割とあり得たif展開
『Vivids』ルート版“独奏のフェイルア”一話です
照明が煌めく
ステージの上を照らし出すライトは眩く
その上で歌うミュージシャン達もまた、輝かしい
重ねた歌が響き渡れば、
広い会場を震わして歓声が湧き上がる
一体感
歌い手も観衆も一つになるような熱き調和
醒めぬ熱狂がフロアを湧かせ、空気を燃え上がらせる
ライブハウスの並ぶこの通りでは、
今日も夢が踊っていた
「今日のイベントもすごかったな!
見たか、あのパフォーマンス!!」
「ああ!
古株もそうだが、新人の勢いもすごいな。
今の世代は当たり揃いだ」
「なあ、今日やってたの……
“BAD DOGS”だっけ?
あのふたり、すごいレベルじゃないか?」
「あ〜、BAD DOGSか。
あいつらはすごいよな。
この辺の若手じゃ一番勢いにノってるとこだ」
観客達の会話はイベントやミュージシャンについてのもの
音楽を愛する者の多いこの通りでは、こういった談義は頻繁に行われている
幅広い層のミュージシャンが集うこの場所では毎度盛り上がる話題が一つがある
それはどこが一番か、という話題
「BAD DOGSとやり合える若手のヤツらはほとんどいないからな。
実力も気迫も頭一つ抜けてるよ、あいつらは。
あれでまだ高校生だっていうんだから信じられないよな」
「ほーう、やっぱすげえんだ」
「おいおい、BAD DOGSに負けない若手ならちゃんといるだろ。
“Vivids”はどうだ?
確か同じくらいの年だったろ?」
「Vivids?
…まああいつらとマトモにやり合ってんのはあそこくらいだもんな」
「ただあいつらはなぁ……
ほら、安定感に欠けるんだよな。
すげえパフォーマンスやる時はほんとにすげえんだが…
あんな調子だから…」
「はは、この間も……なぁ。
いつもちゃんと息が合ってりゃ最高に熱い組み合わせなんだけどな」
「なにせ1人はあの謙さんの娘で……
もう1人は———」
・
・
とある裏通り、“ビビットストリート”
その中程に位置する知る人ぞ知る店
ライブカフェ&バー『WEEKEND GARAGE』
とあるイベント名の一部を冠したその店には
音楽好きの人間が歌えるように店内にライブスペースが存在し、夕方〜夜のバー営業時間は多くの客で賑わっている
「杏ちゃーん!注文頼むよ!」
「はーい、ただいまー!」
賑わう店内で、接客の手伝いを行い駆け回る少女
名を“白石 杏”
WEEKEND GARAGE店主の一人娘であり、ビビットストリートで活動するミュージシャンの一人
慌ただしく注文を受けて回る杏に常連の一人が笑い掛ける
「聞いたぞ、杏ちゃん。
来月に“BAD DOGS”とやり合うんだって?
今まではずっと良い勝負だし、いよいよ次でケリがつくかもってウワサになってたぞ」
「へー!そんな話になってるんだ。
別にそんなつもりはなかったけど……
でもたしかにそろそろハッキリさせたいかも。
『RAD WEEKEND』を超えるのは私達だって!」
「ハハ、相変わらずだな!
しかし娘さんに背中を追って貰えるなんて、
謙さんは幸せ者だなあ」
「杏ちゃん!こっちもいいかい?」
「あ、はーい!」
笑い返した杏は、別の客に呼ばれて再び駆ける
そんな様子をカウンター席で金属のグラスを傾けながらボンヤリと眺める少年が一人
「…今日は一段と騒がしいんですね」
「おう。
最近はこの辺りも中々熱に浮かされてきている。
大方、それに当てられたってとこだろ。
ここに古株の常連以外が来るなんて最近までは滅多にないことだったしな」
「へぇ。ソイツは結構な事じゃないですか」
少年は男性と、
この店の店主“白石 謙”と会話する
再び少年がグラスを傾けた頃、若干疲れの見える少女に声を掛けられて、驚いた少年の肩が震える
「ちょっと靱!
今すっごく忙しいんだけど!
のんびり見てるなら、手伝ってくれない!?」
「……はァ?何言ってんだお前…
なんで俺がそんな事を……」
「いいから!
ほら、早くしてよ」
「ちょっ……お前な……!
……謙さん、何とかして下さいよ!
アンタの娘でしょう?」
今は相当に忙しい時間帯だ
強引に接客を手伝わせようとする杏に、少年
“氷室 靱”は謙に助けを求める
しかしそんな言葉に、謙は笑って応える
「ちょうど手が足りなくて困ってたとこだ。
よければまた手伝ってくれないか?」
「……俺、客なんですけど……。
大体謙さんさっきまで呑気に俺と——」
「はいはい。
いいからこっち来てよ。
あ、あっちのお客さんの注文お願いね!」
「待てよ、俺はやるなんて……。
おい杏!
……野郎……。クッソ、嵌められた……!」
言うだけ言ってさっさと別の客の元へ駆けていく彼女に、靱は顔を顰める
最後に別の客の対応をする謙の方を振り返り、
やがて諦めたように息を吐いて靱は歩みを進める
「お?ちょっと見ないうちにここの店員はずいぶんとデカくなったんだなあ」
「はは、ウワサの『ZERO』も相棒の前じゃ形なしってヤツか?
相変わらず尻に敷かれてるみたいじゃないか」
「うるせぇぞテメェ等……!
呼び付けて無駄口叩いてる暇あるならさっさと注文を言いやがれ」
「おいおい、それが客に対する態度か?
接客のやり方がわかってないみたいだな。
まずは……笑顔が大事だぞ。
ほら、笑って」
「笑えるかっ!!
大体俺は店員じゃなくて客だっての!」
常連客にからかわれながら注文を取って靱は苛立った様子のまま足早に去っていく
そんな背中を苦笑混じりに笑う客
どれくらい時間が過ぎたのか
実際には大した時間では無いのだが
珍しく客足の多い日のピーク時はそれなりに堪える
「ハァ…………」
「ハハ、お疲れさん。助かったぞ」
「…恨みますよ、謙さん。
俺はバイトでも何でも無いんですから」
店内もすっかり落ち着いて
カウンター席に突っ伏す靱に謙が声を掛ければ
靱は不機嫌そうに彼を睨む
「悪い悪い。まあ、そう拗ねるな。
これはオレの奢りだ」
「…………。
調子いいですね、ホント」
置かれたグラスを暫く見つめて
一気に飲み干して靱は不満を呑み込む
そんな彼に近付く人影が一つ
「お疲れ、靱。
一番忙しい時間は何とかなったしもう大丈夫だよ」
「おう、そうか。
こっちは客なのに訳解らんくらい疲れるわで散々だがな。
無賃労働だぞこりゃ」
「そんな怒んないでよ。
ごめんって」
「ふん。次は絶対手伝わねぇからな……!」
不機嫌そうに顔を背ける靱
そんな彼等のやり取りに、謙は思わず小さく笑う
「ハハ。お前ら、
そのやり取り今月だけでももう5回目だけどな」
「…謙さん?」
「ちょっと父さん!」
二人に睨まれて謙は肩を竦める
しかしそこで、盛り上がる店内ライブスペースからカウンター席へ声が掛けられる
「おーい!
折角だし、杏ちゃん達も歌わないか?」
「こっちもちょうどノってきたところだ。
確か来月はデカいイベントに出るんだろ?
ここらで本場の“Vivids”のパフォーマンスを見せてくれよ!」
「へえ、そう言われちゃ……断れないかな?
行くよ、靱!」
「…おいおい……」
ミュージシャン達の言葉に、彼女は乗り気のようだ
返事を聞くより先に歩いていく杏へ、靱は呆れた表情を浮かべる
「…あれだけ走り回って、今度は歌うのか?
どんだけ体力有り余ってんだ…」
「……靱。
疲れてるんなら、別に断ってもいいんだぞ?
今日は店も手伝わせちまったし、無理にとは——」
「……良いんですよ、謙さん」
疲労の色が見える彼に謙が声を掛けるが
途中で靱は遮るように言葉を重ねる
「来月は……アイツ等とやり合うんで。
謙さん達の頃にやってたような客がいる場所で歌うのは良い練習になりますし。
……それにアイツがやる気なら、俺一人帰る訳にもいかないでしょう」
言葉を切って靱は立ち上がり、ライブスペースへ向かう
「……そういうのをちゃんと言ってやれば、もっと上手くいくと思うんだがな。
近頃の若いヤツらはどうにもその辺が……
まあ、面白いからいいか」
背中を見送って、謙は一息吐く
後は当人達の問題だと、小さく笑って
歌う前になれば店内は自然と静かになっていく
熱を保ったまま、静けさが訪れる
皆の注意がそちらに向いている頃
店の扉が開き、軽やかな鈴の音が響いたが
誰もそれには気付かなかった
・
・
「…………歌?
あそこの……お店からかな」
道に迷い、途方に暮れた少女は
見知らぬ通りで音楽に導かれるように店の前へと立つ
「“WEEKEND GARAGE”(ウィークエンドガレージ)
オープンって書いてあるけど、何のお店なんだろう…」
「あ……お店の人なら、道教えてくれるかな?
……でも、知らないお店になんて…」
「……このままじゃ真っ暗になっちゃう…
い……行ってみよう……」
逡巡し、暗闇に取り残される恐怖が勝って少女はドアを開ける
その先に広がるのは、カフェに似た内装の店内
「……あ、あの…」
声を掛けようとするが、店内の客達は意識を集中しているらしくこちらに気付かない
静まり返った店内の妙な空気に気圧されながらも、何事かと目線の先を辿れば
店内のちょっとした小高いステージに立つ二人の少年少女の姿が目に入る
少女は不思議そうに首を傾げ——
『♪—————————-!』
「!!」
マイクに乗って響いた大きな歌声に身を震わせる
『♪—————!—————!—————!』
「(………なに、これ…………!)」
パート分けがされているのか
順番に競うように声を張り上げて響く二つの力強い歌声に少女は衝撃を受ける
強く響く衝撃は凄まじい
経験した事のない感覚に少女は身体が震えるようにさえ感じた
「(耳がビリビリして……怖いくらいなのに……)」
『『♪——————————-!!』』
「(………すごい……カッコイイ…………!!)」
《 《♪———劣等上等———♪》 》
少女は息を呑んで響く歌を聴く
高揚する気分に呼吸すらも忘れ
気が付けば、曲は終わっていた
「あー、気持ち良かった!
ありがとね、みんな!」
「…………」
「おお!よかったぞ、ふたりとも!
なんだ、今日は息ピッタリじゃないか」
「また上手くなってんじゃないか?
思わず熱くなっちまったぞ」
「ありがと。でもまだまだだよ。
もっともっと歌えるようになりたいんだ」
「で、父さん達のイベントを超える最高のイベントをやるの!」
集まった客やミュージシャン達に笑みを返し、
そのまま父の方を見据える杏
そんな彼女に、謙は言葉を投げ掛ける
「ああ、楽しみにしてる。
だがオレを超える前に、出来たツマミをあっちのテーブルに持っていってくれるとありがたいんだが……」
「はーいはい!
もう、人使い荒いんだから…………あれ?
お客さん?」
「……あ!」
謙に給仕を頼まれて
そこで初めて少女に気付いた杏は、目を丸くする
「ごめんね、歌うのに夢中で気づかなくって!
どうぞ。ここの席、あいてるよ?」
「あっ……え、えっと……あの……
ご、ごめんなさい!!」
「え?あ、ちょっと!!
……行っちゃった…」
いざ声を掛けられて少女は焦り、
思わずその場を逃げ出してしまう
大きく扉が開け放たれ、駆けていく足音が響く
呆然とその場に佇む彼女に、靱が声を掛ける
「……なんだありゃ。
学生か?こんな時間にこんなとこまで……
迷子か何かか」
「うーん、そうかも。
でもあのお客さん…どこかで会ったことあるような…
ライブに来てくれた子かな?」
「はぁ?あんなヤツ見た事……
……ん、待てよ。
言われてみりゃ確かにどっかで……」
二人は首を傾げる
その前でゆっくりと閉まった扉が鈴の音を響かせた
・
・
「……どうした、杏。浮かない顔だな」
「あ、父さん。
聞いてよ、実は昨日——」
⬛︎日後、『WEEKEND GARAGE』にて
客足も途絶え、やる事もないにも関わらずボンヤリと席に座っている娘に謙は声を掛ける
彼女は父の言葉に我に返ると、不満気に語り出す
それは、昨日の出来事
『……だから言ってるだろ。
ここのパフォーマンスはそんなんじゃ全く映えねぇって。
歌に合わせてもっと完成度の高いパフォーマンスを披露出来なきゃ盛り上がるもんも盛り上がらねぇだろうが』
『それはこっちのセリフ!
そのやり方じゃ、わかってる人達はともかく初めてイベントに参加する人達はついていけないって。
もう少し簡単に、わかりやすくやらなきゃ』
『……新規より、通じてる連中に評価される方がよっぽどあのイベントに近付けるだろ。
最高のイベントをやるなら、最高のパフォーマンスを仕上げなきゃならねぇ。
それじゃ手抜きと変わらないだろ?』
『手を抜いてるんじゃなくて、配慮って言うの。
最高のイベントを目指すからこそ、これから見てくれるお客さんを大切にしなきゃ!』
『……お前も、解んない奴だな……!』
『なによ、分からず屋はそっちでしょ!?』
言い争い、睨み合い、暫くして靱が口火を切った
『……あぁ解った。平行線だな、これじゃ。
話にならねぇ。
だから、今度のイベントで決めようぜ』
『…イベント?』
『おう。
次のイベント、お前とは一緒にやらねぇ。
別々に出るぞ』
『次のイベントって……
“BAD DOGS”とのはどうするの?』
『アイツ等との対決は後回しだ。
それよりもこっちにケリを付けなきゃやり合うとか以前の問題だろ。
次のライブ、俺のやり方でお前より俺のステージの方が観客を湧かせたなら、俺が言った方のやり方を優先して貰う。
…それでいいか?』
『……へえ。この前の結果、もう忘れたの?
いいけど、私が勝ったら、私の言った方のやり方でやって貰うからね』
『……望むところだ。
後で言い訳は無しだぞ』
『そっちこそ、ね!』
「———ふむ。なるほどな」
「つまりあれか。
お前ら、またケンカしたのか。
本当懲りないな」
「…あれは靱の方が悪いから!」
杏の話を聞いて、謙は呆れたように苦笑する
そんな父に憤慨したように杏は返す
「ほんっと子供みたいに意地張って、面倒なヤツ。
お客さんのことをちゃんと考えないで最高のイベントがやれるわけないのに」
「あーあ。
もっと素直な子と組んどけばよかったなあ。
みんながドキドキできるような最高のイベントをやるならこんな調子じゃ……」
「なに。焦ることはないぞ。
歌って、ケンカして、仲直りして、また歌って…
そうやって成長していくもんだからな」
「…………」
謙の言葉に、杏は若干不足気だが口を噤む
不満、そして不安、時々後悔
モヤモヤとした感情が渦巻く店内に、鈴の音が響く
「いらっしゃい」
「いらっしゃーい。……あれ?」
「あっ……!あ、あの……その……?」
店に入ってきた少女に、杏は目を丸くする
その姿は見覚えのあるもので
「あ!
もしかして、このあいだのぞいてた子じゃない?」
「え?」
覚えられていた事に、少女も目を丸くする
——運命の歯車が今、回り出した
経歴上、どっちもソロなら実はBAD DOGS入りより自然な流れだったりします。
尚本編では中学時代編でのTurning Point回の結果、派生していないルートになっています。
靱の人格が変わっているように見えると思いますが、若干軟化しているのと基礎思想の一部がほんの少し変わっている以外は本編と全く同じだったりします。
本編の独奏のフェイルアパートは展開の都合等や雑音周りの諸事情でかなり殺伐とした描写が多いので温度差が凄いように見えるとは思いますが(
尚こちらも序〜中盤にかけて展開面は大荒れの模様。
もう少しだけ続いたら、次章に入ります
※サブタイを若干修正しました