恢復のクインテット   作:ブラック5930

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——-Turning Point


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終章『Delet Iife』編
第1話「喪失へのカウントダウン」


 

⬛︎日後

 

 

シブヤ区⬛︎⬛︎⬛︎ストリート

 

表通りに面したとある防音スタジオ

 

学生でも手の届くレンタルレッスンスタジオの一室

 

 

 

『♪————————!』

 

 

 

「…………チッ」

 

 

曲を終わらせて、靱は小さく舌打ちをかました

 

その表情に浮かぶのは、不満

 

 

「……足りねぇ。

こんなんじゃ、まるで……。

方向性は間違ってねぇ筈なんだ」

 

「演奏のレベルは間違いなく前より高い。

歌も多分……悪くねぇ筈だ。

より鋭さを増して、聴く奴等を圧倒出来るような完成度に至ってる…

そう思える、が……」

 

「これでもまるで足りちゃいない。

“伝説”の影すら踏めやしない。

『RAD WEEKEND』を超えるなんて、こんな音じゃ想像もつきやしねぇ」

 

「どうしてだ………一体、何が足りねぇ……!」

 

 

自問自答しても、当然答えは出ない

 

雑音から逃れる為に連日がむしゃらに練習を続ける靱は、壁にぶつかっていた

 

()()が悪い、そう感じるのだ

 

 

練習を重ねても中々上手くいく演奏が出来ない

 

この程度では到底“伝説”に届かないと

 

歯噛みして靱は答えを探す

 

巡らせた思考が記憶の底を掴むまで

 

 

 

 

『———俺一人では超えられねぇ壁だ。

だが俺達なら、きっと超えられる。

“RAD WEEKEND”も、“伝説”だって。

俺達三人なら、必ず——』

 

 

 

 

「……………っ」

 

「クソ………やめろよ…」

 

 

在りし日の自分自身の声を、頭を振って打ち消す

 

 

「…馬鹿抜かせ……

アイツ等と組んでからは足を引っ張られてばかりだった。

そのせいで練習する時間も減って、

……きっと腕だって落ちてた筈だ」

 

 

紡ぐ言葉は、酷く小さい

 

 

事実として、“BAD DOGS”として活動を始めてからはその前よりも練習する時間は減っていた

 

尤も()()はそれまでの比では無かったが

 

 

「……違ぇんだよ………

この道が正しいんだ、間違いなく。

…風のウワサじゃアイツ等はもう組んだみたいだしな」

 

 

“Vivid BAD SQUAD”

 

VividsとBAD DOGSが組んだ、という話はビビットストリート中に瞬く間に広がった

 

そして、“ZERO”がBAD DOGSを抜けた、とい

うウワサも同じように

 

 

「好きにやりゃ良いじゃねぇか。

お似合いだぜ、夢を追う奴等同士……」

 

 

 

 

『その歌は、『最高のイベントをやりたい』っていうキミ達の想いから生まれたものだからね。

最初からキミ達の中にあったんだよ』

 

 

 

『私達、5人で組んでイベントやらない?』

 

『5人とも“RAD WEEKEND“を超える最高のイベントをやりたいって想いは、

本当の想いは、同じみたいだし』

 

 

 

 

「……俺は、そんなんじゃねぇ。

夢を追える程……キラキラした世界で生きれちゃいねぇんだ」

 

 

迷いは未だ断ち切れない

 

切っても斬っても絡み付くそれに苛立ちを滲ませ

 

再びギターを搔き鳴らそうとして

 

 

「……………」

 

「……喉が痛ぇ。

ちっと連続でやり過ぎたか。仕方ねぇな。

少し休憩するか……」

 

 

その手を止める

 

 

いつの間にか乾き切った喉は痛みを発しており、

 

指もほんのりと痛みを発している

 

 

限界を悟り、靱は一度練習の手を止める

 

そして下の自販機を目指し、そのまま部屋を出た

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

飲料水のペットボトルを手に、部屋へと戻る

 

音楽に触れていないとジワジワと迫り来る雑音に不気味な感覚を感じながら

 

 

「(まだ音はして来ねぇが、いつ響いて来んのか解ったもんじゃねぇのが面倒だな。

家で馬鹿みたいに楽器を弾く訳にもいかねぇが、だからといってずっと外にいる訳にもいかねぇ。

クッソ……どうするか…)」

 

 

前回に鳴って来た雑音は明らかに今までと違った

 

本能的にまずいと悟る程の異常

 

 

以前に病院で診断した際は、精神疾患の一環という結果が返されている

 

確か『統合失調症』だったか

 

主症状である幻聴に該当しているらしく、治療を勧められた

 

 

尤も、医者等アテにならないので入院は断った

 

費用が惜しい訳ではない

 

金なら両親が遺したモノが幾らでもある

 

 

単に、信用ならないだけだ

 

 

「………?」

 

 

『ハハハハ!!』

 

 

部屋に戻る直前、隣の部屋のドアを開き、黒髪の少女が入っていく

 

その一瞬に、開いたドアの向こうから聴こえた笑い声に靱は目を細める

 

 

幸福そうな笑い声

 

練習の場には似つかわしくない朗らかな会話が耳を擽り、それが彼を苛立たせる

 

 

「………チッ。

遊びに来てんのか、ここに。

ペチャクチャ下らねぇ事を駄弁りやがって」

 

 

苛立ちながら自身のとった部屋のドアを開く

 

腰を落ち着け、暫し休息を取っていると

 

 

「………….!」

 

 

『……♪———————-』

 

 

隣の部屋から聴こえる音に、耳を澄ませる

 

 

先程遊んでいた連中が練習を始めたらしい

 

防音処理が甘いこのスタジオでは、隣の部屋くらいなら耳を済ませれば普通に演奏を聴ける程度には音が通りやすい

 

苛立たちを滲ませた靱は、その演奏を聴く

 

どの程度のモノか確かめる為に

 

 

「……………」

 

「……ふん。この程度か」

 

 

聴こえてくる演奏のレベルは、悪くない

 

下手だという程ではないが上手くもない

 

良くも悪くも普通の演奏に、靱は息を吐く

 

 

真剣に練習も出来ない練習ではこの程度だろうと

 

 

『♪——————-……』

 

『……♪————!♪——————!』

 

 

「…………」

 

 

『…………♪————————-!』

 

 

「(……下手くそな演奏だな。

ストリートじゃ下から数えた方が早ぇ。

学生の部活動の延長ってレベルか?

まぁ所詮はこんなもんだろ……)」

 

 

靱の基準からすれば、レベルが低いとしか考えられぬ程度の演奏

 

しかし彼は、耳を傾ける事をやめなかった

 

……否、

 

 

『♪——————-……』

 

 

「(………だってのに)」

 

「(どうして、こんなに響きやがる……)」

 

 

やめられなかった

 

 

演奏そのものは大したレベルではない

 

曲も知らない

 

しかし、何故かやけに響いて聴こえてくる

 

 

心に直接響くような感覚に彼は首を傾げ

 

 

「………あ」

 

 

 

 

『♪——————!♪————————!!』

 

 

 

 

答えを、悟る

 

 

「(………そうか、この演奏は…)」

 

「(アイツ等の歌に、よく似てるんだ。

真っ直ぐなその“想い”が……)」

 

 

導き出した答えは、納得のいくモノだった

 

完成度こそ異なるが、その音には“想い”が込められている

 

 

上手いも下手も関係なく

 

聴く者の心を揺らす演奏なのだ

 

 

「…………っ!」

 

「ふざけんな……

あんな風に遊んでる連中が………!」

 

 

しかし靱は、それを認められなかった

 

 

ドアが開いていたのは一瞬

 

チラリと見かけた少女達が笑い合っていた様子は見た

 

しかしそれはほんの一瞬の話でしかないのだ

 

 

とはいえ彼には、その一瞬でしか彼女達の事を判断する要素が存在しない

 

 

真剣に練習も行わない連中

 

その評価が全てだった

 

 

「……………。

……下らねぇ!!不愉快だ………ッ!!」

 

 

苛立ち、靱はギターを手に取る

 

隣から鳴り響く音を掻き消すように、

 

自らの歪んだ音を鳴らす為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、まずはそこのとこから……」

 

 

 

『……♪——————————!!』

 

 

 

「……いいね。

その調子でよろしく。

あと穂波、さっきのあのパートだけど、もう少し…」

 

 

 

『♪——————-!♪———————!』

 

 

 

「…………」

 

「…あー、もう!なんなの、この乱暴な演奏!

隣からだよね?私、ちょっと注意してくる」

 

「ま、待ってよ志歩ちゃん。

おちついて……」

 

 

隣から聴こえる爆音に、苛立つ少女を穂波と呼ばれた少女が止める

 

 

防音スタジオの一室

 

 

備え付けられた防音設備を貫通して響く程の大音量で演奏する隣の部屋の人物に

 

一言文句を言ってやろうと志歩は腹を立てている

 

 

先程から鳴り始めたその音はあまりにも大きく

 

とても練習どころではなかった

 

 

「……だって、これじゃ練習にならない。

こんな音でやられたら周りの部屋の人だってきっと迷惑してるはず」

 

「…うーん、それはそうなんだけど。

危なくない?」

 

 

黒髪の少女はその危険性を危惧する

 

非常識な行動、それに響く音はあまりにも荒い

 

 

それが凶暴な人物だった場合、注意した志歩が危ない状況にもなりかねない

 

しかしそんな懸念を

 

志歩は怒り収まらぬ様子で否定する

 

 

「……大丈夫。

なにかあっても、大きな声を出せばいいし。

ここの利用客はそこそこいるから、叫べばすぐに人が来る」

 

「私達が一番近いんだし、注意くらいしないと。

ずっと黙って聴いてるわけにもいかないでしょ」

 

「まあ、うん……」

 

「それじゃ、行ってくるから」

 

「あ、待ってよ志歩ちゃん!」

 

 

扉を開き、志歩は部屋を出て行く

 

その様子を不安そうに見守る三人の中で

 

 

「……アタシ、一緒に行ってくる!

いっちゃんとほなちゃんは部屋で待ってて!」

 

「ちょ、ちょっと咲希……!?」

 

 

金髪の少女が後に続いて部屋を飛び出して

 

 

残された二人の少女は顔を見合わせる

 

 

「……志歩ちゃんと咲希ちゃん、大丈夫かな?」

 

「…心配だね。

でも、ふたりいれば危なくなっても逃げられるし。

あんまり大人数で行くとかえって刺激することになるかもしれないから、今は待つしかない、かも」

 

「そう、だね……。

ケガとかしないといいけど…」

 

 

流石にいきなり殴りかかってくるような人物がいるとは思えない

 

しかし、あり得ないとは言い切れない

 

隣から響く爆音を聴きながら、少女達は不安気にドアを見つめていた

 

 

 

 

 

 

「…もう、知らないからね。

変なことしてこようとしたらすぐに逃げてよ。

その時は私が時間を稼ぐから」

 

「そんなことできないよ!

志歩ちゃんこそその時は逃げて!」

 

「だから……はぁ。

とりあえずそんなことにならないようにしないと。

ノックするよ、離れて」

 

 

咲希が着いてこない方がもしもの時はすぐに逃げられるのに

 

そう考えながらも志歩は複雑な感情だった

 

 

実のところ、多少の恐怖はある

 

スタッフ等の大人に任せた方が良いのではないか

 

そう思い尻込みする感情を、自分の身を案じて追ってきた彼女が紛らわせてくれているのも事実だからだ

 

 

緊張した面持ちで、騒音源の部屋のドアをノックする

 

静かに数度ノックしただけだが、

 

部屋から響く爆音が止み、志歩と咲希は息を呑む

 

 

「………!」

 

「あ、ドアが……!」

 

 

開く

 

内側に開かれたドアから現れたのは、長身の男性

 

 

「………あァ?なんだテメェ等は。

俺に何か用か?」

 

「………っ。

あ、あの………!」

 

 

低い声が言葉を紡ぐ

 

酷く不機嫌そうなその声と、

 

見下ろしてくる男の鋭い眼光に一瞬怯みかけ、

 

背後で恐怖を感じているであろう咲希の気配を感じて志歩は言葉を紡ぎ出す

 

 

「……さっきから音、うるさいです。

もう少し静かにやれませんか?

あんなに大きな音でやってたら、周りのみんなにも迷惑です」

 

 

勇気を振り絞って、紡がれた冷静な言葉を

 

 

「………はァ?なんだそれ」

 

 

男は嗤い飛ばす

 

 

「知らねぇな。覚えがねぇ。

大体俺がどんな風に演奏しようが勝手だろ。

周りに迷惑がかかるんなら、ここのスタッフが何か言いに来んだろ?

来てないって事は、問題ねぇって事なんじゃねぇのかよ」

 

「……そんなこと……!」

 

 

男が口にするのは、暴論

 

それに反論する志歩の言葉に男は声を重ねる

 

 

「ゴチャゴチャうるせぇぞ、テメェ。

大体テメェ等はなんなんだ。

ここのバイトか?

そこの後ろで黙り腐ってんのは何なんだよ。

文句付けに来て、ビビってんのか?あァ?」

 

「………っ!」

 

「やめてください!!

…私達は、隣の部屋の利用客です。

あなたの音に、迷惑してるんです。

あんな音を出されたら練習ができない。

だからこうして来たんです」

 

「………ほぅ。

隣の部屋?あぁ……なるほどな」

 

 

咲希を庇うように前に出て、志保は言葉を紡ぐ

 

それに合点がいった、といった様子で男は頷き

 

嘲笑うように言葉を続けた

 

 

「あの、遊びながらやってる連中か。

なんだ?テメェ等の下手くそな演奏の為に俺の方の練習を控えろってか?」

 

「話にならねぇな。

練習が出来ないならそのまま消えろよ。

テメェ等の方がな」

 

「な………!」

 

 

暴言に、向けられた悪意に志歩は目を見開く

 

横暴な物言いは、どこまでも身勝手なモノ

 

 

「お遊び気分でチャラチャラやってるテメェ等が俺の邪魔をする気なんだろ。

下らねぇ、下らねぇんだよ……!

気に入らねぇな、テメェ等みたいな音楽を舐めてる雑魚共はよ」

 

「さっさと消えろ。

痛い目に遭わないうちにな」

 

「………っ」

 

 

志歩は一歩下がる

 

 

異様な雰囲気に

 

向けられる視線には殺気すら感じられて

 

初対面にも関わらず憎悪するような目付きを向けてくる彼を、危険だと判断する

 

 

しかしその時、彼女の後ろから

 

声が上がった

 

 

「……お…」

 

「…お遊びなんかじゃないよ!」

 

「……あァ?」

 

 

「…咲希……!?」

 

 

怯んでいた少女は、一転して声を上げる

 

その様子に志歩は困惑する

 

 

「お遊び気分なんかでやってない!

アタシ達、本気でバンドやってるんだから!

あなたみたいな自分勝手な人に、音楽を舐めてるなんて言われたくないよ!」

 

「………」

 

 

下手くそだと、真剣にやっていないとなじられて

 

我慢が効かなくなったのか、彼女は言葉を紡ぐ

 

 

その言葉に、内心ハラハラしながら男の方を見る志歩

 

対する男は無言

 

 

少しの沈黙を破り、男は口を開いた

 

 

「………本気で?馬鹿言うなよ。

テメェ等みたいにヘラヘラ笑ってる連中が真剣に音楽と向き合ってるもんか」

 

「テメェ、俺に言い返して来やがったな。

……面白ぇ。

だったら見せてやるよ。

本気の音楽ってヤツを、“本物”をな……!」

 

「そんな下らねぇ事が二度と抜かせねぇようにしてやる」

 

「……来いよ」

 

 

男は自身のとった部屋の扉を開け放ち、

 

吐き捨ててから入って行く

 

 

「……しほちゃん、行こう!」

 

「…咲希。

あんなヤツの言うことなんて聞かなくていいでしょ。

話し合いができるような相手じゃなさそうだし、ここのスタッフに話して……」

 

「ううん!

あそこまで言われて、このまま引き下がれないよ!」

 

 

珍しく乗り気の咲希に、志歩は困り顔をする

 

自分達がようやく掴んだ音楽を馬鹿にされて頭に来ているのか、彼女はいつになく燃えている

 

 

仕方なく、咲希に続き志歩も足を踏み入れる

 

男の待ち受ける部屋に——

 

 

 

 

 

 

「ドアくらい閉めとけよ。気が効かねぇな」

 

「…………」

 

 

自分の非常識さを棚に上げ、文句を飛ばす男を志歩は無言で睨み返す

 

男は乱雑にドアを閉めると、置いてあったギターのチューニングを始める

 

 

「(年代物……

かなり古い感じのギターだ。

Gibsonの……Custom Shopかな?

確か相当高いヤツだったはず。

制服着てるし、この人は学生みたいだけど。

よくこんなの使えるな)」

 

 

志歩は思考を巡らせる

 

 

エレキギターの価格は幅広い

 

手頃なものでは1、2万円程度のモノもあるが

 

上を見ればそれこそ100万を越えるようなモノもある

 

 

学生と思われる男が手にしているのは数十年前に生産された有名なレスポール•ギター

 

真作であるそれは学生どころか、大人ですら手が出せるようなモノではなかった

 

 

学生に不釣り合いなそれに、眉を顰める彼女の横で、咲希は目を細めて男を眺めている

 

 

「……よし。待たせたな。

そんじゃ聴かせてやる。

テメェ等にゃ手の届かない“本物”をな」

 

 

「……………」

 

 

男は挑発するように嗤い、ギターを構える

 

そして———

 

 

 

『♪————————!!!』

 

 

 

「………!」

 

 

音が、響いた

 

荒々しくもその場を支配する、音が

 

 

 

 

《 ♪——IMAGINARY LIKE THE JUSTICE——♪ 》

 

 

 

 

「な、にこれ……」

 

 

漏らした声は誰のものか

 

息が詰まるような迫力を浴びながら、少女達は目を見開く

 

音の暴威が、部屋に吹き荒れる

 

 

「(……この人、上手い……!

それも、動画サイトとかで見るようなレベルよりもずっと……!

プロのバンドの演奏を聴きに行った時に、似てるような感覚…

でも……)」

 

 

 

 

『私は、ひとりでいい』

 

 

 

 

「(なんて……冷たい音なんだろ。

乱暴でめちゃくちゃに聴こえるようで、ちゃんと技術は感じる。

けど、あまりにも……痛い音だ。

全部拒絶して……ひとりでいたいって叫んでるみたいな音……)」

 

 

ほんの一瞬、記憶の自分と重なって

 

音に呑み込まれそうになりながら、志歩は暴威を振り撒く演奏に耐える

 

 

一方の咲希は、

 

呆然とその演奏を聴いていた

 

 

「(………なんだろう。

すごい演奏……なのかな。

わかんないけど……この音…)」

 

「(すっごく、悲しい音だ…

あんなに怖そうな人なのに、この演奏は……)」

 

 

 

『♪——————————!!』

 

 

 

音が、止む

 

 

「……ハッ。どうだ、テメェ等。

思い知ったか……コイツが本物だ。

テメェ等みたいなお遊び野郎共とは違う、本気の音楽だ」

 

「「……………」」

 

 

曲を弾き終わり、嗤う男に

 

少女達は言葉を返さない

 

 

音に圧倒され、未だ立ち直れていないのだ

 

その様子に、男は顔を歪めて嗤う

 

 

「……なんだ。ビビって声も出ねぇか?

…雑魚共が」

 

「俺はな、テメェ等みたいに真剣にやらない奴等が大嫌いだ。

その癖そういう奴等は……決まって余計な口を挟んで来やがる」

 

「テメェ等みたいなロクに覚悟もない下手くそ共が俺の練習に文句を付けるんじゃねぇよ」

 

「………!あれは、あなたが……」

 

 

志歩の言葉に、男は嗤う

 

 

「周りに迷惑だァ?……知った事かよ!

大体俺より下手な奴等がどんなに練習しても意味ねぇだろ!

どうせ舐めたのばっかなんだ、そんな下らねぇ奴等の練習の邪魔だのなんだの気にするのが馬鹿らしい事この上ねぇんだよ……!」

 

「解ってねぇなら、教えてやるよ」

 

 

男は乱暴に言葉を続ける

 

 

「全部、無駄だ!テメェ等のやってる事は!

この世界はな、才能が全てだ!!

生まれ持った才能をどこまで伸ばせるか、

それだけで全てが決まる」

 

「強い想いも覚悟も、本当は全部無駄だ。

下手くそな奴がどんだけ頑張っても、圧倒的な才能を持ってる奴のお遊びにも届きやしねぇ!

どんだけ努力しようが、命を削ろうか、

到底超えられねぇ差がそこにはあるんだよ!!」

 

「凡人は天才に敵わねぇ。

天才は、もっとすげぇ天才には敵わねぇ。

それが世の摂理だ。

懸命に努力したって届かねぇってのに、テメェ等みたいに遊んでる奴等の手が届くと思ってんのか?」

 

「テメェ等が何を目指してんのか。

どんな奴とどんな目的でやってるかなんて知らねぇ。

知りたくもねぇ!

…だがな、仮に本物プロを目指すんなら……」

 

「諦めろ。

テメェ等じゃ絶対に無理だ。

ヘラヘラ笑いながら練習してるテメェ等にはな」

 

 

「……………っ!」

 

 

浴びせられる言葉は炎のように激しく

 

そして冷たい

 

 

息を呑む少女達に、男は言葉を続ける

 

 

「夢も“想い”も、そんなもんが簡単に叶うくらい

この世界は優しくねぇ。

本気で求めない奴には、絶対に結果なんてついてこねぇんだよ。

テメェ等は本当に……

本当の本気で、音楽をやってんのか!?

俺の目を見て言い返してみろ!!

出来るもんならな!」

 

 

「…………っ」

 

「…………………」

 

 

恐ろしい雰囲気を放ちながら睨み付ける男に

 

少女達は萎縮してしまい、俯く

 

 

「………ほらな。

そんなもんだ、テメェ等なんて……!」

 

 

それを見て男は、ギターケースを担ぎ上げる

 

こんな連中と同じ空気を吸いたくないとでも言うように

 

 

「…………興が冷めた。

下らねぇ時間使わせやがって。

テメェ等が言う通り、大人しく出て行ってやるよ。

邪魔者はな」

 

 

踵を返し、歩き出して

 

ドアを開き、彼は振り返る

 

 

俯いたままの彼女達を目に入れて

 

男は再び口を開く

 

 

「テメェ等みたいなお遊び野郎共が、平然と音楽に触れていやがるのを見るとイラつくんだよ。

二度と会わねぇ事を祈ってるぜ。

ああ、それとな……」

 

「——テメェ等には夢があんのか?

もしあるんならそれは……

……絶対に叶わねぇよ。俺が保証してやる。

テメェ等みたいな覚悟のない雑魚共は、絶対にな」

 

 

吐き捨てて、彼は額を抑えたまま部屋を後にする

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

後には俯く二人の少女と

 

脱ぎ捨てられたままのコートだけが残されていた

 

 

 

 

 





アンチ•ヘイトタグは殆どこの話の為にある模様。


という訳で本章第一話でした。

え?章題間違えていないか?大丈夫です、仕様です。


恐らく最も出会い方が悪かった不憫なキャラ達が出て来ましたが、レオニ推しの方には非常に申し訳ない気分です。

作者もレオニ推しなので心が痛いです。

とはいえこれも物語の一幕、ご理解頂ければと思います

ifについて。やるならどっち

  • ほぼ確実にあり得ない展開
  • 割とあり得たかもしれない展開
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