大変お待たせいたしました。最新話の方完成いたしました。
本編どうぞ。
追記:2026年3月30日
本文へ描写の追加を行いました。
前回のラブ↓ライブ!↑
近江さんに発破かけたりなんだりしてたら、近江さんのお手伝いをすることになった。
一波乱あった翌日。とぼとぼ歩く自分こと徹夜モード
そんな自分は現在進行形でストロー刺したエナジードリンクの缶を片手に通学路を歩いています。しかも今日はなんとなく徒歩で通学していて、現状だけ見るとこれはもう末期。普段は絶対飲まないエナドリ飲みつつの時点で終わりなのに徹夜明けの通学方法に徒歩を選んだ時点でゲームセット。やっぱり自分ってバカなんだろうな。あ、でもエナドリおいちい……まだ結構飲めそうだなとか思っちゃうのがなぁ。
「おはよう御影君。わ、すごい
「んぇ……? ああ、おはようございます上原さん」
ぽわぽわしながら歩いていたら最推しの姿が目に映ったなぁ。幻覚でしょうか? いいえ現実です。……足元に影があるってことは、実体があることになるね。あ、本人だこれ。んんんん?
「え、ん、上原さん?」
「だ、大丈夫?」
心配するようにこちらを見つめてくる上原さん。あらあら、最推しから心配されてるね?
「はっきり申し上げると全然大丈夫じゃないですね……」
自身の現状をはっきりと答える。いやー、だって認識
大丈夫だったらここまでテンション狂ってないだろうし、最推しを前にしてもっと
「徹夜したの?」
「……そんなところです」
上原さんの言葉に頷く。正確にはDTMに没頭してたら夜が明けてて……アホなのとか思われるかもしれないけど本当なんですよ。
帰って夕飯食べたり入浴したりし終えたのが確か18時頃。そこからずっとDTM触ってて気づいた時には朝の6時。12時間ぶっ通しで触ってたってことになるんですよね。
で、そこから準備して家を出てコンビニ寄ってエナドリ買って今に至る、と。普通の人間なら絶対にしない生活状況だよねこれ。
「あまり無理しちゃダメだよ?」
「無理、はしてないです。はい」
「そっか。でも何かあったらすぐに頼ってね?」
優しい……本当に優しすぎるよこの子。因みに無理してないって言ったけど普通に嘘だからね? 結構節々が痛んだり……まあ、連日の活動見学という名の体験と先々日のアルバイトの時の限界稼動のダメージも上乗せされてるわけだから、当然と言えば当然。
「ありがとうございます」
「うん。でも、意外だったな」
「……何が、です?」
上原さんからの問いに首を傾げる。どれについて意外と申されているのか。……エナドリ片手に登校していることかな? なわけないか。じゃあどれに対してだ……?
「御影君が同好会の活動に手を貸してくれるってこと」
「……成り行きと言いますか」
どうやら意外と思われたことは近江さんのお手伝いをすると言った事らしくて。けど、上原さんから見たら意外って思っちゃうのもわかる気がする。
だってただのクラスメイトが片手で数えられるほどしか関わってない同好会の活動に手を貸してるわけだから、さ。
こっちも本音を言ってしまうとその場の流れでやってるんだよね。否定できない事実。本当に、本当にありがとうございました。……なんだか東京タワーの上で鬼畜音ゲー始まりそうだな。
「そうかもしれないけど、そこでちゃんと手伝うって答えられるのは凄いことだと思うな」
前を見据えながら小さく笑みをこぼしつつ返答してくれた上原さん。その表情が尊くて昇天しかけ、その言葉がなんと言うかこう……嬉しく感じられて気恥ずかしくなってきた。この人やっぱり他人に対して特攻持ってるよ。魅了って言う名の。はいめっちゃ失礼なこと考えましたね。焼き土下座だよ。
「そう……なのかな」
「うん。私はそう思うよ?」
俯きながら紅潮しているであろう頬を掻きつつ溢した言葉に頷いてくれる上原さん。やめて。その
溶けそうな理性を必死に抑えながらの自分は、新たな問いかけを上原さんになしていく。
「あの、そう思う理由を訊いても?」
「だって、誰かのために一歩を踏み出すって凄く勇気がいることを御影君はやったから」
先程とは打って変わりまっすぐな瞳をこちらに向けて答えてくれる上原さん。あらやだイケメン。お顔が良すぎる……じゃなくてじゃなくて。
え、自分そんな大層なことしたっけ? 全然そんな自覚なかったのですけれども。
「何の気も無し、だったのですが」
「御影君からしたらそうなのかもしれないね。でも私はそんな御影君のこと——凄いなと思うし尊敬もしてるよ」
内心でわたわたしながら再度本心を溢すと、上原さんからの現在の自分の評価をいただきました。あれ、今、推しから尊敬されてるって言われたね? 凄いと思うと同時に、って。それは! 流石に! ヤバいって!
推しから認知されるだけに留まらず尊敬の念まで抱かれちゃってるってことでしょ?!
上原さんの言葉を受けて脳内裁判に没頭していると、いつの間にやら校門の前に辿り着いていた。
「あら、もう校門前」
「あっと言う間だったね」
「そう、ですね。あの因みに、自分と上原さんってどの辺から一緒でしたっけ?」
今日の自分は
その道中で上原さんと出会ったわけなのですが、果たしてどこで出逢ったのかイマイチ覚えてないんですわ。頭回ってないので。
「え、私の家の近くだから東雲辺りからだよ」
「東雲からここまで……」
どうやら上原さんの家の辺りからずっと一緒だったみたいですね。そこから学校までの順路の距離にして3km弱ってところか……ん? それって結構な距離一緒に歩いてない? 先日、上原さんの家を初めて知った日に東雲駅から共に歩いた距離がおおよそ1.5kmだったハズだから、純粋にその倍くらいは歩いてたわけ……ですね。なんで知ってるかって、東雲駅からバイト先までの距離とほぼ一緒だからですね。
「歩いといてなんですけど、結構な距離歩いてきましたね」
「そうだね」
当たり障りのない会話をする自分と上原さん。……はぁ、推しと一緒に朝歩いて登校してきちゃうとかもうダメだよ。どうしてそんなヤバいことしちゃったの。もうさ、殺すしかなくなっちゃったよ。本当に救いようがない、ね。
あれ、そういえば今日の上原さん一人だね? なして?
「……凄い今更ですけど、高咲さんは?」
「侑ちゃん? 今日はやる事があるって言ってたから後からバスで来ると思うよ」
「さい、でありますか」
普段なら使わないようなですます調で返答した自分は、手にしていた缶の中身を一気に吸い出す。物理的にカフェインが回ってくるこの感覚、危ないね。やみつきになりそうだ。
「当分飲むのは控えよ……」
空になった缶を軽く振りながらぼやく。カフェイン大量に入ってる飲み物はね、『ケンコウニヨクナイ!』ので。あと夜更かしとか徹夜もね。
内心で自戒していると、傍らの上原さんから問いかけが飛んでくる。
「御影君が飲んでたそれ、美味しいの?」
「個人的には悪くない、って感じですね。飲むのはあまりオススメしませんけど」
へぇー、と自分の手元の缶を見ながら相槌を打ってくれる上原さん。……相槌打ってくれるだけで尊く感じる自分の推しエグすぎるって。こうした過剰な推し成分を摂取して、行く行くは体が耐えられず爆散するんだな。分かります。……分かりみキリンさん出てきちゃった。
「前に侑ちゃんも同じようなの飲んでたから聞いてみたことがあるんだけど、今の御影君と同じようなこと言われたな」
「……ッ」
推しの尊さに浸っていたら、唐突にトンデモ発言が飛んで参りました。キリン出してる場合じゃなくなっちゃったよ……というかあれ、なんか脳が沸騰して来たような気がするぞ? これが世に言う『脳破壊』ってやつ? いや、待て。落ち着け。逆に考えるんだ。今のこの状況は濃密な高咲さん抜きの上原さんと高咲さんの絡みだ、と。最高かよ。
画して自分は沸騰した脳の沈静化に成功する。いやまさかね、人生に於いてジョースター卿の教えが役に立つ日が来るとは思わないじゃん? ありがとうジョースター卿……おかげで尊みのオーバーフローを味わえた。今なら人間花火になることも可能な気がするよ。多分というか確実に汚い花火になると思うけども。
「……高咲さんも飲むんですね、こういうの」
「たまに、だとは思うけどね。御影君は良く飲むの?」
「自分は、普段は全然。これより前に飲んだのだって半年以上前でしたから」
上原さんの問いに答えていく。マジで久々に口にしましたこの悪魔の液体。何が問題かって、美味さと中毒性を兼ねていることですね。だから普段は飲まないようにしている、と。
「へぇー。意図的に避けてたりするの?」
「はい。エナジードリンクって言うのは、砂糖とカフェインの塊みたいな飲み物なので、体にいいわけがないんですよ」
「そうなんだ」
自分の解説じみた返答に頷いてくれる上原さん。その優しさが、眠気に覆われた脳に体に染み渡る……あれ、もしかして上原さんの優しさも中毒性あったりする? まさか、ね……あと今のも普通に不敬罪だから
「因みに飲むとどんなメリットがあるの?」
「強いて言うなら眠気が一時的に覚めるぐらい……かな? 自分としてはあまりメリットを感じていないんですよね。飲んだところでできることも元気の前借り……要は命を削ってるようなものだから」
空き缶を再度見据えながら答える。この缶だけでもそこそこ目が冴えるのに、こんなのを毎日摂取していたら体がおかしくなって当然、だとは思う。でも世の中にはこれに頼らざるを得ない事もたくさんあるから、一概に悪と断言するのも
「それに、飲もうが飲まないが結局のところ人間は寝なきゃ死んじゃいますから。だったら飲まないでしっかり眠れた方が自分はいいと思いますね」
「そうなんだね」
自分の良くわからん力説にも頷いてくれる上原さん。はぁマジ天使。あと忘れてはいけないから何回でも言う。ここまで言ってる当人が現在進行形で徹夜してエナドリのお世話になっている身です。控えめに言ってアホだろコイツ。
「まあそこまで生に執着も無いけど……」
「何か言った?」
「いえ、なにも」
小さく溢した言葉を濁すように首を横に振る。あまり聞かれたい言葉じゃなかったからね。じゃあなんで表に出したかと言われれば反射的にとしか……やっぱりアホだよ自分。今日からお前は
そんなことを考えながらの自分と上原さんは昇降口を潜り外履きから上履きへと履き替えていく。
「さてと——今日も一日、頑張るZOY☆」
履き替えを終えた自分は、両手を握り顔の近くで構えたファイトポーズをしながら呟く。なんか色々混ざってしまったが気にせずに教室へと向かいます。へへっ、今の自分はある種の無敵の人状態。推しの前で奇行をしようとも関係ない……あとで正気になったところで自刃するだけだからね。あとさっきスルーしかけたけども、混ざって来ちゃった陛下はお帰り願いたい所存。
「本当に無理しないでね?」
「アハハ……善処します」
上原さんの言葉に苦く笑いながらも頷いた自分は、教室に入っていつものように自身の席に着くと荷物を下ろしていくのだった。無事であれよ、今日の自分——
迎えた放課後。休み時間と昼休みを活用して仮眠とり、ある程度まともになった自分はまたしてもスクールアイドル同好会の部室に足を運んでいた。作業スペースとしてお借りしたために。
いやですね、昼休みに何気なく高咲さんと上原さんに相談したら中須さん達にお話し通してくれるって言ってもらっちゃって……そのあと爆睡かまして目を覚ましたらOKが出ていたって次第だったんですよね。いやそうはならんやろ。なっとるやろがい!
「うーん、もっと柔らかめな曲調のがいいのかな……?」
着けていたヘッドセットを外し、椅子の背もたれに身を預けて伸びをする。あー、体のあちこちがバキバキ言う。普通にまずいね。机に突っ伏して爆睡するのを繰り返していたから残当と言われればそれまでなんだけど。
伸びを終えた自分が再びPCの画面に視線を戻した直後、部室の扉が開かれる。
「あら、頑張ってるのね」
「朝香さん」
扉を潜り姿を現したのは朝香さん。アレ、今は皆さん練習中だったかと思うのですが何故に?
頭の上に大量の疑問符を浮かべた自分だったが、それらを即座に振り払い作業モードへと切り替えると、朝香さんから問いかけられる。
「どんな感じ?」
「そこそこ、ですかね。まだちょっと落としきれてないところがありはするのですが」
「そう」
現状を報告しながら、再度ヘッドセットを着け音を聞いて行く。ベースは柔らかめに作った現状ので多分いいと思う……近江さんの希望で少し柔らかめがいいって言われてるからね。けどまあ、最終的な納得は本人から得ないといけないのでどう足掻いても暫定、なんですけども。あとはピッチとテンポを微調整しつつって感じでいいのかな……。
あれやこれやと考えていると、朝香さんからの視線がこちらに向けられ続けている事に気がついた。
「どうかされました?」
ヘッドセットを外しながら尋ねてみる。このヘッドセットそこそこ優秀なせいで着けたままだと外からの音が案外聞こえないんだよね。つまり会話もしにくいってこと。なので外しました。まる。
まあ、聞こえても聞こえなくても人と会話する時はイヤホンとかヘッドセットを外して応対するのが普通だと思うけどね。偏見だけど。
「いえ。ただちょっと意外だったなって。あなたが、彼方の手伝いをすると言ったことが」
「あー……それは、部外者とは言え首を突っ込んでしまったので、って感じです」
朝香さんの言葉に少し悩みながら応答した。手ぇ出すならしまいまでやれ、ってどこぞの釜にこき使われてる人が言ってたからね。それにやりきらないとオーナーに顔向けできないから……あ、オーナーって言うのは某ガールズバンドの聖地って言われるライブハウスのオーナーのことね。最近孫が出てきたっけか……抹茶とお蕎麦とギターが好きな、ね。
「なるほどね」
「でも分からないことがあるんです」
頷く朝香さんの手前、自身の中に湧き上がっていた疑問について発した自分。本当ね、分からないことがあるんですよ。うん。どれだけ考えても。
「どうして自分なのかな、って。部員でもなければスクールアイドルとかについて詳しいかもわからない様な奴に」
自分の疑問はこれ。何故ただのバイト先の後輩でしかない自分を指名したのか。個人的にDTMに触っていたという点を買われて、と言われれば納得はするが根拠に欠ける。
「……あなた、気づいてないの?」
「どうでしょう」
視線のみを彼女の方に向けて返す自分。この口振りだと、朝香さんは近江さんの心境を分かっている感じなのだろうか。え、自分? 正直分かってたらこんな苦労しないと思うよ?
「どうでしょうって……それじゃ彼方に失礼じゃない」
「じゃあ仮に気づいてる、って言ったら朝香さんは満足しますか?」
感情的な返しをしてくれた朝香さんに対して、画面に視線を留めたまま返答していく。中々に反骨精神剥き出しの返しをしたな自分。取られ方によっては最低な人間の発言してるぞこれ。そもそも態度が最低だろうが……兎にも角にも、現在進行形で近江さんの内心は分からない状況の自分です。困ったな。
「それは……」
自分の問い返しに言葉を詰まらせた朝香さん。先の状況からじゃ普通は飛んでこない返しをしたから当たり前か。というか本当に最低発言の連発だな自分。人としての品性というか道徳心が欠如してるとしか思えないぞマジで。
先の発言を省みながらも、朝香さんに対して徐に自身の内心を吐露していく。
「……正直に申し上げますと、どう思われてるかも分かっていないです。なんせ自分は……そんな大層な人間では無いので。それと、仮に分かっていたとしてもどうして良いか分からないんです」
言い切った自分は大きく息を吐く。
その意を発した自分の手前で困惑の様相を見せる朝香さん。ほれ見ろ、朝香さん困っちゃったじゃん。どうすんの御影。
あれやこれやと思考を巡らせつつの自分は、徐に口を開き先の続きを発していく。
「でも、分からないなりに理解していることもあります」
「何を?」
「近江さんに力を貸してくれた言われたことです」
作業の手を止め朝霞さんの方に向き直りながら答える。この事象だけは間違いなく自分で理解していることだから、胸張って言える。他のことに関しては胸張れないです……無念。
「言葉として伝えられた以上、どうであれ自分にできることをやって応じるだけなんです」
「そう」
こちらの返しに納得した意を示してくれる朝香さんだが、その表情はどこか腑に落ちない様子が見えた。……実際、あんなこと言ったのに今の返しだから腑に落ちないよね。誰だってそうなる。自分もそうなる。
「あの、すいません。生意気なこと言って」
唐突に謝罪の言葉を発しながら頭を下げる。悪いことをした自覚はあるのでしっかりと謝っておかなければ。許してもらえなくてもまずは謝るところから。その後のことは相手が決めること、なのでね。
これに関してはそもそも悪いことだと自覚しているなら初めからやるなと言うツッコミが入るんですけどね!
「いいえ。私の方も迂闊だったわ。いろんなことでいっぱいいっぱいだろうに、感情的に言葉をぶつけてしまって」
「朝香さん……」
謝罪したら謝罪を返していただきました。あ、そんな謝らないでください……今のは自分が百悪くて朝香さん微塵も悪くないんですから……。
「そんなことないですよ。さっきの朝香さんの言葉は、近江さんのことを思っての発言だったと捉えてます。そう考えた時に非があるのは圧倒的に自分の方ですので……」
首を横に振りながら返した自分は項垂れる。自分でやっておきながら激しく後悔してるから控えめに言ってアホ。自重せずに言って極刑ZOY☆……やっぱり御影、生きてちゃいけない人種だよ。ついでにまた陛下出て来ちゃった。お帰り願ったのに帰ってないのかよ。
一人
「あ、果林先輩」
「あらかすみちゃん。それにみんなも。練習終わったの?」
部室に入ってきたのは中須さんを先頭にした部員の皆さん。練習終わるにしては早くない? だってまだ外出て行ってから三十分も経ってないよ? いや、皆さんが突然レベルアップを果たして短時間で終わらせて来た可能性も微粒子レベルで存在しているかと……。
「今は休憩です。ちょっとしてからストレッチとかを」
「そうなのね」
朝香さんの言葉に反応したのは高咲さん。はぇー、クールダウンですか。大したものですね。激しい運動後に小休憩を挟むことにより荒い呼吸などを整えるクールダウンの役割を持たせている。これは策士の組んだメニュー間違いなし。対する自分は休憩という名のインターバルなしのぶっ通し。オイオイオイ、死ぬわ
「果林さんは雑誌の撮影終わりでしたっけ?」
「ええ。この後のメニューから参加するわ」
「雑誌の撮影?」
聞きに徹している最中で聞こえてきたワードに反応する自分。雑誌の撮影ってなに? どういうことなんですか一体? まるで意味がわからんぞ!
「果林ちゃんはモデルのお仕事もやってるんだよ」
内心で叫び散らしていたらエマ先輩が教えてくれました。え、朝香さんってモデルのお仕事されてるんですか。たまげたなぁ。虹ヶ咲は自由な校風を
「この前の雑誌にも載ってたよねー」
何気なく発されたであろうエマ先輩の発言。それを聞いていた自分は、唐突に頭の中で何かが繋がり始める。そうか、そういうことか。
「ああ、思い出した」
「急にどうしたの」
不意に声を上げたことに対して高咲さんに首を傾げられる。普通に考えて、突然何かを納得し始めたら驚くよね。そこまで思考が回っていないとか愚かすぎるぞ自分。というわけで高咲さんを驚かせた罪で腹切って、どうぞ。
「あ、すいません。色々と合点が行きまして」
「なんの?」
自分の返しに今度は上原さんが問いかけて来た。上原さんへのレスポンス、失敗した瞬間死亡確定だ。そもそも認知されてる時点で終わってはいるんですけどね……じゃなくてじゃなくて、まともに答えなきゃ。
「朝香さんのことをどこかで見たことあるなとか、お名前をお伺いしたことあるなとか思ってたんですよ」
「どこで?」
「家族が読んでた雑誌で、ですね」
以前、家の中で家族が読んでいたファッション雑誌の一ページに朝香さんが載ってたんですよね。誰が読んでたかは朧げだけども、朝香さんが載っていたことだけは鮮明に覚えている。不思議だ。
「あら、見てもらえていたなんて光栄だわ」
「偶然、ではありましたけどもね……」
苦笑しながら朝香さんの言葉に返答していく。たまたま家族が読んでいた雑誌にたまたま朝香さんが載っていて、そしてたまたま朝香さんと知り合った。まさに偶然に偶然を重ねた結果なんだよね今の状況。なんかこう、改めて世間って狭くねぇかと思うんですよ。この同好会を中心にしてさ。
「ところで、さっきスクールアイドルについて話していたけれど、そもそも存在については知っていたの?」
「知ってはいましたよ。追っかけとかはしてないですが」
世間は不思議だなとか思ってると朝香さんからスクールアイドルについての話題飛ばされました。キラーパス気味ですよこれ。なんとか当たり障りのない返答しましたけども。
「どのくらい前から知ってるんですか?」
「小学校高学年の頃からですかね」
中須さんの言葉に応答していく。スクールアイドルを初めて目にしたのが小学校高学年の時……だったな。その時見たユニットの歌に、パフォーマンスに魅入られたのは結構鮮明に覚えてたり。
「そんなに前から知ってたんだ」
「前々から知名度がありますからね」
高咲さんの言葉に短く返す。スクールアイドルって、世間に溶け込んでるから詳しくなくても名前は知ってるって人は結構多いと思う。現に自分もそういうタイプだったし。けど、実際に見た時の衝撃と来たらもうね。追っかけとかしようと思わなかったけど、すごく圧巻で心の奥底から楽しいと感じたよ。うん。
「ところで御影君、曲の方はどんな感じなの?」
回想に耽っていると上原さんから問われました。推しから進捗確認されるって
「あーっとですね……ある程度型はできたかなってところです」
返答しながら今度は近江さんの方へと視線を向けていく。複数人と会話する時って視点が一箇所に定まらないから疲れるよー……こういう場面だとコミュ障って辛いよ。しかしながらコミュ障になってしまったのは間違いなく己の生き方故。恨むなら自分をなんだよな。はぁ……。
「因みに近江さん、歌詞ってできてます?」
「うん。できてるよ」
「見せてもらってもいいですか? その歌詞に合わせて最終調整かけたいので」
自分の問いを聞いた後に近江さんは一冊のノートを自分の方へ差し出して来た。これは恐らく歌詞を書き記したであろうノート。『ア・テンポノート』とか表紙に書いてあったらどうしようかとか思っちゃったよ。
ノートを受け取った自分はページを捲り中に目を通していく。ふむふむ。なるほど。
「これなら……曲調を少し変えた方がいいか」
思うが早くPCに手を伸ばした自分は各種調整を行っていく。音程やら速度やらを上げ下げして歌詞のイメージに近づけるように……こんな感じでどうだ。いやもうちょいか?
「そう言えば御影君はどうしてDTMを触ってたの?」
調整を入れている最中、高咲さんから不意に問いを投げられる。確かに、高咲さんを含め周りの人から見たら、なんでDTMできるんだコイツって状態ですよね。
「AIとかに曲を歌わせるって、流行ってるじゃないですか。ああ言ったものをやってみたいなと思って曲作りから始めてみたんですよ」
「じゃあその時に、DTMを?」
「ええ。尤も、曲を一つ作ったところで触るのをやめてしまいましたが」
調整する手を止めることなく、高咲さんへのレスポンスを行なっていく。調教とかして歌わせる奴に憧れてた時期があったんですよ。まあソフトが買えなくて歌の部分は自分の声になっちゃったんですけども。
「それは分かったけど、カナちゃんはなんで玲がDTMが使えることを知ってたの?」
自身の過去を振り返っていると今度は宮下さんから質問が来ました。そうだよね。不思議だよね、近江さんがこの事を知ってるの。そこも説明しなきゃか。
「以前近江さんに、自作した曲を聞いてもらったことがあって、その際にお話ししました」
「そうそう。玲君凄くいい曲を作ってたんだよね〜」
そう言ってこちらへ笑いかけてくる近江さん。そんな表情に少し照れ臭さを覚えながらも作業を続けていた自分は、キーボードを叩き終えると、ヘッドセットを手に取り調整を入れた音のチェックをする。いい感じではないのだろうか。……自画自賛やめてねー。はいすいません。
「近江さん、こんな感じでどうですか?」
「どれどれ〜?」
自身の外したヘッドセットをそのまま近江さんに手渡していく。さあ運命の瞬間……近江さんはどんな反応をするか。これ場合によってはアロンダイトで一突きされて海にドボンもあり得るのではないだろうか……? 運命だけに。ごめんなさい、ジャスティスをジェネシス内部で核爆発させるので許してください。
内心ソワソワしながら近江さんの様子を伺っていると、不意に近江さんがヘッドセットを外した。
それを見た自分は固唾を飲んで彼女の言葉を待つ。果たして、どっちなんだ……。
「——凄いよ玲君」
「はにゃ……?」
近江さんの口から飛び出た称賛の言葉に間抜けな声を溢す自分。今、褒められたんですか自分? マジで? 夢じゃない? ああ、現実っぽいわ……また太ももの辺り
「彼方ちゃんの書いた歌詞にピッタリの曲を作っちゃうなんて。流石だよ〜」
「え、あ、ええっと、ありがとう……ございます……」
先の言葉が現実であることを理解しながら今し方の言葉と共に受け止めた自分は、縮こまりながら賞賛に対する謝意を述べていく。うう……褒められるのに慣れていないせいなのか、なんか恥ずかしいよ……嬉しいことは嬉しいんだけどさ、人前で褒められたせいで顔から火が出そうだよ……あ、でも内心はいつも強火オタクしてるから燃えてるのは常日頃からか。
「私にも聴かせてよ!」
「かすみんも聴きたいです〜!」
「私も私も!」
内心穏やかじゃない状態でいると高咲さん、中須さん、宮下さんが聴きたいと仰ってくれました。嬉しく思う反面、やっぱり聴いてもらうのは恥ずかしいなと思う。ダブスタクソ御影ェ。どっちかに統一しろ。
自身の中の相反する意見に一喝しながらも、現状をどうすべきか思考を走らせていく。その最中、とある事柄を思い出して口を開く。
「あ、あの、優木さん。確か校内にレコーディング室ありましたよね?」
「はい。確かにありますが、それがどうかしたのですか?」
不意に自分の口から飛び出した『レコーディング室』という言葉に優木さんはもちろん、他の面々も訝しんだり首を傾げたりしている。そりゃそうですよね。突然流れぶった斬ってレコーディング室の有無を訊き始めてるんだから。
「使用したいのですが、どこに申請を出せばいいでしょうか?」
「でしたら私が受けますけれども……なぜです?」
勢いのまま使用したい旨を優木さんに伝えてみたら彼女の方で受けてくれるとのことでした。おお、其方が神であったか。申請の仕方とか何も知らない自分からしたら真面目に神様に見えるんだよね。勝利の女……やめよう。
「作った曲にサンプルボイス入れた方がいいかなと思って」
「サンプルボイスって、誰の声で?」
「この場合は……自分、がやるしかないですかね」
小さく息を吐きながら返答した自分。歌う曲として作る以上、お手本となるものも必要になる。なんならそれは曲を作った自分でなければ歌詞の当てはめのイメージが掴めていないわけで。となると消去法で自分がやるしかなくなって、ね?
「え、玲君が歌ってくれるの?」
「玲の歌声、少し気になるわね」
「玲先輩歌えるんですか?」
「歌えるからサンプルボイスの話を持ち出したんじゃないのかな?」
各々の反応に何を言うべきかの思考が追いつかなくなった自分は、突っ込みやら返答やらを投げ出しつつ、優木さんの手助けを受けながら申請書を書き記すことに専念した。そんな感じで
流石に流れを飛ばしすぎだろと思うが、自分も何をしていたのかうまく説明できないので許して欲しい。申請の方法とか話聞いて理解はしたけれども説明まではできないから……はい。
それで今は、自分はマイクの前に立っております。あの丸い布みたいなのがついたマイクの前ね。
あとこの布みたいなやつ、『ポップガード』って名前らしい。調べてみて初めて知ったよ。だからなんだって話だけれども。
「発声してからにしようかな……」
ヘッドホンを手にしながらボヤく自分。本チャンでサンプルボイス録るよりも、一度発声を兼ねて一曲歌ってからの方がいいかなと思いましてー。何歌おうかなとか考えてみたり?
「玲さん発声されるんですか?」
「ええ。何か一曲歌って発声がわりにしようかなと」
「何歌われます?」
「あー……じゃあ」
優木さんに問われた自分は自身のスマホを軽く操作した後に彼女へと差し出す。因みに今やった操作はスマホ内に入ってる音楽アプリを起動しまうま。シマウマって犬みたいに『ワンワン』って鳴くんですよね。あと、シマウマは白地に黒の
シマウマについての思考を振り払う自分の手前で、差し出したスマホを受け取ってくれた優木さんに対して自分は先の言葉の続きを投げる。
「そのプレイリストの中に入ってる曲を一曲選んでもらっていいですか?」
「ここの中からですか?」
「はい。それを発声がわりにします」
優木さんの言葉に頷いていく。画して選曲を他人に丸投げしてしまった自分。控えめに言って最低じゃないだろうか。今始まったことじゃないだろうって言われたら反論できないの悲しすぎる。
さて、どの曲が選ばれるのか……こう言うのを『鬼が出るか
「では、この曲を——」
優木さんの指し示す楽曲の名前を横目にヘッドホンを着けていく自分。さあ、やっていきましょうか。近江さんの曲作りの仕上げの工程、の前段階を。慎ましく、ね——
紆余曲折ありつつもサンプルボイスを録り終えた自分は、
いや、ね。発声がてら優木さんに選んでもらった曲はね、某反省を促すやつだったんですよ。これは全然いい。それが終わってからサンプルボイスを録ったのもいい。何ならこれが本題だし。
しかしながらその後に、何曲か追加で歌わされたのだけは納得できぬ。普段一人カラオケでしか歌わない人間に少人数とはいえ人前で連戦させるとか辛みでしかないんすよ。とりあえずバジリス◯タイムが辛かった。何が好きでサビで振り付けやらなあかんね……。
てな訳で疲労困憊改め
ほぼ勢いだけで行動指針を決めた自分は、進行方向を自宅方面から僅かに逸らして近場のカフェに立ち寄ることにした。そしてそのカフェの扉を潜ろうとした時、見覚えのある後ろ姿を見つけて思わず足を止め呼びかけていた。
「——遥さん?」
自分が呼びかけると数瞬の後にこちらへ振り返ってくれたのは近江さんの妹こと遥さんその人であった。良かった、人違いじゃなかったわ。
内心で安堵していると、こちらを認識した遥さんが驚愕の色を浮かべた。
「御影さん……」
力なく呼ばれた自分の名前は、彼女に対する不安をこちらに与えた後に都会の喧騒と臨海部特有の潮風の中へと溶けていった。