——暗転、戻り
眩い光が途切れれば、その先に広がるのは見慣れぬ景色
「……な———」
そこはカフェの店内
しかし、『WEEKEND GARAGE』とは明らかに内装が異なる別の場所
一瞬で移動した不可思議な場所に目を見開く靱と冬弥を置き去りに、こはねは嬉しそうな声を上げる
「ミクちゃん……!」
こはねの声に微笑みを返すのは、“初音ミク”
バーチャル•シンガーとして知られるそれとは服装や髪型が多少異なる
ミクだけではない
奇妙な店内で声を上げたのは、別のバーチャル•シンガー
「あー!冬弥がいる!
よかった!仲直りできたんだね!」
「……ああ。ありがとな」
金髪の少年、鏡音レン
彼もまた実在しない筈の存在
そんなレンに彰人はまるで知り合いのように言葉を返し
冬弥はそんな様子をぼんやりと眺めている
微笑みを浮かべ、そんな“非現実”に瞬時に順応する様はマイペースというべきか、大物というべきか
一方の靱は状況が呑み込めずに目を白黒させる
「な、なんだここ……
あれは初音ミクに…鏡音レンか?
どうして喋って、動いて——」
「あなたが、氷室靱ね?」
「…テメェは……メイコか?
バーチャル•シンガー共が実在して……
まさかここは…」
困惑する靱にメイコが声を掛ける
「あなたと冬弥は初めてだったわね。
ここは……『セカイ』よ。
あなた達5人の夢を叶えたい“想い”から生まれた場所」
「…セカイ……」
メイコの説明に靱は考え込む
そんな二人をよそに、ミクが全員に向けて言葉を紡ぐ
「キミ達は、ちゃんと“想い”を見つけられたね」
「“想い”……って…
じゃあ私達の本当の想いはやっぱり…
『最高のイベントをやりたい』ってことだったんだね」
「うん。
それが、キミ達5人の、本当の想い」
こはねの言葉にミクは頷いて、五人を誘う
「さあみんな、私達と一緒に歌おう。
そうすれば、想いが歌になるよ」
手を差し出すミクに、五人は逡巡する
「みんなって……BAD DOGSとも一緒に歌うの?」
「なんだ?
オレ達のパフォーマンスにビビってんのか?
歌うってことなら負ける気がしねえぞ」
「へ〜、面白いこと言ってくれるじゃん。
Vividsの出番ばっかりにならないように気をつけてよね?」
「まあまあ、ふたりとも……」
乗り気の様子の杏と彰人は挑発し合い、不敵に笑う
それをこはねが宥める中で、一人の笑い声が響いた
「………ふっ」
「あ、青柳くん……?」
笑ったのは、冬弥
普段の真顔からは想像もつかない程穏やかで楽しげな笑みを浮かべた彼は、驚く四人に言葉を続ける
「いや、ずっとつっかえていたものが消えると、
こんなに清々しいものなんだな」
「……彰人、靱。
Vividsに負けないように、やるぞ」
「……ハッ、当たり前だ。
冬弥、腕が落ちてたら承知しねえからな」
「……何が何だか意味が解らねぇが、まぁ良いか。
やってやる」
冬弥の笑みと共に放たれた言葉に、
彰人は力強く、靱は仕方なさげに言葉を返す
共通するのは、肯定の意
全員が乗り気になったのを確認して、こはねはミクへと呼びかけた
「じゃあ、ミクちゃん!」
「うん。一瞬に歌おう!」
カフェ内にどこからか響くメロディ
それに乗り、五人と三人のバーチャル•シンガーは声を重ねて歌い出す
最初は対立するように歌っていたVividsとBAD DOGSも、その内声が揃い出す
不思議と、全員が一体感に包まれていた
《 《 ♪——Ready Steady——♪ 》 》
歌が終われば不思議なメロディも消える
呼吸も忘れる程に夢中で全力で歌った五人は、荒く息を整える
「……ハァ、ハァ……。
すごい……ドキドキした……!」
「あー!すっごい気持ちよかった!
やるじゃん!BAD DOGS!」
Vividsの二人は心底楽しそうに
「……ハァ……ハァ…」
「……ふっ。
Vividsもなかなかやるな」
「…………」
BAD DOGSの三人も顔には出さないがどこか楽しそうに息を整えた
感じた不思議な感覚に、彰人は思考を巡らせる
「(なんだ、今のは……?
Vividsとやると、こんなに違うのか……?)」
「(もしかすると、『RAD WEEKEND』を超えるには…)」
彰人はある思考に至る
彰人に限らず、全員が、
奇妙な、しかし悪くない一体感を感じていた
……一人を除いて
「(……悪くねぇ感覚だ。しかし……)」
「(なんだ、この妙な
何だが気持ち悪い変な感覚を同時に感じた。
アイツ等は……そんな感じじゃねぇな。
気のせいか……?)」
靱は一人、疑問を感じる
しかし周りは誰もそんな様子ではなく
一つになって歌えたような、そんな感覚に興奮を隠せていなかった
「今の曲……初めてやったのに、
なんだか最初から知ってたみたいに歌えた……?」
「その歌は、『最高のイベントをやりたい』っていうキミ達の想いから生まれたものだからね。
最初からキミ達の中にあったんだよ」
「……最初から…」
「うん。
そうだみんな、『Untitled』を見てごらん?」
こはねの疑問に答えたミクは、スマホを見るように促す
五人はスマホを取り出し、眺める
すると、その画面が一瞬だけ煌めいた
「お?『Untitled』の名前が……!」
「変わってる!?
えっと……『Ready Steady』……?」
「キミ達の想いが、歌になったんだよ」
「これが……私達の…」
画面に映った“Untitled”の題が光と共に変化した
驚く五人にミクは本当の想いが歌へと昇華された事を告げ、五人は考え込む
少しの沈黙の後に、口を開いたのは杏だった
「……ねえねえ、ちょっといいアイディアがあるんだけど、みんな、聞いてくれる?」
「なあに?」
「……いいアイディア?」
四人はそれぞれ異なる反応を示す
それに何かを悟ったように少し離れて見守るバーチャル•シンガー達
杏は、言葉を続ける
「私達、5人で組んでイベントやらない?」
「え!?」
「…………」
突然の言葉に、こはねは驚いた声を漏らす
対してBAD DOGSの面々は、無言
杏はその考えに至った理由を説明する
「さっき一緒にやった時、悔しいけど……
すごく楽しかったんだ!
なんだかみんなが1つになったみたいな感覚がして…
最高にいい音出せたなって思ったの!」
「5人とも『RAD WEEKEND』を超える最高のイベントをやりたいって想いは、
本当の想いは、同じみたいだし」
「だったらこの5人で組んだほうが、
もっと近づけるんじゃないかって。どう?」
改めて問う杏に、最初に反応を返したのはこはね
「す……すごくいいと思う!
私も、東雲くん達と一緒にやりたい!」
彼女は心の底から嬉しそうに、好意的な反応を示す
続く冬弥は頷いて、彰人と靱へ問う
「……彰人、靱。どうだ?」
「………。
……あの時、オレもそう思った。
オレ達が組めば、敵なしだってな」
「……そうか。よかった。
…靱はどうだ?」
「…………」
彰人も肯定を返す
考え込んだままの最後の仲間へ、冬弥は問う
その問いかけに、改めて靱は思考を整理する
「(……確かに、そうかもな。
この5人で組めば敵無しだ。
それに白石と小豆沢なら………
…
コイツ等となら、もしかしたら……)」
「……そうだな。俺も———」
その先をも考えて、靱は言葉を返しかける
その刹那———
———黒光が、煌めいた
『——⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
「(……は………?)」
思考が、止まる
頭に鳴り響く雑音が黒い感情を広げていき、言葉を続けるどころでは無くなって
靱は、混乱する
「(な、なんだ……どうして……!?
このうるせぇ音が、聴こえやがる……?
彰人達といる時に、今までこの雑音は……)」
頭を覆う雑音
共鳴するように、自意識に反して胸の奥から黒い衝動が突き上がってくる感覚に
よろめきかけ、靱は額を抑える
——雑音が煩い
「………?おい、どうした?」
「靱……?」
違和感
何かを感じ取って二人が声を掛ける
しかしその声すら………靱には遠く聞こえていた
——雑音が煩い
「(黙れ……!!大体なんで急に……!
こんな事はこれまでに——)」
——雑音が煩い
「(クソ……頭が痛ぇ……!
なんなんだよ!これは!!)」
——雑音が煩い
音が思考を侵食する
ゆっくりと、彼から冷静な思考力が失われていく
そして、黒い光が記憶を呼び覚ます
『嘘つき』
「(あ………?)」
声が、響いた
頭痛と雑音に苛まれる脳裏に、いつかの声が
『わかった。なぁに、すぐに帰るさ。
明日の誕生日までには戻れるから、いい子で待ってるんだぞ?』
『私達は遠縁とはいい、血の繋がりのある者。
謂わば家族のようなものだと考えて、頼って貰って構わないとも』
『遠慮しないでね、靱』
記憶が、引き出され、呼び覚まされる
忌まわしき———裏切りの声が
『——尚、現在に至っても遺体は発見されておらず、事故現場は原形を留めたモノ自体が殆ど——』
『——今の手間よりも、先々の利益を考えねばね。
もちろん私だって煩わしいとは思っているとも』
『まぁ……確かにそうね。
それにしてもあの子、あの皇司朗の息子にしては随分と素直じゃない。
馬鹿は騙しやすくて助かるわ。
本気で私達の事信じてるんだから』
『フフ、なぁに。
親が利口だからといって、その子まで優秀とは限らないという良い例だよ。
まぁ齢十にも満たぬ子供にしては、良くやっている方だと思うけれどね』
『なぁなぁ、氷室って———』
「(…クソッ、うるせぇ……!!
黙れよ……!
アイツ等をあんなクソ共と同じにするな!
アイツ等は俺の……)」
否定する
しかし、思考は上手く働かず
浮かぶ自意識は崩れていく
「(……待てよ、俺の、なんだ……?
アイツ等は、俺のなんなんだ?)」
闇の中で、記憶を探る
ふと思い当たったのは、先程セカイについて語ったミクの言葉
「(…そういや“本当の想い”って……
どこかで聞いた事が……)」
そして、最後のピースが嵌まった
『そう、私はキミの“本当の想い”を見つける為に生み出された存在なんだ。
本当はね。
…しかし今は、そんな役割はどうでも良いと思っているよ。
何故なら私はキミの——』
「(………そうだ。
どうして忘れてた?…いや、忘れてはいない。
だが、最近は思い返せなかった。
アイツ等との日々が……騒がしくて)」
いつの間にか記憶の隅に追いやられていた大切な記憶が蘇る
『——そうだね、それは君の美点だとも。
美しい精神性だと思う。
……けれどね。
それではこの醜悪かつ残酷な世界で生き抜く事は出来やしないとも。
だから私が、
『一度、キミの中にある常識や先入観といったモノをゼロにしてからよく考えてみて欲しい。
キミは、キミをあんな目に遭わせた者達を“憎い”とは思わないかい?』
『——良いんだよ、それで。
何故ならキミにはその権利があるからだ。
罪を犯した訳でもなく、善行を重ねてきた。
当たり前のように毎日を過ごしてきただけのキミに、悪意を以って襲い来る奴等の方に非はある。
非難される謂れは無いとも。
キミが報復するに足る正当性が存在するんだ』
『そうだ。
その憎しみを、怒りを、抑え込むべきではないよ。
キミを傷付ける全てに、キミを襲う悪意の総てに、
キミは自らの力を以て立ち向かう必要がある。
その感情を忘れずに、強くなりたまえ。
……その憎悪の炎だけがキミに“生きる力”を与える』
「(……そう、だったよな)」
蘇った声に、一層強まった頭痛に、彼はより強く額を抑える
「(そうだ、あんな想いは、違う…
俺の“本当の想い”なんかじゃねぇ。
だって俺は……)」
「(いらねぇ、あんなモノ。
いらねぇんだ……ッ!
俺には、この胸の炎さえあればそれで……ッ!!)」
遂にふらつきかけた靱に
「ちょ、ちょっと!?大丈夫!!」
「おい靱、しっかりしろよ!
どうした?どこか悪いのか!?」
杏と彰人が心配そうに声を掛ける
「調子が悪いのか?それなら一度戻って…」
「——必要ねぇ」
「え?」
発せられた声が冬弥の言葉を遮る
体勢を崩した自らを支える手を振り払い
「……確かソイツ等と組むのがどうのって話だったな」
「ん?あ、ああ……」
「———俺は、反対だ」
「……は?」
頭を抑えたまま
低く紡がれた靱の言葉に、彰人は耳を疑う
近くにいた冬弥もその言葉が聞こえていたらしく、目を見開いている
小さな声は杏とこはねには届かなかったようで、彼女達は怪訝な表情を、心配そうな表情を浮かべたままだ
「……反対だって言ったんだよ。
ソイツ等と組む気はねぇ」
「な………」
「おい靱、どういうことだ?
お前だってさっきまで——」
今度の声は少し大きい
当然、彼女達にも届いた
彰人の言葉を遮って、靱は言葉を重ねる
「グチグチ抜かすなよ。
冬弥との喧嘩で覚えなかったのか?
思った事は隠して散々後まで引き摺ってから言うより、今すぐに言った方がずっとマシだろ。
俺は組みたくねぇって言ってんだ。
俺の意見は無視してソイツ等と強引に組むか?」
「…………」
「……靱、理由を教えてほしい」
混乱に包まれる場の中で、冬弥は冷静に問う
その言葉に靱は小さく嗤って言葉を返す
「……ずっとな、気になってたんだ。
なんか
…白石、小豆沢。テメェ等の事は認めてる。
覚悟も、実力も、確かなもんだ。
俺達の相手に相応しい……だがな」
「テメェ等と組んで歌うっていうのは、どうにも想像出来なかった。
“敵”としてやり合う分にはしっくり来るが、“仲間”としてやっていくのは無理だ」
「それは……」
賑やかだったバーチャル•シンガー達も今や息を呑んで彼の言葉を聞いている
静寂に包まれたセカイで、彼は一人言葉を続ける
「…簡単な話だろ。
きっとな、テメェ等と俺は
さっき全員で歌って、ようやく解った」
「おい、バーチャル•シンガー共。
テメェ等はさっきのあの歌は俺達5人の想いから生まれた歌だって言ったよな?」
「……うん。言ったよ」
靱の言葉に、代表してミクが応える
その言葉に靱はくつくつと嗤う
「…馬鹿抜かしてんじゃねぇよ。
アレは、4人の想いから生まれた歌じゃねぇのか?
俺はそん中に入ってねぇ筈だろ」
「そんなことは——」
「…あるんだよ」
ミクの言葉を靱は遮る
「だって俺はよ。
『最高のイベントをしたい』なんて想いは一度だって感じた事はねぇぞ?おい」
「え……?」
「……どういうことだよ」
靱の言葉に、四人はそれぞれ異なる反応を見せる
「お前も『RAD WEEKEND』を超えるってずっと言ってきたじゃねえか。
だったら、想いは同じなんじゃねえのか?」
「……あぁ、そうだな。
『RAD WEEKEND』を超えるってのは本当だ。
だがそれは……別に想いが同じって事の根拠にはならねぇだろうが」
「なんだと……」
靱は彰人達から目線を外し、杏達に視線を向ける
彼は静かに言葉を続けた
「『RAD WEEKEND』を超えるイベントをやりたいってのは確かに俺達の共通の想いだ。
だがな、それはその先が違うんだよ。
本当に求めるモノの意味がな」
「本当に求める……モノ…?」
「そうだ。
テメェ等はあのイベントを超えるくらい凄いイベントをやって、皆にドキドキして欲しいと。
皆が最高に盛り上がるようなイベントをしたいとそう考えてるんだろ?
それがテメェ等の夢だと」
「……だからテメェ等とは相容れねぇんだよ」
靱の言葉に、鋭い眼光に、杏とこはねは戸惑うばかり
彰人と冬弥も訳が解らずに彼の言葉の続きを待っている
そんな四人を嘲笑いながら、靱は言葉を続ける
「俺はそんな理由であのイベントを超えようと思ってる訳じゃねぇ。
『RAD WEEKEND』を
それが第一歩。俺の目的の為にはな。
観客がどうだの、他の奴等に楽しんで欲しいだのと、そんな馬鹿らしい事は端から考えちゃいねぇんだよ」
「………」
「…目的?」
杏の問いに、靱は頷く
「あぁ。それは……
アイツがかつてやっていたこの通りで、アイツが成せなかった事を成す。
アイツの“伝説”を貶めて、ぶち壊してやる為の……
第一歩だ」
「アイツ……って…」
その問いには、靱は答えない
逆に靱は、杏とこはねの方へ目を向けて問い返す
「テメェ等は、“音楽”をどんなモノだと思ってる?」
「…音楽を?」
「あぁ。……夢を叶える為のモノか?
誰かに自分の想いを届ける為のモノか?
それとも、自分が自分らしくある為のモノか?
言ってみろよ」
「それは——」
靱は言葉を切り、彼女達の答えを持つ
紡がれた二つの言葉は確かな意志の籠ったモノ
心のままに紡がれたであろうそれを
靱は嗤う
「………そうか、そうだよな。
テメェ等にとっちゃ当然、そうなるよな。
解ってたとも」
「テメェ等はそういうモノとして見れるよな。
何故ならテメェ等は、
親がいて、家族がいて、友達がいる。
普通に毎日を過ごして、普通に学校に行って、多少の困難はあろうとも取り敢えずは何とかなって、また当たり前のように明日が来る。
そんなテメェ等なら当然そう見えるだろうよ。
音楽は煌びやかなモノだって。
夢を叶えるモノ、導いてくれるモノ、
さぞや眩しく見えただろうよ。
だが俺は———違う」
「…そんなもんじゃねぇ。
そんな風に輝いている筈がねぇんだ、これは!!
少なくとも……俺はそうだった……!」
「………!」
静かな調子から一転して声を荒げる靱に、少女達はびくりと肩を振るわせる
「……俺はテメェ等とは……違う…!
俺にとっての音楽は———
「…え……?」
誰かの漏らした疑問を流して靱は言葉を続ける
「俺には……音楽しか無かった。
これだけが、俺の生きる道になってくれた。
果ての無い復讐に終わりを示してくれた。
俺の復讐の…手段になってくれた。
アイツを超えて……壊す為の……!」
「テメェ等みたいにやりたくて始めた事じゃねぇ。
追いかける夢がある訳でもねぇ。
俺が追いかけてんのは……仇敵の背中だけだ。
ソイツを刺し貫いて殺す手段が……“音楽”だ」
「…………」
彼の言葉に
強い憎悪の籠った言葉に、場の空気は圧倒されていた
誰も声を発する事が出来ぬ中、靱は言葉を続ける
「そんな俺の“本当の想い”とやらが、テメェ等と同じな訳ねぇだろうが。
むしろ、同じであって堪るものか……!!
テメェ等のキラキラしたムカつくそれと、俺の復讐を同列に並べるんじゃねぇ!!」
「…………っ!」
「……………。
…だから、テメェ等とは組めねぇ。
俺とテメェ等じゃ目指す先が違ぇんだよ」
声を荒げ、それに身を縮めた少女達を見て
靱は再び声のトーンを下げて言葉を続ける
「……彰人、冬弥」
「………」
「……なんだ?」
二人の少女から目を外し、靱は少年達へ視線を向ける
その問いかけに呆然としている彰人を見て冬弥が答える
「テメェ等は、ソイツ等と組みてぇんだよな?
さっきそう言ってたよな」
「………!」
「…それは」
二人は言葉を濁す
そんな様子を見て、靱は再び口を開く
「……ガッカリだ。
テメェ等は所詮、
「……は?」
彰人の反応に、靱は言葉を返す
「……俺はな、彰人、冬弥。
お前等は俺程じゃないとしても、音楽にかける想いはきっと並大抵のモノじゃないと思ってた。
命を張る、そんなレベルでは流石に無いだろ。
だが、それに近い程、人生を賭けてでもやりたいと想ってがむしゃらに練習に励んでいた筈だ」
「野次馬にどんだけ馬鹿にされようと、
お前達には無理だと泥をかけられようと、
集まった大勢の観衆達に笑い物にされてこき下ろされようとも、
お前達は諦めなかった」
「堪えて、時には言い返す事もなく、練習に励んで、聴く者がいなくても歌っていた。
だから、そんなお前等なら……
それだけ魂を燃やして何かを超える為に立ち向かえるお前等となら……
「………靱、お前…」
今まで聞いた事のない彼の告白に、二人は目を見開く
そんな彼等へ、靱は言葉を強くして続ける
「だがテメェ等は………
…きっとそんなんじゃなかったんだろ。
夢だの、皆の為にだの言い出す奴等と一緒に組んだ方が良いって思えるんだからな」
「テメェ等も、アイツ等と同じなんだろ」
「…そんな、俺達は」
「———言い訳は聞きたくねぇ!!」
弁解の言葉を靱は跳ね除ける
怒鳴りつけ、全体を見渡して靱は口調を荒げたまま、激情を口走る
「大体なんだよ!想いから歌が生まれる?
この訳の解らねぇ場所は俺達の想いから出来てる?
馬鹿じゃねぇのかテメェ等は!!」
「ふざけんな、何を寝言ほざいてやがる。
気に入らねぇな……!
想いだ、夢だ、絆だと口にするテメェ等が全員!
…何が想いの歌だ………ッ!!
俺はな———そもそも歌なんて大嫌いなんだよ!!」
「…………」
「俺の歌は、誰かを喜ばせて盛り上げるようなもんじゃねぇ。
むしろその対極だ。
込められた絶望で、憎悪で、聴く者を圧殺する。
聴いてた以上、解ってんだろ。
俺の歌はそういう類のもんじゃねぇんだ」
「俺の歌には
だから歌う事も、楽器を弾く事だって、大嫌いだ。
壊す事しか出来ない俺の音楽なんてな………!
……それでも手段として必要なんだ。
これだけが、俺の“全て”なんだからな」
「……靱」
呟かれた言葉は誰のモノか
その場の殆どのモノは彼の空気に呑まれて身じろぎ一つ出来ずに釘付けになっている
そんなこの場を見渡して、靱は小さく嗤った
「……そういう訳だ。
これで解ったろ。テメェ等とやるのは時間の無駄だ」
「彰人、冬弥、俺はBAD DOGSを抜ける。
Vividsと組みたきゃテメェ等だけで好きに組んでろ」
「……テメェ等の“友情ごっこ”に俺を巻き込むな」
「そんな………」
「おい、靱……!」
四人の反応など意にも介さずに靱はスマホを取り出す
再び画面を眺め、題の変わった『Untitled』を見つめた靱は、やがて思い付いたようにスマホを高く掲げ、歪んだ笑みを浮かべる
その様に誰もが首を傾げ、
ミクだけが気が付いて声を張り上げた
「………!
いけない!みんな、スマホを………!」
しかし声を上げるには遅すぎる
皆の前で靱は手を離し、スマホは床へと吸い込まれるように落ちて行く
「あばよ、『Vivids』
……そして—————『BAD DOGS』」
それを——
「あっ!!」
「きゃっ!?」
「なんだ、光が……!」
床に落ちたスマホを靱は勢い良く踏み潰し、
そのまま踏み壊す
破片が飛び散り、床を傷付ける
その瞬間、靱を包むように眩い閃光が発せられ、全員が目を覆う
光が収まり、目を開けた時には既に彼の姿は無かった
「消えた……?いったいどこに…」
「………やられた」
「え?」
困惑する四人を他所に、ミクは額を抑える
バーチャル•シンガー達は理解しているようで、メイコが代わりに皆へ説明をする
「……あなた達の世界とこのセカイは『Untitled』で繋がっているという話は前にしたでしょう。
あの子はその『Untitled』のあった端末を壊してしまった。
つまり……」
「オレ達のいるこのセカイにはもう来れなくなっちゃうってこと。
今のは、『Unititled』を失くしたあの子がセカイから弾き出されたんだ」
「セカイから弾き出され……
…ちょっと待って、もう来れない?」
「そんなことって……」
メイコとレンの説明に少女達は目を丸くする
一方の少年達は靱の消えた痕
破片で傷付いた床を見つめていた
「…なんだよ……それ……」
少年の呟きは、セカイに虚しく響き渡った
本心だけど本心じゃない。
尚、後半の靱の発言は大体が本音だったりします。
次話、序章エピローグ
ifについて。やるならどっち
-
ほぼ確実にあり得ない展開
-
割とあり得たかもしれない展開