恢復のクインテット   作:ブラック5930

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第4話「virus informatico」

 

「すみません、

帰りまで道案内をさせてしまって」

 

「それくらい平気だよ!」

 

「このあたりはもう少し逸れると治安の悪い通りがあるので。

うっかり迷い込んでしまうと大変ですから」

 

 

シブヤ区

 

メインストリート

 

 

歩みを進めながら申し訳なさそうに謝罪を口にする少年に、少女達は言葉を返す

 

 

勢いよく飛び出したのは良いが、勝手解らぬ街だ

 

地図アプリと苦闘していた靱に追い付いて、道案内まで買って出てくれた少女達は救世主にも等しい存在だった

 

優しさという言葉で表すにはどうにも過ぎたモノを感じなくはないのだが

 

 

「……………」

 

「……?」

 

 

いつまでも会話が続く訳ではない

 

言葉途切れたその時に、ふと歩みを進める少女達の方を見て

 

何か言いたげな様子を感じ取る

 

 

「(……あ。

そっか、さっきは…)」

 

 

挨拶もそこそこに、己が部屋を飛び出した事を思い出して、靱は彼女達の意図を悟る

 

感情、得られた情報の整理に夢中で()()()()()()にまで意識がいっていなかった

 

少年は己を恥じた

 

 

「…その、星乃さん、天馬さん。

さっきはすみません。

急に飛び出してしまって…驚かれたでしょう」

 

「まあ、びっくりはしたけど」

 

「なにかあったんですか?

歌い終わった後、顔色が優れなかったようでしたけど」

 

「あったといえば……、あったんですが…」

 

 

曖昧な返答に、少女達は怪訝な表情を浮かべる

 

正直、言葉で表すのは難しい

 

一度問いかけの形から入ってみようと、靱は口を開く

 

 

「少し聞きたい事があるんですが」

 

「お二人は僕の歌……演奏?を聴いて、

どう感じましたか?」

 

「どう、って……」

 

 

質問を質問で返せば、少女達はほんの少し考えて答えを返す

 

 

「私は……すごく上手な演奏だと思いました。

弾き方を忘れてるとは思えないくらい運指も正確で、音程も全く外していませんでしたし。

歌も……。

歌い方は完璧でしたし、すごいな、と」

 

 

「アタシもそう思った、けど……

うーん、なんというか…」

 

 

一歌、咲希の順で答えたが

 

一歌も咲希も口にこそ出さないが引っ掛かる事があるらしく、言葉に詰まる

 

 

靱は彼女達の反応を確かめて、頷く

 

 

「……いえ、無理に口に出さなくても大丈夫です。

やっぱりお二人も感じたんだと解ったので」

 

 

靱は一度言葉を切ると、神妙な面持ちで再び口を開く

 

 

「先程の話に戻りますが、

演奏が終わった後どうにも奇妙な感覚に耐えられなくなって部屋を出てしまいました。

あそこで考え込む訳にもいかなかったので。

皆さんの問題ではなく、僕の方の問題です」

 

「奇妙な感覚?」

 

「ええ。

演奏中にも感じていたことなんですけど」

 

「実のところ、あそこでお受けしたのは良いものの、本当に演奏出来るのか、歌えるのか、というのは内心不安だったんです。

記憶を失う前は日常的に楽器に触れていたようですが、今の僕は数える程しか触れていません。

歌だって歌った試しが無いのですから」

 

「けれど、実際にやってみたら案外すんなりと出来ました。

身体が覚えている……と言うんでしょうか。

日野森さんが言っていたように、記憶が無くなったくらいでは歌えなくならないようでした。

どう指を動かせば良いか、

どんな歌い方でどんな音程で歌えば良いか、

自然と解るんです」

 

「ただ……

一つだけ、解らない事があったんです」

 

 

首を傾げる少女達に、少年は言葉を続ける

 

 

「それは、

()()()()()()()()()()()()()()()()という事です。

それだけは、まるで頭に浮かびませんでした」

 

「“歌は想いを込めて歌うモノ”

それ自体は何となく覚えているんですが……

どんな風に考えて、どのような気持ちを込めれば良いのか、全く解らないんです。

外面は幾ら取り繕えても、中身がまるで入っていない、みたいな言いようのない気味悪さがあって」

 

「お二人には、僕の歌は“歌”に聴こえましたか?」

 

 

「え?まあ、うん……」

 

「そんなに変な感じには聴こえませんでしたけど…」

 

 

「……そうですか」

 

 

靱は暫し思考を巡らせ、言葉を纏めて紡ぐ

 

 

「…それは、途中から皆さんの歌を真似たからかもしれませんね。

歌い始めてすぐに、そういった気味の悪い感覚を感じたので、途中から皆さんが歌っていた時の感じを思い出してやっていたので……

なんにせよ、我ながら奇妙で…あまり良い感覚とは言えないモノだったので居た堪れなくなって…

本当に、すみません」

 

「「…………」」

 

 

言葉を終えれば、帰路は暫しの沈黙に包まれる

 

 

やがて苦笑いを浮かべた少女達は靱の謝罪を受け入れつつも微妙に固まった場の空気を解すように別の話題を展開していく

 

 

少女達に導かれながら景色が過ぎるにつれて、

 

話題は一転、二転し、やがて音楽の話へと戻る

 

 

「…でも今日は、本当にありがとうございました。

上手く言い表せないんですが、皆さんの演奏はとても素敵でした。

本当に音楽を楽しんでやってるんだなっていうのが伝わってくるようで……」

 

「いえ、私達、まだまだ始めたばかりですし…」

 

「えへへ、

いっちゃん、素敵な演奏、だってさ!」

 

「アタシ達、バンドも全力で楽しんでるもんね!」

 

「もう、咲希…」

 

 

謙遜する一歌の横で胸を張る咲希に、彼女は苦笑いを浮かべる

 

そんな様子に靱は笑みを浮かべて言葉を紡ぐ

 

 

「……ふふっ。

お二人は仲が良いんですね。

…いえ、望月さんや日野森さんも含めて皆さんは仲が良いんですよね。

音もよく合っていましたし」

 

「まあ、幼なじみだからね!」

 

「小さい頃から4人でよく遊ぶ仲だったので」

 

「幼なじみ、ですか…」

 

 

当然言葉の意味は知っている

 

しかし、何ともいえない言葉だ

 

酷く覚えのあるような感覚と同時に、何の関係もないような感覚も覚える

 

 

「(この奇妙な感覚は、星乃さん達の演奏を聴いていた時にも感じたような…)」

 

 

思考は、答えを導き出さない

 

やがて思考は別の方向へと流れ、気分を沈ませた

 

一瞬俯き、そして目を瞬かせる少女達に気が付いて靱は慌てて言葉を紡ぐ

 

 

「ああ、いえ。大丈夫です。

それは良い関係ですね。

…少しだけ、羨ましいと思ってしまっただけで」

 

「僕にも友人がいて、もしかしたら皆さんのように仲の良い人間がいたのかもしれません。

実際に、何人かそういった方にも会ったので。

けれど…」

 

「誰と会っても何も思い出せないのは変わらないようでして。

向こう方は当然覚えているので、当時の事を話して下さるんですが本当に全く頭にかすらないというか、忘れているという感覚すら無いんです。

話すうちに状況を理解して気落ちした方々を見ていると、申し訳ない気持ちでいっぱいになって」

 

「何か一つでも覚えていれば、糸口の掴みようもあるんですが……はい。

…なので、皆さんのように気兼ねなく話し合えたり、頼り合える関係というのは少しだけ憧れてしまうな、とそう思ってしまって…

あ、また気が付けばこんな話ばかりでしたね。

折角明るい話をして頂いたのに、すみません」

 

 

思考を巡らせながら言葉を紡げば、余計な事まで口にしてしまい靱は思わず謝罪する

 

ここまで親切にして貰っても、結局は迷惑しか掛けられぬ始末

 

何とも情けない事だが靱にはどうしようもない

 

 

「…………」

 

 

苦笑する少年に少女は暫し口を噤み、

 

 

「アタシ達もね、最初から上手くいってたわけじゃないんだ。

ちょっと前まではみんなほとんど話せてなかったし」

 

「……え?」

 

 

おもむろに言葉を紡いだ

 

 

「でもね、

またみんなで一緒にいたいって思ったから。

だからバンドをやろうって話して。

最初はいっちゃんとふたりだけで練習してたんだ」

 

「それからしほちゃんと、

最後にはほなちゃんも一緒にやってくれることになってそれでやっとまた、みんなで一緒にいれるようになったの」

 

「……そんな事が。

つまり皆さんは、大変な事を乗り越えたからこその関係って事ですかね。

それは……凄いですね」

 

 

「ううん。

アタシはそんなスゴいこととかはしてないし。

全部いっちゃん達と……

“セカイ”とミクちゃん達のおかげだよ!」

 

「…ミク……?」

 

「……ちょ、ちょっと咲希…」

 

 

声を弾ませる咲希に小声で一歌が囁きかければ、咲希は気が付いたように口元を抑える

 

 

「(ミク………初音ミク……?)」

 

 

一方の靱が“ミク”と聞いて即座に連想したのは、連日調べていたVOCALOID

 

思わず漏らした呟きに、咲希は慌てて言葉を紡ぐ

 

 

「あー!いや!

その、ミクちゃんっていう友達がいてね!?」

 

「友達……

そ、そうですよね」

 

 

「(そりゃ初音ミクの話な訳が無いよね。

僕は一体何を…)」

 

 

混乱した思考を整えようと巡らせて

 

脳が遅れて先程の言葉の処理を始める

 

そこでふと

 

 

「(ん……“セカイ”……?)」

 

 

()()()()()感覚を感じて

 

 

「(………!?

この感じ……初めて感じる…

覚えてる?いや、違う。覚えがある……これだ。

覚えがある……“セカイ”って言葉は…!)」

 

 

遅れてその重大さに気が付く

 

頭に引っ掛かるようなその感触は、確かに忘れているナニカだと感じるようなモノで

 

靱が慌てて口を開こうとした時だった

 

 

「……あれ?スマホが……

…いっちゃん!これって…!」

 

「私のも光って……!

うん、間違いないよ。この光は…」

 

 

「………?

星乃さん、天馬さん、それは……」

 

 

片方は制服のポケットから、

 

もう片方は鞄の中から眩い光が漏れ出している

 

 

スマホの画面光にしてはあまりにも強過ぎる

 

不思議な光景に目を瞬かせていると

 

 

「……………っ!?」

 

「…いった……!静電気……?

いや、これは……」

 

 

視界の端で、紫電が迸る

 

 

強い静電気のような衝撃を覚えて、探った先にあったのは自身のスマートフォン

 

それは眩い輝きを放っており、

 

 

「………『Untitled』…?

やっぱりこれ、どこかで見たような……」

 

 

勝手に点灯している画面は全体が真っ白になっており、

 

その画面に映し出されているのは黒字の大きな曲題と思わしきモノと再生ボタン

 

 

『Untitled』 その意は“無題”

 

 

靱は吸い寄せられるように、無心に手を伸ばす

 

 

その手が再生ボタンまで到達し、

 

曲を再生すれば

 

 

「———っ!?」

 

「!!」

 

「わっ!?」

 

 

迸る眩い閃光が三人を包み込み視界を奪う

 

真っ白に染め上げる光に靱は顔を手で庇い——

 

 

三人は、世界を飛び越えた

 

 

 

——白き閃光を、黒き極光へと塗り替えて

 

 

 

《 《Unauthorized access》 》

 

 

 

 

 





レオニ編で靱のセカイは登場しません
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