偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語   作:名無しのモンスター

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新年あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いしますってことで初投稿です。

新年早々サブタイトルで大○洋が巻き込まれる始末……カワイソス


ダンジョン攻略合同チームvs水鏡の魔物の複製体vsダー○ライ……いやダーク○イは出ないけどね?

 

 シャミ子がフリーレンの持つ魔法の杖に変形させたなんとかの杖から風圧の強くて速いかつ太い奔流となる閃光──一般攻撃魔法(ゾルトラーク)の光──が放たれた。

 

 それもフリーレンが放つものよりも速射性が優れており速く、威力も風圧だけで壁を揺らす程に凄まじい。しかも一度に敵である複製体の数に合わせて三発も。それも彼女達のみを覆い尽くす程の範囲で、近くにいたフリーレンを巻き込まず正確に。

 

 

「スッ……スゲェ。三発も発射されたからかもしれないとはいえ、フリーレンさんが放った時のよりも、肌が結構ピリピリしてきたぜ……」

 

「シャミ子、あそこまで強い魔法をイメージできたなんて……」

 

 

 シャミ子の事を当然の如く信じていた白哉と桃ですら、あそこまでの一般攻撃魔法(ゾルトラーク)の強化は予想していなかったのか、シャミ子が放った一般攻撃魔法(ゾルトラーク)に動揺を隠せずにいた。

 

 だがそれ以上に、今の一撃で三体とも倒せたのではないかと、淡い希望というその可能性を考えるようになった。ここまで強力な一般攻撃魔法(ゾルトラーク)を放てたとすれば……そう思ったのだろうか。

 

 

「やっ……やったのですか……?」

 

「フラグやめて。いや、フラグ出さなくてもまだだってことは分かっていたけど」

 

「フラグとか言わないでくださいなんか申し訳ないので‼︎」

 

 

 シャミ子、勝てたと思い込んではいたものの、フリーレンの指摘によりその淡い希望を置いておくことにした。何故なら……

 

 三体の複製体は、シャミ子の一般攻撃魔法(ゾルトラーク)が当たる寸前に防御魔法を展開して防いでいたのだ。フリーレンの複製体は本人と同じ六角形の連なったバリアで、桜の複製体は桜の花を形取ったバリアで、誰何の複製体は黒い外套のような実体化した影によって。

 

 

「じ、自分でも防がれたと思ってはいましたが……でも……」

 

 

 防がれる可能性が高いことを既に察していたシャミ子ではあったが、自身の攻撃を三体が防いだバリアなどをよく目を拵えて見て口に孤を描いた。

 

 フリーレンの複製体が張ったバリアは左半分のヒビ割れと右半分が崩れ落ちている跡があり、桜の複製体のバリアも全体的にヒビ割れており、誰何の複製体の外套も時間が経つ内にという形でボロボロに崩れ落ちていった。

 

 

「うん、威力の方は申し分ないね。咄嗟に防がれるなんてことが無ければ、三体ともかなりのダメージが入っていた」

 

 

 フリーレンの複製体が追撃させまいと防御魔法を解除してから放った地獄の業火を出す魔法(ヴォルザンベル)を、フリーレンが防御魔法で防ぐ。その隙に三体の複製体は後退し白哉達のいる位置から離れる。追撃を喰らう前に態勢を立て直すための判断なのだろう。

 

 

「やっぱりスピードが物を言いますか……‼︎」

 

「いや、アレは偶々防がれたってだけの感じだよ。運が偶々あっちの方に向いてただけ。次こそは当たればいけるよ、当たれば」

 

 

 まだ倒せる可能性があることを語るも、念入りに次は先程の様なスムーズな成功をするとは限らないことを釘刺すフリーレン。相手が防御手段を崩されかけ後退した程なのだ、また同じ手を喰らわぬと警戒する確率は高いと警告せざるを得ないと察しないわけがない。

 

 

「ここからはかなりジリ貧となる。さらに気を引き締めていくよ」

 

「「はい‼︎」「は、はい‼︎」

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。ダンジョンのとあるエリアにて、全蔵とナディアがミカンと拓海……二人の複製体と戦っていた。

 

 全蔵が霊術を操る拓海に対し壁走りで標準を逸させつつ翻弄したり、ナディアがミカンに接近し彼女を後退させたりと、敵に攻撃させる隙を与えにくくしていた。

 

 

「(本人の口から言ってた通りッスね。仙寿くんは素早く動く生き物に対して標準を合わせるような戦法は苦手だと言っていた……壁を利用して動き回れば、狙って攻撃するような霊術は打ってこない……敵の手を一つ崩せたのと同義ッス‼︎)」

 

「(ミカンさんは近くだと緊張して狙撃が全然当たらないけど、超遠くからだと結構当てられるって言っていた。未だに嘘っぽくて信じられないと思ってはいたけど、歯軋りしてるような顔で震えてたから本当だったんだね……‼︎)」

 

 

 事前に仲間達と共に互いの戦闘面での苦手な部分を話し合っていた全蔵達。ダンジョンにいる者達の記憶を読み取り再現するだけの水鏡の悪魔(シュビーゲル)とは違い、話し合い互いの弱点などを共有し合えることが利点となっている。そのためか、今のようにスムーズかつ有利に戦いを進めることができたのだ。

 

 

「そこッス!! 忍法・嵐気砲!!」

 

 

 拓海の複製体との距離を一気に詰めた全蔵。その位置のまま両手を叩くように合わせて音を鳴らした後、その両手を前に突き出した。するとどうだろうか。全蔵の両手から嵐のように吹き荒れている空気圧が飛び出し、拓海の複製体を吹き飛ばしたではないか。

 

 その空気圧の威力に耐え切れなかったのか、壁に背中を強く打たれた拓海の複製体は身体の維持をすることが出来ずにその場で崩れ落ちた。言葉の意味そのままに、劣化した石像のように。

 

 

「よし!! 全蔵さんの方は片付いたみたいだし、こっちも終わらせるとしようかな!! 山砕斬(さんざいざん)!!」

 

 

 全蔵が拓海の複製体を倒したのを目認したナディアも、ミカンの複製体を倒すべく動く出した。高い瞬発力を用いて彼女との距離を一気に詰め寄り、接触寸前で斧剣を横薙ぎに、瞬時かつ豪快に振り回した。近距離での戦いが弱点であるがためか、ミカンの複製体は対処できずにそのまま身体を泣き別れされてしまう。

 

 人間が絶命する程に崩壊させられた身体の維持を保てるはずもなく、二体の複製体はそのまま地面に転がり落ち、役目を終えた木炭のように消えていった。

 

 

「フゥ……これでしばらくこの二体は復活するまで問題ないね」

 

「そうッスね。けど、知り合いを殺してるみたいでスッキリしないッスね」

 

「仕方ないよ、複製体が本人そのものって感じだったでしょ」

 

 

 二体の複製体がしばらく戦闘不能になったのを確認し、ナディアは一息つけると思ったのか背伸びし、全蔵は偽者とはいえ知り合いと戦ったことに乗り気ではなかったことを呟く。

 

 何はともあれと、他の仲間達の援護に向かうために二人が歩を進めようとした……

 

 

「ッ!! 全蔵さん、下がって!!」

 

「えっ……? グヘッ⁉︎」

 

 

 刹那。ナディアが全蔵を押し飛ばし、その場で後ろに振り向きながら斧剣を振り回した。

 

 ガキンッ、とした重い金属同士がぶつかり合う音が周辺に響く。別の複製体もしくはそれ以外の敵が奇襲を仕掛けてきたのだ。

 

 ナディアの斧剣を押し潰すかのように押しているのは、その斧剣と同じ……というよりは少し大きめな巨大な斧。

 

 その斧に押されている斧剣は、力持ちであるナディアが力強く握っているのにも関わらず、まるで一般の人が重い物を抱えているかのように震えていた。その斧の持ち主がナディアよりも力を持っているかのように。

 

 

「クッ……こんのぉ……‼︎ てぇやぁぁぁっ‼︎」

 

 

 斧の使い主に負けじと、ナディアは斧剣を握っている力を入れ、勢いに任せるように押し飛ばした。斧を弾かれたその使い主が後退したからなのか、押されていた時の重さ……感覚がなくなったナディアはすぐさま姿勢を立て直しながら斧剣を改めて構えた。

 

 

「……‼︎ ビックリしたよ。これは多分、フリーレン様が言っていた私達のご先祖様そっくり……いや、本人かな?」

 

 

 ナディアが前を向けば、視界に映った斧の使い主の姿を見て驚愕したのか一瞬目を見開いたものの、喜びを覚えたかのように微笑んだ。

 

 その斧の使い主の姿は、十代後半の青年を模した複製体だった。三白眼気味のつり目で、左目の周囲から額にかけて大きな傷跡がある。その傷跡が見えたことにより、歴戦並の屈強な戦士のように見える。

 

 だが、この青年は白哉達の知り合いどころか、ダンジョンの参加者ですらない。彼は一体何者なのか……全蔵が動揺を隠せずに戸惑う。

 

 

「えっ⁉︎ あ、あの人、ダンジョンに参加してなかったッスよね……? そ、そもそも会ったことないし……ってか今、ご先祖様って……」

 

「落ち着いて全蔵さん。桃さんの記憶から生成された桜さんやすいな(?)って魔法少女の複製体が作られたんだし、きっとフリーレン様の記憶から生成されたんだと思う。だから今更驚きなんてしないよ」

 

 

 対するナディアは落ち着いている様子だ。桃の記憶から桜と誰何の複製体が作られた例もあり、フリーレンの考察もあるため、彼女の記憶から自分達の先祖の複製体が現れてもおかしくないと感じたのだろう。

 

 

「でも……勝てるかどうかは微妙なんだよね。ご先祖様の耐久力が尋常じゃない程ヤバいってフリーレン様が言ってたから。なんかドラゴンに喰われても平気だったとか」

 

「えっなんて?」

 

 

 耐久力が尋常じゃないってレベルではないのではないか? それは常人を超えているのではないか? ナディアの言葉に対し、全蔵はそう引き気味になった。

 

 

「だからこそ」

 

 

 意を決した表情になったナディアは、斧剣を改めて構え、自身の先祖である戦士の複製体を見据える。それに合わせ、複製体も自身の持つ斧を構え直す。

 

 

「私は……この人に勝ちたい。魔物がいなくなって平和な世界に、突然の脅威が襲って来た時でも、みんなを護るために……先祖を超えたい」

 

 

 先祖を超える戦士になりたい、それがナディアの持つ夢だった。夢の世界とはいえ、完全再現されただけの偽者とはいえ……ナディアは今、先祖と対面している。自分の夢を叶えるチャンスを逃すまい、そう歓喜しているのだ。

 

 全蔵の方へと振り向き、苦笑いを浮かべながらまた口を開く。

 

 

「全蔵さん……悪いけど、他の敵が来ないかどうか見張っといて。今の私、乱入とか闇討ちとかの対処ができない状態なんだ。でも、この戦いは絶対に譲れない」

 

「ナディアちゃん……」

 

 

 やはりというべきか、ナディアは一対一での先祖の複製体との戦いをしたいと全蔵に懇願する。全蔵としては加勢したいと思っているが、ナディアの強い意志をも尊重すべきだとも考えている模様。そしてすぐに、後者を選ぶことになった。

 

 

「わかったッス。叶う叶わないかの、一度きりのチャンスッスもんね。邪魔が入らないよう、きちんと見張っておくッス‼︎」

 

「……うん、ありがとう」

 

 

 互いに笑みを浮かべた後、全蔵は預けるようにナディアに背中を向ける。彼の許しを得たナディアは、改めて先祖の複製体の方に振り向き直した。

 

 

「それじゃあ……いくよ、シュタルクご先祖様」

 

 

 ナディアと先祖──シュタルクの複製体、同時に駆け出す。二人の間合いは一秒も経たずに一気に詰め寄り、斧剣と斧が混じり合う重い金属音が周囲に強く響き渡った。

 

 先祖と千年程先にて産まれた子孫、果たして勝つのはどちらか。

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。ナディアがシュタルクの複製体と戦っているのとは別のエリアにて、ガタルフはリコの複製体と戦っていた。妖術を用いて相手を翻弄させたりするのがリコの特技ではあるのだが……

 

 

「“解除魔法”」

 

 

 ガタルフが発動されている魔法を解くために使用される魔法を試しに用いたところ、奇遇によるものなのか妖術も解除されるようになり、何度もそれを無効にしていった。

 

 

「(魔力を持っているのならば、魔法じゃない術でも“解除魔法”が適応されるのか……これは幸運というべきかな)」

 

 

 運の良さが味方したのではないかと呟きながら、ガタルフは杖の先端から六弁花の図式となる魔法陣が展開させ、一筋の光を煌めかせる。

 

 

魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

 

 妖術を解除させられ困惑しているリコの複製体の身体全体を、魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)の奔流が飲み込んだ。光が収まった時には、リコの複製体の身体は形状を保てなくなったのか消し炭となり、何処から吹いてきた風に流されながら消えていった。

 

 

「(とりあえずこれで、この人の複製体はしばらくこのままだろうな)」

 

 

 再生するまでの間は問題ないと確信したガタルフ。他の者達ならばこのまま仲間の元へ加勢しに行くところなのだが、ガタルフはすぐその行動を取らなかった。何故ならば。

 

 

「さてと……“近くの石の温度を感じ取る魔法”」

 

 

 杖を掲げるように構え、石となるものの位置を探る民間魔法を用い、別の複製体が何処にいるのかを探ることにしたからだ。

 

 複製体は石像のようなもの。石像ならば石の温度を感じ取ることができる。だが同時に魔力も感じ取れるものであるため、ここでは普通に考えて魔力探知を使うところなのだが、ガタルフが念入りにこの民間魔法を使用したのにはきちんとした意味がある。

 

 

「………………そこだ‼︎」

 

 

 複製体の位置を確定したのか、ガタルフは振り向き天井を見上げながら、そこに向けて一般攻撃魔法(ゾルトラーク)を発射させる。それは防御魔法によって防がれるものの、それを発動した者を後退させながら床へと降下させることになった。

 

 

「(やっぱりか……この人の魔力は()()()()()()()()()())」

 

 

 降り立った複製体を、ガタルフは敵意を剥き出しにするように睨みつけた。『魔力を全く感じ取れなかった』と語るに、その複製体は自身の持つ魔力を完全に隠すことが得意と見てもよいだろう。

 

 その複製体は、髪を腰まで長く伸ばしておりローブを羽織っているものの、白哉達の知り合いどころかダンジョンの参加者ですらあらず。どうやら誰かの記憶から生成されたのだろう。

 

 

「(しかもあの姿……なるほど。あの人がフリーレン様の言う、僕達の先祖様の一人なのかもしれないね)」

 

 

 ガタルフは冷静に複製体の正体が何者なのかを判断しながらも、改めて杖を構える。フリーレンから自分達の先祖の話を聞いていたからなのか、それとも複製体の例があるからなのか、先祖が相手でも動揺しなかったようだ。

 

 だからといって、警戒していないわけではない。“肥料を撒く魔法”を勢いよく複製体の足元に放ち無理矢理飛行魔法を使わせ、そこにさらに“肥料を撒く魔法”を放ちながら、ガタルフは考察に入る。

 

 

「(となれば……戦い方もフリーレン様から聞いた通りになるのかもしれない。確か、一般攻撃魔法(ゾルトラーク)と防御魔法だけを用いる至極シンプルなもので、全盛期の世代主流の質量をぶつける魔法を軸とした立ち回りとはかけ離れた古い戦法だったと聞いた……)」

 

 

 何度か“肥料を撒く魔法”を回避した複製体がタイムラグ無しに一般攻撃魔法(ゾルトラーク)を放つも、ガタルフは来ることを既に予知していたのか即座に防御魔法を貼って防ぎ、一般攻撃魔法(ゾルトラーク)を打ち返す。同じくして防御魔法で防がれるも、距離を離すことには成功したようだ。

 

 

「(でもその代わり、図抜けた魔力量に裏打ちされた豊富な手数、射程と精密性、さらには圧倒的な出の速さによるゴリ押し性能がとにかく高いとか……一度でもチャンスを与えてしまえば、負けるのは確実に僕になると思う)」

 

 

 今度は離した位置の天井に向けて“天井のタライが上手い具合に頭の上に落ちる魔法”を使い、天井の瓦礫を複製体の上に落とし怯みを狙う。だが既に察知されたからなのか、複製体は頭上に防御魔法を展開することでそれを防ぐ。

 

 ここまで攻撃が一切通らずにいたガタルフだが、その目は諦めなどによる曇りはなかった。

 

 

「(だけど……だからこそ、負けられない。僕達の代まで魔法を受け継がせてくれた先祖様に、僕の魔法で勝ちたいんだ……‼︎)」

 

 

 フリーレンや先祖がいる、魔法の高み。そこへ自分も上り詰めたい。それがガタルフの、魔法が不要になったこの平和な世の中でも、家の代関係なく目指している目標である。その高みへと近づくために、彼は先祖との戦いから逃げようとしなかった。

 

 

「まだまだ全力でやらせていただきますよ、僕達の先祖──フェルン様‼︎」

 

 

 六弁花の図式となる魔法陣を展開させ、そこから一般攻撃魔法(ゾルトラーク)の発射の態勢を取るガタルフ。それに合わせるように、先祖──フェルンの複製体も一般攻撃魔法(ゾルトラーク)の準備に取り掛かる。

 

 

「───先祖を超えるための魔法(ゾルトラーク)‼︎」

 

 

 全身全霊を持って放たれた一発目の一般攻撃魔法(ゾルトラーク)が、先祖流儀となる一般攻撃魔法(ゾルトラーク)とぶつかり合い、轟音と風圧が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 ナディアとシュタルクの複製体、ガタルフとフェルンの複製体……それぞれがぶつかり合っているところから離れた別のエリア。そこでは激しく重い鉄の音が強く響き渡っていた。

 

 その鉄の正体は、黄緑色の少々太めで頑丈そうな鎖が付いた、複数もの深緑色の棘付きの巨大な鉄球──ギャップマジカルチェーンアレイ。それも、この世にたった一つしかないもののはずが、二つもあり、それらが振り回されながら互いにぶつかり合っていた。

 

 ギャップマジカルチェーンアレイを操っているのが、それの持ち主である柘榴と、彼の複製体。そう、彼等は既に対峙しており、双方どちらかが力尽きるまで戦うことになっていたのだ。

 

 

「……そっちも様子見か。先に技を出してくるのかと思ってた」

 

 

 投げ飛ばして弾かれた己の武器を回収しながら、柘榴はこれまでの自身の複製体の動きを警戒する。

 

 能力全てを理解した上で自分自身と戦うとはいえ、まずは相手側の様子を窺わなければ仕掛けるにも仕掛けられない。そう判断した柘榴はすぐに技を出さずに自身の素の力のみを振るうことから始めているようだ。

 

 だが、複製体も自分自身。考えていることが奇遇にも同じだったためか、複製体も一切技を発動しようとしない。痺れを切らすことも視野に入れているのだろうか、そう警戒せざるを得なかった。

 

 

「……いや、それとも状況が状況だから、技を出すまでもない……そう思っているから、なんだろうね」

 

 

 そう呟いた途端、柘榴は顔を複製体の方向に向けたままギャップマジカルチェーンアレイを、何故か後方へと投げ飛ばした。本来ならばここはチェーンアレイが空振りして地面に重く降下するところだが……

 

 ガキンッ

 

 金属と金属が軽く交差する音が発生し、チェーンアレイが軽く弾かれてしまう。それでも柘榴は一切臆せず、その場で回転しながらチェーンアレイを振り回し、複製体を後退させ、『柘榴の後ろにいた者』を前方に飛び上がらせる形で回避させる。

 

 

「……今、一対二の状況になっているし」

 

 

 前を向き直せば、複製体のいたところに先程まで柘榴の背後にいた何かが降り立つ。悪魔の羽が生えた謎パーツの髪留めに靡くマント、右手には全体が真っ黒な日本刀。そして何より目がいくのは、複製体と同じ全体の体色。

 

 

「……桃の複製体。彼女とも相手をすることになるなんて、思ったよりも骨が折れる。後、なんか申し訳ない」

 

 

 桃の複製体を睨みながら、柘榴は苦笑いしてそう呟く。いくら彼女が偽者──本物ではないとはいえ、かなり仲の良い彼女を殺すような形で戦い、殺すように倒すことに少しの抵抗力を感じているようだ。

 

 だがそれでも、自分自身の複製体と同様に彼女を放置すれば、他の複製体と戦っている仲間達にさらなる負担や被害を与えてしまう。その結果の方が親しみのある彼女と戦うこと以上に嫌悪感をも抱いていた。

 

 どちらにせよ、状況が状況であるため彼女との戦いは避けられない。その上、他の複製体と戦っている仲間の救援も現状難しく、同時に自分自身の複製体とも同時に相手をしなければならない。柘榴はその事も考えて不服さを感じ出す。

 

 

「……でも、こいつらは僕一人でも倒せる。というか、僕抜きではスムーズに倒せないはず」

 

 

 それと同時に、彼には二人に勝てる可能性を見出そうとしていた。

 

 自分自身の複製体の能力は本人と同等。ならば自分自身への対処法は自分で判断することができる。

 

 さらに桃の複製体も桃本人と同じ能力を持っており、彼女の戦闘スタイルも完全に一緒。その上、彼女と共に過ごした時間が長いため、彼女の戦闘スタイルからどのような弱点があるのかも把握している。

 

 相手の能力──情報を多く把握している彼だからこそ、人数不利をも跳ね返せるのではという可能性を信じているのだ。

 

 だからといって、戦いが円滑になるとは限らない。人数差による対応の遅さの命取りもあるが、圧倒的有利にはならない理由はもう一つ存在する。

 

 

「……ま、敵チームの一人には僕自身でもある複製体がいる。だから、彼も僕の弱点を知ってるだろうけど」

 

 

 そう、相手の一人はもう一人の自分。彼も柘榴で、柘榴の戦闘スタイルも同じ。そして柘榴の弱点も理解している。即ち彼に弱点を狙われ隙を突かれる可能性だってあるということだ。

 

 そして柘榴の弱点を狙われる隙を作りやすいのは、現状では本人ではなく複製体の方。彼の方には桃の複製体という味方が存在している。彼女に囮などで注意力をそちらへと引き寄せ、その時の隙を狙って……という手段を、複製体側が可能な状況であるからだ。

 

 やはり現状では柘榴の方が不利か。そう思われるこの場面ではあるが……ふと柘榴は大きく息を吐き、気怠けな雰囲気を醸し出す。

 

 

「……水鏡の悪魔(シュピーゲル)の記憶力が、奴を再現したリリスさんに影響していることを祈ろうかな」

 

 

 しれっとリリスの事を蔑んでいるかのような発言が出てきたのだが、柘榴はそんな事は気にしないという様子でギャップマジカルチェーンアレイを両手で持ち、目を閉じる。

 

 これは諦めによるものか。それとも“明鏡止水”の領域に入ることで何かしらの勝ち筋を見出そうとしているのか。

 

 どちらにせよ、先程までとは異質な動きを見せてきた柘榴を、二体の複製体は放っておくことはできなかった。何か仕掛けられる前に倒さなければなるまいと、二体とも同時に武器を構えながら飛び出した。

 

 

 

「……引っかかった」

 

 

 

 柘榴が口に弧を描きながらそう呟くと、彼の周囲に魔法陣が浮かび上がる。するとどうだろうか。そこから一瞬にして、複数もの棘の生えた蔦が二体の複製体を包帯巻きにして動きを封じたではないか。

 

 二体の複製体が動きを完全に封じられたことを確認した柘榴が目を開き、静観ながらも喜びを噛み締めているかのような様子で語り出す。

 

 

「……これはソーントラップ。僕が新しく覚えた魔法。展開した魔法陣の枠内に入った者を、そこから湧き出る蔦で縛りつけるもの。今回のは高い魔力を注いでコーディングしたから、そう簡単には壊れない」

 

 

 柘榴がそう説明している中、彼と桃の複製体は自身の身体を簀巻きにしている蔦を振り解こうと必死にもがいている。だが、蔦は柘榴が魔力によって硬度を高めたことにより、彼等にどれほどの腕力を持っていようとも引き千切れることはなかった。

 

 

「……やっぱり、僕や桃でも解けないみたいだ。成功ってことか」

 

 

 力自慢でも早々に引き千切れることはない。その結果を知ったからなのか、不思議にも柘榴の口角が上がっているように見えた。

 

 

「……桃の過去が映し出された夢の世界を観てから、いつも以上に桃を護れるようになるために、こっそりと覚えておいた新技なんだ。記憶の読み込みが曖昧で……把握されなくてよかった。リリスさん、ありがとう」

 

 

 またもやリリスの事を蔑んでいるかのような発言が飛んできたのだが、それを口にした本人は何とも思っていないのか、或いは無自覚にも蔑む気がなかったからなのか、全く気にしていない様子だった。リリスェ……

 

 

「……さてと。今解けないからといって、これがずっと続くとは限らない。時間が経つにつれて、蔦が緩んでしまうかもしれない。だから、一発で早めに倒させてもらうよ」

 

 

 最悪の事態が起きることを防ぐためにと、柘榴は鉄球を天井に掲げ始めた。すると石の種類のものによって作られているはずのその天に、現れるはずのない黒い雲が漂ってきた。その雲が出てきたことに合わせ、柘榴が鉄球を振り下ろした途端……

 

 

「……トールボルテックス‼︎」

 

 

 複数もの雷撃が、雲から次々と降りかかってきた。それらが全て次々と柘榴の複製体と桃の複製体に頭上から降り掛かり、簀巻きにされて抵抗できない状態の二体に直撃した。

 

 次々とトールボルテックスの一つ一つが、一番弱くとも戦車一台を破壊できるかのような爆発を巻き起こした。雷撃と爆撃を同時に受けた二体の複製体は、身体の維持をすることができなくなったのかその場で身体を崩れ落としてしまう。

 

 

「……フゥ。いくら人の記憶を読み取る水鏡の悪魔(シュピーゲル)とはいえ、それを再現する者が優秀すぎなくてよかった。ソーントラップが適用されなければ、こっちが危なかった……」

 

 

 無自覚にリリスの事を蔑んでいるかのような発言、三度目。これはもうこの発言を聞いたリリスはキレてもいい。というか彼女は監視カメラで柘榴の行動も観ているためか、絶対この発言を聞いてキレていると思う。

 

 

「……それにしても、新技が本番で成功してよかった。これなら桃の……みんなのさらなる力になれたかな」

 

 

 新しい技を成功させたことで、改めて仲間達の力になったと感じたのか、柘榴は微笑みを浮かべたのだった。

 

 




戦いは続くよどこまでも……と言っても後2回ほどですけどね。
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