恢復のクインテット   作:ブラック5930

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第3話「BAD DOGS」

 

ビビットストリート

 

とあるライブハウス、舞台裏

 

 

大規模な()()()()が行われたその場は大盛況のまま幕を閉じ、役目を終えた三人が去っていく

 

その途中二人のスタッフとすれ違い、二人は軽く挨拶を交わす

 

 

「お疲れ様です。

今日もありがとうございました」

 

「……ありがとうございました」

 

「……………」

 

 

オレンジの髪の少年、彰人と青髪の少年、冬弥は礼儀正しく言葉を口にするが、残る黒髪の少年は目も向けずに通り過ぎて行く

 

申し訳なさそうに謝罪してくる二人を軽くあしらって行かせたスタッフの片割れ、ベテランの男は三人の後ろ姿を見て小さく息を吐いた

 

 

「相変わらずだな、あいつらは」

 

「あれが、“BAD DOGS”なんですね。

二人は毎週のように来てましたけど、三人揃ってやるとこは初めて見ました。

あのパフォーマンス……オレ、鳥肌たっちゃいましたよ」

 

「まあ、あいつらは“本物”だからな。

長年やってれば原石みたいな連中は何となくわかるもんだが、あいつらは最初っから頭一つ抜けてたよ。

まったく、可愛げのねえ」

 

「まだ高校生なんて信じられませんね。

……そしてあれが、ZEROですか」

 

「おう。今日はずいぶんノッてたな。

もっともあいつには、可愛げなんてものを求めるのもバカらしいがな」

 

「はは、それは確かに」

 

 

新人スタッフとベテランスタッフの二人の談笑は続いていく

 

一大イベントを成功させた安心感からか、その口はいつになく緩く

 

笑い声は廊下によく響き渡っていた

 

 

 

 

 

 

「冬弥、靱。

来月のイベントのセトリ、少し変えるぞ」

 

「ああ、彰人も考えていたか。

たしかに次は聴き慣れたオーディエンスが多い分、より完成度の高い曲を入れたほうがいい」

 

「……好きにしろ。彰人に任せる」

 

 

一方で、廊下を進む三人は短く言葉を交わす

 

来月の大規模なイベントに向けての計画を話す三人の前に、通りがかった一人の男が現れる

 

男は三人に気が付くと気さくに声をかけてくる

 

男は彰人と冬弥にとっては幾度かイベントで会っている顔見知りであり、今回のイベントにも参加していたミュージシャンだった

 

 

「よう!彰人に冬弥、………それにZEROも。

お疲れさん。

ここんところ毎週のようにイベントに出てるってのに、今日のパフォーマンスはいつにもましてキレがあったな。

すげえやる気じゃん」

 

「当たり前だろ。

謙さんはオレ達と同じ年で、これくらい軽くやってたんだからな」

 

「……謙さんの『RAD WEEKEND』を超えるにはもっと場数を踏まなくてはならないだろう」

 

「ハハ、お前ら昔っからそれ言ってるよな。

けどま、いくらお前らでもあの夜を超えるってのは流石に無謀だと思うぜ」

 

 

「……あァ?」

 

 

男の言葉に、それまで黙っていた靱が反応を示す

 

 

「テメェ、俺達が“伝説”を超えられねぇと思ってんのか?」

 

「ま、まあまあ、落ち着けよ。

お前らがかなりできるってことは、オレも知ってるさ」

 

 

一歩踏み出し見下ろすように睨み付ける靱の姿に、一歩後退り男は言葉を続ける

 

 

「とくにZERO、お前はすげえ。

オレの知ってる限りでは、正直な話お前とソロで張り合える奴は一人もいねえよ。

でもそれは、ソロ一人での話だ」

 

「お前の強みの、弾き語りソレは一人でやる時しかできねえんだろ?

どんなに上手くても一人じゃ限界がある。

…お前ら三人の歌はすげえし、お前らが出ればイベントも盛り上がる。

今日だってそうだった」

 

「だが、それでも『RAD WEEKEND』には及ばねえよ。

彰人、お前は生で見てたんだからわかるだろ?」

 

「あの夜は本当にすごかった。

謙さんも、クルーも、オーディエンスもすべてが“最高”だった。

今日のイベントの、何十倍もな」

 

 

「…………」

 

「……チッ、わかってるよ。

だからこうして腕磨いてんだろうが」

 

 

男の言葉に、彰人が苛立ったように言葉を返す

 

残る二人も心なしか不満そうな顔をしている

 

 

「そういや、謙さんの娘も『RAD WEEKEND』を超えたいって、ずっと言ってるな。

なんならお前ら、組んでみたらどうだ?」

 

 

「……白石か。

あいつはたしかに、()()()

 

「実力と覚悟があるなら、オレは歓迎するさ。

……本当に、実力と覚悟があるなら、な」

 

 

思い付いたように男が口にした言葉に、彰人は含みを持たせた言葉を返す

 

冬弥はそれに真剣な顔付きを見せており

 

靱はどうでも良さそうに目を逸らしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブハウスの帰りがけ

 

 

まだ日が上っている程度には時刻に余裕があった三人はビビットストリートの一角、とある建物の前に来ていた

 

 

カフェ『WEEKEND GAREGE』

 

伝説の夜の名を冠したその店はこの通りでは有名な場所であり、夕方から夜にかけて多くの人間が来店する場所でもあった

 

 

三人は店の扉を潜る

 

 

「いらっしゃ……あ、彰人に冬弥に靱か!」

 

「こんにちは白石さん。

今日もお邪魔するね」

 

「いらっしゃい!いつも来てくれてありがとね」

 

 

店内には全く客がおらず

 

店番をしていた黒髪の少女

 

謙の娘である白石杏が三人を出迎える

 

 

彰人が受け答えをしている間に靱は店内に目を走らせ

 

 

「(…なんだコイツ。

えらく場違いな雰囲気の奴だな。

制服、ここらの……多分宮女のだ。

って事は高校生か)」

 

 

「じゃあ注文はいつもの……

……あれ?そっちの子は見ない顔だね」

 

 

彰人も店内の唯一の客に気が付き、言葉を紡ぐ

 

 

それは近隣の私立高校、宮益坂女子学園の制服を着た眼鏡の少女

 

小柄な体格は頼りなく、柄の悪いストリートの空気とは相反するような雰囲気を放っている

 

 

彰人は少女に、にこやかに笑いかける

 

 

「オレは東雲彰人。よろしくね。

こっちは相棒の青柳冬弥。それでこっちが……」

 

「……氷室靱だ」

 

「は、はじめまして。小豆沢こはねです」

 

「……敬語は使わなくていい」

 

 

萎縮したような様子で恐る恐る言葉を紡ぐ少女

 

こはねに対し、冬弥が言葉を投げ掛ける

 

 

そんな様子を見ていた杏は笑って口を開く

 

 

「ふたりは……あー、3人は私と同じ神高の1年なんだよ。

こっちのふたりは父さんのファンなんだ」

 

「“BAD DOGS”って名前で歌ってるから、

近くのハコでやる時とか、たまにうちに寄ってくるの」

 

「白石さんともこの店とも、中学の頃からの付き合いだね」

 

「中学……?

ってことは、中学の頃からイベントに!?

すごい……!」

 

「あはは。出るだけならそんなにすごくないよ。

誰でも出られるからね」

 

「…そういえば白石さん、いい加減、仲間は見つかった?」

 

「そろそろ誰かと組んだほうがいいんじゃない?

……本気で『RAD WEEKEND』超えを目指すんならさ」

 

 

こはねの賞賛を笑顔で流した彰人は、杏に本題を問いかける

 

何度もされてきたであろうその問いに、杏は笑みを浮かべて答えた

 

 

「ふふ、いいタイミングで聞いてくれるじゃん。

実は見つかったんだ!しかもついさっき!」

 

「さっき?」

 

「それってもしかして……?」

 

「…………」

 

 

「(…なるほど、つまりコイツは……)」

 

 

三者三様の反応を前に、杏は胸を張り

 

恥ずかしそうな反応を見せるこはねを示して言葉を紡ぐ

 

 

「そう!こはねが私の相棒!

今日、一緒に歌ってみてわかったの!」

 

「……白石さんがそう言うってことは、かなり歌えるのかな。

小豆沢さん、今までどこでやってたの?」

 

「えっ?い、いえ……まだイベントに出たこともなくって……

音楽の授業くらいでしか、歌ったことが…」

 

「え?」

 

「え!イベントの経験ないんだ!

それであんなに歌えるなんてスゴイよこはね!」

 

「……へぇ」

 

 

僅かに彰人は目を細める

 

こはねと杏が盛り上がっている間何かを考えていた彰人は、二人の会話の切れ目を見計らって声を掛けた

 

 

「……じゃあさ、ちょっと提案なんだけど。

ふたりとも、イベントに出てみない?」

 

「イ、イベントに……!?」

 

 

目を丸くするこはねに、優しく語りかけるように彰人は言葉を続ける

 

 

「うん。ふたりともせっかく組んだわけだし。

同じ目標を持つ者同士、一緒にイベントに出ようよ」

 

「オレ達が来月に出るイベント。

出演者が一組出られなくなって、枠が空いてるんだ」

 

「場所はREDってライブハウスだよ。どう?」

 

「………」

 

 

「REDか……。

たしかにあそこなら小さめだし、初めて出るにはいいかもね」

 

「こはね、せっかくだし出てみない?

みんなにも私達の歌を聴いてもらいたいし!」

 

「で、でも来月なんて、そんなに急に……

大丈夫かな……」

 

 

突然の提案に、こはねは難色を示す

 

 

「大丈夫!来月だったらわりと練習もできるし、

それに、私も一緒だしね!」

 

「……………。

………それなら……できるかも……」

 

 

しかし杏の励ましにより考え込み

 

結論として肯定を示す

 

 

「じゃあ決まりだね。

話はオレから通しておくよ」

 

「オッケー!

誘ってくれてありがとね、彰人」

 

「どういたしまして。

同じイベントに出るのは初めてだし、楽しみだな」

 

「……………」

 

 

笑みを浮かべて対応する彰人を冬弥は無言で見詰める

 

その表情には、疑念の色が灯っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カフェを出て、神山通りの辺りまで差し掛かった頃

 

冬弥が足を止め、それに気が付いた二人も足を止める

 

 

「……どういうつもりだ、彰人。

なぜ急に、あのふたりを誘った。

第一に来月はREDではなく、もっと大きな場所でやる筈だと——」

 

「オレさ、中学にあがるまではサッカーやってたんだ」

 

「……?」

 

 

言葉を遮って放たれた彰人の脈略のない話に、冬弥は首を傾げる

 

そんな様子を気にした気配もなく、彰人は言葉を続ける

 

 

「もともと器用だったから、すぐエースになってさ。

そんなにやる気はなかったけど、周りにも期待されて、ぼんやり『将来はサッカー選手になりたい』なんて考えてたんだ」

 

「でも、全国クラスの強豪に当たった時、わかった。

本気で目指してるヤツらは……()()()()()ってな」

 

「あいつらは、遊ぶ時間も、食う時間も、寝る時間も

全部投げうって、ひたすらやり続ける」

 

 

「…………」

 

 

「オレは『RAD WEEKEND』に出会って初めて、

これがオレの全部を犠牲にしてでもやりたいものだってわかった」

 

「……もしかすると、白石も同じじゃないかと思ってたんだ。

あいつも、あれを目の前で見たって言ってたからな」

 

「口先だけのヤツらと違って、あいつは本気で

『RAD WEEKEND』を超えたがってる。

どこかでそう期待してた……なのに……」

 

「……あんな素人と組みやがったなんてな…」

 

「あんなヘラヘラした、半端な素人と一緒にやって、あの夜を超えられるわけねえだろ…」

 

 

「…………」

 

 

吐き捨てた言葉は僅かに震えていて

 

冬弥は口を噤んでしまう

 

 

「…だから、目の前で教えてやる。

『お前らじゃムリだ』ってな。

今度のイベント、オレ達の歌で、圧倒してやる。

……靱、お前も参加しろ」

 

「…仕方ねぇな」

 

 

本気の目をした彰人の言葉に、溜息と共に靱は言葉を返す

 

そんな二人の会話を遮るように、冬弥は再び言葉を発する

 

 

「……彰人。

あいつらが半端な気分でやっていると決めつけるのは、まだ早いんじゃないか」

 

「じゃあお前はあのチビが本気に見えたのかよ」

 

「『音楽の授業くらいでしか』だぞ?

そんなぬるいヤツには『RAD WEEKEND』を口にする資格すらねぇ」

 

「あの夜を超えるってことは……

——半端な覚悟で言っていいことじゃない」

 

 

「…………」

 

 

「……靱、お前はどう思う?」

 

 

黙り込んでしまった相棒を尻目に、彰人は靱に問う

 

振られた話に煩わしそうな表情を浮かべながら、少しの沈黙の後、靱は言葉を返した

 

 

「…あいつがどんなのと組もうがどうでも良い。

俺には関係ねぇ話だ。

素人と組んで足を引っ張られようと、覚悟の無い馬鹿と一緒に沈んでいこうとも」

 

「あいつらを潰すんだろ?

…やるんなら徹底的にやるぞ」

 

 

「…おう。あいつらは、オレ達の歌でぶっ潰す」

 

 

靱の言葉に、彰人は力強く言葉を返す

 

 

やがて三人は裏通りを再び歩み出す

 

最後尾で歩みを進める冬弥の表情は、優れなかった

 

 

 

 

 





敢えてそういう書き方をしていましたが、実は彰人、冬弥、靱の間柄は決して仲が悪いという訳ではありません。むしろ……


そういえば、一応言っておきますと、作者として私は自身の作品の展開予想や考察等は禁忌しない人種です。
どちらかというと歓迎する部類です。
なのでお気になさらず

ifについて。やるならどっち

  • ほぼ確実にあり得ない展開
  • 割とあり得たかもしれない展開
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