偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
今回のフリーレンさんはある意味はっちゃける……かも?
「───っていうのが、私とフリーレンさんの馴れ初めだよ」
「うん、実に懐かしい思い出だね」
悪霊を退治した後、白哉達は帰り道にてにフリーレン一行と会話をすることになり、そこで桃とフリーレンが初めて出会った時の思い出を聞き終えていたところだ。
フリーレンがこの多摩町をどう思っているのか、魔族が二種類いたことについて、など……様々な事を話している内に、白哉達は次第にその話の内容に心を惹かれていっていた。
「フリーレンさん……まぞくの事を色々と考えてくれてたんですね……‼︎」
「それに何やら辛い過去を持っているらしいのに、それでもこの町のまぞくを滅ぼそうとしなかったなんて……貴方はいい人だ……‼︎」
「大袈裟だなぁ……でも、もっと褒めてもいいんだよ」
シャミ子や白哉からの賞賛を受け、むふーっとドヤ顔をするフリーレン。自分の偉大さが彼等にも伝わってきたという事実に喜びを感じたのだろう。
「待ってください」
だが、そんな今の彼女を喜ばしくないと思っているのか、そこに待ったをかける者が。フリーレンの旅の仲間であり弟子でもあるガタルフである。
「先程までの話からして、フリーレン様が確かに魔族の事もお考えになられていることは分かりました。ですが、だからといってあまりフリーレン様を褒めすぎてはなりませんよ。返って調子に乗って変なことをしかねない時がありますので」
「えっ。お、おう。気をつけるよ」
眉間に皺を寄せながら、真面目で真剣な眼差しを向けながら指摘するガタルフ。白哉がそれに了承すると、フリーレンは『えっ?』と言っているかのように呆けた表情となって二人を交互に見やる。
「ちょっと? ガタルフ、余計なこと言うのやめてくれない?」
「事実ですので。この間だってフリーレン様、商店街の福引きに参加なさっていた時、“紙の裏に隠された内容を見ることができる魔法”を使って二等を当てた後に『今の私なら魔法無しでさらに一等も当たる気がする』と調子に乗った結果、残りの福引券を全て無駄にしたではありませんか」
「ウッ。そ、それは……ズルしてるのがバレるかもという可能性もあって……」
これ以上の余計な事──自分の失態を言われるのを防ごうとしたフリーレンだが、ガタルフに実際調子に乗って失敗を犯したのではないかという実体験を思い返され、眠そうな糸目のショボン顔でくっつけ合った人差し指をもじもじとさせながら言い淀んでしまった。
そう、これは図星だ。フリーレンは弟子に図星を突けられたのだ。哀れ。
「えっと……だ、大丈夫ですよ。他にも気の抜けたことをしている人はたくさんいますから。私も色々とうっかりしてる事があるので、多分大丈夫かと」
「う、うん。フォローありがとうね……」
さすがにフリーレンが可哀想だと感じたのか、シャミ子がある程度できる限りのフォローを掛けて少しでも彼女の心を軽くしようと声を掛ける。少しばかり良い結果が出たのか、フリーレンはショボン顔──しょぼしょぼ顔のままながらも晴れやかな感情になったかのように顔色が明るくなった。
ここで白哉も、フリーレンになるべくのフォローを掛けようと決めたのかここで挙手をした。
「あ、あの……そういえばフリーレンさんって、色々な魔法が使えるんでしたっけ? えっと、その……是非それらを俺達に見せてもらえませんか……なんて」
「あ、それならいいよ」
「即答ッ⁉︎」
途中から余所余所しい頼み事をする白哉に対し、フリーレンは僅かコンマ一秒も満たずに了承の返事をした。自身の魔法をそう易々と披露してもいいものなのかと、白哉は自分から依頼しておいて不安に感じたようだ。
「何をそんなに驚いてるの? ここは魔法少女だろうが魔族だろうが寛大に受け入れる多摩町でしょ? つまりは、そのどちらかでもないのに魔法が使える者でも、平等に仲良くしてくれる人がたくさんいる。そんな人達に魔法を見せても、差別とか悪意のある拡散とかが起きるはずないと思うけど」
「そ、それは……そうなんでしょうけど……」
前にも一度訪れた多摩町だからこそ、フリーレンはその住民達がどのような者達なのかも理解している。そして理解しているからこそ、自分が取れる行動がどんなものなのかも把握できている。それ故に、フリーレンは魔法を見せてほしいというお願い事も快く引き受けられるのだ。
そして何より。
「この場にいる初めての顔触れの子達が、みんな桃とは結構仲が良いみたいだしね。親交を深めるにはもってこいだとは思ってる」
「そ、そうですか……」
ただ単に、桃の友人達との交流もしたいとも思っているようだ。この町で一番最初に心を許した魔法少女の妹の友人達であるからこそ、フリーレンも彼等に心を許せると感じたのだろう。
そんな中、フリーレンの旅の仲間の一人・ナディアが一つ大きな欠伸をしてきた。時刻も時刻であってか、眠気が近いのだろう。
「フリーレン様ァ〜……それは私も大賛成なんだけど、披露するのは明日にしようよォ〜……私もう眠いィ〜……」
「まぁ、それもそうだね。そろそろ予約したホテルに行こうか。連絡しておいたとはいえ、これ以上ホテルの従業員を困らせるわけにはいかないし。何より桃達には充分に休みを取ってもらいたいしね」
「そうですね」
時間帯と周囲の疲れを取るためということで、フリーレン一行は一度白哉達と解散して予約していたというホテルに泊まることにしたようだ。
「ごめん、魔法のお披露目は明日にするね。だから誰か
そう言いながらフリーレンはスマホを取り出し、RAINEのアプリを開いてそれを白哉達に見せつけてきた。自分のアカウントを誰かのアカウントに登録してほしいというメッセージである。
「あ。じゃあ私が先にやって、後で皆さんにも登録するように……というかフリーレンさん、RAINEやってたどころかスマホ持ってたんですね」
「私をなんだと思ってるのさ? 私が時代の流れに遅れてないのは魔族の歴史についての認識だけじゃないんだよ?」
「そ、それは……すみませんでした……」
シャミ子は恥じた。心の何処かで、フリーレンが時代の文化に追いつけていないのではないかと不安がっていたことに。彼女が遥か昔の時代から生きていたと言っていたのだ、そう思えてしまうのも無理もない。
「まぁいいや、共有お願いね。忘れずに全員友達登録しておくから」
「は、はい……わかりました……」
シャミ子の心境などをこれ以上の詮索する必要がないと判断したのか、フリーレンは彼女に早く登録するようにと促した。その流れに合わせるように、というよりは流されるようにシャミ子はフリーレンのアカウントを登録した。
そこはもうちょっと怒るべきではなかったのだろうか、そんな複雑な感情を持ちながら。
「それじゃあ、私達はここで失礼するね。みんなも回復能力を受けたからといって万全な状態になれるとは限らないと思うから、充分に休んでおいてね。桃もまたね」
「あ、はい。お疲れ様でした」
流されるかのようにフリーレン一行がその場でホテルのある帰路を渡っていったため、白哉達もその場で解散することとなった。
しばらくして、フリーレンのRAINEアカウントを登録したシャミ子が彼女のアカウントを白哉達に共有し、全員が友達登録をすることとなった。
ちなみに。
「あっ」
「フリーレン様、どうかなさいましたか?」
「桜や今のこの町の魔族達が、今どこで何をしてるのか、聞くの忘れてた。さっきあの場にいなかったし、というか魔族達も見かけなかったような気が……」
「明日聞けばいいんじゃないの? タイミングがタイミングだったってのもあるし」
「まぁ、それもそうだろうね」
とあるホテルの一室では、フリーレン一行は上記の通りの会話をしていたのだった。
♢
翌日。フリーレンが魔法を披露するという約束を果たすために、桃に集合場所をどこにするのかのメッセージを送ったため、いつもの廃工場へと集合することになった。
そこでは白哉・シャミ子・桃・ミカン・拓海・ウガルル・柘榴といった昨日の除霊任務に出ていた者達に、フリーレンの魔法に興味を示してついて来た小倉と、彼女に半ば強引に連行された全蔵もいた。全蔵、また小倉によって巻き込まれる。
「なんだろうね、演劇の人みたいにみんなの前で立つのも悪くない気がしてきたよ」
後ろでガタルフとナディアに見守られながら、フリーレンは工場の跡地にて白哉達の前に浮遊して立つ。浮いているワケは、これも彼女が使用できる魔法の一つであり、彼女はその飛行魔法を発動させているのだ。
皆が皆、突然フリーレンが飛行魔法を使用した事に驚く中、白哉とシャミ子は何やらヒソヒソと話し合っていた。
「フリーレンさんの使う魔法って、一体どんなんだろうな?」
「あの激強悪霊を倒したんですし、あの時に使ったのと他にもすごい魔法があったりするのではないでしょうか?」
どうやらフリーレンの使う魔法にどのようなものがあるのか、そこが結構気になっているようだ。悪霊──リュグナーとの闘いでも派手な魔法を使用していたのだ、期待値が高まってしまうのも無理もない。
「それじゃあ、早速いくね。ナディア、例のものを」
「はーい‼︎」
フリーレンがナディアに何やら指示を出したかと思えば、彼女はこの場にいる者達の人数に数を合わせた、透明なガラスの容器をトレーに乗せながら運んできた。
「(容器?)」
「(しかも透明で、何やらかき氷とかに使いそうな……)」
一同が何をする気かと首を傾げていると、フリーレンはその容器達の上に杖を翳した。
するとどうだろうか。その杖が白く光ったのと同時に、雪のような氷が出て次々と容器の中に入っていったのだ。
「はい、まずはこの“かき氷を出す魔法”。ちなみに冬の季節に合わせてふわふわ仕様だよ」
「「………………………………えっ?」」
これが最初にフリーレンが披露した魔法。派手どころか戦闘向けの魔法ですらなく、ただの民間魔法である。予想していたのとは全く異なる魔法が発動されていたことに、白哉とシャミ子は思わず気の抜けた声を漏らしたが。
『………………普通にすごく美味しそう……』
思わず他の一同同様に、魔法によって出されたかき氷に対して率直な感想を上げてしまった。天然由来の成分が入っているらしかったため、呟かずにはいられなかったようだ。
「みんな、かき氷で食べたい味は何? “かき氷に合うシロップを出す魔法”もあるから、それらに合わせてかけることもできるよ」
「あっ。じゃあ私はレモン味で‼︎」
「えっと……ピーチ味のシロップとかは?」
「できるよ。食べれたらいっぱい食べてね」
桃達にかき氷にかけるシロップは何がいいかと問いかけ、それぞれのリクエストに答えながら“かき氷に合うシロップを出す魔法”を発動させていくフリーレン。最早これは魔法のお披露目会ではなく、冬のかき氷パーティーである。
今置かれている状況に白哉とシャミ子が呆然としていると、そんな二人に気づいたフリーレンが声を掛ける。
「あっ、そこの二人。今『なんで派手な魔法を使わないのだろう』って思ってたでしょ」
「ウッ⁉︎」
「あっいや、そのォ……」
図星を受け焦りを見せる二人。魔法を見させてもらっている身分で失礼なことを考えているのではないかと思われていることを危惧しており、どのような返答をすればフリーレンを傷つけずに済むのかと悩み始めた。
そんな二人の心境を悟ったかのように、フリーレンは言葉を繋げる。
「民間魔法から見せていくのにはちゃんと理由があるよ。魔法ってのはパフォーマンスでもあるんだ。大技の披露は場を盛り上げるために、なるべく最初には出さないようにしている。いきなり大技を見せたら後がつまらなくなるでしょ」
「「あ。あぁ……」」
フリーレンは理解していたのだ。イベントなどで何かを披露するのに大事なことは何かを。その上で披露する魔法の順番を決めていたのだ。
魔法で作られたシロップ付きのふわふわかき氷が全員に渡ったのを確認し、フリーレンは『よし』と軽く胸を張る。
「それじゃ、みんなに楽しく見てもらえるようにかき氷を用意したところで」
「あれらでポップコーン代わりを用意してたの?」
「ここからしばらくは民間魔法を中心に披露していくから」
そう宣言しながら、フリーレンはさらなる魔法を白哉達の前で見せた。“カビを消滅させる魔法”や“しつこい油汚れを取る魔法”などの生活にかなり便利なもの、さらには“体から良いにおいが出る魔法”といったもので周囲を思わず驚かせたものまで使用した。
そして何を思ったのか、フリーレンは突然シャミ子に不可避な魔法の光を当て、カンペを取り出しその一ページを開いて見せた。
「はいシャミ子、これら全部を何も考えずに素早く連続で言ってみて」
「えっ⁉︎ あ、いや、えっと……ゆ、『輸出車輸出湯輸出酢』‼︎ 『暴走車掌、車窓清掃中』‼︎ 『交響曲歌曲協奏曲』‼︎ 『上流の蒸留水取水場で事情聴取』‼︎ 『打者走者勝者走者一掃』‼︎ 『この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけた』‼︎ 『歌唄いが来て歌唄えと言うが歌唄いぐらい歌唄えれば歌唄うが歌唄いぐらい唄えぬから歌唄わぬ』‼︎ 『親も嘉兵衛子も嘉兵衛親嘉兵衛子嘉兵衛子嘉兵衛親嘉兵衛』‼︎ 『豚が豚をぶったらぶたれた豚がぶった豚をぶったので、ぶった豚とぶたれた豚がぶっ倒れた』‼︎………………………………ん? アレ?」
唐突に書かれているもの全てを素早く言えと命令され動揺しながらも、言われるがままに難しいとされている八種類の早口言葉を言うことになったシャミ子。
しかし不思議なことに、彼女はどれも微塵も噛まずに、全て言い遂げてしまった。これには本人も成功したことに唖然としていた。
「むふー。これぞ“ものすごく早口に澱みなく喋れる魔法”。これさえあれば早口言葉だってこのように喋れるよ」
「それ、かなり役に立つ場面とかなくないかしら……? 早口言葉がスラスラ言えるようになるのはすごいけど」
「コラそこ、聞こえてるよ」
「あ、ごめんなさい……」
ミカン、思わずその魔法はあまり意味ないのではないか発言を呟いてしまう。なるべくフリーレンの耳に届かないように呟いてはいたものの、やはりバレないものはそう易々とないもの。指摘されて謝罪の言葉を述べるしかなかったのだった。
「魔法ってのはね、使えてその能力を発揮できるだけ偉大なんだよ。役立つ役立たないとか、使う機会があるのかとかどうかなんて関係ない。ただ常識では絶対に使えないものが使えるだけすごい。魔法というのは本来そういうものなんだよ」
「あっ………………そ、そうでした。本当にごめんなさい……」
この時、ミカンは思い出したのだ。自分達が魔法やそれに似た能力を使えるだけで、本来それは他の者達が実際に使えるものではないのだということに。そして恥じたのだ、何故そんな当たり前なことを忘れていたのだということに。
だが、フリーレンは『わかってくれればよろしい』と言っているかのようにあまり気にしてない様子である。一つ咳払いをし、杖を構え直す。
「さてと、次の民間魔法を……と、いきたいところなんだけど」
『?』
何やら焦らそうとしているかのような発言をしたフリーレンに、一同は思わず首を傾げた。一体どうしたのだ、と。
「私がこれまでに覚えてきた民間魔法ってかなりの数があるんだよね。下手したら攻撃魔法の四倍くらい……いや、それ以上なのかも。それに発動するのに様々な条件が必要な物も結構あるし、全部見せるとなると準備とか色々あって長くなっちゃう」
魔法は発動できるからといって易々と使えるものではない。発動するに至って魔力──所謂特殊な体力の一種だけでなく、その魔法によって発動させるのに必要となる物もある。
その複雑な条件のある魔法も全て、必ず見せなければならないとなると、その場で用意できていないものも急遽準備する必要があり、体力に負担がかかるだけでなく準備する時間の消費も必要となってくるのだ。
それらの条件も考慮するとなれば、フリーレンも全ての魔法の披露を躊躇ってしまう。別の機会で披露する魔法との分担をする必要があるのだ。
だから、とフリーレンが一言呟くと、白哉達に向けて問いかける。
「というわけで、これから攻撃魔法のお披露目といきたいんだけど、誰か私と軽く闘いたいとかいう人はいないかな? 実際に体験するのも魔法の醍醐味ともいうだろうし……どう?」
『えっ?』
ここでまさかの模擬戦がてらで攻撃魔法を披露すると宣言してきたフリーレン。しかも自己申請する形で白哉達の内の誰かと勝負するとのこと。
だが相手は世間から忘れられた時代からずっと生きているベテラン魔法使い。それも老化の影響を全く受けない種族の一人で、戦闘にかなり長けている。
そのような偉大で強敵な魔法使い相手に自分から『勝負します』と言える程の勇気など、白哉達にあるはずがなかった。フリーレンの誘いに誰も乗る気にはなれなかったのだ。
そんな中でたった一人、強く主張するように挙手する者がいた。桃である。
「良ければ私が相手をしましょうか? 特訓の一つとして模擬戦──手合わせを受けたことはありましたけど、かなり手加減されていて本気で相手してもらったことなんてありませんでしたから」
「あぁ……つまりは、私をその気にさせるためのリベンジ、とでも言いたいのかな?」
「そうなります」
どうやら桃はリベンジがてらでの要望を持ち掛けたようだ。それを聞いたフリーレンは『ふむ』と呟きながら、顎に握り拳を作った手を当て、承認するかどうかの思考をする時間に入った。
桃の言う通り、フリーレンは十年前、桃の特訓のために彼女の要望から手合わせをしたことがある。だがその時の桃は魔法少女になったばかりで、まだ小学校低学年。子供相手に本気になる程フリーレンは道徳の無い人でなしではない。そのため桃に本気での相手をしたことがないのだ。
余談だが、ガタルフも小学六年生でまだ充分な子供であるが、一度だけ本気で手合わせしたことがある。本人から『魔法の高みを見たい』と頼まれ断ろうとしたものの、フリーレンがまだ読んだことのない民間魔法の魔導書を餌にされ、悩みに悩んで渋々了承したからだ。結果、ガタルフはズタボロになり彼の両親に自分から謝り倒す羽目になったが。
そして現在、桃は高校生。桜の代わりとして町を密かに管理している程の実力を持っている。そんな彼女からの全力での再戦の要望に答えぬべきか。
否、了承するには充分と言っていい程の頃合いだ。杖を桃に向けるように改めて構え、戦闘が可能な態勢に入る。
「いいよ、受けて立つ。こっちはもう闘う準備は出来ているから、いつでもかかっておいで」
「ありがとうございます……では」
了承をもらい、白哉達に被害が出ない位置まで移動してフリーレンと対峙する桃。そしてすぐさまフレッシュピーチの姿へと変身し、ハートフルモーフィンステッキを構える。
「あ、前にも見た方の衣装。というか、リュグナー達と闘ってた時の戦士っぽい格好にはならないんだね。アレもカッコ良くていいと思ったんだけど」
「この前のリベンジということで、まずはあの時と同じフォームになって初心に帰ろうかと思いまして。それに戦闘中のフォームチェンジもできないかやってみたくなったので」
「何処ぞの特撮ヒーローものなの?」
フリーレンが今の桃の戦闘フォームについて問いかけ、桃がその姿になった理由を明かす。その最後で以前テレビ番組で観た内容を思い出したのか、フリーレンはオレンジ色の矢印の形の目をした水色の仮面の戦士を連想しながらそう呟いた。
今更すぎるけど、ガッチャー○放送終了おめでとう。冬映画も頑張ってね。
「とりあえず、早速こちらからいかせてもらいます」
「あ、うん。いいよ」
先手必勝と言わんばかりに宣言する桃。前方に左手とハートフルモーフィンステッキを翳せば、そこには魔力とも言える光の球体が桃の身長よりも少し大きめに生成された。それを桃はハートフルモーフィンステッキでフリーレンに向けて打ち飛ばす。野球の練習でいうノックかよ。
「フレッシュピーチバッティング‼︎」
「おっと」
ノックだった。フリーレンはそれを六角形のバリア──防御魔法で軽々と防ぎ、その場で球体を爆破・消滅させた。衝撃の強さは例えるなら風圧のように襲い掛かる音波というべきか。
「これが昨日にも見せた防御魔法で、これが一般攻撃魔法だよ。
白哉達に今発動した魔法が何なのかを軽く教えながら、フリーレンは杖から一筋の光の奔流を放つ。それを桃が素早く回避すると、その奔流が当たった地面はめり込みクレーターが生まれた。
ならば連続でならどうだと、続けて
回避を繰り返すだけで反撃してくる様子のない桃を見て、フリーレンは疑問に思ったのか首を傾げた。
「攻撃を跳ね返す技とかはないの? 魔力の消費を抑えるため?」
「それもありますが、さっきの魔法が相手なら走って躱した方が効率いいので」
「言ってくれるね」
まるで自分が遊ばれているようだ。フリーレンはそう感じたのか、思わず苦笑を溢す。特訓をつけていた頃は自分が桃の事を遊んでいるかのような立ち位置であったはずなのに、今度は自分がその立ち位置にいるのか。そんな今の自分が馬鹿馬鹿しく感じたようだ。
「だったら、回避が難しい広範囲の魔法で対処すればいいだけのことだ。
これなら避けられまいと、今度は溢れんばかりの業火を放つフリーレン。その範囲は走っての回避が間に合わない程に広がっており、下手すればその業火に飲み込まれることだろう。
「そう来たか……‼︎」
ならばこれでどうだ。桃はそう思ったのか、走っての回避という選択肢を捨て、その業火と対峙する。ハートフルモーフィンステッキを弧を描く振り翳せば、その形の桃色の光が生まれ、障壁となって桃を業火から塞いだ。
業火が収まれば、桃の身体は火傷することなく無傷であることが窺える。それを見たフリーレンは『やるじゃん』と微笑む。
「……それも技かな?」
「まぁ一応、そんな感じですね。炎を完全に防げましたし。それよりも……」
今度はこちらの番だと言うかの如く、桃は徒競走でいうクラウチングスタートの体勢をとり始めた。そして勢いをつけて走り始め、跳躍してフリーレンに向かって前方に両足を突き出した。
「フレッシュピーチクラウチングキック‼︎」
「それただの走りながらの蹴りじゃ……?」
これぞまさに、本格的な助走をつけてからの飛び蹴りである。肉体での戦法も強いとはいえ、魔法少女が暴力技って……そしてフリーレン、しっかりとその事に指摘を入れる。
「まぁいいや。
桃の足裏がフリーレンの身体に届きそうになった途端、巨大な石が壁となるように積み立てられ防がれてしまう。それも蹴ったことによる亀裂が作られることもなく。硬度は岩どころか鋼というべきか。
蹴りを入れての跳躍で後退し、一度距離をとる桃。着地ひしてフリーレンのいる方向へと巻き直せば、そこには彼女の前に立っている、巨大な石で積み立てられたことによって形成された人型の何かが。石の人形──謂わばゴーレムである。
「悪霊との闘いで見せなかったものを……」
「あそこで使ってたら近くの神社も壊しそうだなと思って、使うのを躊躇ってたんだよね。……あ、そんなことよりも桃」
「? なんですか?」
昨日の悪霊との闘いでフリーレンが使用しなかった、ゴーレムを生成する魔法を使用してきたことに驚きを隠せずにいる桃。そんな中、何かを思い出したのか桃に何か語りかけようとするフリーレン。
それに気づいた桃が首を傾げながら『何だ』と問いかけると、何故かフリーレンは目を逸らした。何故伝えようとしていることを躊躇うのか、そう疑問に感じていると、フリーレンは視線を桃の方へと向き直し、口を開く。
「さっきの蹴りでパンツ見えてたから、気をつけて」
「ッ⁉︎」
『ブフッ⁉︎』
桃、思わず顔を真っ赤にする。観戦していた一同、思わず吹いた。だがフリーレンが下着見えてる発言をするのにも一理ある。
フレッシュピーチの時の姿の桃の下部分はスカートとなっている。そんな状態で飛び蹴りをしたとなると、その中からパンツが見えてしまうのも仕方ない。そしてそこに指摘を入れてしまうのも無理もない。
女性というのは、下着や自分の肌が見えてしまうと恥じらいを覚えてしまう。そうなってしまう状況を自ら作ってしまうとなれば、本人の貞操概念諸々の認識が歪んでしまう。そのような状態にしたくないがために、フリーレンは指摘したのだ。
「あ、貴方にデリカシーというものはないのですか……‼︎」
「それはごめんだけど、君自身の闘い方をなるべく直せるようにしてほしかったから言わざるを得なかったよ。後、あんなことする君に羞恥心がないのかなって思ったから、試しに聞いてみようかなって」
「や、やっておいて確かにアレでしたけど、私にだってちゃんと羞恥心はありますよ……!!」
今思い返せば……という恥ずかしさのある自覚はあったものの、実際にその事を口にされ、自己愛憤怒のある怒りを覚える桃。そしてさらに怒りを募らせた。自分はフリーレンに恥じらいのない女だと思われてたのか、と。
「あぁもう、なんかむしゃくしゃしてきた……‼︎ 桃色の鉄球投げ風瓦礫飛ばし‼︎」
桃、ここでやけくそかつ八つ当たり気味な攻撃を仕掛ける。近くに転がっていた巨大な瓦礫を軽々と持ち上げ、魔力を用いて桃色の光を纏わせそれをゴーレムに向けて投げつけた。
石と岩+鉄、硬度の高さはどれが一番なのかは明らかである。そして投球力と魔力による力が合わさっていることによって、投げ飛ばされた瓦礫の威力は普通のよりも異常なまでに高い。それが石にぶつかるとどうなるのか……結果も明らかだ。
「ただ瓦礫を投げ飛ばしてるだけじゃん……まぁいいや、
だがそれを許すフリーレンではない。ゴーレム顔面の位置から魔法陣が浮かび上がり、そこから雷撃が放たれる。それは稲妻の如く尋常ではない速さで瓦礫と衝突し、巨大な爆発・爆風・爆煙を起こした。
「ッ……‼︎」
「ちょ、なんか落ちてきてねェか……?」
「えっ? わァッ⁉︎ 危ないです危ない危ない危ない危ない‼︎」
桃が爆風による衝撃と風圧に耐えている中、瓦礫の破片が次々と白哉達の元へと降り注ぎ始めた。破片だけでも小惑星並とも言える大きさでの降下であるため、危険性が高い。
「あ、ヤバッ。これはみんなも巻き込まれそうだね。仕方ない、
長年ファンタジーな世界線で旅をしており、危険性の高い場面に遭遇したフリーレンが、その危険性に気づかないわけがない。背後の頭上に生み出した黒い渦の引力で破片を全て引き寄せていき、解除したのと同時に破片は周囲に落ちていった。
が、ここでフリーレンは何かに気づいた。
「あ、しまった。これじゃあ桃がどこから攻めてくるのか分からないや」
周囲の瓦礫を置いたせいで、自分の視界を塞いでしまったという失態。彼女はそれを犯してしまったのだ。魔法が必要なくなった時代になってから旅の中で遭ってきた危険性の高い出来事に遭遇することがなくなってきたため、その影響が出てしまったのだろうか。
「(よし、今が好機‼︎)」
そして、その隙を逃してしまう程に桃は腑抜けていない。瓦礫の中に隠れながらの移動によって、フリーレンに気づかれぬように距離を詰め寄っていく。
ちなみに今の桃はフレッシュピーチからダークネスピーチへと姿を変え、刀を携えていた。機動性や身軽さはフレッシュピーチよりも高いため、素早く身を潜めながらの移動をすることに最適とも言えるだろう。
余談ではあるが、それらはフレッシュピーチセカンドフォームの方が桃が変身する戦闘フォームの中で一番高い。が、しかし。
あのフォームは足のローラースケートの回転させる音でフリーレンに何処にいるのか察しをつけられる可能性がある。そのため、ダークネスピーチに変身することに決めたのだ。
「(もらった‼︎)」
気がつけば既に、桃はフリーレンの背後へと詰め寄っていっていた。首を狙えばそのまま斬り飛ばしかねないと感じていたのか、脇腹を狙って横薙ぎに振るう。
「カハァッ⁉︎」
そして、何故か桃はいつの間にか崩壊した工場の壁へと吹っ飛ばされ、そこにめり込んでいった。完全に押さえつけられてしまったかのように。
『桃(君)(ちゃん)ッ⁉︎』「えっちょ、何なんスか今のッ⁉︎」
突然の状況の一転に、白哉達は状況の整理が追いつかず困惑する。爆破が起きてからの間に一体何が起きたのか、漂っていた爆煙によって視界を塞がれたことで判断が難しくなっていたのだ。
「(い、一体何が……⁉︎ ま、全く見えなかった……身体が動かない……‼︎)」
不可思議かつ不可避な重圧のある魔法……否、魔法と呼んでもいいのかも重圧のあるものかどうかも分からない攻撃を受けたことにより、桃も動揺せざるを得なくなった。魔法少女の中でかなり力のある桃でもこの拘束を解くことが出来ず、そのまま身動きが取れない状況に陥ったのだ。
「今のはさすがに危なかったよ。悟られぬよう、出来る限り魔力を消して潜伏できるだなんて思ってもいなかった」
危機を回避したことによるものか、フリーレンは軽く冷や汗を掻いての安堵をする。内心ではそこそこ焦っていたようだ。
「魔法使いは近づかれての肉体戦法はかなりの苦手分野とされているからね。桜の妹で魔力にかなり詳しそうな君相手に、久しぶりにこの技を使わざるを得なかったよ」
先程の魔法を使用していなければ、フリーレンは桃に負けていた可能性があったという。そうなる場面にまで持ち越せたのかと少々嬉々としていた桃だったが、それでも勝てなかったという事実に苦虫を噛みしめるしかなかった。
ここでフリーレンの言葉に引っ掛かりを感じたのか、桃は顔を上げ彼女に問いかける。
「………………その魔法って、何年程使ってなかったんですか?」
「千年前後はいってると思うよ」
「せ、せんねっ……」
思わず呆気に取られた様子を見せる桃。世紀を超える程に使用されていなかったという魔法と言うべきか不明な魔法を、自分は使わせざるを得ない状況にまで持ち込ませたというのか、その事実を知ったことによって、だ。
しかし。フリーレンに切り札とも呼べる
「ま、参りました……」
そう、降参である。
フリーレンは桃がもう少し粘るのではないかと思っていたらしく、降参してきたことに驚いたのか一瞬目を見開くも、状況を理解しているためか納得しているかのような溜息をついた。
「そっか……まぁ一対一でやってるってのもあるから、この状況を打破する対策がないのなら仕方ないかな。けど……」
一人でに納得しているかのように呟きながら、桃の身動きを封じていた謎の魔法を解除させるフリーレン。解放された桃は、自身の手首を動かしたり掌を握っては開くの繰り返しをして自由に動けるのかの確認を取った。
謎の魔法は解除されたことを実感した桃に、フリーレンが手を差し伸べてきた。それも、相手を褒め称えようとしている笑みを見せながら。
「本当に強くなったね、桃。やっぱり十年も過ぎると人間はかなり変わってくるものだ」
「‼︎ ……ありがとうございます」
賞賛された。十年前の姉に対して掛けた言葉のように。それを実感した桃はその手を取り、感謝を表す笑顔をフリーレンに向けた。
そして、二人して気づいたのだ。
「というか……魔法お披露目会なのに、後半はただの模擬戦になっちゃったね」
「ま、まぁそう薦めたのはこちらの方ですけどね……」
本来ならお披露目会程度にフリーレンの魔法を見るだけのつもりだったのに、何故模擬戦に発展させたのだろう、と。いや両者承認の上でやろがい。
「あ、そうそう。私達、居住地見つけたらしばらくこの多摩町に住むことになったからよろしくね」
『えっ?』
そして唐突に多摩町に引っ越す……ではなく長期滞在する予定宣言をする。本当に唐突すぎるのだが。
意外‼︎ フリーレンさんがまさかの多摩町移住‼︎ 突然すぎて