偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語   作:名無しのモンスター

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勝手な解釈しちゃってた? みたな感じだよってことで初投稿です。

今回は突然の回想回です。桃とフリーレンの馴れ初めがどのようなものなのか……とりあえず見てって。


桃とフリーレンさんの邂逅の回想……だが。実際フリーレンさんとよく話してるのは桜さんの方である

 

 時は遡ること十年程前の出来事である。

 

 桃は義姉・桜からの多大な信頼を得られる魔法少女になるべく、彼女の指導の元でトレーニングを重ねていた。

 

 

「えっと……桃ちゃん? 私、さすがにそこまでハードな修行内容は出してないと思うんだけど……?」

 

 

 が。現在彼女が行っているトレーニングは、桜が本来出した内容よりも過激なものであった。

 

 まず最初に行ったのはストレッチ。これはトレーニングを行う前に必要な基本中の基本であるため、行うのは当然である。

 

 次にランニング四キロ。体力の基礎を身につけるために必要なこのトレーニングを、ハーフマラソンの半分以下の距離で行う。魔法少女の体になって元から体力が上昇したというのもあるが、それをさらに上げるために、普通の人間のランニングよりもかなり長くしたようだ。

 

 そしてタイヤトレーニング。桜が桃の魔法少女としての性質を調べ上げた結果、筋力を上昇させるトレーニングが適応だということが証明された。よってそれを向上させるべく、筋トレの一種であるこのトレーニングを課せられている……

 

 が、しかし。桃が引っ張っているタイヤは、鉱山とかで重いものを運ぶ働く類の車のドデカいサイズのものだった。しかも一トンはあるバーベルを持ち上げてスクワットしながら、だ。

 

 

「あのさ……自分を無理に追い詰めたら逆効果になっちゃうから、もうちょっとバーベルとタイヤを軽くしたりしよ? ね?」

 

「大丈夫だよお姉ちゃん。私……最近気付いたの。私は筋トレするのが好きなんだって。そう考えると、こんなものへのかっぱだから」

 

「だとしてもせめて中学生になるまでは家の中でやって!? タイヤはともかくバーベルなら家の中でも入れられるから!! 外でやってたら私が虐待の容疑で通報されちゃう!?」

 

 

 桃、この時から筋トレの素晴らしさを知り、ハードな特訓を苦と思わず自らそれを実行していた。とはいえ、この時の桃はまだ六歳。小学生にもなれるこの歳の子に、バーベルを持たせながらトラック並の大きさを誇るタイヤを引かせるなどご法度である。そのため、桜は児童虐待扱いを恐れて止めようとしているのだ。

 

 そんな中、何かがカエルのように飛び跳ねながら、二人の元へと駆け寄ってきた。

 

 

「ん? ……お姉ちゃん。アレ、なんかこっちに来てない?」

 

「えっ? ……あっ、パンドー君だ!! ミミックのまぞくなんだよ。おーい!!」

 

 

 駆け寄ってきたのは、宝箱のような姿……否、宝箱そのものに鋭い牙と長い舌、まん丸としたデフォルメな瞳の付いた魔族──ミミックの子どもだった。

 

 息を切らし何やら切羽詰まっているかのような様子のその子──パンドーは、二人の元へ辿り着き足を止めると、何かを訴えるかのように声を上げ始める。

 

 

「何なに、どうしたの?」

 

『コケーッ!! コケーッ!!』

 

「鳴き声ニワトリなんだ……」

 

「……えっ!? それはいけない、早く助けてあげないと!! 桃ちゃんごめん、トレーニングは一旦中止‼︎」

 

 

 パンドーのニワトリらしきある意味独特な声が何を伝えようとしていたのか、桜はそれを理解したようだ。

 

 すると桜は何かしらの危険性を感じたのか、無理矢理桃が持っているバーベルを下ろし、タイヤに付いて桃の腹に巻いてある紐を解いた。

 

 突然の義姉の行動を戸惑うも、桃はパンドーが何を伝えたのかを理解するべく問いかける。

 

 

「い、一体何があったの……⁉」

 

「た、大変なことが起きちゃったよ……!! この子のお父さんが、町の外から来た人に……!!」

 

「ッ!!」

 

 

 魔族が、多摩町の住民ではない者に。その不穏な言葉を聞いた桃は、背筋が凍り肝が座るような感覚を覚えた。

 

 ここは魔族も人間や魔法少女と同じように難なく、争いなど受けずに平和に過ごせる多摩町。特に魔族としては安全地帯となる町だ。

 

 しかし、魔族は封印されれば願いを叶えるためのカードのポイントに加算される。それを逃さない過激派や不純な考えを持つ魔法少女やそれを雇っている大人などが狙っているため、その目的のためにこの町を訪れる不埒な輩がいてもおかしくないのだ。

 

 もしや、パンドーの父親もそのような類の者達によって……不吉な予感が桃の脳内に過ぎる中、桜が繋げようとしている言葉を続けるべく再び口を開き、以下の言葉を述べた。

 

 

 

「その人が中にものすごくレアなお宝が入っていると勘違いして、その口の中に突っ込んでしまって、そこから出れなくなったんだって!!」

 

 

 

「………………………………ん? えっ?」

 

 

 違った、多分だけど思ったのと違った。パンドーの父親は襲われたのではなくて、実在する宝箱と勘違いされて口開かされ突っ込まれ、何処かしらで引っ掛かって出そうにも出せない状況に至っていたようだった。

 

 

「と、とにかく行こう……い、今がそのような状態のままだとは限らないし……」

 

「そうだね、行こう‼︎ パンドー君、案内して‼︎」

 

『コケー‼︎』

 

 

 こうしている間にもパンドーの父親は最悪な事態を受けている可能性がある。それを恐れた桃が桜に彼の元へ向かうことを催促し、それに了承した桜はパンドーに彼の父親の元へと案内するように頼み込み、彼もそれに了承する。

 

 そしてパンドーの案内の元、彼の父親の元へと辿り着いた時には……

 

 

 

「暗いよー‼︎ 怖いよー‼︎」

 

 

 

 一人の女性がパンドーよりも大きめな宝箱──パンドーの父親に体を突っ込んでおり、噛みつかれているかのように下半身だけ出て足をバタバタさせること以外の身動きが取れない状態となっていた。

 

 

「あぁぁぁ暗いよ‼︎ 怖いよ‼︎ 暗いよ‼︎ 怖いよ‼︎」

 

「ほ、本当に口の中に突っ込まれて出れなくなってる……というか、よくファンタジー要素のないこの町中でこんな事しようと思えるよねこの人……」

 

「う、うーん……」

 

 

 さすがの二人もこの光景には呆気に取られていた。

 

 本来なら、普通の住宅街に宝箱らしきものが置かれていれば、ポイ捨てされたまたは何かしらの経緯で置きっぱなしにされた、演劇などで使うためにダンボールなどで作られたものだと勘違いするだろう。

 

 なのにどうだろうか。そう勘違いされてもおかしくないミミックの魔族が、あるはずのない中身の宝物を狙って開けられ、その中に顔を入れられているのだ。その人がただの間抜けとしか思えない。

 

 だが何はともあれ、今はこの状況を解決することが優先である。パンドーの父親と彼の口の中に突っ込んでしまった女性を助ける。考えるのはそれからである。

 

 

「あっそこに誰かいる⁉︎ ねェ、悪いけど助けて‼︎ ここから抜け出せなくて困ってるんだけど‼︎」

 

「と、とにかく助けるよ‼︎ こういう事態の時は引っ張るんじゃなくてあえて奥に押し込むよ‼︎ そうすればミミックは噛んでる人をオエッと吐き出してくれるらしいから‼︎」

 

「犬か何かなの……?」

 

 

 桜が発案した解決策を疑心に思いながらも、桃は彼女の指示通り、二人で女性の体をパンドーの父親の口の奥へと突っ込ませた。するとどうだろうか。桜の言う通り、彼は『オエッ』と言いながら女性を吐き出したではないか。

 

 

『ゲホッゲホッ、キャウゥ〜ン……』

 

『コケーココッ‼︎』

 

『ワゥン? ……ハッ‼︎ ワンワン‼︎』

 

「本当に犬に思えてきた……鳴き声からして」

 

 

 口から女性が解放された反動で咳き込むパンドーの父親。そんな彼の事を心配しながらも、無事でいてくれたことに喜び飛び寄るパンドー。それに気づいて喜びの鳴き声を上げたパンドーの父親、本物の犬らしき声を上げた。

 

 カオス。ある意味ちょっとしたカオスである。犬の鳴き声をしたミミック。ニワトリの鳴き声をした子供ミミック。どうしたらそうなるのやら。

 

 一方、パンドーの父親の口から抜け出せた女性は、解放されたことによって気が抜けたのか、眠そうな糸目のショボンとした表情をしていた。少し口の中の唾液によって、髪に粘り気がついてしまったが。

 

 

「フゥ、助かった……」

 

「大丈夫ですか? どこか胃液とかで溶けたりは……してないみたい。よかった」

 

「ちょっと自分の体に細工してたからね、そう簡単に溶かされたりはしないよ」

 

 

 桜がその女性に寄り添い無事かを問いかけるも、奇跡的に彼女は無事であった。胃液などによって身体の一部が溶かされるということもなく、体調も問題無さそうだとみた。唾液でベトベトなところはあるが。

 

 

「あの時覚えておいてよかった……“体についたネバネバを取る魔法”」

 

 

 桜が女性の気の毒な姿を見て、どのような言葉を掛けるべきかと悩んでいる中、女性がふと何か呟きだした。するとどうだろうか。彼女の体にこびりついていた唾液などの粘性のあるものが全て光のように消えていったではないか。

 

 

「えっ……ま、魔法……⁉︎ 私達の他にも使える人がいたの……⁉︎」

 

「すっごーい‼︎ もしかして、貴方も魔法少女だったりして⁉︎」

 

「むふー。魔法少女ではないけど使える魔法は結構あるんだよね。まぁ、私はお姉さんだから少女という歳じゃないけど」

 

 

 女性が自分達みたいに魔法を使えるという事実に仰天する桃に対し、桜は興奮した子供のように目を輝かせた。助けた人が偶然にも魔法を容易に使える人であることに何かしらの期待を持ったのだろう。

 

 しかし、女性はまさかの魔法少女ではない模様。それなのに幾多の種類の魔法を使用できるとドヤ顔で答えた。耳が尖っているため、もしや魔族では? という考察をしていたが、耳の判断だけで魔族であるという認識してもよいのだろうかという考えにも至っていた。

 

 そんな中、桃達が自分の事が気になっていることに気づいた女性が問いかける。

 

 

「よかったら私の事について話してもいいかな? ちょうど誰かにこの町やここの魔族達の事を聞きたかったし」

 

「えっ? あっえっと……その……」

 

 

 話し合いの時間を設けないかと語る女性に対し、桃は思わず躊躇しているかのような様子を見せていた。向こうから持ち出そうとしていたとはいえ、魔族のことについても聞き出そうとしている。もしや不純な大人ではないか……そんな不穏な予感を持ちながら。

 

 

「私は大歓迎ですよ‼︎ この町の事を知りたいってことは、何か理由があってここに来たのだと思いますし、それを知りたいから‼︎」

 

「ちょっ、お姉ちゃ───」

 

「いいの? ありがとう」

 

「ウッ……」

 

 

 が、桜はそんな義妹の悩みなどお構いなしに了承した。魔族と魔法少女が共存できる町を作るために様々な人達と出会った経験があるからなのか、女性が悪い大人ではないかと悟ったのだろう。

 

 そんな桜に桃が指摘を入れる前に、女性が礼の一言を言って無意識に遮った。それによってか桃はこれ以上指摘を入れられず、流れに身を任せるしかなかった。

 

 

「あ、そうだ。私は千代田桜。こっちは妹の桃ちゃん。貴方は?」

 

「私? 私は……」

 

 

 そんな中で、桜が名乗りながら女性に名前を問いかけたため、そこで桃の意識ははっきりとしたものへと戻った。

 

 そして女性は微笑みながら、差し出された桜の手を取り握手を交わした。

 

 

「フリーレンだよ、よろしく」

 

 

 

 

 

 

 話し場を設けるために、桜の家に招かれた魔法使いの女性──フリーレン。桜が用意してくれたクッキーを一枚齧り、淹れてくれた紅茶をゆっくりと飲み干してから口を開いた。

 

 

「二人に会う前にもこの町をちょっと周ってみたけど、時々会う魔族達って心の底から優しいのが多いみたいだね。私がここに来るまでに出会ったほぼ全ての魔族とは大違い」

 

「でしょ‼︎ 私がそんな彼等を、この町を第二の故郷にしてあげたんだから‼︎」

 

「魔力を感じられるから、その量からも見て本当にこの町をそういう感じにしてきたみたいだね。高校生なのによくやるものだ」

 

 

 多摩町の魔族の人の良さに感慨したのか、フリーレンは微笑みを溢しながらそう呟いた。それを聞いた桜は言葉を砕きながら胸を張ってドヤ顔を浮かべ『私が頑張りました』アピールをした。それを見たフリーレンは、子供の成長を見守っている親みたいに再び微笑んだ。

 

 と。ここで桜が何かに気づいたのか、フリーレンにとある質問を問いかける。

 

 

「あっ。ここに来るまでにって言ってたけど、そっちが今まで出会ってきたまぞくはこの町のとは正反対のばっかだったの? なんかこう……人の社会を脅かすような大型の、とか」

 

「まぁ……見た目以外は大抵合ってる感じかな」

 

 

 そう答えるフリーレンの表情には、無表情ながらもどこか悲しみを表しているかのような雰囲気を出していた。

 

 

「私がこれまで会ってきた魔族には、この町の魔族達とはっきり違うところはあるよ。全員私が倒したし、他の会ってない魔族も多分全員滅んだと思うけど」

 

「そうなんだ……答えたかったらでいいけど、どんなのがいたか教えてくれる?」

 

 

 そんな彼女の心の奥の心境に気付いたからなのか、桜の表情はどこか険しさも感じ取れるかのように眉間を寄せた。それに気づいたフリーレンは、彼女になら伝えてもいいと感じたのか再び口を開いた。

 

 

「そうだね……まず一言で例えると、奴等は『人の声真似をして人を欺き食らう、言葉の通じない猛獣』って感じのばかりだったよ。この町の魔族達からしたらすごく失礼だけど」

 

「あっ、昔会った大抵の奴のと似てる。喋らないのがその大半だけど」

 

 

 魔族といっても全員が人間に似た姿であるとは限らず、全員が人間の言葉を話せるとも限らない。これまでにそのような魔族と出会ってきたからなのか、桜の先程までの緊張感はどこか抜けてきたのように感じた。

 

 

「多分、君達が出会ったのとは危険性のレベルが違うよ。全員喋れるし、姿も角が生えてる以外は人間と変わりないし」

 

「あ、そうなんだね」

 

「お姉ちゃん、話を受け止める姿勢が軽くなってない……?」

 

 

 話を聞いている間と受け止める時の落差があることに戸惑いを感じた桃。桜はこれでも今後のまちづくりのために様々な解決策を考察してはいるのだが……

 

 

「じゃあ、『人を欺く』ってのはどういうこと? そもそも、そのまぞく達はなんで人間を欺こうとしていたの?」

 

「それが奴等の生まれつきの習性で、人を食べて生態を保つためによく使ってた」

 

 

 齧りかけのクッキーを頬張り、フリーレンは言葉を続ける。

 

 

「奴等は社会性をほとんど持って無くて、悪意や罪悪感なんてものも皆無。社会を運営するために必要な道徳や良識なんてものも持ち合わせていなかった。だから覚えた言葉を使って弱者や善人を装い、人類に歩み寄るフリをして人間を食っていったんだ。人肉以外にも食べられるものはあるというのにね。全く、なんで奴等はあんなことを続けてきたのやら……思い出すだけでも虚しいし怒れてくるよ」

 

 

 淡々と自分がこれまでに会ってきた魔族の事を話すフリーレンには、無表情ながらもどこか怒りに満ち溢れているかのような雰囲気を出していた。その魔族達の事を批評している説明をしているからして、彼女は魔族に何か許されざる行為をされたのではないか。そう思わせているかのように。

 

 二人がそれを読み取ったのかと察したフリーレン。新しくクッキーに向けて伸ばそうとした手を引っ込め、その場で二人に向けて頭を下げた。桜の理想を否定する気はない、そう言い聞かせようとしているかのように。

 

 

「……ごめんね、魔族と一緒にいたい派な君達にこんな話をして。でも、この町の魔族達は奴等とは全くの別物みたいなのは理解してるし、さすがに見境なく殺すつもりなんてないから。そこだけは理解してもらえると助かる」

 

「いや、いいよ。私達もフリーレンさんが会ってきたの程ではないと思うけど、それなりにヤバいのと出会ってきたからね。物理的方面のばっかりでだけど」

 

 

 桜も桜で、フリーレンにも何か思うところがあるということを理解していた。そして彼女だけが人を欺き殺す程の危険性のない魔族と出会ってきたわけではないということも。

 

 魔族というのは魔獣が知性を持った生物。元々は獣から異質かつ劇的な進化を遂げているような存在に値されていることだろう。だが獣であるが故か、社会性に欠けている者は、桜がこれまで出会ってきた魔族にも数多く存在していた。

 

 つまり、桜はフリーレンにこう伝えたかったのだ。異種族、それも元から人間ではない者とは、すぐに分かり合えるとは限らない。自分はそれを実際に体験したのだと。

 

 桜もこの町を共存ができる平和な町にするまでに、様々な苦労を重ねてきたのだ。それを察知したのか、フリーレンは彼女を労わるような笑みを浮かべた。

 

 

「そっか……君も苦労してきたんだね」

 

「そりゃあもう大変だったよぉ……貴方程ではないけどね」

 

 

 フリーレンの慰めの言葉によってか、ぐてぇっと疲れたかのような表情を浮かべる桜。苦労してきた思い出をいくつか思い出したのか二回も溜め息をつく程だった。

 

 そんな彼女をよそに、桃は不審ながらもフリーレンから視線を逸らしては何度も向け直したりとしていた。何か彼女に対して思うところがあるようだが、それを聞くべきかどうかと悩んでいるようだ。

 

 それに気づいた桜が桃に気づかせるように視線を向け、目線が合ったのと同時に右目でウインクした。遠慮せず質問した方がフリーレンも変な気を遣わないはずだよ、そう伝えるかのように。

 

 彼女のそのメッセージに気づいたのか、多少の意を決した桃はフリーレンに聞きたかったという質問を口にした。

 

 

「あ、あの……フリーレンさん」

 

「何?」

 

「それで……フリーレンさんは、どうして多摩町に来たんですか? この町には種類?とか違うけどまぞくはたくさんいる。なのに誰一人と倒そうとしないから、目的が分からなくて……」

 

 

 桃がこのような事を問いかけるのも当然である。フリーレンはこれまでに会ってきた魔族を全員討伐してきた。彼等の本質を恐れているが故に、だ。桃達がこれまでにこの多摩町に避難させてきた魔族にも、フリーレンが恐れていた本質を持つ者がいてもおかしくないと思うことだろう。

 

 しかし、フリーレンは誰一人とこの町の魔族を殺していない。出会った瞬間にそういうことをしてもおかしくないというのに。そしてすぐさま桜と敵対してもおかしくないというのに。

 

 フリーレンが今何を考えているのか。桃はそれを不審に感じ、同時に恐怖を感じていた。これまでにこの町の魔族を殺してこなかったのは、調査のために敢えて一度見逃し殺さないことにしたのではないか……そんな不安が桃の脳内に過ってきてしまっているようだ。

 

 

「目的、か……そうだね」

 

 

 新しく淹れてもらった紅茶を一口飲み、フリーレンは答える。

 

 

「この町の魔族の生態云々についての調査ってのもあるんだけど……一番は、旅の仲間が諦めてしまった可能性を、今度は一から自分の目で信じたくなってきたから、かな」

 

「旅の仲間……?」

 

「あ、気にしないで。こっちの話」

 

 

 何やら引っ掛かる言葉に気づいた桃をあしらい、フリーレンは続ける。

 

 

「私もね、昔は一人は人間と共存できるんじゃないかと思っていた魔族がいたんだよ。まぁ、旅の仲間のお願いに促されたから、最初は乗り気じゃなかったけどね」

 

 

 否定気味だったと呟いていた時の彼女の表情は、少し曇っていた。魔族に対して少なからずよく思わずにいた彼女だからこそ、その時の仲間の判断には賛成することはできなかったようだ。

 

 それでも、その魔族と過ごしてきた時間は悪い気分にはならなかった模様。その時の出来事を思い返していたからか、表情の曇りは少し晴れていた。

 

 

「村で過ごしていく内に少しずつ、馴染めてる気がしたこいつなら大丈夫なんじゃないかって思えてきた……けど」

 

「けど……? 何かあったんですか?」

 

 

 晴れかけていたフリーレンの表情が、再び曇りを見せ始める。まるで今まで信じてきたものが崩れ落ちたのを目の当たりにしたかのように。

 

 

「結局、あいつも私がこれまで会ってきた奴等と同じだった。奴が食べた子の両親が向けてくる敵意の視線を疎み、村長の娘を代わりの子供として差し出すことで二人の怒りから逃れようとして、村長夫妻を殺したんだ」

 

「ッ‼︎」

 

 

 ふと、桃は自分の背筋が一瞬にして凍ったのを感じた。魔族が自分の罪を帳消しにするため、人を殺し別の罪を犯した……そんな許されざる行為をした魔族がいたという事実に、どう受け止めるべきか分からなくなってきたようだ。

 

 彼女のそんな心境に察しがつくも、目線を一度配っただけで敢えて何も言わないことにしたフリーレン。再び桜の方に視線を変え、言葉を続ける。

 

 

「やっぱりこうなるのかとは思っていた。けどそれ以上に、信じられるようになってきたものが裏切られた気分にもなって……本当はどういう気持ちでいればいいのか分からなくなったんだ。結局、諦めて村長の娘を助けるために奴の両腕を斬った仲間に看過されて、そいつを殺すことにしたけど」

 

 

 仲間の意向から魔族の見方が少しでも変わるのでないかと可能性を信じていたものの、それが無意味となってしまったことに無念さを感じていたフリーレン。

 

 最終的には仲間に続いて退治することになったが、振り返ってみれば、共存できる可能性を最初に信じていた仲間の気持ちをも裏切ってしまっているのではないか……と薄々感じてもいたようだ。

 

 

「今度はあの時のようにはならないのかと思うようになったのは最近だよ。私が出会ってきた魔族とこの町の魔族……奴等は同じ魔族でも種族が違うんだってことを、怪しげな図書館に置かれてた本で知ったんだ。最初は信じられなかったけど、不意にさっき話したことを思い出して、それを確かめるためにこの町を訪れることにしたってわけだよ」

 

「怪しげな図書館でそんな本を……あの子みたいなのが経営しているのかな……」

 

 

 引っ掛かりのある言葉を聞いて思わず苦笑いを浮かべる桜だったが、我に返って真剣な表情に戻ってフリーレンの話を続けて聞こうとする。無表情な彼女から出してくるとは思っていなかった感情を読み取ったからこそ、すぐに気持ちの切り替えができたのだろう。

 

 不意に、フリーレンの顔から笑みが零れた。それも嬉々としたものではなく、苦笑に値するものだった。

 

 

「よく考えてみれば、自己中な話だよね。そいつも人を殺したからとはいえ、共存できると思ってた奴を『仕方なかったから』って理由で殺しておいて、また共存できるのかどうかを確かめるようなことして……こんな性格をこの町で出していいわけないの、自分でも分かっているのにね」

 

 

 そう思うのは自分らしくないってのもあるけどね。最後にそんな事を小声で呟きながらも、今の自分がしていることに馬鹿馬鹿しさを感じているかのようなことを呟くフリーレン。

 

 これまで魔族に敵意を向けてきた自分が、人間と魔族が本当に共存できる時代が来るのではと想像すること自体おかしいのではないか、とも自覚していたようだ。

 

 

 

 そんなフリーレンの頭を、桜は突如として撫で始めた。我が子の悩みを受け入れようとする聖母の如く。

 

 

 

「……何?」

 

「あ、ごめんね。悲しそうな顔を何度もしていたものだから、つい」

 

 

 決して他意などない愛撫。それがフリーレンの心に大きく響くとは限らないものの、先程まで悲しみを抱えている表情をしていた彼女を、只々見ているだけに済ますことは、桜にはできなかったようだ。

 

 

「悲しそうな顔を、何度も……? 私、そんなに顔変わってた?」

 

「あぁ、やっぱり自覚なかったんだね」

 

 

 当の本人は自分の表情が何度も変わっていたことに気づいていなかったようだが。それ以上の指摘をする必要がないと思っているのか、桜は自分の意見のみを述べることにした。

 

 

「フリーレンさんはすごいよ。人々のためにまぞくと何度も闘ってきて、それでいて、苦い過去に苛まれながらも時代の流れに合わせて共存することを真剣に考えようとして……長く生きていなきゃ、そこまで悩み苦しむなんてことはできないよ」

 

 

 そう語る桜の表情は慈愛に溢れていた。長年魔族に対して重い過去を持ち毛嫌いしているフリーレンが、人間だけでなく魔族の事も考えながら対応を変えようとしている。普通の人ならばできないことをやり遂げようとしている彼女に、桜は心を打たれたようだ。

 

 が。フリーレンは共感された喜びを表しているかのような表情を見せなかった。何故。

 

 

「それって遠回しに私の事をおばあちゃんだと思ってる?」

 

「いやそういうわけじゃなくて」

 

 

 年寄りに関する呼び方は嫌……というよりは禁句なんだな。睨んできたフリーレンを見て桜はそう苦笑いを浮かべた。

 

 

「というか、どうして私が長生きしていると思ったの? 見た目は普通のお姉さんと変わりないのに」

 

「どちらかというと十代前半っぽいけど」

 

「前半の方か……それはそれでなんか複雑」

 

 

 若者に見えた事に嬉々とはしているものの、想像していた若者扱いの年齢の認識が異なっていたことに不服さも感じていたフリーレン。そんな苦い表情を浮かべている彼女を見て桜は苦笑するも、止めていた自身の意見を繋げる。

 

 

「旅っていう言葉が出たからにして、貴方が出会ってきたというまぞくは、遥か昔からいた存在なんだよね? なのに貴方はその者達と実際に会ってきたって話をしていた……ならかなり長生きしていると思う他ないよ。尖っている耳からして普通の人間ではないことは明らかだし」

 

「あっ……」

 

 

 そういえばそんな事を呟いていたんだった。ふと口にした言葉から察しを突かれていたという事実に、フリーレンは自分のその時のうっかりに多少の恥ずかしさを感じたのか言葉を漏らし、溜息をついた。

 

 

「……察しがいいことで」

 

「伊達に魔法少女をやってないからね‼︎」

 

 

 フリーレンの指摘によって自分がある程度偉大であることに気づいてもらったと思ったのか、再び胸を張り『私はすごいんです』アピールをする桜。人の心に響くことを言っておいて時々自慢気になる、それが千代田桜であるのだ。

 

 そしてすぐさま笑顔ながらも真剣さのある表情となり、フリーレンに伝えようとしている言葉を続ける。

 

 

「話を戻すね。フリーレンさん……過去と現在(いま)について悩みに悩む人は強いよ。それほどまでに他人の事を思いやれているんだってことが、こちらにもはっきりと伝わってきている」

 

 

 自分よりも誰かのためにしてやれることができている。言葉だけでもそれが伝わってきている。桜はフリーレンへの賞賛の言葉を嘘偽り無く伝え、その意思を助長するかのように……彼女に手を差し伸べた。

 

 

「だからね。これからもみんなの事を想うことを変わらず続けていって、それで今後まぞくの事とかで思い悩んでいることがあったら、一人で考えないで遠慮せず私や桃ちゃんに相談して? 独断でまぞくを退治しないでほしいっていう欲はあるけど、それ以上にまぞくを何かしらの形で想っている人と話せることは素敵なことだと思うから」

 

「桜……」

 

「さぁ、この手を取って。そしてお互いみんなのために協力し合おうよ、フリーレンさん。その新しい第一歩をを踏み出すきっかけを、私に作らせて」

 

「……‼︎」

 

 

 差し伸ばしている腕を主張するように強く伸ばし、フリーレンに向けて満面の笑みを浮かべる桜。

 

 その表情を見たからなのか、はたまた彼女の言葉のどれかが強く響いたのか、フリーレンは桃と桜に初めての表情を見せた。今まで細めていたままの瞳孔が開いていた。

 

 

 

『手を取れフリーレン。君が旅立つきっかけは、この僕だ』

 

 

 

 フリーレンは不意に重ねたのだ。手を差し伸べている桜の姿をフリーレン自身の心に最も残る人物と。

 

 そして何を思ったのか、フリーレンは微笑みながら桜の差し伸べた手を取った。

 

 

「……なんだろうね。その誘い方、ヒンメルに似てる気がするよ」

 

「ヒンメル? それって貴方の旅の?」

 

「うん。最初の仲間で魔王を倒す勇者をやっていて、これまでの旅の仲間の中で一番印象に残っている人だよ。その存在の大きさに気づいたのは、彼等との旅が終わってしばらくした内に、だけどね」

 

「勇者⁉︎ すごいね⁉︎ そんな人までいたんだ⁉︎」

 

 

 桜とフリーレンがヒンメルという勇者について語り始める中、先程まであまり会話に参加できていなかった桃は目を輝かせていた。フリーレンの心を開かせた桜にも、フリーレンにも。

 

 

「(別種のだけど魔族を嫌ってそうで、さっきまであまり表情をはっきりと表に出さなかった人が、あそこまで姉に心を開くなんて……やっぱりお姉ちゃんはすごい。そして、色々な事を真面目に考えてくれているフリーレンさんも……)」

 

 

 様々な事ができそうな二人を、羨ましく思えた。カッコいいと思えた。とにかく二人に注目してしまい、その輪に入りたいと思うようになった。様々な感情が桃の身体中を巡らせ、主に心を熱くさせていった。

 

 

「(なんだろう……この人とは、色々と話したくなってくる……)」

 

「桃……だったっけ」

 

「うえっあっはい。な、何でしょうか?」

 

 

 親交を深めたくなったと感じ始めた桃に、フリーレンから声を掛けてきた。思わず変な声で返事をした桃は、反射的にその方向へと振り向き何か用かと問いかける。

 

 緊張気味な桃に対し、フリーレンは友好的である事を証明するかのように優しく微笑みかける。

 

 

「よかったら、君ともおしゃべりしてもいいかな? 魔法少女になった経緯とか、魔法少女についても聞きたいから」

 

「……‼︎」

 

 

 親しく話し合ってみたいと思っていた人からの誘い。それに躊躇いや恥じらいのない状態で断る人なんているのだろうか。否、断じてそれはない。

 

 

「は、はい‼︎ お願いします‼︎」

 

 

 こうして、フリーレンが住居としている町に戻るまでの一ヶ月間、彼女との交流を重ねていくのだった。

 

 その数週間後に、とある災厄によって桜ともお別れすることも知らずに───

 

 




『葬送のフリーレン』の勝手な解釈がありましたが、ヒンメルに自分が変わるきっかけを作ってもらったフリーレンだからこそ、実はこう思ってるんじゃないかなって思うんですよね……寧ろそうであってくれ、頼むから。
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