恢復のクインテット   作:ブラック5930

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第11話「相棒」

 

シブヤ区某所

 

裏通り、ライブハウス

 

 

「……ありがとうございました」

 

 

自分の番が終わり、スタッフと挨拶を交わして裏手から出て行く少年

 

その後ろ姿は、どこか寂しげだった

 

 

「…………………」

 

 

 

 

『頭冷やしてよく考えろよ、馬鹿野郎。

テメェは()()()()なんて選べるくらい賢い人間なのかどうかをよ』

 

 

 

 

「……………クソ」

 

「気にしてる場合かよ……。

『RAD WEEKEND』を超えるなら、止まってなんていられねえだろ…」

 

 

彰人は一人、歯噛みする

 

今日のステージは我ながら酷い出来だった

 

まるで身が入っていない

 

浮かぶ声を殺し、彰人は次のイベントへと意識を集中させる

 

ただ先だけを見据え……逃げるように

 

 

「次のイベントは……明後日か。

…やる曲、さっさと決めねえと……」

 

「……ん?」

 

 

予定を確認する為に眺めたスマホの画面が、一瞬煌めく

 

 

「……『Untitled』?こんな曲あったか?」

 

 

勝手に開いたプレイリストの一覧に

 

見慣れぬ題の曲を見つけ、彰人は眉を顰める

 

取り敢えず再生してみようと画面に触れて

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

眩い光がスマホから発せられ、辺りを包む

 

彰人は思わず顔を腕で覆い——

 

 

 

 

 

 

「ここは……?どうなってるんだ?

いつの間にか知らない場所に……」

 

 

目を開ければ、瞳に映る景色は様変わりしていた

 

 

どこかの狭い通り

 

人気のないそこはまるで見覚えがなく

 

ライブハウスの裏通りから一瞬でそんな場所に移動している、という非日常の感覚が気味悪く背筋を這い上る

 

 

「あー!

やっと『Untitled』に気付いてくれたんだね!」

 

「————っ!!

……か、鏡音レン……!?

バーチャル•シンガーの………!?」

 

 

辺りを見回していた時に突然背後から掛かった大声に、彰人は最大限の警戒を引き出して勢いよく振り返る

 

しかし、その目に映ったのは金髪の少年

 

 

服装こそ一般的に知られるモノとは異なるが、その姿は、その声は、

 

バーチャル•シンガーとして知られる鏡音レンそのもので、彰人は困惑する

 

 

「あれ?他のふたりはいないの?」

 

「まあ、まずは3人目だね!

ミクとメイコにも教えてあげなくちゃ!」

 

「お、おい!なんなんだよここ!

引っ張るな!」

 

 

混乱する彰人をよそに、レンは彼の手を引いて走り出す

 

訳のわからぬままそれに続き

 

辿り着いた先は奇妙なカフェ

 

 

「ミク!メイコ!

やっと彰人が来てくれたよ!」

 

「オレの名前……!どうして!?」

 

 

何故か自分の名前を知っているレンに驚いたのも束の間

 

 

「いらっしゃい。

気づいてくれたんだ」

 

「あら、ようやく来てくれたのね」

 

 

「……初音ミクまで。

疲れてるのか?変な幻覚が見えて……」

 

「もー、幻覚なんかじゃないって。

キミはBAD DOGSの彰人でしょ?」

 

 

カフェのカウンターで自分を迎えるミクとメイコの姿を見て、彰人は目頭の内側を揉む

 

やや現実逃避気味の彼に、レンが言葉をかける

 

 

「冬弥っていう相棒がいて——」

 

「………っ!!

アイツは相棒じゃねえ!!」

 

「わっ!」

 

「あ……わ、悪い……」

 

 

続く言葉に反射的に反応して声を荒げ、

 

驚くレンに気が付いて彰人は小さく謝罪する

 

 

「……クソ。

お前らがなんなのかは知らねえけど……

冬弥とオレはもう関係ねえよ」

 

 

「……ねえミク、どういうことかな?」

 

「仲間と何かあったみたいだね」

 

 

ふてくされたように続ける彰人に、レンは首を傾げる

 

そんな二人とは異なり、なりゆきを見守っていたメイコは彰人に語りかけるように声を掛けた

 

 

「とりあえず、座ってたら?

なんだかとっても疲れてるみたいだし」

 

「……誰がこんなわけわかんねえとこで…」

 

「じゃあ、コーヒー1杯だけでもどうかしら。

美味しいチーズケーキもあるわよ」

 

「たまには、誰かに話したほうがいいこともあるわよ」

 

「…………」

 

 

メイコの巧みな話術に反論を封じられた彰人は少し考え込み

 

やがて、諦めたように席に着いた

 

 

 

 

 

 

一方、場所は変わって現実世界

 

カフェ『WEEKEND GARAGE』にて

 

 

「………ソイツはまずいだろ。

どうにも現実的じゃない」

 

「じゃあどうするのよ」

 

「うーん……むずかしいね……」

 

 

カウンター席で話し込む三人

 

そんな議論を微笑ましげに店奥で見ていた謙は、声を掛ける

 

 

「おーい、三人とも。

熱心なのはいいことだが……そろそろいい感じの時間じゃないか」

 

「あれ、もうそんな時間?

バーの営業の準備しなきゃ」

 

「あっ、そうだよね。

それじゃ、私は……」

 

 

声を掛けられてようやく暗くなり始めた外に気が付いて、看板を出す為に立ち上がる杏

 

それに続くようにこはねも立ち上がる

 

 

「(……結局、妙案は出なかったな。

強引な手や現実問題不可能なアイディアばっかでこれじゃ何の役にも立たん)」

 

 

一方の靱は、立ち上がる事なく思考を巡らせていた

 

 

「(まぁ、まだ時間はあるか。

しかしそれにしても……

あんな顔してとんでもない案ばかり出しやがって。

存外大胆なタイプなのか?アイツは)」

 

 

こはねの方に視線を向け、靱は若干頰を引き攣らせる

 

杏よりも彼女の方が挙げた強硬策は多い

 

控えめに見せかけて案外苛烈な彼女に内心軽く引いていた時だった

 

 

「ん……?悪いが、夜の営業はまだ……」

 

「「あ!」」

 

「………!」

 

 

鈴を鳴らして開かれたドアに、謙が言葉を投げ掛け、その姿を認めて途中で切る

 

少女達も入ってきた人物に思わず驚きの声を漏らした

 

 

カフェへと足を踏み入れたのは、先程まで話の主題になっていた人物の一人

 

彰人の相棒、青柳冬弥

 

 

「よう、冬弥か。

いつものコーヒーでいいか?」

 

 

そんな彼に、謙は普段と変わらぬ調子で注文を聞くが、返ってきたのは固い声

 

 

「……いえ、結構です。

今日は………謙さんに、最後の挨拶をしに来ました」

 

 

そんな彼の言葉に、場の空気が緊張する

 

 

「(……なるほど。

思った以上に、時間がねぇみたいだな)」

 

 

固い面持ちの冬弥を見詰め、靱は目を細めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

置かれたコーヒーを口にし、少し気分が落ち着いた様子の彰人に、再びレンが声を掛ける

 

 

「ねえ彰人、冬弥とケンカしちゃったの?」

 

「別に……そういうワケじゃねえよ」

 

「…ただあいつが、オレを仲間だって、思ってなかっただけの話だ……」

 

「ふーん、よくわからないけど、

彰人、悲しそうだね」

 

「………」

 

 

暗い目をする彼に、レンはリンと喧嘩した自分を重ねて言葉を紡ぎ出した

 

 

「——オレにも大事な相棒がいるけどさ。

いつも一緒で、ふたりで歌ってると楽しくて、それで……」

 

「たまにケンカもする。

だから、ちょっとはわかるよ」

 

「一番仲良いやつとケンカすると、寂しいよね」

 

「………そうだな」

 

 

レンの言葉に、彰人は素直に頷く

 

そしてそのまま、言葉を続けた

 

 

「…………。

……わかんねえよ…」

 

「急に『俺達の音楽には、なんの意味もない』なんて言われて……わかるわけねえだろ」

 

「オレは、あいつらとなら、

『RAD WEEKEND』だって……」

 

「……大切な仲間なのね」

 

 

彰人の言葉にメイコは少し考えて、

 

ある事を思い付き、実行する

 

 

「ねえ、ちょっと気晴らしに、

“とっておき”でもどう?」

 

「…とっておき?」

 

「はい、どうぞ♪

飲めばスッキリするわよ!」

 

 

そう言ってメイコが差し出したのは

 

 

「えーと……メイコ、それって…

ウイスキー用のグラスじゃない?」

 

「どう見ても未成年が飲んでいいもんじゃないだろ…」

 

 

グラスに入った泡立つ液体に、レンと彰人は顔を引き攣らせる

 

未成年に飲酒を勧める行為

 

真意を掴みかねて困惑する彰人は、メイコの押しに負けて渋々グラスを口につける

 

 

「まあまあ、グイっといってみて!」

 

「グイっとって………ん?」

 

 

しかし、近付けた事で香る匂いは酒のモノとは程遠く

 

彰人は眉を顰める

 

 

「この匂い、ウーロン茶か?

ご丁寧に酒用のグラスと氷まで使って……」

 

「こんな紛らわしいもん、なんのつもりで…」

 

「——不思議よね。

自分の目の前にあるものだって、いつも見たままが本当ってわけじゃないなんて」

 

「は?それどういう……」

 

「あなたの大切な仲間も、本当のことを言っているかどうかはまだわからないんじゃない?」

 

「……………」

 

 

意味あり気なメイコの言葉に、彰人は考え込む

 

 

 

 

『冗談を言えるほど、俺は器用じゃないんだろう?』

 

 

 

 

「……冬弥は、冗談なんて言わねえ……。

だからつい、あいつの言葉を“そのままの意味”で考えてた……」

 

「けど……もし、本心じゃなかったら……」

 

「クソ、今から……!」

 

 

一つの結論を導き出し、彰人は焦る

 

今すぐにでも確かめに行きたい

 

早る彰人を、スマホから響く着信音が止めた

 

 

「……なんだ、電話…?謙さんからだ」

 

『はい、彰人です。

どうしたんですか?謙さんがオレに電話なんて…』

 

『……冬弥が、店に来てる?』

 

『——今から行きます!

電話このまま、繋いでおいて下さい!』

 

 

その内容に、冬弥が帰る前に店へと急ぐ為に彰人は電話を繋げたままにする

 

そこまで言って、周りの三人を思い出し、彰人は少し恥ずかしそうに目を向ける

 

 

「彰人、頑張ってね!」

 

「ああ。

あと……なんだ、その……」

 

「ありがとな、3人とも」

 

 

言葉と共に光に包まれて、彼はセカイから消える

 

そんな跡を見つめて、レンはポツリと呟く

 

 

「彰人……上手く仲直りできるかな」

 

「さあ?それはあの子次第じゃないかな。

でもきっと……上手くいくと思うよ」

 

 

レンの疑問にミクが答えれば、レンは笑みを浮かべ、そして思い出したように言葉を続ける

 

 

「そうだよね!

……あ、そうだ。ミク、レン。

4人目は彰人の相棒の冬弥で……5人目はそのふたりと組んでる靱って子だよね。

どんな子なんだっけ?オレ、よく知らなくて」

 

 

そんな言葉にミクは暫く無言を返す

 

やがて口を開くが、返される言葉は曖昧なモノ

 

 

「……それが、よくわからないんだよね」

 

「よくわからない?

それって、どういうこと?」

 

 

その問いには、メイコが答える

 

 

「言葉の通りよ。

5人目のあの子は彰人と冬弥と組んでいる子で…

それ以上は、よくわからない。

なにか黒いモヤのようなものがかかっていて、よく見えないの。

だから私達も詳しくは知らないわ」

 

「へー、黒いモヤ……かぁ…」

 

 

結局よく解らないと首を傾げるレン

 

メイコはそんな様子に苦笑いを浮かべ、ミクは…

 

神妙な顔で考え込んでいた

 

 

「(……どうしてあの子は見えないんだろう。

まるで何かに邪魔されてるみたいに…

…なんだか嫌な予感がするな……。

考えすぎなだけだといいけど)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『RAD WEEKEND』店内

 

 

店の奥から戻る途中で、謙は佇んでいた少年と言葉を交わす

 

 

「……電話は繋がったぞ。

もっとも、向こうの方から繋いだままにしておいてくれって頼まれたがな」

 

「…そうですか。

ありがとうございます、謙さん」

 

「構わない。

しかし……本当にお前の言う通りになったな」

 

「まぁ、それは。

——アイツはそういう奴ですから」

 

 

小さく交わした言葉を切って、靱は再び席につく

 

謙も歩みを進め、手に持ったコーヒーを冬弥の前に置く

 

 

「さて、待たせて悪かったな。

冬弥、いつものブレンドだ」

 

「あ、謙さん。今日は……」

 

 

固辞しようとする冬弥に、謙は言葉を重ねた

 

 

「最後の挨拶なんだろ?

奢りだ。

今まで何百回も通ってくれたことへの礼としてな」

 

「……ありがとうございます」

 

 

そう言われては、押しのける事は出来ない

 

黙ってコーヒーに口をつける彼を見て、杏は遠慮がちに相棒に向け、口を開く

 

 

「……やっぱり、外行こうかこはね。

大事な話みたいだし」

 

「で、でも最後の挨拶ってことは、青柳くん本当に…」

 

 

そんな二人に、冬弥が声を掛けた

 

 

「……いてもらっていい」

 

「え?」

 

「俺が決断できたのは、

小豆沢と白石のおかげでもある」

 

「それに、小豆沢……

お前に心配をかけたままだというのも、悪いしな」

 

「青柳くん……」

 

「……だが、彰人にだけは言わないでくれ。

俺は、彰人にだけは失望されたくない」

 

「……うん」

 

 

頷くこはねと杏を見て、

 

そして一向に目を合わせようとしない靱を見て、

 

小さく笑い、冬弥は謙の方を向いて話し出す

 

 

「謙さん。

もう彰人や靱から聞いたかもしれませんが、俺は

“BAD DOGS”として歌うのを、やめることにしました」

 

「いや…俺の音楽は、“BAD DOGS”が全てだった……

だから……ここに来るのも今日で最後になります」

 

「寂しくなるな。

それに、彰人の愚痴を聞く仕事が増える」

 

「……すみません」

 

「冗談だ、冗談」

 

 

謙は軽く笑う

 

そんな彼へ、真剣な表情で冬弥は言葉を続ける

 

 

「……謙さん、彰人のことを…

よろしくお願いします」

 

「彰人は、本気で謙さんを……

『RAD WEEKEND』を超えようと思っています。

靱が一緒にいてくれるとしても、あまりにも敵は多く、茨の道になります。だから…」

 

「俺が言うことじゃないっていうのは、わかっているんですが……」

 

「……わかった、任せてくれ」

 

「…ありがとうございます」

 

 

冬弥の頼みを受け入れ、謙は言葉を続ける

 

 

「彰人は……ああ見えて頑固だからな。

何があっても折れないヤツだ。

ああいうヤツは、面白い」

 

「ま、俺は、お前もそういうヤツだと思っているんだがな」

 

「……………。

…………違います」

 

「俺は、彰人とは違う……。

俺はただ……逃げてきただけです」

 

 

俯き、冬弥は語り始める

 

自らの幼少期の事を

 

 

 

 

『無駄なことに時間を使うんじゃない。

さあ、すぐにレッスンだ。今日も遅くなるぞ』

 

『ダメだ。もう一度、できるまでだ』

 

 

 

『お母さん……』

 

『なんで僕は友達と遊んじゃいけないの?

お休みの日もずっとピアノとバイオリンばっかりで……』

 

 

 

『あら、それは素晴らしいことなのよ。

一流の音楽家であるお父様に毎日レッスンしてもらえるんだから』

 

『お兄さん達もお父様から習って、

コンクールでも立派な成績を残しているわ』

 

『お父様はね、あなたに期待しているの。

そのために海外からのオファーも断っているのよ。

だからその分、しっかり教えていただきなさい』

 

 

 

 

「……俺は……

いつの間にか音楽そのものが、嫌いになっていました」

 

「「「……………」」」

 

 

冬弥が語るのは、息の詰まる記憶

 

父親から受けた厳しいレッスンの数々とそれから逃れたいと感じた想い

 

 

「父に反発するように、ピアノもバイオリンもやめて……」

 

「本当に、反発できればなんでもよかったんです」

 

「この場所でクラシックではない音楽をやり始めたのも、父が最も嫌がりそうだったから、なんていう幼稚な理由でした」

 

「でも、彰人は、こんな俺に……」

 

 

 

 

『おもしろいな、お前。

なあ、ちょっとオレと歌ってみねえ?』

 

 

 

『この人が謙さんだ。

あの“RAD WEEKEND”をやったひとりだぞ!』

 

『オレ達も、あれくらいすげえ、最高のイベントをやるぞ!冬弥!』

 

 

 

 

「…こんな俺に……この場所と、音楽を楽しむこと、

そして……大事な夢を……教えてくれた」

 

「彰人は、俺の初めての仲間です」

 

「……だけど彰人の夢は…

本当に真っ直ぐで……」

 

「俺と一緒だと、彰人は彰人の夢を叶えられない。

俺は彰人の隣にいるのに、彰人と同じものを見れていない。

…靱の方が、本当はよほど相応しいんです」

 

「……………」

 

 

そこで一度言葉を切り、再び彼は話し出す

 

 

「なのにずっと一緒にいたのは、

……ただ俺が、甘えていただけです」

 

「本当は誰よりも、俺が中途半端だったのに」

 

「…ずっと考えていました。

俺のような中途半端な人間が傍にいたら、あいつの足を引っ張ってしまう。

今までもそうでした」

 

「だから本当は俺よりも……白石や、小豆沢のような

本気で『RAD WEEKEND』を超える夢を追いかけられるような仲間が彰人には必要だ」

 

「え……?私達?」

 

 

突然自分達が引き合いに出され、少女達は狼狽える

 

それに冬弥は、強く頷く

 

 

「……お前達は、彰人達と同じだ。

自分の決めた道を……心から信じて進める」

 

「イベントで歌っている姿を見てそれがわかった。

……そして俺には、そんな覚悟がないことも」

 

「だから……俺は、彰人に甘えるのはもうやめます。

ようやく決心がつきました」

 

「…………」

 

 

語り切った冬弥に、その場の誰もが沈黙を貫く

 

黙ったままの謙へと、冬弥は最後の言葉を紡ぐ

 

 

「……お世話になりました」

 

「冬弥、最後にひとつ、いいか」

 

「……はい」

 

 

冬弥の想いを受け止めて、謙もまた最後の言葉をかける

 

——これが最後にはならないと、思いながら

 

 

「…そこに納得できないヤツが来ているみたいだ。

話してやってくれないか?」

 

「え……?」

 

 

瞬間、勢いよく開かれるドア

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

「彰人………!?」

 

 

激し過ぎる疾走の反動で、荒く息を整える少年は

 

冬弥が唯一その想いを知られたくないと願っていた相棒、彰人

 

 

「さて、年寄りは退散するかな。

杏、店は任せたぞ」

 

「ちょっと、父さん!?」

 

 

二人の再会を演出して、謙は店の奥へと引っ込んでいく

 

杏の言葉もサラリと流され、

 

謙のいなくなった店内は微妙な雰囲気に包まれた

 

 

「……彰人、聞いていたのか」

 

「ああ。

謙さんにお願いして、電話を繋いでもらってた」

 

「…そうか……」

 

 

全て聞かれていた

 

それを知り、冬弥は俯きながら言葉を続ける

 

 

「失望しただろう、彰人。

隣にいた俺が、一番中途半端だったんだ」

 

「…………」

 

「俺はずっと、お前のように真剣に夢を追えてはいなかったんだ」

 

「……オレは、お前くらい朝から晩までバカみたいに練習するヤツ見たことねえぞ」

 

 

自虐する冬弥の言葉に、

 

彰人は歯を食いしばりながら絞り出すように言葉を返す

 

 

「…………。

お前の隣に立ちたいと………

少しでも思ってしまったからな」

 

「冬弥……」

 

 

冬弥は、寂しげに小さく笑みを浮かべる

 

 

「俺には、クラシックを通して得た技術しかない。

……その上、それすらやり切れず、逃げ出してしまった」

 

「そんな中途半端な人間が、本気で歌う奴の隣に

立ちたいと思ったら、必死になるしかないだろう」

 

「…………っ。

この、クソ真面目バカが……」

 

 

僅かに声を震わせる彰人の言葉に、冬弥は笑みを消し固い表情で言葉を紡ぐ

 

 

「……彰人と歌っているあいだ、

俺はたしかに、俺でいられた気がする。

本当に感謝している」

 

「だからこそ、俺はここにはいられない。

俺は……これ以上、お前の夢に、何もしてやれない」

 

 

紡がれる言葉は、別れの言葉

 

しかしそれを

 

 

「……本当は、どうなんだよ」

 

「……………え?」

 

 

彰人の言葉が切り裂く

 

 

「最初のことなんて、どうでもいい!

クラシックから逃げ出したことも!

大事なのは、今、お前が本当はどうしたいのかってことだ!」

 

「…………」

 

 

珍しく感情を露わにして

 

彰人は言葉を続ける

 

 

「BAD DOGSを組んですぐの頃、客に

『勢いだけで技術がない』って言われたことがあっただろ」

 

「初めて靱に声をかけた時だってそうだ。

『大口を叩くだけで実力の伴わないダセェヤツら』って散々馬鹿にされたよな」

 

「あの時、オレめちゃくちゃ悔しくてさ。

でもお前、なんにも言わねえんだよな」

 

「普通相棒が荒れてたらはげますなりなんなりするだろ。

でもお前はなんにも言わないで……」

 

「——ずっとオレと練習してただろ」

 

「『俺達はこんなもんじゃない』って、

『本当の力を見せてやるぞ』って顔、してただろ」

 

「…………」

 

 

冬弥は何も返さない

 

そんな彼に、彰人は次第にヒートアップしていく

 

 

「オレは、お前がいるからここまでこられた」

 

「お前は、音楽が好きだ。

バカみてえに好きだ。本気で好きだ。

それは、オレが一番よくわかってる!」

 

「『RAD WEEKEND』を超えるって夢も、

お前が横で真剣に聞いてくれてたから追えた!

お前が信じてるから、オレは迷わずにいれんだよ!」

 

「彰人、だが俺は——」

 

 

 

「グダグダうるせえ!!」

 

 

 

冬弥の言葉を遮って、彰人の大声が店を震わす

 

 

「……わかれよ!

オレは、お前以外の相棒なんかいらねえって!」

 

「…………!」

 

「今の、お前の本当の想いはどうなんだよ!

お前は本当に、もうオレと一緒にやりたくねえのか!?」

 

「オレの隣に、少しでも立ちたいと思ったんじゃねぇのかよ!

だったら、お前もオレと同じ夢を……

『RAD WEEKEND』を超えたいって思ってるはずだろ!?」

 

 

感情を爆発させて言葉をぶつける彰人に、

 

遂に冬弥も自らの想いを口にする

 

 

「……………っ!」

 

「やりたいに……決まっているだろう!!」

 

「俺だって何度も思った!

お前と、純粋に夢を追いかけられればどれだけ…!」

 

 

「冬弥………。

……やっと吐いたか」

 

「………それなら、一緒にやればいいだけだろ」

 

「だが……!」

 

 

尚も言い募ろうとする冬弥を、彰人は強引に遮る

 

 

「あーうるせえうるせえ。

難しく考えてんじゃねえよ。

オレは冬弥とやりたくて、冬弥もオレとやりたいんだ」

 

「あとはオレ達で夢を叶える。

……それでいいだろ」

 

「………いいのか……それで」

 

「いい」

 

 

問いかける声に、彰人はハッキリと答える

 

 

「………こんな、中途半端な俺が……

またお前の隣に立ってもいいのか?」

 

「お前は中途半端じゃねえ。

中途半端って自分で言ってるだけの、オレの最高の相棒だ」

 

「………彰人」

 

 

強く断言する言葉に、もう否定の言葉は続かない

 

暫くして冬弥は呆然と呟く

 

 

「やりたければやればいい、か……」

 

「……………そうか。

それくらい、単純なことだったんだな……」

 

 

「……たく、お前って勉強はできるくせにバカだよな」

 

「ま、いいか。

明日からブランク空いた分取り戻すぞ、相棒」

 

「で、『RAD WEEKEND』を超える最高のイベントをやる。

……それでいいな?」

 

「……ああ」

 

 

呆れたような、しかし嬉しさを隠せずに

 

笑みを浮かべて手を差し出す彰人へ、微笑みを返す冬弥はその手をしっかりと握る

 

 

硬い握手と共に絆を繋ぎ直し

 

笑い合う二人に、完全に周りが見えていない二人に

 

杏は意地悪く、にこやかに声を掛けた

 

 

「で、お客さんご注文はどうします?」

 

「な……!?」

 

「あ、杏ちゃん!」

 

「…………」

 

 

声を掛けてようやく気付いた彰人がそちらを向けば

 

視界に入るのは見慣れた三人

 

 

「お前らいつから……っていうか靱、お前まで…

立ち聞きしてやがったのかよ!」

 

「そっちがこっちのこと無視して話してただけじゃない。

水差すのもなんだから今まで黙ってたのに」

 

 

彰人の言葉を軽く流す杏

 

しかし彼女は、悪戯っぽくニヤけた表情を引っ込めて、純粋な笑顔へ変える

 

 

「……でも、よかったじゃん」

 

「うん……!

青柳くん、東雲くん達とまた歌えるんだね……!」

 

「……小豆沢、白石」

 

「心配をかけてすまなかったな……」

 

 

冬弥は申し訳なさそうに二人に言葉を返し、

 

そして最後の一人へ声をかける

 

 

「……靱。

BAD DOGSを抜けると言ったが、その……

また一緒にやっていきたいと思っている。

それで、いいだろうか?」

 

「…………」

 

 

紡がれる冬弥の言葉に、靱は今日初めて彼と目を合わす

 

 

「……今の話聞いてて、俺が駄目だって言うと思うのかよ。

テメェはBAD DOGSの仲間だ。

戻ってくるのに一々許可なんかいらねぇよ。

…しかしテメェは………利口な方だと思ってたが、

彰人と同じくらい馬鹿なんだな」

 

「はあ!?どういう意味だよ、靱!」

 

 

唐突な罵倒に、今までのやりとりを聞かれていた気恥ずかしさも相俟って彰人は半ギレで靱に食って掛かる

 

そんなやり取りにこはねも、杏も、冬弥も、笑い

 

 

喧騒の中で、不意に声が響いた

 

 

『やっと見つけられたね』

 

 

「……?今、声が……」

 

 

それは、ミクの声

 

声と共に、五人のスマホが一斉に輝き出した

 

 

「あれ?『Untitled』が光ってる……」

 

「え!?本当だ!!」

 

「『Untitled』って、お前らもそれ知ってるのか?」

 

 

「きゃっ………!!」

 

 

彰人の問いかけもそこそこに

 

強まった閃光は五人を包み込む

 

 

眩い光に包まれて、五人が世界を飛び越えるその刹那

 

 

『——フフ、“ストリートのセカイ”か。

なるほどねぇ。

…けれど、残念ながら“初音ミク”、

キミの思い通りには………いかないさ』

 

 

一人の少年の胸の奥で、黒い光が煌めいた

 

 

 

 

 





———カウントダウン、開始

次の次の話で序章は終わりとなります

ifについて。やるならどっち

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