恢復のクインテット   作:ブラック5930

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エピローグ「Outsider」

 

眩い光が晴れる

 

 

カフェ『WEEKEND GARAGE』

 

見慣れた店内に、()()()()()のだと実感する

 

 

四人は、無言

 

会話もなくただ佇んでいる

 

誰もが整理出来ていなかった

 

己の感情を

 

 

「———おっ、なんだ。

お前ら、戻ってたのか?」

 

 

そこへ、軽快な鈴の音と共に扉が開き

 

外から杏の父親、白石謙が店内に入ってくる

 

 

「突然いなくなるから心配したぞ。

さっき、靱のヤツがすごい顔して出て行ったが…

そっちのふたりの次は、あっちとケンカか?」

 

「…………」

 

 

返答はない

 

暗い顔で黙り込む四人に、謙は眉を顰める

 

 

「どうした、そんなに派手にやり合ったのか?」

 

「……謙さん、実は——」

 

 

冬弥と、続いてこはねが先程の出来事を説明し出す

 

勿論、セカイの事は上手く誤魔化して

 

 

そんな二人を尻目に、彰人と杏は黙り込んだまま思考を巡らせていた

 

考えるのは当然、つい先程までの出来事

 

 

「……………」

 

 

 

 

『テメェ等も、アイツ等と同じなんだろ』

 

『彰人、冬弥、俺はBAD DOGSを抜ける。

Vividsと組みたきゃテメェ等だけで好きに組んでろ』

 

 

 

 

「(……あいつがあんなに白石達と組むのを嫌がるなんてな。

確かに最初はえらく嫌ってるみたいだったが、あのイベントを見てからはそんな風には感じなかった。

むしろ、あいつは白石達と組みたがってるように見えた。

だってのに……なんなんだよ。

冬弥も戻ってきて、これからって時に)」

 

 

彰人は顔を歪める

 

冬弥との拗れた関係も互いに想いをぶつける事で修復する事が出来た

 

それなのに、靱は今まで聞いた事もない想いを一方的に告げて去っていってしまった

 

自分達に、自分に原因があるのか

 

そう考えて彰人は悩む

 

 

一方の杏も、その事で思考を巡らせていた

 

 

「(……さっきみんなで歌った時、ちょっとムカつくけどBAD DOGSの3人ともピッタリ合う感じがした。

5人なら本当にもっといいイベントをやれるって思ったから提案したんだけど…

余計なことしちゃったかな。

BAD DOGSを抜けるって言ってたし、彰人達とももうやらないってことだよね)」

 

「(あれが、靱の隠してた本当の気持ちなのかな。

だとしたら……ちょっとショックだな。

あんなに嫌われてるなんて思ってなかったから

……でも)」

 

 

 

 

『——口を開けば謙さんの娘だ、謙さんのって…

ゴチャゴチャうるせぇんだよ!!

謙さんの娘だからどうした!?

すげぇ奴の子供はすげぇのが当たり前なのかよ!』

 

『今テメェ等の目の前にいるのは誰だ?

テメェ等は誰の歌を聴いてんだ!

謙さんのオマケか?小さい謙さんのオモチャか?

……違ぇだろうが!!』

 

 

 

 

思い起こすのは神高に入学する以前の記憶

 

本気で怒っている彼を初めて見た時の事

 

 

「(………やっぱり、おかしいよね。

ウソを言ってるようには聞こえなかったけど、あれが本心なんて信じたくない。

それに、()()()()()なんて…

そんなことはないはず。だって——)」

 

 

考え込む二人

 

 

やがて二人の説明を聞き終えた謙は、顎に手を当てて何かを考える様子を見せる

 

 

「……うーむ、なるほどな。

だいたい話はわかった」

 

「ずいぶん派手にやったみたいだが、それは別にお前らが悪いってわけじゃないと思うぞ。

多分向こうは内心整理がつかずに、その場を逃げ出したんだろうよ」

 

「…しかし、“復讐”か……

まだあいつはそんなことを言ってるんだな」

 

 

「…謙さん、もしかして何か知っているんですか?」

 

 

訳知り顔の謙に、冬弥が問う

 

 

「……そういえば父さん、靱とよく話してたよね。

それなら、なんであんなこと言い出したかわかったりする?」

 

 

続いて杏も問いかければ、謙は少し困ったような調子で言葉を返す

 

 

「……まあ、それなりにはな。

だがお前らにはまだ——」

 

「——お願いします、謙さん」

 

 

謙の言葉を遮って彰人が言葉を放つ

 

 

「何か知ってるなら教えて下さい。

オレ達みんな……納得いってないんです」

 

「「「…………」」」

 

 

強く言葉を紡ぐ彰人の目付きは真剣だ

 

カウンターの上の、その拳が震えているのを見て

 

他の三人も誰一人として目を逸らさずに自分を見つめているのを確認して

 

 

「…………はあ」

 

 

謙は溜息を一つ吐く

 

 

「……仕方ない。

そこまで言うのなら、教えてやる。

…本当は俺の口から話すことじゃないんだがな」

 

 

四人の礼を流して、謙はゆっくりと語り始める

 

 

「——あいつは色々と、複雑な気持ちなんだろう。

音楽で復讐……だったか?

その復讐っていうのはおそらく、父親に対しての復讐で間違いないはずだ」

 

「父親に……復讐…?」

 

 

問い返す声に、謙は頷く

 

 

「そうだ。

あいつの父親とは、一応昔馴染みでな。

本当に最初の頃は一緒に組んでいたこともあった」

 

「父さんが、靱のお父さんと……?」

 

「……ああ」

 

「もっとも、そいつは『もっと多くの人に音楽を届けたい』って言ってこの通りを飛び出していったからすぐに別れたんだがな」

 

「それでそいつ……

あいつの父親ってのは…多分お前らも名前くらいは知っているだろう」

 

 

「…靱の父親は——『氷室皇司朗』だ」

 

 

「「え……?」」

 

 

告げられた言葉に、幾つかの驚きの声が重なる

 

 

「皇司朗……って、あの…?」

 

「いやたしかに名字は同じだけどさ。

それって……」

 

 

信じられない

 

そんな調子で驚く四人に、謙は言葉を続ける

 

 

「多分お前らが今、想像してる通りのヤツだ。

音楽家“氷室皇司朗”。

10年も前に死んだヤツだが、音楽に関わってる人間であいつの名前を知らないヤツはまずいない」

 

「この場所では、特にな」

 

 

「「「………?」」」

 

 

不思議そうな顔をする三人

 

それを見て、謙は小さく笑う

 

 

「……ああ、そうか。

お前らくらいのヤツらは聞いたこともないか。

まあ今じゃ殆ど覚えてるヤツもいないし、無理もなかったな。

年寄りの悪いクセだ」

 

「……一昔前までは、この通りじゃ皇司朗は今でいう

“伝説”……だったか。

それに近い扱われ方をされてた。

何しろここでやっててデビューしたヤツの中じゃ、あいつが一番の成功例だからな。

特に芽が出ず燻ってる連中は、あいつを希望の星みたいに見てた。

あいつに倣って、わざわざデビュー前にここでやっていく奴も出るくらいにはな」

 

「……色々あって、それで俺達が最後のイベントをやった時あたりから忘れられていったんだったか。

『ZERO』ってのも、デビュー前にここでやってた頃の皇司朗のアーティスト名義だ。

今じゃタブーになってるから、靱以外に使ってるヤツはいないだろうがな」

 

 

「…ちょ、ちょっと待って下さいよ謙さん」

 

「あいつがあの皇司朗の子供?

そんなバカな。

だって皇司朗の息子は……」

 

「……………」

 

 

紡がれた言葉は、途中で切れる

 

その先を口に出来ずに口籠る彰人と三人は心なしか暗い表情だ

 

 

そんな四人に、謙は苦い顔をする

 

 

「……お前らも知ってたか。

そうだ。

皇司朗の息子は……死んだ、ことになっている。

だがどういうわけか、死んでいなかったらしい。

現にあいつは生きている。

——それが幸運かどうかは別にしてもな」

 

 

「……………」

 

 

暗い顔をする四人が思い浮かべるのは、とある事件

 

 

 

 

『シブヤ区児童集団暴行殺人事件』

 

 

7年前に世論を震撼させた、未成年の起こした凶悪犯罪事件

 

当時浸透していた“氷室皇司朗の敵討ち”という名目での“関係者狩り”の中でも最悪の事例であり、関係者狩りに終止符を打った事件

 

 

事件概要としては、

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎年⬛︎月⬛︎日(⬛︎⬛︎⬛︎)午後⬛︎時頃に

匿名掲示板等で情報を手に入れて集った学生10数名近くにより窓ガラスを割る等して住居に不法侵入した後、室内の男児(⬛︎⬛︎歳)に集団で暴行を加えた末殺害したというモノ

 

当時ガセ情報として飛び交っていた“親殺し”の内容を信じ込んだうえで敵討ちと称しながら遺族に手を出すその凶行は大きな話題性を生み、加害者の一人が十数分に渡る暴行の様子を撮影し拡散していたのも相俟って、稀に見る凶悪事件として語り継がれる事になった

 

 

この残虐な事件は日本中を震わせ、7年が経つ今でも犯罪防止の講義やインターネットの恐怖を教える授業等で例に出されるモノとなっている

 

 

 

それは四人も例外ではなく、事件の事は当然知っている

 

 

その為、靱が氷室皇司朗の息子である、という発言はとても信じられたものではなかった

 

謙は言葉を続ける

 

 

「信じられないのも無理はない。

なにしろ、ひどい事件だったからな。

だがたしかにあいつは生き延びていた。

本人に直接聞いたんだ、ウソではないだろう」

 

「……ああ、あいつの父親は放任主義だったからな。

靱が小さい頃は、よく皇司朗に頼まれて面倒を見てたんだ。

そんな俺でも見ただけじゃわからないくらい変わっちまってたが、向こうは覚えててな。

声を掛けられて、話して、ようやくわかった」

 

「あいつは皇司朗の息子の靱で間違いないってな」

 

 

「………でも、それじゃ」

 

 

生き延びていた、間違いはない

 

そう聞いたところで四人の表情は暗くなるばかり

 

それはつまり

 

あの事件を経験したうえで今も生きているという事

 

 

素人目にも凄惨な事件だ

 

そんな生き地獄を味わった人間がマトモでいられるのか

 

二人程、嫌な想像をして慌てて打ち消す者も

 

 

「……あいつはな、俺に言ったんだ。

人が——怖くてたまらないってな」

 

「人が……怖い…?」

 

「ああ。

見た目がどうとか、子供だとか大人だとかに関係なく自分以外の全ての人間が、恐ろしく見えるらしい。

話したくもないし、近付きたくもない。

頭がおかしくなりそうだと話していた。

……小さい頃はそれなりに付き合いのあった俺に対しても、怯えながらな」

 

「…あいつが?」

 

 

想像が付かない

 

三人はそう思い、疑問を浮かべる

 

しかし

 

 

「…………」

 

 

 

 

『……俺が怖いか?

だがな、俺なんぞとは比べ物にならないくらい…

この世界は残酷で、怖いもんだぞ』

 

『どんなに恐ろしくても歯を食い縛って立ち向かう。

それだけが、道を切り拓くんだ。

自分を変えるんだよ……!』

 

 

 

 

「(……もしかして)」

 

 

こはねは、どこか納得がいった様子だった

 

知り合ったばかりの、それも失敗したばかりの自分に掛けられたあの言葉に、やけに熱が籠っていた訳が解ったような気がして

 

 

謙は言葉を続ける

 

 

「上手く抑え込んでやがるからわからないだろ。

俺もそれなりに人を見てきたが……恐怖をあそこまで殺せるヤツはあいつ以外に見たことがない。

だがそれでも…どこかで()()が来るもんだ」

 

「聞いた話だけじゃ正直よくわからん。

お前らが組もうって話になった時に、いきなり様子がおかしくなったんだったか?

まあこれは俺の憶測だが——」

 

「あいつは多分、()()()()()んじゃないか?

お前らとはけっこう上手くいってたからな。

組んでもいいと思えたから、一緒にやりたいと思ったからこそ…

失いたくないモノが増えるのが怖くなった。

そんな風にも考えられるな。

まあ本当のところは、あいつにしかわからんが」

 

 

苦笑する謙に、四人は沈黙で返す

 

 

「……………」

 

 

それぞれに、思うところはある

 

暫くカフェは静寂に包まれた

 

やがて重苦しい沈黙を切り裂いて、謙は言葉を放った

 

 

「——俺が皇司朗について話した時、あいつは父親を超えることで復讐を果たすと言っていた。

そんなだから、ずっと一人でやるつもりなんだと思っていたんだが……

あいつ、急にお前らと組み出しただろ?」

 

「…………」

 

「…はい」

 

 

お前ら、のところで謙は彰人と冬弥に目を向ける

 

 

「どういう気の変わり用かはわからんが、悪い変化じゃないと思った。

お前らとやっていくうちに、ここでバカやっていくうちに、いい方に変わっていけばいいと思ってはいたんだが……

ま、そんなに甘くはなかったようだ」

 

 

一度言葉を切って、謙は四人を見渡す

 

その酷い表情を認め、彼は苦笑する

 

そして、言葉を紡いだ

 

 

「……そう気を落とすな。

別にお前らのせいじゃない。

だが、そうだな……

もうあいつとは、関わらない方がいいかもしれんな」

 

「……!なんでですか、謙さん」

 

「お前らには、荷が重すぎるからだ」

 

 

謙は静かに言葉を続ける

 

 

「一度心を閉ざしちまったヤツをどうにかするってのはとても難しい。

少なくとも、年端もいかないガキ共が今すぐにどうこう出来るような問題じゃない。

お前らには、他に追いかけてるモノがあるんだろ?」

 

「…………っ!」

 

 

謙の言葉に、四人は息を呑む

 

 

『RAD WEEKEND』を追いかける夢

 

それは全員に共通する想い

 

 

中でも三人は、それを叶える為に毎日のように厳しい練習をイベントを見たその日から続けてきている

 

 

しかし、BAD DOGSの二人は特にそうだが

 

関わらない方がいい、という言葉に素直に頷けるようなものでは無かった

 

 

それでは見捨てるようなものではないのか

 

そんな想いがあった

 

 

思い悩む四人から答えは出ない

 

 

そんな四人を見て、話は終わったとばかりに謙は店の奥へと消えていく

 

 

そのまま沈黙が続き

 

続き——

 

 

口火を切ったのは、少年だった

 

 

「……謙さんの、言う通りだな」

 

「………!」

 

 

言葉を放ったのは彰人

 

他の三人の視線を集めながら、彼は言葉を続ける

 

 

「…こんなところで止まってはいられねえ。

『あのイベント』を超えるなら、ここで立ち止まって下ばっか向いてるわけにはいかねえだろうが。

……あいつのことは、今は放っておくしかねえ」

 

「彰人……、本気なの?

それって——」

 

「ああ」

 

 

杏の言葉に、彰人は声を荒げる事なく返す

 

 

「あいつがもうやらねえって言ってんだ。

それじゃオレ達は……どうすることもできねえ。

冬弥みたいに大人しく話し合いをしに来るようなヤツじゃねえしな、あいつは」

 

「だが………!

………っ」

 

 

言葉を続けようとして、

 

そっぽを向いた彰人が拳を握り締めている事に気が付いて

 

冬弥はその先の言葉を口にする事なく打ち消した

 

 

「………彰人」

 

「東雲くん……」

 

 

三人の声から逃れるように、彰人は窓の外を眺める

 

ただ遠くだけを見つめ、違う場所を見つめるように

 

 

「……………っ」

 

 

声が漏れ出さぬように

 

 

「(あのバカが……っ!)」

 

 

彰人は歯を食い縛る

 

 

「(勝手に抱えて、勝手に逃げやがって……

“友情ごっこ”だ?

だったらてめえはどうして——)」

 

 

 

 

『あァ?……俺達の名前?

そんなもん、“BAD DOGS”のままで良いだろ。

なんで態々考え直さないといけねぇんだよ。

テメェ等はそれでやってきたんだろ?』

 

『面倒くせぇ。

無駄な手間かける必要があんのか』

 

『……しかし、

“BAD DOGS”…………“相棒”か。

良い名前じゃねぇか。

これから伝説に名を刻むんだ。

イカした名前のままの方が好都合だろ?』

 

 

 

 

「(——笑ってやがったんだよ……!)」

 

 

心の声は、届かない

 

 

本来、新たなユニットの誕生となる祝福の場は

 

重苦しい空気に包まれていた

 

 

 

 

 





これで序章は終わりとなります。

尚、大体は謙の言ってる通りの模様。

勘違いしないで欲しいんですがこの影響でビビバスが生まれない等のトラブルは起きないので、このすぐ後に原作通り四人で「Vivid BAD SQUAD」は結成されてます。


本作のZERO(氷室靱)のテーマは
「オルタネーター•フルドライブ」です。

聴いてみるとイメージが湧きやすいかなと思います。

え?イメソンなのに歌詞がない?気のせいです、多分

ifについて。やるならどっち

  • ほぼ確実にあり得ない展開
  • 割とあり得たかもしれない展開
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