時系列はユニスト終了直後
——暗く
——闇より暗く
——尚暗く
——暗闇はただ肥大化していく
「…ハァ……ハァ……」
息を吐く
荒げた息を整える
辺りに響く喧騒が、酷く耳障りだ
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
誰かの話し声が、何気ない人の会話が聴こえる
しかし、それを意味を成した音として理解する事は叶わない
「クソ………ッ!
なんなんだこれは……!?
声が滅茶苦茶に……?」
靱は困惑する
メインストリート
交差点付近
多くの人間で賑わい、喧騒に包まれる街中
その中で一人、怪音に狂う者
「(駄目だ、頭の音が止まねぇ……!
なんだこれ……こんなにヤバいのは初めてだ。
いつものただうるせぇだけの雑音じゃねぇ…
コイツは、もっと別のモノか……!?)」
——雑音が煩い
「(思考がバラける……!
マトモに考える事も出来ねぇのか!?
なんなんだこの音は………!)」
——雑音が煩い
巡らせる回路が溶け出し、崩れる
自意識の崩壊
身体が——動かない
否、勝手に動くような感覚
燃え盛る衝動だけが身を突き動かし、目に入るモノ全てを———壊したいと紫炎が揺らめく
「(ああああああア!!!
黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!
ふざけんなよ……!
いい加減収まりやがれ……ッ!!!)」
突き上がる衝動を、僅かに残された理性が抑える
酷く重い腕を無理矢理動かして自らの頭を殴り付ける
道行く人々が何事かと彼を見詰めるが、
そんな事を気にする余裕はない
強引な自傷行動に、一瞬自意識が蘇る
自己を取り返し、耳に取り付けたイヤホンから最大音量で音楽を流す
鼓膜が破れそうな爆音、衝撃
しかし音は———幾分かマシになった
「(………収まっ……、てはいねぇか。
だがこれなら多少はマシだ。
耳がクソ痛ぇが、頭がおかしくなるよりかは幾分か良い方だろ。
しかし、なんだこの……クソみてぇな音は)」
「(明らかにおかしい。
あの妙なセカイだか何だかに行ってからだ。
…………っ。
思い出しただけでイライラしやがる)」
ようやく思考が巡り出す
しかし思い返されるのは、セカイの記憶
決して良いモノではないそれに靱は歯噛みする
「(………あんな事を言うつもりじゃなかった。
話すにしても、あの時じゃなくて良かっただろ。
本当にどうしちまったんだ、俺は。
このクソ以下のうるせぇ音のせいか……?)」
燃え上がるような怒りと見下すような冷たさ
相反する感覚を思い起こし
靱は思考を深めていく
「(…そうじゃねぇとは言い切れねぇな。
おかしな感情が湧いて来たのは確かだ。
だが…まるっきりコイツのせいって訳じゃねぇ)」
「(この音を聴いてると苛立つような、もどかしい気分になりやがる。
けど……思ってもいない言葉が急に出てきた訳じゃなかった。
考えてはいたが、話さなかった事がいきなり出てきたっていうか……なんだろうな)」
挙げるならば、奥にしまっていたモノを無理矢理引き出すような感覚
雑音のせいで、勝手に思ってもいない言葉を口にしてしまった訳では無いのだ
平時に抑えている本心や歪んだ思考の抑えが効かなくなる
それが最も近いだろう
「………………。
俺は……」
『……………っ』
『そんな…』
「………違ぇよ。
そんな顔がさせたかった訳じゃ……
…………くっ!」
呟き、自らの言葉を掻き消す
後悔など何の意味もない
壊れたモノは、もう戻らないのだから
「(………別にいいぜ。
どうせいつかは……こうなる筈だったんだ。
“伝説”を超える為には、今の俺じゃまだ足りねぇ。
実力も……気概も……)」
「(俺の“音楽”は、全力でやれば必ず和を乱す。
だから誰かとやってちゃ、いつまで経っても俺は本気で自分の音を出せねぇんだ)」
「(盛り上げる必要なんてねぇ。
音楽で人が———繋がれるモノかよ。
上手くやれば、結果は付いてくる。
現に『ZERO』として……一人でやってた時のもそれなりに噂にはなってる。
聴くモノを圧倒するのは、やろうと思っても簡単に出来る事じゃねぇ筈だ。
つまり俺の………武器になり得る訳だ)」
「(ソイツを磨いて、伸ばしていくべきだ。
それが“伝説”を超える為の確実な手。
どうしてもっと早くそれに気付かなかったんだか)」
迷いを断ち切る
答えは既に出た
もはや、必要ない
靱は歩き出す
「(……最初から、ずっと一人でやるべきだった。
どうせ何も……役に立っちゃくれねぇんだ。
…アイツ等だって、動かなかった。
動けなかったのか?まぁ、俺にとっちゃ同じ事だ。
マトモに言い返しても来なかった。
小賢しい誤魔化しを吐こうとしただけだ。
……その程度なんだろ)」
「(…いらねぇよ、“仲間”なんて。
そんなモノを信じても馬鹿らしいだけだ。
どうせ何にも変わらねぇ。
いつか……裏切られるだけだ)」
心中で切り捨て、吐き捨てて
騒めく頭の中に不意に、色が浮かぶ
直前の思考を否定するように
鮮やかな紫と、暗い桃花が
「(———あぁ、そうか。
……アイツ等は違ったんだっけな。
どっちかって言うと裏切ったのは…俺の方か)」
「(高校じゃ気持ち悪い奴等を一々ぶっ殺さないように抑えるのに手一杯でそれどころじゃなかったが…
……今頃、何してんだろうな)」
「———はぁ。何考えてんだ、俺は」
溜息と共に、靱は思考を打ち切った
未練を断ち切るようにがむしゃらに歩みを進める
「……この道を行くって決めたんだ。
立ち止まれねぇ。もう後には退けねぇだろ。
“伝説”を超えなきゃ始まらねぇんだ。
この道以外じゃ……生きていけねぇ」
湧き上がる衝動と混じり合い、思考が揺らめく
再びジワジワと侵食を始める音に彼は頭を抑えながら帰路を辿り——
「———!?
うわっ……………!」
「………っ!」
マトモに前を見ていない靱は、
よろめきかけて前に飛び出した白い少女と正面から衝突する
靱は何とか倒れずに済んだが、
ぶつかった少女の方は圧倒的な体格差に軽く吹き飛ばされるようにして勢いよく倒れる
「…………ッ!
いってぇな………!!
前向いて歩きやがれ、この野郎……ッ!」
普段なら謝罪の一言でも口にする靱は
湧き上がる衝動のままに、自分に非があるにも関わらずぶつかってきた少女に怒声を浴びせる
「あ………ご、ごめんなさい。
少し足がふらついて……」
「……え——」
「何を下らねぇ言い訳を………!」
「————あ?」
その剣幕に押され、反射的に謝る少女と
苛立ったまま声を浴びせる少年の
目線がかち合う
——凍結
一瞬訪れる静寂
目を合わせたままに黙り込んだのは、ほんの僅かな時間に過ぎない
「———連れが、すみません!
不注意でぶつかってしまったようで……
お怪我はありませんか?」
「………あ?
あ、あぁ。別に。
チッ……気を付けろ……!」
ぶつかった少女と一緒に歩いて少女の一人が、
怒声を上げていた彼と彼女の間に割り込むようにして入れば、靱は決まりが悪そうに舌打ちしてその場を足早に去る
彼が十分に離れたのを確認して、少女は声を掛ける
「……大丈夫?奏」
「あ、うん……」
ぼんやりと向こうを見つめていた少女は、紫の少女の言葉に我に返り、返答を口にする
そんな彼女へ、もう一人の少女が駆け寄って手を貸すようにして彼女を立ち上がらせる
「まったく、何なのあいつ……。
謝罪の一言もないわけ?
…奏、本当に痛いところないの?
我慢すると…」
「ううん、本当に大丈夫。
どこも怪我はしてないから」
彼女の言葉に、少女は返し、促す
再び歩き出した三人の中で
白い少女は一瞬だけ後ろを振り返る
「(………ううん、やっぱり知らない人。
…気のせいかな……)」
住宅街付近
走った訳ではない
しかし、何故か息の切れるような感覚に
靱は困惑していた
「(あの妙な感覚……
最近は変な事ばっかだな)」
「(あんな奴見た事ねぇ。
会った事もねぇが……変だな。
知ってる気がしやがる)」
「(それに一番妙なのは……)」
靱は額に手を当てる
既に胸の奥で暴れる感情の炎は、消えている
「(………音が、聴こえなくなった……
クソうるせぇ耳障りなのが、急に…)」
「(これは、一体……)」
鳴り響く雑音は、今は聴こえて来ない
決して悪い事ではないのだが、
彼は酷く不気味に感じていた
ニーゴ回。
効いていないようで滅茶苦茶効いてる靱の話です。
尚、今回の話はニーゴ側の時系列的には初オフ会の帰り道になるんですが、これは数分程時間がズレて遭遇していると全く別の話になっていたりします
ifについて。やるならどっち
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ほぼ確実にあり得ない展開
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割とあり得たかもしれない展開