偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
実は不思議なことに、この続きが思い浮かばないんです……
「───まぁ要するに、バカ校ちょ……じゃねーや。ハタ校長が今朝、『一年M組の実力・中間・期末テストの各総合点数が非常に悪かった上に学年最下位だったぞ』って言ってきたんだ。『一年生からそれはさすがまずいだろ』ってことで、『全員が休み明けテストで一科目でいいから八十点以上を取らないと毎日補習にし、さらに教師の給料を二十パーセントカットにする』ってことも言ってきたんだ。しかも決定事項だ。ってことでテメーら、絶対どっかの教科で八十点以上とれよー。俺に給料カットされた恨みを買いたくなかったらな」
平然と、長々と、死んだ魚の目をしながら俺達にそう説明した銀八先生は、咥えていたレロレロキャンディーの飴の部分が無くなったことに気づき、新しいのを取り出してそれを大きく頬張った。
………………いや、ちょっと待て。
「先生。なんか説明がざっくりとしてませんか? まるで『既にモノローグは流されてましたよ』みたいな感じに説明をされましても、俺らはどうもしっくりとこないというか……?」
「いーんだよ説明はこんな感じで。どーせ今回のモノローグなんて『3年G組銀八先生』の第一話での校長先生との会話の回想とほぼ同じようなもんなんだから。んなもんここで話しても『原作の大幅なコピー』扱いされて作者がこの小説諸共BANされちまうんだから。気にしたらお前らもハーメルン運営から消されるぞー」
「すみません、何の話ですか」
銀魂特有のメタ発言はともかく、作者だとか小説だとか運営だとか……まるで俺が介入したこの世界の物語が現実世界で公式になった、みたいな発言はやめてくれませんか? そんなこと二次創作してくれる人が作らない限りあり得ないですよ。そもそも俺が介入した時の物語なんて現実世界の方では誰も知らないし。
「ま、つーわけだ。以上」
オイコラ待てや。勝手に話を終わらせて出ていこうとするな。
ムッとした感情を抱いた中、新八が呼び止めながら叫んだ。
「ちょっと待ってください‼︎ 以上、じゃないですよ‼︎ 何勝手な約束交わしてんですか‼︎ いくらなんでもいきなりすぎるでしょ‼︎」
「んなこと言ったって校長の考えなんだから仕方がねーだろうが。諦めよーフィリップ君。大体お前なら地球の本棚に検索すりゃあ余裕で満点だろ」
「いやそれ実写版の俳優が同じなだけェェェッ‼︎ あの人イケメンだし僕よりもフィリップ演じてる方が美男さ出てるから、そっち方面でわざと間違われるとこっちは虚しくなるんですよチクショー‼︎ ってゆーか‼︎」
新八は教壇に立つ銀八先生の隣で苦笑いしている、赤髪で左髪のもみあげ部分をピンで留めている女性に顔を向け、彼女にも叫びながら問いかける。
「浅瀬先生もこんなの納得できるんですか‼︎ いつも通りの笑顔でいるみたいですけど‼︎」
怒り気味の声の新八から問いを受けるのは、本来なら優子のクラスの担任であるはずの、ややおっとりした性格の浅瀬先生。
彼女は原作でもこの世界でも優子が桃への果たし状を書いている時に、その文章や言葉遣いなどを色々と添削してくれた良い人だ。けどその結果、現代に合わせすぎたため内容が分かりにくくなってしまい、優子は『果たし状を果たせているのか』と疑問を覚えてしまったけど。
そんな浅瀬先生はその苦笑いを崩さず、新八の問いに答える。
「正直私も困ってるのよ? 私も坂田先生と同じで給料カットされるみたいだし」
「じゃあなんとか校長先生に抗議してくださいよ‼︎」
「そうしたいのは山々なんだけど、そんなこと出来る勇気がなくって……ごめんね? ペラップ君」
「それアニポケ不思議のダンジョンの奴ゥゥゥゥゥゥッ‼︎ つーか中の人繋がりでも分かる人いるわけねーだろそれェッ‼︎」
結構渋い方面から突いてきたなこの先生は。ってかそのポケ○ンのゲーム、アニメになったことあんの? 初耳なんだけど。
と、ここで新八のツッコミを筆頭に他の生徒達からも非難の声が次々に上がる。
───ふざけんなよ‼︎ そうだそうだ‼︎ 話にならん‼︎ なんてことしてくれたのよ‼︎ どうしろというんですか‼︎ うわめんどくさ。冗談じゃないよ‼︎ 色々とおかしいッス‼︎ キツ過ぎるだろう‼︎ 『ぼっち・ざ・ろっく!』の二期はよ‼︎ 鬼滅がアニメでも終わりそうなのマジで悲しい‼︎ お金持ちのニートになりたいって作者が言ってた‼︎
なんか一人だけローテンションなんだけど、これは桃かな。あいつ中間テストで理系を中心に八十点以上を取っていたし、期末テストだって五教科のうち四教科は九十点台で一教科はなんと百点もとったんだし。
ってか、テストに関係ない悪口を言ってる奴も三人ぐらいいなかった? しかもその内二人はアニメ関連というね。
「大体補習を毎日、それも土日祝や冬休みなどを削るって……横暴ってレベルじゃないッスよ‼︎ 警察や県庁への報告ものでニュースに取り上げられちゃうッスよ‼︎」
「その通りアル‼︎ そもそも私の国には、『平日の補習なんてノンノンノン。嫌いな色は黄緑です』という格言があるネ‼︎」
「平日の放課後を潰されたら、エリザベスの散歩に行けなくなってしまいます‼︎」
「つーか、んなことしてたらバイト入れらんねェよ‼︎ その補習って時給出るんですか⁉︎」
「俺も陰陽師の仕事が出来なくなってしまいます‼︎ 陰陽師が幽霊関連の仕事を優先させなかったら誰が代わりに町を守るというのですか⁉︎」
「そもそも部活に入っている人達に対する実質的な退部にもなるんじゃないですか⁉︎ 私テニス部で先輩達に結構期待されてるのにー‼︎」
「私は倫理以外学年トップの成績なので、特例で補習せずに部活で実験しててもいいですか〜?」
約一名が自身の学力の事を話して一人だけ逃げようとしている。オイ小倉さん、危なっかしい実験するよりも補習で身につけた知識で安全な実験がいつでもできるように準備した方がいいぞ。
胸に抱えていた不安は抑えきれず、皆の文句はどんどんエスカレートしていく。
───ふざけるなよ‼︎ 校長に抗議しろ‼︎ っていうかこんな約束反故にしろ‼︎ この天パが‼︎ 死んだ魚の目‼︎ 浅瀬先生可愛い‼︎ 百合なんてあり得ないだろ‼︎ これに抗議する奴は極刑‼︎
いつ果てるとも知れぬブーイングの嵐。中にはブーイングじゃないのがあったり百合に対する冒涜の発言が出たり(ちなみに俺はNL派)と、不満を爆発させすぎてまたテストとは関係のない不満までぶつけ始めた。ホントなんでやねん。
一方、ブーイングしていない優子・桃・ミカンのまちカドメイントリオの方はというと……今のブーイングの嵐に引き気味になりながらも警戒の意思を示していた。
「ちょっと……これヤバくないかしら? いくら校長先生が決めたこととはいえ、このまま批判の意見を出させ続けたらクラスの皆が暴徒化しちゃうでしょ……。ね、白哉?」
「このままじゃダメだ。魔法でぶん殴って静かにさせるべきかも……。だよね、白哉くん?」
「いや暴力で解決しようとしないでもらえます⁉︎ いくら多摩町の人達が奇天烈な人ばかりだからって『やはり暴力……‼ 暴力は全てを解決する……‼』なんて路線が許されるのは江戸時代までですよ‼︎ ですよね、白哉さん⁉︎」
「いやその時代には警察の代わりに奉行所がいるから、江戸時代でもダメじゃね? ってかお前らなんで俺に振るの? 解決策とか持ってないから俺に期待すんのやめてくんない?」
思わず正論みたいなツッコミを入れちまったよ……。普通に考えてどの時代でも暴力はダメだし、縄文時代以降にも警察みたいな組織はいるでしょうが。そしてなんで三人とも俺に振ってくるのかが分からん。俺なんかに助け舟求めんな。
にしても、これはどうしたらいいものか。銀魂キャラは基本はまちカドまぞくキャラ以上にコメディかつマイペースで動いているし、自由過ぎてついていけないんだよな……。だから俺が指摘しようとしても無意味なんだろうし。
けど、いやホントマジで、この状況をどうするべきか───
「っせーんだよテメーら」
刹那の瞬間だった。甘い煙混じりの溜息をつき、まるで田舎のヤンキーの様に首を曲げ凄みながらそう呟いた、銀八先生の怒声混じりのだらけた声に、俺の背筋は一瞬で凍っていた。まるで百発百中の狩人に狙われている獲物になったかような殺意に見舞われていた。
そして先生の声と言葉に反応してか、先程までブーイングしていた生徒も全員までもが黙り込んでしまっていた。今の先生の声がかなり響いてきたのだろうな。
そして銀八先生は教卓に両手をつき、再び煙まじりの溜め息をついてから口を開いた。
「いいかテメーら。胸に手を当てて考えろよ。特に女子な」
『先生ぶち殺しますよ』
と一部の女子達、というか貧乳気味の女子達が殺意まじりの抗議をする。中には普段あまり怒らなさそうな桃や杏里まで今のセリフを吐いていたみたいだ。お前らも気にしてたんだな……。ちなみに小倉さんは今の抗議には参加しなかったようだ。こいつは自分の胸の事とか気にしない派か。
「とにかくだ」
銀八先生は顔を引き攣らせながら続けた。
「こうなったのはテメーらのオツムが悪いのが原因だろうが。俺や浅瀬の方こそとばっちりなんだよ、給料カットとかされてよー」
いや、まぁそうなんだけど。ほとんど銀魂キャラがそうしたことだけども。
「あ、あの……それでも、ですよ? もうちょっとハードル下げてもらうとか、そういったのを校長先生に掛け合うことは出来ませんか……?」
「情けねーこと言ってんじゃねぇよアホウミストレス」
「シャドウミストレスです‼︎ って誰がアホウだこのヤロウ⁉︎ 思いっきり生徒に対して暴言を吐いてるじゃないですか‼︎」
銀八先生のごもっともな意見とそれに釣り合うかのような圧に押されながらも、控えめに自らの意見を述べた優子。それも虚しくピシャリとした感じに返され、魔族としての活動名を良くない方向で間違われてお怒りだが。
「いいかテメーら。別に全教科八十点以上とんなくていいんだよ、一科目でいいんだ。ここは全員で八十点以上とって、校長の鼻を明かしたらどうだ?」
刹那、クラスの皆が彼の鼓舞に対して強く反応した。ニヤリと笑いながら言った銀八先生の言葉が各々の心に突き刺さったらしく、熱い闘志を燃やし始めたのか、決心の篭った声が飛び交う。
───おぉ、やってやろうじゃねーか‼︎ 校長め、今に見てろ‼︎ よっしゃー気合い入れていくかー‼︎ これは頑張らないとね‼︎ 私の場合は余裕だけど頑張るぞー。八十点なんてあれだ……えーと、その……ちょちょいのちょいだ‼︎
アンニュイで気怠げな銀八先生の口から発されたとは思えない程の、真面目で真摯感の強い言葉が、みんなの心を大きく動かしてくれた。いつもの彼とは違った何かが、どこか感じ取れた。
ひとつ頷き、銀八先生は続ける。
「いいか。テメーらは腐ったミカンなんだ‼︎ あっ、間違えた。腐ったミカンなんかじゃないんだ‼︎」
………………
ちょっと待て。今、何処かで聞いたことのある有名な台詞諸共台無しにされた気がするのだけど。先程までやる気満々な皆が上げていた声が一瞬にして聞こえなくなった程の呆然さなんだけど。
───いやそこ間違うのかよ‼︎ 一番間違っちゃいかん台詞だろ‼︎ 謝れ‼︎武田鉄矢に謝れ‼︎
うわ、また不満の声が爆発してきた。別方面でだけど。今朝一番のボルテージでツッコミが炸裂し、鞄や教科書や筆記用具やゴミを先生目掛けて投げ飛ばしていく。
「あー‼︎ うるせーうるせーうるせー‼︎ とにかく‼︎ 六時間目のホームルームで緊急対策会議やるからな‼︎ 以上‼︎」
飛んでくる物を週刊少年ジャンプを盾にして弾きながら、今度こそ銀八先生は教室から出て行ったのだった。いや教師が小・中学で確実に校則違反になる物を持ってくんなよ。
ほとんどのクラスメイトが武田鉄矢の台詞を台無しにされたことで不満を持ったり苛立ちを抱えている中、ふと優子の方を見やる。目をぐるぐるとしながら顔を真っ青にしていた。
「いっ、一教科だけとはいえ、必ず八十点以上……き、期末テスト以上に緊張と不安が一気に押し寄せてくる……‼︎ ぜ、全部七十九点以下になりそうで怖い……」
なんか陰キャみたいな考えしてるんだけどこの子。期末テストでは桃との勝負があるからってことで五教科八十点以上とったのだけど、今回は勝負じゃなくて共闘みたいなものだからな。桃と競争できないことで優子のモチベーション、下がらないだろうな……?
ってか、物が投げられた時に何やら機械がバコンッと壊れたような音がしたけど、学校の物が壊れたとかないよな……?
♢
何の変哲もないとある職員専用の部屋。その部屋のデスクに置かれたノートパソコン。その画面に映し出されたM組の様子を眺めながら、この桜ヶ丘高等学校の校長であるハタはかなりの冷や汗を掻いていた。
この校長、デップりとした横長の体型であることは普通だが、血色の悪い紫色の顔に額の上から触覚を生やしていると完全に人間の要素ゼロである。が、シャミ子のような魔族や屁怒絽のような魔族かも分からない奴もいるので、そこは気にしないでの一点張りである。
ちなみに校長と同じ部屋──校長室にいる教頭も、同じく額から触覚を生やした人外教師だ。体型はガリガリだが。
「う~む……これはまずい‼︎ 非常にまずい‼︎」
「あ? 何が?」
叫びながら困惑している校長の声に反応したのか、ソファーに座り電撃魔王の雑誌を読んでいる教頭が反応の意を見せる。
「おいコラ。わし、お前の上司だぞ。つーか学校に漫画持ってくんな。とにかくこっち来い」
教頭は渋々雑誌を閉じるとデスクの前に立ちパソコンを覗きこむ。
「監視カメラの映像ですか? 途中で止まっているように見えますが」
「そうじゃ。M組の教室になんかこう、上手い具合に仕掛けたやつの映像をなんやかんやしてわしのパソコンに転送し、再生させておるのじゃ」
「アバウトだな説明が」
「いいんじゃよ映れば。ただ……」
「ただ?」
校長は落ち込んでいるのか一つ低い声での溜息をつき、パソコンの画面の表示を変えた。そこにはアナログテレビの如くザサザッと砂嵐のように荒れている映像が映し出されていた。
「実は先程、坂田先生が武田鉄矢の台詞を台無しにしたことに怒った生徒達の投げた物の一つが、偶々ぶつかったみたいでの。そのせいでこれ以上奴らの様子を見ることが出来なくなったのじゃ」
「女子が着替えている時にバレて懲戒処分されるよりはマシではありませんか。それよりもA○ビデオを買って観た方がよっぽど良いでしょう」
「んな目的で付けたわけじゃねーよクソジジイ‼︎ 校長に対する名誉毀損だぞコラ‼︎」
どうやらこの校長、今朝方銀八先生に告げた休み明けテストの事でM組がどのような反応をするのかを確認するべく、事前に教室にいる者にバレない位置に監視カメラを取り付けていたようだ。
テストの点数の事で戸惑うM組を見て笑ったり、あわよくば……などといった良からぬ目的も企んでいるようだが。ただし卑猥な目的は決してない。そう、決して。
「まぁこれは数日かかるけど自費とかでなんとかするとして……それよりもまずいぞ。生徒達が一致団結しおった……‼︎」
「それの何がいけないのですか?」
教頭の意見はごもっともである。生徒達が一致団結することは彼らの勉学や行事のモチベーションの向上にもなる上、他のクラスや職員達の評価にも繋がる。逆に一致団結してもよろしくない点などないのだ。
しかし、今回の件に関しては校長はそれをよろしくないと見ていた。それは何故か。校長は不機嫌そうな顔をして答えた。
「このままじゃ、わしの計画が台無しになるだろうが」
校長の計画。それは『銀八先生の人気を落としちゃえ、イェーイ‼︎』といったものだ。いや計画の名前もアバウトだなオイ。
銀髪で天然パーマ、死んだ魚の様な目とおよそ人気要素ゼロの銀八先生こと坂田銀時。しかし、彼は何故だか生徒達はおろか、同僚である教師達からも大分人気が高く、そこそこの支持を得ていた。
銀八先生がボケれば生徒がツッコミを入れ、逆に生徒がボケれば銀時がツッコんだりと、その呼吸を見る限り『M組ってまあまあ結束力高くね?』という評価が上がっているようだ。それも入学式が始まってたったの半月。その半月で新入生からの人気や支持を得たのだ。
しかも校長曰く、一年生に飽き足らず、ごく一部の女子の間では『銀八先生ってワルっぽいとこらがイカすよね』とか『銀八先生とだったら結婚してもいいかも』などとラブコール炸裂の発言がなされているのだ。
その多大な人気と支持を得た最大の理由が、銀八先生の裏の人柄の良さだ。やる時はやる男で、結構仲間思い。悩み事を抱えている生徒がいれば、ボケをかます時はあっても必ず解決へと導こうとする、なんやかんやお人好しな男なのだ。それ故に情が厚く、決める時はバッチリ決める為、皆からは何だかんだで信頼されているのだ。
だからこそ、校長は銀八先生を危惧していた。もしも彼がこのまま人気や支持を獲得していたら、何れ下剋上みたいな感じに校長の座をいつの間にか手に入れてしまうのではないか、と。
そこで校長は今回の計画を立てた。これで絶対痛い目遭わせてやる。ついでに銀八先生に怨みの矛先が向くだろうから株価を下げてやる。そんな邪念を持ちながら。
「なのに、なんか結束し始めおって……。フンッ、まぁ良い。ここは様子を見て必ず陥れてやる。『青春って感じやん』みたいな事には絶対させんからな……クククッ」
「悪役みたいな表情してんぞ、お前」
「お前は校長というか上司が近くにいる時に、堂々と○スターデュ○ルするのやめてくんない? しかもそれ、わしのスマホ」
堂々と上司の隣で、しかもその上司のスマホを勝手に使いスマホアプリゲームをしている教頭に青筋を立てながらツッコミを入れる校長。しかしすぐにパソコンの方に顔を向け、笑みを浮かべた。まるで銀八先生を嘲笑うかのように。
「フッフッフ……新しいカメラを付けてM組の様子を見て、全員が目標点を取れないようにして罰ゲームが確定すれば、奴の株価はそれで───」
【へぇ〜。なんか怪しいなと思ったら、アンタら裏でそんな良からぬ事を企んでたんだ】
「ん?」
校長の声を遮って聞こえてくる、校長が発したものでも教頭が発したものでもない、まるでイケメンアイドルが発したかのような声。それは果たしてどこから聞こえてきたのかと、校長は辺りをキョロキョロと見渡した。
「………………誰も来てない……?」
しかし、どこを見渡してもこの場にいるのは校長と教頭の二人だけ。第三者は見当たらなかった。先程までの光景から変わっているところは、教頭が勝手に○スターデュ○ル内で課金をしていることだけである。
「教頭、ちょっと声変えたのか?」
「急になんですか校長先生。私はいつもこんな声で喋ってますし、声を変える時はアンタを騙す時に変えますよ」
「うむ、そうか……オイちょっと待て。騙すってどういうことだコラ。よくそんな事を本人の目の前で堂々と言えるなオイ」
教頭が悪戯で声を変えて喋りかけているわけではないと理解するも、警戒の姿勢を変えない校長。もしこの校長室の何処かで計画の事などを聞かれたらたまったものではないと確信しているからだ。
念入りに、もう一度辺りを見渡す。だがただ席に座ったままでの部屋の周りの確認を連続で行っても、いつもの見る風景とは異なる部分が見つかるとは限らない。渋々立ち上がろうとした───
刹那、校長の背筋が凍りつく。彼の後頭部の近くに、巨大で真っ黒な蠍の尾のようなものが──否、巨大で真っ黒な蠍の尾そのものがぶら下がっていた。
「えっちょっ、何……? わし、ほんの短時間で坂田先生が派遣した暗殺者に狙われとる……? い、いや、いくらテストでとるべき点数が高すぎるからってさ、暗殺者を頼んでまでして給料カットされるのそんなに嫌なの……?」
「ジャックちゃんに解体されるよりマシじゃん。ランサー相手なら一突きで苦痛とかも一瞬でしょ」
「強制的に聖杯戦争に参加させられてるの? ってか写メ撮ってないで助けてくんない⁉︎」
顔を真っ青にして涙目を流しながら、どうにかして今いるこの状況から現実逃避しようとするも、蠍の尾は引っ込められることも幻覚のように消えることも一切なかった。このままではわし、命取られるんじゃね? そんな絶望感で校長は漫画でよくある川のように涙を流し───
【ちなみに針はスナイパーみたいに飛ばせることができるよ】
「「ファッ⁉︎」」
突然蠍の尾が喋り出したため、それによる仰天を教頭と共にしたことで涙も引っ込み出した。
瞬時に二人が驚きのあまりそそくさと後ろに下がったことを見計らってか、先程までハタが座っていた位置にその蠍の尾の持ち主はゆっくりと降り立った。その正体は全身真っ黒というシンプルすぎるデザイン──容姿だが、全長は三メートルもある。なんの変哲もないシンプルな蠍の姿だろうと、その大きさと体色の異常な黒さが二人への恐怖を引き立たせていく。
【はじめまして、ハタ校長となんか校長を馬鹿にしすぎたせいでクビにされそうな教頭】
「私の名前を覚えようとする気ない感半端ねぇなオイ⁉︎」
【僕は黒蠍の曙。一年M組のとある生徒の部下さ】
何れ因果応報で呼ばれそうなあだ名に不服気味な教頭を無視し、巨大な蠍──曙は一礼しているかの如く頭を垂れ下げた。
「せ、生徒の、部下……⁉︎ なんじゃその危なっかしそうな貴族みたいな設定は……⁉︎」
【まぁ立ち位置的にこっちが勝手にそう解釈してるってだけの感じだけどね】
曙はそう答えながら、自分が降り立った時に散らかったのであろう大量の資料用紙をまとめ始めた。律儀か。
「と、というか、いつからここにいたのだ貴様は……⁉︎」
【う〜む、と言いながら監視カメラから転送されたという映像を観ていたところから】
「バレてはいけないところから身を潜められていた⁉︎」
まさかの視点変更の時点から、曙はどういう方法かで校長室に入っていたのであった(本小説談)。つまりはハタ校長の計画の一部始終、そして盗撮していたことが、全て曙の脳内にそのまま叩き込まれてしまったようだ。予想外な方向での因果応報か。
【別にね、妬みを持つなとかは言うつもりはないよ? 勝ちたい相手とかがいることは自分自身の成長にも繋がるから。けどね……】
そこまで言うと、曙は一瞬にして自身の尾の先端を校長の額近くにまで近づけた。正しく言えば向けた、である。
「ヒィッ⁉︎」
【目標点数が取れなかった罰が毎日補習はさすがにやり過ぎている。マスター達の貴重な休みが潰れるわ、部活に行けなくなって実質的な退学になりかねんわで、どう転んでも県庁に告発されて裁判沙汰だよ。マスター達の休みを潰すようなこと、僕は許さないからね。絶対、ね……?】
声質を低くし、真っ黒な身体から紅い瞳を覗かせるかの如く校長に圧をかけていく曙。己の主の人生を不幸なものにしようものならば、殺人を犯してでも阻止する。言葉と行動からして脅迫に見えるため、その形はかなり歪ながらも、主を魔の手から守らんとする強固な意志の表れである。
尾を下げて天井を指し、ブンブンと左右に揺らしながら曙は言葉を続ける。
【ま、補習の取り消しをしてくれるって言うのなら、それをテストの結果が返ってくるまでの間内緒にするって条件で許してあげる。ただし、また黒板にこっそり付けたのみたいにまた監視カメラを付けたり、マスター達が八十点以上とれないように小細工などしたり、さっき言った取り消しの件を受け取らなかったり、この事をバラそうとしたりした事が判明したら、その時は……】
蚊が近くで飛び回る音が聞こえてきたのと同時に、尾がカーペットへと叩きつけられる。尾の穂先は数ミリだけカーペットに突き刺さったものの、代わりにその周りには、状況には似つかわない程の巨大なクレーターが生まれていた。
円形に窪んだ地形の大きさ、それは曙の怒り度合いが表されているものであった。
【すぐさま君のところにやって来て、殺すからね? 毒で】
「どう見ても力づくで殺す気だよね、それ⁉︎」
突き刺さった穂先辺り、それは微量ながらも赤いカーペットのその部分をを紫一色で塗り潰していた。力押しと猛毒、この二つを持ってして主に害を成すものを完全に消すつもりのようだ。
【その代わり、マスター達のクラスには罰ゲーム取り消しのことは言わないよ。敢えて言わない方が他の人達の勉強に対する注意力を増してくれるだろうし、何より楽しくなりそうだからね】
「えっ? あっ、そうなの……?」
【うん】
一応、サディストな性格を持ち合わせているようだが。
【それじゃ、僕はこの辺で失礼するね。死にたくなかったら約束、忘れないでよね】
「い、いや、そちらが一方的に押し付けてきたことじゃ───」
【あっ、もうどうでもよくなりたいんだね?】
「イエッサー‼︎ 神に誓ってでもこの約束事は必ず守り通します‼︎」
【よろしい】
校長が罰則無効を約束した事を機に、曙は律儀に校長室のドアを開けてその場から去っていった。
今校長室にいるのは、再び校長と教頭だけであった。終始曙に脅迫された校長はその場で座り込み、青褪めた表情で徐に呟いた。
「……わし、とんでもない奴を部下にしていたクラスメイトのいるクラスに、喧嘩を売っていたのか……」
「哀れだな、マジで」
「な、何おう⁉︎ そういうお前だってガタガタ震えて何も言葉を発していなかったではないか⁉︎」
この二人が終始羞恥を晒してしまったことを、一年M組は知る由もなかった───
仲間を窮地に晒された人が怒ると恐ろしい、はっきりわかんだね。
次いつ銀八先生回をやるのかは未定です。突然ネタが切れたので……