《 《♪——オルタネーター•フルドライブ——♪》 》
残酷な描写及び暴力描写が存在します。
ご注意下さい
——ひた走る
——見えないモノから逃げるように
走り、やがて足がもつれる
——走った
——転んだ
——迷った
——解らなくなった
アスファルトの硬い感覚が伝わる
手をつき、靱は立ち上がる
「………………」
耐え難い熱を帯びた頭を抑えながら
「(………最悪だ)」
「(あんなの、ただの八つ当たりじゃねぇか。
あんな事の為に俺は音楽を始めたんじゃない)」
頭痛が酷い
頭に煩く鳴り響く雑音は、これまでで一番強い
「(ヤバいな……これは、もしかして……)」
——雑音が煩い
「(前に聴こえた時に……次はねぇって感じた。
その次が、今なんだとしたら……)」
——雑音が煩い
突き上げる衝動を抑え込み、靱はポケットを探ろうとして
「………あ」
「(コート……さっきのとこに置いてきちまった。
イヤホンもスマホもねぇ)」
買い替えたスマホとイヤホンや財布等はコートのポケットに入れたままだ
後ろを振り返ろうとして
「…………!」
もう身体が満足に動かない事に気が付いた
鳴り響く音が、込み上げた衝動が完全に侵食を果たし、自意識を上回って身体を動かす
真っ黒な感情が頭を塗り潰し、炎が揺らめく
「(………痛ぇ。
クソ、どうする……!)」
思考は未だ巡る
切り離されたように冷静に巡らせる事が出来る思考に困惑しつつ、
靱は裏通りをゆっくりと進んで行く
「(…抑えが、まだ効くのか。
うるせぇけど…………あ)」
——雑音が煩い
思考が鈍り始める
それと同時に身体の自由を取り戻し、靱は額を抑える
「……クソッ!いってぇな!!
どうなってんだよ、これ!」
激情のまま、叫ぶ
暴れ狂う負の感情が胸の奥で燃え盛る
黒い破壊衝動が誰かを壊したいと叫ぶ
鳴り響く音が同じ目に遭わせてやれと囁きかける
「………あああああアアアッ!!!
黙れって言ってんだろ!うるせぇんだよ!!」
狂乱
路地裏の壁に拳を叩き付ける
損傷が大きいのは殴った方だが、構わず靱は拳を叩き付ける
そして
「……やっと見つけたぞ、氷室」
「………あァ?」
裏通りに、声が響く
狂って歩みを進めるうちに立ち入ったのは、普段は決して踏み入らぬ地域の通り
揺らめくように靱が顔を向ければ、映るのは三人
「ずいぶん久しぶりじゃねえか。
てめえをずっと探してたんだよ、氷室。
⬛︎年前の借りを返す為にな」
男は、笑う
暗い笑みを浮かべる男の背後に控える二人は、無言
ただの腰巾着に過ぎないからだ
「なんだよてめえ。
えらく荒れてんなあ、オイ。
周りに手当たり次第に当たり散らす……
変わってねえな、氷室。あの頃から」
「…………」
靱は男を睨み付ける
鳴り響く音に耐えながら
「……フッ、まああれだ。
別にてめえをここで殺そうってワケじゃねえ。
今日は偶然だったから大したもんも持ってないしな」
そう言いながら男は、幅の広い大きなナイフを取り出して、彼に見えるように刃をチラつかせる
「……そう構えんなよ。
てめえがちゃんとケジメをつけるってんなら、
命までは取らねえからよ」
「…………」
男は変わらぬ調子で笑う
靱は頭痛が強まった気がして、強く頭を抑える
そんな様子に首を傾げながら、男は問う
「……で、どうする?
大人しく着いてくるんなら手荒な真似はしねえ。
そう約束してやるよ」
その問いに、間を置いて靱は口を開いた
「……知らねぇな」
「あ?」
「テメェ等、誰だよ?
馴れ馴れしく話しかけてくんじゃねぇ。
クソ虫共が」
「………」
嗤う靱に、男は笑みを消して黙り込む
「………なるほど。
てめえがそういう態度なら仕方ねえな。
もういい、死ねよ。
おいてめえら、あいつを
「「…はい」」
「………!」
男の号令に頷き、控えていた男二人が動き出す
一直線に向かってくる様は手慣れていて速い
二人同時の接近
迫る拳に靱は、
「…………!?」
「……捉え、……がっ!?」
片方の足を払い、もう片方の拳を受け止める
そしてそのまま路地の壁に叩き付ける
「……うっ、ぐ………っ!」
足を払われて転倒し、そのまま起き上がろうとしたもう一人の腹を蹴り上げれば、苦悶の声が上がる
「…………クソがッ!!」
「ぎ…….!?あああああああっ!!!」
一瞬浮き上がる程の衝撃、
蹲ろうとしてうつ伏せになった男の背を足で踏み付けて
そのまま体重を乗せて踏み潰せば嫌な音が響く
人体が軋み、破砕音
沈黙した男をよそに、靱は立ち直ったもう一人の男の方へと歩む
「こ、この野郎………っ!
よくも俺達に…………ガッ!?」
「うるせぇ」
よく喋る男の蹴りを流して頭を掴み、そのまま壁に再度叩き付ける
コンクリートに激突した頭から血が流れ、
しかし命には関わらぬ外傷だと悟る
トドメを刺す暇はない
靱が向き直れば、男は冷や汗を浮かべてナイフを持つ手を構える
「お、おい。待てよ、氷室。
落ち着けって……!話し合おうぜ、なあ?」
「…どの面下げて抜かしてやがる……!」
対する靱は、湧き上がる衝動に感情が乗り、完全に怒り心頭といった様子だ
「テメェ等が悪ぃんだぞ?
先に手を出したのはテメェ等の方だ。
文句は言わせねぇ」
「お、俺とてめえの間には多分……そう!
勘違い、思い違いだ!
ちょっとしたすれ違いがあるんだよ!
だから待て、少し……」
「……うるせぇな、聞く訳ねぇだろ。
テメェ等みたいなクソ虫共の言い訳なんて」
靱は男の言葉を切り捨て、一気に男に迫る
男はナイフを振り上げ、そのまま振り下ろすが
「…………っ!」
焦りから単調な軌道となったその腕を、取られる
凶器のある腕を抑えられ、歯噛みする男を
「……!……うおっ!!?」
「……ガッ!!」
足を刈り、投げ飛ばす
一瞬宙を舞い、強い衝撃
硬いアスファルトの地面に叩き付けられて一瞬呼吸の止まった男へ
靱は跨るように馬乗りになる
「ひ……ま、まさ………ブッ!?」
「……ッ!」
振り下ろされる拳が、男の言葉を遮る
「ま、待っ………ガッ!!」
「グバッ!?……ちょ」
「アグッ!!」
一撃、二撃、三撃
連続で振り下ろされる拳は男の顔面を捉える
手に伝わる鈍い感触
流れ出した血が拳を濡らす
振り下ろす度に、衝動は収まるどころか増加する
もっとやれ、もっと壊せと
「や、やめ………ガ…ッ!」
「ひむ………グブ………!」
「………黙れッ!!
死ね、死にやがれッ!!!」
狂乱、暴力、殺意
最大限黒い炎が燃え上がる
頭を覆い尽くす殺意のまま、広がる激情のままに靱は拳を叩き付ける
殴る、殴る、殴る
手の感覚はもはや何もない
それを伝える程何かが残されてはいないから
崩壊
迫る終焉の中で、炎は勢いよく燃え盛る
最期の星の輝きのように
「……ア、………ガ……うっ…」
「……これで……ッ!!」
死ね
耐え難い痛みに呻く男を殴る手を少し止め
拳を大きく振り上げる
顔面の骨を打ち砕き、そのまま息の根を止める為に
正当だ
これは正当な報復である
お前達がした事を考えれば、これは妥当
今回も、手を出したのはお前達だ
——死を以て罪を償え
「あああああアアアアッ!!!!」
「ひっ……ま、待て……っ!?」
咆哮
激情のままに叫び、拳を振り下ろそうとして
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
「(あ………?)」
頭に響く声が動きを止める
真っ暗な闇の中で、暗闇の底から、記憶の底から
声が蘇る
『——別に、慣れてるのに。
でもありがとっ!
私のことを見ろって言ってくれて。
けっこういいヤツじゃん、あんた』
『——君はそういう変なところで真面目だよね。
嫌っていながら律儀に学校に来ているところとかもそうさ。
……ああいや、馬鹿にしているわけじゃないよ。
そういうところは、好ましいと僕は思うしね』
『しかしそうだねえ。
君といると……ネタに困らないのは確かだね』
『——ふーん。
そうなんだ、まあ、そうだよね。知ってる。
でもさ……』
『先輩にその気はなくても、ボクが助けられたのは事実だし。
だからさ……その…』
『あ、ありがとう……』
「…………ッ!!
グ……くそ…………っ!!」
腕が、完全に止まる
燃え盛る衝動は腕を振り下ろせと叫ぶ
黒い殺意が目の前の男を殺せと叫ぶ
しかし記憶が、最後に残った理性を蘇らせた
「(これ以上やったら……マジで殺しちまう。
違う奴と重ねて、やるとこまでやる必要はねぇんだ)」
「(……堪えろっ!!
過剰防衛も良いとこだ、ここまでやれば。
取り敢えずコイツ等は無視して表通りの奴等に救急車呼んで貰うか…)」
表通りまではそう遠くない
馬乗りになっていた男から降り、通りへ向かおうとして
「………は?」
破砕音
耳に響くようなガラス類の割れる音
すぐ近くで鳴り響いた音に、靱は困惑し
「……ハァ、ハァ……
野郎、よくもやってくれやがったな!!」
崩れ落ちた自らの身体に、遅れて気付く
殴られたのだと
荒く息を吐くのは壁に叩き付けた方の男の声
意識が戻ったのか、そう悟る
凶器に使われたのは、路地に転がっていたビール瓶
背後から頭を一撃
糸の切れたような感覚と共に、身体が動かなくなった
広がる血
倒れたまま何とか意識を保ち、後ろを窺えば
そこには別の男が落としたナイフを拾い上げ、こちらへ振り下ろそうとする男の姿
「(まず………ッ!)」
衝撃
刃物特有の、焼けるような感覚
深々と突き刺ささったそれは、靱に何かを悟らせた
「(これは……助からねぇな)」
響く男の狂笑
おそらく表通りの人間と思われる、叫び声
騒めく周囲
「(……あーあ。何やってんだ、俺は。
こんな馬鹿な……)」
広がる血溜まり
身体から血が抜けていき、冷えていく感覚
懐かしいその感覚に、靱は笑う
「(………寒ぃな……
くそ……だから寒いのは……嫌いなんだ…)」
視界が黒く染まっていき
意識は落ちていく
世界が遠ざかるような感覚
闇の中で靱は、保っていた意識を手放した
・
・
神山高校
休憩時間に教室を出た彰人は、一年のフロア全体が騒めいているのに首を傾げた
「なんだ……やけに騒がしいな。
なんかあったのか……?」
近くの同級生に声をかけようとした刹那
走ってきた少年の姿に彰人は目を丸くする
「………冬弥……!?
どうしたんだよ、そんなに慌てて……」
「ハァ……ハァ……、彰人、聞いたか!?」
普段の彼とは似つかわしくない姿
取り乱したまま息を整える彼に、彰人は問う
「聞いた……って、なにをだ?」
「…そうか。まだ知らないか。
さっき伝わった情報なんだが、なんでも……」
「⬛︎⬛︎通りの方で、神高生徒が刺されたらしい」
「刺された……?
ああ、どおりでこんなに騒いでんのか。
まったく……物騒な話じゃねえか」
彰人は納得する
この騒めきはそれが理由なのだと
⬛︎⬛︎通り周辺は主に、付近の入り組んだ路地が柄の悪い連中や暴力団等の溜まり場になっているというウワサがある程度には治安が悪い
神高生が被害を受けたとなれば他人事ではない
顔を顰める彰人に、冬弥は言葉を続ける
「まあ、そうなんだが……その……」
「……?
なんだ、まだ他になんかあるのか?」
歯切れの悪い彼に、彰人は疑問を浮かべる
やがて意を決したような表情で、冬弥は口を開く
「……ああ。
それで……その刺された生徒、なんだが」
「……どうやら、特徴から察するに…
靱、らしい……」
「……は?」
風が通り抜ける
「…どういうことだよ……おい、冬弥!
もっと詳しく教えてくれ!」
黒く澱んだ風が、吹き抜けた
——カウントダウン、0
次話、エピローグ
ifについて。やるならどっち
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ほぼ確実にあり得ない展開
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割とあり得たかもしれない展開