偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語   作:名無しのモンスター

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なんかネタ切れ感が……ってことで初投稿です。

前回の最後でしれっとフリーレンが移住宣言したんですが、その理由が明らかになるので見逃しのないよう……


まだまだフリーレンさんと関わっていくことになりました。というかバイト先決めたんだ……

 

 フリーレンの魔法お披露目会から途中で桃との模擬戦となってしまったイベントが終わり、白哉達は『あすら』にてフリーレン達と食事会をすることになった。

 

 

「多摩町に住んでるわけじゃないのに魔法を覚えながら生きてきたなんて、ガタルフってある意味律儀って感じがするよな。先祖は魔法使いなんだよな?」

 

「そうですね。子孫代々、先祖が魔法使いだと聞いただけでみんな魔法使いか戦士になろうとしてきてどちらかになったものなので。魔法とか剣技とかを使うタイミングが難しい世代ばかりでしたけど」

 

「戦争とかでも使わなかったってことか?」

 

「少なくとも魔法は使ったら目にした者達によって大事になりかねないものなので」

 

「ナディアさんの斧っぽさのある剣、それってどこで売ってたりしてたんですか?」

 

「んー? あ、これ? 前にそういう系のを使ってたキャラのアニメを観ながら『斧剣を使ってみたいなー』って呟いてたら、フリーレン様がどっかからオーダーメイドで作らせてもらったのをくれたんだよ‼︎ どこで作られたのかは教えてくれなかったけど」

 

「一体どの店で作られたんですかそんなもの……」

 

「さぁ?」

 

「……フリーレンさんって、今でも旅を続けてるの? お金とかどうやって稼いでいるのかも、結構気になる」

 

「まぁこの時代の人達から見たらそう思うよね。旅は続けてるよ。その時の記録を録画してノートパソコンで編集した動画をWeTube(ウィーチューブ)(この世界のY○utube)やノコノコ動画(この世界の○コニコ動画)で挙げて、それで稼いだお金を生活費としているよ。あと、時々即日バイトなどで人助けしながらでも稼いでる」

 

「……おぉ、正に旅行系Wetuber」

 

「それを受け取るためのカードで、機能上年齢や誕生日の詐称しないといけなかったのがアレだったけどね」

 

 

 ガタルフによる一家伝統の魔法について、ナディアが所持している斧剣について、フリーレンの生活費についてなど……様々な話題を全員が想像以上に和気藹々と話し合っているため、何処となく飲み会のような雰囲気が作られていた。

 

 そんな和気藹々(語るの二回目)としている中で、桃がハッと思い出したのかわざとらしく咳払いし、フリーレンにとある話題について問いかける。

 

 

「あの……ところでフリーレンさん?」

 

「ん? 何かな?」

 

「魔法のお披露目会が終わった後、居住地見つけたらしばらくこの多摩町に住むことにしたって言ってましたけど……突然なんでそんなことを?」

 

「あぁ、そういえばまだ言ってなかったね」

 

 

 フリーレンはリコが作った巨大な豚肉のステーキを一口食べ、桃の質問に答えることにした。

 

 

「実は私、桜と約束……というか、彼女からのノリによる半ば一方的な賭けに乗ったんだよね。『十年もの間、町の外に漏れてしまう程の大事件が起きなかったら、しばらくこの町に住んでみてよ』って。全然世間を震撼させるような事件とかをニュースで聞かなかったし、丁度良いかなと思ったから」

 

「………………へっ?」

 

 

 まさかの桜と交わした約束を果たしに来たという。それも年数だけで数えてちょうど十年、年数もきちんと守って。そして多摩町の危機となる事件が表に出てないことも把握して、だ。

 

 ただし。情報が町の外に漏出してないだけであって、六年前までは多摩町の魔族の生態を脅かす事態があったのだが、それは敢えて伏せられているものとする。

 

 しかし、本当に桜とそのような賭けをしたのかどうかの確定要素がないのも事実。フリーレンが冗談として移住詐欺を語っただけではないのか、そんな疑心が桃の脳内に過ぎる。

 

 

「な、何故姉とそんな約束を……? というか私、そんな話を聞いたことない……」

 

 

 気がつけば、桃はフリーレンに指摘を入れていた。

 

 桜の要望に答えたヨシュアに記憶を改竄された影響がある可能性を考慮しても、桜に関する記憶の大まかな改竄は受けられるはずがない。なのに何故桜とフリーレンが賭け事をしたという記憶がないというのか……

 

 

「覚えてないのも当然だよ。あの時は桃、まだ子供だったからもう寝ていて、その時に桜と二人で飲んでたからね。あ、もちろん桜は未成年だからソフトドリンク飲んでたけど」

 

「あ、そうでしたか……」

 

 

 大した理由ではなかった。単に自分が寝ている時に起きてた出来事だった。自分に対して内緒にしておきたい理由でもあったのか、という桃の憶測は外れたようだ。

 

 だが、それでも桜に対して思うことはあるようで。

 

 

「けど、何故姉はフリーレンさんが数年したらしばらく滞在するかの話を、私にしてくれなかったんだろう……?」

 

 

 そう、桜は何故フリーレンとの賭け事を桃に教えなかったのか。仮に忘れたとしても、年齢に準拠している彼女が高校生の身分で飲酒しているとは思えない。それこそ何かしらの理由があるとでもいうのだろうか……

 

 

「一種のサプライズにしたいから、だってさ」

 

「えっ?」

 

「君が桜無しに町を守ることになってしまったってのを考慮して、同じ役目が出来そうな人の助っ人を用意したかったんだよ、きっと」

 

 

 桜の遊び心と念のための処置として、フリーレンが多摩町に来るという可能性があることを黙秘されていたことが明かされた。かなりハイテンションかつうっかりさんな性格の彼女だからこその気まぐれとでもいうのだろう。

 

 だがしかし、だ。いくら気まぐれとはいえ、何故条件を満たしたら十年後に多摩町に引っ越せとフリーレンに語ったのだろうか。さすがに十年は、エルフとしてはそうでもないとはいえ人間としてはかなり長い期間に至る。なのに何故そこまで長い期間の猶予を与えたとでもいうのか……

 

 

「ちなみに十年後に移住して来てと言われたのは、きっと私の旅動画の新着動画をまだまだ観たかったからだと思うよ。初対面の日に動画観せてから結構ハマってたみたいだし、それに一先ずの区切りをつけてから……だろうね」

 

「えっ。あ、そっか……」

 

 

 ただの個人的理由であった。フリーレンの旅動画は収入が出る程の人気動画であるため、桜は彼女の動画を期待していたようだ。そして滞在したとなれば、新しい旅動画を収録できる機会が少なくなってしまうことだろう。それが嫌になった桜だからこそ、十年間という猶予をフリーレンに与えた、そう捉えられる。

 

 

「あ、あの……私からも質問して、いい、ですか?」

 

「何かな? あとなんでそんなによそよそしいの?」

 

「えっと、その……」

 

 

 ここでシャミ子が恐る恐る、フリーレンに何かを問いかけようとしてきた。しかし桃とは違い、過去にフリーレンと出会った形跡はなく、自分は彼女が敵対している種族とは異なるものの魔族である。だからこそ、桃のようにフリーレンに馴れ馴れしく話しかけることが出来ずにいたのだ。

 

 そんなシャミ子の心境を察したのか、フリーレンはレモンサワーをストローで一口飲んでからシャミ子の頭を優しく撫で始めた。

 

 

「そう緊張しなくていいよ。さっきも言ったでしょ? 私はこの町の魔族と敵対する気は一切無いし、別に態度とかも気にしてないよ」

 

「そ、そうですか……ん? アレ? 態度のことは話してなかったような……話してましたっけ?」

 

「………………あぁ、そういえば話してなかったや。似たような事を言ってたからかな」

 

 

 友達感覚で遠慮せず話しかけてほしいと語るフリーレンだが、その話の後半が曖昧な記憶によって出てきたものであったため、シャミ子に指摘を入れられしょぼしょぼ顔になって目を逸らしてしまった。記憶障害や老害があるわけではありません、フリーレンを悪く言わないで。

 

 

「と、とりあえず質問しても大丈夫でしたら……あの、フリーレンさん達はこの多摩町に住むとか言ってましたけど、家とかはどうするんですか? さすがにホテルに泊まってばかりなのは金銭的に困るのでは……」

 

「あぁ……そういうことね」

 

 

 そう……シャミ子が問いかけたかったというのは、多摩町に住む事になったフリーレンの居住先が確保できるかどうかである。賭けという名の約束で滞在することになったとはいえ、安定して住める部屋が無くては路頭に迷う可能性があるからだ。

 

 ホテルに泊まるという選択肢では、予約待ちをしている者への妨害行為と捉えられないわけではない。それだけに飽き足らず、宿泊代も安いビジネスホテルですら一万は掛かるところが多い。動画の収入だけで連日泊まれるかも難しい……否、無理難題である。

 

 しかし。長く旅を続けて来たフリーレンだからなのか、居住先と金銭的問題、この二つに対する対策をしていないわけではなかった。豚肉のステーキを平らげ、シャミ子の問いに答える。

 

 

「昨日の夜、ホテルでガタルフ達と話し合ってね。もうちょっとしたら居住先となるかもしれない第一候補で住めるかどうかが決まると思う。もうちょっとしたらというか、もしかすると今かも。あとついでに新しい働き先も」

 

「えっ? それはどういう───」

 

 

 シャミ子が新たに質問しようとしたところに、割り込んできたかのようにスタッフルームから白澤が顔を出してきた。

 

 

「フリーレンさん、ちょっといいですか? 一応面接の準備ができたのですけど……」

 

「今行く」

 

 

 どうやら白澤はフリーレンに用があるらしい。しかも『話し合い』ではなく『面接』の準備ができたのだという言葉も掛けてきて……

 

 もしや⁉︎ という仰天しているかのような感情がシャミ子の表情から出た中、白澤のところへ向かおうと立ち上がったフリーレンが彼女の視界に入るように微笑んだ。

 

 

「もしかすると、『あすら(このみせ)』で住み込みで働くことになるかもね」

 

「あっ……‼︎」

 

 

 『あすら』に住み込みで働く。つまりはこのばんだ荘を居住先にするつもりらしい。まだそうなるとは決まったわけではないが、彼女達がばんだ荘に住めるようになれば、ここはまた賑やかなことになるだろう。シャミ子はそうなる可能性に期待が高まってきた。

 

 

「それじゃあいくよ、ガタルフ。ナディア」

 

「はい、フリーレン様」

 

「あ、ちょっと待ってフリーレン様‼︎ 私、まだこれ食べ始めたばかりで……」

 

「何してるのさ姉さん……」

 

「落ち着いてその口の中のもの食べ終えて。待つから」

 

 

 フリーレンがガタルフとナディアに共に面接しに行くことを伝えると、ガタルフはナフキンで口を拭いた後すぐにフリーレンの元へ行ったのに対し、ナディアは何を食べているのかは不明なもののすぐには二人の元へ行けない状態でいた。フリーレンはその事で何も指摘することなく待つことを伝えるだけだった。

 

 少し時間が経った後にナディアもフリーレンの元へ行き、改めて三人で白澤のいるスタッフルームへと赴いていった。

 

 フリーレンの歩いていく後ろ姿を見ながら、リコは徐に呟いた。

 

 

「ここで働いてくれる人が増えるってぇのは嬉しいんやけど、彼女がここで働く姿ってのが想像つかへんなぁ」

 

「奇遇ですねリコさん、俺も同意見です。即日バイトもしているらしいとはいえ、彼女を見ていると何故かそう思えてくるんですよね……」

 

 

 白哉がリコと考えていることと同じであると語ると、パスタを口に運んでいた桃が喋る口を開いた。

 

 

「無理もないよ。あの人は二千年も前から生きて来た人なんだ、現代の雰囲気と似つかないと思うのも納得がいくはずだよ」

 

「それ、遠回しに私の事を年寄りだと言ってない?」

 

「ヒョッ⁉︎ い、いえ、そんなことは……」

 

 

 少し距離が離れていながらもフリーレンの耳に入っていたらしく、その言葉が彼女の機嫌を損ねかねないものであったことに気づく桃。顔が青冷め目が泳ぎ、ガタガタと恐怖で体が震え出していた。

 

 桃はただ、フリーレンにも相応か相応でないかの雰囲気があるのだと語りたかった模様。だがそれがフリーレンの年齢(タブー)に触れていることになっていたがために、遠くから耳にして指摘を入れてきた彼女に思わず怯えてしまったようだ。

 

 そんな彼女の様子を見て不思議に思わないわけがなく、白哉とシャミ子が首を傾げながら問いかける。

 

 

「えっと……どうして桃はそんなに怯えているんですか?」

 

「前にフリーレンさんと何かあったのか?」

 

 

 二人が問いかけたのと同時に、桃の視線が明後日の方向へと向いてしまった。それほどまでに苦い思い出があった、そう捉えられることだろう。

 

 

「………………フリーレンさん……お姉さん認識されると喜ぶけど、年寄りとかそういうワードを言われると不機嫌になるんだ。三回目になるとさすがにヤバい。最悪の事態を招いてしまうんだ……」

 

「え ゙っ。ま、まさかボコボコにされるとか……⁉︎」

 

 

 フリーレンにとって地雷となる言葉があるらしく、その類を合計で三回も使いフリーレンの耳に届いてしまえば取り返しのつかないことが起きてしまうようだ。

 

 それを一度犯してしまったと呟く桃に、シャミ子がフリーレンに何をされたのだと問いかける。それに対して桃は恐怖による震えをさらに強め、据わった目つきで俯きながら答えた。

 

 

 

「三日間も泣き喚いてくるんだよ……それもその間ずっとだから、アレが結構精神的にくる……」

 

 

 

「えっ。えぇっ……」

 

「お姉さんと自称する人がしていい反応じゃねェだろ……どっちかというと、自分の思い通りの事が出来ずにいる幼少期の方の子供……」

 

 

 白哉とシャミ子、ドン引き。それが二千年も生きてきた者のやることなのだろうかと、心の中でもツッコミを入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ヘックシ」

 

 

 一方その頃、スタッフルームにて白澤との面接を受けていたフリーレンがくしゃみをしていた。

 

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「あー……多分誰かが噂してるね。いや、これは絶対誰かがウワサしてる。ここに入る前さっき桃が私の話をしてたから」

 

 

 むぅっ、と目つきを鋭くしながら、自分に対する風の噂が流れていることへの確信を持ち始めるフリーレン。この部屋に入る前に桃がフリーレンが異常な程の長生きしている事を話していたため、そこから悪い噂も流れているのではない、とも捉えているだろう。

 

 

「まぁそれはいいとして……本当にここで住み込みで働いてもいいんだね?」

 

「えぇ。実際そうしている従業員もいますし、接客が多いのは助かりますし」

 

「そっか……ありがとう」

 

 

 どうやらフリーレン一行の住み込みバイトは決定したようだ。しかし、ここで突然フリーレンは何か思いついたのか拍子抜けしたような表情になった。

 

 

「あっ。今気になったことを思い出したんだけど、店の手伝いと称して魔法をお客さんの前で使うのは良くない感じなの? 今の時代からしたら非常識のもの以外の何物でもないし」

 

 

 どうやらフリーレンはバイトでも魔法を使用できないかと考えていたようだが、普通に考えてみれば今の時代にとって魔法というのは架空の存在である。ここがそれを使用できる魔族や魔法少女が住んでいる多摩町であるとはいえ、一般人の事を考慮すると出しにくいとも感じているようだ。

 

 そんなフリーレンの問いかけに対し、白澤は理解したかのように頭を悩ませながら答えを解いた。

 

 

「いや、それはその……うーむ、どうでしょうか……この店は僕やリコ君、優子君やミト君みたいな人外が働いているのですから、魔法を使う者が店内でそれを堂々と使うのも、常連さんにとっては今更? みたいに思うでしょうからねェ……」

 

「でもまだ慣れない人とか初めて来るお客さんもいるんだよ?」

 

「それはまぁ……常連さん達がどうにか説明してくれるでしょうから……後これ言っていいのかどうかは分からないですけど、多摩町の人達はその……なんか色々とフッ軽、的な感じの人が多いですから……」

 

「……あぁ……」

 

 

 多摩町の人々の認識もあまり普通ではない。その分、常識から外れている者に対する受け入れの姿勢も強い。そういう解釈での説明を聞き、フリーレンは納得いったかのような様子を見せ、安心したかのような溜息をついた。

 

 

「それなら使っても問題ないかも」

 

「そんな認識でいいんですか……?」

 

「あまり深く考えすぎても色々と煮詰まるからね」

 

 

 この時、フリーレンはこうも思っていた。かつて桜が守ってきた町だからこそ……でもあるだろうな、と。

 

 

「あ、お仲間である二人は中学生なので働かせるかどうかは微妙ですが……」

 

 

 大事なことを思い出したかのように、白澤はガタルフとナディアの方に視線を向けてそうかたる。どうやら二人は中学生であるためか、高校生未満は従業員として雇えないらしい。

 

 

「ボランティアという認識でなら働けますか? 学校終わりでも手伝えますし」

 

「人助けが出来ればそんなに文句ないしねー」

 

「タダ働きしてるようでこっちの心臓が悪いから、その提案は没にさせてくれない⁉︎」

 

 

 二人はどうしてもフリーレンと共に『あすら』で働きたいと思っているらしく、ボランティア感覚──所謂タダ働きで働けないかと白澤に問いかけるも、労働基準法に準拠・必須な彼としては給料無しで働かせることに対してもかなりの抵抗があるようだ。

 

 

「仕方ないよ二人とも。世の中に働く年齢とか給料とかの法があるし、飲食店でボランティア精神なんて通じちゃいけないのも同然だよ。ここでは諦めよ?」

 

「むぅ〜……はぁい」

 

「分かりました。法律が法律ですものね」

 

 

 フリーレンの促しにより、ナディアは不機嫌そうに頬を膨らませ、ガタルフは仕方ないと言わんばかりに軽く溜息をついた。この対応の差よ。

 

 だがしかし、二人の『誰かの力になりたい』という若者の精神に心を惹かれない白澤ではない。何かできる事はないかと腕を組みながら頭を悩ませていると、閃いたかのように目を見開き、二人に向けて口を開いた。

 

 

「そういえば最近、ウチの店に販売のための牛乳を提供してくれる会社があるのだが、その配達員が少なくて困ってるらしい。そこなら早朝だけなら中学生でも働けるし、法律的にも許されるはずだよ。よかったらその会社と相談してみるけど、いいかな?」

 

「いいの⁉︎」「いいんですか?」

 

「あぁ。今時の子の珍しいスピリットを無下にしたくないからね、これくらいの措置はさせてほしい」

 

 

 働ける。人助けができる。形がどうであれ『あすら』の力になれる。様々な『他人のためにできる事』への喜びを噛み締められることに、ガタルフもナディアも歓喜した。つまりは二重──いつもよりも喜んでいる状態だ。

 

 その感情をすぐにでも共有したくなったのか、二人はその場でハイタッチを交わした。嬉しいことを感じた園児の如く、はにかんだ笑顔で。

 

 

「やったねガタルフ‼︎ これでまた喜んでくれる人達が増えるよ‼︎」

 

「そうだね姉さん、この町で出来た新しい仕事も頑張っていこう‼︎」

 

 

 キャッキャッと嬉しそうに飛び跳ねるナディアに、表情からその感情をはっきりと表に出しているガタルフ。反応は異なるものの、同じ感情を表向きに共有し合っている二人を、白澤は感慨深い様子で見守っていた。

 

 

「それにしても、働けること……というか人助けができることにあそこまで喜びを覚えるだなんて、今時どころか最近の若者を見てもごく稀すぎるケースだ……」

 

 

 何故ああなる程に人助けをしたかったのだろうか。白澤が二人をそう不思議そうに思いながら見ていると、フリーレンが思い出し笑いするかのように微笑み、口を開いた。

 

 

「───勇者ヒンメルの事を私が説いた影響だよ」

 

「勇者?」

 

「うん。私が最初に旅した時のパーティーの一人で、私が旅をするきっかけを作ってくれた人だよ。その勇者は困った者を放っておけないお人好しでね、自分の力を他の人の為に振るう事に躊躇ないタイプだった。後なんかナルシスト(?)な性格もあったね。他の人とは変わってた」

 

 

 本当に困った奴だよ。小声で苦笑いしながらそう呟くと、右手に嵌められている指輪を眺めながら言葉を続ける。

 

 

「でも、ヒンメルのおかげで私は色々な事を学ぶことができて、彼の言葉から人間がどのようなものなのかを気付くことができたんだ。その大切さを改めて気づくことができたのは、彼等との旅が終わって、新しい仲間達と共に新しい旅をしていく内に、だけどね」

 

 

 そう語るフリーレンの表情は、遠くにいる想いのある者へと向けているかのような慈愛の笑顔をしていた。

 

 旅を始めて十年後に魔王を討伐した後、フリーレンは気ままな一人旅に戻って五十年を過ごしていた。しかし、年老いて再会したヒンメルとの交流や彼の逝去を機に、短命な人間だからという理由で彼を詳しく知ろうとしなかったことへの深い後悔の念を初めて抱いていた。

 

 同時に、自分にとってもヒンメルが大事な存在であったこと、彼や仲間達と過ごした時間が大事だったことに気づくことができた。結果、人間そのものを改めて知ろうと決意。ヒンメルの生きた証を辿りつつ、彼の思いや人物を詳しく知るための新たな旅に出ていったのだ。

 

 その後は目的のない魔法蒐集の趣味の旅を続けつつも、旅先で出会った人とはなるべく関わることを意識してきたが、旅の仲間の導きにより死者の魂の集う場所『魂の眠る場所(オレオール)』でヒンメルとの再会を果たすことを新たな旅の目標をしてきた。

 

 その新たな旅の目標がどのように達成されたのか、それは本人のみが知る。だが、その旅の結末が彼女の新たな道標を作ったのも確かである。

 

 

「えっと……その勇者であるヒンメルさんは、フリーレンさんにとっては大切な存在ですか?」

 

「そうだよ。彼は私のとても大切な仲間の一人であり、教師でもある人だった」

 

 

 少し遠慮気味に、ヒンメルの事をどう思っているのか問いかけた白澤。怪しい関係であると勘違いされているのかと苦笑しながらも、フリーレンはヒンメルへの敬愛を示すかのように微笑みながらそう答えた。

 

 旅をしていく事の良さ、人間という存在、それらを一度目の旅の終わりを通して伝えてくれた仲間であるからこそ、フリーレンはそんな彼に敬意を評せられるのだ。

 

 再び指輪を……ヒンメルから貰った大切な物の一つを再び見つめていると、ヌッと飛び出るように彼女の前に顔を出してきた者が。

 

 

「そのヒンメルはんって人、フリーレンはんの想い人なん?」

 

「うおっリコ君いつの間に⁉︎」「ビックリした」

 

「思ったよりも終わるの遅いなぁ思うて、邪魔せんようにチラッと覗いていたんやけど、気がついたら近づいてたんよ……てへっ」

 

 

 リコ、突然の介入である。本人は空気を読んで先程まで扉の隙間から覗きながら会話を聞いていたようだが、だんだんと話の内容が気になってきたのか、無自覚にもフリーレン達の輪の中へと入ってしまっていたらしい。

 

 善意のある悪意も無自覚にやってしまう彼女だからこそ、無許可での会話の参加もやり遂げてしまうのだ。無自覚キャラって怖いね。

 

 

「で、結局フリーレンはんはどうなん? ヒンメルはんは仲間以外の認識だとどういう人やと思っとる? そういう路線の実感は湧いてへんの?」

 

「……そうだね」

 

 

 リコの口から出た、『ヒンメルの事をどう想っているのか』という質問。それが何を意味するのか、どの方面で問いかけているのか、その真意はリコ本人のみぞ知る。

 

 が、しかし。フリーレンはリコの軽くニマニマとした悪戯気味な笑みを見て、何かを察してはいたようだ。そしてフリーレンは口元に人差し指を当て、何故か薄紅色に染まっていた頬で微笑みながら、リコにこう答えた。

 

 

 

「───それは秘密……かな」

 

 

 

「………………………………」ボンッ

 

 

 幻聴だろうか。この部屋にいる者全員の鼓膜に、ポップコーンマシーンの中でポップコーンが一斉同時に弾け飛んだかのような大きな爆発音が鳴り響いた。

 

 その音が鳴り終わったかと思えば、リコが顔を真っ赤にしてその場で仰向けに倒れ込んでいた。今にも昇天しかねないような笑顔で。しかも何故か吐血して。何があったし。

 

 

「リコ君が倒れたァッ⁉︎ 何故ッ⁉︎」

 

「アカン……これはめっちゃ脈ありなヤツや……そんでもって、内なる心に秘めた想いの強さと優しさの調和がしっかりとされとる……アカンわこれ。ウチ、このレアな惚気によって昇天してまう……」

 

「何がなんだかよく分からないけど逝かないでくれリコくーーーーーーんッ⁉︎」

 

 

 リコ、どうやらフリーレンがヒンメルに対して特別な感情を持っていたことに気づいたようだ。その感情がリコにとっては受け止められる程の容量ではなく、言葉で表さなくても強い惚気が彼女に伝わってきていた。

 

 少し分かりやすく言えば、フリーレンから発せられた恋する乙女のみが感じ取れる惚気が、リコの恋愛に関する度量をキャパオーバーさせていたのだ。

 

 

「……ちょっと意地悪すきたかな」

 

 

 さすがのフリーレンも意地悪な自分を自重すべきだったと反省している模様で、額に手を当てながら苦笑いを浮かべた。

 

 そんな中、リコが登場してからの一部始終を見ていたガタルフとナディアが……

 

 

「(さっきのフリーレン様のリアクション、勇者ヒンメルが見ていたら絶対尊死するって……)」

 

「(先祖様の師が遺した冒険録の通りだ……フリーレン様、確かに罪な女性と呼ばれる程にいい性格してる。勇者様、ご愁傷様……)」

 

 

 フリーレンのヒンメルに対する見方がどうなのかという反応を見て、霊界で未だにフリーレンの事を見守っているだろうヒンメルが尊死するだろうと予測し、そんな彼に対して心の中で合掌する他なかった。

 

 

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