偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
ん? 誰がフリーレンと会ってないかって? ご想像にお任せします。
フリーレンが旅の仲間と共に多摩町に滞在することになり、さらには『あすら』への就職が決まったその日。フリーレン一行は多摩町を歩き回っていた。十年ぶりに訪れた多摩町がどのように変化したのかその目で確かめるための散策を、昨日から続けていたのだ。
ちなみに桃達には『町を案内する』と言われてはいたものの、『旅はいつもガイド無しでやっているし、風の吹くままに自由に謳歌したい』との事で断りを入れていた。長年目標達成を目指しながらも気ままに旅をしてきた影響だろうか。
一度彼女達とは別行動するために解散しようとした時、桃がフリーレンに対して何か思い出し伝えようとしていたものの、その時にはフリーレン達は彼女達の前からいなくなっていた。
そんなこんなで、フリーレン一行はせせらぐ音が流れる多摩川の河川敷を歩いていた。
「ここに来るのは久しぶりだけど、魔族は増えているのかな。後、もう住んでる奴等も元気にしてるといいんだけど」
「フリーレン様は、前に来た時に何人程の魔族と出会って来たのですか?」
「そうだね……ざっと五十二人かな」
「そんなに⁉︎ 多摩町ってそんなに魔族が住んでたんだ⁉︎」
町全体の全ての魔族とまではいかないものの、フリーレンが以前に出会って来た魔族だけでもかなり多くの魔族に会ってきたという事実に、ナディアは思わず仰天とした表情で驚きの声を上げた。希少と呼ばれてもおかしくない数の魔族にたくさん会って来たのだ、驚くのも無理もない。
と。ここで何を思ったのか、フリーレンの表情は何か思い悩んでいるかのように少しばかり顔に影を落としていた。
「でも変だ。昨日からずっと徘徊してるのに、出会った魔族がシャミ子とリコ、店長にミトの四人ぐらいしかいなかったなんて……しかもどれも初めて会った奴ばかり」
そう、実はフリーレン一行は昨日から、シャミ子達に会うまでに誰一人と魔族と出会っていないのだ。
本来なら魔族は何もしていなくとも見た目だけで、逆に見た目が人間とあまり変わらずとも不思議な習性によって、見た人達に強い印象を残し、高い確率で人々の記憶に刻まれてしまう。それも十人に一人は見かけてもおかしくない程にだ。
だが、フリーレン一行はそのような者達は不思議と誰一人と遭遇しなかった。過去にフリーレンが会ってきた者どころか、新しく見かける者も、シャミ子と会うまでに誰一人と、だ。
「それは……確かにおかしいですね、フリーレン様が前に出会った魔族の者がまだ一人も見当たらないとは……」
今まで多摩町を訪れておらず、シャミ子達と会うまで実際に魔族と出会ったことのないガタルフも、この町にとっての常識がないことに対してそこそこ違和感を感じていたようだ。
何故魔族と魔法少女が絶対に共存できるこの多摩町で、魔族が四人、それもフリーレンが初めて遭遇する者しか出会えていないのか。何故魔族を見かけることが出来ずにいたのか。
「まぁ、これ以上不穏に思っても仕方ないよ。とにかく今は町をぶらりと観光しながらで行こう。これまでの旅だってそうしてきたから」
「フリーレン様、それなんかお気楽すぎませんか?」
これ以上の思考は息詰まると感じたのか、フリーレンは多摩町の魔族が見当たらない問題を一時保留することに。一大事かもしれない事をそのような認識でいていいのかと、ガタルフは呆れながらも不穏に感じたそうな。そりゃそう思うわ。
そんな中、フリーレンが川沿い方面で何かがいることに気づく。
「ん? ちょっと待って。アレって……」
彼女が指差す方向にガタルフもナディアも向けば、そこには川沿いに転がっているゴミをトングで拾いゴミ袋に入れている、律儀に見える行動をしている女性が。
その女性はうっすらとした褐色肌に華美でスレンダーな身体つきをしているが、重要なのは体躯ではない。こめかみには左側が折れている二本角に、先端が三つのハートの形として並列に連なっている黒い尻尾。
「アレって……魔族?」
これは紛れでもなんでもない。フリーレンは今、この場で新たな魔族──シャミ子の先祖・リリスを発見したのだ。
「また初出の魔族だ。しかも角と尻尾からして、シャミ子にそっくりって感じだね。SSRっぽい」
「初出とかSSRとかって、魔族をソシャゲのガチャみたいに言わないでやってくださいよ……」
以前会ったことのある者の一人ではないとはいえ、新たに魔族を発見したことに気分良さげなフリーレン。だが喜びを表す言葉がソーシャルゲームのアレっぽい。人をガチャのように評価したりすることは失礼であるため、ガタルフのツッコミは正しいと言えよう。
ちなみにリリスはフリーレン同様、二千年程前に生まれた存在なのだが、突然封印されて千年以上ごせん像の姿になった上に、復活したと言えど魔力は今のところ使えず身体も依代のため、年齢は実質封印される瞬間に停止している。何年生きてきたかの自慢が出来ないね、残念。
そんな事などお構いなしに、フリーレンはリリスの元へと歩き寄っていったため、ガタルフとナディアもその後をついて行くことに。自由人か。
「むむぅ……今日は思ったよりもやけにゴミが多いな。ノルマを達成しやすいとはいえ、こんなに一箇所に多いとキツいものが……」
「ねぇそこの君。よかったら私達もゴミ拾い手伝おうか?」
「うむ、気遣い感謝する………………って誰だおぬしら⁉︎」
リリスがゴミ拾いでの疲労感を少々危惧している言葉を愚痴る中、突然フリーレンに手伝うかどうかと話しかけられて仰天した。彼女はまだフリーレンとは初対面だからね、見知らぬ人に話しかけられたと思ってしまうね、仕方ないね♂
「私はフリーレン。今後この町に引っ越す予定の魔法使いだよ」
そう呟きながら、フリーレンは浮遊魔法を用いて辺りに転がっている空き缶を引き寄せる。実際に魔法が使えることをアピールしているようだ。
「ほ、本当に魔法が使えるのか此奴は……」
「ちなみにこっちに来ている私の弟子のガタルフも同じように魔法が使えるし、向こうからゴミを拾ってくれているナディアは魔法使いじゃないけど、魔法に負けないくらい運動神経抜群だよ」
フリーレンがそう語っている中、ガタルフがやれやれと溜息をつき、歩いて二人の元へ向かいながら周囲のゴミを浮遊魔法で集めており……
「おぉ、確かにそのガタルフとかいう少年も魔法でゴミを浮かせて……「ある程度集まったよー‼︎」「おつかれナディア」ってなんだその少女は⁉︎ 自動車並の大きさになる程に纏めたゴミを片手で抱えて余達が気付かぬ間にこっちに来おったぞ⁉︎ さっきまで五十メートル先にいたのに三秒でここに戻ってくるとか……‼︎」
ガタルフがいた位置の向こう側でナディアも鼻歌を歌いながら、普通よりも多く転がっているゴミを次々と拾い上げて丸状に纏め猛スピードで二人の元へと駆け寄って来ていた。
とてつもない怪力に、高い瞬発力。ナディアは正に魔力を持たない……否、魔力を必要としない桃に出会したのではないのか。リリスはそのような恐怖を感じ、身体をブルブルと震わせざるを得なかった。
「ん……?」
するとふと、リリスは何かを思い出し引っ掛かりを感じたかのような表情を浮かべ、フリーレンの表情を見やる。
「ちょっと待て。おぬし、さっきフリーレンと名乗ったのか?」
「うん、そうだけど?」
「………………マジか」
自己的に何かを理解したのか、リリスは額に手を当てながら頭を抱えているかのように苦い表情を浮かべた。さらに若干再び震えているのが目に見えてはいるものの、恐怖とは別の感情も混ざっているのか先程よりも弱めになっていた。
「どうかした? また震えているけど……まだウチの自慢のナディアのパワーが怖いの?」
「……さっきからその無頓着な反応……おぬし、やはり覚えてないのだな。あの時の余は姿が違うとはいえ、声は聞き覚えあるだろうに……」
「えっ? 何? 何の話してるの?」
やはり覚えてないのだな。声は聞き覚えあるだろうに。そのような言葉がリリスの口からフリーレンに向けて発されたことから、どうやらリリスはフリーレンと出会った時の記憶を思い出したようだ。
それが定かであるかどうか不明であるためか、フリーレンの方は事の発端を理解出来ていない様子で首を傾げていた。二千年も生きた事による記憶の弊害でもできたのだろうか。
と、ここでリリスは腰に掛けていたガマ口財布の中から一枚の折り畳まれた写真を、広げてフリーレンにズイッと近づけて見せてきた。
「おぬし、この写真に映ってるものに何か見覚えがあるか?」
その写真は、お父さんBOXの上にちょこんっと置かれているごせん像だった。蛟に課せられたノルマのゴミ拾いで息詰まった時に、その写真の虚しさを見て自分を叱責させるために撮ったものらしい。
「ちょっ、やめてェ……急に押し付けないでェ……ん? これって……」
写真を……否、ごせん像を見せつけられたフリーレン。唐突な押し付けに不服さを感じたのかしょぼんとした落ち込み──しょぼしょぼ顔に一時的になったが、写真のごせん像を見て真剣な表情になる。
「ええっと………………何処かで見たことあるような、ないような……アレ? これって何? どっちのヤツ?」
が、それでもごせん像に関する記憶については曖昧なものになっているらしく、フリーレンはごせん像の事を思い出そうにしてもそれができなくて少々困り気味のようだ。
無論、ごせん像──自分の事を未だに思い出してくれていないことに怒りを覚えたのか、唖然としながら青筋を浮かべた。
「なっ……⁉︎ これでも思い出せぬとでも言うのか⁉︎ 如何にも何処にも無いダサダサなデザインであろう⁉︎」
「いや、それと似た置物はよく見るから……ホラ、手の無い埴輪とか……」
「ツノォッ‼︎ さすがにツノは他の置物には付いてないだろうッ⁉︎ 目を凝らしてよく見ろォッ‼︎」
ごせん像は普通の埴輪と異なる部分があるというのに、何故これまで見てきた置物とあまり変わらないのではという認識でいられているのだ。
これにより、リリスはさらに怒りを爆発させたのだ。自分は相手の事を知っている上に面識もあるというのに、相手の方は自分の事をはっきりと覚えてくれていないのだ。怒るのも無理はない。
しかし、その曖昧さもここまでとなる。ごせん像に付いている角を見て、フリーレンはハッと何かに気づいたかのような表情を浮かべる。
「あっホントだ。確かに角があるね。しかもそっちのと同じ形の……って、アレ? この形、どこかで……」
「フッフッフ……ようやく思い出してきたようだな」
フリーレンが自分の事を思い出してくれているかのような反応を見せていることに気づいたのか、リリスはニヤリと笑みを浮かべ、左腕を右脇腹に回して右手で左手を隠しながら、仁王立ちでポーズを取る。そして宣言した。
「そう‼︎ これこそ永劫の闇を司る魔女であるこの余・リリスがかつて意味も分からず突然封印されし時の姿‼︎ だが‼︎ こうして千年以上の時を経て、依代の力を借りることで現代への復活を果たしたのだ‼︎」
決まった。そう確信したのかドヤ顔してフリーレンの顔を見やるリリス。気づいたかのようにようやく自分の名前も教えたため、さすがにこれで自分の事を思い出したはず。そう確信もした……
と思いきや、その可能性は未だ低いと見た。何故なら、フリーレンがカッコいいと思い込んでいる自己紹介をしたリリスを見て唖然としていたからだ。
「………………リリスって、実態があるそういう厨二病みたいなポーズをしたがるんだね。前に会った時も面白いけどなんか変なことを話してたけど、ここまでキャラが濃いとは……」
これはもしや、まだ思い出せていないのではないか。どれだけ鈍いというんだ此奴は。三度目の怒りが湧いてきたことによる影響なのか、両手を強く握り締めるリリスだったが……
「なんだその反応はッ‼︎ なんだその認識の仕方はッ!! うがーッ‼︎ さっきからその記憶が曖昧だと言っているかのような反応しおって、これじゃあおぬしの事を覚えてると何度も言ってる余が、まるで厨二病を拗らせているイタイ奴だと思われ───」
「悪かった、悪かった。ちゃんと思い出したから許してよ。にしても、千六百七十四年ぶりだね。まさかこの時までしつこく粘って生きてきたとは……あと、自由に動けるようになった今でも相変わらず元気だね、リリス」
久しぶり。その一言を彷彿させるかのような発言をしながら微笑んできたフリーレン。どうやらフリーレンは思い出したのだ、リリスと出会ったことがあるのだという事実に。
「いや、あの……さすがに何年会ってないかどうかまで思い出せとは言っておらんのだが……いや、合ってはいるけどさ……というかおぬし、エルフの癖にそんな細かいことを思い出せておったのか……」
が。その思い出したという範囲が予想外だったのか、リリスはフリーレンが自分の事を思い出したという事実に素直に喜べず、会っていない間の年月まで細かく思い出したのだというフリーレンの言葉に思わず引き気味となっていた。
「ちょっと色々あったからね、それも思い出せるようになった。……それにしても意外だね。宣言通り復活したと思いきや、今ではゴミ拾いという徳を積む行いをしてるだなんて。目標達成できない状況なの? 今」
「ウッ‼︎ そ、それは……えっと、その……」
先程の自分の行いを指摘され、図星を刺されたと感じたのか大量の冷や汗をかくリリス。彼女の夢である(と思われる)世界征服を目指していることを、桃だけでなくフリーレンにも宣言していたようだ。それができない現状であるからこそ、リリスは口を淀むことしか出来ずにいたようだ。
現在のリリスは依代を借りて現界している状態。元から短い依代の活動寿命を延ばすために魔力や筋力云々を削減した上、訳あって多摩川の自然の摂理を厳重に守る存在・蛟と結んだ約定の効果により魂は依代から離れられず、毎日多摩町のゴミを九キロも拾わなければならなくなっているのだ。
世界征服すると宣言しておいて、今では魔力の無いゴミ姉貴(ゴミをすかさず拾いまくる姉貴)と呼ばれる始末。その真実を知ったフリーレンはどう思うのだろうか。軽蔑するのだろうか……そんな不安が彼女の脳内に過ってきたのか、リリス、絶体絶命である。
なんとか誤魔化さなければ。そこでリリスは嘘をつくことに賭けた。
「こ、これはアレだ‼︎ いずれ世界征服するというのに、余の許可無しに勝手な事をされては困るというのを示すために、ゴミ拾いという徳積みをするフリをしてポイ捨てをやめさせるとかそういう───」
「魔力までもを依代に移せなかっただけです」
「ハグアァッ⁉︎」
「あ、桃」
が、それも叶わず。突然こちらに来た桃がフリーレンに自分が置かれている情報をバラしてしまい、リリスはそのショックでドラマなどでよくある突然吐血したかのように、突然殴られたわけでもないのに口から濁ったものを吐き出してしまった。
「あ、やっぱりそんな感じなんだ。なんか結構アセアセとしていたから嘘をついているだろうなとは思ってはいたけど、その依代(?)ってヤツに魂だけを入れた感じなんだ」
「しまったァッ!! そういえば此奴は闇の一族じゃない方の魔族の嘘を見破るのが得意だったァッ!! どうにかして嘘をつこうとしていた時の余が我ながら馬鹿馬鹿しく感じるゥッ!!」
「ドンマイ」
「雑なフォローするでない!!」
しかも既にフリーレンに嘘をついていると勘づかれた模様。その上でそれを知って悶絶している時に雑なフォローをされながら頭を撫でられる始末である。リリス、哀れ。
「ところで桃さん、どうしてここに来たの? 何かまだ話してないこととかあるの?」
「そういえば解散する前、何か言おうとしていた様子が見られましたが、何かあったのですか?」
「……うん、まぁね。この町の現状を知りたいフリーレンさんには伝えないといけない重要なことなんだけど、みんながいる前では話しづらくて……」
何故自分達の前にまた現れたのかと、ナディアとある程度のゴミ拾いから戻ってきたガタルフがが不思議そうに問いかけ、それに桃が答えた。
何やら重大な事をフリーレンに伝えようとはしていたものの、伝えるに伝えるタイミングが分からずじまいで後回しにし続けてしまい、気がついたら解散していたということになったらしく、仕方なくフリーレン達を探して直接伝えることにしたようだ。
「けど、それなら電話で伝えてもよくない? RAINEに電話機能があったはずなんだけど」
「あっ」
が。フリーレンに効率の悪さを指摘され、それに気づいて呆けた声と表情を見せる。上手く事が運ばなかった影響なのか、話したい情報を伝える手段が他に思い浮かばなかったようだ。れれれれれ冷静になれ千代田桃。
「そ、それはそうなんですけど……その、直接伝えた方が、何を伝えようとしているのかとか、それが本当なのかどうかとかが伝わりやすいと言いますか……」
「単純に忘れてただけでしょ。私が何年嘘つきと出会ってきたと思ってるの」
「………………はい、仰る通りです」
桃、言い訳するも虚しく即玉砕。図星を突かれて顔に影を落とす彼女を見て、リリスは揶揄いの言葉すら思い浮かばずただ同情の眼差しを向けるしかなかった。フリーレンに嘘なんて通じないからね、仕方ないね♂
「で、伝えたい事って何? この町の事を話したいらしいけど、それを言うためにわざわざ私達を探してたんでしょ?」
「えっあっはい。そうでした」
フリーレンに本題に戻るようにと指摘を受け、ハッと我に帰る桃。そして伝えたい事だという本題──現在の多摩町について話そうとしたところで……桃は眉を顰め、フリーレンと視線を合わせる。
「フリーレンさん……先に言っておきますが、今から話すことは内容次第では信じられないことだと思われます。でも、だからといって軽くあしらったりとかしないでくださいね」
「えっ何? そんな深刻そうな感じに言わなくても、別にそこまで……」
いい加減な態度は取らない、そう答えようとしたところで、フリーレンは突然言い淀んだ。桃の瞳に微かな曇りがあるのを見て、彼女の内に秘めた心境を薄々と察知したようだ。
「……何かあったの? この町に、魔族が共存できるこの多摩町に」
「………………………………」
「辛いことだったら無理に話さない方がいい。しばらくここに住むのだから、話す機会はいくらでも───」
「大丈夫です。ただ、これを聞いたフリーレンさんがどう思うのか不安になったってだけで……それに、これはフリーレンさんに絶対知ってもらいたいことなので」
フリーレンが無理強いしないことを伝えようとしたところで、桃が大した問題ではないと伝えようとしているのか、首を横に振りながらそう答えた。
その時に見せた笑顔は作り笑いのようなものはなく、言葉の通りの感情を出していることをはっきりと伝えようとしていた。それに勘づいたフリーレンは安堵したのか軽く息を吐き、微かな微笑みを浮かべた。
「分かった。そこまで言うなら、最後まで止めずに真面目に聞くよ」
「ありがとうございます。……なら話しますね。この町の……いいえ、ここに住んでたまぞく達の事を」
事の状況を理解してくれたことに一瞬微笑みを浮かべた桃。だが伝えるべき事は真面目に語らなければならないというメリハリがあるからなのか、深呼吸をしてから真剣な眼差しになりながらフリーレンと再び視線を合わせ、口を開く。
「フリーレンさんが会ってきたまぞくの何人かは……いや、全てのまぞくは殺されてしまいました。魔法少女の一人・那由多誰何によって」
ピクリ。フリーレンの身体に挙動が起きた。知り合いである多摩町の魔族が殺されたことにか、全ての魔族が殺されたという事実にか。どちらかにせよ、彼女に何かしらの感情を与えたことに変わりはなかった。
「………………それは、本当の事なの?」
「……はい。貴方が前世の方でも会ってたという、アウラ裁判官も……」
「そっか、あのアウラもか……アイツ、前世以上に他人の魔力の変化とかに対して結構最善の注意を払っていたというのにね。死んだ原因がまた油断とか相手の実力を見誤ったとかじゃなきゃいいんだけど」
誰何に殺されたという一人の魔族に対する辛辣な発言をしながらも、フリーレンの表情は何処となく悲壮感が出ていた。腐り縁だからなのか、アウラという魔族に対して何か想うところがあったのだろう。
「……また酒を飲み交わそうって約束、果たせられなかったな。あるかもしれない前世の記憶も、思い出させてあげられなかった」
アウラ。フリーレンが知っている彼女は、最初は『宇宙の力によって人間性の欠けた状態で誕生した』方の魔族の上位的存在として二度も対峙していた。最終的にはフリーレンが魔力のコントロールによってアウラを欺き、アウラ自身の魔法で自滅する形で消滅した。
その魔族がどういう原理でなのか、今から十年前には裁判官の魔族として転生しており、服従させる魔法(アリュテーゼ)で事件の真相を次々と暴いていっていた。
桜の薦めにより出会った当初は、お互いに不審さを感じていた。フリーレンは何故討伐されたアウラが転生して裁判官として働いているのか疑問に感じており、アウラは前世の記憶が皆無だったためか何故フリーレンに警戒されているのかと疑念していた。
だが実際に話し合ってみれば、前世のアウラとは違い、両者共に思ったよりも打ち解けられたらしく、思わずアウラが食事に誘う程に。そしてあったかもしれない前世の残忍な自分に対して興味を示したようで、それらについてフリーレンに問おうとしていた。誤って濃度の高い酒を飲んでしまい撃沈し、聞かずじまいになったが。
「でも、なんでその誰何って魔法少女は魔族を殺してったの? やっぱ願いを叶えるため? あと、桜や君はその時どうしてたの?」
「……ここからは話せば長くなります」
「構わないよ。まだ暗くなってないし」
フリーレンから長話を聞くことへの了承を確認した桃は、頷いてから全て話した。
桜はフリーレンが多摩町を去ってから数週間後に行方を眩まし、コアとなってシャミ子の命を救うために彼女の体内に入ったことを。
自分はその前に桜によって施設に戻され、三・四年間そこへ暮らしていたことを。
その間に魔族達は次々と誰何に殺害され、続くように町の人達も彼等と関わってきた記憶を消されていったことを。
自分が多摩町に戻った時に誰何と出会い、知らず知らずのうちに残った魔族のリストを渡してしまい、虐殺を助長してしまったことを。
誰何のナビゲーターであるウリエルのSOSとメタ子の導きにより、桜のへそくりであるまぞくカードを手にしたことを。
そのまぞくカードが、白哉の父親を助けるために自分から封印されることを打って出たシャミ子の父・ヨシュアを封印したことで生み出されたものだということを。
また魔族達との関わりの記憶が町の人達の記憶から消え、そこから誰何がこの町の魔族達を殺した事を知り、戦闘になったことを。
最終的に最後のまぞくカードを使って、誰何を無力化して追い出すことに成功したことを。
全ての話を聞き終え、フリーレンは曇った表情で一つ息を吐く。
「そっか……私のいない間にそんな事があったんだね」
「はい……でも、それから先は大事件は起きてないですし、私達も色々あったけどもう大丈夫ですよ」
「そう……」
桃が誰何の件でもう気に病んでいないことを偽りない笑顔で伝えるも、フリーレンの罪悪感による曇り顔は目立った変化もないままである。
もしも自分が多摩町に滞在し続けていれば、魔族達が全員誰何に殺されることはなかったのではないか。後悔するのが今更すぎるとはいえ、ヒンメルや人間の事を知ろうとしなかった時に近い罪悪感を持つようになる。
「───この事で後悔しているのは、フリーレンさんだけじゃないですよ」
「えっ?」
かつて自分も同じ心境を持っていた。そう呟く桃の言葉に気づき、フリーレンの表情は無意識にも曇りが薄れた。その一方で、桃は思い出したかのように顔に影を落とす。
「十年という時で気づいた事だったんですけど、私が誰何との闘いで使った、姉が遺したへそくりのまぞくカードがシャミ子のお父さん……ヨシュアさんを封印したことで生み出されたことに気づいてからは、この事をシャミ子に伝えるべきなのか、伝えたらシャミ子を傷つけてしまうのではないか……そう思っていた時期がちょっと前まであったんです」
身内が行ったことである上に気づいたのが後々だったとはいえ、親友の大切な存在であるはずの者が封印されて、それによって生み出されたものを全て使い切ってしまった。その事実がシャミ子を傷つけてしまうのではないか……
桃は不安を抱えていた。あの時の自分の行動が正しかったのか、親友の大切なものを奪ってしまったことが裏切りとなるのではないか……様々な疑心が桃を背負い込ませ、人知れず苦悩していっていた。
しかし。その負の感情を思い出していた表情はだんだんと晴れるものへと変わっていき、微笑みを浮かべながら再び口を開いた。
「でも、シャミ子にその事を話した……というよりは彼女の夢魔の力を通してその時の記憶を見せた時には、『そんなちっさいことでみんな怒らないですよ』って怒鳴られました」
ここでフリーレン、呆気に取られた表情になる。先程桃の口から出たとある言葉がフリーレンを動揺させたのだ。
「………………えっ? 『そんなちっさいこと』? その程度の事で済ませちゃったのあの子? 父親を封印されるって、結構大事なことだと思うのだけど……」
「本人曰く、そういう非常識なこと……サプライズに慣れたからだそうです」
「えぇ……」
フリーレン、思わずしょぼしょぼ顔で呆れた声を漏らす。いくら常識からかけ離れた出来事に何度も遭遇したからとはいえ、軽い認識とフワッとした受け止め方をしていいのだろうか……フリーレンはシャミ子の今後に不安を感じ出した。
が。
「でも……そんな心の強かった彼女の言葉があったからこそ、私は吹っ切れることができた。改めて前を向いて生きていけるようになったんです」
「……‼︎」
そう語る桃の満面の笑みが、シャミ子に取り戻してもらった……というよりは与えられたものがあることを、フリーレンに察知させた。さらに気づかせた。シャミ子という魔族には、魔力とは異なる正しい力を持っているのだと。
そして、フリーレンは興味を示した。シャミ子という魔族……人の存在を。もっと関わってみたい、そう思う程に。
「……そっか。シャミ子って君が影響を受ける程にすごい子だったんだね」
「はい。彼女自身はその自分のすごさに気づいてないみたいですけどね」
「無自覚系なのかな、あの子」
「そうなんでしょうね」
いつの間にかシャミ子の良さを語るようになっており、シャミ子がどれほどすごい存在となっていたのか……桃はそれを思い返し、フリーレンはどのような人物であるのかを想像し、お互い思わずクスリと笑い合っていた。
シャミ子や……もしも白哉という幼馴染で彼氏が存在していなかったら、異性同性関係なく彼女に恋愛的好意を示してしまう者が多くなることだろう……
と。ここで両者、とある違和感に気づく。
「……って、アレ? ガタルフとナディアがいなくなったんだけど」
「リリスさんも……まぁあの人にはゴミ拾いのノルマがあるからなんとなく分かるけど、この話から離脱するとは思えない……」
そう、ガタルフとナディア、そしてリリスがいつの間にか二人の元から離れていっていたのだ。リリスならまだしも何故他の二人まで……そして魔族に関する話からリリスが離脱するとはどういう事なのか……二つの疑念点が二人を困惑させた。
だがその数秒後。
「フリーレン様‼︎ 突然この場を離れてしまい申し訳ありません」
三人とも桃とフリーレンの元に戻って来た。
「ぷりゃあ」
何やら不思議な動物──後ろに流している先端が濃い色となっている異様な程に長いポニーテール、根元から体毛が跳ねている大きな三角の耳、口から覗かせる牙、周辺にアイシャドウや頬紅状の模様のある赤い瞳、まん丸の手、同じくまん丸に三本の指に分かれている足、一メートルもあるまん丸の体をしている濃いピンク色の生き物──の入っている巨大なダンボール箱を、浮遊魔法で持ち運びながら。
「えっ。何それ……」
「なんか川に流されてたから拾ってきた‼︎」
「余は怪しいから引き上げるだけにしろと言ったのだが……」
シリアスからの感動に近い会話の後に、突然の謎の生物が拾われるという現状。これに対して、桃達はどのような反応をすればいいのかと悩まされることとなった……
はい、いつものぶっつけ本番のテンションで別作品のキャラを追加してしまいました。反省してます。
ちなみに今回追加したのはポケモンシリーズの色違いサケブシッポです。本当はテラパゴスにしようかと思ったけど、白哉の召喚獣の一匹であるコウランがいて、亀キャラが被ってしまうと感じたので……