——熱狂
観衆の声が飛び交うフロア
奏でられる音楽が、歌が、ライブパフォーマンスが、
集う人間達に火を点ける
イベントに盛り上がるステージを後に、
舞台裏の通路を歩む少年が一人
「…………チッ。良くねぇ出来だな……」
「お疲れさん、靱。
いや『ZERO』って言った方がいいか?」
「イベント、すごい盛り上がってますよ!
靱さんのステージで他の参加者も熱が入ったみたいで」
「……あぁ、お疲れ様です。
今日は飛び入り参加だったのに、無理に都合付けて貰ってすみません」
「いえいえ!
ちょうど1ユニット当日キャンセルしたのがいたんで、むしろ助かりましたよ!」
「そうですか。
…ありがとうございました」
声を掛けてきた二人組のスタッフと会話を交わし
靱は歩みを進めていく
その後ろ姿を眺め、若手のスタッフは苦笑する
「靱さん、今日はあまり勢いがなかったですね。
一人で出てましたし、やっぱり…」
「ああ。
まあ、いつものケンカで間違いないだろう。
長いことやってるってのに、毎度毎度よくやるぜ」
「笑いごとで済めばいいんですけどね…
『Vivids』が解散するってなったら、ウチも困るんですから」
「その心配はいらねえよ。
なんだかんだで弁えてるからな、ラインってヤツは。
だいたいケンカくらいでユニットが解散してたら、ここの連中はみんな解散してるだろ」
「はは、それは確かに」
笑うスタッフ達
その頃靱は既に控室を出て、長い廊下を進んでいた
ライブハウスの裏手から出ようとしたその時
丁度入ってきた二人と顔を合わせ、一人が声を上げる
「おっと……
ってお?………靱じゃねえか。
ちょうどよかった、探したぞ」
「あぁ?
……なんだ、彰人に冬弥か。何か用かよ」
顔を合わせた二人は、東雲彰人に青柳冬弥
『Vivids』とはライバル関係にある同じ若手ユニット『BAD DOGS』のメンバーだった
「なんかじゃねえよ。
来月のイベント、参加者の欄を見てたら……
…ほら、これなんだよ。
『Vivids』の欄が2つあるじゃねえか」
「……氷室。
まさかとは思うが、白石とケンカした結果じゃないだろうな」
「…………」
「…ああ。なるほどな」
口を噤んだ靱に、冬弥は頷く
「おいおい、またかよ。
オレ達との勝負はどうすんだ?
バラバラのお前らに勝っても意味ねえんだよ。
だいたい内輪揉めをよそに持ち込むんじゃねえ」
「………ふん。
ありゃ杏の奴が悪いんだよ。
ぬるま湯みたいなパフォーマンスをやってて、あのイベントを超えられる訳ねぇだろ。
だから来月は、アイツとのケリをつける。
テメェ等とは後でもやれるしな」
「……はあ。
勝手なやつだな、お前らは……。
こっちはいい迷惑だぞ」
目を逸らす靱を、呆れたように彰人は見つめ
やがて切り口を変えて言葉を紡ぐ
「……靱。
お前の考え方、オレはけっこう気に入ってる。
何よりお前の目は……本気で『あのイベント』を超えようとしてる目だ。
そんなに白石と合わないなら、別々にやればいいんじゃねえのか?
なんならそうだな…
オレ達と一緒に、一度イベントに出てみないか?」
「…テメェ等と?」
「おう。
冬弥、お前はどう思う?」
「俺は……構わない。
氷室の実力は確かだし、一緒にやるという話にも特に文句はない」
「…………」
二人の言葉を受けて、靱は黙り込む
誘いを受けるか否か
少しして、彼は結論を出した
「いや、良い。
いきなりテメェ等とやってちゃんと
付け焼き刃でイベントに出ても時間を無駄にするだけだ。
お互いにな」
「……大体俺は、他の奴と組むつもりはねぇよ」
「…そうかよ。
だったらもう少し、考えてやれよ」
「考える?」
彰人の言葉に疑問を浮かべる靱
そんな彼に彰人は言葉を返す
「完璧を求めるのもいいが、お前はやり過ぎなとこがちょくちょくあるだろ。
少しは相棒のことも考えてやれ」
「…………」
沈黙した靱は、再び考え込む
そんな彼を置いて、彰人は歩みを進める
「…行くぞ、冬弥。そろそろ時間だ」
「ああ。しかし、彰人……」
「なんだ?」
「……いや、なんでもない」
「………?
そうか、ならさっさと行くぞ」
去っていく二人を尻目に、靱は思考を巡らせながら歩みを進め出す
浮かべるのは、当然昨日の事
「(相棒の事を考えてやれ、か。
アイツ等余裕かましてやがるな……
俺達の事まで気にかける余裕がありやがるとは
…後で礼くらいは言っといてやる)」
「(しかしな……)」
『手を抜いてるんじゃなくて、配慮って言うの。
最高のイベントを目指すからこそ、これから見てくれるお客さんを大切にしなきゃ!』
「(…アイツのやり方じゃ、ぬるすぎる。
言い分は解るが……ちんたらやってる暇はねぇんだ。
“伝説超え”を目指すなら、時間は幾らあっても足りねぇくらいだ)」
「(目指すモノの大きさが解ってねぇ。
もっと上手く……もっと響くステージをやれなきゃとても近付けやしねぇんだ。
大体まだ
「(……気持ちが揃ってないから、俺達は合わねぇのか?
だがそりゃ……仕方ないじゃねぇか)」
靱は表情を暗くする
そう、彼と彼女は本質的に在り方が違うのだ
片や誰かの為に最高のイベントを目指し、
その過程で“伝説”を、父を超えようとする者
片や自分の為に“伝説超え”を目指し、
その過程で血塗られた過去から逃れようとする者
目指すモノも超えたい存在も、
似ているようでまるで違う二人だ
「(上手く噛み合わねぇのは当たり前だ。
まぁもう⬛︎年はやってるんだ、そろそろイベントでくらいはちゃんと合わねぇとまずいが……)」
『そんなに白石と合わないなら、別々にやればいいんじゃねえのか?』
「(……アイツの言う通り、そうすりゃ何も気にしないで済む。
だがな……)」
靱は記憶を巡らせる
それは⬛︎年前のとある記憶
『『♪———————————!!』』
『(…な、なんだ……この感覚……!?
歌が、俺の歌じゃないみてぇに……ピッタリ息が合うみてぇなこの感覚は……)』
『(間違いねぇ。
これなら……“RAD WEEKEND”だけじゃねぇ。
“伝説”だって、きっと………!!)』
『ねえ見た!?会場のみんなの顔!!
私もビックリしちゃったよ!
まさかこんなに合うなんて、思わなかったから!』
『靱も感じたでしょ?すっごく熱い感覚!
だからさ……』
『私と組もう!
私と組んで、一緒に最高のイベントをやろうよ!』
「(……………)」
「(……あの感覚が、忘れられねぇ。
俺達が上手く噛み合えばきっと……
どんな奴だって超えられるって思えたんだ。
例え“伝説”が相手だって…)」
「(それに……)」
一瞬浮かんだ別の記憶が、靱の表情を和らげる
「(ケンカも、復讐も、もういらねぇんだ。
そんなもんが無くたって……この夢の為に生きると決めた)」
「…あ……」
そこで、靱の足が止まる
考え事をしながら帰路を辿っていた筈が、いつの間にか辿り着いていた場所は
『WEEKEND GARAGE』
見慣れた店だったからだ
「……ははっ。仕方ねぇなぁ」
「いつまでも意地張ってる場合じゃねぇか。
俺もいい加減、ガキみたいな事やってねぇで大人にならねぇと」
「アイツに笑われんのは癪だが……
まぁ、謝ってやるか」
思考を纏め、靱はドアノブを掴む
開かれた扉は、軽快な鈴の音を立てた
・
・
カフェ『WEEKEND GARAGE』
昼時に会話を交わす少女達の耳に、鈴の音が響く
「あ、お客さんだ。
ごめん、ちょっと待っててね。
いらっしゃ………ってなんだ、靱じゃん」
「なんだとは何だよ、俺も客だろうが」
「はいはい、そうですねっと。
で、何の用?」
「…えっと……その、だな……」
「あ、その人……!」
杏の問いに、若干言葉に詰まる靱
一方杏と共にいた少女は、店に入ってきた少年を見て目を丸くした
「(この人が……あの日杏ちゃんと一緒に歌ってた、
杏ちゃんが言ってた、一緒に歌っていく人…)」
「あっ、そうだ。ちょうどよかった。
靱に紹介したい子がいるんだ」
「……あ?
てかなんだソイツ…どっかで……」
「そう!
この前店に来てくれた子だよ」
「は、はじめまして。小豆沢こはねです」
そんな少女、こはねを杏が指し示し、
少女に気が付いた靱にこはねは緊張を隠せない様子で挨拶する
「……お、おう。俺は氷室靱だ。
てか、そんなにガチガチに緊張すんなよ。
別に何かしようって訳じゃねぇんだから」
「あんたの顔が怖いんじゃないの?
いつもむすーっとした顔してるし」
「はァ?
………って、そんなんやってる時じゃねぇか。
それで、なんで紹介なんだ?
その小豆沢がどうかしたのか」
「……ふふん」
疑問を浮かべる靱に、杏は笑う
「来月のイベント、こはねと出るから!
もちろんビビってやめようなんて言わないよね?」
「………は?」
来月のイベント
昨日の言い争いの件だと理解するが、
この少女と出るというのはまるで意味が解らない
困惑する靱に、杏は言葉を続ける
「こはねと歌ってね、思ったの。
すっごくドキドキできる歌が歌えるってね。
一緒に歌っていきたいって思った!」
「お互いに助け合いながら、楽しく歌っていけるって思ったから、一緒に組むことにしたの。
来月はふたりがかりになるけど……
別にそれくらい余裕でしょ?いつも言ってるし」
「………。
そりゃ、アレか?
来月のイベントで勝つ為に、ソイツと組んでやるって事か?」
「ううん、違うよ!
イベントの後は、“Vivids”に入って貰って一緒にやろうって話してたとこだし」
「……なるほどな」
杏の言葉に、靱は短く言葉を返す
彼の表情は影になって伺えない
「……もしかして、
実力がどうのとかって言いたいわけ?
勝手に話を進めたのは謝るけど、靱もいつも勝手にやってるじゃん。
それにこはねは……すっごく一緒に歌いたいって思えるような歌が歌えるんだから!」
「あ、杏ちゃん……」
「……話は解った。まぁ来月の結果次第だな。
それじゃあな」
「え?ちょっと……!!」
靱は言葉を返すと、すぐに踵を返して歩み去る
杏の言葉にも振り返らず鈴の音が虚しく響いた
「……………」
閉めた扉に凭れ掛かり、靱は息を吐き出す
「……やりやがったな、杏。
お前がその気なら———」
ストリートの上空を見上げれば、見える景色は建物に遮られ狭い
曇り空
雲行きの怪しい空模様を見上げた靱は、そのまま歩み出す
裏通りに響く足音は——重かった
Another版、謂わば「独奏のフェイルア」のβルートともいえるVividsルートを書くのはここまでで終わりになります。
見ての通り明らかに不穏ですが、本ルートは序中盤に滅茶苦茶展開が荒れる代わりに最終的には丸く収まるルートになっています。
BAD DOGSとの合流や、靱のセカイ周りで後に更に荒れますが、最終的には5人で乗り越えていける、そんなビビバス内で完結するルートです。
本編のBAD DOGS版とはかなり違いがあると思いますが、理由はメンバー間の距離感…というか個人間の距離の違いにあります。
「独奏のフェイルア」における氷室靱が求めるものを満たしていれば、結末は全く違うモノになり得る訳ですね。
本ルートのVividsのテーマは『劣等上等』
本ルートそのもののテーマは『ORBITAL BEAT』となっています
さて、次話からは各ユニットの章に入ります。
最初はLeo/needの章からとなります。
更新はモチベ次第になってしまいますが、見守って頂ければ嬉しく思います