——暗転、戻り
「…ん………」
瞼を開く
無意識に手が背中を探り
外傷を感じない事に気が付けば、一気に意識が覚醒する
「あ……?確かに刺されて……
………まさかっ!!」
飛び起きて
浴びた熱気に、広がる光景に
靱は言葉を失う
———広がる景色は、灼熱
生気を失い、乾涸びて灰色に変色した大地
どこまでも広がる荒野の上に立ち並ぶのは街
崩れ壊れ切った広大な街
しかしそんなモノよりも、何より目を引くのは
大地を、街を、全てを覆わんと燃え盛る炎
天を焦がさん限りに燃え上がる炎は、ドス黒い
一面を覆い尽くし、全てを焼き尽くす炎
燃え盛る業火に煽られて飛び散る灰が、煤が、吹き付ける風と混ざり合って黒い風となって世界を吹き荒れる
光はない、しかしある意味では無数にある
燃え盛る炎の明かりだけが、明るく照りつけている
地獄そのものが顕現したような光景
唯一燃えていない小高い丘の頂上で、
靱は周囲を見渡して呆然としていた
「ほ、本当にまた……来れたのか……?
どうして……」
「待てよ、だったら……」
「やあ」
「………っ!」
考え込む靱の背後から、声が掛かる
靱は勢いよく振り返り——
「久しぶりだね、靱。
おおよそ——キミ達の時間では七年程経つのかな。
また会えて嬉しいよ」
「………っ!!
…本当に、久しぶりだな……
長すぎるぜ、全く……
会えて嬉しいぞ、ミク………」
靱は咄嗟に目を覆い
溢れるモノを隠して、再び顔を上げる
その瞳に映るのは、
一般的に知られる初音ミクと全く同じ姿、服装
しかし、色と上に羽織るモノだけが異なった姿
長いツインテールは鮮やかな黒に染まり、
衣装のカラーリングも黒と赤を主体としたモノに変化している
そして、その衣装の上から羽織られているのは黒のロングコート
黒地に目立つ白の刺々しい装飾が施され、首元に灰色のファーがあしらわれたそれは靱が普段身に付けているモノと全く同じだ
そして全てを見透かすような瞳が
宝石のように美しく、
皆がよく知るミクとは多少離れた姿
しかし、靱にとっては、彼女こそが
「ミク、俺は……」
「フフフ、まぁ待ちたまえよ。
そんなにがっつく必要はないさ。
それに、キミが言いたい事は大体想像がつく。
ここへどうやって来たのか、だろう?」
「あ、あぁ…」
靱の言葉を遮って、ミクは言葉を紡ぐ
「キミが瀕死に陥って、
キミの精神体がここに落ちてきた。
実は、それだけの事なのさ。
要は7年前と同じ事だ。
未だ『Untitled』は……道は拓かれていない」
「な……」
ミクの言葉に、靱は目を見開く
「瀕死に……?
なんだ、じゃあ死にかければここに来れるって事なのか?」
「……うーん。
まぁ、有り体に言えばそうなるね。
尤もキミはそれを知っても意味がないと思うけれど」
「そうか……まぁ、そうだな」
ミクの言葉に、靱は頷く
「『Untitled』か……
そういえば——」
「あぁ、“ストリートのセカイ”にキミは行ったんだったね。
中では、何があったんだい?」
「………!?
ミク、お前知って…」
「あぁ、すまないね。
私はキミの行く末をここで見守っていたから。
大体の旅路は見ていたのさ。
ただ、他のセカイの中までは覗けない。
だから何が起きたか知りたかったんだけど」
「………」
返すミクに、靱は複雑な表情を浮かべる
「全部見て……
だったら、アレか。ここに来る前のも……」
「…まぁ、見てはいたよ」
「そうなるよな……
クッソ、無様なとこ見せちまったな…」
思わず、溜息が漏れる
項垂れる靱に、ミクは言葉を掛ける
「そう落ち込む必要はないよ。
キミはよくやっているさ。
初めからは想像も付かない程、強くなった。
もはやキミは悪意に負ける弱いキミでは無い」
「一体何を、沈む必要があるんだい?」
「………」
ミクの言葉に、沈黙が漂う
やがて靱は口を開く
「……でも『Untitled』は現れなかったよな。
俺が強くなって、道を進んでいけば…
いつかはまた会えるようになるんじゃなかったのか」
「…ふーむ。
そうだね、それは不可思議なところだよ。
キミの想いは十分な筈。
しかし何故か、未だ『Untitled』は……
このセカイと現実を繋ぐ鍵は生まれない。
果たして何が足りないのやら……
私には想像も付かないよ」
「…………」
再び沈黙が場を包む
考え込み、やがて
靱は言葉を紡ぎ出す
「……なぁ、ミク」
「なんだい?」
「前にミクは、俺に言ってくれたよな。
“立ち向かえ”って。
怒りと憎悪を燃やして、復讐を胸に立ち上がれと」
「……言ったね。それが?」
靱は一度言葉を切って、再び言葉を紡ぎ出す
「ミクのおかげで……
俺は立ち上がる事が出来た。
生きていく事が出来た。
すごく……感謝してる。だがな……」
「もう、無理なんだ」
「………。
それは、どうして?」
ミクの問いかけに、靱は小さく笑う
そして言葉を続けた
「……きっと、正しかったんだろう。
俺が生きていく為には、その道しかなかった。
挫けそうな時も、憎悪に縋って生きてきた」
「復讐の為に死ねないと、
俺は確かに強くなる事が出来た。
だが………もう限界、らしい」
「初めは何かを壊せば満たされる気がした。
クソ共みたいに無闇矢鱈に人をぶん殴る気にはならなかったが……
物を壊すだけでも、満たされるような気がした。
喧嘩して殴り合えば、歪んだ感情が少しは楽になるような気がしてたんだ」
「……でもな。
きっとこのやり方は、俺には合わねぇんだ。
なぁミク……
何かを殴ると、殴った拳がこんなに痛いなんて知らなかった。
どうして教えてくれなかったんだよ…」
「………」
ミクは、黙って続きを促す
「……何よりな。
俺に復讐にもやり方があるってのを教えてくれた奴がいた。
それでまた、音楽に触れて……
そこで面白い奴等に会った」
「馬鹿みたいな連中でな。
下手くそな癖に毎日練習して、何回馬鹿にされても諦めねぇんだよ」
「心底馬鹿な奴等だと思った。
……なのに、いつの間にかソイツ等と一緒に夢を追ってみたいって思っちまってた。
友達に背を押されて、結局ソイツ等と組む事にしたんだ」
「それで俺は………もう、駄目になっちまった。
ソイツ等が大切だと思うようになったんだ」
靱は自嘲し、言葉を続ける
「…何かを壊しても、空虚なだけだ。
暴力や悪意から本当の意味で生きる力は生まれない。
ソイツ等と夢を追っていけば、不思議と解った。
俺がやってきた事は、多分間違いだってな」
「でもソイツ等とも、
まぁ色々あって喧嘩別れになっちまった。
最初は別に構わねぇって思ってたが……」
「やっぱ駄目なんだ。
何回振り切っても頭から離れねぇ。
…もう一人じゃいられねぇんだよ」
「……ふむ」
手を当てて考え込むミクに、靱は言葉を続ける
「……いつからな、頭に音が聴こえるんだ」
「……音?」
「あぁ。よく解らねぇうるさい音だ。
意味の解らねぇそれが頭を掻き乱しやがる」
「ストリートのセカイではそれのせいで、
言う気の無かった余計な事まで並べ立てて、逃げちまった」
「俺は、おかしくなっちまったらしい」
「………」
靱は、自身を嗤う
「ソイツ等と別れた腹いせに……
全然関係ねぇ奴等に八つ当たりまでした」
「ミクは全部見てたんだよな?
だったら解るだろ……酷ぇザマだ」
「アイツ等が真剣にやってるかなんて解らねぇ。
そもそも、ありゃ俺が悪いんだ」
「だがどうにも……腹が立って仕方なかった。
壊してやりたい。
そんな感情のままに、凄んで脅して、
音で無理矢理黙らせた。
あんなの、暴力と変わらねぇ」
「俺は……
あんな事をする為に音楽をしてるんじゃない。
あんな事の為に強くなったんじゃない………!
俺は……っ!」
握り締められた拳を、ミクは不安気に見詰める
「……俺は、おかしくなっちまった、完全に。
もう自分が何をしてんのかも、よく解らない。
抑えられねぇんだ。
復讐以外にも道がある事を知ったのに、
それ以外じゃもう生きていけねぇんだ」
「なぁ、ミク……
ここにずっといる訳にはいかねぇんだよな?」
「………。
あぁ、そうだね。
幸運な事に、キミの肉体はまだ生きている。
キミの意識が戻れば、精神体はこのセカイから追い出される事だろう」
ミクは、言葉を返す
続くであろう彼の言葉を、予想しながらも
「………そうか。ならミク、頼むぜ」
「俺を…………殺してくれ」
「…………」
黙り込むミクに、靱は言葉を続ける
「ミクは、俺の命を救った。
ならその逆も……きっと出来るよな?
お前は俺が知らない事を色々知ってる」
「……ふむ。
まぁ、不可能とは断言出来ないね。
しかし……」
「だったら頼む!」
ミクの言葉に、靱は言葉を重ねる
「もう嫌なんだよ!
下らない音に怯えて生きるのも、クソ以下の世界で周りの奴等に怯えて生きるのも!!
こんな生活はもう、ウンザリだ!」
「自分が自分じゃなくなるみたいだ……
最低の気分だぜ。
あんな感覚をこれから何度味わえば良い!?」
「まぁ待ちたまえよ、靱。
キミは決断を急ぎ過ぎだ。
その音というのは、キミが心を許した人間の傍では聴こえないんじゃないのかい?」
「…………」
「見る限りでは、その様だったよ。
それならそうして抑えているうちに、別の道を探せば良いじゃないか。
なぁに、生は長いのさ。
これから他に生きる導となるモノが……」
ミクは言葉を紡ぐ
しかし靱は、そんな言葉を否定する
「……駄目だ。
セカイでは、アイツ等の傍でも音が聴こえた。
アイツ等を危険な目に遭わせかねねぇ。
だからそれは……無しだ。
とはいっても一日中馬鹿みたいに楽器を弾いてる訳にもいかねぇ。
もう無理だ、手詰まりなんだよ」
「俺がおかしくなっちまって、
何もかも滅茶苦茶にする前に終わらせてくれ。
大体こんな世界で……そんなに無理をしてまで、
生きていく価値なんてねぇんだ」
「俺はあの日、死ぬべきだったんだよ」
「…………」
靱の言葉に、ミクは黙り込む
やがて沈黙を破り、ミクは言葉を紡ぐ
「なるほど、キミの意思は理解したよ。
なら……最後に確認をしておかなければね」
「キミは本当に、
心の底から死にたいと願っているのかい?
何かやり残した事は無いと?」
「……やり残した事………」
ミクの言葉に、靱は少し考え込む
しかしすぐに顔を上げ、彼は言葉を紡ぐ
「……そんなもの、ねぇよ。
大体最初から俺には何も……無かったんだ。
全部、まやかしだった……」
「もういいだろ、ミク。
俺は7年間、お前の言った通り懸命に生きた。
それで、無理だって思ったんだ。
だからいい加減……楽にしてくれよ」
「………。
……そうかい、それがキミの決断なんだね」
靱の言葉に、ミクは頷く
そして、座るように促す
「……全く、見ないうちに随分背が伸びたね。
これではキミの頭に手が届かない。
そう、そうしてくれたまえ」
ミクは手を伸ばし、掌を彼の頭へと翳す
そして、言葉を紡いだ
「それが、キミの望みならば、私は……
……叶える他は無いね。
キミが生を手放したいと願うなら、私はキミを終わらせてあげよう」
「確かにキミは、よくやってくれたよ。
ありがとう、生きてくれて。
それじゃあゆっくりと休むと良いよ。
おやすみ、靱」
翳された手から、黒い光が煌めき、大きくなっていく
黒光が全てを呑み込むような感覚に包まれて
靱はいつぶりかの、安らかな気分になっていた
「(ごめんな、ミク。無茶を言って。
だが俺は……自分じゃ死ねねぇんだ。
だからこうして貰う他はない)」
「(……温かい。
ずっと、こんな温かさを求めてたんだ)」
「(……母さん、クソ親父。
今、そっちに行くからな)」
黒い閃光が煌めく
暗闇に包まれて靱の意識は消えていき……
——俺は、氷室靱は、死んだ
という訳で、本作はこれにて完結となります。
言いたい事は色々あるかもしれませんが、これも一つの結末です。
ご理解して頂ければと思います。
では、またどこ縺九〒莨壹>縺セ縺励g縺
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ifについて。やるならどっち
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ほぼ確実にあり得ない展開
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割とあり得たかもしれない展開