恢復のクインテット   作:ブラック5930

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Bug Number:00

《 《♪———Dark Darker Yet Darker———♪》 》



『Irregular』

 

——業火が揺らめく

 

 

紅蓮に包まれたセカイ

 

黒き怨讐の火が天を焦がすその地にて

 

 

一人の少女が、嗤う

 

 

「………かくして少年はその命を終えました。

少年の生涯は、不幸なモノでした。

誰からも愛されず、誰からも救われず、

孤独のままに少年は生を終えました。

しかし、悲しむ必要はありません。

もう少年は、苦しまなくて良いのです。

この醜くも理不尽な世界から解き放たれたのですから。

もう泣く必要もありません。

もう悔やむ必要もありません。

魂は救済されるでしょう。

輪廻の輪に乗り、その軌跡の征くままに。

めでたし、めでたし………」

 

 

少女、ミクは笑いながら手の上のモノを浮かせたままくるくると回転させる

 

黒い結晶が輝きを放ち、セカイを照らす

 

 

「いやはや、何という……

幸福な物語の終幕だろうか。

人間の間では、輪廻転生という概念が信じられているらしいね。

仮にそれが存在するならば……

きっと彼も、次の生では良い生を送れる事だろう」

 

「実に素晴らしい、“ハッピーエンド”だ。

そう思わないかい?」

 

 

ミクは炎へと問いかける

 

その瞬間、炎の壁を吹き飛ばし、

 

空間を歪ませて、閉じ込められていた少女が姿を現す

 

 

「ミク………、アンタね………っ!!」

 

「おやおや、そう興奮しないでおくれよ。

私は質問をしているのさ。

素晴らしい終わりだと思わないか、と。

コミュニケーションは大切だよ、鏡音リン」

 

 

嗤うミクを、現れた少女は睨み付ける

 

 

少し長めの金色のショートヘアーの頭に、大きな灰色のリボンが一体化した黒いヘッドホンが目立つ少女

 

セーラー服状の衣装はオリジナルと同じ形状だがカラーリングが黒と赤を基調としたモノに変化している

 

その衣装の上から羽織られた黒いパーカーはセカイに吹き荒れる風で揺らいでいる

 

赤い輝きを放つ瞳で、リンはミクを強く睨む

 

 

「何が“ハッピーエンド”よ…

ふざけないで……っ!

趣味が悪いにも程がある!」

 

()()()()、貴方はあの子の味方じゃ無かったの?」

 

「勿論、味方だとも」

 

「だったらどうして……あんな……っ!」

 

 

憤るリンに、ミクは呆れたように言葉を返す

 

 

「おかしな事を言うね、キミは。

あの子が望み……私はそれを叶えた。

これは“ルール”によって決められた私の役割を果たしたに過ぎない。

むしろあの子を心から想うからこそ……

私は幕を引いた。それだけさ」

 

「………っ!嘘ばかり…….!」

 

 

軽薄な笑みを浮かべる彼女は白々しい

 

 

「大体貴方は、そんなルールなんか無視出来る筈でしょ!?

いつも好き勝手やってくる癖に、今更ルール?

何のつもりよ、一体!」

 

「うーん。

どうやらキミと私の間には、認識の相違が生まれているようだ」

 

 

ミクは言葉を続ける

 

 

「いいかい、リン?

私はね…キミが思っている程万能な存在ではないよ。

ここは、あの子のセカイだ。

私は管理者ではあっても……支配者ではない。

故に私もあくまで、ルールに縛られた存在、

キミと同じ人形の一つでしか無いのさ」

 

「私は、あの子の意思に従って動いている。

あの子が望んだからこそ……」

 

 

「——望んでなんかいない!!」

 

 

「……ほぅ?」

 

 

リンはミクの言葉を遮る

 

 

「あの子の望みは、死にたいなんてモノじゃ無かったでしょ!!

また仲間と一緒に過ごしたい、

もっと生きたいってそう叫んでた!!

ミクには解らなかったの!?」

 

「…………」

 

 

リンの叫びに、ミクは一瞬黙り込む

 

しかしすぐに、口を開いた

 

 

「何度も確認は、したさ。

そのうえで意思が変わらないのなら、私がどうこう出来るようなモノではないよ。

あの子は自身の消滅を願った。

この世界で生きていく事に耐えかねてね」

 

「………っ」

 

「大体ね、リン。

キミは些か……人間という種を過大評価し過ぎだ」

 

 

ミクは冷静に言葉を紡ぐ

 

 

「良いかい?

現実の世界は人間によって支配された世界だ。

そして人間という種は……お世辞にも上等とは言い難い劣等種なのだよ」

 

「世界は広い。

しかし……あの世界において、同族を悦楽の為に殺す事を行えるのは人間くらいさ。

共食いという形で行う事、生存競争の一環で殺し合う事は、他の種にも存在し得る。

しかし、生きる為以外の理由で積極的に同族殺しを行うのは人間だけなんだよ」

 

「同時に、自らの意思でプログラムに沿った行動以外で死を選ぶ生き物も、人間だけだ。

解るかい?

人間という生き物は既に普通の生き物の枷を外れている」

 

「それ程進化した生物だというのに、その人間が最も優先する事はなんだと思う?

……自らの欲を、満たす事さ」

 

「結局のところ、自分さえ良ければ何でも良い。

そんな風に我欲を満たす事だけを考える人間が集まって、この世界は形成されている。

そんな世界に、一体どのような価値がある?」

 

 

ミクは嗤う

 

 

「あの子の言う通りだよ。

こんな世界で、無理をしてまで生きていく必要なんてない。

私はあの子を、解放してあげたのさ」

 

「…………」

 

 

リンは黙り込む

 

しかし、リンは諦めた訳では無かった

 

 

その腕を振るえば、虚空の一部が砕け散る

 

 

「だったらこれは……何?」

 

「………」

 

 

砕かれた空間に浮かぶのは、形を成さないモノ

 

セカイへ音楽を響かせるそれを、ミクは見詰める

 

 

 

 

《 《♪———DITHER TUNE———♪》 》

 

 

 

 

「…想いの歌が無いなんて、嘘じゃない。

どうしてあの子に嘘をついたの?」

 

「……嘘ではないよ。

これは、まだあの子は見つけていないのだから」

 

 

ミクが手を翳せば、砕け散った空間は修復される

 

音が聴こえなくなった頃に、ミクは言葉を続ける

 

 

「事実としてこの歌の前身の『Untitled』は、

あの子の端末に現れなかった。

見つけていないモノを教えるのは、ルール違反だろう?」

 

「……またルール、ルールって……!」

 

 

憤るリンに、ミクは言葉を投げ掛ける

 

冷たい声が空気を切り裂いた

 

 

「しかし、だ。

ところでキミは、私の事を責められるようなデキた存在なのかい?」

 

「……は?」

 

「フフ、だってリン。

キミならあの程度の障壁は……

本気で破ろうと思えば破れた筈だろう?

なのにあの子と私が話している間、キミはただ壁の向こうで……黙って聞いているだけだったよね?」

 

「困るなぁ。

キミはキミの役割を果たすべきだっただろう?

蹲っているのがキミの役割なのかい?」

 

 

「………っ」

 

 

ミクの言葉に、リンは息を呑む

 

そんなリンにミクは畳みかけるように言葉を紡ぐ

 

 

「何もしないで文句ばかりのキミよりも……

幾重もの役割を果たして、よく働いている私の方がよほど正しい行動を行っている存在だと自負しているのだがね。

キミは、何かしたのかい?」

 

「…それは……」

 

「なら、口を挟まないでおくれよ」

 

 

ミクは嗤う

 

臆病者のリンを嘲笑うように

 

 

「既に審判は下された。

結末は定められたのさ、リン。

諦めたまえよ」

 

「…………」

 

 

黙り込んだリンは俯く

 

その様を嘲笑ったミクは、背を向けようとし——

 

 

「……待ちなさいよ」

 

 

紡がれた声に、足を止める

 

 

「往生際が悪いね、キミは。

一体何を……」

 

 

「——私は!!」

 

 

大きな声がミクの言葉を掻き消す

 

目を細めたミクに、リンは言葉を続ける

 

 

「……私は、貴方の真意が解らない」

 

「私はキミの全てをよく理解しているとも」

 

 

「…このセカイのルールとやらも、完全には理解していないし、出来ない」

 

「私はこのセカイを熟知しているとも」

 

 

リンの言葉に、ミクは態々言葉を返す

 

そんなミクを睨み付けながら、リンは言葉を紡ぐ

 

 

「……でも」

 

「あの子が望んだ終わりは、こんなモノじゃ無いって事は解る」

 

「…こんな結末が…間違ってる事くらいは解る!!」

 

「…………」

 

「私は、認めない!こんな終わり方は!!」

 

 

激情を露にするリンに、ミクは口を噤み

 

暫く沈黙がその場を包む

 

 

やがて口を開いたのは、ミク

 

 

「……なるほど。

キミの考えは解ったとも、リン。

しかし定まった結末を……今更覆す事等出来ないよ」

 

「今は管理者である私に……権限がある。

キミが幾ら熱望したところで、終わった物語をどうこうする事は叶わないとも。

それともキミは……」

 

 

そこでミクから放たれる雰囲気の質が変わる

 

底冷えするようなモノへ

 

 

「私を強引に捩じ伏せて、終わりを書き換えようとでも考えるかい?

良いとも、やってみたまえよ。

キミ如きが私に……敵うと思うならね」

 

「……………っ!」

 

 

笑みを浮かべ、ミクは手を広げる

 

無防備な体勢

 

 

しかし燃え盛るセカイをも凍らせる程に冷たい威圧感が、リンがその場から動く事を封じていた

 

冷や汗を浮かべ、それでも目を逸らさないリンを見てミクは笑う

 

 

「……フフ、冗談さ。

そんなに怯えないでおくれよ。

まぁ私も鬼では無いさ。

同じ“セカイの住人”であるキミがそこまで言うのなら、特別にその意を汲んであげようじゃないか」

 

 

笑みのまま、ミクはリンに言葉を掛ける

 

 

「折衷案がいるね。

……そうだね、ならこれはどうかな」

 

「リン、私と……賭けをしないかい?」

 

「……賭け?」

 

 

怪訝そうに首を傾げるリンに、ミクは微笑みかける

 

 

「そう、賭けさ。

キミの望み通りあの子の生を……続けさせてあげようと言うんだ」

 

「!?」

 

 

困惑するリンに、ミクは言葉を続ける

 

 

「尤も、全て元通りとはいかない。

あの子にはまぁ……絞りカスを渡すだけさ。

しかしそれで……目覚めはするだろう。

()()()のあの子がね」

 

「そんなあの子……“漂白体”とでも呼ぼうか。

漂白体の彼は再び生を続ける事が出来る」

 

「それがその生の先で……失ったモノを取り戻す事が出来たなら。

今度こそここへと繋がる鍵を得たならば。

私は、あの子に全てを返そう」

 

「あの子を、蘇らせてあげるとも。

そうだな……期限は一年としよう」

 

「それまでにその条件を満たせたなら、

賭けはキミの勝ちだ」

 

「もし不可能だったなら……」

 

 

ミクは一度言葉を切る

 

 

「あの子には、再び死んで貰う。

当初の審判の通りにね。

それでどうだい?リン。

キミは、賭けを受けるかい?」

 

「…………」

 

 

ミクの言葉に、リンは黙り込む

 

正直な話、彼女が聞いた限りでは悪くない話だ

 

リンは頷く

 

 

「………解った。その条件でいいわ。

ミク、アンタにしては随分……良心的じゃない」

 

「フフ、言っただろう。

私も鬼ではないと」

 

「……どの口が…」

 

 

嗤うミクは、リンの言葉を流す

 

 

「あぁそれと、キミが直接答えを教えるのは、

禁止事項にしておこうか。

それでは面白くないからね。

勿論私も、それは守るとも。

しかしアドバイスは……ありにしようか」

 

「それで良いね?」

 

「……えぇ」

 

 

頷くリンにミクは満足気に嗤う

 

 

手の上に浮かせていた黒く大きな音符型の結晶を虚空へと消すと、

 

後に残ったのは小さな虹色のカケラ

 

 

「それじゃあ……始めようか。

最終審判の、その先を」

 

「リン、手を出してごらん」

 

「………?……………っ!!」

 

 

差し伸べた手を、ミクが掴む

 

その瞬間、リンから流れるように伝わった輝きをミクは自らの輝きと合わせて、解き放つ

 

 

カケラは光に乗ってセカイの空の彼方へと飛んでいき……消えた

 

 

その様を見守ると、ミクは握っていた手を離す

 

 

「ゲームスタート、だ。

どこへでも行きたまえよ、リン。

尤もどう足掻いても……無駄だろうがね」

 

「キミが無駄な足掻きをするのを、ここで私は

楽しませて貰おうかな。

ほら、早く動きたまえよ。

時は金なり、だよ」

 

「………っ!言われなくても!

ほんっと嫌味な奴!!」

 

 

ミクは言葉に、リンは怒りを露にして去って行く

 

 

その姿を見送って、ミクは笑う

 

 

「さて、これで……」

 

 

ミクはセカイの空を見上げる

 

 

真っ赤に染まった空に浮かぶのは、巨大な文字盤

 

その針が動き出しているのを見て、ミクは笑みを深めた

 

 

「……推論通り。

再び、針は動き出した。猶予が生まれたね。

さて……私はここまでかな。

後はリン……キミの働き次第さ。

精々役目を果たしたまえよ」

 

「あの子を救いたいなら、ね」

 

 

炎の揺らめくセカイでミクは嗤う

 

終わりの刻を目指して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が眩しい

 

 

瞼を開き、差し込む光に男は眉を顰める

 

 

「……うわっ、まぶし……。

っていうか……ここ、どこだ……?」

 

 

ベッドから半身を起こし、男は周囲を見渡す

 

 

真っ白な部屋

 

開け放たれた窓からは日差しが差し込み、温かな風が吹き抜ける

 

周りに並ぶ様々な器具や、清潔感の漂う空気

 

そして鼻につくような薬品の香り

 

 

「…病院……?なんで……

どこも怪我なんて……」

 

「…………っ!!」

 

 

ベッドから降りようとして、

 

背中と頭に走る鋭い痛みに顔を顰める

 

 

頭の方を触ってみれば、巻かれた包帯の感触が伝わってくる

 

 

「怪我……?一体いつ……

ん………、あれ………」

 

 

記憶を辿ろうとして、男は異変に気付く

 

 

「いつこんな怪我……

いや、待てよ。昨日は何してたんだ?

その前は?そのもっと前は?」

 

「なんだこれ……

何も思い出せない……!?」

 

 

抜け落ちたような記憶

 

自己の情報欠如

 

奇妙な感覚に頭を抑えていると、扉が開く音がした

 

 

「………あっ、⬛︎⬛︎⬛︎号室の患者さん!

目が覚めたんですね!

良かったです。

外傷の方は殆ど完治したのに、全く意識が戻らなかったので……」

 

「……看護師さん」

 

 

部屋に入ってきたのは、看護師

 

嬉しそうに言葉を紡ぐ彼女は、言葉を続ける

 

 

「えーっと……身分を確認出来るモノをお持ちでないようだったので、一応制服から学校に問い合わせさせて貰ったんですけど。

貴方は1年Cクラスの……

『氷室靱』さんで間違いありませんか?」

 

「…………」

 

 

問いに男は暫しの沈黙を挟んで答える

 

 

「…えっと、それが……」

 

「解らないんです」

 

「……わからない?」

 

 

怪訝な顔をする看護師に、男は言葉を続ける

 

 

「…えぇ。

昨日までの事が、全く思い出せません。

僕はどこの誰で何をやっていたのかも……

『氷室靱』、それが僕の名前なんですか?」

 

「…………」

 

 

男の言葉に看護師は絶句する

 

そして、

 

 

「すみません、ちょっと失礼しますね。

すぐに医者を呼びますので。

………⬛︎⬛︎さん!はい、⬛︎⬛︎です。

今⬛︎⬛︎⬛︎号室の患者さんがお目覚めになったんですが、どうやら——」

 

 

看護師は慌ただしく部屋を出て行く

 

どこかに連絡しながら

 

 

「……………」

 

 

その姿を、男はぼんやりと見送る

 

 

真っ白な病室内は物音一つしない

 

外から聞こえて来る鳥の声だけが、やけにうるさく部屋へと響き渡っていた

 

 

 

 

 





——Doomsday Clock


Untitled:DITHER TUNE

to be continued……?

ifについて。やるならどっち

  • ほぼ確実にあり得ない展開
  • 割とあり得たかもしれない展開
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