偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語   作:名無しのモンスター

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そろそろフリーレン要素が終わるよってことで初投稿です。

ついにダンジョン攻略編、完結です‼︎ 果たして白哉達は勝利なるか⁉︎

後書きにて大事なお知らせがあるので最後まで見てってください。


ラスボス系な三体の複製体戦、決着。白哉達の決死の覚悟

 

 ダンジョン最深部は、激震の地区となっていた。

 

 業火の炎がぶつかり合い、桜色の複数もの細いレーザーを黒と桃色の混ざった斬撃が残影を見せながら払い落とし、同時に放たれた吹雪と雷が真っ黒の鞭のようなものに弾かれたことによる爆発で爆煙を巻き起こしていく。

 

 

「あぁチクショウ‼︎ 煙が邪魔だ‼︎」

 

 

 吹雪と雷を放った白哉が、視界を遮ってくる爆煙をセイクリッド・ランスを振るうことで完全に薙ぎ払わせる。その槍身で誰何の複製体を捉えようとしたものの、それが彼女の身体に当たる寸前に跳躍によって躱わされてしまう。

 

 その隙に誰何の複製体が背中から細く黒い何かの物質を噴き出させ、それを白哉に向けて発射させる。だが、白哉はこのタイミングで攻撃されることを予測していたためか、すぐさまシャイニング・ウォールを展開させ弾いて防ぐ。

 

 

「白哉くん、伏せて‼︎」

 

「おぉう⁉︎」

 

 

 突然桃に叫ぶように指示されたためか、その言葉の通りにその場で伏せてしまう。

 

 刹那、彼の背中をスレスレに飛ぶかのように巨大な斬撃が飛び出し、それが誰何の複製体に目掛けて迫っていく。それを彼女の目の前に素早く移動した桜の複製体が桜の花の形をした光の障壁で防いだ。

 

 

「あっ……あっぶねェ……‼︎ 伏せるのが遅かったら俺まで斬られてたなこれ……」

 

 

 この光景を見た白哉は冷や汗を掻きながらそう呟き、その汗を腕で拭った。先程の斬撃は実際に受ければ半身が泣別れになるのではないか、そんな不吉な予感を感じたのだろう。

 

 そんな彼の元に、桃が走りながら駆け寄って来た。それも焦りを見せている表情で。

 

 

「ご、ごめん白哉くん。まさか君のいる位置にまで動かれてそこで躱されるとは思わなくて……」

 

 

 どうやら先程の斬撃は、桃が敵の不意をつき戦いのリズムを崩すために誰何の複製体に向けて放ったものではなく、先程までのように桜の複製体に攻撃していく内に、斬撃を白哉のいる線上で回避されたことで、結果的に誰何の複製体に迫っていったものであったらしい。

 

 つまり、これは不慮な事故。偶然と偶然が重なったことでつい先程の結果が生まれたのだ。有利な状況になったのか不利な状況になったのかも不明な、曖昧な結果を生み出したのだ。

 

 

「お、おう。それなら別に……お、お前だって悪気があったわけでもわざとやったわけでもないだろ? も、もう気にしてないから……」

 

「結構震えてるじゃん……」

 

 

 白哉も桃が故意を持ってして自分に向けて斬撃を放ったわけではないことを理解してはいるものの、一歩間違えれば自分が死んでしまったのではないかという恐怖を覚え、意地を張りながらも身体を震わせていた。斬撃は怖いもんね、仕方ないね♂

 

 

「というか………………」

 

 

 視線を桃から逸らしながら、罰の悪そうな笑みを浮かべる白哉。彼逸らした目線に映ったのは、イメージに成功した防御魔法を展開しているシャミ子の姿が。何やら二人の事を……特に桃の事を見ているように見える。

 

 

「さっきのせいで優子の顔が怖くなってんだけど……ってか」

 

「桃なんで前方見ながら戦わなかったんですか下手すれば白哉さんが死んでたんですよ周りの状況を把握しての戦闘なんですよね桃はそれが得意なはずですよねというかここまで長く戦ったんですからさすがに相手の動きのパターンを読めてるはずですよねどのタイミングで避けそうなのかとかどのような考えを持ってどのような動きをするのかとかそういうのも考えてくれるはずなのではそれなのにどうして白哉さんを殺しかけるかのような事するんですかもし今ので白哉さんが大怪我ものになったとしたらどのように落とし前をつけるつもりだきさまここが夢の世界とか関係なく絶対許されない行為ですよ今のはホントに複製体と一緒にボコボコにしてもいいですか今ならそれが出来そうな気がするんですよねホントマジでだから複製体全員倒したら無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)をきさまに向けて連発しまくってやってもいいんですよというか今すぐにでも撃ちたい気分なん邪魔するなきさまらー‼︎ 鬱陶しー‼︎ 無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)ッ‼︎」

 

 

 シャミ子、ハイライトを無くした鋭い目つき──一般の者ならば確実に怯えるだろう睨みつき──となって桃を凝視していた。その上で小声でブツブツと桃の先程の行動の悪さを呟いており、さらには二人の目に本来見えないはずの嫉妬や憤怒などの感情が混じったかのような黒い瘴気が湧き出ていた。

 

 しかもだ。喋っている間に次々と複製体が仕掛けてくる攻撃を、それぞれ最低限に展開させた防御魔法で防いでいき、それらの攻撃に痺れを切らしたのか至近距離で無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)を発射。複製体達が咄嗟に展開させた防御魔法を破壊し、肩を掠めさせた。

 

 はっきり言おう。この子、本当に戦闘経験が少ないのか? あ、この描写は白哉視点ではなく第三者視点なので、白哉が思っているわけではない……のだと思います。多分。

 

 

「さっきからなんかめちゃくちゃヤバいオーラ出しながらブツブツと喋って、しかも攻撃しようとしてる複製体達に無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)を撃って防御魔法完全破壊したんだけど……」

 

「えっ。知らない……何アレ……怖っ……」

 

 

 今の病み気味なシャミ子がこれまで病んでしまった時よりも恐ろしく感じたのか、さすがの桃も身体を震わせる程の恐怖を覚えたようだ。それも下手すればさすがの自分でも戦えば死んでしまうのではないか、そうかなりの危惧する程に。

 

 無論、シャミ子をこのまま負の感情の大きすぎる怒りを出させるのはかなり危険だとも察している。彼女が周りを見れなくなってしまう恐れもあり、不意打ちなどで複製体達を倒す可能性を下げてしまう。そして何より、夢の世界とはいえ彼女が気付かぬうちに仲間を巻き込む形で不本意に殺してしまう恐れもあるからだ。

 

 最悪の可能性を避けるべく、そして何より本来のシャミ子に戻すべく、白哉と桃は彼女を宥める。

 

 

「え、えっと……ご、ごめんシャミ子。さっきのはわざとやったわけじゃないから……」

 

「お、落ち着けよ優子。ホ、ホラ。俺はこの通りピンピンとしてるし、何より桃に悪気があったわけじゃねェからさ……それに、悪意のある時の桃はさっきみたいに声掛けなんかしねェし」

 

「ちょっと? それどういう意味?」

 

 

 どさくさに紛れて自分が侮辱されているような発言が聞こえたのか、白哉にその事を指摘する桃。そんな彼女を余所に、シャミ子はハッと正気に戻ったかのように鉄砲豆を喰らった表情を浮かべ、目にハイライトを取り戻した。

 

 

「えっあっ。そ、そうでしたね……すみません、どうやら結構取り乱してしま竜巻を起こす魔法(ヴァルドゴーゼ)ッ‼︎ 風を業火に変える魔法(ダオスドルグ)ッ‼︎ 」

 

 

 苦笑いで謝罪の言葉を述べている様子から、シャミ子は病んでいる状態から正気に戻った……と思われたが、遠方から魔法を放とうとする桜の複製体と誰何の複製体を魔法の二つ重ねで巻き起こした業火の竜巻で包囲し、中心から爆発を巻き起こした。

 

 つまりはアレだ。シャミ子の怒りは未だに収まってない可能性があると見た。そうでなければ、このような魔法の同時併用で大規模な火災旋風を発生させるという芸当はできないはずだろう。

 

 

「いや、あのさ……まだ取り乱してるっていうか怒ってるくね? 今魔法のコンボを重ねてヤバい魔法を作り上げて、それを複製体にやらなかったか?」

 

「……ハッ⁉︎ わ、私は一体何を⁉︎」

 

「いや無自覚かそうでもないのか分からないその反応がさらに怖いんだけど」

 

 

 どちらにせよ、一度シャミ子を怒らせてしまえば後が怖くなるのだと、ここまでの流れを通して改めて理解した白哉と桃。そしてここで二人は決心したのだ。怒りの感情を非常に強調させた彼女には決して逆らわないようにしよう、と。

 

 ぶっちゃけて言えば、普段なら怒ってもぽがーっな緩い感じになる温厚で優しい子でも、一度堪忍袋の緒が完全に切れてしまえば、手がつけられず取り返しのつかないことになるというものである。先程までのシャミ子が正にそれだ。

 

 

「シャミ子、怒る気持ちは分かるけど今は抑えて身を隠して。これ以上暴れると複製体がかなり警戒してしまって、魔力を消しても必死に探して集中砲火するかもしれないから」

 

「あっ。す、すみません……」

 

 

 フリーレン、シャミ子がブチ切れて予想だにしない行動を犯しても冷静な様子である。感情の乏しさが影響しているのではなく、シャミ子の今の様子を分析しながらの判断、とも言うべきだろう。

 

 

「(それにしても……怒りに身を任せてしまったことによるものなのかもしれないとはいえ、彼女のイメージ力は凄まじいものだった。攻撃しようとして無防備なところの多い体勢の複製体に無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)を中々に近い距離で放った上に、あの魔法使いと同じように魔法の重ね掛けができるなんて。それもどれも私が渡したりダンジョン内で見つけたりして得た魔導書……一般攻撃魔法(ゾルドラーク)と同じく初めて使う魔法で)」

 

 

 先程までのシャミ子の戦い方を見て、フリーレンは冷静な判断を取り始める。

 

 敵を引きつけてからの至近距離での強力な魔法を放つことも、それよりも威力が弱く複雑ではないものとはいえその魔法を二つ使用してのコンボも、シャミ子はそれらを難なくやって見せた。それも負の感情を抱え放つまでにそれを言葉にして呟いていながらも。

 

 ふとフリーレンは思った。シャミ子に負の感情を持ってもらいながら戦ってもらえばさらに強くなるのではないか、と。だが彼女の仲間達がそうなってほしくないと思っている上、フリーレン自身も実はそこまで乗り気ではなかったため、すぐに断念した。

 

 

「(でも……これでどの複製体にも隙が生まれるのかと言えば、まだまだそれには程遠い。心を模倣しただけの奴等にとっては、状況が一時的に一変しても動揺したりしているわけでもない。平常心と冷静さが失われるわけがない……いや、そもそも感情そのものがないからあまり意味がなかったのかもしれない)」

 

 

 そしてすぐに、シャミ子の先程の行動で状況が大きく変わるわけでもないことを理解した。相手が三人ともかなりの実力者である上に複製体ならではの特性もある。そのためなのか、このままでは倒すにも時間の問題であるどころか倒せないままになるのではないか……そう危惧する。

 

 

「(まだ三体とも、大きな隙を作ってくれそうにない……ここまでくれば、もうやるしかないね)」

 

 

 何か効率的な作戦でも思いついたのか、フリーレンが白哉と桃に視線を送る。

 

 

「(桃。白哉。あの手段でいくよ)」

 

「(もうアレしかないみたいですね……わかりました)」

 

 

 どうやら最初の作戦実行前に既に発案したものがあるらしく、桃はその意図を理解したのかあっさりと承諾した。その反面、白哉は罰の悪そうな表情になって目を逸らす。彼の方は乗り気ではなかったようだ。

 

 

「(け、けど優子が乗ってくれるかどうか……さっきも俺が傷つきそうになってかなりヤバかったみたいですし……)」

 

「(大丈夫、私がどうにか説得するから)」

 

 

 シャミ子の事を考慮している白哉を宥め、今度は彼女に作戦の承諾をもらうべく視線を送るフリーレン。シャミ子がその作戦に乗り気でなくそのせいで怒りの矛先を向けられることになろうと、その矛先が自分にだけ向いて二人が無害となるのなら構わないと考えているようだ。

 

 

「(シャミ子、ごめん。悪いけどあの作戦でいかせてもらうよ。もうあぁでもしないとあの三体は倒せないから───)」

 

「(わかりました、みんなのためにも心を押し殺して鬼になります‼︎)」

 

「(え?)」

 

「(え?)」

 

 

 シャミ子、まさかのコンマ無しの了承を取った。さすがに反論一つもなかったことにフリーレンは動揺することに。先程の病んでいた時の暴走もあったというのに、彼女に反対されかねない作戦に即座に乗ってくれるとは思っていなかったようだ。

 

 

「(えっと……いいの? これ、夢の中とはいえ下手をすれば私だけじゃなくて桃も白哉も……)」

 

「(分かってます。あの作戦をやると三人ともダメージを負ってしまうし、最悪死んでしまう可能性もある。本当は私は反対でした。でも……)」

 

 

 シャミ子は理解していた。フリーレンが実行しようとしている作戦は、仲間達が傷ついてしまう恐れが高い。寧ろ確定でそれが起きてしまう。そのため、先程までは賛成したくないと思っていたようだ。だが、そうでもしないと複製体を倒せないことも理解している。

 

 

「(これでこの戦いが終わるなら、私だけ協力しないのはどうかしてます!! この先のことも考えれば、どっちの方が皆さんが辛い思いをしなくて済むのかの判断ができます!! ……多分、出来てると思います。いや、出来てませんでしたっけ? アレ、わかんなくなってきた……)」

 

「(なんで急に弱気なの?)」

 

 

 だからこそ、仲間達のためを想い、狭い良心を地面に置くように賛同したのだ。白哉達のこの後受けそうな負担を減らすためにも、この戦いに終止符を打つためにも。

 

 その意志に心を惹かれ、フリーレンは微笑んだ。

 

 

「(そっか……分かった。そこまで言うなら、私は君のその意志に従うよ。ただ、なるべく受けるダメージを減らすつもりではいるけどね)」

 

「(はい!! でもダメージの軽減を意識しすぎて、変なところに力を入れて失敗するとかやめてくださいね?)」

 

「(うん、分かってる。余計なことはしないつもりだから)」

 

 

 フリーレンの了承を得たことを確認したのか、シャミ子はフリーレンの持つ杖に変形させているなんとかの杖を天井に向けるように構え、先端の宝玉を魔力によって輝かせた。

 

 

「(えっと……フリーレンさん。魔法使いがたくさんいた時代で霧を出す魔法はありましたか?)」

 

「(あったけど、その時の名前を別に言わなくていいよ。ってかその時代に合わせなくていいから。君は霧を出すイメージができるはずでしょ?)」

 

「(そ、そうでした。分かりました)」

 

 

 大抵無意味であろう会話をフリーレンをしながら、シャミ子は魔力を用いて光らせている宝玉から霧のようなものを噴き出させ始めた。

 

 

「では……白い霧の杖ー!!」

 

 

掛け声に合わせて霧はこのエリア全体を覆い尽くす程に大きく広がり出す。それは複製体の視界を妨げ、白哉達の居場所を捉えにくくさせた。彼等の体内に秘めている魔力を探れば見つけられるだろうが、シャミ子とフリーレンは完全に魔力を隠せるため(前者は元から魔力が多くないことが幸いしているだけだが)、その二人を探すのは困難となっていた。

 

 だが無論、戦闘に長けている魔法の持ち主から複製されている者達が、このような状況に対応できないわけがない。フリーレンの複製体が杖の宝玉に微かな魔力を込め、光らせる。

 

 

 ───霧を晴らす魔法(エリルフラーテ)

 

 

 刹那。このエリアを覆い尽くしている霧が、広範囲に広がっていく光に圧し潰されるように晴れ始めた。どうやらフリーレンが先程発動させていた魔法は、そのままの意味で霧を晴らすことのできる魔法のようだ。

 

 が。霧が複製体達の視界の妨げにならなくなる程に晴れてきたのと同時に、何故かフリーレンの複製体はすぐさま防御魔法を展開させる。そして展開が終わったのと同時に……

 

 その障壁に、眩い爆発が巻き起こる。その寸前に、コンマ前まではあるはずのなかった光の球体が迫ってたのが見えたその瞬間に、だ。

 

 

「マジかよ……白龍様が『瞬きしてでも捉えられない程の速さで放たれていた』と評判していた技だぞ? それを当たる前に防ぐなんて……」

 

「やっぱり二千年以上も魔法に長けていたベテランは伊達じゃないってことだね。さすがは腐ってもフリーレンさんの複製体……」

 

「ちょっと。腐ってるって何? それ、一体どういう意味で言ってるの」

 

 

 そう。白哉が放った光速の追従技であるダイレクトスナイプを、フリーレンの複製体はいとも簡単に防いだのだ。しかもここだけの話、相手の急所ともなり得る箇所に必ず命中するそのダイレクトスナイプを防げたのは、フリーレンの複製体が初めてである。ある意味快挙だ。

 

 

「やっぱり優子やフリーレンさんみたいに、魔力を完全に消せるというか隠せられる存在じゃないと、不意打ちで攻撃でもしないとかなりのダメージを与えられないのかもしんないな……」

 

「そうなのかもね。私でも魔力を完全に隠すなんてできないし……」

 

「さぁ……どうだろうね」

 

 

 白哉と桃が、魔力で自分達の動きが複製体達にバレたのではないかと予測するも、フリーレンが少しばかりの否定をするかのように補足し始める。

 

 

「人間には体温があるでしょ。そしてその体温を探ることのできる魔法が、魔法使いのいる世界にはあった。私もガタルフに影響するかのようにだけど、その魔法を覚えている。私の複製体もその魔法を覚えている。だからその体温の動きとかで、白哉がそのダイレクトスナイプとやらを発動すると察して、さっきみたいに防御魔法を展開させたんだと思う」

 

「体温で動きを読んで、か……それはかなりの手練れなんじゃないですか? これは俺達も慎重にいかないといけないみたいですね」

 

「体温の変化だけで動きがわかるかどうかも微妙だけどね」

 

 

 なるべく分かりやすくまとめるとこうだ。

 

 体温を探る魔法でその者のいる場所が何処かをある程度の範囲で見つけられたとしても、その者がどのような行動をしているのかの的確な判断ができるとは限らない。複製体がそこそこの勘付きで動いただけなのかもしれないということだ。

 

 だが、それが白哉達に複雑な思考をさせてしまうため、念のため注視すべきではあるだろう。

 

 

「それじゃあ……いくよ。なるべく奴らを誘導して」

 

「了解‼︎」「わかりました」

 

 

 フリーレンの指示に合わせ、白哉と桃が動き出す。まずは複製体達の周囲を動き回り、複製体達を撹乱させて連携を取れなくさせる算段に入るつもりのようだ。

 

 複製体達は先程までそれほど連携を取っているわけではないものの、この後の戦いでもそうしないとは限らない。相手の判断を鈍らせるという狙いも考慮すれば、フリーレン達のこの作戦は良いとも言えよう。

 

 複製体達が周囲を動き回られ翻弄されながらも攻撃を仕掛けてくる中、仲間と共にそれらを回避しながら桃は思考に入る。誰何の複製体とフリーレンの複製体を見ながら。

 

 

「(誰何がどうすれば油断するのかどうかなんて、唯一彼女と戦ったことのある私でも分からない。フリーレンさんがどう油断するのかも本人しか知らないと思うけど、だからこそ彼女が自身の複製体の隙を突けるはず。となれば、隙を作らすのが難しいのが誰何となる)」

 

 

 桃は考察していた。フリーレンの複製体はともかく、今この場にいない柘榴を除けば唯一誰何と会ったことのある自分でさえ、彼女がどのタイミングで隙を作ればいいのか分からない。そのためどのように隙を作らすために誘導すればいいのかとも、だ。彼女が難敵になるだろう、と。

 

 

「(だけどその代わり、他の二体の隙を作るのは簡単なはず。二体に深いダメージを与えれば、実質数的有利になってなんとかなると思う……)」

 

 

 そう前向きに捉えながら、桃は自分が今相手にしている桜の複製体を見据える。ある確信を持った笑みを浮かべながら。

 

 

「(そして……お姉ちゃんに隙を作らせることは簡単だ。だって、私が相手だからね)」

 

 

 

 

 

 

 時はそれぞれのの複製体への対処法についての作戦会議をしていた時へと戻る。

 

 

『姉の複製体の相手は私がやるよ』

 

『えっ……?』

 

 

 桜の複製体をどうすべきかの話し合いに入ってすぐ、桃が率先して彼女の相手を務めると宣言し、周囲を唖然とさせる。

 

 みんなの気持ちを代弁するかのように、恐る恐るとしながらもシャミ子が代表して桃に問いかける。

 

 

『えっと……桃、それでいいんですか……?』

 

『うん。私がやった方が彼女を倒しやすいはずだし、効率がいい』

 

『いやそうじゃなくて……桃の肉親とも言える仲良しな桜さんと戦うんですよ? 長く一緒にいたあの人と戦うの、辛くないんですか……?』

 

 

 シャミ子がそう疑問に思うのも無理もない。

 

 彼女と白哉だけが知っている記憶とはいえ、桃は桜にとある戦場から救われ、何らかの実験体から普通の人間、そして本人の意思を持ってして魔法少女へと変えてもらった身である。桃にとって桜は、様々なことを教えてもらった親代わりの存在だ。

 

 そんな桜を、桃は自分が相手すると宣言したのだ。桜の戦法がどのようなものなのか、それを具体的に理解しているのは桃だけだろう。だがそれでも、誰よりも長く関わってきたという利点が、彼女を躊躇させることだろう。シャミ子達はそれが不安に感じているのだ。

 

 シャミ子のこの問いに対し、桃は……

 

 

『いや、何回か組み手とかしてるから別にそんなに抵抗ないよ。とはいっても、いつも特訓感覚でやってるから、軽くあしらわれたりわざと攻撃を受けて大袈裟な反応をしたりしてきて、たまにイラってくる時が───』

 

『えっ……っていやいやいやいや、そういうフッ軽なのじゃなくて⁉︎ 命を賭けた戦いをする中でって意味ですよ⁉︎ そこらへん分かってますか⁉︎』

 

 

 桜との組み手などをよくしているからと、彼女と戦うことに躊躇がない様子を見せている桃。夢の中で行うこととはいえ、あくまで命懸けの戦いになるというのに、緊張感のないような様子を見せる彼女に、シャミ子は激しく動揺しながら心配する反応を見せる。ってか『見せる』を三回も使っちゃって違和感が……

 

 シャミ子のその反応を見て苦笑いを浮かべながらも、桃は彼女の不安を払拭させるかのように口を開く。

 

 

『分かってるよ。ここが夢の世界だから実際にはそうならないけど、これからの戦いで私達のどちらかが死んじゃうってことぐらい。こっちの場合は逃げれる可能性はあるから、姉がそうなる可能性が私よりも高いけど』

 

『それって桜さんに【死ね】と言ってるように聞こえますが……』

 

『偽者に対して言ってるからギリギリセーフだよ』

 

『アウトにしか聞こえないのですが……』

 

 

 前までとはいえ、魔法少女としての戦闘経歴が長い彼女だからなのか、これからの戦いがどのような結果となるのかを理解していた桃。ならば何故先程緊張感のない答えを出したというのだろうか。そして物騒な表現をするのは魔法少女らしからぬが……

 

 

『確かに姉と命懸けの戦いをすることは気が引ける。夢の中でとはいえ、人の命を奪うこと自体乗り気になれないし。でも、そうでもしないと姉を倒しやすくするのは難しいと思う。彼女に詳しい人がいた方が早くかつ的確対処がしやすいはずだし。それに……』

 

『そ、それに?』

 

 

 薄暗く顔色に影を落としながら俯き、静かに本音を零す桃。だがそう言っていられないことも理解していたため、すぐに明るみを取り戻した顔を上げ、決意を込めた表情を見せる。

 

 

『私は、少しでもお姉ちゃんにこの町を託されてよかったっていう確信を持ちたい。複製体相手だろうとお姉ちゃんに認められる程の力があるってことを、実際に証明してあげたいんだ。それが、私の今後の意欲になると思うから』

 

 

 そして誓った。姉に認められるため、みんなのいる多摩町を守れる程の力があることを確信づけるため、彼女を含めた複製体に、みんなと協力して勝ちたい……と。それが、繋がりの温かさを知った彼女の今やり遂げようとしている目標となっていた。

 

 そんな彼女の強い意思を理解したのか、フリーレンが桃に近づき、改めてその意思を確かめるかのように問いかける。

 

 

『……譲れない想いがある、って捉えた方がいいかな?』

 

『はい。私がやらないと意味がないんです』

 

 

 そう答える桃の瞳は、炎のように信念を貫こうとする一筋の輝きが灯されていた。その光には迷いを表す曇りも一切無く、透き通った色のガラスの如くはっきりと輝きを写していた。

 

 既に覚悟を決めていた彼女の意思に背く真似など出来ず……否、背こうなどとは考えず、フリーレンは微笑みながら頷いた。

 

 

『わかった。桜の相手は、君に任せるよ。ただ、みんなや私にも言えたことだけど、無理だけはしないでね』

 

『ありがとうございます』

 

 

 フリーレンから桜の相手を適任され礼をする桃。そして今でも心配そうな表情で自分を見ているシャミ子を見て、微笑みながら告げる。

 

 

『シャミ子はシャミ子のすべき事をやって。同じ町を守る者として……ね』

 

『……‼︎ 桃……』

 

 

 自分のすべき事をして。それは深く要約すれば、シャミ子は桃に背中を任されたという多大な信頼感を得ているのと同じものである。それを理解したシャミ子は驚きによって目を見開きながらも、すぐに笑みを浮かべて頷いた。少しは桃から信頼してもらっているんだな、そう実感を持ちながら。

 

 

『わかりました。桃も桃で……お願いしますね?』

 

『うん、任せて』

 

 

 シャミ子からの了承を得た上に委任し返しを受け、微笑みを浮かべ返す桃。託して託し返されては答えなければならない、そう感じながら。

 

 その笑みを浮かべたまま、白哉の方に顔を向ける。そして先程シャミ子にもしたのと同じように、大事なことを託すかの如く口を開く。

 

 

『白哉くんも白哉くんで……任せてもらってもいいかな?』

 

『あぁ、もちろんだ。優子を守るついでに誰何の複製体の相手も任せてくれ』

 

『うん、頼んだよ』

 

 

 自分が果たすべきいつも通りの役目。そしてその上でさらにこれから先で果たすべきもう一つの役目が何なのか。それを既に理解していたのか、白哉はサムズアップをしながらの笑顔で了承のサインを送る。

 

 が、何を思ったのか少し顔に影を落としながら俯き、罰の悪そうな苦笑いを浮かべながら呟く。

 

 

『まぁ、奴の隙を作れるかどうかは微妙だけどな……』

 

 

 ピクリ。桃が急停止したロボットのように一瞬揺れて固まった。誰何の複製体の隙の作り方など誰も知るはずがない。唯一本人と戦ったことのある桃も、一方的に押された後にまぞく討伐カードで無力化して倒した程度でしかない。

 

 敢えて言わせてもらおう。現状詰みであると。

 

 

『あぁ……まぁそこは私達も頑張って探すから……』

 

『お、おう。悪いな……』

 

 

 対策が不明となれば、曖昧な知識と戦いの最中に見つけなければならない。その現実を受け止めなければならなくなったためか、一時期気まずい雰囲気が流れたのだった……

 

 

 

 

 

 

「(まぁ、ここまでヤバい状況にならなかったのは不幸中の幸いかな)」

 

 

 そして現在に至る。桜の複製体の放つ桜色の光の弾丸を弾きながら、桃は先程まで桜の複製体への対策をしていた時の会話を思い出していた。誰何の複製体をどうすべきかの会話も少々思い出しながら。

 

 

「(誰何の複製体をどうしようかって話は本当にどうしようとは思ってたけど……私が覚えている能力の一部を知ってるだけでも、その能力への対処ぐらいはなんとかなるもんなんだね。全部知ってしまってそれが反映されなかったおかげ、でもあるのかな)」

 

 

 白哉が誰何の複製体が槍を用いて操る黒い物体を薙ぎ払うところを尻目に確認しながら、桃は自分達の悪運の良さにホッと胸を撫で下ろす。本人の相手をするとなれば易しくないだろうという不安を抱くも、基本的な対抗手段は取れるだろう前向きな思考をも持つようになったようだ。

 

 

「(さてと……そろそろ行こうかな)」

 

 

 何かを狙っているのか、桃は両手で強く刀剣を握り込み、弓を引き絞るようにして構えた。足を開いて腰を落とし、全身を左に捻り、あらゆる力を刃に乗せて振るい抜く体勢を整える。

 

 

「(組み手の時、姉は私が威力の強い技を使おうとすると、そこそこの確率でだけどそれに合わせて()()()を使ってくる癖がある。その癖をも私の記憶から模倣されたとすれば、私がその気になったことを察してくれれば……)」

 

 

 昔桜と一緒に過ごしていた時の記憶を引っ張り出し、『これと似た状況に遭った彼女は何をしやすいか』を憶測する桃。それが桃の記憶から反映されて複製体が生み出されたとすれば……

 

 だからこそ、彼女は決心したのだ。水晶の悪魔(シュビーゲル)の利点でもあり欠点でもあるその能力に賭けてみよう、と。

 

 

「(あ。よく考えればこのポーズ、『鬼○の刃』の杏○郎の煉○の鏡バージョンっぽい……って、来る‼︎)」

 

 

 一瞬どうでもいい事に思考が寄ってしまったものの、桜の複製体が溜め始めている魔力のエネルギーを察知し、再び警戒心を強める。尻目で背後に視線を配りながら。

 

 

「(後ろの方は……よし‼︎ このまま行けば……‼︎)」

 

 

 狙ったこと通りに動けると確信したのか、内心でガッツポーズをする桃。前方へと目線を向き直し、桜の複製体が魔力を充分に溜め込んだことを強調する眩く強い桜色の光が、桜の花びら状のプリズムを散らしながらこちらへと放たれようとするのを確認し……

 

 

「(今だッ‼︎)」

 

 

 一瞬の収束が行われた途端、桃は足を踏み入れ横方向へと地面を蹴って移動した。

 

 それと同時に、桃が駆けた音と眩い光に、誰何の複製体が気づきその方向に目線がいく。その瞬間を白哉は見逃さなかった。

 

 

「おっ、このタイミングだな? バインドホール二連打ァッ‼︎」

 

 

 これは好機だ。そう察した白哉がセイクリッド・ランスを横薙ぎに振るう。その空圧によって生み出されたラーメンのナルトの形をした黄色い二つの渦が、誰何の複製体の腰部と両腕を同時に、両足首囲い縛りつけた。

 

 その渦から即座に脱出できるわけもなく、無論両足を縛られてすぐに動けるはずもなく、誰何の複製体は桜の複製体が桃を狙って放ったはずの極太い魔法のレーザーに飲み込まれてしまった。

 

 だが、今ので誰何の複製体を倒せたとは二人とも思っていたわけでもなかった。彼女は咄嗟に自分の影を操って作った外套をその身に被せ、レーザーのダメージを減少。外見は少々破けた服から見える身体に複数の擦り傷ができた程度で済まされた。

 

 

『……!!』

 

 

 そこそこのダメージを負った誰何の複製体を見て、桜の複製体は動揺したかのように構えを解いてしまう。味方にだけ攻撃が当たってしまったことを想定していなかったのか、状況の整理が追い付かなくなってしまったようだ。

 

 

「まぁ、こうなることは分かってたけどな……ッツ!!」

 

 

 あの程度で敵が倒れるわけがない。そう予想通りであったことを苦笑しながら呟く白哉だったが、その余裕はすぐに崩れ落ちる。苦虫を噛みしめたような表情で右横腹を押さえ、その場で膝をついてしまった。

 

 

「ちょっと無理しすぎたな……!! 油断させることを狙って突貫しまくってたぜ……」

 

 

 白哉が押さえている横腹からは、手の甲が染まる程の流血が起きていた。

 

 どうやら白哉は誰何の複製体が桜の複製体の攻撃──サクラメントキャノン──の射程範囲へと誘導させる前、誰何の複製体への攻撃中の隙を突かれ、空気をも切り裂く程の斬撃が掠ってしまったようだ。

 

 掠りだけで流血する程のダメージを受けるとは……白哉は予想だにしなかった自分の失態を恨んだ。

 

 刹那。ダンジョン内に白哉達の作戦決行から先程までの流れの中で一番の轟音が、爆炎を巻き起こしながら白哉の背後から鼓膜に劈くレベルで鳴り響いた。

 

 

「っと、ここであの人も無茶したってか……」

 

 

 轟音の鳴る方向へと振り向けば、そこには右肩から腕半分にかけて流血による負傷を負ったフリーレンと、強力ながらも発動後の反動があったのか杖を構えた状態で無防備となったフリーレンの複製体の姿が見えた。

 

 この光景から見てどうやらフリーレンは、自分の複製体が防御態勢への切り替えをさせにくくさせるさせるために、何やら大きな威力を放てる魔法を撃たせるように誘導させたのだろう。

 

 結果。桃は負傷を負うことはなかったものの、三人とも命懸けの体張りによる複製体の隙作りを行ったようだ。そこまでしないと勝てないと確信しているとはいえ、あまりにも無謀ながらもあっぱれ……というべきであろうか。

 

 どちらにせよ、この瞬間は白哉達にとって好機そのものである。

 

 

「(シャミ子、今だよ)」

 

 

 フリーレンが目線で、作戦決行時に柱に隠れていたシャミ子に合図を送る。それに気づいたシャミ子も動き、柱から飛び出し杖を構える。その杖は既に無数ものの魔法陣が展開されており、いつでも発射可能な状態である。

 

 そしてシャミ子が柱から飛び出して、コンマゼロ・一秒。全ての魔法陣の中心が光り出す。

 

 

 

無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)ッ‼︎」

 

 

 

 無数もの一般攻撃魔法(ゾルトラーク)が、全ての魔法陣から複製体達に目掛けて放たれる。

 

 予想外の事態・動きを封じられて受けたダメージ・特大の魔法を放った反動……これらによって複製体達は容易に動き回避するなぞできるはずもなく、防御態勢を取る前に奔流に飲み込まれてしまった。

 

 その隙を逃さぬと、次々と一般攻撃魔法(ゾルトラーク)が三体の複製体に目掛けて放たれる。次々と着弾する毎に響き渡る轟音。それがシャミ子の『返り討ちでこれ以上みんなを傷つけさせまい』とする信念を象徴させていた。

 

 ダンジョン全体が爆発によって巻き起こった砂塵で包まれたところで、シャミ子は視界を遮られている状況で続けるのは野暮だと感じたのか、その場で無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)を止めた。

 

 

 ───砂塵を払う魔法(サンディスラート)

 

 

 結果がどうなったかという自他の疑問を確かめるべく、フリーレンが薄茶の光で砂塵を瞬時に払う魔法を使用した。

 

 押し飛ばされた砂塵から見えたのは、シャミ子の無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)を受けた三体の複製体の姿が見えた。それも満身創痍のような状態となっていた。

 

 桜の複製体は胴体が右上から左下にかけて大きなヒビを受けており、右肩と左腕、左膝の左半分を吹き飛ばされてしまっており。

 

 誰何の複製体は両手から両肘にかけて吹き飛ばされてしまっており、三つ編みに束ねた部分の銀髪も消し炭になってしまっていて。

 

 そしてフリーレンの複製体はツインテールにした髪を解かれてしまっており、左肩と右横腹ごと右腕を抉られてしまっていた。

 

 

「あっ……」

 

 

 シャミ子、桜の複製体の悲惨そうな姿を見て思わず罰の悪そうな表情で青冷める。酷い姿を見ることに耐性がないからそのような表情をしているわけではない。別の理由があるからだ。

 

 

「えっと……すみません桃、まさか桜さんの複製体を桃がショックを受けさせるような姿にさせてしまうとは思ってませんでした……」

 

「えっ? ……あぁ」

 

 

 桃の方を向きながらそう伝えるシャミ子に、桃は何故そう言うのかと首を傾げるも、すぐにその理由を理解したのかポンッと手を叩いた。

 

 

「ううん、気にしないで。アレが偽者だと分かってるから。悪い偽者相手なら遠慮しないでボコボコにしていいよ。あんなの私の姉じゃないから」

 

「えっ……えっ!? あっえっそっそうですか……? な、ならいいです……」

 

 

 本当は姉に何かしらの私怨があるのではないか? そう感じたのかシャミ子は引き攣った表情をした。あくまで今は戦いの真っ最中であるため、シャミ子は桜の複製体の相手をするのに遠慮も手加減もする必要がないなという安心感を持ったものの、複雑な感情も混じってしまった。

 

 

「(と、とりあえず、今は彼女達に反撃を喰らう前にトドメを……!!)」

 

 

 ハッと我に返り、再び杖を複製体達に向けて構えるシャミ子。いくら三体とも体の一部──特に腕──を破損させたからといって、その状態では魔法が撃たないとは限らない。ならば仕掛けられる前に……と、最善の行動を取ったのだろう。

 

 

「(………………いや……)」

 

 

 が。何を思ったのか、シャミ子は突然攻撃の構えを緩めてしまった。

 

 

「「えっ⁉︎」」

「……?」

 

 

 彼女のこの行動に、白哉と桃が仰天の声を出しながら目を見開き、フリーレンはシャミ子が何か企んでいることを察するもそれを理解できていないのか首を傾げた。

 

 その隙を、複製体達が逃すわけがなかった。フリーレンの複製体がシャミ子と視線を合わせるように振り向いた途端……

 

 

「ガハッ……‼︎」

 

 

 シャミ子がいつの間にかこのエリアの入り口前である扉の隣にある壁へと吹っ飛ばされ、そこにめり込んでいった。完全に押さえつけられてしまったかのように。

 

 背中を強く打たれた上に無理矢理めり込まれてしまった衝撃のせいだからなのか、吐血した上に背中から流血をも起こしてしまっている。満身創痍になってしまった可能性がある。

 

 さらにそれによる衝撃によるものなのか、シャミ子の手元から離れてしまったからなのか、フリーレンの持つ杖に変形させていたなんとかの杖も元に戻ってしまった。夢の中とはいえ壊れはしなかったのが不幸中の幸いか。

 

 

「優───」「シャミ───」

 

「(今は叫ばないでください……‼︎)」

 

「「……⁉︎」」

 

 

 身動きを封じられた上に百孔千瘡な状態となってしまったシャミ子を呼びかけようとした白哉と桃だったが、彼女が目線を送って制止させる。

 

 

「(先程複製体達に大ダメージを与えたことで、彼女達は私を一番に警戒します……‼︎ だから、ここから三体とも私に集中狙いすると思います……‼︎ そこを狙ってください……‼︎)」

 

「(優子、お前……)」

 

 

 シャミ子は先程複製体達に向けて放ったことで当てた、無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)でかなりの傷跡をつけた自分をかなり警戒することを狙い、それによる複製体達の気の晒しから白哉達がトドメを刺すことに賭けたようだ。先程の方法が二度も効かないことも視野に入れて、だ。

 

 そう、シャミ子は自分自身を犠牲にしながらでも高い勝ち筋を作りたかったのだ。それが犠牲を作りたくない白哉と桃の反感を買うことになろうとも、だ。

 

 その根本を理解した白哉は、かなりの冷や汗を掻き焦り気味を隠せずにいながらも、シャミ子のその勇気のある行動に呆気を取られたのか、やれやれと呟くかのように安堵の溜息をついた。

 

 

「(ったく……俺達が無茶したからってお前までそうしないといけないなんて、そんなルールはねェってのによォ……)」

 

「(でも、見てるだけなのが嫌と思ってるのもシャミ子らしいね)」

 

 

 悪態を心の中で呟きながらセイクリッド・ランスを構える白哉の隣で、桃が刀剣を構えながらシャミ子のあの行動が彼女の良き点であることを呟く。

 

 そして、フリーレンの複製体がシャミ子を睨むその隣で、桜の複製体が桜の花びらを模した複数の光を漂わせ、誰何の複製体が破損してなくなった左肘から黒い瘴気を湧き出させてきたのと同時に……

 

 

「「(だからこそ、俺達/私達も優子/シャミ子をこれ以上傷つけさせない)」」

 

「(どっちもどっち……か)」

 

 

 フリーレンと共に三体の背後に回り込み、金・ピンクがかった黒・純白色の巨大な三つの閃光の柱を突き立たせた。シャミ子が無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)を放った時にも負けない風圧や轟音に、ダンジョン内はとてつもない揺れを発生させる。

 

 光が収まった時には、三体の複製体が立っていた位置には砂の灰となったものが、煙が上がっているかのように徐々に消えていっていた。

 

 倒されたのだ。強力な三体の複製体が、シャミ子の無数の魔力の雨を降らせる魔法(ゾルトレイン)を皮切りに。

 

 

「よくやったねシャミ子。私や私に並ぶ実力者をあそこまで三人一気に追い詰めた奴なんて、神話の時代の魔法使いでもそんなにいなかった」

 

「エヘヘ……わぷっ⁉︎」

 

 

 フリーレンに褒められ気分が舞い上がるシャミ子に、白哉と桃が抱きついた。今にも泣き出しそうな感情を抑えながら。

 

 

「バカ野郎……‼︎ やっぱ彼氏として直にブーメラン発言ならぬブーメラン文句を言ってやる‼︎ お前まで無茶しやがって……‼︎」

 

「シャミ子……無事でよかった……‼︎」

 

 

 シャミ子、二人がその感情に気づいたのか戸惑いの様子を見せる。二人も下手をすれば命を落とす可能性のある行動をしていたとはいえ、自分の方はその可能性が二人よりも高い行動をしており、それを濃くない賭けをしていたのだ。今にも二人が泣きそうになるのも無理もない。

 

 とにかく今は二人を宥めるしかない。そう判断したシャミ子が二人に話しかけようとするが……

 

 

「そ、そんな大袈裟な……仮にここで死んでも、実際に死ぬことにはなりませんから───」

 

「「そういう問題じゃねェ(ない)ッ‼︎」」

 

「あっはい。そうですよね……ごめんなさいでした……」

 

 

 強く叱られたので思わず弱腰になる。可哀想。

 

 

「はいはい、喧嘩はそこまで。無茶したのはどっちもどっち、そうしないとでもいけないと思ったのはお互い様でしょ。確かにシャミ子の方が一番危険な賭けをしてたけど、そのおかげで私はなんとかなったんだから責めようとしないで」

 

「ウッ……」

 

「す、すいません……」

 

「ホッ。よかった……」

 

 

 ここでフリーレンが起きるかもしれない喧嘩の仲裁に入ることで、二人が冷静さを取り戻し事なきを得る。それにシャミ子が安堵するが、フリーレンが今度はシャミ子の額を押すように人差し指を突きつけた。

 

 

「あいたっ⁉︎」

 

「シャミ子もシャミ子で、私達に事前の相談なしにあんな無茶な真似はしないように。じゃないとさっきの二人みたいに怒られるよ」

 

「えっあっはい……それは、仰る通りです……」

 

 

 結局シャミ子もフリーレンに叱られる始末。だがこれは仕方ないと言えば仕方ない。この中で一番命懸けな行動をしたのは彼女なのだから。

 

 

「さてと……複製体達が復活する前に、さっさと水晶の悪魔(シュビーゲル)を破壊しようか」

 

 

 フリーレンがそう呟くのと同時に、彼女の複製体が使用した“命懸けで宝物庫の扉を閉じる魔法”によってこの時まで永続的に閉められていた、ゴールへの扉が開き出した。

 

 そしてそのエリアには、宝石などのお宝となるもの──宝物庫──が積み上げられている中で唯一浮遊している、紅色に輝く宝玉が。アレこそがこのダンジョンに複製体を作り送り込んだ水晶の悪魔(シュビーゲル)である。

 

 その水晶の悪魔(シュビーゲル)が見えた途端、フリーレンがそこに魔力を込める。するとそれはガラスの置物が落ちたの如く細かく割られ、そのまま光の粒子となって消えてしまった。

 

 

「これでよし」

 

 

 このダンジョンの製作者であるリリスですら想定していなかった、このダンジョン最後の仕掛けかつボスである魔物・水晶の悪魔(シュビーゲル)、討伐完了。それと同時に、水晶の悪魔(シュビーゲル)が作った複製体も、一斉に消滅するのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして数分後、複製体との戦いから解放された仲間達が最深部に合流した。

 

 

「みんな‼︎ 無事……ではない感じだけど無事だったんだな‼︎」

 

「……遠回しに生きてたんだって言ってる?」

 

「大丈夫よ、生きていなかったらここにいなかったわ」

 

「いやそういう意味じゃねェから……」

 

 

 白哉が全員がこの最深部に合流してくれたことに喜びを見せようとしたものの、全員が満身創痍の姿であることに気づき、フォローの言葉を上手く出せなかった模様。そのせいで不謹慎な会話もできてしまった。ドンマイ。

 

 そんな中で、全員がこの最深部にゴールするまで観戦席にいた者達が宝物庫の物陰から現れる。だがリリスだけ、罪悪感を感じているかのような表情をした顔に影を落としている。

 

 

「………………うむ。どうやら全員来れたようだな。フリーレンが渡した脱出用ゴーレムを誰も使わずに」

 

「なんで出てきてからの間が長かったん?」

 

 

 何やら遠慮がちに口を開くリリスに、リコが首を傾げ尻尾についた埃を払いながら指摘する。白哉達の前に姿を見せてから言葉を発するまでに二十五秒もかかっていたのだ、間を空ける必要が本当にあったのかと疑問に思われる程の長さを感じるのも無理もない。

 

 と、次の瞬間。

 

 

「そ、その……すまなかった」

 

 

 なんと。プライドだけ(?)は誰よりも一丁前に高いあのリリスが、みんなの前で何の躊躇いも無く深々と頭を下げたのではないか。

 

 

『えっ⁉︎』

 

「えっ?」

 

 

 無論、これには白哉達も思わず動揺の声を上げる。無力化されている状態でも腐っても、古代より生けし闇を司る魔女と自称するあのリリスが謝罪したのだ。それも皆がリリスに対して何かされたとは感じていない時に。疑問に感じてしまうのも無理もない。

 

 

「えっと……俺達、リリスさんに謝られるようなことされた覚えはないと思いますが……?」

 

「ハァ⁉︎ いや大アリであっただろう⁉︎ 水晶の悪魔(シュビーゲル)の事で‼︎」

 

『………………あぁ』

 

「察するの遅いわ‼︎」

 

 

 水晶の悪魔(シュビーゲル)という言葉が出たことで、何故リリスが謝罪したのかを察したのか納得を声を上げる一同。リリスはそれにもっと早く気づいてほしかったのか怒り心頭に発したが。

 

 ある程度の怒りの感情を一度に発散させて落ち着いたのか、一つ息を吐いてからリリスは再び口を開く。

 

 

「余が作ったこのダンジョンは、攻略させる前にも言ったがフリーレンからダンジョンの仕組み云々を聞いたり記憶を読んだりして作ったもので、おぬしらが戦った複製体を作った水晶の悪魔(シュビーゲル)もそれからなるべく再現させたつもりだったのだが……そいつの記憶から掘り起こすかのように、ダンジョンに参加してないどころか現界すらできてないはずの奴等の複製体までをも作れるようにバージョンアップされるとは思わなくてな……」

 

 

 リリスが水晶の悪魔(シュビーゲル)の事で罪悪感を持つのも無理もない。

 

 彼女はフリーレン以外がダンジョンに初めて参加することを考慮し、水晶の悪魔(シュビーゲル)にはダンジョンに参加している者達の複製体だけを生成してもらえればそれでいいと考えていた。寧ろそれ以外の最難関の仕掛けを作るつもりもなかったようだ。

 

 しかし実際、水晶の悪魔(シュビーゲル)はシャミ子の体内でコアとなっている桜や、桃との戦いで原型を留められず無力化された誰何だけでなく、フリーレンの昔の旅の仲間や彼女がこれまで戦った強敵の魔族の複製体までをも生成させてしまったのだ。

 

 想定していなかった水晶の悪魔(シュビーゲル)の強化。それによって白哉達を苦しませる羽目になってしまったことを、リリスは今でも申し訳ないと思っているようだ。

 

 

「リリスさん、顔を上げてください」

 

「びゃ、白哉……?」

 

 

 そんな彼女に、白哉が声を掛けた。それも怒りの感情無しに。

 

 

水晶の悪魔(シュビーゲル)は記憶を読み取ることができるのでしょう? もしそれができるとするのなら、俺達の……彼が支柱するダンジョンを守るためにも、俺達の記憶を通してどのようにして参加者全員を追い払うべきかという思考をすることもできるはずです。だから貴方どうこうしようと、再現できた時点でダンジョンに参加してない者達の複製体ができてもおかしくないと思います」

 

「そ、そうなのか……?」

 

「多分ですけど」

 

 

 リリスが読み取った記憶から再現してからの改造を施さなくても、水晶の悪魔(シュビーゲル)の性質上、ダンジョンに参加してない強敵の複製体が作られる可能性は避けづらいだろう……白哉はそう予測しているようだ。

 

 だがそれでも。そう付け足すかのように、白哉は微笑みながら言葉を続ける。

 

 

「それに……どんなに想像できない事態が起きても、俺達がそれを乗り越えればいいだけの話ですよ。大切なもの達を守るためならば尚更……な? そうだろ、桃」

 

「うん。みんなと楽しく過ごしていけるこの町を守るためなら、どんな難関だろうと打ち砕くまでだよ」

 

 

 白哉が投げ掛ければ、桃も微笑み返しながら己の意志を改めて表明させ、それに続くかのようにミカン達も同じ表情で頷く。皆が皆、ここにいる者達が大事な存在であると称し、多摩町も大切な居場所であるため、守りたいという意志は二人と同じであることを表明させていた。

 

 そんな彼等の表情を見て、リリスは忘れかけていた事に気付かされたかのように目を見開き、思わず苦笑を浮かべた。

 

 

「そっか……そうだったな、おぬしらの覚悟とか、そういうのを余は見誤っていたよ。いつも一緒にいた者の一人として、何も知らずにどいつもこいつも心の弱い奴ばかりだと思い込んでいたようだ。これは明らかに余が悪いな」

 

「誰が悪いのかなんて微妙ですけどね……」

 

 

 遠回しに白哉達の事を無自覚に否定するかのような発言を謝罪しているリリスに対し、桃が苦笑し返しながらフォローの言葉を掛かる。今回の件は事故によるものであるため、リリスを責めるつもりは毛頭ないようだ。

 

 

「さてと……ここは素直に、水晶の悪魔(シュビーゲル)を壊したり強敵であった三体の複製体の撃破に貢献し、みんなをゴールに導かせてくれたシャミ子とフリーレンを功績者として讃えようと思うのだが……二人は一体どこにおるのだ?」

 

「あぁ、優子達でしたら……」

 

 

 辺りを見回しながら、シャミ子とフリーレンが見当たらない事を問いかけ、白哉に促されるように彼が向いた方向へと振り向けば……

 

 

 

「暗いよー‼︎ 怖いよー‼︎」

 

「フリーレンさんまたですかー⁉︎」

 

 

 

 牙の生えた金箔の宝箱──ミミックに体を突っ込んでおり、噛みつかれているかのように下半身だけ出て足をバタバタさせること以外の身動きが取れない状態となっているフリーレンの姿と、そんな彼女を助けようと身体を押し込んでミミックに吐き出せようとしているシャミ子の姿が見えた。

 

 どうやらフリーレン、宝物庫に置かれてある宝箱やミミックを開けまくっており、これで何回目かのミミックの罠に引っ掛かっていたのだ。白哉のアドバイスであるミミック対策を好奇心で忘れる程に。空の開けられている宝箱の数々や仰向けになりながら消滅していっている二体のミミックがそれを彷彿とさせていた。

 

 

「あのように、ミミックに引っ掛かったりそこから助けようとしたりしています。ちなみにフリーレンさんがあのようにミミックに喰われたのはこれで六回目です」

 

「えぇ……」

 

 

 最後の最後で何回やらかしをしているんだこのエルフは。そんなんでよく今まで生きてこれたな。リリスはじたばたと足を動かしてもがいているフリーレンを見ながらそう思ったそうな。

 

 ちなみに余談だが、今シャミ子がフリーレンをミミックから解放させている間、サケブシッポが別の宝箱に噛みつき、ミミックであったそれを消滅させていっている。またフリーレンが同じ手に引っ掛からないようにするための応急処置なのだろう。

 

 

「……さすがに彼奴がこの町にいるのは、別の意味で不安でしかないな……」

 

 

 リリス、別の問題でまた頭を抱える他なかった。ドンマイ、ごせんぞ。

 

 




次回以降ですが、よっぽどの事がない限りは原作7巻が発売されるまでは更新。ストップします。ネタ切れってのもあるけど、区切りも良さそうなので……

再開するまでは新しい小説の連載でも試みようかなとは思っておりますので、もしよろしければそちらも楽しみにしておいてください。
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