつけられたジョゼは、眉を寄せながらそれぞれに反論していく。

 

A1:わたしも未経験だったけど、オペレーターの講習受けさせて貰えたし、何とかなるよ!(なお、個人ごとに習得速度の差はあります)

A2:略奪部隊の仕事は不意打ちだから、トラブルが無い限りさっさと仕事終えて離脱できるから結構安全だよ!(なお、トラブルは稀に大変よく発生します)

A3:ちゃんと規律を守る戦士の所なら大丈夫だよ!(なお、性欲よりも規律を優先できるオーク戦士はあんまり居ません)

A4:うん、まあねぇ……。(うん、まあねぇ……)

 

「……これは、駄目なんじゃないか?」

 

 必死に反論するものの、かなり分が悪いジョゼの状況に、フィレンは正直な感想を述べる。

 

「ちょっとは手伝ってよ、フィレンくん!」

 

「オレが口を出すのは、逆効果になるばかりだと思うんだが……」

 

 空回り気味の熱弁を振るうジョゼの後ろに立っているだけで、恨みと殺意がトッピングされた冷え冷えとした視線を無数に浴びせられているフィレンだ。

 何を言っても逆撫でにしかなるまいと察していた。

 

「ノッコを連れてくるべきだったか」

 

 元トロフィーストリートの顔役であるノッコこそ、この場での説得力を生む人材であったろうが、彼女は姫のお供として女王の私室へ出向いていた。

 この場に居ない相手に頼る訳にはいかない。

 自分の介入は悪手になる可能性が高いと予想しながらも、フィレンはジョゼの支援をすべく口を開いた。

 

「あー……、見ての通り、ジョゼにはオレが付けられており、彼女の警護と補助を命じられている」

 

 演説なんて柄ではない。

 口先で煙を巻いて自分のペースに巻き込むなど、戦士の手管ではないのだ。

 故にフィレンは悩みながらも、正直に彼自身が把握している事を述べる。

 

「一党の上司から命じられた事ではあるが、延(ひ)いては女王陛下からの命に連なる内容だ。

 いわば勅命、これに逆らうオーク戦士は居らんだろう」

 

 口を閉じ、自分を睨む女達を見回す。

 トロフィーストリートの女達の目に浮かぶは、嫌悪、憎悪、恐怖、不信。

 負の光しか浮かんでいない。

 

「……そんなの信じられるもんか」

 

 ぼそりと低い声が上がった。

 ボサボサで輝きもくすんだ金髪を首の後ろで括った、澱んだ瞳の女。

 

「ベスラ、あのね」

 

「ジョゼは黙ってて」

 

 ベスラと呼ばれた女は、口を挟もうとしたジョゼの言葉を冷たく切って捨てると、疑心に満ちた垂れ目でフィレンを睨みつける。

 

「あんたさ、前にここに来て暴れてたオークナイトだよね」

 

「元、だ。その称号は剥奪された」

 

 律儀に応えるフィレンにベスラは鼻を鳴らす。

 

「今はナイトじゃないから、ナイトの時にやった事もチャラだってぇの?

 滅茶苦茶な理屈で喧嘩吹っかけて暴れてさあ!」

 

 かつての狼藉、今の頭領の下に配属される原因となった件に触れられ、フィレンは顔を顰めた。

 あの一件、カーツに敗北した事に関して、今のフィレンはすでに呑み込んでいる。

 叩きのめされ己を見つめ直す経験は、むしろ必要であったとすら思っていた。

 その一方でカーツに戦いを挑んだ一連の流れ、このトロフィーストリートでの振る舞いについては、意識的に思考に上らせていなかった。

 後になるほど「あれは無かった」と羞恥に悶えるような無理筋な喧嘩の売り方で、フィレンとしては記憶の隅に埋めて忘れた事にしてしまいたいような黒い過去となっていたのだ。

 その部分に触れてくるベスラの言葉は明確にフィレンの急所を抉っていた。

 尤も、反論したい部分もある。

 

「喧嘩を売った相手であるカーツ隊長と、出汁にしたジョゼにはすまない事をしたと思っている。

 だが、お前に迷惑を掛けた覚えは無いぞ」

 

 渋面のフィレンから出た反論に、ベスラは柳眉を逆立てた。 

 

「何言ってんだよ、あんたが負けるからノッコ姐さんがオーク戦士のトロフィーにされて、ここから居なくなったんじゃないか!

 私たちの用心棒をしてくれてたのに!」

 

「む……」

 

 その飛び火は考えていなかった。

 

「ノッコが隊長のトロフィーになったのは確かにオレの敗北が原因ではあるが、それで用心棒が居なくなったというのは筋違いだ。

 そもそも、あいつにはお前達の用心棒をしてやる謂れもないぞ」

 

 ノッコの気質からして、なぜ用心棒めいた事をしていたのかなど、フィレンにも察しがつく。

 間違いなく暇つぶしだ。

 

「そんな事ない! 姐さんは優しい人だ、あんたみたいな馬鹿息子が居なけりゃ!」

 

「ベスラ! ちょっと!」

 

 慌ててジョゼが口を挟むが、吐いた言葉を飲み込む事はできない。

 そして渋い顔のフィレンもまた、戦士階級として安易に見逃す訳にはいかなかった。

 

「馬鹿息子と言われても仕方ない所業であったとオレも思うがな、それを相手に聞こえるように言うのは拙いぞ。

 オレとお前は立場が違う事を忘れるな」

 

「何をこの……」

 

「ベスラ!」

 

 なおも言い募ろうとしたベスラの口を、飛びついたジョゼの手のひらが塞ぐ。

 懇願するような目で見上げてくるジョゼにフィレンは溜息交じりに頷くと、ややわざとらしく声を張った。

 

「ジョゼ、どうやら今日は日が悪いようだ! 勧誘はここまでにしておこう!」

 

「う、うん! そうだねフィレンくん!」

 

「オレは先に引き上げる、失礼!」

 

 素早く身を翻すと背後の物音を一切耳からシャットアウトして、足早に進む。

 トロフィーストリートを抜け掛かる頃に、バタバタと忙しない足音を立ててジョゼが追いついてきた。

 

「ちゃんと言い含めておいたか?」

 

「うん、一応はね……ありがと、フィレンくん」

 

 間違いなく当人に響いてはいないが、フィレンの対応はベスラの身を護るものである。

 トロフィーの身で正面切って戦士階級を侮辱したとあれば、ベスラはただでは済まない。

 何より、そのまま見逃してはフィレンの方が周囲に見下げられる一因になってしまう。

 彼女の言葉を遮って素早く離脱すれば丸く治まるというオークらしからぬフィレンの対応方法に、ジョゼは頭を下げて感謝を表した。

 

「ほんとはベスラの事、罰しないといけないんでしょ?」

 

「まあな……だが、スカウトマンがすぐに腹を立てて処罰を振りまくようでは、勧誘に乗ってくれる者も萎縮するばかりだろう」

 

「へえ……」

 

 ジョゼは感心したような声を漏らすと、まじまじとフィレンの顔を見つめた。

 

「なんだ?」

 

「ん、今のフィレンくん、ちょっとカーツさんっぽかったよ」

 

「……そうか」

 

 仏頂面を装うフィレンであったが、唇の端が僅かに上がっていた。

 

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