偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
今回登場する複製体は、上記を見るに『葬送のフリーレン』を読んでる人なら分かると思います。しかも強いよ☆
「いやいやいやいや、さすがにこれはあり得ないでしょ……」
白哉達がそれぞれの適材適所に合わせて複製体と戦っている中、拓海と共に行動していたミカンは、目の当たりにしている光景に頭を悩ませていた。
「このダンジョンにいない人の複製体はともかく、なんでそれが操る量産ゲームキャラみたいなのまで複製されるのよ……ってか、なんでみんな首ないのかしら?」
そう愚痴るように呟くミカンの視線の先にいるのは、肩周辺を露出させている衣装を着込み、クワガタみたいな大きな角を付けている女性の複製体。角が見えるからして、魔族である可能性が高いだろう。
その後ろに隊列を成すように並び立っているのが、首の無い鎧の騎士──否、甲冑の大軍。首が取れていながらも禍々しい色を持つ瘴気を放ちながら律動しているからして、先頭に立つ魔族によって操られている可能性があるのだろう。
「あの大軍もそうだけど、一番厄介そうなのが、あの先頭の複製体が持つあの天秤だろうね……」
ミカンと共に行動している拓海がそう呟きながら見つめる先には、魔族が右手に持つ、甲冑一つ一つと同じ瘴気を放つ天秤。どうやらあの天秤が甲冑の大軍を操っていると憶測される。
「アレが甲冑を操っているからして、もしかすると俺達の事も操る可能性もある……アレには警戒せざるを得ないな」
天秤が対象を取った者を操る可能性があることを示唆する拓海。一瞬でも油断すれば自分達はあの魔族の複製体の天秤によって操られ、死へと追い込まれる可能性もあるのではないか。そう警戒を強めざるを得ない程に。
「ここにウガルルちゃんがいれば、相手に気づかれずに奇襲を仕掛けてそのまま倒してくれるだろうけど、蓮子に同行させながら他の複製体への不意打ちによる一撃を任せることにしちゃったしなぁ……」
さすがのウガルルに対して過保護な性格であった拓海も、ウガルルの潜伏能力に救いの手を求めざるを得なく感じたようだ。それほどまでにこれから戦おうとしている魔族の複製体が、戦う前からあまりにも危険性の高い存在であったということだ。
「でも大丈夫よ。この周辺のダンジョンの仕組みは分かったし、幸いその周辺が私にとってはかなり好都合。後はあの複製体がそれに気づかなければ、きっと……‼︎」
「……‼︎」
ミカンが魔族の複製体を勝てる可能性があることを伝えると、拓海が僅かな希望を持てたことを確信したのか目を見開いた。それも喜びの感情を持ってして、だ。
「………………分かった。俺があの複製体の魔法に掛からないようにしながら注意を引きつける。その間に遠くから狙いを定めて決めてくれ」
「分かったわ。拓海……どうか無理しないで」
「そっちもね」
お互いの考えがまとまったのか、すぐさま拓海が動いた。一枚の陰陽札を複製体に向けて投げつければ、それから広範囲の白い煙幕が吹き出す。
複製体の視界が遮られた隙に、拓海が次の行動に移る。複製体の視界が遮られ、元々視界となる目が無い首なしの甲冑が動き出す前にと、煙幕の中に紛れながら次の霊術を使う。
「(───捕縛術・光輪‼︎)」
二枚の陰陽札を持った両手を重ねて前に出せば、甲冑の大軍の上空に巨大な光の輪が現れ、腰部辺りにまで降下。そのまま収束していき、あっという間に甲冑の大軍を一人残さず拘束した。
甲冑の大軍を拘束したその光の輪に目掛け、それを発動させるために使用した陰陽札を投げつけそのまま貼り付けさせる。その札を中心に赤い鎖らしき模様が浮き出し、それが光の輪だけでなく甲冑の大軍をも覆い尽くす。拘束力の耐久性を上げるための措置だろうか。
「(よし、運良く部下っぽい奴の動きは封じれた‼︎ 後はリーダーとなる複製体をどうにかするかってのが問題だけど……)」
次はどうするかと考察しようとする拓海に向かい、一筋の光の奔流が直通して襲い掛かる。しかし、拓海はそれを反射的に使用した防衛術・誘導藁によって作られた等身大の藁人形で防いだ。
「危なっ⁉︎ まさか、
反射神経による咄嗟の対応であったものの、複製体が煙幕に紛れて放った魔法──
複製体との出会った記憶がないため、拓海はその者が何者なのかもどのような魔法・能力を持っているのか、先程まで分からずにいた。しかし、先程の複製体の行動で一つの確信が生まれた。
「(にしても、あの複製体は
複製体の正体がフリーレンが千数年前までに出会ってきた類の魔族の一人であると確信したのか、複製体がどのように自分の事を欺いてくるのかと、改めて警戒する意思を示す。
「(つまり可能性があるとすれば……あの複製体が使っているだろう洗脳系の魔法は、支配する対象が自分よりも弱くなければ使えない。そして自分よりも強くなってしまえば、無効となるか立場が逆転するものだと見た。こちらがかなり弱まった隙を突いてその魔法を使ってくるかもしれない。となれば……)」
新たな陰陽札を空いている手に取り、攻撃と防御……どちらにも素早く対応できる態勢を整えながら、拓海は複製体に睨みを効かせる。
「(こちらの疲労感……負担を減らしながら動く必要がある‼︎)」
簡素的な思考をまとめた途端、煙幕が晴れたのと同時に複製体が天秤を翳す。それも何故か拓海の視線に天秤が入らないように。するとどうだろうか。赤く淡い光を放っている天秤の周囲を囲むように、同じ光の瘴気を纏った複数の瓦礫が浮遊しながら集まってきたではないか。
「ええっ⁉︎ 物を操ることまでできるのか⁉︎」
拓海は思いがけない事態に戦慄した。複製体の人を支配するような魔法は、生命を持たない物の操作をすることができないと予想していた。だがその予想を大きく外してしまったのだ。
集められた瓦礫は、複製体が拓海に向けて手を翳したのと同時に、彼に目掛けて接近し始めた。複製体が拓海を効率良く支配の魔法の管轄内に入れるために体力や霊力を消耗させるつもりだ。
「くっ‼︎ 防御術・神威‼︎」
拓海は即座に新たに出した陰陽札を前に突き出し、それによる陰陽札のブラックホール……あ、間違えた。そもそもそれほどの吸収力があったら周囲がかなり危険すぎるし。掃除機のような吸引力で瓦礫を全て札の中に吸収されてしまった。
「あ、危なかった……確かに思ったよりも危険な強さを持ってたか」
一瞬の安堵を漏らしながらも、拓海は先程の陰陽札を新しいものに取り換えながら、警戒の意思を一切緩めなかった。またもや複製体が自分の想像のつかない魔法や攻撃手段を仕掛けてくるのではないか、そう危惧しているのだ。
「(さてと……ここからどうするか。陽夏木さんが作戦通りに丁度良い距離になる程に遠くにいってるといいけど……というか、相手の方は気付いてないよな……?)」
ここでさらに警戒の意思を強める拓海。今となって不安になり始めたのだ、ミカンが作戦通りの準備を整えたのかと。あのまま逃げたわけではないのを確信してはいるものの成功自体はするのかと、そう感じているようだ。
しかし、その不安はすぐに晴れた。
───拓海、伏せて‼︎
「ッ⁉︎」
遠くから聞こえたであろう声に反応し、思わずその場に伏せる拓海。伏せた途端、拓海の髪の毛に当たりそうで当たらなかった位置で柑橘色の巨大な光の矢が一直線に飛び出してきた。
『──────』
「……おぉ……‼︎」
何かが砕かれる音が発生し、光が収まったのを確認し顔を上げた途端、拓海は圧巻したかのような声を上げる。
身体を砕かれ崩れ落ちる複製体。その両隣に物音を立てながら転がり落ちたのは、数本もの剣。おそらく支配の魔法で操作して拓海の身体を突き刺そうとしたのだろう。
しかし、複製体のそんな作戦は予想だにしない方向からの一撃で水の泡となった。柑橘色の光の矢によって身体を砕かれた複製体はそのまま砂となり、ダンジョン内の風に吹かれるかのように飛んで消えていった。
「えっと……思ったよりも早い決着だったかな……?」
強敵を倒せたという事実を目の当たりにしながらも、それを素直に受け止めるべきなのかと悩む拓海。運良く完全に気づかれずに強力な技一撃によるものとはいえ、生命ですらないものすらも操れる凶悪な魔族の複製体があっさりと倒されても良いものなのか……そう感じたようだ。
そんな事を考えている中、遠くから複製体を撃ち倒したミカンが彼の元へと駆け寄って来た。
「ごめんなさい拓海、怪我しなかったかしら?」
「えっあっいや、大丈夫だよ。髪スレスレだっただけさ」
「そう、よかったわ……」
どうやらミカンは絶好のタイミングを気にしすぎていたためか、拓海の身の安全を考慮することを考えていなかったようだ。その事に対して謝罪の言葉を伝えたものの、本人は全く気にしてない様子だ。
拓海に平気であることが分かったのか、ミカンは安堵してホッと胸を撫で下ろした。しかし、すぐに何を思ったのか罰が悪そうな表情になった。
「……でも、本当に一旦倒したってことになるのかしら今のは? なんか呆気なく倒せたというか、何というか……」
「た、たまたま陽夏木さんが相手に悟られない程の距離から一撃で倒せたんだし、結果オーライ……で、いいんじゃないかな?」
「そ、そう考えた方がいいのかもしれないわね……」
自分達が複製体とはいえ、フリーレンが苦戦していそうな強力な魔族を呆気なく倒したことにかなりの強い罪悪感を覚えたのだろう。確かに一撃で強敵を倒せることは違和感を覚えることだろう。ゲームのレベリングのようなものであるため、そう考えればさらなる罪悪感を感じるだろう。
「と、とりあえず次行こうか。今の内に他の人達を助けに行った方が効率良さそうだし……」
「え、えぇ。それもそうね……」
その違和感を持ちながらも、二人は次のエリアで仲間達の援護しに行ったのだった。
♢
一方、その頃。マリンとバトラー、そして朱紅玉とミトが背中合わせの状態になっていた。何故なら、朱紅玉とミトが敵の複製体に押され、気がついた時にはマリンとバトラーの元へと移動していたからだ。
朱紅玉とミトが相手をしている複製体は、額に二本の小さな角の生えた腰まで伸ばしている長髪を持つ小柄な美少女の姿をしている魔族。表情をあまり……というよりは常に表に出さない他の複製体とは異なり笑顔を浮かべているが、笑っているのは口元だけでタレ目となっているその瞳は一切笑っていない。
一方のマリンとバトラーが先程まで相手していた複製体は、軍服を思わせる衣服に左上半身を隠すほどのマントを着ており、オールバックの髪にクワガタみたいな大きな角を付けている魔族。複製体特有の無表情とは思えない程の冷徹かつ覇者のオーラのような雰囲気を漂わせていた。
前方と後方にいる二体の複製体を見ながら、朱紅玉とミトはその複製体達を睨みながらも謝罪の言葉をマリンとバトラーに伝える。
「スマン。まさかアンタ等とバッタリ会う程に押されてもうたとは思わんかった……」
「あの女魔族の複製体、思ってたよりも滅茶苦茶強いですわ……」
「お気になさらず。それよりもお二方、こちらへ。直ちにあの魔法を共有させていただきますので」
「フリーレンさんって人から魔導書を貰っておいてよかったわ……というわけではい、“呪いを防ぐ魔法”」
「“魔術共有”」
マリンの元に朱紅玉とミトがさらに距離を詰めると、マリンの身体から“呪いを防ぐの魔法”の発動によるものなのか黒い瘴気が纏わりつく。それに向けてバトラーが手を翳した途端、そこから淡い光が放たれてはマリンに当たり、それが連結するかのように朱紅玉とミトにも瘴気ごと纏わりついた。
「おぉ……‼︎」
「不思議とフワッとした気持ちになりますわ……‼︎」
その瘴気と淡い光を纏った二人は、その感じた言葉で伝わるには難しい感覚に、違和感を覚えながらも歓喜の声を上げる。
「フゥ……これでたとえ永続とはいかなくても、しばらくの間ならあの『呪い』のような魔法を受けなくてもよくなるわね。ありがとうバトラー、彼女達にもこの魔法の効果を共有させてくれて」
「勿体なきお言葉です」
マリンがとある対策を万全にすることができた事に喜びを覚えたのか、その対策作りに講じてくれたバトラーに感謝の言葉を送れば、彼は当然の事をしたまでだと言っているかのように一礼する。自尊心の高いことだ。
バトラーが使用した“魔術共有”と呼ばれる
そして彼が朱紅玉とミトに付与させた、マリンの“呪いを防ぐ魔法”。これは敵として彼女達の目の前にいる魔族の複製体の一人が使う、とある
マントを羽織っている魔族の複製体が使用する魔法、それは……
「ってうわっ⁉︎ もう床がキンキラキンになってるじゃないの⁉︎」
「こりゃあ周りに広がる前になんとかせんとあかんな……」
「ですわね‼︎ 黄金化とかどんなマニアックな性癖ですの⁉︎」
「性癖言うなや‼︎」
対象を如何なるものであっても必ず黄金に変える呪い。謂わば万物を黄金に変える魔法と言った方がいいだろう。
しかも
だが、その魔族は発動条件も制限もないこの魔法で、ダンジョン全域を黄金に変えようとはしていない。彼は初めから全力の自分相手に生き残れる者は
そのためなのか、ここまでの戦いでも四人どころか、朱紅玉とミトをすぐに黄金化にはしなかった。全く本気を出さずに戦っている……言うならば『舐めプ』をしているのだ。
「しかし、不思議すぎて結構不気味やな……アタシら結構暴れてたはずなんやけど、この金メッキは何を受けても全く剥がれすらせぇへんかった……」
「ご主人様がフリーレンさんから頂いた魔法でも、全くと言っていい程効きませんでしたし……かなり厄介な呪いですわよ、これ」
「そうみたいね……」
彼の魔法で生成された黄金は、見た目が黄金のようなだけで絶対に破壊できず、熱や力などによる加工も不可能であったため、希少金属としての貨幣的な価値は持ち得てはいなかった。
これが人類との認識の違いによるものなのかは不明だが、少なくとも魔法を使用した本人が解除しない限り、この黄金は永遠に残らないだろう。
「ま、隣のも結構ヤバいんやけどな……」
朱紅玉が苦い表情でそう呟きながら、もう一方の魔族──長髪の魔族の複製体を見やる。その魔族は、彼女達が外套の魔族の複製体を警戒している話をしている中で、三本もの大剣を浮遊させながら顕現させていた。
「見た目が優しそうなのとは裏腹に、戦い方がえげつなかったり頭の回転が結構良そうだったり、フリーレンさんとかが使ってて魔族はあまり覚えないという人間の魔法を使えたりと、めっちゃ知識面を用いながらも巧みなパワープレイをしてましたものね……」
「えぇ。私達も思ったよりも苦戦しておりました」
長髪の魔族の複製体は、かなり魔法……否、魔力の扱いにかなり長けていると、マリン達は予想していた。
「転移系の魔法……アレなんて言うのでしたっけ? アレでお嬢様ごと移動させていなければ、あの時私達は即死していました。まさか
高密度の魔力をぶつけるという極めてシンプルな魔法……否、技をも併せ持っていた。それも防御魔法を紙屑のように粉砕し、当たりどころが悪ければ即死しかねない破壊力であったとのこと。
さらには同じく高密度の魔力を全身に纏うことで、如何に強力な魔法でも擦り傷一つすら付けさせない程の鉄壁の防御力を発揮することも可能であったとのこと。マリンがフリーレンから受け取った教わった
正にゲームでいう、ラスボスを同時に二体も相手にせざるを得ないこの状況。どうにかして打破できぬものなのかと、朱紅玉・ミト・バトラーが苦虫を噛み締めているかのような表情を浮かべば……
「………………でも、無理に倒す必要はないんじゃないのかしら?」
「「えっ?」」
「どうかなさいましたか? お嬢様」
一方のマリンは至って冷静な表情を浮かべていた。それは諦めによるものではない。とある抜け穴を見つけての
無理に倒す必要がないとはどういうことなのか。三人がそう問いかけているかのような呆けた声を出したためか、マリンが語り出す。
「だって思い返してみなさいよ。アタシ達の役割は、フリーレンさん達がこの複製体達を生成して指示している
フリーレンからは『複製体を倒せ』とは言われていない。なるべく足止めするようにと言われただけに過ぎない。ならば無理に強敵を倒そうとはせず、体力を温存しながら戦うべきだと、マリンはそう考えているようだ。
だが実際、時間稼ぎと体力の温存の同時併用は正しい判断とも言える。
人類よりも魔法の扱いに長けた魔族と言えど、体内の魔力は永久にあるとは限らない。強い魔法を使い続ける程に魔力の量が弱まる上に、ある程度の行動パターンを読むことができる可能性もある。最善の注意を払いながら防戦に回れば、いずれ相手が息切れするだろう……マリンはその可能性に賭けてもいると言える。
そして最もな理由も存在する。それは、白哉達が
フリーレンは一度
とすれば、無理に倒すための戦いをせずとも、逃げれば勝ちとなり得るだろう。大半が運任せになってはいるが。
「た、倒せそうにあれへんのはともかく、時間稼ぎも難しそうやないか? 相手めっちゃ強いんやし……」
「そうとも限らないですわ、ご主人様‼︎」
「うおっビックリした⁉︎」
巨大させた鉤爪で地面を削り抉るように振るいながら、それによって発生させた鉤爪の形状をした衝撃波を巻き起こし、長髪の魔族の複製体が操って飛ばしている大剣を全て弾き飛ばした。それも不安じみた事を呟く朱紅玉に喝を入れるかのように叫びながら。
「ご主人様にはフリーレンさんからいただいて、他の複製体に効いたあの魔法があるではないですか‼︎ 時間稼ぎにピッタリなあの魔法が‼︎」
「あ、あの魔法……?」
「
「あぁ……アレかぁ……」
「でも、アレで動きを抑えられんのは一人だけやしなぁ……」
朱紅玉がそう呟いた通り、その魔法にも欠点が存在する。対象の全身を捉え続けねばならず、距離を詰められたり視界を遮られたりするなどで対策されてしまう。そのため、現状の通り多人数の集団戦などには向いていないのだ。
だが、ミトはその欠点を考慮していないわけではなかった。
「ご心配なく‼︎ お忘れですの? わたくしには『相手に見せられた技を魔力で一時的にコピーすることができる能力』を使えるのですわ‼︎ なのでご主人様が
そう、ミトは相手の技の真似事を得意としている。約数分前に発動するまたは発動し終えた技ならば、魔力を用いていようが用いていまいがそれを威力含め完全に再現することが可能なのだ。
さらに、相手は二人。
「あっ。そ、そっか。アンタにはその能力があるんやったな……」
「……忘れてましたの?」
「しゃ、しゃあなかったと思う……アタシは魔法少女を卒業したんやし、何よりあの時からバトった時なんて全然なかったんやし……」
「………………それはそうですけど」
理由が何であれ、自分の得意とする能力を主人に忘れられたからなのか、ミトは頬を膨らませながらそっぽを向いてしまった。仲の良い関係である主人に自分の事を忘れられることが不満だったのだ。忘れる方も悪いし、仕方がない。
「ま……まぁまぁ。とにかく、朱紅玉さんが覚えた魔法のおかげで、あの二体の複製体を倒せる可能性ができたことだし、許してあげなさいよ。朱紅玉さんだって悪気があったわけじゃないし」
「まぁ、それはそうですけど……」
戦いの最中に重い空気が漂ってきたと感じたのか、ここでマリンが仲裁に入る……というよりはミトを宥めに入る。ミトも悪気があって不満気な反応をしていたわけではなかったため、落ち込んだ様子で反省の意を示す。
ここでバトラーがとある点に気づいたのか、無理矢理話題を変えるかのようにマリンに問いかける。
「……ところでお嬢様。何やら『倒せる』という言葉が出たのですが、『倒す必要がない』と言ったのはお嬢様の方では? いえ、こちらとしては厄介な敵と長く戦う必要がなくなって助かりますが……」
「あっ……」
盲点であったことに気づき、罰の悪そうな表情になるマリン。目を逸らしながら半ば逆上しているかのように、二体の複製体に向けて
ここまでの間にいつ複製体が襲撃してきてもおかしくなかったため、マリンのこの行動は正しかったとも言える。半ば逆上による行動ではあるが。
「………………し、仕方ないでしょ。相手の動きを封じれる魔法があるってんなら、その可能性も高まるんじゃないかって思えるし、ってかそれができそうな感じだったし……」
「それは分かりますが」
「そこは嘘でも否定しなさいよ‼︎ 自分の言ったことは勝手に変えてはいけません、とかさぁ‼︎」
自分でも考えを突然変えることはなんでも良いとは限らないと思っていたのか、マリンは肯定気味なバトラーにそう逆上気味に……というよりは寧ろ逆ギレした。正論派なバトラーならば否定の意見は一つでも言うはずだろと、そんな偏見じみた考えを持っての逆上だ。
刹那、彼女の眼前にバトラーが背中を向けるように移動し、その背中から赤黒く禍々しい瘴気を二つも噴き出した。それらは爪や関節に鋭利的な棘を生み出しているかのような巨大な手を作り出し、いつの間にか飛び出てきた四本もの大剣を掴んで制止させていた。
「お、おおぅ……あ、ありがとうバトラー。助かったわ……」
あまりにも瞬時の出来事だったためか、マリンは驚きを目を見開きながらもバトラーに感謝の意を伝える。そんな彼女を尻目に見ながら、大剣を払い捨てたバトラーは語り出す。
「……お嬢様。フリーレン様は、実際に口には出してはおりませんでしたが、私達に最優先させている指示を出しておりました」
「へっ? な、何よそれ……?」
作戦の指示の中に隠された指示とか聞いてないですけど。動揺しながらそう感じているかのような表情を見せるマリンに対し、バトラーは再び口を開いた。
「全員が死なないこと、です」
「……‼︎」
マリンは再び目を見開く。それも動揺によるものではなく、何かに気付かされたかのように。
「ここが夢の世界とはいえ、知り合いが戦死することはフリーレン様も看過してはおりませんでした。人の死に対して不快さを感じていたのでしょう。そんな彼女の意思を考慮すれば、息切れがこちらが死ぬリスクのある時間稼ぎよりも先程思いついた倒せる可能性の高い作戦の方が、あの人の隠された指示に答えるのにちょうど良いものかと、私は思います」
司令塔は特攻しろとも、囮から犠牲になれとも一切指示していなかった。寧ろ死亡リスクがあることを語った上でそれを避けるようにと指示した。ならば自分達も、その命優先の指示には従うべきだと、バトラーはそう語っているのだ。
そして何よりと後付けするかのように、バトラーは執事として敬意を示すお辞儀をしてマリンの顔を見ながら、言葉を続ける。
「それに私も、たとえ夢の世界だろうがなんだろうが、お嬢様が死ぬことを従者として受け入れたくはありませんから」
「バ、バトラー……」
従者として主人の身を想っての発言に心を動かされたのか、マリンの瞳は歪み潤いを見せた。その瞳を作ったものを右腕で擦り、彼女は胸を張った。
「いやねェ。何よそれ、口説き文句? そんなこと言われなくても、アタシは誰かを悲しませるようなマネはしないわよ‼︎ 意地を張ってでも生きてやるから、そこのところは気にしなさんな‼︎」
「そう言ってくださるのでしたなら何よりです」
強気に死ぬ気はない宣言をするマリンに対し、バトラーは自分がとやかく指摘する必要がないと判断したのか、安堵するかのように微笑みを浮かべる。我が主ならば、この困難にも勇敢に立ち向かい、我々のために生きて帰っていける。そう確信づけながら。
「アレって脈ありに見えて脈無しのパターンですの? さっきのバトラーさんの発言、本気で言っている可能性が……」
「ミト、アンタは何を言い出すんや……」
この主従関係の二人のやり取りを見たミトが、何故アレでお互い恋愛路線に発展しないのかと呟き、それに朱紅玉がツッコミを入れた。いくら『貴方を失いたくない』という言葉を掛けているからと言って、それが告白やプロポーズだと思い込むのは偏見じみているのではないか……そう感じたようだ。
「さぁいくわよ‼︎ 全てはみんなで生きて帰るために‼︎」
「お嬢様の意思とあらば」
「あっ。もう改めて戦闘態勢に入りましたわね」
「そうせん方がおかしいよな……アタシらもいくでミト‼︎」
「はいご主人様‼︎」
気がつけばマリンとバトラーは戦闘態勢を整え直していたため、それに続くように構え直す朱紅玉とミト。彼女達の決着も、そう遅くはないだろう。
♢
突然だが、話は数分前に遡る。
『俺の複製体を見かけたら、バレる前に不意打ちでできるだけ強烈な一撃をお見舞いしてやってください。貴方なら上手くやれるはずだと信じてますし、何より俺は不意打ちされるのが苦手ですから……』
『そのお願い事、まるで君自身に対して厳しくしてるようではないのか?』
白哉の複製体への対処法についての作戦会議にて、白哉本人がブラムに対して伝えたお願い事がこれであった。何の躊躇いもなく『自分を殺せ』と言っているようで、それも不意打ちでなるべく一撃K.O.してほしいとのことである。
いくら対象が複製体とはいえ、自分を殺せと頼み込むのは、自分自身に対する良心がないのではないか? ブラムはそう感じたのか引き気味となり、潔く了承することが出来ずにいた。複製体とはいえ自分が傷つくことに抵抗心を持つべきだと、そう心配しながら。
『そもそも、何故君は不意打ちされるのが苦手だと言うのだ?』
ふとブラムがそう問いかけた途端、白哉の表情が突然曇りを見せ、瞳も真っ黒に染まりハイライトが消えてしまう。重い溜息を吐き、何やら罪悪感に押し潰されているかのような雰囲気を醸し出しているようにも見て取れる。
『………………………………拓海の除霊活動をみんなでやってた時があったじゃないですか』
『む? あぁ、その話は聞いたぞ』
『その時に魔族の亡霊の不意打ちが遭って……それで俺が受けそうになって、優子が庇う羽目になったので……』
『あっ………………』
ブラムは悟った。白哉に下手すれば恋人の命が失われていただろう辛い記憶を思い出させてしまい、それを口にさせてしまったと。これにより、ブラムも罪悪感を感じ罰の悪そうな表情を浮かべてしまう。
『そ、それは……なんかすまなかったな……』
『いいんです、俺が不意打ち戦法の対策が出来ればいい話なので』
謝罪の言葉を述べれば、白哉本人はもう気にしなくなったのか目のハイライトを戻し、首を横に振った。そして彼の罪悪感を消すかのように語り出す。
『ブラムさんが乗り気になるわけがないのは重々承知です。俺自身、なんでこんな変な事を頼んでるんだろうって思ってますし』
『それならば───』
『でも』
良くないと感じているのならば何故他の作戦を考えないのか。ブラムがそう問いかけようとしたところで、白哉が割り込むように制止する。自分が発案した作戦でないといけないと強く語り始める。
『でも……こうしないとダメなんです。複製体がやるとはいえ、俺は仲の良い人達を傷つけたくない。大切な人達の命をこの手で奪って汚したくない。だからこそ、やってしまう前にやってほしいんです。みんなを助けるために、護るために』
『………………白哉君、君という奴は……』
自分の複製体を自分自身と重ねているらしく、彼の誰かを傷つける行為が自分自身が行っているのと同じだと思い込んでいるようだ。そして白哉は自分自身が誰かを、それも仲の良い知り合いを傷つけるの嫌っていた。
そのため、自分自身である複製体を誰かに殺してもらうことに躊躇い無く頼んでいるのだ。否、躊躇いを見せたとしても他人の身の安全を最優先にすることだろう。
『(なんと感慨深いことなのだろうか。だから気に入った)』
そんな彼に、ブラムは改めて魅入った。初めて会い話し合った時からそうだった。ブラムは白哉という存在に惹かれ、導かれたからこそ、彼から様々な出会いを得た。彼という存在だからこそ、ブラムは断りを入れようとは思わなかったのだ。
『分かった。倒すことに躊躇う方が、君を傷つけてしまうことになるだろうな。ならば君の言う通り、不意打ちで君の複製体を一撃で倒して手を汚さないようにせねばならぬ。その頼み事、聞くとしよう』
『ありがとうございます、ブラムさん。どうかお願いします』
『うむ、心得た』
頼み事を了承してくれたことに感謝の意を示し、白哉は頭を下げた。これで自分自身である複製体が、自分自身が罪のない者を傷つけずに済む。その歓喜をなるべく隠しながらも、奥底に濁りのない笑みを浮かべながら。
♢
「───実際にやって上手くいったとなると、随分呆気なく感じるものなのだな。不意打ちというものは……」
そして現在に至る。白哉の複製体を遠くから気づいたのか、ブラムは彼に気づかれないように気配を消しながら急接近で動き、翼の形を模した巨大な斧で顎や半身などを斬り裂こうとしていた。
気配を完全に隠すことが得意であったためなのか、その不意打ちを上手にこなすことができた。その体の一部を綺麗に切断することに成功したようだ。
ブラムは身体の至る部分を泣き別れにされてバラバラの状態となった白哉の複製体を見て、額に手を当てながら溜息をついた。
「やれやれ……あっさりと倒してしまったとなれば、彼のような強敵でも一撃で倒してしまったとなれば、それだけで雑魚敵だと勘違いされてしまうだろうな。特に初見で戦った者となると、な。……白哉君、その……なんだかすまぬな……」
白哉はセイクリッド・ランスを使って様々な能力・技を用いての戦いをするのを得意としており、その技は種類豊富かつ多彩となっている。だがそれは大半がその武器の能力云々によるものであるため、所有者がそれを発動できない状況だと意味がない。先程のように不意打ちされた時のように、だ。
「だが、この出来事による結果が、彼の弱点を無くす良い機会になることだろう。参考になったこの点に関しては敬意を示したい。実験体にしているようで申し訳なかったが感謝するぞ、白哉君の複製体よ」
砂のように崩れ消えていく複製体を見ながら、ブラムは敬意を評して一礼した。形が何であれ、己が興味を示している知り合いのさらなる成長に期待できると感じたのだろう。
残り滓となった複製体を形取る物質が全てダンジョンの風に攫われたのを見届けながら、ブラムは徐に呟く。
「さてと……この弱点が、今の本人に悪影響を及ばなければ良いのだがな」
それは、シャミ子達と共に最深部の複製体と戦っている白哉に対する不安を募らせているのと同時に、彼等の無事を祈っている
そういや舞台まぞくもありましたね。俺には関係ないことだけど(泣)