恢復のクインテット   作:ブラック5930

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第9話「Vivids」

 

イベント当日

 

ライブハウス『Mossy stone』裏にて

 

二組の少年少女が対峙する

 

 

片や不敵に笑う少女と真っ直ぐな瞳をした少女

 

片や不機嫌そうな少年と無表情の少年二人

 

 

最初に口火を切ったのは、彰人だった

 

 

「あれだけの啖呵きったんだ。

見せてもらおうじゃねえか」

 

「そんなこと言って、ビビんないでよ?

私達の最高の歌、見せてあげるから!」

 

 

彰人の言葉に、挑発的に返す杏

 

ふと思い出したように、杏は言葉を続ける

 

 

「あ、あと、今度は卑怯な手、使わないでよね」

 

「ちっ、誰がやるか……」

 

 

杏の言葉に、彰人は苛立ちながら目を逸らす

 

 

「今日もオレ達が先だ。

ビビって逃げ出すんじゃねえぞ?

…今度こそ見せつけてやるぞ、冬弥、靱。

………?おい、冬弥」

 

「……まぶしいな」

 

「まぶしい?何がだよ」

 

 

踵を返し、二人に声を掛けた彰人は

 

冬弥が固まっている事に気が付き、訝しげに見詰める

 

 

杏とこはねを見据えながら、

 

思わず声が漏れてしまった、そんな調子の冬弥は一瞬後我に返ると遅れて二人に続く

 

 

「……いや、なんでもない。

いこう、ふたりとも」

 

「……………」

 

 

冬弥は言葉を紡ぐ

 

一瞬首を傾げながらも彰人は足を進め

 

靱は歩みを進めながら冬弥の方を見て、目を細めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台裏

 

さほど距離のないステージから聴こえる音に

 

響く大観衆の熱狂に、二人の少女は真剣な顔付きで自分達の番を待ちながら、それを聴いていた

 

 

『BAD DOGSだ!

今夜も聴いてくれてありがとな』

 

 

彰人が〆に言葉を放てば、盛り上がりが頂点に達した観客達は嵐のように会場を震わす

 

 

その声を聴きこはねは緊張を逃す為に自身の服を強く掴み、

 

杏は拳を握り締めた

 

 

「(すごい盛り上がり……

3人とも、できるのはわかってたけど、

今回のは前よりも気合いが入ってたし、ここまでやるなんて……)」

 

 

伝わる実力差に杏の心が翳る

 

しかしそれよりも、彼女には一つ疑問が生まれていた

 

 

「(これだけやれるんなら、前はどうして音を止めたりなんか……

彰人がやったって言ってたけど、よく考えたら靱が止めなかったのは変だよね。

そんなことしなくても……)」

 

 

「……ううん。今は、集中しなくちゃ」

 

 

近付く足音に、杏は思考を打ち切る

 

 

彼女達の前に姿を現したのは、自分達の番を終えたBAD DOGSの三人

 

彰人は対峙する二人に言葉を投げ掛ける

 

 

「お前らの番だぞ。

見せてくれんだろうな?」

 

「当たり前でしょ?

ちゃーんと最前列で聴いててよね!」

 

「…それじゃこはね!私達の最高の歌、

たっぷり聴かせてあげちゃおっか!」

 

「……うん!」

 

 

挑発的な表情から一転、こはねに微笑み掛けた杏はその手を差し出す

 

それを掴み、力強く返事をしたこはねは彼女と共にステージへと向かって行く

 

 

その様子をBAD DOGSの三人は見詰め、観客席へと足を進めた

 

 

 

 

 

 

『Mossy stone』ライブステージ

 

 

眩い照明に照らし出され、押し掛けた観客達の視線を一心に浴びるその場所に立つ少女達の片割れ

 

こはねは緊張感に包まれながら思考を巡らせる

 

 

「(………すごい人……)」

 

「(前に立たせてもらったステージよりもずっと、

苦しいくらい熱気がたちこめてる…)」

 

 

今回のMossy stoneは前回のREDとは規模そのものが違う

 

比較的小さめだった前の場所よりもずっと広いこの場所は、ステージや機材も上等で、会場を埋め尽くす観客の数も前よりもずっと多かった

 

 

こはねは知らなかったが、今回のイベントは前にアクシデントのせいで不完全燃焼で終わってしまった『Vivids』とビビットストリート周辺で今最も勢いのある『BAD DOGS』の直接対決という触れ込みの為、普段よりもずっと人が多い

 

加えてVividsの番はBAD DOGSが会場を湧かせた直後

 

最高潮の熱が、ステージにまで伝わって場を支配していた

 

 

しかしそんな中でも、こはねは以前程緊張していない自分自身に驚いていた

 

 

「(もちろん、怖くないって言ったら、嘘になる。

……でも今は…)」

 

 

 

 

『どんなに恐ろしくても歯を食い縛って立ち向かう』

 

『テメェには夢があんのか?

テメェの望むモノは、一体何なんだ?』

 

 

 

『そうね。

悩んでるのは、このままじゃ嫌だって思って、

次の扉を開けようとしている証拠じゃない?』

 

 

『こはね、その想いはね

誰にどんなことを言われても、何があっても、

変えなくていいんじゃないかな』

 

『それはこはねの、こはねだけの、

大切な想いだから。

きっと、大事にしていいと思うよ』

 

 

『がんばって!

オレ達、いつでも応援してるよ!』

 

 

 

 

「…………」

 

 

掛けられた声が自分の背を押すように感じる

 

そして何よりも

 

 

彼女が隣に視線を向けると、それに気が付いた杏が言葉をかける

 

 

「こはね、大丈夫。私がついてる」

 

「今日が『RAD WEEKEND』を超えるための、

最初の一歩を踏む日だよ!」

 

「うん!ありがとう、杏ちゃん!」

 

 

何よりも、こうして隣に相棒の彼女がいてくれる

 

 

こはねは決意を燃え上がらせて、マイクのスイッチを入れる

 

曲のタイミングを伺い、入りを間違えないように集中する

 

 

今回彼女が務めるのはリード•ボーカル

 

杏が担うモノだと思っていたその大役を、彼女から託された時は驚いたモノだ

 

 

掛けられた期待を裏切らない為に、

 

彼女とこれからも歌い続ける為に、

 

こはねは息を吸い込み、自分の想いを歌へと乗せて歌い出す

 

 

 

『♪—————————!』

 

 

 

「な……!」

 

 

強く響くその声に、観客席で彰人が思わず声を漏らす

 

 

こはねは高く、しかし決してか細くはなくよく通る歌声を響かせていく

 

杏の力強い歌声と混ざり合い、それは会場を震わせる

 

 

所詮は即興ユニットだと馬鹿にした目で彼女達を見ていた一部の観客達も、その歌へと惹き込まれるように目の色を変え始める

 

 

こはねはちゃんと声が出る自分に安心しながら、歌いながら想いを巡らせる

 

 

「(あの日、初めて『WEEKEND GARAGE』で

杏ちゃんの歌を聴いた時のドキドキ…今も覚えてる)」

 

「(あの気持ちを、みんなにも届けたい!

もっともっとドキドキしてほしい!)」

 

 

「(やろうこはね!私達ならできるよ!!)」

 

 

彼女の想いに、杏も共鳴してその歌声をより強いものへと変えていく

 

 

 

『『♪—————————!!』』

 

 

 

二人は胸の想いを燃え上がらせ、声を重ねて歌う

 

 

二人の歌に、歌に込められたその想いに、

 

観客達は騒めき、加速的に熱が高まっていく

 

 

「なあ、初めて聴くけど……すげえな。

この子らが『Vivids』なんだよな?」

 

「ひとりは謙さんの娘だから知ってたけど、

リードの子もすげえな。

……おいおい、まだいくのか!?」

 

 

「なんだよ、『BAD DOGS』相手じゃ比べ物にならないんじゃなかったのか?

これなら全然通用するじゃねえか。

むしろ——」

 

「盛り上げならこっちの方が上手いんじゃないか?

なんつーか、すごく熱い気持ちが伝わってくるぜ!」

 

「『Vivids』……!

こいつら、最高だぜ!!」

 

 

「な、なんだよこれ……。

すげえ……」

 

 

観客達に紛れて、靱に言われた通りこの場を訪れていたミュージシャンの男は目を見開く

 

 

その裏で、彰人もまた目を見開いていた

 

 

「……これは」

 

 

 

 

『♪————!♪————!♪————!』

 

 

 

 

「……マジかよ…」

 

 

ステージから響く歌声が、彼の記憶を呼び覚ます

 

脳裏に浮かんだのは、忘れられぬあの日の記憶

 

 

『RAD WEEKEND』、伝説の夜

 

 

焼き付いた憧れを想起させる彼女達の歌声に彰人は唸る

 

 

そんな彰人に、冬弥が小さく笑って声を掛ける

 

 

「やっぱり、あのふたりはお前と同じだったな」

 

「……オレと、あいつらが?」

 

 

「もう認めてもいいんじゃないか。

あのふたりのことを。

……靱、お前もだ」

 

「……………」

 

「………ふん」

 

 

冬弥の言葉に、黙って考え込む彰人と

 

鼻を鳴らして瞑目する靱

 

 

「(……言われずとも、解っているさ。

アイツ等は、アイツ小豆沢は“本物”だ。

覚悟は受け取った。そして実力も…

まだ原石の段階ではあるが……足を踏み入れてたったの一ヶ月かそこらでこれ程歌えるとはな。

ひょっとしたら俺達や白石よりも…その才能は上かも知れん。

……これは、とんでもない怪物を呼び覚ましちまったのかもな)」

 

 

目を閉じたまま、ほんの少し彼が笑みを浮かべた頃

 

 

曲が終わり、ステージ上の二人は息を整えて観客達に呼びかける

 

 

『“Vivids”だよ!

みんな、盛り上がってくれたー!?』

 

『え、えっと……

ありがとうございました!』

 

『私達は走り出したばっかりだけど、いつか絶対

“RAD WEEKEND”を超えるイベントをやってみせる!

みんな、応援よろしくねー!』

 

 

相棒の隣で、再び“伝説超え”を宣言する杏の姿に会場を観客達の声が嵐のように震わせる

 

荒唐無稽な宣言

 

しかし先程までの歌声に、新たなる伝説の誕生を予感した会場の殆どの観客達はそれを否定せず歓声を上げていた

 

 

「あいつら……」

 

「…………」

 

 

宣言に、何かを感じ取るように呟く彰人をよそに

 

冬弥だけは暗い顔で考え込んでいた

 

 

「(……彰人も、靱も、白石も、そして小豆沢も。

夢に命をかけて、本気で向き合っている)」

 

「(けど俺は……そうじゃない。

クラシックじゃなければなんでも良かった俺は…

俺だけは、違う……)」

 

 

 

 

『いつまで遊んでいるつもりだ、冬弥。

それくらい打ち込んでいれば

今頃国際コンクールにも出られていただろうに…』

 

 

 

『オレは、“RAD WEEKEND”に出会って初めて、

これがオレの全部を犠牲にしてでもやりたいものだってわかった』

 

 

 

『“あのイベント”もそうだ!

古臭い“伝説”は全て俺がぶち壊してやる!

“RAD WEEKEND”を超えるのは、この俺だ……!』

 

 

 

『私達は走り出したばっかりだけど、いつか絶対

“RAD WEEKEND”を超えるイベントをやってみせる!』

 

 

 

『“RAD WEEKEND”のことも、

ここで歌う人達の気持ちも、まだまだ全然わかってないかもしれない。

でも……』

 

『私は、ここで杏ちゃんと一緒に、

みんながドキドキする、最高のイベントを作りたい!』

 

『だから絶対、もう逃げない!!』

 

 

 

 

「……()()()()だな」

 

 

父の、彰人の、靱の、杏の、こはねの声が

 

彼の決断を後押しした

 

 

そんな彼に気付く者はおらず———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Vivids』のライブ終了後

 

舞台裏の通路にて、再び少年少女達は対峙する

 

 

口火を切ったのは杏

 

 

「どう?こはねの実力、思い知ったでしょ」

 

「なんでお前が偉そうなんだよ……」

 

「……………」

 

 

自分の事のように誇らしげに語りかける杏から視線を外し、彰人はこはねを見据える

 

杏の言葉に少し恥ずかし気な彼女へ彰人は少しの沈黙の後、言葉を投げ掛ける

 

 

「…半端な覚悟で歌ってるわけじゃないことはわかった」

 

「その上で、聞くぞ。

お前らは本気で『RAD WEEKEND』を超えようと思ってるんだな?」

 

 

「もちろん!」

 

「うん!」

 

 

力強く返事を返す二人を彰人は射抜くような目で見詰める

 

 

暫く沈黙が続き、緊張に包まれたその場は

 

彰人が僅かに表情を和らげる事で空気が弛んだ

 

 

「……そうか」

 

「お前らの歌は、よかった。

……前は、邪魔して悪かったな」

 

「……………!あ、ありがとう……!」

 

「あれ?意外とあっさりじゃん。

もしかして、案外素直?」

 

「うるせえ、用がないならさっさと行けよ」

 

 

彰人の言葉に、こはねは嬉しそうに笑みを浮かべる

 

そしてそれを茶化す杏に、彰人は苛立った調子で言葉を返す

 

しかし杏はからかう調子のまま、言葉を続ける

 

 

「はーいはい。……あ、そうだ。

あんた達も悪くなったんじゃない?

彰人、冬弥、靱♪」

 

「お前、何様の……!

……ちっ、もういくぞ、冬弥、靱」

 

 

言い返しかけ、途中で言葉を切って彰人は踵を返す

 

向こうが行かないならばこっちから去るまで

 

 

そんな風に歩き出した彰人に冬弥は続き、

 

靱は止まったまま言葉を返す

 

 

「……先に言ってろ。すぐ追い付く」

 

「あ?……ああ。いくぞ、冬弥」

 

「…………」

 

 

怪訝な目をした彰人は靱と目を合わせ、

 

冬弥を促して歩み去っていく

 

 

その姿が見えなくなった頃、一歩踏み出して近付いた靱からこはねを庇うように杏が前に出る

 

 

「な、なによ。まだ用があるわけ?

まさか、あんなので怒ったんじゃ……」

 

「…………た」

 

「…は?」

 

 

見下ろすように二人を見据える彼の言葉は思いの他小さく、杏は聞き取れずに聞き返す

 

それに彼は口を噤み、間を置いて再び口を開いた

 

 

「……悪くないライブだった。

腕を上げたな、白石。

そこの()()のおかげか?」

 

「え……」

 

 

紡がれた言葉に二人は驚く

 

靱は杏の背後のこはねへ視線を向けると、言葉を続けた

 

 

「テメェも随分良い面で歌えるじゃねぇか。

……小豆沢…こはね。

お前も立ち向かう道を選んだんだな」

 

「あ……えっと…」

 

 

言葉に出そうとして

 

纏まらない想いにこはねは慌てふためく

 

 

そんな二人に背を向けるように、靱は踵を返す

 

 

「テメェ等なら、俺達の相手に不足はねぇ。

丁度ここらじゃ雑魚ばかりで退屈し始めてたところだ。

精々良い引き立て役になりやがれ。

……次は、もっとレベルの高い歌で潰してやる。

簡単に壊れてくれるなよ?」

 

 

言葉を残し、歩み去っていく靱の背に

 

杏は大きな声で言葉を返す

 

 

「……あったりまえでしょ!

簡単に潰れたりなんかしないんだから!

ねっ、こはね!」

 

「う、うん!」

 

 

二人の返事に振り向かず、足を止めず

 

しかし小さく笑って歩きながら彼は手を軽く振る

 

 

笑い合うVividsの二人と歩み去るBAD DOGSの少年

 

彼女等は次の対決を胸に火花を散らす

 

しかし場の空気は、決して悪いものではなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……たく、調子のりやがって。

おい冬弥、次のイベントはセトリ変えていくぞ!」

 

「あいつらが心底悔しがるような、

最高の出来にしてやるよ」

 

「…………」

 

 

一方、こちらはBAD DOGSの二人

 

 

次のVividsの二人との対決を胸に、気持ちを燃やす彰人に対し、冬弥は無言

 

 

そんな様子に疑問を浮かべ彰人は問いかける

 

 

「冬弥?どうした?」

 

「……彰人、俺は…」

 

 

紡がれる声は普段よりも小さく細い

 

しかし、次の言葉は彼の耳にハッキリと届いた

 

 

「俺はもう、お前達とは……お前と一緒にはやらない」

 

 

沈黙が辺りを包む

 

冬弥の言葉に呆然として

 

しかし気を取り直して彰人は言葉を返す

 

 

「……もうやらない?何言ってんだ?」

 

「お前、冗談言えるほど器用じゃねえだろ。

バカなこと言ってんじゃねえよ」

 

「冗談じゃない」

 

 

彰人の言葉を、今度はハッキリと冬弥が否定する

 

 

「……何があった?

お前の親父が、またなんか言ったのか?」

 

「………」

 

「これは、俺の意志だ。

俺達の音楽には、()()()()()()()

ただの子供の遊びだ」

 

「………おい、本気で言ってんのか?」

 

「冗談を言えるほど、俺は器用じゃないんだろう?」

 

 

続く彰人の言葉をも冷たく断ち切って

 

冬弥は口を噤む

 

 

そんな様子に彰人は暫く堪え、しかし抑え切れない感情を覗かせる

 

 

「……いい加減にしろよ」

 

「オレ達の音楽に、意味がないだと?

それ以上ふざけたこと言うなら、お前でも許さねえぞ!」

 

「つーか、やめてどうする気だ?

あれだけ嫌ってた親父の言いなりになるのか?

それこそお前にとって何の意味があるんだよ!」

 

 

「……離せ」

 

「おい待てよ!話終わってねえだろ!

冬弥!」

 

 

彰人の言葉に背を向けて、その場を去ろうとした冬弥の腕を取って彰人が引き止めるが

 

 

「…………!」

 

 

冬弥はその手を払い除ける

 

 

信じられないといった顔つきで見詰める彰人に、冬弥は冷たく言葉を投げかけた

 

 

「お前もそろそろ大人になったらどうだ。

たかだかこの街だけで有名な、小さなイベントなんて追いかけていないでな」

 

「………っ!」

 

 

紡がれる言葉は、否定

 

 

彼の夢を、彼等が追い続けたそれを否定し

 

貶めるようなその言葉に、彰人は激昂する

 

 

「てめえ…………!!」

 

「………っ!」

 

 

乾いた音が響く

 

冬弥の頬を張り、彼と逆向きに進む彰人はそのまま声を張り上げる

 

 

「……勝手にしろ!!」

 

「その代わり、その顔二度と見せんな!!」

 

「………」

 

 

「……なんだ?」

 

 

怒鳴りつけ、そのまま走り去る彼を丁度やって来た靱が訝しげに見詰める

 

 

明らかに尋常ではない様子

 

赤くなった片頬を抑え、佇む冬弥へ近付いて靱は問いを投げ掛ける

 

 

「……おい冬弥、何があった?

彰人と喧嘩でもしたのか?」

 

「……靱」

 

 

そんな彼に冬弥も気が付いて、言葉を続ける

 

 

「…そうだ、お前にも言っておかなければな。

俺は『BAD DOGS』を抜ける。

お前達とは、もうやらない」

 

「………は?」

 

 

唐突過ぎるその言葉に、靱は目を細め

 

彰人が走り去った方へ一瞬視線を向けて頷く

 

 

「……なるほどな。

冬弥、確認しておくが……

テメェ、本気なんだな?」

 

「……ああ、そうだ」

 

 

冬弥のハッキリとした返事に、靱は額を抑える

 

暫くして彼は、言葉を続ける

 

 

「……じっくり話をしてぇところだが、

今はアイツの方がヤバそうだな。

俺はもう行くが、テメェには後で必ず話して貰うからな」

 

 

彰人の向かった方へと走り去ろうとする彼に、冬弥は言葉を掛ける

 

 

「……靱。彰人を頼む。

お前となら、彰人はきっと——」

 

「……馬鹿言ってんじゃねぇよ。

アイツの“相棒”はテメェだけだろ。

人に頼むくらいなら、テメェが隣で歌いやがれ」

 

 

掛けられた言葉を遮って

 

靱は目もくれずに走り去っていく

 

 

その背を見送って、冬弥は俯く

 

 

「………………」

 

 

「(半端な覚悟で、ふたりの足を引っ張るくらいなら

俺は……)」

 

 

賑やかなライブハウスの裏では、暗い後悔が渦巻いていた

 

 

 

 

 




深掘りされていくと明らかになりますが、本作は比較的マトモです。

個人的にはVividsサイドの方が書いていて楽しいのは内緒

ifについて。やるならどっち

  • ほぼ確実にあり得ない展開
  • 割とあり得たかもしれない展開
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