偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
さて、前回で桃の幼馴染が出て来ましたがどうなりますことやら……
ハロージャパン‼︎ グッドモーニングタマチョウ‼︎ カムトゥーザタマアニマルパーク‼︎
………………いや、待って。ちょっと待てって。これ英語じゃないから。フルイングリッシュで喋るのここまでにするから。だから遠く離れてからの冷ややかな目で見るのやめて。お願いだから。
えー……今日は待ちに待ったみんなとの楽しい動物園……なるはずだったんですけどね、俺が余計なことをしたせいか雲行きが怪しくなりました。何故かって?
昨日海外から帰ってきたばかりの、桃の幼馴染である柘榴さんをね、動物園に誘ったらね、彼に惚れてるという桃がね、恋愛クソザコ魔法少女と化してガチガチ状態となりました。
いやね、久々の再会をサプライズ感覚でさせた俺のせいでもあるけどねこうなったのは。突然の再会をした桃がどんな反応をするのか気になっちゃって、つい思いついちゃって……迂闊にサプライズ企画を立てるものではなかったのかもしれない、はっきりわかったよ。
ま、日頃の揶揄いに対するお返しってことにしとくか(我ながら酷い)。
「……いつも桃と仲良くしてくれてありがとう。僕は礎柘榴。桃の幼馴染だよ。これ、つまらないものだけど」
「あ、ご丁寧にどうもありがとうございます」
「……どう? 桃とは仲良くしてる?」
「はい! 宿敵としての良好を得ています‼︎」
「……そっか、仲良くしてくれているのなら嬉しい。あの子一人で無理するところあるから、よく見ていて」
「分かっています! いつでも目を光らせているので‼︎」
「……ならよし」
おいおい……優子の奴、いつの間にか柘榴さんと仲良くなり始めているんだけど。桃の事で意気投合してる感じだし。なんかお土産もらってるし。しかも『たまさくらちゃん厳選フルーツゼリー』。ネットなどでたまさくらちゃんグッズの中で高級品だと言われている代物じゃん。スゲェ。いいなぁ。
「……あぁ、忘れてた。ミカンちゃんも久しぶり。呪いの方は大丈夫?」
「まだ克服できてなくて……けど桃のおかげで少しずつだけど抑えられていってるわ。あとは柘榴さんが声を掛けてくれたおかげでもあるけど」
「……僕は出来る範囲をやっただけ。それ以外の対処はしてやれなかった」
「日が日だったってだけだから。声掛けだけでも充分助けられたわ。ありがとう」
「……うん」
あっ、やっぱりミカンとも会ったことある感じか。まあ桃の幼馴染だから何かしら『おひさー‼︎』な会話があるだろうなとは思ってはいたけどよ。
「………………ねぇ、柘榴……?」
「……ん?」
「ま、まさか本当について来る気なの……? ほ、ほら、白哉くんから今さっき聞いた話によるとブラブラと一人旅をしていたとかって……」
「……そんなに予定がないからブラブラと歩くことにしたってだけ。それに……」
「フェッ⁉︎」
なんか桃が柘榴さんにブラブラするのはいいのかと聞いたら、柘榴さんが突然桃の顔をまっすぐと見つめ始めたんだけど。それも俺や優子達が近くにいるのにお構いなしに。突然すぎるから桃も変な声を出して顔を真っ赤にしてしまっているんだけど。
「……久しぶりに君に会えたし、君と仲良くしてくれている子達とも会えたんだ。どうせならみんなで楽しくいきたい。君と久しぶりに直で話し合いたいし……ね?」
「〜〜〜〜〜〜ッ‼︎」
桃の事を優先する宣言してからの、はにかんだ微笑み。これは桃にとってはかなり効いたのか、真っ赤な顔がさらに紅潮し、漫画やアニメでやかんのお湯が沸いた時に出てくる湯気が顔から出たような幻覚を見せてきた。何このレアな光景。
「あらぁ、桃はんって好きな男の前だとそんな弱々になるんやなぁ。面白そうやから撮ってもえぇ?」
「ダメだよリコ君、あぁいう反応をしている子は繊細なんだから刺激しちゃ──【ゴキッ】ハァンッ⁉︎」
あっ、ヤベッ。ここで白澤さんの治りかけの腰がゴキッと鳴ったわ。
本来ならリコさんが桃の『なんで来たのか手短に』って問いに答え、それが本来の目的と違うことを白澤さんがリコさんに指摘しようとしたところで……ってタイミングで腰が折れるんだが、俺が柘榴さんを連れて来たことで違うタイミングであぁなってしまった。マジすいません。
いやちょっと待て。何リコさんは白澤さんが腰折れてしまったってのに笑って見ていられるんですか。サイコパスかアンタは。
「脆弱ですまない……僕を捨てて動物園を楽しんできたまえ……」
「そ、そうですね。このままリコさんに連れて帰っていただいて」
このタイミングでちょっと平静さを取り戻したとはいえ、その反応は冷たさを感じるぞ桃よ……
「そんなことできません‼︎」
「私荷物持つわ‼︎」
「どこか横になれるところへ移動しましょう店長‼︎」
「俺が運んであげますね」
「えっ。続けるの?」
バッキャロウお前、せっかく同行して来てくれている人をさっさと帰らせるとか失礼だろ。そういう対応は悪質なことをしようとしている人限定にしてくれ頼む(聖人の心などない)。
「……多くの人と行くの楽しいから、穏便にしてね」
「だ、だよね。わかった……」
おうおう、結局柘榴さんの前ではタジタジになるんかいな。別に分からなくもないけどさぁ……日頃の揶揄いの事を考えたらちょっと精々するわ。ざまぁ。
この後、白澤さんの腰痛が治まったのを確認してから動物園へ滅茶苦茶レッツラゴーした。……我ながら滅茶苦茶レッツラゴーしたって何だよ。
で、途中から喋ったり二本足で立ったりするバクがいるという噂によってギャラリーに巻き込まれる白澤さんを救出したら、桃と柘榴さんと逸れてしまいました。桃と逸れるのは原作通りのことなんだけどよ、柘榴さんともまで逸れてしまったのは予想外だったぜ……
♢
先程までシャミ子や白哉達と一緒に動物園に行けることに喜びを噛み締めていた桃。だがしかし、その感情は短時間で二度も変えざるを得なくなってしまった。シャミ子や白哉の三人だけで行けないことの悔しさによるものは微塵もない。別の理由によるものだ。
一度目、何故かリコと白澤が来たからである。
リコは食べ過ぎると健忘になるまかないをシャミ子にたくさん食べさせ(シャミ子にもったいない精神があるからという理由もある)、白澤はその効果を教えてもらわなかったとはいえそんな二人に気づかなかった。
この上記の件により、シャミ子の様子がおかしいと思い二人が働く『あすら』に半ば襲撃する形で来てしまったことに対する罪悪感があるため、桃は二人(特にリコ)に苦手意識を持ったらしい。そのため二人が来るまでに出していた笑顔を引っ込ませてしまったのだ。
二人は苦手意識を持たれたことに関しては特に気にしていなかったものの、リコとは解釈の違いで分かり合える仲にはなれなかったが。
二度目、幼馴染である柘榴が突然来たからである。
柘榴は留学するまで、毎回と言っていいほどに桃の隣に立ち、いつも桃のことを気に掛け気遣い、様々な言葉を掛けていた。いつでも桃の事を想っている彼の行動が心を引き寄せ、彼女は次第に柘榴の色に染まっていた。
十年前に彼が留学していった時はしばらく寂しい感情を持って過ごしていたが、『逆に次彼と合うまでの気持ちの整理ができる時間が作れた』という前向きな思考を持つようになり、いなくなった義姉の代わりに町を守りながら待とう、そう胸に誓うようになり……
今日この日のまさかの再会で、その誓いは無意味となってしまった☆ みんなで動物園に行くことになった時に突然帰ってきて同行するとか言ってきたのだからね、仕方ないね♂
この後彼とどう話そうかと考えるも、その思考は園の動物達を見ていく内に心の余裕が出来た代わりに保留にしてしまう。
その結果、ゆっくりと見ている内に柘榴と二人きりになってしまっていた(無論白哉達がそうなるように仕向けているわけでは断じてない)。
「……逸れてしまったね」
「そ、そうだね……(こ、この状況一体どうすればいいの……)」
迂闊だった。さすがに楽しむ方向性だけを考え過ぎた。柘榴と久しぶりに話す時の内容を考えていなかった。様々な後悔によって桃が頭を抱える中、柘榴が手を振っているニホンザルに手を振り返しながら呟いた。
「……あの件は、もういいの?」
「えっ? な、何が?」
「……桜さんを探すって話。シャミ子ちゃんが訳あって桜さんのコアを所持することになったって、この前君からのメールで聞いたんだけど」
「あっ……」
この時、桃は思い出した。柘榴も自分と同じく親のいなく帰る場所もない中で、桜によって救われた者の一人であったことを。彼も桜の行方や彼女の身を案じていたことを。そして、一人町に残って桜を探すことにした自分の身も案じていたことを。
しかし、柘榴の供述通り、桜はコアとなってシャミ子の身体を支えることになっている。その件をメールを通して聞いた柘榴は、桃が桜に会えなくなったことで悲しい思いをしているのではないか、そんな不安を感じているようだ。
「それなら大丈夫」
「……えっ?」
そんな彼の気遣いを思ってか、桃は微笑みを浮かべながら答える。
「実際に会うことが今はできない。けどコアとなってシャミ子の中にいる。いなくなってはいないってことがわかった……その事実がわかっただけでもよかったって思っている」
「……桃」
「そして決めたんだ。姉の守っていた町に固執せず、私の友達みんなが笑顔になれるだけの、ごくごく小さな町角だけを全力で守ろうって。そんな新しい目標を持って生きていこうって」
そう言って桃が柘榴に見せたのは、シャミ子にも見せた、演技でも無理強いでも何でもない、全てを曝け出した満面の笑みだった。
その笑みを見て、柘榴は気づいた。桃に縛られていた、様々な心境の呪いの鎖が外されていたのだということに。そして、釣られて微笑んだ。
「……そっか。それが今の君の答えなんだ」
「うん。この目標こそが、お姉ちゃんも望んでいるはずだから」
「……わかった。だったら、僕もその目標を完遂できるように一生全力で支えるよ」
「ありがとう………………ん? 『一生』? ……えっ?」
柘榴が自分に合わせるように新たに立てた目標に紛れた、桃にとって聞き捨てにならない言葉、『一生』。その言葉を耳にし、それが成す意味に気づいた途端に顔をまた真っ赤にし、さらに目をぐるぐるさせながら混乱してしまう。
「はっ? ちょっ……えっ? 『一生』?」
「……うん、『一生』全力で支える」
聞き間違いなのかと思い込んでいたもののそうではなかった。その事実に心臓が持たないと感じたのか、さらに紅潮した顔を腕で隠しながら彼に背を向けた。
「そ、その……『一生』なんて言葉、色々と勘違いされてしまうから、軽く使わないでほしいかなって……」
「……そう? わかった、善処する」
羞恥心を持ちながらも精一杯の懇願を申し入れた桃。そんな彼女の想いが通じたのか、柘榴はあっさりと了承する。しかし何を思ったのか、オランウータンのいるエリアの方に顔を向けながら少し表情を顰め……
「……別に勘違いされてもいい気がするけど」
「えっ……? い、今なんて言ったの……?」
「……なんでもない」
桃に聞き取られない小声を呟いた。羞恥心で正常に聞く状態でなかった桃は当然聞き取れることができなかったが。桃がもう一度問いかけようとしたところで。
「桃!! 柘榴さん!!」
「……シャミ子ちゃんか」
タイミングがよかったのか悪かったのか、二人を探しに来たのであろうシャミ子がこの場へとやって来た。
「探しましたよ……あれ? 桃、どうして顔真っ赤なのですか?」
「あっ。い、いや別に……それよりごめん、ゆっくりしていたら遅れちゃった」
「……みんなを待たせちゃったね。今そっち行くよ」
「あっ。それが……皆さんそれぞれ急に帰ることになっちゃって」
「「へっ?」」
ここでまさかの事実。実はシャミ子以外が突然の急用ができたということで帰ってしまったのだ。しかもあのシャミ子といつもいる感じを出している白哉までもだ。しかも全員の急用というのが、どれもそれは本当に急用と言っていいのか判断不明で疑問のあるものであった。
「まさか……気を使われた……?」
急用ができた者が一人か二人ならともかく、何故皆が一斉に……そう疑問に感じた桃が辿り着いた予想がこれである。先程ミカンにシャミ子と白哉の三人でいられなくて不満だったことを聞かれて無理をしていると勘違いされたのではないか、そんな結論が頭に浮かび、罪悪感を覚えるようになった。
「ごめんなさい、なんかえらいガチャガチャしちゃって」
「え? いや……ほんとはちょっと騒がしくて楽しかったよ」
「……騒がしくて楽しかったといえば桃、桜さんと色々なところ周っていた時──ムグッ」
「やめて柘榴。私の恥ずかしい記憶を掘り下げないで。ステイ」
「……
柘榴が何やら桃の昔の体験談を話そうとした瞬間、桃が真っ赤な顔で素早く柘榴の口を必死に防いだ。赤裸々な記憶の漏出、回避成功。
「プハァッ……あれ。皆が帰ってったってことは、これって僕も帰った方がいい?」
「い、いえ。別にそないことはないです。寧ろいてくれたら色々助かると言いますか……」
「……あ、そう」
途端、柘榴の目つきが鋭くなり、何かを見据えているかのような眼差しを見せる。何事なのかと桃が少し動揺するが、彼が向いた方向には丸くなって寝転がっているライオンがいるだけなため、安堵の息を吐いて胸を撫で下ろした。
「とにかく、迷惑でなかったのならよかった。ちょうどいい時間なのでお弁当に───」
「……ところでシャミ子ちゃん、今『そないな』って言いかけてなかったかな?」
「………………えっ」
「ざ、柘榴……?」
背筋が凍えるかのような、冷酷な眼差しがシャミ子を見据える。その眼差しの持ち主は、桃の最初の予想通り柘榴によるものだった。如何にも裁きを下さんとする創作物の厳つい閻魔大王の如くシャミ子を睨む柘榴を呼び掛ける桃だったが、彼はそれを無視して殺意混じりに続ける。
「……それにその前は『えらいガチャガチャ』という言葉を使ってたよね? どれも標準語じゃないし、イマドキの若者でも使わない。どちらかと言えば、京ことばに聞こえる」
「え、えっと……そ、それは噛んじゃっただけで───」
「……そして声質。先程まで聞いた本人の声質はほんわかとしていたけど、君の声質は訛り混じりでなんとか似せようとしている感が出ている。おまけに喉の動きも微妙に異なっているように見えた」
「あっ………………っと……」
次々と繋げていく、聞き取った言葉の怪しい点と先程まで鼓膜に染み込ませたという本来のシャミ子との違いの供述。何処か探偵ミステリードラマを彷彿とさせるかのような言葉遣いだが、それら全てが図星かと言うかの如く、その圧力がシャミ子に襲いかかっていく。
そして、トドメだと言わんばかりに深く息を吸い、怒声混じりに吐き……
「君は一体何者だ。答えろ」
ドスの効いた声を、叩きつけた。
それと同時に、シャミ子の身体がドロンッと突然出てきた煙幕に包まれた。そしてその煙幕が晴れた時には……
「す、すみまへん……まさか柘榴はんがここまでブチギレるとは思わんかったわ……」
そこにはシャミ子ではなく、猛獣に睨まれている生まれたての子鹿の如く、涙目になりながら恐怖心によってガクガクと震えているリコの姿があった。
「……あっ、リコさんだったんだ。てっきり部外者がシャミ子ちゃんに化けたのかと……怖がらせてごめん」
「え、えぇよえぇよ。ウチにも非があるのやから……」
殺意のある声質と目つきをやめ平常時に戻った柘榴。しかし彼のその表情と声があまりにも恐怖心を燻らせてしまったのか、リコは震え怯えてしまった。あのマイペースでのほほんとした性格である彼女が、だ。
「な、何かシャミ子にしては色々と違和感があるなとは思っていたけど……柘榴、いくら正体が誰か知りたいからってあんな対応はどうかと思うよ? シャミ子本人かもしれなかったら、今みたいにリコさんが怯えるほどのトラウマをシャミ子にも植え付けてしまうし……」
「……うん、そうだね。やっぱりやりすぎた。善処する」
柘榴の化けの皮の剥がし方のことを指摘した桃だったが、彼女も柘榴の対応を恐れたのか青ざめた表情を浮かべていた。ローテンション──消極的で物静かな雰囲気を出していた彼からは予想だにしなかった怒りによるものだったのか、冷や汗も垂れていた。このような性格のものを怒らせてはいけない、はっきりわかった瞬間であった。
♢
「………………何があったし」
「聞かないであげて……」
桃と柘榴さん、ついでにいつの間にか勝手にいなくなっていたリコさんを探して回っていたら、広場ではなくサル科の動物がいるエリアで三人揃って発見……したのはいいけど、どうしてそうなったというような状況になっていて思わず呟きました。そして桃にこの問いかけを拒否られました。
優子に化けて桃にお弁当に化けた薬膳を食べさせようとしていたはずのリコさんが、キツネの姿になって桃の腕の中で泣きながらガタガタと震えていたからね。ついでに桃も青ざめた上のバツの悪そうな顔で目を逸らしているし、柘榴さんも何やら申し訳ないと言っているかのような表情をしていたし……いやホント、何があったんだよマジで。
「リ、リコ君……一体なんでそんなに怯えているんだい……?」
「て、店長ぉ~……ウチ、とんでもない地雷を踏んでしもうたわぁ……」
「「「「地雷……?」」」」
「………………あぁ……ね」
なんとなく察したわ。リコさん、柘榴さんを怒らせてしまったんだな。先程までポーカーフェイスながらも内心による感情が豊かな青年である彼が、先程まで一度も怒りを見せていなかった彼が、一度怒ればどんな奴相手でもビビらせてしまう程のすごい人だったってわけか。なるほど、勉強になった。
「……シャミ子ちゃんに化けていたとはいえ、警戒心や敵対の意思……それらを強く見せ過ぎて、リコさんを泣かせちゃった。ごめんなさい」
ほら、予想的中した。警戒と一時的な敵対をリコさんに向けてしていたってことは、彼女が優子に化けて桃の隙をつこうとしていたってことになるじゃん。つまりリコさんは因果応報を受けたってことになるじゃん。少なくとも半分はリコさんの自業自得ってことだ。
でも、マイペースなリコさんがガタガタと震えながら泣いているということは、かなりのトラウマを植え付ける程の怒りを買ったってことか。……どんな感じに柘榴さんが怒ったのか想像できないから、やっぱり同情するわ。リコさん、ご愁傷様でした。
で、数分経ってからリコさんが落ち着きを取り戻せたと思ったら……案の定というべきか、白澤さんが桃と柘榴さんの目の前でスライディング土下座しました。うわおめっちゃ顔面めり込んでる。
「ちょっと目を離した隙に……リコ君が申し訳ない……反省しているみたいとはいえ、これは本当に……」
「あ、頭を上げて……小さいお子さんも見てるので……」
「……僕も悪いことしちゃったから、多分おあいこになってると思う……」
リコさんに悪気がないことはなんとなく察しているためか、二人とも白澤の謝罪を受け入れてくれたようだ。柘榴さんも敵意を剥き出しにしてしまったこと罪悪感を覚えたらしいし、多少はね……?
うーん……柘榴さんの供述によれば、リコさんが変化を解かざるを得なくなったタイミングが、リコさんが弁当を食べようと言った辺りだから……ここは問いかけるか、リコさんの行動について。
「ところで……リコさんは何故、優子に化けてまでして桃に接近しようとしたんですか?」
と聞いてみた途端、突然リコさんはビクッと身体を震わせながら、ホラー映画でも観ていたかのような怯えた表情を露わにしてきた。ホワイ?
「ヒィッ⁉︎ ……い、一秒でウチが優子はんに化けたことに気づきそうなバカップル白哉はんにも逆らえそうにあらへんから、しょ、正直に話すわぁ……」
「余計な一言が多いですよ。あと俺に対しても怖がらないで? バカップルって言わないで? あなた俺の事をなんだと思ってるんですか?」
それってアレですか? 俺が優子と付き合ってるからという理由で、優子に化けたリコさんとの違いの多くに気づけると思っているんですか? ぶっちゃけ実際になってくれないと違いがわからないのですが。
「バ、バカップル……恥ずかしいですけど、嬉しいという何というか……」
「シャミ子……貴方最近白哉に関する本心が顔でも隠しきれてないわよ?」
後、なんか優子がなんか呟きながらニヤけ顔になってるんだけど。それも何処ぞのチートっぽいヤンデレヒロインみたいな顔なんだけど。その顔やめてくださいいろんな意味でしんでしまいます(俺が)。
この後また落ち着きを取り戻してくれたリコさんの話によると、優子に化けた理由は桃に薬膳を食べさせようと思ったからだそう。うん、やっぱり原作通りだ。あ、ちなみに薬膳は葉っぱそのものだったようだ。公園に落ちてるような形の葉っぱでも食える葉っぱってあるのか?
何故薬膳を食べさせようとしたのかと問うと、そこは白澤さんが答えてくれた。桃が闇堕ちする時に変なもの(闇の魔力を増強させる怪しい薬)を食べたり無理やり属性を戻したりしたことが、リコさん……というかリコさんと白澤さんが桃に薬膳を飲んでもらおうとすることにした理由に値するそうだ。なんでも魔力の気の歪みを放置すると心や体に悪影響を及ぼすのだとか……
「それで、私に薬を飲ませたくて化かしてたってことですか?」
「リコ君は基本善意で動く子なんだ……」
つまりリコさんの行動は善意という名の悪意なしの悪意をしていたってことだな。善意持ちのサイコパスって、恐ろしいな……
ん? なんかまたリコさんが罰の悪そうな表情をしたぞ? 何故? ってか前から思ったけど、リコさんそんな表情をするキャラじゃないよな? なぁ? ……誰に向けて言ってるんだろう。
「あー……これも言わんとあかんのかなぁ……言わない方が殺されやすいんかなぁ……」
「何故殺されるかもしれないと思っているんですか? ってか誰に?」
「………………」
いやなんで俺の方を見てから目を逸らすんですか。俺にか? 俺に殺されるかもしれないってか? 俺そんな非道な奴じゃないんですけど。ホント俺の事をなんだと思っているんですか。
「誰も殺さないと思うんで話してください」
「あぁ、うん……実は、な? 巫女はんが化かされて草を食むとこ見て、笑いたい気持ちも……まあまああったよ? ……さよなら店長、愛しとるで……」
「余計なこと言った後に死を覚悟してる⁉︎ リコ君それは不吉すぎるからやめたまえ⁉︎」
だからなんで死ぬ覚悟を決めるのやめてくれません? というか貴方死を受け入れる性格でしたっけ? 違うはずだったと思いますが。というかなんかリコさんの背後に草が生えた後に大量の髑髏マークが出るという幻覚が見えたような……
ん? なんか後ろで柘榴さんが何かして……えっ? 自分で自分に手錠付けているんですが……
「いやなんで柘榴は手錠つけてるの⁉︎ というか何処で手に入れたのそれ⁉︎」
「……殺さないよアピール」
「何それ⁉︎ しかもそのアピールの仕方なんかおかしくないかな⁉︎」
これには桃もガチのドン引きしながらのシャウト。本物かどうかは知らんけど手錠を取り出して自分自身につけるとか、どんな思考をお持ちですか貴方は。
手錠を外しながら何やら考えている素振りを見せる柘榴さん。そして外れた時には何か閃いたか『あっ』と呟き、リコさんの元へと近寄っていった。えっ、何をするつもりなんですか?
「ヒョエッ⁉︎ か、か、覚悟ならできて───」
「……リコさん、これ見て」
「へっ?」
なんだ? 何やらスマホの画面を弄ってからそれをリコさんに見せ始めたんだが……
ん? えっ? リコさんが笑い始めた? で、なんか二人だけでぺちゃくちゃ喋ってるんだけど? しかも俺達には聞こえないように、小声で。
あっ、なんか二人して深呼吸してる。一体何をやって───
「柘榴はん、結構面白い人やなぁ。思ったよりも仲良くなれそうやわ」
「……そう言ってくれると、安心する」
そう言って、二人は何やら友情の印を示すかのように強く握手を交わした……
いや何これ? 何を見せたらリコさんと和解できたの? えぇ……
「えっと……これは一件落着ってことでいいのかい? 柘榴さんがリコ先輩に何をしたのかはわからないけど」
「………………そういうことにして、何をしたのかは知らない方がいい」
「なんで桃がそんなこと言うんだよ」
おいなんだってんだよ。桃、まさかお前今の光景を見て、自分の恥ずかしい瞬間を柘榴さんに撮られていて、それをリコさんに見せられてたってか? もしそう思っていたとしても、リコさんがそんなんでトラウマを植え付けてしまった柘榴さんと和解するとは……
でも、その瞬間の写真、あったとしたら見てみたいかも(オイ)
「……と、とりあえずみんなでお弁当を食べて仲直りしましょ‼︎」
「沢山作ってきたので……」
ここで気まずそうな雰囲気を砕かんと、優子とミカンが切り替えを促した。正直ナイス。これで余計なことを考えなくて済むな。やっとみんなで弁当が食える。ぶっちゃけもう腹減りなんだよ……
………………怪しまれないように、柘榴さんに耳打ちしとこ。
「柘榴さん、ちょっといいですか?」
「……何」
「リコさんに見せたヤツ……あれ何だったんですか? 教えてくださ───」
「ごめん、それ以上聞こうとしたら一旦〆る羽目になりそうだから聞かないで」
「アッハイ」
も、モノスゲーイ殺意だった……一瞬とはいえヤバすぎる殺意が出ていた……この事を調べようとするのは野暮だったのか……。というか、本当に怒っている柘榴さん怖すぎる……
「……すまない、俺もこの件は聞かないようにするよ」
「盗み聞きかよ拓海このヤロウ」
地獄耳はよくないぞお前。まあ、事前にこの件のことを聞いていいのかどうかを知れたのはよかったな。俺みたいに近くで怒り心頭に発した柘榴さんに睨まなくて済んだからな。
「そういえば桃……もう一つの目的は大丈夫ですか? VIPチケットの特典のトラの赤ちゃん抱っこ……」
「あっ……」
「……こっちも忘れてた」
あぁ……そういや桃も柘榴さんもそれを主な目的として来たんだっけ。あと拓海も。えっと……VIP動物ふれあいコーナーは十四時までで、今は十四時十分……
あぁ、マジで終わったな。
ちなみに柘榴さんはふれあいコーナーが終了してもショックを受けなかったし、桃もこの後狐に戻ったリコさんをモフってなんとか精神を安定させました。……意外とトラよりモフモフしてたな、リコさん。毛並みも綺麗だったし。
……あぁ、なんか無性にメェール君をモフりたくなってきたな。後でモフらせてもらおっと。
♢
その日の夜、桃の部屋にて。
「……ありがとう桃、わざわざ泊めてくれて」
「気にしないで。その代わりとしてご飯を作ってくれたのは嬉しかったし、私も久しぶりに柘榴と話す機会を作りたかったから」
宿泊先を白哉達に教えず何処かへ行こうとした柘榴を、桃が無駄に気を張りしながらも自身の部屋に泊めさせていた。その誘いに柘榴は喜んで受け入れ、その礼として夕食を作ってあげることに。ちなみに特大カツ丼、意外とかなりガッツリとしたものだった。
「いや……そうじゃないにしても、私は柘榴を泊まらせてたけど」
「……? なんで?」
「なんでって……仕方ないでしょ⁉︎」
突然の桃のシャウトに柘榴は仰天の目を見開く。そして桃はわなわなと体を震わせ……
「私が泊めさせなきゃ、昨日に続いて昔みたいに野宿する気だったんでしょ⁉︎ しかもテントを張らずに‼︎」
「……バレてた」
察しなければとんでもないことが起きるかもしれなかったという、とんでもない発言をした桃。そして自分がしようとしていたことに図星を突かれたのか、柘榴は思わず苦笑いを浮かべる羽目に。
「どこで野宿しているのかは知らないけど、泊まるところがないからって何も考えずにテントも張らずに野宿するなんて野暮ってものだよ‼︎」
「……でも、宿泊代を払わずに済む」
「身の安全も考えてよ⁉︎」
この時、桃の脳裏には以下の考えが過ぎってきた。もしや日本を離れた十年間の間にも野宿をしていたのではないのだろうか、と。いつか野宿する内に柘榴の身に危険が訪れるのではないのか、と。
「柘榴……泊まるところがないのなら、私が前に使ってた自分用の家を使っていいから。だからもうテント無しに野宿するのはやめて」
「……あ、うん。わかった」
まるで剣幕しているような目つきで睨みつける桃を見て、柘榴は思わずまた苦笑いし、流されるように了承してしまった。しかし、それと同時にこう推測した。身の安全の事を考慮すると桃の指摘は正しいものであると。
と、ふと野宿の件とは別のことを思い出したのか、柘榴は突然クスクスと笑い始めた。
「な、何……?」
「……桃、僕が留学に行く前よりも感情豊かになったね」
「えっ……?」
彼の言葉に桃は豆鉄砲を食らったかのように茫然とした。
姉を探していく内に感情を露わにする機会はなかったはずの桃。そのはずなのに、柘榴からは『そうなる前よりも、姉から色々教わって感情を出しやすくなった時よりも、今の方が感情豊かになった』という激励の言葉が出てきた。
シャミ子や白哉と出会ってからまた感情を出しやすくなったとはいえ、姉が行方不明になる前よりもはさすがに……桃は彼の言葉と自分の変わり様を疑った。
「……リコさんが食前に薬膳を八百枚食べるように促した時も『嫌』といった感情を顔にも言葉にも出していたし、なによりみんなと一緒に動物園を周っていた時も心の底から楽しんでいっていた……あそこまで感情豊かになった桃、初めて見れて嬉しかった」
「えっ……。そ、そうだったんだ……自分でも気づかなかった……」
というかよく見ていたなこの人。ある程度冷静になった桃はそう思い、自分の恥ずかしい一面を柘榴に見せてしまったと後悔し、真っ赤になった顔を左腕で隠した。そんな彼女の様子を見て、柘榴は微笑みを浮かべた。
「……やっぱり、そうやって自分を表に出す桃は可愛い。好き」
「可愛っ⁉ すっ!? ……本当にそう思っているのかはともかく、安易にそんな言葉使わないで」
「……うん、善処する」
「……その微笑みからして、する気ないでしょ……」
よくシャミ子と白哉を揶揄い、恋愛お節介女子のような立ち位置にいた桃。自分が好意を抱いている幼馴染の帰国により、今度は自分が揶揄われる立場に立ってしまう。そうなる日は、近いのだろう。
おまけ:台本形式のほそく話その19
動物園から帰って来て夕食を食べ終わった白哉
白哉「はぁ〜〜〜メェール君モフモフ〜」
メェール【マスターくすぐったいメェ〜】
白哉「いやぁ身近にモフモフがあるのって良いことだなぁ。すぐに心が癒されるというか、何というか……」
メェール【動物園でならふれあいの機会があると思うメェ〜が……マスター、もしかしてそういった機会には立ち会えなかったのかメェ〜?】
白哉「おう、VIPのヤツぐらいしか見つからんかったわ。実際にモフれたの狐に戻ったリコさんぐらいだし」
メェール【逆にリコさんのモフモフ度合いがどれくらいなのか気になるメェ〜】
白哉「毛並みめっちゃツヤツヤだったぞ」
メェール【モフモフじゃないんかいメェ〜‼︎】
【……まぁそれはいいとして、マスター】
白哉「ん? なんだ?」
メェール【僕をモフるのは良いメェ〜けど、シャミ子ちゃんをモフる(意味深)のも忘れちゃダメメェ〜よ? あの子、ただでさえ嫉妬しやすいメェ〜から】
白哉「………………おう」
END
本作で一番怒らせたらいけない人、柘榴さんになりそう……
おまけ:今回登場した桃の幼馴染・礎 柘榴の画像(どの画像メーカーで作ったかは忘れた)
【挿絵表示】