恢復のクインテット   作:ブラック5930

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タイトルやタグ等に変化がありますがご安心下さい。
仕様です。


♪——復活の呪文を



第1話「ゼロ」

 

白い病室

 

 

「「———靱!!」」

 

 

「………っ!?」

 

 

勢いよく開け放たれたドアに、靱は身を震わせる

 

 

入ってきたのは、四人の少年少女

 

 

「おい靱、お前大丈夫なのかよ!?

起きてて平気なのか?怪我は?」

 

「刺されたって本当なの!?

それに——」

 

 

「え……。

えーっ、と……」

 

 

詰め寄る二人に、困惑する靱

 

そんな二人をそれぞれの相棒が引き剥がす

 

 

「杏ちゃん、怪我人だから……」

 

「……彰人。少し落ち着け。

そんな風に詰め寄っても困るだけだろう」

 

 

二人が多少離れたタイミングで、靱は口を開く

 

何となく察したような表情をしながら

 

 

「あー……多分、その…

僕の知り合い?なんですよね……

すみません。

今、前の事が全く思い出せない状態でして…」

 

「記憶喪失、っていう病気?みたいなヤツらしいです。

原因は、よく解らないんですが」

 

 

申し訳なさそうに言葉を紡ぐ靱に、四人は息を呑む

 

 

「それじゃ……本当に……」

 

 

彰人は絶望的な表情を浮かべる

 

 

 

 

 

 

時は、数刻前

 

 

「……は?記憶喪失………!?」

 

 

入院している氷室靱との面会を希望した四人

 

彰人、冬弥、杏、こはねは職員の言葉に驚愕の表情を浮かべていた

 

 

「ええ。

外傷の方は、既にほぼ完治しています。

しかし……恐らくは心因性と思われますが、

氷室靱さんは解離性健忘を患っています。

平たく言えば記憶喪失ですね」

 

「元々精神疾患を患っていたのもあり、

刺傷事件での爆発的なストレスが原因かと思われます」

 

「しかし不思議な事に……日常生活を送る分には

殆ど問題がない状態なんです。

一般常識の類や、知識の類に欠如は見られません。

ただ、ご自分に関する事だけが全く思い出せない。

そういった状況です」

 

 

「そんな……」

 

「自分のことだけ……うーん……」

 

 

少年少女達は大いに悩み

 

結局、病室を訪れる事を決めた

 

そして、今に至る

 

 

 

 

 

 

「えっと……すみません、

貴方達は……?」

 

 

「…………。

……あっ、ごめん。

そうだよね、覚えてないんだもんね。

それじゃあまずは自己紹介から!」

 

 

杏は、努めて明るく声を出す

 

 

「私は、白石杏!

それでこっちが……」

 

「小豆沢こはねです。

よろしくね、氷室くん」

 

 

杏に指し示され、こはねも口を開く

 

それに頭を下げ返す彼を見て

 

こはねは複雑そうな表情を浮かべた

 

 

「それであっちは……」

 

「…………」

 

「………彰人。まったく…」

 

「…俺は、青柳冬弥だ。

こっちが……東雲彰人という」

 

 

黙り込んだままの彰人に溜息を吐き、

 

冬弥は二人分の自己紹介を済ませる

 

 

「……白石さんに、小豆沢さんに、

青柳さんに、東雲さん……ですね。

ありがとうございます。

ご存知のようですが、僕は氷室靱……という名前らしいです」

 

「正直全く覚えていないので実感が湧かないんですけど……

あ、あと皆さんは……

記憶を失う前の僕とどのような関係でしたか?」

 

 

「え!?

あー……、えっと……」

 

 

靱の質問に、杏は焦る

 

かなり答えにくい質問だったからだ

 

 

「えーっと…………、そう!

私達は……その、友達!みたいな……

感じだった……はず。ねっ、こはね?」

 

「えっ!?

う、うん……そうだね……?」

 

 

しどろもどろな調子で紡がれた言葉をそのまま投げて来る相棒にこはねは驚き、

 

取り敢えずは同調する

 

まさかあった事をそのまま言う訳にもいかない

 

 

そんな二人に靱は一瞬怪訝な顔をしつつも

 

 

「……友達、ですか。

それは本当に……すみません。

どうしても思い出せなくて……」

 

「ううん。

記憶喪失なら仕方ないよ……」

 

 

申し訳なさそうに紡がれた言葉に、こはねが返す

 

 

「えっと……それで、そちらのお二人は……?」

 

「……………」

 

「……はぁ」

 

 

靱の問いかけに、未だ彰人は無言

 

諦めたように冬弥は言葉を返す

 

 

「俺達は靱とは……そうだな。

同じチームで、ライブハウスなどのイベントに出るような仲だった。

ビビットストリートという場所で活動していたんだが……

なにか覚えていないか?」

 

「ビビットストリート……

……いえ、全く。

でも同じチームという事は……

僕が倒れていた間、迷惑をかけていたんじゃ。

何とお詫びしたらいいか…」

 

「……ああ、それなら心配はいらない」

 

「少し前に靱は俺達のチームを抜けていたからな」

 

「チームを抜けて……そうでしたか」

 

 

靱は手を当てて考え込む

 

 

そんな彼に、彰人が近付いた

 

 

「……なあ靱。

今から言うこと、なんか聞いたことあるなって

思ったら言ってくれ」

 

「え……あ、はい」

 

「“音響トラブル”、“神山通り”、“ZERO”、

“RAD WEEKEND”、“伝説”、“BAD DOGS”……」

 

「……どうだ?なにかないか?」

 

「………………」

 

 

彰人の言葉に、靱は真剣な表情で考える

 

 

しかし、その脳裏に存在するのは空白のみ

 

引っ掛かりすら覚えない感覚に、靱は表情を曇らせる

 

 

「……いえ、どれも……

引っ掛かりも特に…

すみません」

 

「………っ!!」

 

「ちょ、彰人!?」

 

 

言葉を返す靱の

 

胸倉を勢いよく掴み、彰人は言葉を続ける

 

 

「…本当に、忘れちまったのか!?」

 

「なにもかも覚えてないってのかよ!!

どういうことだ、靱!」

 

「オレ達の誓いはどうなる!

あの言葉は、嘘だったのか!?答えろよっ!!」

 

「…………っ」

 

 

揺さぶられ、言葉を浴びせられ、

 

靱はただ困惑するばかり

 

 

「…やめろ、彰人!

靱を責めても意味がないだろう!」

 

「………っ!

……くそ…………っ!!」

 

「東雲くん!!」

 

 

冬弥に引き剥がされて、彰人はそのまま走り去り病室を出て行く

 

こはねが呼びかけるが、彼は振り返らない

 

 

「……彰人!

どこへいく……!?」

 

 

彼の後を追い、冬弥も病室を後にする

 

 

騒がしく出て行った二人を見送って、杏は頭を掻きながら口を開く

 

 

「あー……、その、連れがごめん。

…あいつらも根は悪いヤツらじゃないから……」

 

「……えぇ、解っています。

恐らく僕が悪いって事も」

 

 

靱は静かに言葉を返し、そのまま続ける

 

 

「お二人は、僕の事を知っているんですよね。

記憶を失う前の僕の事を。

もし良ければ……教えて頂けませんか?

僕はどのような……人間だったのか」

 

「お願いします。白石さん、小豆沢さん」

 

「あ、うん……それは構わないけど…」

 

 

真剣な面持ちで言葉を紡ぐ彼に、杏は言葉を返す

 

複雑な表情で

 

 

「(…白石さん……か。

うーん、この顔でこの言葉使い……

記憶喪失だから当たり前なんだけど、なんかすごく

慣れないっていうか……

しっくり来ないっていうか……)」

 

 

曖昧な面持ちでふと相棒の方を向くと

 

どうやら彼女も同じ事を考えていたらしく

 

二人は顔を見合わせて苦笑した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、彰人……!」

 

「……ハァ、ハァ………冬弥か」

 

 

院内、廊下

 

人気のない廊下を駆け抜けて、少し開けた場所で

 

荒い息を吐く彰人に、追い付いた冬弥が声を掛ける

 

 

「……戻ろう、彰人。

あんな風に掴みかかるのは良くない。

謝りに戻らなければ」

 

「………!冬弥……

なんでお前はそんなに冷静でいられるんだよ…!」

 

 

彰人は苛立ちを含ませた声を放ち、振り返る

 

 

「あいつのあのザマを見たか?

あいつは全部、忘れちまったんだぞ!?

『RAD WEEKEND』も、“BAD DOGS”も!!」

 

「オレ達の約束も、全部だ!

あいつはなんも覚えちゃいねえ!!」

 

「……ふざけんなよ!

だったらオレ達のやってきた日々は……

なんだったんだ!

全部なくなっちまったのか!?」

 

 

彰人は拳を握る

 

やり切れない激情を爆発させて

 

対する冬弥は無言でそれを聞いている

 

 

そんな相棒に、彰人は余計に感情を燃やす

 

 

「……歩む場所は違っても、一緒にやらなくなったとしても、道は同じだと思ってた。

あいつはあいつで、“復讐”って言いながらも…

あいつの音楽を貫いて、やっていくんだって……」

 

「だからいつか……

オレ達の歌をぶつけて、認めさせようと思ってた。

あの時みたいにまたぶつかって、一緒にやろうって思わせればいいって!

だけど……」

 

「忘れちまったら、意味ねえじゃねえか!!

もう二度とオレ達は戻れねえ!

もう二度と……」

 

 

握った拳の力が強まる

 

激情は、遠い記憶を想起させる

 

 

 

 

『——諦めんな!!

気張れや彰人!冬弥もだ!

……いや、冬弥はもう解ってるみてぇだな。

おい彰人…ボーっとしてんじゃねぇ!!』

 

『テメェの相棒を見てみろ!

まだやれるって顔してんだろうが!

俺は当然、まだいける。

音が無くなったからどうした!?

照明が消えたから何だってんだよ!!』

 

『どうせ下らねぇ連中の妨害だ。

だがな、こんなもんは全部無駄だ!

俺達の歌で、吹き飛ばしてやれば良い!』

 

『後はテメェだけだ、彰人。

踏ん張りどころだろうが。

俺達のファーストステージを、失敗で終わらせて良いのかよ!?』

 

『行くぞ、

“BAD DOGS”の歌を見せつけてやる!!』

 

 

 

 

浮かぶのは、組んで初めて三人でやったイベントの記憶

 

そして、更に先の記憶

 

 

 

 

『……今日のは本当に、ただのトラブルだったみてぇだな。

あのカス共、ロクに整備も出来ねぇのか。

しかしまぁ……』

 

『テメェも中々言うようになったじゃねぇか。

最初とは大違いだ、良い啖呵だったぜ。

彰人……テメェはやっぱりやるな。

その根性は……きっと良い武器になる』

 

 

 

 

『——あぁ?……あー、そうか。

まだテメェ等には言ってなかったな』

 

『俺が目指してんのは、“RAD WEEKEND”だが

正確には少し違う』

 

『あのイベントは確かにすげぇ。

この辺りじゃ間違いなく頂点に君臨する。

……だがな、世界は広いんだ』

 

『あれよりも上の……もっとやべぇ“伝説”を

超える為に俺は歌う事にしたんだ。

……おい、何笑ってんだよ。嘘じゃねぇぞ』

 

『…高い壁だ。正直、高過ぎるくらいにはな。

だからまずは……こっちでトップを目指す。

“RAD WEEKEND”、あれくらい凄いイベントなら

相手にとって不足は無しだ』

 

『……だが、多分な。俺じゃ届かねぇ。

限界まで才能を引き出しても、“伝説”どころか、

あのイベントにも全く届かねぇ。

正直、無理だと思った』

 

『だが……俺一人では無理でも……

テメェ等となら、いけるかもしれねぇって思った。

テメェ等にはすげぇ力がある。

センスだとか、そういうのとは違うモノがな』

 

『俺達三人なら……きっと超えられる。

“RAD WEEKEND”も“伝説”も。

だからあれだ……仮にあのイベントを超えたとしても……』

 

『そこで終わりって事にはしないでくれよ。

その先の“伝説”をぶっ倒すまで……

…テメェ等も付き合ってくれ』

 

 

 

 

「………っ!

もう二度と、一緒にやれねえってことだろ!!」

 

 

彰人は激情のままに叫ぶ

 

感情を露にする彼に、冬弥は目を細める

 

 

そんな彼に、彰人は言葉を投げ掛ける

 

 

「………冬弥、お前は……

悔しくねえのかよ……っ!!」

 

「あいつは全部、忘れちまったんだぞ!!

記憶喪失だかなんだか知らねえが、全部!!」

 

 

「……それは…」

 

 

呼びかけられて、冬弥も内に秘めた感情が燃え上がる

 

しかしそれは溢れ出すようなものではなく、

 

静かな激情だった

 

 

彼もまた、記憶を巡らせる

 

 

 

 

『——何やってんだ、テメェ。

毎日毎日すげぇ練習してるが……

テメェ、やり方解ってやってんのか?』

 

『無茶なやり方で一日中やっても、身体壊して終わりだろ。テメェは変なとこで馬鹿だな。

…別に練習時間を減らせとは言ってねぇよ。

ただ、もっと上手いやり方があるってだけだ。

同じ時間でも、効率が全く違ぇからな』

 

『ほら、メニュー見せてみろ。

……あァ?なんだこれ……馬鹿じゃねぇのか…

………はぁ。

仕方ねぇな……ここはこうして…』

 

 

 

 

『よぅ、冬弥。

今日のイベント見てたぞ。

良い出来だな、中々乗れるステージだった。

これなら来週末のイベントは……

俺達3人でもそこそこ合うんじゃねぇか?』

 

『あぁでも、あの……“♪——————-”ってとこ。

おぅ、そこだ。

あそこちょっと力み過ぎじゃねぇか?

気合い入るのは解るが、あそこがダレるとその後のサビが映えねぇ。

彰人は特にあそこが目立つな。

アイツは要領は良いし、ガッツもある。

全力でやりゃすぐに直る筈だ。

あの馬鹿に言っといてくれ』

 

『……ん?何で俺が言わないかって?

……あー、察しろ……とは言えねぇか。

この真面目馬鹿め……』

 

『まぁ……そうだな……

…柄じゃねぇんだよ。そういうのは。

俺が言うより、相棒のテメェが言う方がアイツも素直に聞けるだろうしな』

 

 

 

 

想起した記憶に、感情が燃え盛る

 

静かに燃えるそれを、冬弥は言葉に乗せる

 

 

「………悔しいさ。

俺も、お前と同じ気持ちだ」

 

「だったらどうして……っ!!」

 

 

激情をぶつける彰人を

 

 

「………彰人!!」

 

「………っ!?」

 

 

それ以上の激情が押し留める

 

一喝され、怯んだ彼へ冬弥は静かに言葉を続ける

 

 

「だからこそ……

そんな風に考えている場合ではないだろう。

嘆いても……靱がなにかを思い出すわけじゃない」

 

「俺達がするべきことは、そんなことじゃないはずだ」

 

「…………」

 

 

冬弥は真っ直ぐに彰人を見詰め、言葉を紡ぐ

 

 

「俺達の誓いも、共に抱いた想いも、

その全てを忘れ去られてしまったのは悔しい。

憤りを感じる。だが……」

 

「“二度と一緒にやれない”……

……それは違うだろう、彰人」

 

「……なんだと」

 

 

冬弥の言葉は冷静だが、平坦ではない

 

内に秘められた想いは確かに燃えていた

 

 

「あまり詳しくは知らないが……

記憶喪失というものは、治らない病気ではない。

この先靱が記憶を取り戻すことができないとはまだ言い切れない」

 

「こんなに早く諦めるのは俺達らしくない…

そう思わないか?」

 

「…………」

 

 

彰人は沈黙を返す

 

考え込む彼に、冬弥は言葉を続ける

 

 

「一般常識の類、生活習慣の類に異常はない。

調べた限り、そんな例は極めて稀らしい。

本来記憶喪失というものは、本当に全てを忘れてしまうものらしいからな」

 

「特定期間の記憶が抜け落ちるタイプだとしても

どうにも……変だという話だっただろう。

時間はかかるかもしれないが……希望を捨てるにはまだ早いと俺は思う」

 

「…俺はそんなに簡単に、諦めたくない。

俺が離れて行った時も…彰人、お前は諦めなかった。

こんな俺に……もう一度一緒にやろうと

手を差し伸べてくれた。

あいつには……違うのか?」

 

「………!」

 

 

彰人は目を見開く

 

頭を殴られたような衝撃に暫し呆然とし

 

やがてゆっくりと口を開いた

 

 

「………そうだな。

ここでなにもかも終わりだってヤケになって…

自分の想いから目を背けてたら…

あの時と変わらねえ」

 

「本当はセカイから帰ったあの日に……

無理矢理でも追っかけて、あいつと話をするべきだった。

話を聞いてくれないだろうなんて、オレの勝手な思い込みだ。

まあ……今後悔しても意味がねえ。

だったら……」

 

「あいつの記憶が戻った時に、今度は

思いっきりぶつかってやればいい……そうだよな。

その為に、今は下向いてる場合じゃねえ」

 

「……記憶喪失がなんだ。

そんなもん、思い出させてやればいい。

オレ達で!!

……そうだろ?冬弥!」

 

 

「……ふっ。

そうだな……それでこそ……」

 

「……俺の、相棒だ」

 

 

二人は拳をぶつける

 

笑みを交わし、彼等は想いを固め……

 

 

「……とりあえず、戻るか」

 

「ああ。

俺も一緒に謝る。だから彰人も…」

 

「……おい、なんで冬弥が謝るんだよ。

悪いのはオレ1人で…」

 

「そういうわけにはいかない。

お前を止められなかった俺にも、責任はある」

 

「……あー、ったく。お前は……」

 

 

病室に戻る為、二人は歩みを進める

 

言葉を交わす彼等の表情は

 

ここへ来た時よりもずっと、晴れやかだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…えーっと……」

 

「「…………」」

 

 

「その、本当に大丈夫なので。

頭を上げて下さい」

 

「ほら、ふたりとも。

かえって困らせてどーすんの」

 

 

困惑気味の靱と、半笑いの杏の声に、

 

彰人と冬弥は下げていた頭を上げる

 

 

再び、病室

 

 

二人の謝罪を受けた靱は、言葉を紡ぐ

 

 

「悪いのは、勝手に事件に巻き込まれて、

勝手に記憶を失くした僕なんで……

白石さん達から聞いたんですが、その……」

 

「記憶を失う前の僕は随分こう……

自分勝手というか、乱暴というか……

何というかかなりとんでもない奴だったようなので」

 

「お二人にはいつも迷惑をかけていたんじゃないかと思いまして。

本当に……すみません。

青柳さん、東雲さん」

 

 

「…………」

 

「……いや、それは…大丈夫だ」

 

 

靱の言葉に、微妙な表情を浮かべる二人

 

やがて、沈黙を破って彰人が口を開く

 

 

「靱、聞きたいんだが……」

 

「お前は記憶を失う前の自分のことを聞いて……

それでも、記憶を取り戻したいと思うのか?」

 

「え……うーん……」

 

 

彰人の言葉を受けて、靱は思考を巡らせる

 

 

「……まぁ、そうですね。

自分の事ですし、どんな人間であったとしても、

思い出したいとは思います。

今の僕は……きっと色々な人の期待を…

裏切ってしまうような人間でしかないので」

 

「早く記憶を取り戻して、皆さんに貰ってきたモノを返したい。

そう思っています」

 

「…………。

そうか、だったら……」

 

 

靱の言葉を受けて、彰人は言葉を続ける

 

 

「オレ達にもそれ、手伝わせてくれよ。

お前のことは……まあ色々知ってるし。

どんな場所が記憶を取り戻す為のヒントになるかってのも多分ある程度はわかる」

 

「役に立つかはわからねえが、やらせてくれ。

お前の力になりてえんだ」

 

 

「…………!東雲さん……

あ、ありがとうございます。

本当なら、すごく心強いです」

 

 

彰人の言葉に、靱は表情を明るくする

 

 

「なーんだ、彰人達もそう決めたんだ。

私達もさっき話してて、彰人達にも帰ったら言おうと思ってたんだ」

 

「忘れられたままってのはやっぱり寂しいしね!」

 

「……お前らもか」

 

 

杏の言葉に、彰人が返す

 

 

そんな中靱の声が、申し訳なさそうに響く

 

 

「皆さんに…手伝って頂けるのはありがたいんですが、

今の僕は何もお返しする事が出来ません。

本当に………良いんですか?」

 

 

そんな声に

 

 

「当たり前だよ!

別に見返りなんて求めてないから!」

 

「うん、そうだよ……!

氷室くんが困ってて……私が力になりたいと思ったから言ったの。

お返しなんていらないよ」

 

「……ああ。お前には散々迷惑かけられたが、

色々世話にもなった。

だからまあ……今はオレ達を頼れよ。

必ず何とかしてやる」

 

「安心してくれ、靱。

俺達は……お前を助けたいと、そう思っている」

 

 

四人は力強く答えを返す

 

 

「…………っ!

ありがとう……ございます……皆さん」

 

 

温かな言葉に靱は感極まった様子で言葉を返す

 

 

暫く沈黙に包まれた場で、

 

ふと思い出したように彰人が声を上げた

 

 

「……ああ、そうだ。

靱、一つだけ条件がある」

 

「ちょ……東雲くん!?」

 

「えっと……はい。

何でしょう?」

 

 

こはねの声を流し、彼は言葉を続ける

 

 

「お前のその呼び方……何とかしろ。

東雲さんとか青柳さんとか……

正直すっげー違和感あるんだよ」

 

「あ、それはちょっと思った」

 

「まあ、それは……」

 

 

「……呼び方、ですか?」

 

 

思わず同意する杏とこはねに、首を傾げる靱

 

 

「……たしかに、言われてみれば……

元々靱は名前で呼んでいたからな。

名字で呼ばれるのは少し慣れない感覚がする」

 

「……そうですか」

 

 

靱は間を置いて、再び口を開く

 

 

「それじゃあ……

彰人さん…、冬弥さん…….

あっ……すみません。

どうにも……」

 

 

慣れない

 

そんな調子の彼に、冬弥は小さく笑う

 

 

「……いや、十分だ。

今は、これで。

彰人もそれでいいだろう?」

 

「……まあ、な」

 

 

二人は頷く

 

しんみりとした空気を、声が切り裂く

 

 

「……ふーん。

ねえ、どうせならさ。

私達のことも名前で呼んでよ。

やっぱり他人行儀な感じがするじゃん?」

 

「…はあ?

お前らは元から名字呼びだっただろうが。

なにどさくさに紛れて…」

 

「別にいいでしょ?それくらい。

嫌なの?」

 

「…嫌ってワケじゃねえが……」

 

「ま、まあまあ。ふたりともそのへんで…」

 

 

杏と彰人が言い争い、こはねが止める

 

 

そんな光景に苦笑する靱に、冬弥が思い出したように声を掛ける

 

 

「……そういえば、靱。

日常生活を送る分にはもう問題ないと、医者が言っていた。

外傷も殆ど完治していると」

 

「……そう、みたいですね」

 

「前に聞いたんだが……たしか靱は一人暮らしだと

そう言っていた。

退院できるのなら、早いうちに戻ったほうがいいんじゃないか。

病院のベッドの上では、気も休まらないだろう」

 

「あぁ……それなんですけど……」

 

 

靱は言葉を濁し、

 

再び口を開いた

 

 

「それが……その……

退院は出来るんですけど、肝心の……

住所っていうか。

要はどこに住んでたのかが……思い出せなくて」

 

「…………」

 

 

冬弥は無言

 

会話を聞いていた三人も目を丸くし

 

数瞬後

 

 

「「「ええーーーっ!?」」」

 

 

重なる声が、病室に響き渡った

 

 

 

 

 





この演出がやりたかった(


という訳で長いプロローグパートを終え、ここからが本当のスタートとなります。

本作はビビバスルートに見せかけた、全ユニルートとなっています。

アニメ等ならここでOPが入りますね。


本作は前作同様に、一つの曲をイメージ元に作られています。

本作の場合は先に公開出来るので出しておきます


『FIRE SCREAM』


それが本作のイメージ元であり、メインテーマです。

フル版を聴いて頂ければ何となく想像は付くかなーと思ってます、はい。


キャラ設定等も追加されているので、見てみると少しは面白いかもしれません。

この先に続く物語がどのようなものになるのか。

その結末は、まだ誰にも解りません

ifについて。やるならどっち

  • ほぼ確実にあり得ない展開
  • 割とあり得たかもしれない展開
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